在 宅 予 防 を 目 的 とした 非 侵 襲 小 型 質 量 センサによる 抗 原 抗 体 反 応 マーカ 検 査 システム 研 究 責 任 者 早 稲 田 大 学 理 工 学 術 院 先 進 理 工 学 部 電 気 情 報 生 命 工 学 科 准 教 授 柳 谷 隆 彦 1.はじめに 現 在 日 本 では 医 療 費 の 増 大 に 伴 い 健 康 管 理 予 防 を 在 宅 で 行 える 医 療 システムが 望 まれている 医 療 コストと 患 者 の 負 担 を 軽 減 するには 病 気 が 発 症 する 前 に 病 変 を 捉 える 新 しい 予 防 医 療 シス テムが 必 要 と 考 えられる 予 防 医 療 システムは 患 者 もしくは 健 常 者 が 日 常 的 に 自 己 管 理 できるものでなければならず 体 重 計 のような 在 宅 モニタリングが 望 ましい 病 院 で 普 及 しているような 高 度 な 検 査 装 置 は 大 型 で 使 用 者 の 負 担 が 大 きく 家 庭 用 に 普 及 するには 困 難 が 伴 う また 病 変 マーカの 検 査 方 法 は 非 侵 襲 または 微 侵 襲 でなければならず 同 様 の 侵 襲 的 検 査 に 比 べて 性 能 が 要 求 される ここでは 小 型 の 検 査 用 センサを 目 標 とした 抗 原 抗 体 反 応 ( 抗 体 と 抗 原 の 選 択 的 な 結 合 ) 質 量 検 出 センサの 試 作 例 について 紹 介 する 具 体 的 には 弾 性 振 動 する 共 振 子 上 で 抗 原 抗 体 反 応 が 生 じた 際 の 抗 原 質 量 付 加 を 共 振 子 の 固 有 振 動 数 ( 共 振 周 波 数 )の 変 化 として 捉 える 微 小 センサである る 高 く 澄 んだ 音 がするため 人 気 を 呼 んでいる ようである コップを 指 でこすると 音 が 鳴 り 入 れる 水 の 量 を 増 やすほど 低 い 音 が 鳴 る 水 の 量 を 変 えたコップをいくつか 用 意 すれば 音 階 をつく ることができる これは 水 の 質 量 付 加 によって コップの 固 有 振 動 数 ( 共 振 周 波 数 )が 変 化 してい ると 考 えることができる ちなみに 高 校 物 理 の 教 科 書 で 見 かける 気 柱 の 共 鳴 では 試 験 管 に 水 を 入 れていくと 共 鳴 する 音 が 高 くなる これは 上 の 説 明 と 逆 になるが この 場 合 は 試 験 管 の 液 面 から 管 口 までの 円 柱 状 の 空 気 ( 気 柱 )の 共 鳴 である 液 面 が 上 がるほど 気 柱 は 短 くなり 気 柱 の 共 振 周 波 数 が 上 がっているためであり コップ 自 体 の 共 振 で 鳴 っているグラスハープと 原 理 が 異 なる 2.センサの 原 理 2.1 質 量 付 加 による 弾 性 体 の 固 有 振 動 数 変 化 図 1のような ガラスコップに 水 を 入 れたグラ スハープと 呼 ばれる 楽 器 が 最 近 話 題 となってい 図 1 グラスハープの 音 の 高 さ グラスハープをみてみると もし 音 の 高 さ( 共 振 周 波 数 )をなんらかの 方 法 で 検 出 できれば 逆 98
に 考 えると 水 の 量 を 同 定 することができる つま り 水 の 量 センサとなっていることがわかる 本 節 のセンサではこの 原 理 により 微 小 な 質 量 付 加 を 検 出 するものである 次 にこの 水 の 量 センサを 高 感 度 化 することを 考 える 図 2に 示 すように 小 さ なコップと 大 きなコップを 比 べると 同 じ 水 の 量 の 変 化 に 対 して 共 振 周 波 数 の 変 化 が 大 きくなる ことがわかる つまりこの 原 理 のセンサを 高 感 度 化 するには 究 極 的 にはナノオーダのコップを 作 製 すればよいということになる ある 共 振 周 波 数 で 振 動 している 吊 り 橋 に 鳥 が 止 まると 共 振 周 波 数 には 十 分 検 出 できる 減 少 が 生 じるが 蚊 が 止 ま った 程 度 では 検 出 が 難 しい しかし 吊 り 橋 でなく 割 り 箸 程 度 ものが 共 振 しているところに 蚊 が 止 まるのであれば 十 分 検 出 できるであろう セン サ 感 度 は 振 動 部 分 自 体 の 質 量 と 被 検 出 物 の 質 量 の 比 で 決 定 される れると 電 気 信 号 は 圧 電 効 果 により 弾 性 波 に 変 換 される 弾 性 波 が 圧 電 体 内 で 定 在 波 を 発 生 し 再 び 電 気 信 号 に 変 換 されることにより 電 気 的 な 共 振 素 子 として 働 く たとえば 水 晶 共 振 子 に 分 子 が 付 着 させると 分 子 の 質 量 負 荷 により 共 振 周 波 数 の 低 下 が 生 じる. この 低 下 量 を 重 さに 換 算 することで 付 着 質 量 を 絶 対 計 測 することができる この 質 量 センサは QCM( 水 晶 共 振 子 微 小 天 秤 )と 呼 ばれ,1 ナノ グラムオーダの 分 子 間 相 互 作 用 の 定 量 や 膜 厚 モ ニタリングに 広 く 用 いられている QCM の 感 度 は 上 述 のとおり 共 振 子 の 質 量 に 対 する 付 着 分 子 の 質 量 の 比 で 決 定 されることから 共 振 子 自 体 の 質 量 が 減 れば 感 度 が 上 がる 単 位 面 積 あたりの 付 着 量 が 一 定 とすると 共 振 子 自 体 の 重 さを 減 らす には 厚 さを 減 らすしかなく 最 終 的 には 薄 膜 化 す れば 最 も 感 度 が 良 くなる 図 2 グラスハープを 用 いた 水 の 量 の 測 定 感 度 次 に どのようにして 共 振 周 波 数 を 測 定 するか だが 最 も 簡 単 な 方 法 は 振 動 部 分 を 圧 電 材 料 にし てしまうことである 圧 電 材 料 とは 応 力 を 印 加 するとそれに 応 じて 電 荷 を 発 生 させる 圧 電 効 果 を 持 つ 材 料 である これにより 弾 性 的 な 振 動 を 電 気 的 な 振 動 に 変 換 することができ 容 易 に 周 波 数 を 計 測 できるようになる 水 晶 発 振 子 やセラミッ ク 振 動 子 に 代 表 される 圧 電 共 振 子 は きわめて 安 定 な 周 波 数 発 振 が 得 られることから 時 計 や 通 信 器 などの 周 波 数 制 御 素 子 として 幅 広 く 利 用 され ている 共 振 子 の 電 極 に 交 流 の 電 気 信 号 が 入 力 さ 2.2 薄 膜 共 振 子 型 質 量 計 測 センサ そこで 近 年, 図 3に 示 すような 薄 膜 共 振 子 型 の 縦 波 モード 高 感 度 気 体 センサ( 微 小 天 秤 ) が 提 案 されている 1,2) これは 基 板 上 に 薄 膜 化 が 可 能 な ZnO や AlN 等 の 圧 電 体 薄 膜 を 形 成 後, MEMS 加 工 技 術 により, 裏 側 から 基 板 をエッ チングすることで 圧 電 体 部 分 を 薄 膜 化 している しかし, 提 案 された 薄 膜 共 振 子 型 高 感 度 気 体 セ ンサは, 縦 波 モードで 共 振 するため 液 体 中 では 動 作 できず, 使 用 が 気 体 中 に 限 られるという 問 題 点 があった そもそも 質 量 センサの 用 途 には, 液 体 中 の 分 子 間 相 互 作 用 の 検 出 やバイオセンシング をターゲットにしたものが 多 く 従 来 の QCM で は 液 体 中 でも 動 作 可 能 な 横 波 モード( 厚 みすべり モード)が 使 われてきた.つまり 液 体 中 の 動 作 には 横 波 モードが 必 須 であり 高 感 度 化 には 薄 膜 化 が 要 求 される. 両 方 の 要 求 を 満 たす 横 波 モード の 薄 膜 共 振 子 が 実 現 すれば 高 感 度 な 分 子 間 相 互 作 用 計 測 用 センサ 基 板 として 有 望 である そこで 図 3に 示 すような 結 晶 の c 軸 が 平 行 配 向 した ZnO 圧 電 薄 膜 を 用 いた 横 波 モード 薄 膜 共 振 99
子 が 作 製 し 高 感 度 な 抗 原 抗 体 反 応 センサの 実 現 を 試 みた 比 較 的 [11-20] 方 向 の 原 子 の 密 度 が 薄 く,チャネリ ング 方 向 となる.イオンビームを 照 射 しながら 多 結 晶 膜 を 成 長 させた 場 合,ビームに 対 して 原 子 が 密 に 詰 まった 面 ((0001) 面 )を 向 いた 結 晶 粒 は, c 軸 H 2 Pd 膜 イオンの 衝 突 による 損 傷 を 受 けて 成 長 を 阻 害 さ れるが, 原 子 が 詰 まっていない 面 ではイオンが 衝 突 しにくく, 損 傷 を 受 けにくいこと(チャネリン 3 N 4 垂 直 配 向 AlN 薄 膜 縦 波 音 波 電 極 膜 グ 現 象 )が 知 られている.この 現 象 を 利 用 して, 最 密 な(0001) 面 結 晶 粒 の 成 長 を 抑 制 することによ り,チャネリング 方 向 と 一 致 する(11-20) 面 配 向 の c 軸 液 体 抗 原 抗 体 ZnO 膜 ( 平 行 配 向 膜 )の 形 成 が 実 現 できる 4,7) Y YY Y YY YY 3.2 平 行 配 向 ZnO 薄 膜 の 大 面 積 成 膜 3 N 4 平 行 配 向 ZnO 薄 膜 横 波 音 波 電 極 膜 図 3 縦 波 モード 薄 膜 共 振 子 型 気 体 センサ 1,2 ) 横 波 モード 薄 膜 共 振 子 型 液 体 センサ 従 来 報 告 されている 薄 膜 共 振 子 は 図 3 のように 結 晶 c 軸 が 基 板 面 に 垂 直 に 揃 った 六 方 晶 系 の 多 結 晶 薄 膜 ( 以 下 c 軸 配 向 膜 )で 構 成 されて いる 1,2) この c 軸 配 向 膜 は 縦 波 ( 厚 み 縦 モード) を 励 振 する これに 対 して,c 軸 が 基 板 面 に 平 行 に 揃 った 膜 ( 以 下 平 行 配 向 膜 )は 横 波 ( 厚 みす べりモード)を 励 振 する しかし ZnO 薄 膜 は (0001) 面 に 原 子 の 最 密 面 を 持 つために c 軸 が 基 板 面 に 垂 直 になるように 成 長 する 性 質 がある こ の 性 質 から c 軸 配 向 以 外 の ZnO 薄 膜 の 形 成 は 難 しいとされ 3 ) これまで 平 行 配 向 膜 の 形 成 に 関 す る 報 告 はなかった 3.センサの 作 製 方 法 3.1 平 行 配 向 ZnO 薄 膜 の 作 製 方 法 横 波 モード 薄 膜 共 振 子 の 作 製 には 平 行 配 向 膜 の 形 成 が 鍵 となる.イオンチャネリング 現 象 の 考 え 3) に 基 づき,RF マグネトロンスパッタリング 装 置 を 用 いた 平 行 配 向 ZnO 膜 の 形 成 が 試 みた 4-8). ZnO や AlN などの 六 方 晶 系 ウルツ 鉱 型 構 造 では, 一 般 的 に 多 結 晶 ZnO 膜 の 大 面 積 成 膜 には RF マグネトロンスパッタ 法 が 適 していると 考 えら れる しかし よく 普 及 している 円 形 カソードを 有 したスパッタ 装 置 では マグネトロン 磁 界 が 集 中 している 領 域 (エロージョン 領 域 )でしか 平 行 配 向 膜 が 形 成 されない 問 題 点 がある これは 前 節 で 述 べたような 平 行 配 向 を 引 き 起 こす 負 イオン ビームがエロージョン 領 域 でしか 発 生 しないた めである 6) さらに 円 形 カソードではドーナッ ツ 状 のエロージョン 領 域 を 反 映 して 結 晶 c 軸 が ウェハ 面 内 で 放 射 状 に 配 向 するという 実 用 上 の 困 難 も 伴 う 4,5).これまでイオンビーム 蒸 着 よる 実 験 では c 軸 がイオンの 照 射 方 向 に 沿 って 配 向 す ることがわかっている 7) この 課 題 を 解 決 するた めに 図 4に 示 すような 直 線 エロージョンを 有 す る 矩 形 カソードによるスパッタ 法 を 検 討 した 5) 図 5に 極 点 X 線 回 折 法 により 測 定 した c 軸 の 面 内 方 向 面 外 方 向 の 配 向 のウエハ 内 分 布 を 示 す 矢 印 の 太 さと 長 さはそれぞれ 面 内 方 向 および 面 外 方 向 の 配 向 のばらつきの 大 きさを 示 している( 細 くて 長 いほど 両 者 の 配 向 性 が 良 い) 直 線 エロ ジ ョンを 採 用 することにより 4インチウエハの 大 部 分 においてc 軸 が 平 行 でかつ 一 方 向 配 向 した ZnO 膜 が 形 成 されていることがわかる このウエ ハから500 個 以 上 の 横 波 モード 薄 膜 共 振 子 セン サデバイスを 生 産 することができる( 図 6 参 照 ) 100
3.3 横波モード薄膜共振子センサの試作 抗原抗体反応検出センサの試作例について紹 陽極 上面図 エロージョン領域 Ar,O2 介する 図7 a に示すようなサブマイクロメ 側面図 555.8 遮蔽版 シリコン基板 遮蔽板 エロージョン領域 60 S ZnO target 陰極 N ー ト ル の 多 層 構 造 上 部 電 極 :Au/Cr 面 積 0.66 0.66 mm2 圧電膜 ZnO 2.6 µm,下部電 陽極 シリコン基板 極:Cr/Au/Cr 補強層:O2//O2 約 410 µm を持つ横波モード薄膜共振子を使用している セ ンサの寸法は 縦 3.0 mm 横 6.0 mm 高さ 0.4 S mm である センサ表面写真も図7 b に示し 50 110 Unit in mm 127 た 共振子では 多層構造の厚さと構造内で立つ 定在波の半波長の整数倍が一致する周波数にお 図4 直線エロージョンを有する矩形カソードよる 平行配向 ZnO 薄膜の大面積成膜 いて共振する そのため 多数の高次モードの共 振が発生する 通常は 一番音波振幅が大きく検 出が容易な基本モード共振を用いて計測が行わ れる 矢印方向 c軸方向 幅 -半値幅 長さ -半値幅 -半値幅 : 25º -半値幅 : 5.0º の矢印の例 : c軸 c軸平行zno膜 配向性が良い場合 Cr 配向性が悪い場合 センサ面積 : 0.66 0.66 mm 2 Au 0.35 2.6 0.4 0.3 8.5 0.9 Au O2 O2 シリコン基板 (4 インチ) エロージョン領域 63.5 mm 図5 c 軸の面内方向 面外方向の配向の4インチウ エハ内分布 Unit : m 空洞 O2 400 0.3 図7 横波モード薄膜共振子の構造と共振 子センサを実装したフローセルの試作 4 抗原抗体反応センサの特性 図6 4インチウエハ内で量産された横波モード薄膜 共振子センサデバイス 500個 ウエハ 4.1 抗原抗体反応の検出システム 次に抗原抗体反応検出実験の手順について説 明する まず圧電薄膜上の金電極に抗体を固定化 する 金電極表面上に自己組織化膜(self-assemble 101
monolayers: SAM)を形成し SAM との結合によ り抗体を固定化する 薄膜表面上に抗原溶液を送 データ処理 /センサグラム表示部 計測器 ネットワークアナライサ 液すると まず液の粘性抵抗による薄膜の共振周 波数変化が生じる その後 抗体抗原反応を起こ LabView し 抗原の質量付加によるさらなる共振周波数変 周波数 スキャン GP- IB RS-232C 化が生じる 抗原濃度に応じて結合する抗原量が バルブ ON/OFF モータ制御 異なることから 共振周波数変化量を計測すれば フロー系 抗原濃度を定量できると考えられる 動脈硬化のバイオマーカであるアポリポタン Buffer パク質(Apolipoprotein A-II: Apo(A-II))を使用し て実験を行った例を示す Apo(A-II)の体内におけ る濃度の基準範囲は 男性で 25.9 35.7 mg/dl シリンジ シリンジ ポンプ サンプル ループ インジェクタ バルブ 高周波 ケーブル テフロン チューブ Waste フロー ル ンサ部 図8 フローシステムの制御とセンサの共振周波数 計測モニタリングシステム 女性で 24.6 35.7 mg/dl である 目標検出濃度 を体内基準範囲の 10 100 倍希釈の 1 µg /ml に 設定され 0.001 10 µg/ml の範囲で計測が行わ れた 計測システムは 薄膜共振子を実装したセンサ 部 センサ部に被測定対象を送液するフローシス テム 共振周波数の変化を読み取る計測器 それ ら全体の動作を制御し 表示するデータ処理 表 示部から構成される 図8に計測システム全体の 模式図を示す 図7 b に示すように 共振子の上部電極に PDMS ポリジメチルシクロキサン 流路を取り 付け これに液体を送液する これはフローセル システムと呼ばれ よくみられるセンサ表面に滴 下するやり方に比べて 表面張力などの環境変動 の影響を受けにくく 共振周波数の測定精度が向 上する 一般にこのような方法では十分な液量が 必要だが 本システムの PDMS 流路は幅 0.5 mm 0.1 mm であり 微量の液体でも計測可能である フローシステムはシリンジポンプ インジェクタ バルブ センサ部から構成される センサ部に送 液する液体とその速度をインジェクタバルブ シ リンジポンプで制御する Labview を用いてセン サ部に接続したネットワークアナライザにより 薄膜共振子の反射係数 S11 を自動計測し 一定の 時間間隔で共振周波数を読み取り リアルタイム 表示される 102 4.2 抗原抗体反応の検出 Apo(A-II)の濃度が 78 ng/ml 抗原溶液を送液し た際の 基本モード共振周波数変化の計測結果 センサグラム とセンサ表面状態の模式図を図 9に示す 同図を用いて 周波数変化量の計測プ ロセスについて概説する 図9に示すように 抗体のみをセンサ表面に 固定化した場合の共振周波数を基準とする 抗原 溶液を送液すると 図9のように抗原と抗体の 選択的な結合による質量付加により 共振周波数 が低下する その後 図9(c)のように再度 Buffer 溶液を送液することにより センサ流路から抗原 溶液が排出される このとき抗原抗体の結合は切 れず共振周波数は変化しない またその後図9(d) のように Glycine-HCl 溶液を送液すれば 抗原抗 体結合が解離し センサを再生させることができ る この例では再生液を二回送液している 送液 時 Glycine-HCl 溶液の粘性により 共振周波数 が急激に減少する 最後に 再び Buffer 溶液を 送液することで 共振周波数は基準値に戻る 状 態と状態(c)の周波数差 f を抗原の吸着による 変化量として見積もることができる
共 振 周 波 数 (MHz) 抗 原 抗 体 (c) 138.3455 138.3450 138.3445 138.3440 138.3435 0 共 振 周 波 数 変 化 f (khz) 0.0-0.4-0.8-1.2-1.6 2 Buffer 溶 液 自 己 組 織 化 単 分 膜 センサ 表 面 (Au) Buffer 溶 液 4 (c) 6 8 10 時 間 (min.) (sec.) (d) (d) 12 (d) 14 Glycine 溶 液 16 図 9 抗 原 抗 体 反 応 時 の 共 振 周 波 数 とセンサ 表 面 の 状 態 -2.0 10 0 10 1 10 2 10 3 10 4 アポリポたんぱく 質 濃 度 (ng/ml) ことがわかる これは 抗 原 量 がセンサ 表 面 に 吸 着 できる 許 容 量 に 達 したためが 考 えられる 複 数 回 の 実 験 を 行 い このセンサの 検 出 限 界 を 評 価 した ところおおよそ 0.01 g/ml であり 目 標 検 出 濃 度 の 1 µg /ml を 大 幅 に 下 回 っていることがわか っている 5.まとめ 横 波 モード 圧 電 薄 膜 共 振 子 の 用 いた 抗 原 抗 体 反 応 MEMSセンサの 開 発 例 について 紹 介 した このセンサで 得 られる 0.01 g/ml(=10 ng/ml) の 検 出 感 度 は 25メートルプールに 小 さじ 一 杯 の 病 変 マーカタンパク 質 を 検 出 できることに 相 当 する よく 普 及 している 蛍 光 分 析 法 と 比 べると このセンサ 方 式 では 標 識 抗 体 が 必 要 なく,タンパ ク 質 の 結 合 解 離 をリアルタイムモニタリングで きる 点 が 有 利 である 近 年 には ガンや 生 活 習 慣 病 の 病 理 学 研 究 が 精 力 的 に 行 われ 疾 患 に 関 連 す るタンパク 質 などのバイオマーカが 次 々と 発 見 されている 予 防 医 学 の 観 点 からは これらの 病 変 マーカの 中 で 特 に 重 要 な 因 子 の 変 動 を 日 常 的 に 観 測 できることだけでも 有 益 と 考 えられる 謝 辞 本 研 究 の 一 部 は 財 団 法 人 中 谷 医 工 計 測 技 術 振 興 財 団 の 研 究 助 成 により 行 われました ここに 深 く 感 謝 申 し 上 げます 図 10 導 入 した 抗 原 の 濃 度 に 対 する 共 振 周 波 数 の 変 化 図 10に 抗 原 濃 度 を 0.001~10 g/ml の 範 囲 における 抗 原 濃 度 と 共 振 周 波 数 の 変 化 量 の 関 係 を 示 す 抗 原 濃 度 が 高 くなるにつれて 共 振 周 波 数 が 低 下 していることがわかる この 結 果 から あらかじめ 抗 原 濃 度 - f 曲 線 を 取 得 しておけば 抗 原 濃 度 を 評 価 できることを 示 している 1 g/ml 以 上 の 高 濃 度 範 囲 では 濃 度 に 対 する f の 変 化 が 低 濃 度 範 囲 に 比 べて 小 さくなっている 参 考 文 献 1) M. Benetti, D. Cannatà, F. Di Pietrantonio, V. Foglietti, and E. Verona, Appl. Phys. Lett. Vol. 87, 173504-1-173504-3 (2005). 2) S. Rey-Mermet, R. Lanz and P. Muralt, Proc. IEEE Ultrason. Symp., pp. 1253-1257, (2005). 3) T. Itoh, Ion beam assisted film growth, pp.119-120, Elsevier (1989). 4) T. Yanagitani, M. Kiuchi, M. Matsukawa, and Y. Watanabe, J. Appl. Phys., vol. 102, no. 2, pp. 024110-1 024110-7, (2007). 103
5) T. Kawamoto, T. Yanagitani, M. Matsukawa, Y. Watanabe, Y. Mori, S. Sasaki and M. Oba, Jpn. J. Appl. Phys., vol. 49, pp. 07HD16-1 07HD16-4, (2010). 6) S. Takayanagi, T. Yanagitani, and M. Matsukawa, Appl. Phys. Lett., Vol. 101 no. 23, pp. 232902-1 -232902-3 (2012). 7) T. Yanagitani, M. Kiuchi, M. Matsukawa, and Y. Watanabe, J. Appl. Phys., vol. 102, no. 2, pp. 024110-1 024110-7, (2007). 8) T. Yanagitani, Shear Mode Piezoelectric Thin Film Resonators, Acoustic Waves - From Microdevices to Helioseismology, Prof. Marco G. Beghi (Ed.), InTech, 104