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Transcription:

18. 豊味 ( うま ) いの証 豊後牛肉生産技術の確立 ( 牛肉中のオレイン酸含有率を取り入れた産肉能力育種価手法の検討 ) 農林水産研究指導センター畜産研究部 1 岡山大学 衞藤央好 ( 病鑑 ) 利光昭彦 安髙康幸 揖斐隆之 1 背景および目的 オレイン酸は オリーブオイルの主成分として広く知られ 食品に含まれる主なシス型不飽和脂肪酸の一つである 炭素数 18 で C18:1 と略され 二重結合が 1 つなのでシス型不飽和脂肪酸の中で最も酸化しにくく 高温でもトランス型に変化しにくい それゆえに オレイン酸を増やすことは健康に良いと考えられている また 牛肉では フレーバー ( 風味 ) の好ましさが脂肪酸組成に関係があるという報告があり (Dryden and Marchello 1970) オレイン酸が牛肉のおいしさに影響する物質であるとして近年注目を浴びてきている さらに 近赤外分光画像を用いた非破壊的なオレイン酸測定方法が開発され ( 田中ら 2011) より簡易なオレイン酸含有率の測定が可能になった そこで 大分県では おおいた豊後 牛 のブランド化戦略としてオレイン酸に着目 オレイン酸含有率 55% 以上のものに 豊味 いの証 を表示して差別化販売している う ま 畜産研究部では 豊味い 豊後牛肉生産を行うためオレイン酸含有率に影響を及ぼす 主な要因である 産肉能力評価 ( 育種改良 ) と 飼料給与方法 ( 肥育試験 ) の両面からの検討を行ってきた 肉用牛改良肥育チームでは 特に育種改良の面からオレイン酸の評価指標として育種価評価に注目 現行の育種価評価に用いている枝肉形質 ( 枝肉重量 ロース芯面積 バラ厚 皮下脂肪厚 BMSNo.) に加え 新たにオレイン酸含有率を改良目的とした育種改良が可能であるかを検討し 実際に当県の枝肉データを用いた育種価評価を行う う ま 材料および方法 ( 株 ) 大分県畜産公社が黒毛和種枝肉について近赤外分光画像を用いた食肉脂質測定装置により測定したオレイン酸含有率データ及び 格付成績を収集した (2011 年 1 月 ~ 2014 年 3 月 ) 食肉脂質測定装置の測定精度の確認のため 測定部位の筋間脂肪をガスクロマトグラフィー (GC) を用いて脂肪酸組成を測定し 食肉脂質測定装置の測定値と比較 光学測定による測定値の信頼度を確認した 岡山大学の協力の下 2012 年 3 月までに収集した 2,413 頭分のオレイン酸含有率および枝肉データによる遺伝率を始めとした遺伝的改良の指標の検討を行った その結果を受け 畜産研究部においてオレイン酸含有率の育種価評価を行った 分析には 2014 年 3 月までに収集した 6,997 頭分のデータのうち 平均から著しく外れた数値を除外し 肥育農家 1 戸当たり 10 頭以上の出荷実績があるものを抽出した 6,422 頭分のデータを用いた 育種価評価 (BLUP 法 ) には MTDFREML プログラムを用いた - 1 -

結果 2011 年 1 月から 2014 年 3 月までの出荷牛 6,997 頭のオレイン酸含有率の平均値は全体で 50.8% 性別でみると去勢 50.1% 雌 52.3% と去勢と雌での有意差を認めた (p<0.01) また オレイン酸含有率の分布を見てみると 正規分布を示すことが確認され 育種価評価を行う形質として利用出来ることが示唆された ( 図 1) オレイン産含有率の食肉脂質測定装置による測定値と GC による測定値との相関は r=0.8 となり 比較的良好な相関が確認された ( 図 2) 岡山大学による遺伝的改良の指標の検討の結果 遺伝率については 0.44 という結果となり 横田ら (2011) 中橋ら (2012) および井上ら (2008) が報告している 0.65±0.14 0.80±0.06 0.54 よりも低い値となった しかしながら 他の各形質の遺伝率と比較して遜色なかったことから 遺伝的改良の指標としては十分に利用可能であるということが示唆された ( 表 1) また オレイン酸含有率と各形質の遺伝的な関連性を示す遺伝相関については 枝肉重量との間で-0.34 という中程度の好ましくない遺伝相関が推定されたものの BMSNo. との間で 0.27 皮下脂 図 1. オレイン産含有率の分布 65.0 60.0 55.0 50.0 45.0 40.0 35.0 35.0 45.0 55.0 65.0 GC 図 2. 筋間脂肪のGC 測定値と食肉脂質測定装置の測定値の相関 (n=197) 肪厚との間で-0.29 バラ厚との間で 0.18 という低いながらも好ましい遺伝相関が推定された また ロース芯面積との間では遺伝相関が認められなかった ( 表 2) 頭数 ( 頭 ) 脂質測定装置 700 600 500 400 300 200 100 0 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 52 54 56 58 60 62 64 66 68 オレイン酸含有率 (%) 相加的遺伝分散 表現型遺伝分散 遺伝率 枝肉重量 779.77 1817.17 0.43 ロース芯面積 11.46 56.45 0.20 バラ厚 20.13 58.75 0.34 皮下脂肪厚 20.70 76.37 0.27 BMSNo. 1.53 2.96 0.52 オレイン酸含有率 9.23 20.94 0.44 表 1. 各形質の遺伝率 表 2. 各形質の遺伝相関 - 2 -

次に 好ましくない遺伝相関であった枝肉重量とオレイン酸含有率に関する種雄牛の育種価の散布図を図 3 に示した この図が示すように 左上にある一部の種雄牛の影響で遺伝相関が負になったのであり それらの種雄牛を除けば ほぼ相関がなくなるものと考えられる また これらの種雄牛はいずれも純粋但馬系の種雄牛である 図 3. 枝肉重量とオレイン酸含有率育種価の散布図 岡山大学による検討の結果を受け 畜産研究部において育種価評価を行ったところ 種 雄牛 416 頭 繁殖雌牛 13,804 頭の育種価データが得られた 評価の際の基本統計量は表 3 のとおりである また 遺伝率についてはオレイン酸含有率の 0.46 を始めとして岡山大 学の結果とほぼ同様の結果が得られた ( 表 4) 平均 標準偏差 最小値 最大値 枝肉重量 457.1 52.8 293.8 621.7 ロース芯面積 53.8 7.6 30 77 バラ厚 74.0 7.9 49 100 皮下脂肪厚 29.6 9.7 6 72 BMSNo. 5.23 1.8 2 12 オレイン酸含有率 51.0 4.8 35.8 65.5 肥育期間 595.2 48.3 383 817 出荷日齢 883.2 47.7 651 1109 枝肉重量 ロース芯面積 表 3. 育種価評価の基本統計量 バラ厚 皮下脂肪厚 表 4. 各形質の遺伝率 脂肪交雑 オレイン酸含有率 0.43 0.38 0.42 0.39 0.50 0.46 オレイン酸含有率育種価を種雄牛の系統毎にみると 大分県でかつて供用されていた福鶴 57に代表される 東豊系 や千代に代表される 栄竜系 鹿児島県で多く造成されている 栄光系 の種雄牛の能力がそれぞれ平均で 0.85% 0.44% 0.69% と高く 対して現在県下で多く用いられている 糸桜系 気高系 の種雄牛についてはそれぞれ -1.89% -0.22% と低いという結果になった ( 図 4) 但馬系 については 個体別では育種価の上位に多くの但馬系種雄牛が名を連ねたものの 反面能力の低い種雄牛も相当数いたため - 3 -

平均値として中程度という結果になった ( 表 5) 1.50 1.00 0.50 0.00 栄光 0.69 但馬 0.16 東豊 0.85 栄竜 0.44-0.50-1.00 気高 -0.22-1.50-2.00-2.50 糸桜 -1.89 図 4. 系統によるオレイン酸含有率育種価の比較 順位 名号 系統 オレイン BV 1 福栄 但馬 5.83 2 福美美 但馬 4.92 3 光照福 但馬 4.20 4 金忠平 栄光 4.08 5 菊照土井 但馬 3.93 6 松鶴 東豊 3.27 7 北平安 但馬 3.23 8 谷照 ( 鹿児島 ) 但馬 3.12 9 北湖 2 但馬 3.08 10 初藤 但馬 3.02 表 5. 種雄牛毎の育種価上位下位 10 頭 順位 名号 系統 オレイン BV 416 平茂晴 糸桜 -7.35 415 勝福平 気高 -6.55 414 第 7 糸桜 糸桜 -6.31 413 糸福 ( 大分 ) 糸桜 -6.31 412 糸晴美 糸桜 -5.63 411 菊花国 糸桜 -5.46 410 亀次郎 糸桜 -5.43 409 第 7 福福 但馬 -5.40 408 北国 7の3 糸桜 -5.39 407 満重 但馬 -5.33 次に 繁殖雌牛の生年毎の遺伝的能力の推移を示した遺伝的趨勢をみると 1980 年代の後半から 1990 年代中盤にかけて急激な低下がみてとれる この時期は 糸福 を始めとしたオレイン酸含有率の育種価の低い糸桜系種雄牛の娘牛が多く造成された時期とほぼ一致する ( 図 5) 1.00 0.50 0.00-0.50-1.00-1.50-2.00 1970 1980 1990 2000 図 5. オレイン酸含有率の遺伝的趨勢 ( 繁殖雌牛 ) - 4 -

また SCD 遺伝子と育種価の関連を調査した SCD 遺伝子とは 飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に変換する酵素をコードする遺伝子で A 型と V 型の 2 種類の多型があり AA AV VV の順で能力が高いとされている 今回算出したオレイン酸含有率の育種価と大分県の調査により判明した雌 100 頭分の SCD 遺伝子型を用い比較した結果 AA-VV 間および AV-VV 間で有意差が確認された また AA-AV 間に若干の差はあったものの有意差は確認されなかった ( 図 6) 図 6.SCD 遺伝子型によるオレイン酸含有率育種価の比較 まとめおよび考察 本研究の結果 牛肉脂肪中のオレイン酸含有率は比較的遺伝率が高く また他の形質との遺伝的な影響も少ないことから オレイン酸含有率を改良目的とした育種改良は可能であることが示唆された 遺伝相関の分析の中で枝肉重量との負の相関が確認されたが オレイン酸含有率と枝肉重量の散布図による分析の結果 但馬系種雄牛の影響が大きいことが確認できた 系統による分析を行った結果 東豊系 や 栄竜系 の血を受け継ぐ種雄牛の造成や う ま 系統雌牛の活用が 今後 豊味い 豊後牛生産を行う上で重要であると考えられる しか しながら これらの系統は遺伝病や産肉性などの問題により大分県の改良から姿を消しつつある種雄牛系統であり 今後活用していくにはこれらの問題の解決が肝要である ひとつの方向性として 遺伝病の排除はもちろんであるが現在活躍している基幹種雄牛あるいは他県の高能力種雄牛との交配を積極的に行い 産肉性の向上を図った上で 東豊系 栄竜系 の特徴を色濃く残す種雄牛造成を実施することが考えられる また 糸桜系 気高系 種雄牛のオレイン酸含有率の育種価が低いことが判明したが これらの系統は現在の枝肉評価の中心となる脂肪交雑や枝肉重量 ( 増体 ) に優れている これらの形質は枝肉の評価を行う上でこれからも重要であるので 引き続きこれらの系統も維持していく必要がある 今後は 育種価によりオレイン酸含有率の能力の高い雌牛を選抜し 交配を進めていくことで 総合的な能力の高い種雄牛造成を行っていく また 今回 SCD 遺伝子型と育種価の関連について分析し 関連が確認された オレイン酸含有率に影響する遺伝子として SCD 遺伝子の他 FASN 遺伝子 SREBP1 遺伝子等が報告されている これらの遺伝子型についても調査を進めていくことで オレイン酸含 - 5 -

有率についてより詳細な能力評価が可能になると考えられる 引き続きオレイン酸含有率等のデータ収集を行い 育種価の正確度を上げ これからの 育種改良に活用していきたい 参考文献 1) 変量効果の推定と BLUP 法佐々木義之著京都大学学術出版会 2)Dryden, F. D., and J. A. Marchello. 1970. Influence of total lipidand fatty acid composition upon the palatability of three bovinemuscles. J. Anim. Sci. 31:36 41. 3) 田中等幸 丸山新 棚橋英樹. 近赤外分光画像を用いた和牛肉のロース芯内オレイン酸分布測定法. 肉用牛研究会報, No.91:2-7(2011) 4) 横田祥子 杉田春奈 大友良彦 須田義人 鈴木啓一. 黒毛和種牛肉における脂肪酸組成と枝肉形質および肉質形質との遺伝的関係. 東北畜産学会報 60(3):80 ~ 85 2011 5) 中橋良信 由佐哲郎 増田豊 日高智 口田圭吾. 黒毛和種におけるロース芯内交雑脂肪の脂肪酸組成に関する遺伝的パラメータの推定. 日畜会報 83(1):29-34,2012 6) 井上慶一 庄司則章 小林正人. 黒毛和種肥育牛の脂肪融点 脂肪酸組成および格付形質間の遺伝的関係. 日畜会報 79(1):1-8,2008 7) 松橋珠子 丸山新 上本吉伸. 黒毛和種肥育牛の枝肉形質および脂肪酸組成と FASN SCD SREBP1 GH の遺伝子多型との関連. 岐阜県畜産研究所研究報告 (10), 11-22, 2010-07 - 6 -

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