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第6号-2/8)最前線(大矢)

作成要領・記載例

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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上原記念生命科学財団研究報告集, 24(2010) 144. 新たな心不全治療薬となりうる骨格筋由来のパラクライン因子の同定とその機能解析 泉家康宏 Key words: レジスタンストレーニング, 骨格筋由来分泌因子, 心筋保護 * 熊本大学大学院医学薬学研究部循環器病態学 緒言慢性心不全患者では進行性の骨格筋萎縮が高頻度に発生し, これが死亡の独立した予測因子であることが明らかにされている 1). 一方, 心不全患者の非薬物療法の一つとして心臓リハビリテーションの重要性が再認識されている. 多くの臨床試験から心不全患者であっても運動療法を行うことにより, 運動耐容能や予後が改善することが明らかとなり現在では広く施行されるに至っている 2). 運動療法の内容に関しても従来は有酸素運動が推奨されてきたが, 近年はそれらに加えて骨格筋量の増大を目的としたレジスタンストレーニングも重要な要素の一つとなっている 3). これらの運動トレーニングは運動耐容能と骨格筋萎縮を改善するのみならず心機能も改善することが報告されているがそのメカニズムについてはほとんど不明である. 著者らはこれまで骨格筋肥大が誘導できるトランスジェニックマウスを使って骨格筋の発育 肥大が他の臓器に与える影響について研究を進めてきた. このマウスモデルは高蔗糖 / 高脂肪食により惹起された高血糖, 高インスリン血症, 高レプチン血症などの肥満に伴う代謝異常を著明に改善した 4). その機序として骨格筋自身での糖の取り込みの上昇のみならず, 肝臓での脂肪酸の β 酸化の亢進が考えられた. これらの結果は, 肥大する骨格筋細胞からの分泌因子がパラクライン的に肝細胞, 脂肪細胞に作用し脂肪酸の燃焼を促進し, 結果としてメタボリックパラメーターの改善をもたらした可能性を示唆する. しかしながら現在のところ, それらを仲介する骨格筋由来の分泌因子の同定までには至っていない. 本研究ではマウス心不全モデルおよび骨格筋発育モデルマウスの骨格筋での遺伝子発現を網羅的に解析し, 新たな心不全治療薬となりうる骨格筋から心臓へのパラクライン因子を同定し, さらにその生体における機能解析を行うことを目的とした. 方法 1. 骨格筋量の増大の心筋梗塞後のリモデリングに与える影響の検討レジスタンストレーニングに伴って認められる骨格筋肥大の心機能, 心臓リモデリングに与える影響を検討するために, 野生型 (WT) マウス及び骨格筋特異的 -Akt1 コンディショナルトランスジェニック (TG) マウスに対し, 冠動脈結紮によるマウス心筋梗塞モデルを作製した. 骨格筋細胞の肥大は TG マウスに doxycycline を飲水投与し骨格筋特異的に Akt1 の過剰発現することで再現性を持って誘導することができる 4). 冠動脈結紮直後より doxycycline 飲水投与を開始し, 骨格筋での Akt1 遺伝子の過剰発現を誘導し心エコー, 観血的血行動態測定および組織学的手法を用いて心機能および心リモデリングの評価を行った. 2. 骨格筋由来の新規分泌因子候補の検索とその機能解析上記のマウス心筋梗塞モデルの骨格筋サンプルを採取しそこから total RNA を抽出しマイクロアレイにて遺伝子発現を網羅的に解析した.WT マウスで心筋梗塞により発現が低下し,TG マウスで発現が亢進していた遺伝子の中から, 分泌シグナルを有するものでかつ細胞膜貫通ドメインを持たないものを新規分泌因子の候補とした. 続いて新規分泌因子候補の組み換えアデノウイルスを作製し, その生理的な機能を培養心筋細胞を用いた in vitro の実験系で検討した. 具体的には低酸素, 炎症性サイトカインなどのストレス刺激に対する心筋細胞のバイアビリティに及ぼす新規分泌因子候補の効果について検討した. * 現所属 : 熊本大学大学院生命科学研究部循環器病態学 1

3 In vivo における新規分泌因子候補の機能解析 新規分泌因子候補の組み換えアデノウイルスを作製し その生理的な機能をマウス病態モデルで検討した マウス下肢虚血 モデル マウス心筋虚血再灌流モデルを作成し 新規分泌因子候補を発現するアデノウイルスベクターを経静脈的に投与し 梗塞領域と心筋細胞のアポトーシスについても比較検討した. 結 果 1 骨格筋量の増大の心筋梗塞後のリモデリングに与える影響の検討 心筋梗塞モデル作製後 2 日目に行った心エコーでは 心筋梗塞領域は WT マウスと TG マウスで同程度であった 経過中 の死亡率に両群で有意差を認めなかった しかしながら 2 週間後の心エコーでは左室内腔の拡大や健常部位の壁肥厚は TG マウスで有意に抑制された. 2 週間経過後に TG マウスでは骨格筋重量の有意な増加が確認された また肺重量も TG マウス 群で有意に抑制され肺うっ血の軽減が示唆された 組織学的検討にて TG マウスでは梗塞境界領域の毛細血管密度の増加 非梗塞領域での心筋間質の線維化と心筋細胞のアポトーシスの抑制が認められた 以上のデータから Akt1 過剰発現による骨 格筋の肥大は遠隔臓器である心筋のリモデリングを制御する可能性が示唆された. 図 1 骨格筋肥大の心筋梗塞後のリモデリングに与える影響. Akt1 遺伝子の過剰発現による骨格筋の肥大は遠隔臓器である心筋のリモデリングを制御する. 2

2. 骨格筋由来の新規分泌因子候補の検索マイクロアレイによるスクリーニングの結果いくつかの新規代謝調節因子の候補をリストアップすることができた. 候補遺伝子のひとつ Follistatin like 1 (Fstl1) のタンパク発現は Akt1 遺伝子の活性化により骨格筋で著明に増加し, それに伴い血中濃度も有意な増加を認めた. アデノウイルスベクター用いて Fstl1 を培養血管内皮細胞で過剰発現すると, 血管内皮細胞の遊走 分化を促進し, 血清除去によるアポトーシスを著明に抑制した. これら Fstl1 の血管内皮細胞保護効果は PI3-kinase 阻害薬 優勢抑制型 Akt1 の過剰発現および NO 合成阻害薬によりブロックされた. 同様にアデノウイルスベクター用いて Fstl1 を培養心筋細胞で過剰発現すると, 低酸素 再酸素化刺激や doxycyclin による細胞傷害を著明に抑制した. また近年代謝調節因子として注目されている Fibroblast growth factor 21 (FGF21) も骨格筋肥大に伴い発現が亢進することが確認された 5). 培養心筋細胞に対する FGF21 の作用を検討したところ,FGF21 のシグナル伝達のコファクターと考えられている βklotho は心筋細胞や内皮細胞では発現が認められなかったが ( 図 2A),FGF21 刺激は βklotho 非依存的に心筋細胞で ERK, Akt シグナルを活性化することが明らかになった ( 図 2B). またアデノウイルスベクターを用いて FGF21 を培養心筋細胞で過剰発現すると, 低酸素 再酸素化刺激や doxycyclin による細胞傷害を著明に抑制したことから,FGF21 はこれらシグナルの活性化を介して低酸素刺激によるアポトーシスの抑制に寄与している可能性が示唆された. 図 2. FGF21 は骨格筋より分泌される心血管保護因子である. (A) (B) FGF21 刺激は βklotho 非依存的に心筋細胞で ERK, Akt シグナルを活性化する.(C) FGF21 の過剰発現 により, 心筋虚血 / 再灌流による梗塞領域の拡大を著明に抑制した. 3.In vivo における新規分泌因子候補の機能解析下肢虚血手術を施行したマウスの骨格筋にアデノウイルスベクター用いて Fstl1 を遺伝子導入することにより, 骨格筋での Akt と enos の活性化を認め, レーザードップラーでの血流改善及び組織学的に CD31 陽性細胞の増加を認めた. さらに Fstl1 による血流改善効果は enos ノックアウトマウスでは認められなかったことから,Fstl1 の血管内皮細胞に対する作用は Akt-eNOS 経路を介していることが示唆された 6). アデノウイルスベクターを経静脈的に投与し Fstl1 を過剰発現させると, 心筋虚血 / 再灌流による梗塞領域や心筋細胞のアポトーシスを著明に抑制した 7). FGF21 に対する中和抗体を骨格筋特異的 Akt1 過剰発現マウスに投与すると, 骨格筋肥大に伴う体重 脂肪量の減少効果が有意に減弱した. 高蔗糖 / 高脂肪食負荷 14 週間後にグルコース負荷試験を行ったところ, 負荷後の血糖値の低下は中和抗 3

体投与群で有意に増悪した (図 3A) 骨格筋特異的 Akt1 過剰発現マウスのメタボリックパラメーター改善効果が中和抗体に てブロックされたことから FGF21 は骨格筋肥大に伴い発現 分泌が亢進する機能性の内因性代謝調節因子であることが示唆 された. また臨床サンプルを用いて FGF21 の血中濃度の検討を行ったところ FGF21 の血中濃度は Lean body Mass (除脂 肪体重) と有意な相関があることが明らかとなった (図 3B, 図 3C) アデノウイルスベクターを経静脈的に投与し FGF21 を過 剰発現させると 心筋虚血/再灌流による梗塞領域や心筋細胞のアポトーシスを著明に抑制した (図 2C) 以上の結果から FGF21 は骨格筋より分泌される心血管保護因子である可能性が示唆された. 図 3 FGF21 は骨格筋由来の内因性代謝調節因子である. (A) 骨格筋特異的 Akt1 過剰発現マウスのメタボリックパラメーター改善効果は中和抗体にてブロックされた (B) (C) FGF21 の血中濃度は除脂肪体重と有意な相関を認めた. 考 察 本研究で新規骨格筋由来分泌因子として同定 機能解析を行った Fstl1 や FGF21 のように骨格筋からは種々の分泌因子が様 々な外的刺激により分泌され 心血管系細胞へ作用することが明らかとなってきた これら骨格筋由来の分泌因子を介した骨格 筋と他臓器のコミュニケーションの分子機序を明らかにすることは心疾患患者に対する心臓リハビリテーションやメタボリックシンドロ ーム患者に対する運動療法を行うことの理論的根拠を与えるものとなりうる さらに骨格筋由来分泌因子の作用機序を分子レベ ルで解明することで新たな治療ターゲットの発見へとつながる可能性がある 今後は骨格筋からのパラクライン因子の同定をさら に推し進め それらの心血管保護効果の作用機序解明を行う また心血管疾患患者における血中濃度を測定しさらに薬剤介入 後の変化についてもモニタリングを行いその臨床的意義を検討する予定にしている. 謝辞:本研究を推進するにあたり 多大なご支援を賜りました公益財団法人上原記念生命科学財団に深く感謝いたします. 4

文献 1) Anker, S. D., Ponikowski, P., Varney, S., Chua, T. P., Clark, A. L., Webb-Peploe, K. M., Harrington, D., Kox, W. J., Poole-Wilson, P. A. & Coats, A. J. S. : Wasting as independent risk factor for mortality in chronic heart failure. Lancet, 349 : 1050 1053, 1997. 2) Thompson, P. D., Franklin, B. A., Balady, G. J., Blair, S. N., Corrado, D., Estes, N. A. M. III, Fulton, J. E., Gordon, N. F., Haskell, W. L., Link, M. S., Maron, B. J., Mittleman, M. A., Pelliccia, A., Wenger, N. K., Willich, S. N. & Costa, F. : Exercise and acute cardiovascular events : placing the risks into perspective : a scientific statement from the american heart association council on nutrition, physical activity, and metabolism and the council on clinical cardiology. Circulation, 115 : 2358-2368, 2007. 3) Williams, M. A., Haskell, W. L., Ades, P. A., Amsterdam, E. A., Bittner, V., Franklin, B. A., Gulanick, M., Laing, S. T. & Stewart, K. J. : Resistance exercise in individuals with and without cardiovascular disease : 2007 update : a scientific statement from the american heart association council on clinical cardiology and council on nutrition, physical activity, and metabolism. Circulation, 116 : 572-584, 2007. 4) Izumiya, Y., Hopkins, T., Morris, C., Sato, K., Zeng, L., Viereck, J., Hamilton, J. A., Ouchi, N., LeBrasseur, N. K. & Walsh, K. : Fast/Glycolytic muscle fiber growth reduces fat mass and improves metabolic parameters in obese mice. Cell Metab., 7 : 159-172, 2008. 5) Izumiya, Y., Bina, H. A., Ouchi, N., Akasaki, Y., Kharitonenkov, A., Walsh, K. : FGF21 is an Aktregulated myokine. FEBS Lett., 582 : 3805-3810, 2008. 6) Ouchi, N., Oshima, Y., Ohashi, K., Higuchi, A., Ikegami, C., Izumiya, Y. & Walsh, K. : Follistatin-like 1, a secreted muscle protein, promotes endothelial cell function and revascularization in ischemic tissue through a nitric-oxide synthase-dependent mechanism. J. Biol. Chem., 283 : 32802-32811, 2008. 7) Oshima, Y., Ouchi, N., Sato, K., Izumiya, Y., Pimentel, D. R. & Walsh, K. : Follistatin-like 1 is an Akt-regulated cardioprotective factor that is secreted by the heart. Circulation, 117 : 3099-3108, 2008. 5