< 巻 頭 言 > 小 さいが 偉 大 な 一 歩 志 の 結 晶 片 山 敏 郎 日 本 デジタル 教 科 書 学 会 会 長 新 潟 大 学 教 育 学 部 附 属 新 潟 小 学 校 教 諭 学 会 誌 デジタル 教 科 書 研 究 の 第 1 巻 がついに 刊 行 される 載 っている 論



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Japanese Journal of Digital Textbook ISSN 2188-7748 デジタル 教 科 書 研 究 日 本 デジタル 教 科 書 学 会 学 会 誌 Vol. 1 August 2014 1 巻 頭 言 原 著 ( 一 般 ) 2 デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 : 青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 報 告 ( 一 般 ) 24 デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 費 用 に 関 する 一 考 察 : 小 河 智 佳 子 37 紙 の 教 科 書 から 推 測 される 教 育 現 場 に 支 持 されるデジタル 教 科 書 の 特 徴 : 久 富 望 i 投 稿 審 査 規 定 v 編 集 委 員 会 報 告

< 巻 頭 言 > 小 さいが 偉 大 な 一 歩 志 の 結 晶 片 山 敏 郎 日 本 デジタル 教 科 書 学 会 会 長 新 潟 大 学 教 育 学 部 附 属 新 潟 小 学 校 教 諭 学 会 誌 デジタル 教 科 書 研 究 の 第 1 巻 がついに 刊 行 される 載 っている 論 文 は 3 本 と 少 ない しかし どれも 精 緻 に 査 読 され 選 ばれた 3 本 だ 2012 年 5 月 に 日 本 デジタル 教 科 書 学 会 が 誕 生 した 既 に 2 回 の 全 国 大 会 を 行 い 10 回 を 超 える 研 究 会 を 開 催 した また 会 員 数 も 300 名 を 超 え 多 くの 知 見 が 交 流 されるよう にもなった 学 会 発 足 からのこの 2 年 間 は ICT を 活 用 した 教 育 という 観 点 からみると 激 動 の 2 年 間 であった 学 会 発 足 時 には ほとんどなされていなかった 情 報 端 末 を 活 用 し た 授 業 も 今 では そこかしこに 見 られる そして 自 治 体 単 位 で 一 人 1 台 の 情 報 端 末 を 導 入 する 例 も 出 てきた 情 報 端 末 を 話 題 とした 研 修 会 も 多 く 開 かれるようになった デ ジタル 教 科 書 という 言 葉 も 社 会 で 広 く 認 知 されてきた 社 会 での 認 知 については 当 学 会 の 果 たした 役 割 も 大 きいと 自 負 している しかし 学 術 的 な 積 み 上 げという 視 点 から 考 えると 学 会 である 以 上 なにより 学 会 誌 が 大 切 だ しっかりとした 学 会 誌 があってこそ 研 究 が 蓄 積 され その 研 究 が 世 の 中 の 役 に 立 つ その 意 味 で 学 会 誌 の 刊 行 は 一 つの 悲 願 でもあった 学 会 誕 生 から 丸 2 年 かかっ たが ついにここまできたことを 会 員 の 皆 様 と 共 に 喜 びたい この 学 会 の 発 足 の 志 は デジタル 教 科 書 教 材 やそれを 活 用 した 実 践 について 学 術 的 に 追 究 し 我 が 国 の 教 育 のこれからの 発 展 に 資 すること である この 学 会 誌 の 発 刊 によ って いよいよ この 学 会 の 成 果 を 真 に 学 術 の 世 界 に 問 うていくフェーズに 入 ることとな る そういう 意 味 で この 第 1 号 は 学 会 のマイルストーンとも 言 えるし 志 の 結 晶 とも 言 える 偉 大 な 一 歩 である 今 後 二 歩 三 歩 とひたむきに 歩 みを 続 け 我 が 国 の 教 育 の 発 展 に 資 するという 志 の 本 質 からぶれること 無 く 確 かな 歩 みを 継 続 していく 所 存 である どう か 共 に この 学 会 誌 をしっかりと 育 てていただくようお 願 い 申 し 上 げて 巻 頭 の 言 葉 とし たい 1

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. < 原 著 ( 一 般 )> デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 青 木 浩 幸 (イーテキスト 研 究 所 ) 宮 寺 庸 造 ( 東 京 学 芸 大 学 ) 原 久 太 郎 (イーテキスト 研 究 所 ) 概 要 学 習 者 用 デジタル 教 科 書 への 期 待 が 高 まる 一 方 で, 高 度 化 した 要 求 に 対 応 する 教 材 コン テンツの 開 発 は 困 難 が 予 想 される. 本 研 究 は,デジタル 教 科 書 上 の 教 材 コンテンツにおい て 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 により 教 材 コンテンツ 制 作 を 合 理 化 する 可 能 性 に 着 目 した. 紙 面 素 材 と 活 動 ツールを 分 離 したデジタル 教 科 書 のモデルを 提 案 し,その 実 現 のためにベ クターグラフィクスの 標 準 技 術 の SVG(Scalable Vector Graphics)を 紙 面 素 材 の 表 現 に 採 用 し, 活 動 ツールが 連 携 するための 構 成 要 素 に 付 加 する 意 味 情 報 の 検 討 を 行 った.この 設 計 に 基 づきプロトタイプのデジタル 教 科 書 を 試 作 し, 実 現 し 得 るデジタル 教 科 書 機 能 の 可 能 性 を 探 った.その 結 果, 教 科 書 紙 面 の 素 材 を 活 用 した 学 習 活 動 が 提 供 でき, 教 師 の 自 作 教 材 を 教 材 コンテンツ 化 する 仕 組 みを 示 すことができた.また,この 本 提 案 を 既 存 の 制 作 技 術 と 比 較 し,その 優 位 性 をまとめた. 今 後,デジタル 教 科 書 の 教 材 コンテンツの 構 成 要 素 の 意 味 を 記 述 する 仕 様 の 議 論 が 期 待 される. キーワード デジタル 教 科 書,インタラクティブコンテンツ, 標 準 化,SVG 1.はじめに デジタル 教 科 書 の 開 発 は, 従 来 の 電 子 黒 板 を 用 いた 指 導 者 用 デジタル 教 科 書 から,タブ レット 端 末 を 用 いた 学 習 者 用 デジタル 教 科 書 に 移 行 しつつある. 政 府 の 教 育 再 生 実 行 本 部 は 2010 年 代 中 に 児 童 生 徒 1 人 1 台 のタブレット 端 末 を 整 備 する 目 標 を 掲 げ,いくつかの 自 治 体 は 先 行 して 学 習 者 用 情 報 端 末 の 導 入 を 始 めている[1, 2]. 情 報 端 末 の 普 及 に 合 わせ, 学 習 教 材 としての 学 習 者 用 デジタル 教 科 書 の 需 要 や 関 心 も 高 まると 考 えられる. 学 習 者 用 デジタル 教 科 書 には 標 準 化 の 動 きがある.これまでの 指 導 者 用 では 教 師 用 のパ 2

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. ーソナルコンピュータ(PC)での 使 用 を 想 定 していたが, 学 習 者 用 ではタブレット 端 末 や 家 庭 での PC の 使 用 も 想 定 され, 多 様 な 端 末 で 利 用 できる 必 要 がある.また, 教 科 書 会 社 が 独 自 にデジタル 教 科 書 の 機 能 を 開 発 してきた 結 果, 複 数 の 社 の 教 科 書 を 併 用 する 際 に 生 ずる 操 作 性 の 相 違 が 問 題 となっている[3].これらの 状 況 を 踏 まえ, 教 科 書 会 社 各 社 はデジ タル 教 科 書 の 共 通 プラットフォームの 開 発 や 操 作 性 統 一 に 着 手 している[4]. 文 部 科 学 省 も 2013 年 度 からデジタル 教 科 書 の 標 準 化 事 業 を 始 めており, 仕 様 が 2015 年 度 末 までにまと められる 予 定 である[5]. 標 準 化 の 要 件 として 教 科 書 ビューアと 教 科 書 コンテンツを 分 離 す ることが 提 案 され, 複 数 の 教 科 書 ビューアの 中 から 利 用 者 が 適 したものを 選 べ,その 教 科 書 ビューアであらゆる 教 科 書 会 社 のコンテンツが 読 めることが 期 待 されている. 本 研 究 の 目 的 は,このような 相 互 運 用 性 の 向 上 に 資 するデジタル 教 科 書 のアーキテクチ ャの 提 案 である. 我 々はこれまで 指 導 者 用 デジタル 教 科 書 のコンテンツ 制 作 に 取 り 組 んで きた[6].その 経 験 を 通 し, 文 部 科 学 省 及 び 教 育 現 場 から 求 められるデジタル 教 科 書 の 機 能 を 実 現 するためには, 制 作 にあたって 解 決 すべき 3 つの 課 題 があると 考 えている. 第 一 は 教 科 書 紙 面 の 高 度 なレイアウトを 維 持 しながら, 文 字 や 図 版 などの 紙 面 素 材 の 利 用 を 可 能 とすること, 第 二 は 教 科 書 のコンテンツや 活 動 ツールの 機 能 の 開 発 と 修 正 を 容 易 に 行 える ようにすること,そして 第 三 はデジタル 教 科 書 が 外 部 アプリケーションや 自 作 コンテンツ と 連 携 するための 標 準 的 でありながら 拡 張 可 能 なデータ 形 式 を 定 めることである. この 課 題 に 対 して, 我 々は 従 来 一 体 として 開 発 されてきたデジタル 教 科 書 上 の 教 材 コン テンツを,その 静 的 な 紙 面 素 材 と 活 動 ツール(プログラム)に 分 離 する 方 向 で 研 究 を 行 っ た.これは 紙 面 の 修 正 とプログラムの 機 能 向 上 の 効 率 を 良 くするだけでなく, 同 様 の 振 る 舞 いをするコンテンツを 大 量 生 成 するのに 役 立 つ 可 能 性 がある. 紙 面 素 材 の 表 現 方 法 とし ては, 電 子 書 籍 の 標 準 であるEPUB3[8]に 採 用 されているベクターグラフィクス 技 術 のSVG (Scalable Vector Graphics)[7]を 採 用 した.SVG は 高 いレイアウト 性 能 を 持 ち, 印 刷 教 科 書 の 高 度 な 紙 面 レイアウトを, 画 像 化 によらず 再 現 できる 特 長 がある. 紙 面 素 材 と 活 動 ツー ルを 分 離 すると, 紙 面 素 材 の 構 成 要 素 の 意 味 を 活 動 ツールに 伝 達 する 必 要 が 生 じるため, SVG 上 の 要 素 にその 意 味 を 表 す 属 性 を 付 加 して 連 携 する 工 夫 を 行 った. このアイディアに 基 づき,SVG を 用 いて 紙 面 素 材 と 活 動 ツールを 分 離 したデジタル 教 科 書 のプロトタイプを 試 作 した. 教 科 書 紙 面 の 文 字 や 図 版 などの 内 容 を 利 用 する 応 用 事 例 と して,オペレーションシステム(OS) 提 供 機 能 の 利 用 や 教 科 書 素 材 の 抽 出 提 示, 作 図 支 援 を 実 現 した. 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 連 携 の 例 として, 数 学 の 作 図 教 材 における 素 材 の 意 3

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. 味 記 述 の 仕 様 を 示 した. このように, 紙 面 素 材 と 活 動 ツールを 分 離 したうえで 連 携 を 保 つアーキテクチャにより, 教 科 書 の 素 材 を 生 かした 学 習 活 動 や 授 業 が 可 能 になり, 学 習 者 用 デジタル 教 科 書 が 抱 える 困 難 を 解 決 できる. 2.デジタル 教 科 書 開 発 の 課 題 2.1 デジタル 教 科 書 の 現 状 日 本 のデジタル 教 科 書 利 用 は, 政 府 の e-japan 戦 略 を 踏 まえ, 一 斉 指 導 授 業 における 教 師 のプレゼンテーション 用 として 始 まった[6]. 政 府 は 2005 年 にすべての 普 通 教 室 にイン ターネット 回 線,コンピュータ,プロジェクタを 設 置 する 計 画 を 掲 げ, 教 科 書 会 社 はその 環 境 整 備 に 対 応 できるようにデジタル 教 科 書 の 開 発 を 行 ってきた. 原 らは,デジタル 教 科 書 のコンテンツの 特 徴 として,(1) 児 童 生 徒 が 持 っている 紙 の 教 科 書 と 同 じ 紙 面 を 表 示 する ことが 授 業 を 効 率 化 する,(2) 一 つの 学 習 課 題 を 抜 き 出 しそれだけを 拡 大 表 示 する 機 能 が 授 業 で 有 用 である,(3) 図 などの 視 覚 要 素 をインタラクティブに 操 作 して 説 明 することにより, 理 解 を 深 め 実 感 を 伴 う 授 業 が 可 能 になるとしている[6]. これは 今 日 で 言 う 指 導 者 用 デジタル 教 科 書 である.デジタル 教 科 書 を 授 業 におけるプレ ゼンテーション 用 に 作 り 込 んできた 日 本 のデジタル 教 科 書 は, 外 国 のデジタル 教 科 書 には ない 開 発 の 難 しさがあるとともに, 訴 求 力 の 高 い 教 材 になる 可 能 性 もある.デジタル 教 科 書 の 導 入 が 進 んでいるアメリカでは, 豊 富 な 電 子 書 籍 の 中 から 教 材 として 認 められるもの をデジタル 教 科 書 として 使 っている 状 況 があるが,これは 学 習 者 が 個 人 で 読 む 形 態 である [9]. 教 育 の 情 報 化 が 進 んでいる 韓 国 では, 豊 富 なデジタルコンテンツがオンラインで 提 供 されているため 指 導 用 に 用 いるデジタル 教 科 書 の 需 要 が 高 くなかった[10]. 日 本 のデジタル 教 科 書 は 紙 の 書 籍 の 電 子 化 に 加 えて,インタラクティブコンテンツや 学 習 支 援 アプリケーションのようなコンピュータプログラムを 含 むことが 特 徴 である. 原 ら は Flash コンテンツによる 立 体 図 形 のシミュレーションや,GC という 作 図 ツールを 同 梱 し て 教 科 書 上 で 学 習 活 動 を 展 開 できるようにしている. 柳 沼 らは 教 科 書 の 電 子 化 について, テストやシミュレーション, 仮 想 現 実 等 の 教 育 用 アプリケーションソフトを 配 布 するため のパッケージとして 電 子 書 籍 の 形 態 を 利 用 する 一 面 があるとしている[11]. 電 子 書 籍 ビュ ーアと 書 籍 データを 一 体 化 したアプリケーションとすることで, 高 度 な 学 習 支 援 機 能 が 実 現 できる 事 例 が 紹 介 されている. 4

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. 松 原 は 既 存 のデジタル 教 科 書 のプラットフォームを 検 討 するなかで, 既 存 のデジタル 教 科 書 の 多 くが Adobe 社 の Flash によって 開 発 されていることにふれ,その 功 罪 について 述 べている[3].Flash はベクターグラフィクスを 基 盤 とした 高 度 な 表 現 力 と,ブラウザ 上 の プラグインで 動 作 することにより 多 様 な PC 環 境 で 動 作 することで 広 く 普 及 した. 松 原 は Flash が 多 くつかわれている 理 由 として,マルチメディアを 用 いたインタラクティブなコン テンツが 効 率 よく 制 作 可 能 であることを 挙 げている. 同 時 に 問 題 点 として, 各 社 がそれぞ れ 独 自 に 開 発 しているため, 操 作 が 統 一 されていないことを 挙 げている. 各 教 科 書 会 社 は ルビ 振 り 機 能 やハイライトやマーカー 機 能, 読 み 上 げ 機 能 のような 教 科 書 の 機 能 を Flash により 独 自 に 作 りこみ, 他 社 との 差 別 化 を 図 ってきた.しかし, 近 年 OS のアクセシビリ ティ 機 能 が 向 上 して, 読 み 上 げや 白 黒 反 転 は OS の 機 能 として 搭 載 されるようになってき ている[12, 13]. 教 科 書 側 で 独 自 の 作 りこみをせずに,OS の 標 準 的 な 方 法 を 使 ってアクセ シビリティを 提 供 するのが 合 理 的 である. 2.2 デジタル 教 科 書 の 制 作 における 課 題 文 部 科 学 省 は 学 びのイノベーション 事 業 の 中 で,デジタル 教 科 書 研 究 実 証 校 での 活 用 状 況 関 連 団 体 へのヒアリングの 状 況 を 踏 まえて 学 習 者 用 デジタル 教 科 書 の 機 能 等 の 検 討 を 行 い, 学 習 者 用 デジタル 教 科 書 教 材 等 の 機 能 の 在 り 方 について( 案 ) [5]として 整 理 している.この 中 には, 学 習 者 用 デジタル 教 科 書 を 有 用 なものにするため, 既 存 のデジ タル 教 科 書 には 無 い 機 能 も 盛 り 込 まれている. 我 々はこれらの 機 能 の 実 現 に 当 たって 教 科 書 コンテンツの 作 り 方 は 3 つの 課 題 があると 考 えた. 次 に 課 題 とそれに 対 応 する 要 求 の 形 で 紹 介 する. 課 題 1 教 科 書 紙 面 の 高 度 なレイアウトを 維 持 しながら, 文 字 や 図 版 などの 要 素 の 利 用 を 可 能 としなければならない 対 応 する 要 求 : デジタル 教 科 書 コンテンツ には, 検 索,コピー, 読 み 上 げなど, 様 々 な 学 習 活 動 に 対 応 できるように, 文 字 データを 持 たせる 既 存 のデジタル 教 科 書 の 多 くは, 教 科 書 紙 面 全 体 を 画 像 化 して 格 納 しているため 紙 面 上 の 文 字 をデータとして 取 り 出 すことができない. 画 像 化 はレイアウトが 重 要 となる 雑 誌 や マンガの 電 子 化 で 用 いられる 方 法 であり, 教 科 書 紙 面 も 日 本 語 特 有 の 縦 書 きや 数 式 漢 文 などの 学 問 領 域 独 特 の 表 現, 教 科 書 体 の 文 字 等 を 含 むため,これらを 確 実 に 再 現 する 容 易 5

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. な 方 法 としてよく 使 われる. 国 語 や 英 語 の 教 科 書 には 教 科 書 の 文 面 を 読 み 上 げる 機 能 を 持 つものがあるが,これはインタラクティブコンテンツが 埋 め 込 まれているためであり, 教 科 書 の 任 意 の 箇 所 が 読 み 上 げできる 訳 ではない. 課 題 2 教 科 書 のコンテンツや 活 動 ツールの 機 能 の 開 発 と 修 正 が 容 易 でない 対 応 する 要 求 : 児 童 生 徒 が 扱 い 易 いことに 加 えて, 個 々の 児 童 生 徒 の 学 習 ニーズや 特 別 な 教 育 的 支 援 を 必 要 とする 児 童 生 徒 の 実 態 に 応 じて, 必 要 なコンテンツや 機 能 などを 付 加 すること ができる 学 習 者 の 実 態 を 知 る 教 師 による 機 能 や 教 材 の 選 択, 自 作 教 材 の 追 加 によりこれに 対 応 で きるが, 教 科 書 の 内 容 や 機 能 はインタラクティブコンテンツとして 作 り 込 まれていること が 多 く,ユーザーが 変 更 できるものではない. 現 状 のデジタル 教 科 書 の 一 部 には, 教 科 書 の 素 材 を 画 像 的 に 切 り 貼 りしてページを 追 加 できる 機 能 を 持 ったものも 存 在 するが,イン タラクティブ 教 材 の 自 作 は 困 難 であり, 学 習 者 に 配 布 する 標 準 的 な 方 法 も 無 い. 課 題 3 デジタル 教 科 書 が 外 部 アプリケーションや 自 作 コンテンツと 連 携 するための 標 準 的 でかつ 拡 張 可 能 なデータ 形 式 が 決 まっていない 対 応 する 要 求 : 学 習 者 用 デジタル 教 科 書 や アプリケーション は 相 互 にデータを 交 換 できるようにし, 例 えば, 教 科 書 の 一 部 のデータを 取 り 出 してノートを 作 成 することな どが 容 易 にできる 環 境 が 望 まれる 学 習 者 用 端 末 にアプリケーションを 導 入 すれば, 教 師 が 望 む 学 習 活 動 を 授 業 に 取 り 入 れ ることができる.しかし, 教 科 書 の 内 容 とアプリケーションでの 学 習 成 果 を, 文 字 や 画 像 のような 単 純 な 形 式 以 外 に 相 互 に 受 け 渡 す 標 準 的 な 方 法 がないため, 教 科 書 と 連 携 した 活 動 が 限 定 される. 例 えば, 教 科 書 上 の 作 図 問 題 を, 他 の 作 図 アプリケーションで 解 くとい った 際 に, 教 科 書 から 単 なる 画 像 だけが 渡 されたのでは,アプリケーション 側 で 学 習 者 の 作 図 を 支 援 することができない. 2.3 素 材 と 活 動 ツールの 密 結 合 の 問 題 既 存 のデジタル 教 科 書 の 多 くは,Adobe 社 の Flash を 基 盤 技 術 として 開 発 されている. 2013 年 度 に 小 中 高 の 2 校 種 以 上 の 教 科 書 を 出 版 している 16 社 の 製 品 の 仕 様 を 調 査 したと ころ,13 社 の 指 導 者 用 デジタル 教 科 書 について Flash Player を 要 することが 分 かった. 6

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. Flash で 作 られたデジタル 教 科 書 をモデル 化 したものが 図 1である. 教 科 書 コンテンツ 教 材 コンテンツ(Flash) 教 材 コンテンツ 活 動 素 材 ツール 教 科 書 ビューア 書 込 ツール 図 1 既 存 のデジタル 教 科 書 のモデル デジタル 教 科 書 は, 教 科 書 コンテンツと 教 科 書 ビューア 部 分 に 分 けられる. 教 科 書 コン テンツはいくつもの 教 材 コンテンツが 集 まって 紙 面 冊 子 を 構 成 している.1 つの 教 材 コ ンテンツは 1 つの Flash ファイルに 対 応 し, 静 的 な 教 科 書 の 紙 面 素 材 と,インタラクティ ブな 学 習 活 動 を 提 供 するプログラムが 一 体 となって 制 作 されている.このプログラム 部 分 を 活 動 ツール と 呼 ぶこととする. 一 方, 書 込 ツール のような 教 科 書 全 体 に 共 通 した 機 能 は, 教 科 書 ビューア 側 で 実 装 されている. 活 動 ツールが 書 込 ツールと 違 って 教 科 書 ビ ューアの 方 に 組 み 込 めないのは, 素 材 と 密 接 に 関 わっているからである. この 作 り 方 では 教 材 コンテンツの 中 に 文 字 や 図 版 などの 素 材 が 埋 め 込 まれているため, 外 の 教 科 書 ビューアから 素 材 を 利 用 した 機 能 の 提 供 ができなかった.また 制 作 に 当 たって は, 教 科 書 上 の 素 材 毎 にプログラマーが 一 つ 一 つ 教 材 コンテンツ 化 しなければならない. 同 じ 素 材 でもマウス 操 作 を 基 盤 とした PC とマルチタッチ 操 作 を 基 盤 としたタブレットで は 操 作 方 法 が 異 なるため, 学 習 者 用 デジタル 教 科 書 ではそれぞれの 端 末 の 操 作 に 対 応 した 活 動 ツールで 教 材 コンテンツを 作 らなければならなくなるだろう.このように 制 作 しなけ ればならない 教 材 コンテンツの 数 は 膨 大 である. この 問 題 は 教 科 書 の 改 善 も 難 しくする. 教 科 書 執 筆 者 が 素 材 の 追 加 や 修 正 を 行 う 度 にプ ログラマーに 教 材 コンテンツを 作 り 直 してもらわなければならないし, 逆 に 操 作 性 向 上 の ために 活 動 ツールを 修 正 するのにも, 同 種 の 教 材 コンテンツをすべて 作 り 直 さなければな らないためである. 教 材 コンテンツにおいて, 素 材 と 活 動 ツールが 一 体 化 して 制 作 されているのが 問 題 の 原 因 である.この 種 の 問 題 を 解 決 する 方 法 として,アプリケーションソフトウェアを 開 発 す るための 方 法 論 である MVC アーキテクチャが 知 られている[14].MVC アーキテクチャと は,アプリケーションソフトウェアをモデル/ビュー/コントローラに 分 割 して 開 発 する 7

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. という 方 法 論 で,Web ページであれば 文 書 の 内 容 である HTML から, 見 た 目 を 制 御 する CSS, 振 る 舞 いを 制 御 する JavaScript を 分 離 するということに 当 たる.これらを 分 離 するこ とで,プログラムのことを 知 らなくても 内 容 を 編 集 することができるし, 内 容 に 触 れずに プログラムを 改 良 することが 可 能 になる. 教 材 コンテンツの 素 材 と 活 動 ツールを 分 離 して, 交 換 可 能 にするためには,それぞれの 形 式 が 標 準 化 されなくてはならない. 例 として, 数 学 の 図 形 教 材 を 記 述 するために GCL (Geometric Construction Language)という 図 形 記 述 言 語 があり[6], 数 式 の 記 述 形 式 には TeX や MathML がある.このように 表 現 する 対 象 毎 に 様 々な 言 語 が 提 案 されている. 教 材 をこのような 機 械 が 理 解 可 能 な 言 語 で 記 述 することは 学 習 者 にとってもメリット がある. 例 えば 数 式 であれば 読 み 上 げが 可 能 になり, 視 覚 に 困 難 がある 学 習 者 への 支 援 が 可 能 になる. 教 材 形 式 標 準 化 に 当 たっての 問 題 は, 教 科 書 上 の 多 様 な 表 現 を 統 一 的 に 記 述 できる 標 準 を 決 められるかということと, 教 科 書 の 作 り 方 を 新 しい 標 準 に 切 り 替 えることにコストが かからないかということである. 電 子 書 籍 の 代 表 的 な 標 準 には IDPF( 国 際 電 子 出 版 フォー ラム)が 提 唱 する EPUB3 がある[8].EPUB3 では 文 書 紙 面 の 表 現 として Web の 標 準 として 実 績 のある HTML5 と SVG というベクトルグラフィック 形 式 が 採 用 されている. SVG は グラフィックス 形 式 として,DTP データ(デジタル 印 刷 紙 面 データ)からの 変 換 が 可 能 で あるため 移 行 のコストも 抑 えられ,これらの 問 題 を 解 決 できると 考 えられる. しかしながら SVG は 単 なるグラフィックス 形 式 であるために, 見 た 目 は 記 述 できても 要 素 の 意 味 を 記 述 する 手 段 は 備 えていない. 要 素 の 意 味 とは, 図 形 記 述 言 語 であれば 線 分 や 点, 弧 等 の 図 形 要 素 があり, 数 式 記 述 言 語 であれば, 数 値 と 演 算 子 の 要 素 がある. コンピュータ 画 面 上 の 仮 想 的 な 筆 記 用 具 の 操 作 は 実 物 の 筆 記 用 具 に 比 べ 直 接 的 でない という 問 題 がある[15]. 定 規 やコンパスのような 器 具 を 用 いた 実 物 の 作 図 作 業 では, 針 の 穴 を 使 うなどして 正 確 な 位 置 合 わせができるが,コンピュータ 画 面 上 ではそのような 物 理 的 な 凹 凸 は 利 用 できない.そのため, 作 図 ツールには 定 規 やコンパスの 針 が 描 画 要 素 に 近 づくと 自 動 的 に 位 置 が 合 わせられる 吸 着 と 呼 ばれる 支 援 機 能 が 実 装 される.SVG の 要 素 に 意 味 を 付 加 することができれば, 活 動 ツールがそれら 紙 面 上 の 情 報 を 利 用 して 学 習 活 動 を 支 援 できる. しかしながら 教 科 書 上 の 要 素 は 多 様 な 種 類 が 考 えられ,あらかじめ 付 加 できる 意 味 情 報 を 網 羅 的 に 定 義 しておくことは 困 難 である.この 問 題 に 対 しては,Web 上 のコンテンツに 8

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. 意 味 付 けを 行 うセマンティックウェブの 取 り 組 みが 参 考 にできる. セマンティックウェブは Web 上 の 情 報 にコンピュータが 理 解 できるようにすべて 意 味 付 けをしようという 壮 大 な 試 みであるが, 容 易 に 情 報 発 信 ができることが Web のメリット であったので,コンピュータが 理 解 可 能 にするために 労 力 がかかるという 矛 盾 を 生 じ,そ の 実 現 には 困 難 があった.そのような 中, 脚 光 を 浴 びたのが Microformats であった[16]. これは 人 間 が 読 めるページを 作 ることを 第 一 にして, 負 担 なく 情 報 を 付 加 して 行 くという 考 え 方 であり,HTML の 仕 組 みを 変 更 することなく, 要 素 の class 属 性 や rel 属 性 を 活 用 し てその 意 味 を 付 加 していく 方 法 を 採 用 している. これらセマンティックウェブのアイディアは 世 界 共 通 の 語 彙 を 使 って 意 味 を 特 定 しよ うということであったが,より 私 的 に 意 味 や 情 報 を 付 加 する 方 法 として,HTML5 にはカ スタムデータ 属 性 という 機 能 が 追 加 されている[17].これは Web サイト 制 作 者 が 独 自 に Web ページ 上 の 要 素 に 付 加 する 属 性 を 定 義 できるため,Web サイトの 機 能 を 向 上 させるの に 頻 繁 に 使 われるようになってきた. IDPF の 教 育 用 電 子 書 籍 の 標 準 を 検 討 している EDUPUB では,EDUPUB Profile として 紙 面 上 の 要 素 への 意 味 付 け 方 法 を 検 討 している[18].ここでは HTML の 要 素 の class 属 性 を 使 った 意 味 付 け 方 法 (EDUPUB Output Profile Baseline Spec, 3.3 Design Classes)や,カスタム データ 属 性 を 用 いたパラメータの 指 定 方 法 が 検 討 されている( 同 8.3 Widget & Gadgets). 3. 提 案 3.1 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 と 連 携 デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 素 材 と 活 動 ツールを 適 切 に 分 離 することができれ ば 問 題 を 改 善 することができる.このアーキテクチャをモデル 化 したのが 図 2 である. 従 来 教 科 書 コンテンツの 中 にあった 活 動 ツールは 教 科 書 ビューアの 方 に 移 動 している. 本 来 密 接 だった 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 間 を, 標 準 の 紙 面 素 材 記 述 形 式 を 定 めることで, 分 離 を 可 能 にする. 教 科 書 コンテンツの 素 材 は 他 の 教 科 書 ビューアでも 用 いることができ るとともに, 標 準 形 式 に 対 応 した 外 部 アプリケーションからも 利 用 できる. 同 様 に, 標 準 形 式 に 従 って 作 られた 自 作 教 材 は, 教 科 書 ビューアや 対 応 アプリケーションに 読 み 込 ませ て,その 上 で 教 材 コンテンツとして 学 習 活 動 が 展 開 できるようになる. 9

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. 教 科 書 コンテンツ 教 科 書 ビューア 素 素 材 材 活 動 ツール 書 込 ツール 自 作 教 材 対 応 アプリケーション 図 2 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 3.2 SVG による 紙 面 の 表 現 紙 面 素 材 の 記 述 形 式 には SVG を 採 用 する.SVG は XML でベクターグラフィクスを 表 現 するデータ 形 式 である[7].W3C により 勧 告 された 標 準 であり,HTML5 の 関 連 技 術 とし て 多 くの Web ブラウザで 表 示 できる. 画 像 ファイルとして HTML への 埋 め 込 むことがで きるほか,EPUB3 の 文 書 形 式 や 標 準 画 像 形 式 としても 使 える. 図 3 に 例 を 示 す. <?xml version="1.0" encoding="utf-8"?> <svg version="1.1" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" xmlns:xlink="http://www.w3.org/1999/xlink" viewbox="0 0 100 100"> <circle cx="50" cy="50" r="24" stroke="green" fill="none"/> <g id="kompasicon" transform="translate(50,50) rotate(20)" stroke="blue" stroke-width="0.5" fill="aqua" fill-opacity="0.7"> <path d="m0,0 L9.8,-18.8 A 3,3 0 0,1 11,-24 V-28 H13 V-24 A 3,3 0 0,1 14.2,-18.8 L 24,0 L12,-18 L0,0 M 12,-19.8 A 1.25,1.25 0 1,1, 12,-22.4 A 1.25,1.25 0 0,1 12,-19.8"/> </g> <image xlink:href="finger.png" x="68" y="15" width="20" height="20"/> <text x="44 76 65 73" y="52 52 28 61" rotate="0 0 0 20" font-size="6"> AB<tspan fill="red">c</tspan>d </text> </svg> 図 3 SVG の 記 述 例 と 描 画 結 果 ベクターグラフィクスとして 直 線 や 曲 線, 多 角 形 等 の 図 形 が 表 現 できるとともに, 画 像 ファイルや 文 字 も 埋 め 込 むことも 可 能 である. 文 字 が 画 像 化 されず,そのままの 形 で 記 述 されているため, 文 字 を 抽 出 して 検 索 や 読 み 上 げに 利 用 することが 可 能 である. 画 像 は 外 部 のファイル 名 を 指 定 することや Data URI スキームを 使 って 埋 め 込 まれる. 文 字 は 文 章 のつながりを 保 ったまま 一 文 字 ずつの 位 置 や 大 きさ, 回 転 を 指 定 することが 10

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. でき, 自 由 な 紙 面 レイアウトを 再 現 する 性 能 が 高 い. 再 現 性 が 高 い 反 面,HTML のような 端 末 画 面 の 大 きさに 合 わせた 自 動 再 レイアウト(リフロー)は 行 わない. また,JavaScript でインタラクティブ 性 を 実 現 できるとともに,HTML も 埋 め 込 むことが できるため,HTML5 の 機 能 を 全 て 利 用 できる. 以 上 のように,SVG はデジタル 教 科 書 の コンテンツ 表 現 として 求 められる 条 件 を 満 たすデータ 形 式 である. 3.3 活 動 ツールとの 連 携 するための 要 素 の 意 味 の 付 加 SVG により 紙 面 素 材 を 活 動 ツールから 分 離 するためには, 紙 面 素 材 の 構 成 要 素 の 意 味 を, 活 動 ツールに 伝 える 方 法 が 必 要 である.そのために, 要 素 に 意 味 を 記 述 する 属 性 を 追 加 す ることにする.SVG は XML なので 拡 張 して 属 性 を 独 自 に 定 義 することもできるが, HTML5 で 定 義 されている 接 頭 辞 data- から 始 まる カスタムデータ 属 性 を 用 いれば, より 簡 便 に 意 味 を 付 加 することができる[16].SVG の circle 要 素 にカスタムデータ 属 性 を 記 述 した 例 は 次 のとおりである: <circle cx="0" cy="0" r="1" data-etype="point" data-name="o" /> (1) 4.デジタル 教 科 書 のプロトタイプ 3 章 の 提 案 を 基 にした, 紙 面 素 材 と 活 動 ツールを 分 離 したデジタル 教 科 書 のプロトタイ プの 制 作 を 行 い,その 可 能 性 を 検 討 する. 開 発 したのは 図 2 のモデルに 基 づいた,デジタ ル 教 科 書 ビューアと 教 科 書 コンテンツである. 4.1 デジタル 教 科 書 ビューア ビューアはタブレット 端 末 での 利 用 を 想 定 して ios7 プラットフォームで 開 発 した. Android,Windows8.1(ストアアプリ) 用 も 平 行 して 開 発 中 である. デジタル 教 科 書 の 機 能 のうち, 書 き 込 みツールと 活 動 ツールは JavaScript で 実 装 してい る. 紙 面 とは 独 立 した 操 作 用 UI や, 読 み 上 げのような OS の 機 能 の 使 用 にあたってはビュ ーア 側 に 処 理 を 委 譲 する. 各 ツールを JavaScript で 開 発 しているのは,JavaScript は 紙 面 を 表 現 する HTML 上 で 実 行 されるため, 紙 面 要 素 へのアクセスが 容 易 だからである.また JavaScript のテキストファイルを 交 換 するだけで, 本 体 のビューアをコンパイルし 直 さなく ても 教 科 書 の 機 能 や 活 動 ツールを 容 易 に 変 更 できることも 利 点 として 挙 げられる. 11

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. 4.2 SVG によるデジタル 教 科 書 コンテンツ 本 研 究 では 電 子 書 籍 の 標 準 である EPUB3 に 準 拠 してデジタル 教 科 書 コンテンツを 制 作 する.EPUB ファイルは XHTML で 紙 面 をつくり, 書 籍 を 構 成 するのに 必 要 な 情 報 が 記 述 された 関 連 ファイル 一 式 を ZIP 圧 縮 でパッケージングして 作 られる. 印 刷 教 科 書 の 紙 面 は DTP ソフトウェア(Adobe 社 の InDesign 等 )で 編 集 される. 印 刷 会 社 への 入 校 用 のフォーマットには PDF が 使 われることが 多 い. 我 々は 教 科 書 会 社 の 協 力 を 得 て 教 科 書 紙 面 の PDF ファイルを 入 手, 紙 面 サンプルの 作 成 に 用 いた. PDF から SVG への 変 換 には Adobe 社 の Illustrator を 用 いた.その 他 のドローソフトでも 保 存 形 式 に SVG を 選 択 できるものは 多 い. 紙 面 素 材 を 活 動 ツールと 連 携 させるため, Illustrator で PDF の 構 成 要 素 に 意 味 の 付 加 を 行 う.Illustrator では SVG インタラクティブ の 機 能 により, 要 素 に JavaScript でイベントハンドラのコードを 設 定 できる. 例 えば 円 図 形 に 対 して 以 下 の 記 述 (2)を onload イベントに 設 定 すると,3.3 節 の 記 述 (1)のカスタムデー タ 属 性 を 設 定 したことと 同 じになる. this.dataset.etype='point'; this.dataset.name='o'; (2) Illustrator による SVG の 出 力 にあたっては SVG オプション として, 画 像 の 参 照 方 法 を リンク に,CSS プロパティを プレゼンテーション 属 性 と 設 定 し,SVG ファイル と 画 像 ファイルを 分 けて 書 き 出 した.Illustrator が 出 力 する 素 の SVG ファイルは, 紙 面 上 の 文 字 等 の 要 素 が 散 在 している 状 態 であり, 読 者 が 紙 面 要 素 を 抽 出 利 用 する 際 に 使 えない 場 合 がある.そのため, 我 々が 開 発 した 整 形 プログラムで 前 処 理 を 行 い, 段 落 などの 意 味 を 持 つ 単 位 に 結 合 する.また, 整 形 プログラムは,SVG ファイルをインライン SVG とし て XHTML のテンプレートに 埋 め 込 む 作 業 も 行 っている.こうして 作 られた XHTML ファ イルを EPUB3 の 固 定 レイアウトの 形 式 でパッケージングし,EPUB ファイルを 作 成 した. 4.3 活 動 ツールの 機 能 開 発 したデジタル 教 科 書 において, 素 材 から 分 離 した 活 動 ツールの 機 能 を 紹 介 する. 開 発 した 代 表 的 な 活 動 ツールを 表 1 に 示 す.なお 文 字 の 抽 出 は OS が 提 供 する 機 能 であ り 開 発 したものではないが, 紙 面 上 の 文 字 を 利 用 する 機 能 を 紹 介 するために 便 宜 上 載 せて 12

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. いる.また, 紙 面 要 素 上 の[ ] 内 の 文 字 は, 要 素 に 付 加 したカスタムデータ 属 性 である. 表 1 開 発 した 活 動 ツールの 機 能 を 連 携 する 紙 面 要 素 ツール 名 称 機 能 紙 面 要 素 文 字 の 抽 出 (OS の 機 能 ) 選 択 した 文 字 に 対 してメニューを 表 示 し, 辞 書 Web 検 索 読 み 上 げの 機 能 を 提 供 する. text 要 素 字 幕 型 拡 大 画 像 拡 大 作 図 写 真 貼 付 け 欄 弱 視 者 のための 機 能 で,タップした 箇 所 の 文 章 を 画 面 上 部 の 表 示 領 域 に 字 幕 状 に 拡 大 反 転 表 示 をする. 指 で 文 章 をなぞると, 字 幕 が 流 れて 続 きが 読 める.タッ プした 箇 所 を 読 み 上 げることもできる. 画 像 をタップすると, 画 像 上 に 付 加 された 説 明 を 非 表 示 にして 元 画 像 を 画 面 全 体 に 拡 大 表 示 する. 教 師 の 発 問 による 観 察 活 動 を 可 能 にする. 教 科 書 紙 面 上 の 図 をポップアップし, 定 規 とコンパス で 作 図 活 動 を 行 えるようにする. 矩 形 領 域 をタップするとカメラが 起 動 し, 撮 影 した 写 真 を 矩 形 領 域 に 埋 め 込 む. text 要 素 ビットマップ 画 像 :image 要 素 ベクタ 画 像 :g 要 素 [data-tool= "image"] g,line,circle,path 要 素 [< 表 2 参 照 >] rect 要 素 [data-tool="photo"] 活 動 ツールの 機 能 を 2.2 節 で 述 べたデジタル 教 科 書 制 作 における 3 つの 課 題 の 観 点 から 紹 介 する. (1) 教 科 書 紙 面 のレイアウトを 維 持 しながら, 紙 面 要 素 の 利 用 を 可 能 にする 教 科 書 紙 面 の 文 字 データ 活 かして OS が 提 供 する 機 能 を 活 用 することができる. 図 4 は 紙 面 上 の 単 語 を 選 択 し, 辞 書 機 能 を 呼 び 出 して OS 内 蔵 辞 書 を 表 示 させた 様 子 である. 選 択 した 字 句 はそのまま Web 検 索 にかけることもできる.その 他 に, 選 択 箇 所 のクリップボ ードへのコピー,OS のアクセシビリティ 機 能 の 音 声 合 成 を 利 用 した 読 み 上 げができる. 文 字 を 抽 出 利 用 する 活 動 ツールとしては, 固 定 レイアウトの 紙 面 でも 文 字 を 拡 大 して 読 図 4 紙 面 上 の 文 字 の 利 用 13

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. めるように, 画 面 上 で 触 れた 箇 所 の 文 字 を 字 幕 のように 画 面 上 部 に 拡 大 して 流 す 字 幕 型 拡 大 ツール を 開 発 した. 教 科 書 紙 面 上 の 素 材 を 抽 出 し,レイアウトを 変 更 して 表 示 することで 素 材 を 使 った 学 習 活 動 が 支 援 される. 図 5 は 紙 面 右 上 にあった 画 像 素 材 をポップアップさせて, 端 末 の 画 面 いっぱいに 表 示 させた 様 子 である.これは 紙 面 上 に 埋 め 込 まれたあらゆる 画 像 ファイルを ポップアップ 表 示 させる 共 通 機 能 の 活 動 ツールにより 実 現 されており, 素 材 画 像 個 々にイ ンタラクティブコンテンツを 埋 め 込 んで 実 現 した 機 能 ではない. 図 5 図 版 の 抽 出 による 焦 点 化 (2) 教 科 書 紙 面 に 活 動 ツールを 適 用 して 実 現 したコンテンツ 教 科 書 紙 面 上 の 図 を 使 って 作 図 などの 活 動 が 行 われる.この 図 中 に 含 まれる 要 素 を 生 か すことで 学 習 活 動 を 支 援 できる. 図 6 は 教 科 書 紙 面 上 で 中 学 校 数 学 の 作 図 問 題 に 取 り 組 ん でいる 様 子 である.これは 点 Aから 円 Oに 接 線 を 引 く 問 題 であり,ここで 図 中 の 要 素 とは, 問 題 設 定 として 与 えられた 点 A と 円 O( 円 周 と 中 心 点 ),および 学 習 者 が 書 き 込 んだ 線 ( 直 線 AO, 点 A を 中 心 とした 弧, 点 O を 中 心 とした 弧 )である. 図 6 ではコンパスが 点 O に 吸 着 されており, 点 O と 対 応 する 記 号 O の 文 字 が 赤 くハイライトされている. 14

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. 図 6 作 図 ツール (3) 外 部 アプリケーションや 自 作 教 材 との 連 携 外 部 アプリケーションに 教 科 書 紙 面 を 渡 して 活 用 させたり, 教 科 書 に 取 り 込 んだ 自 作 教 材 に 対 して 活 動 ツールが 作 図 支 援 を 行 わせたりするためには, 図 中 にどのような 要 素 があ るかを 記 述 する 方 法 を 定 めることが 必 要 である.プロトタイプの 制 作 では 作 図 活 動 の 教 材 要 素 の 記 述 の 方 法 を 定 めた. 図 6 の 状 態 の SVG を 図 7 に 表 す.この 中 には 学 習 者 の 書 き 込 んだ 弧 や 直 線 も 含 まれている.この 作 図 素 材 において 用 いられているカスタムデータ 属 性 の 一 覧 を 表 2 に 表 す. <g data-content="math-construct" data-tools="straightedge kompas"> <circle cx="80" cy="100" r="1" class="st5" data-etype="point" data-name="a"/> <text x="71" y="100" class="st6" data-etype="symbol">a</text> <circle cx="200" cy="100" r="1" class="st8" data-etype="point" data-name="org:o" /> <circle cx="200" cy="100" r="50" class="st8" data-etype="circle" data-name="o" /> <text x="201" y="100" class="st6" data-etype="symbol">o</text> <!-- 以 下 ユーザー 書 き 込 み 部 分 --> <line x1="81.3" y1="100" x2="223.7" y2="100" class="drawline" data-etype="line" data-aut="0" data-name="line:ao" /> <path d="m131.2,136.8 A63.2,63.2 0 0,0 130.4,61.4" class="drawline" data-etype="arc" data-aut="0" data-org="a"></path> <path d="m143,71.9 A63.2,63.2 0 0,0 143.3,128.6" class="drawline" data-etype="arc" data-aut="0" data-org="o"></path> </g> 図 7 作 図 問 題 における 意 味 表 現 15

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. 表 2 作 図 ツールのための 属 性 属 性 意 味 値 の 例 data-content 素 材 全 体 の g 要 素 に 設 定 し, 想 定 されている 教 材 を 示 す. 選 択 されるとポップアップし 該 当 する 活 動 ツールが 適 用 される math-construct: 数 学 の 作 図 教 材 data-use 素 材 全 体 の g 要 素 に 設 定 する, 作 図 活 動 で 使 うこ とができる 筆 記 用 具 のリスト. 複 数 の 筆 記 用 具 は 空 白 で 区 切 って 記 述 する scale: 目 盛 付 き 定 規 straightedge: 目 盛 なし 定 規 kompas:コンパス data-etype 要 素 の 意 味 symbol: 記 号 point: 点 line: 線 circle: 円 arc: 弧 data-name 要 素 の 名 称 A: 点 A( 要 素 が 点 の 場 合 ) org:o: 円 O の 中 心 ( 要 素 が 点 で O が 円 の 場 合 ) AO: 直 線 AO( 要 素 が 線 の 場 合 ) seg:bc: 線 分 BC( 要 素 が 線 の 場 合 ) data-org 弧 の 中 心 等,data-name 中 に 現 れない 基 準 A: 点 A を 中 心 とする 弧 data-aut 要 素 の 作 成 者.この 属 性 がない 場 合 は 教 科 書 自 体 の 要 素 であり, 消 すことができない. 協 働 作 業 で 作 成 された 要 素 には 作 成 者 の ID を 指 定 する 0: 教 科 書 の 所 有 者 SVG 上 では 点 O は 塗 りつぶされた 小 さい circle, 円 O( 円 周 の 弧 )は 中 空 の 大 きな circle であり, 両 方 circle 要 素 で 表 現 される.これらの 要 素 の 違 いを 明 確 に 区 別 するため data-etype 属 性 を 用 いている. 点 O は 円 O の 中 心 であり, 記 号 文 字 O とも 関 連 があ る.このことを 示 すために data-name 属 性 を 設 定 した. 4.4 制 作 技 術 による 教 科 書 の 比 較 本 提 案 のアーキテクチャの 特 徴 を 明 確 にするため,デジタル 教 科 書 の 課 題 への 対 応 度 合 いを 他 の 制 作 技 術 と 比 較 した. 既 存 の 制 作 技 術 として Adobe Flash と 画 像 化,PDF を 取 り 上 げ, 標 準 化 教 科 書 として 有 望 な EPUB に 準 拠 する 制 作 技 術 として HTML5 と 本 提 案 を 取 り 上 げた. 分 析 の 観 点 は,2 章 で 挙 げた 3 つの 課 題 を 詳 細 化 した 9 つの 要 求 機 能 とした. 結 果 を 表 3 にまとめる.なお,HTML5 の 中 には Flash や SVG を 埋 め 込 むことができる が, 違 いを 明 確 にするため HTML5 には 他 の 制 作 技 術 を 含 まないものとする. 同 様 に 画 像 によって 紙 面 全 体 を 表 現 した HTML5 は 画 像 化 に 分 類 する. 16

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. 表 3 紙 面 制 作 技 術 による 教 科 書 の 比 較 課 題 要 求 機 能 Flash 画 像 化 PDF HTML5 提 案 技 術 紙 面 レイアウト の 維 持 と 要 素 の 抽 出 の 両 立 インタラクティ ブコンテンツと 制 作 効 率 外 部 アプリケー ションや 自 作 コ ンテンツと 連 携 教 科 書 紙 面 の 再 現 性 文 字 等 の 紙 面 要 素 の 抽 出 紙 面 制 作 コスト インタラクティブ 性 制 作 修 正 効 率 ツールの 交 換 外 部 アプリの 紙 面 素 材 の 利 用 コンテンツの 自 作 拡 張 性 : 最 適 : 可 : 問 題 あり : 不 可 -: 対 応 なし 以 下,それぞれの 項 目 の 評 価 について 説 明 する. (1) 紙 面 レイアウトの 維 持 と 要 素 の 抽 出 の 両 立 教 科 書 の 高 度 なレイアウト 紙 面 を 再 現 する 能 力 については, 画 像 化 は 拡 大 時 の 画 質 低 下 や 記 憶 容 量 の 増 大 に 弱 点 がある.Flash と PDF, 提 案 技 術 はベクターグラフィックスによ り 拡 大 しても 高 品 質 を 保 てるが,PDF はフォントの 埋 め 込 みがフォント 会 社 から 許 諾 され ている 点 で 優 位 である.HTML5 ではビューアによる 標 準 対 応 の 差 異 が 問 題 となる. 文 字 等 の 紙 面 要 素 の 抽 出 については, 画 像 化 では 文 字 を 抽 出 できず,Flash は MSAA(Microsoft Active Accessibility)に 対 応 したビューアでは 可 能 であるが 一 般 的 ではない. HTML5 と 提 案 技 術 は 優 れているが,HTML5 は 図 版 中 の 文 字 は 画 像 のため 抽 出 できない 制 限 がある. 提 案 技 術 は 写 真 等 の 画 像 にも 詳 細 な 説 明 を 付 加 できる 機 能 がある.PDF は 読 み 上 げや 文 字 の 抽 出 に 対 応 しているが, 固 定 レイアウトであるため 拡 大 すると 画 面 外 にはみ 出 してしまいアクセシビリティが 低 下 する. 提 案 技 術 も 固 定 レイアウトであるが 字 幕 型 拡 大 ツール の 機 能 によりこの 問 題 を 解 決 することができる. 紙 面 制 作 コストとしては,HTML5 は 従 来 の 印 刷 用 紙 面 制 作 と 異 なるプロセスと 専 門 知 識 を 要 求 するため 負 担 が 大 きい.PDF と 画 像 化 は 印 刷 用 の DTP ソフトから 書 き 出 しできる 他, 対 応 しているアプリケーションソフトの 豊 富 さが 有 利 である.Flash と 提 案 技 術 は PDF で 制 作 した 紙 面 から 変 換 することにより PDF の 利 点 を 引 き 継 ぐことができる. 17

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. (2)インタラクティブコンテンツの 機 能 と 制 作 効 率 インタラクティブ 性 としては 機 能 的 には Flash と SVG を 用 いた 本 提 案 は 同 等 であるが, 制 作 環 境 の 利 便 性 も 含 めると Flash が 最 適 である.PDF にもインタラクティブ 機 能 は 用 意 されているが, 対 応 したビューアは Adobe 社 のものに 限 られており,ビューアを 選 択 する ことが 出 来 なくなる.HTML5 では CANVAS や CSS3 の 機 能 を 用 いることで 高 度 な 表 現 は 可 能 であるが,タッチ 判 定 や 接 触 判 定 の 機 能 が 不 足 しており 入 力 の 点 で 劣 る. コンテンツの 制 作 修 正 効 率 については, 複 数 の 教 科 書 の 素 材 に 活 動 ツールを 適 用 して 同 様 のコンテンツを 大 量 生 産 できる 点 で, 本 提 案 が 最 適 である.HTML でも 同 様 のことが できるが, 紙 面 素 材 を 別 途 データで 用 意 して 活 動 ツールに 渡 す 手 間 がかかり 不 利 である. また 紙 面 素 材 を 記 述 する 仕 様 が 別 途 必 要 となるため, 仕 様 の 統 一 が 難 しい. 教 科 書 の 素 材 と 活 動 ツールが 分 離 されている 本 提 案 では, 活 動 ツールを 交 換 することも 容 易 である.HTML では Flash や PDF では 素 材 とツールのプログラムが 一 緒 にファイルに 埋 め 込 まれているので 交 換 することは 出 来 ない. (3) 外 部 アプリケーションや 自 作 コンテンツとの 連 携 外 部 アプリケーションに 紙 面 素 材 を 受 け 渡 すことは Flash を 除 いて 可 能 であるが, 提 案 技 術 以 外 では, 画 像 を 用 いて 図 版 を 表 現 するため 文 字 や 数 値 を 渡 せず, 外 部 アプリケーシ ョンは 画 像 処 理 のアプリに 限 られる. 提 案 技 術 は SVG が XML であることを 活 かして, 多 様 なデータを 包 含 しつつ 統 一 的 な 方 法 として 渡 せることが 強 みである. 教 師 の 自 作 教 材 をデジタル 教 科 書 に 取 り 込 むことは, 各 形 式 で 出 力 するオーサリングソ フトウェアがあれば 可 能 である.EPUB 形 式 で 出 力 できるワードプロセッサも 出 て 来 てお り,それらでは HTML5 もしくは 画 像 化 が 用 いられている. 提 案 技 術 では SVG を 出 力 する グラフィックスソフトウェアに, 紙 面 要 素 に 任 意 の 属 性 を 設 定 できる 機 能 があれば, 自 作 教 材 をインタラクティブコンテンツとして 動 作 させることも 可 能 である. 進 化 するデジタル 教 科 書 の 機 能 に 対 応 する 拡 張 性 という 面 では, 拡 張 可 能 な XML によ る SVG やカスタムデータ 属 性 を 有 する HTML5 が 有 利 である.PDF はオープン 標 準 である ものの, 仕 様 が 複 雑 でサードパーティが 仕 様 を 拡 張 することは 困 難 であるため, 発 展 途 中 のデジタル 教 科 書 の 進 化 を 反 映 させることが 難 しい. 5. 議 論 本 研 究 の 目 的 は,デジタル 教 科 書 における 相 互 運 用 性 の 向 上 に 資 するアーキテクチャの 18

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. 提 案 であった.その 実 現 のために 紙 面 素 材 と 活 動 ツールを 分 離 することに 焦 点 を 当 て, 素 材 表 現 の 技 術 の 検 討, 紙 面 素 材 と 活 動 ツールや 外 部 アプリケーションとの 連 携 方 法 につい て 研 究 を 行 った. 本 研 究 では, 素 材 の 表 現 に 多 様 な 紙 面 表 現 を 正 確 なレイアウトで 統 一 的 に 表 現 できるベクターグラフィクス 標 準 の SVG を 用 いた.さらに, 素 材 から 分 離 した 活 動 ツールとの 連 携 のために, 素 材 を 構 成 する 要 素 に 意 味 情 報 の 付 加 が 必 要 と 考 え,そのた めに HTML5 のカスタムデータ 属 性 を 用 いた. 5.1 素 材 と 活 動 ツールを 分 離 することで 実 現 される 機 能 教 科 書 から 活 動 ツールを 分 離 することでどのような 機 能 が 実 現 できるか,プロトタイプ のデジタル 教 科 書 を 作 って 検 討 した.その 結 果, 次 の 3 つの 機 能 を 実 現 することができた: (1) 教 科 書 紙 面 のレイアウトを 維 持 しながら, 紙 面 要 素 の 利 用 を 可 能 にする SVG は Web 標 準 に 則 っているため OS の 組 み 込 み 機 能 によって 表 示 できる.そのため OS が 提 供 する 機 能 を 利 用 することができ,デジタル 教 科 書 側 で 作 りこまなくても 辞 書 や クリップボード, 読 み 上 げの 機 能 が 実 現 できた.OS が 提 供 する 機 能 はアプリケーション 間 で 共 通 のインターフェイスを 持 つため,ユーザーが 持 つ 端 末 内 で 操 作 性 が 統 一 できる. アクセシビリティの 機 能 が 充 実 している OS では, 特 別 支 援 機 能 を OS に 委 譲 して 教 科 書 ビューアを 単 純 化 できる. 一 方 OS の 機 能 を 利 用 する 問 題 点 としては, 提 供 される 辞 書 の 説 明 が 学 習 者 の 年 齢 に 合 っていないことがあげられ, 利 用 者 にあわせた OS のカスタマイ ズが 求 められると 考 えられる. (2) 教 科 書 紙 面 に 活 動 ツールを 適 用 して 実 現 した 学 習 コンテンツ 教 科 書 紙 面 上 のあらゆる 素 材 を 抽 出 して 拡 大 表 示 する, 汎 用 的 な 活 動 ツールを 実 装 した. 学 習 者 用 デジタル 教 科 書 では 学 習 者 それぞれが 操 作 を 行 うため, 単 純 な 紙 面 のズームでは 学 習 者 によって 見 ているところが 異 なったり, 周 囲 の 部 分 に 意 識 が 散 乱 したりという 問 題 があった.それに 対 して 素 材 を 抽 出 して 焦 点 化 することにより, 対 象 以 外 の 素 材 を 見 えな くして 学 級 全 員 の 視 点 を 統 一 した 上 での 発 問 や 観 察 活 動 が 可 能 になる.また 学 習 者 が 何 を 見 たかという 教 科 書 上 の 行 動 が 明 確 になるため,その 行 為 を 記 録 すれば 学 習 の 履 歴 として 利 用 することができる. 数 学 の 作 図 問 題 の 素 材 に 作 図 ツールを 適 用 して, 作 図 活 動 を 支 援 する 教 材 コンテンツを 構 成 した.その 際, 作 図 問 題 素 材 上 の 要 素 の 意 味 を 記 述 する 語 彙 を 定 義 した. 作 図 ツール の 仮 想 的 な 筆 記 用 具 を 要 素 に 吸 着 させることで 正 確 な 作 図 のための 支 援 が 可 能 になった. 19

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. 活 動 ツールは 素 材 上 に 設 定 した 意 味 を 自 由 に 使 うことができ, 様 々な 応 用 が 考 えられる. 例 えば, 要 素 の 名 前 を 抽 出 すれば 学 習 者 が 行 った 操 作 を 直 線 OA を 引 く 点 O を 中 心 に 弧 を 描 く というように, 文 章 に 起 こすことができる. 文 章 は 文 字 として 履 歴 に 残 した り,アクセシビリティのために 読 み 上 げに 利 用 したりできる. (3) 外 部 アプリケーションや 自 作 教 材 との 連 携 作 図 の 素 材 への 意 味 を 付 与 するカスタムデータ 属 性 は 本 研 究 の 中 で 提 案 されたもので あった. 今 後, 教 科 毎 分 野 毎 に 教 科 書 素 材 の 意 味 の 定 義 が 必 要 になると 考 えられる.ま た, 外 部 アプリケーションの 利 用 が 進 んでいくと, 他 社 の 開 発 したアプリケーションでも 素 材 を 共 通 して 利 用 できることが 求 められるようになるだろう. カスタムデータ 属 性 のような 独 自 に 仕 様 を 定 める 仕 組 みでは, 開 発 会 社 毎 に 仕 様 が 乱 立 することが 予 想 される. 業 界 主 体 で 標 準 を 決 めようとする EDUPUB のような 取 り 組 みは それに 対 応 する 一 つの 方 法 である[18].しかし 我 々は,デジタル 教 科 書 は 未 だ 発 展 途 上 で あり, 急 いで 標 準 に 収 束 させるよりは 今 は 仕 様 が 乱 立 しても よいもの を 追 究 する 時 期 であると 考 える. 仕 様 が 公 開 されていれば 他 者 がその 仕 様 に 対 応 した 活 動 ツールを 作 成 す ることや,データを 別 の 仕 様 に 変 換 することが 可 能 であり 深 刻 な 問 題 とはならない. 相 互 変 換 により 仕 様 の 差 に 対 応 し, 自 由 な 仕 様 を 許 すことが 技 術 の 発 達 に 寄 与 すると 考 える. 仕 様 が 複 数 発 生 する 場 合, 少 なくともどの 仕 様 を 使 用 しているかを 識 別 しなければなら ず,その 識 別 方 法 は 先 ず 標 準 化 しておく 必 要 がある.どの 仕 様 に 準 じた 記 述 であるかを 指 定 するものとして, 素 材 仕 様 識 別 子 の 記 述 を 提 案 する. 素 材 仕 様 識 別 子 の 記 述 例 (HTML の 場 合.HEAD 要 素 の 中 に 記 述 する) <meta name="contentspec" content="http://etext.jp/svgcontent/2013" /> (3) 識 別 子 には 仕 様 制 定 者 が 所 有 する URL を 用 いることが 薦 められる. 容 易 に 世 界 唯 一 の 識 別 子 を 用 意 することができ,その URL に 仕 様 書 を 掲 載 しておけば 仕 様 を 明 確 にできる からである.これは XML における 名 前 空 間 URI における 考 え 方 と 同 じである[19]. 5.2 制 作 技 術 による 教 科 書 の 性 格 の 比 較 SVG を 基 盤 とした 本 提 案 技 術 と 他 のデジタル 紙 面 制 作 技 術 との 間 で,これからのデジタ ル 教 科 書 の 課 題 への 対 応 状 況 を 比 較 した. 20

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. 国 際 標 準 に 則 っていることは, 利 用 する 側 の 利 点 だけでなく, 教 材 作 成 において 広 く 対 応 アプリケーションを 求 めることができる 点 でも 重 要 である. 本 研 究 では 素 材 と 活 動 ツー ルを 連 携 するために 紙 面 素 材 の 要 素 に 意 味 情 報 の 付 加 を 行 ったが,この 際 に 既 存 のオーサ リング 環 境 を 利 用 して GUI 環 境 下 で 作 業 を 行 うことができた.これは SVG を XML テキ ストとして 編 集 するのに 比 べ, 大 幅 な 制 作 作 業 の 効 率 化 が 図 れる. SVG は 印 刷 紙 面 をそのまま 利 用 することができるので, 構 造 的 文 書 として 制 作 する HTML より 容 易 に 教 材 を 作 成 できる.これは, 教 材 の 自 作 にも 役 立 ち, 教 師 がワードプロ セッサを 使 って 自 作 した 教 材 を 変 換 して SVG 化 し,デジタル 教 材 として 取 り 入 れること も 可 能 である. 紙 面 の 再 現 性 の 高 い SVG の 弱 みとしてリフローができないことがあげられる. 将 来 的 にリフロー 形 式 による 紙 面 制 作 閲 覧 技 術 が 向 上 し, 教 科 書 紙 面 もリフロー 形 式 の HTML で 制 作 されるようになることが 予 想 される.それでもインタラクティブな 図 版 として SVG の 役 割 は 重 要 である.デジタル 教 科 書 の 制 作 技 術 は, 教 科 書 の 文 書 構 造 を 表 現 する HTML と 知 識 構 造 を 時 空 的 に 表 現 する SVG の,それぞれの 特 徴 を 生 かしたハイブリッド 化 が 進 むだろう. 6.まとめ 我 々は 教 科 書 紙 面 を 構 成 する 素 材 のデータ 形 式 に SVG を 用 い,カスタムデータ 属 性 に より 素 材 内 の 要 素 の 意 味 を 記 述 することで, 素 材 から 活 動 ツールを 分 離 しつつ, 連 携 を 図 れるアーキテクチャを 開 発 した.SVG はベクターグラフィクスの 表 記 であるため, 教 科 書 紙 面 のあらゆる 要 素,および 学 習 者 が 書 き 込 んだ 線 なども 統 一 的 に 扱 うことができる 利 点 がある. 今 回 数 学 の 作 図 教 材 についての 意 味 記 述 の 仕 様 を 検 討 したが,あらゆる 教 科 領 域 の 教 科 書 素 材 を 意 味 記 述 するための 仕 様 の 開 発 が 求 められる. 開 発 した 仕 様 は 逐 次 弊 社 の Web サイト 上 で 順 次 公 開 していく 予 定 であるが, 教 材 コンテンツ 開 発 に 取 組 む 各 社 がお 互 いに 作 った 仕 様 を 公 開 することで, 仕 様 の 相 互 利 用 や 標 準 化 に 向 けた 議 論 が 活 性 化 する ことを 期 待 する. 仕 様 が 多 く 提 案 されるようになると, 将 来 何 らかの 標 準 化 の 取 り 組 みが 求 められるよう になるだろう.ただし, 現 時 点 の EDUPUB では 練 習 問 題 や 数 式 の 記 述 方 法 への 議 論 はあ るが, 作 図 活 動 のような 紙 面 上 で 学 習 活 動 が 行 われることは 想 定 されていない.それは, 2.1 節 で 述 べたように 日 本 のデジタル 教 科 書 と 世 界 のデジタル 教 科 書 の 性 格 の 違 いの 現 れ 21

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. でもある. 我 々は 教 科 書 上 で 思 考 やスキル 習 得 のできる 日 本 のデジタル 教 科 書 は 未 来 のデ ジタル 教 科 書 像 だと 考 えている.この 分 野 の 研 究 は 世 界 をリードできる 可 能 性 がある. 参 考 文 献 [1] 首 相 官 邸 : 教 育 再 生 実 行 本 部 成 長 戦 略 に 資 するグローバル 人 材 育 成 部 会 提 言, http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/dai6/siryou.html,2013 年 4 月 8 日. [2] 教 育 家 庭 新 聞 : タブレット 端 末 の 教 育 活 用 各 教 育 委 員 会 導 入 状 況 (2013/5/30 現 在 ), 教 育 マルチメディア 号,2013 年 6 月 3 日. [3] 松 原 聡, 山 口 翔, 岡 山 将 也, 池 田 敬 二 : デジタル 教 科 書 プラットフォームの 検 討 - アクセシビリティを 中 心 にー, 東 洋 大 学 経 済 論 集 38 巻 2 号,2013. [4] 教 育 家 庭 新 聞 : デジタル 教 科 書 標 準 化, 教 育 マルチメディア 号,2014 年 3 月 3 日. [5] 文 科 省 : ICT を 活 用 した 課 題 解 決 型 教 育 の 推 進 事 業, 文 部 科 学 省, 2013. http://jouhouka.mext.go.jp/problem_to_be_solved.html, 2013 年 10 月 30 日 閲 覧. [6] 原 久 太 郎, 上 原 永 護 : デジタル 教 科 書 作 成 ツールの 開 発 と 市 販 教 科 書 への 応 用, 情 報 処 理 学 会 シンポジウム 論 文 集,2006 号,pp.177-182,2006. [7] World Wide Web Consortium (W3C): Scalable Vector Graphics (SVG) 1.1 (Second Edition), W3C Recommendation,http://www.w3.org/TR/SVG/,2011 年 9 月 16 日. [8] International Digital Publishing Forum (IPDF): EPUB3, http://idpf.org/epub/30,2014 年 3 月 24 日 閲 覧. [9] 国 立 特 別 支 援 教 育 総 合 研 究 所 : デジタル 教 科 書 教 材 及 び ICT の 活 用 に 関 する 基 礎 調 査 研 究 研 究 成 果 報 告 書, 平 成 23 年 度 専 門 研 究 A( 重 点 推 進 研 究 ),C-86,pp.6-12, 2012. [10] 小 泉 力 一 : 韓 国 人 研 究 者 から 見 た 教 育 の 情 報 化 韓 国 と 日 本 学 校 の 来 し 方 行 く 末, デジタル 的 読 み 解 き, 日 経 BP 社 PC Online, 2013 年 4 月 3 日, http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130331/1085162/ [11] 柳 沼 良 知, 鈴 木 一 史, 児 玉 晴 男 : 教 科 書 の 電 子 化 の 動 向 とプロトタイプシステムの 開 発, 放 送 大 学 研 究 年 報, 第 28 号,pp. 91-98,2010. [12] Apple Inc.: アクセシビリティ,https://www.apple.com/jp/accessibility/,2014 年 3 月 24 日 閲 覧. [13]マイクロソフト: アクセシビリティホーム, 22

青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. http://www.microsoft.com/ja-jp/enable/default.aspx,2014 年 3 月 24 日 閲 覧. [14] James Governor, Dion Hinchcliffe, Duane Nickull : Web 2.0 Architectures: What entrepreneurs and information architects need to know, O Reilly Media,pp.95-98,2009. [15] 新 井 紀 子 : ほんとうにいいの?デジタル 教 科 書, 岩 波 ブックレット No. 859,2012. [16] John Allsopp: マイクロフォーマット~Web ページをより 便 利 にする 最 新 マークアッ プテクニック~, 毎 日 コミュニケーションズ,2008. [17] W3C,HTML5 A vocabulary and associated APIs for HTML and XHTML, W3C Working Draft 13 January 2011, 3.2.3.8 Embedding custom non-visible data with the data-* attributes. [18] IPDF:EDUPUB Profile, http://www.ipdf.org/epub/profiles/edu/,2014 年 3 月 24 日 閲 覧. [19] Kanzaki Masahide : XML 名 前 空 間 の 簡 単 な 説 明, The Web Kanzaki, http://www.kanzaki.com/docs/sw/names.html,2001 年 9 月 16 日 更 新. 青 木 浩 幸 宮 寺 庸 造 原 久 太 郎 (2014). デジタル 教 科 書 コンテンツにおける 紙 面 素 材 と 活 動 ツールの 分 離 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 2-23. Aoki, H., Miyadera, Y., & Hara, K. (2014). Separation of digital textbook contents into page materials and activity tools. Japanese Journal of Digital Textbook, 1, 2-23. (2013 年 10 月 31 日 受 稿 2014 年 6 月 3 日 受 理 2014 年 8 月 12 日 発 行 ) 23

小 河 智 佳 子 (2014). デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 費 用 に 関 する 一 考 察 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 24-36. < 報 告 ( 一 般 )> デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 費 用 に 関 する 一 考 察 小 河 智 佳 子 ( 東 洋 大 学 ) 概 要 デバイス コンテンツ ネットワーク 整 備 教 員 支 援 の 4 つの 観 点 から デジタル 教 科 書 の 導 入 費 用 を 試 算 した デバイスは 価 格 と 使 用 年 数 についていくつかの 選 択 肢 を 考 慮 した コンテンツは 既 存 の 教 科 書 部 分 と 教 材 部 分 に 分 けて 費 用 の 試 算 を 行 った ネット ワークは 学 校 と 家 庭 での 接 続 それぞれについて 初 期 費 用 と 年 間 費 用 を 試 算 した 教 員 支 援 については 支 援 が 必 要 な 教 員 に ICT 支 援 員 を 配 置 する 場 合 と 各 学 校 に 1 人 の 支 援 員 を 配 置 する 場 合 の 雇 用 費 用 を 計 算 した これら 4 つの 観 点 での 計 算 から 全 体 として 要 する 最 大 費 用 と 最 小 費 用 を 計 算 した 結 果 既 存 の 教 科 書 の 一 年 あたりの 費 用 をそのまま デジタル 教 科 書 費 用 に 充 てるのでは 予 算 が 足 りないことが 明 確 となった 現 状 の 紙 の 教 科 書 のように 公 費 で 賄 っていくのか 私 費 負 担 を 行 っていくのかは 今 後 検 討 すべき 課 題 の ひとつであると 考 えられる キーワード デジタル 教 科 書 教 育 の 情 報 化 導 入 費 用 1.はじめに 日 本 の 子 どもたちは 義 務 教 育 を 受 けることが 定 められており その 後 多 くが 後 期 中 等 教 育 や 高 等 教 育 への 進 学 等 を 経 て 社 会 進 出 する あらゆる 産 業 で 業 務 の 効 率 化 や 利 便 性 の 向 上 といった 観 点 からデジタル 化 が 進 んでいる 今 義 務 教 育 の 段 階 からデジタル 技 術 を 取 り 入 れた 学 びを 行 うことは 必 要 不 可 欠 である 既 に OECD の 学 習 到 達 度 調 査 (PISA) では デジタル 読 解 力 を 調 査 する 項 目 が 盛 り 込 まれているように 世 界 的 にデジタル 技 術 を 用 いて 問 題 を 解 決 することが 求 められている 例 えば 韓 国 や 台 湾 では 既 にデジタル 教 科 書 や 教 材 としてタブレット PC を 用 いた 教 育 が 行 われている 日 本 も 遅 ればせながら 自 由 民 主 党 の 教 育 再 生 実 行 本 部 が 2015 年 を 目 途 に 全 国 で 100 校 程 度 を 指 定 した 教 育 シ 24

小 河 智 佳 子 (2014). デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 費 用 に 関 する 一 考 察 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 24-36. ステムを 導 入 することを 目 標 とし 学 校 教 育 のデジタル 化 を 進 めている デジタル 教 科 書 の 導 入 が 遅 れている 理 由 はいくつかある ひとつは 文 部 科 学 省 の 検 定 を 経 たものでなければ 教 科 書 として 発 行 することができない 教 科 書 検 定 制 度 実 質 紙 でな ければならない 教 科 書 の 発 行 に 関 する 臨 時 措 置 法 すべての 子 どもたちが 一 定 の 教 育 を 受 けるために 行 われている 教 科 書 無 償 配 布 制 度 といった 制 度 的 課 題 である もうひとつは デジタル 教 科 書 とはどのような 形 態 を 指 すのか また どのようなデバイスにするのか コンテンツはどのように 提 供 するのか 学 校 だけではなく 家 庭 でも 使 えるようにするのか といった 技 術 的 課 題 である 本 論 文 では 後 者 の 技 術 的 課 題 に 焦 点 をあて 特 にデバイスとコンテンツにかかる 費 用 やネットワーク 整 備 の 費 用 負 担 等 を 計 算 し デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 費 用 を 考 察 する 筆 者 の 考 えるデジタル 教 科 書 とは 単 に 検 定 教 科 書 を PDF 化 した 形 式 ではなく 動 画 ドリル リンク 等 従 来 は 別 の 媒 体 で 教 材 として 提 供 されてきた 素 材 を ひとつのデバイ スに 統 合 したものである デジタル 教 科 書 を 教 育 で 利 用 するためには デバイス コンテ ンツ ネットワーク 教 育 担 当 者 ( 教 員 )の 要 素 をそれぞれ 準 備 する 必 要 がある 例 えば どの 程 度 の 性 能 を 持 つデバイスを 何 年 単 位 で 更 新 するかといったように 選 択 する 規 模 や 機 能 によって 費 用 は 大 幅 に 異 なることが 予 想 できる そこで これらの 要 素 について 複 数 の 可 能 性 を 想 定 し 最 大 費 用 と 最 小 費 用 を 見 積 ることとする 2. 導 入 費 用 の 現 状 と 課 題 既 に 導 入 費 用 に 関 しては デジタル 教 科 書 教 材 に 関 する 課 題 整 理 実 証 実 験 普 及 啓 発 政 策 提 言 等 を 進 めているデジタル 教 科 書 教 材 協 議 会 (DiTT)にて 試 算 が 行 われてい る 本 章 では DiTT の 試 算 を 分 析 し 導 入 に 向 けて 必 要 な 費 用 項 目 をまとめる 2-1.デジタル 教 科 書 教 材 協 議 会 (DiTT)の 試 算 DiTT では 2015 年 にすべての 小 中 学 生 に 導 入 することを 踏 まえた 費 用 試 算 1 を 行 って いる 前 提 として 既 存 の 紙 の 教 科 書 とデジタル 教 科 書 を 併 用 することを 想 定 している デバイスは 3 年 毎 に 新 しい 端 末 と 交 換 とする 2015 年 度 に 配 布 した 以 降 は 毎 年 小 学 校 1 年 生 4 年 生 中 学 校 1 年 生 の 3 学 年 にて 新 デバイスと 交 換 を 行 う 初 年 度 である 2015 年 では 総 額 4,680 億 円 と 試 算 している 内 訳 は 教 科 書 用 デバイ スの 整 備 に 2,100 億 円 既 存 の 紙 の 教 科 書 からの 移 行 費 用 で 580 億 円 である また 教 育 25

小 河 智 佳 子 (2014). デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 費 用 に 関 する 一 考 察 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 24-36. クラウド 整 備 ネットワーク 公 務 支 援 システム ICT 支 援 員 ICT 活 用 指 導 力 向 上 等 の 費 用 として 2,000 億 円 を 想 定 している さらに 次 年 度 である 2016 年 以 降 は 新 たに 必 要 なデバイスが 3 学 年 分 になるため 2,100 億 円 の 三 分 の 一 である 700 億 円 がデバイス 費 用 と 見 込 まれており 合 計 で 3,250 億 円 と 試 算 している これらの 費 用 の 負 担 は 誰 が 行 うのか DiTT では デバイスを 無 償 配 布 することを デ ジタル 教 科 書 法 案 2 に 盛 り 込 んでいる これは すべての 児 童 生 徒 がデジタル 教 科 書 で 教 育 を 受 けられることを 保 障 するためである 同 法 案 第 四 条 責 務 の 項 目 においても 国 と 地 方 公 共 団 体 が デジタル 教 科 書 の 普 及 促 進 のために 必 要 な 措 置 を 講 じるよう 記 載 して おり ICT 活 用 指 導 力 向 上 等 の 費 用 として 想 定 している 2,000 億 円 は デジタル 教 科 書 導 入 に 向 けた 教 科 用 図 書 予 算 の 増 額 と 教 育 の 情 報 化 対 策 に 関 する 地 方 財 政 措 置 にて 賄 うこ とを 考 えている このことから DiTT は 少 なくともデバイスの 費 用 に 関 しては 公 費 で の 負 担 を 想 定 していることがわかる 2-2. 費 用 に 関 する 課 題 デジタル 教 科 書 を 導 入 するために 必 要 なものの 一 つ 目 がデバイスである DiTT の 試 算 によると 一 人 あたり 約 2 万 円 3 のデバイスを 導 入 することを 見 込 んでいるが タブレッ ト 型 PC には 性 能 や 機 能 に 応 じて 様 々な 価 格 のものが 存 在 する ドリルや 動 画 要 素 を 扱 えるものにするのか とりあえず 導 入 するために 電 子 書 籍 のような 機 能 に 制 限 はあるが 安 価 なものにするのか といったことを 検 討 する 必 要 がある また コンテンツに 関 しては 既 存 の 紙 の 教 科 書 に 記 載 されている 内 容 以 外 にも 教 材 要 素 の 部 分 はどれくらい 費 用 がか かるのか 検 定 を 行 わない 自 由 競 争 の 分 野 に 公 費 を 使 うのか 否 かといったことも 重 要 な 課 題 である さらに ネットワークは 普 通 教 室 で 使 用 できることはもちろん 家 庭 にデ バイスを 持 ち 帰 り 予 習 や 復 習 を 行 えるようにするのか 否 かが 大 きな 課 題 である これら は 児 童 生 徒 側 から 見 た 課 題 であるが デジタル 教 科 書 を 用 いた 授 業 を 提 供 する 教 員 にも 慣 れるまでに 支 援 が 必 要 であることが 考 えられる 次 章 では 規 模 毎 に 導 入 費 用 を 試 算 し 必 要 な 費 用 を 細 かく 分 析 していく 3. 各 項 目 における 試 算 本 章 では デバイス コンテンツ ネットワーク 教 員 (ICT 支 援 員 )の 4 つの 観 点 か ら デジタル 教 科 書 導 入 にかかる 費 用 を 試 算 する デバイスは 価 格 や 使 用 年 数 によって 26

小 河 智 佳 子 (2014). デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 費 用 に 関 する 一 考 察 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 24-36. 分 類 をし コンテンツは 従 来 の 教 科 書 部 分 と 教 材 部 分 に 分 けて 考 える また ネットワ ークは 学 校 だけではなく 家 庭 でも 学 習 を 行 えることを 踏 まえ 教 員 は ICT 支 援 員 を 配 置 する 場 合 を 考 え 必 要 な 費 用 を 試 算 する 3-1.デバイス デバイスとは デジタル 教 科 書 のハードウェアのことを 指 す 政 府 の 実 証 実 験 等 におい ては タブレット PC 型 を 導 入 することを 想 定 したものが 多 い 小 中 学 校 の 児 童 生 徒 一 人 一 人 に 一 台 のデバイスを 提 供 するということは 小 学 校 6 年 間 と 中 学 校 3 年 間 の 合 計 9 年 間 分 が 必 要 になる 2015 年 に 全 ての 小 中 学 生 にタブレット 型 PC を 配 付 すること 4 を 踏 ま えると デバイスの 費 用 はどれくらいになるのだろうか 10 年 間 で 必 要 な 費 用 を 試 算 する はじめに 2015 年 以 降 の 小 中 学 生 の 人 口 を 把 握 する 2015 年 時 点 の 小 中 学 生 の 人 口 は 約 1,008 万 人 5 である また 2010 年 の 出 生 者 数 は 約 107 万 人 2011 年 では 約 105 万 人 2012 年 では 約 103 万 人 と 直 近 3 年 では 毎 年 2 万 人 ずつ 減 少 していることから 2013 年 以 降 の 各 年 の 出 生 者 数 を 前 年 より 2 万 人 ずつ 減 らした 人 数 と 想 定 する 次 に デバイスの 価 格 について 考 える 平 均 的 な PC(ノートブック 型 およびタブレット 型 )の 生 産 価 格 は 2013 年 10 月 現 在 では 約 83,000 円 6 である また 昨 今 発 売 されてい る 代 表 的 なタブレット 型 PC である Apple 社 の ipad の 価 格 は 最 も 安 価 な ipad mini で 31,800 円 7 である 電 子 書 籍 に 特 化 したデバイスでは Amazon 社 の Kindle Paperwhite があり 9,980 円 8 である デバイスは 性 能 や 機 能 容 量 大 きさといった 観 点 から 価 格 に 変 動 があるが 本 論 文 では 安 価 なタイプとして 1 万 円 標 準 的 なタイプとして 3 万 円 高 価 なタイプとして 8 万 円 の 3 タイプを 想 定 して 試 算 する 費 用 試 算 では デバイスの 更 新 年 数 も 考 える 必 要 がある 現 在 のようなタブレット PC が 発 売 されたのは 2010 年 頃 であるため PC と 携 帯 電 話 の 平 均 使 用 年 数 9 を 基 にすると PC は 5.8 年 携 帯 電 話 は 3.4 年 である これよりも 長 い 期 間 たとえば 小 学 校 1 年 次 に 配 布 してから 中 学 校 を 卒 業 するまでの 9 年 間 一 台 のデバイスを 使 用 し 続 けることも 想 定 する このことから 3 年 6 年 9 年 の 3 タイプを 想 定 する これらを 踏 まえ デバイス 導 入 にかかる 費 用 を 算 出 した 表 1 は デバイスを 3 年 毎 に 導 入 する 場 合 の 試 算 結 果 である 初 年 度 である 2015 年 は 全 9 学 年 が 導 入 対 象 であるため 1,008 万 人 に 配 布 することになる そのため 1 万 円 のデバイスを 導 入 すると 1,008 億 円 かかることがわかる 2016 年 および 2017 年 は それぞれ 小 学 校 1 年 生 のみであるため 1 27

小 河 智 佳 子 (2014). デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 費 用 に 関 する 一 考 察 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 24-36. 学 年 分 の 107~856 億 円 2018 年 は 小 学 校 1 年 生 に 加 えて 初 年 度 に 導 入 した 小 学 校 4 年 生 以 上 の 6 学 年 を 合 わせて 7 学 年 分 になるため 761~6,088 億 円 となる さらに 2019 年 と 2020 年 は 小 学 校 1 年 生 および 4 年 生 の 208~1,680 億 円 2021 年 には 小 学 校 1 年 生 4 年 生 中 学 校 1~3 年 生 の 5 学 年 分 の 531~4,248 億 円 と 変 則 的 な 導 入 となる し かし 8 年 目 である 2022 年 以 降 は 当 初 想 定 していた 小 学 校 1 年 生 4 年 生 中 学 校 1 年 生 の 3 学 年 での 導 入 及 び 交 換 となり 297~2,456 億 円 となることがわかる 表 1 3 年 毎 にデバイスを 導 入 する 場 合 に 必 要 となる 費 用 年 度 1 年 2 年 小 学 校 3 4 年 年 5 年 6 年 中 学 校 1 2 3 年 年 年 必 要 な 学 年 数 児 童 生 徒 数 ( 万 人 ) 費 用 ( 億 円 ) 1 万 円 3 万 円 8 万 円 / 1 台 / 1 台 / 1 台 2015 9 1,008 1,008 3,024 8,064 2016 1 107 107 321 856 2017 1 107 107 321 856 2018 7 761 761 2,283 6,088 2019 2 210 210 630 1,680 2020 2 208 208 624 1,664 2021 5 531 531 1,593 4,248 2022 3 307 307 921 2,456 2023 3 303 303 909 2,424 2024 3 297 297 891 2,376 注 : 印 は 該 当 の 学 年 でデバイスを 配 布 することを 意 味 する * 筆 者 作 成 同 様 に 6 年 毎 に 導 入 する 場 合 を 試 算 する 初 年 度 は 3 年 毎 と 同 様 に 9 学 年 分 が 必 要 と なるが 2 年 目 から 6 年 目 まではそれぞれ 小 学 校 1 年 生 のみであるため 費 用 は 107~856 億 円 となる 7 年 目 は 小 学 校 1 年 生 に 加 えて 中 学 校 1~3 年 生 の 交 換 が 必 要 になること から 4 学 年 分 で 合 計 425~3,400 億 円 となる 8 年 目 以 降 は 小 学 校 1 年 生 と 中 学 校 1 年 生 の 2 学 年 分 であるため 200~1,660 億 円 程 度 となる 28

小 河 智 佳 子 (2014). デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 費 用 に 関 する 一 考 察 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 24-36. 9 年 毎 に 導 入 する 場 合 は 初 年 度 は 9 学 年 分 が 必 要 となり 2 年 目 以 降 は 小 学 校 1 年 生 のみの 配 付 となるため 2 年 目 では 107~8,560 億 円 年 数 を 追 うごとに 人 数 が 減 るため 10 年 目 では 93~744 億 円 となることが 想 定 される 3-2.コンテンツ コンテンツとは デジタル 教 科 書 の 内 容 であるソフトウェアの 部 分 を 指 す はじめに 従 来 の 紙 の 教 科 書 部 分 に 対 応 するコンテンツの 作 成 に 要 する 費 用 の 試 算 を 行 う 児 童 生 徒 一 人 あたりの 従 来 の 紙 の 教 科 書 費 用 は 小 学 校 では 平 均 3,299 円 中 学 校 で は 平 均 4,773 円 であり 2006 年 以 降 ほとんど 変 わっていない この 費 用 は 教 科 書 を 作 成 し 発 行 するまでの 過 程 を 合 計 した 数 値 になる 出 版 に 必 要 な 費 用 は 組 版 や 加 工 デザイ ンといった 編 集 費 用 と 印 刷 や 製 本 用 紙 といった 印 刷 費 用 がある 教 科 書 内 容 をデジタ ル 化 するには 印 刷 費 用 が 不 要 である 一 般 的 に 流 通 費 用 約 30~40% 印 刷 費 用 約 30% 編 集 費 用 は 約 20%~30% 印 税 が 約 10%であること 10 から 編 集 費 用 が 20%と 30%の 場 合 それぞれについて 2015 年 度 の 導 入 初 年 度 ( 小 学 生 約 657 万 人 中 学 生 約 351 万 人 の 合 計 約 1,008 万 人 )を 想 定 して コンテンツ 作 成 費 用 を 試 算 する 編 集 費 用 が 20%の 場 合 印 税 率 10%を 加 えることでかかる 費 用 は 30%になるため 一 人 当 たりの 編 集 費 用 は 小 学 校 では 約 990 円 中 学 校 では 約 1,432 円 になる 一 人 当 たり の 費 用 に 人 数 を 掛 けることで 合 計 費 用 を 算 出 する 小 学 校 で 約 65 億 円 中 学 校 で 約 50 億 円 となり 合 わせて 約 115 億 円 になる 同 様 の 方 法 で 編 集 費 用 が 30%の 場 合 を 算 出 する 一 人 当 たりの 費 用 は 小 学 校 では 約 1320 円 中 学 校 では 約 1,909 円 になる 全 体 では 小 学 校 で 約 87 億 円 中 学 校 で 約 67 億 円 となり 合 わせて 約 154 億 円 になる 次 に 教 材 部 分 の 試 算 を 行 う 学 校 毎 の 一 年 あたりの 平 均 教 材 費 用 11 は 公 立 小 学 校 で は 1,929 円 私 立 小 学 校 では 5,375 円 である また 公 立 中 学 校 では 5,981 円 私 立 中 学 校 では 12,745 円 となっている 2010 年 時 点 での 在 学 者 数 12 は 公 立 小 学 校 は 98.9% 私 立 小 学 校 は 1.1% 公 立 中 学 校 は 92.8% 私 立 中 学 校 では 7.2%の 割 合 である 先 述 した 編 集 費 用 の 試 算 方 法 と 同 様 に 編 集 費 用 が 20%と 30%の 2 タイプで 教 材 部 分 に 要 する 費 用 を 算 出 する 2010 年 時 点 での 在 学 者 数 を 費 用 試 算 に 用 いるのは 教 材 費 用 が 公 立 学 校 と 私 立 学 校 で 異 なるためである 編 集 費 用 が 20%の 場 合 公 立 私 立 の 小 中 学 校 で 合 わせて 約 110 億 円 と 計 算 することができる また 編 集 費 用 が 30%の 場 合 は 約 147 億 29

小 河 智 佳 子 (2014). デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 費 用 に 関 する 一 考 察 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 24-36. 円 である 3-3.ネットワーク ネットワークは デバイスをインターネットに 接 続 するために 必 要 である 家 庭 でもデ バイスを 用 いた 学 習 を 行 うことを 考 えると 学 校 と 家 庭 の 両 方 で 要 する 費 用 を 考 える 必 要 がある また 初 期 費 用 ( 工 事 等 の 費 用 )と 年 間 費 用 の 両 方 を 考 えていく 学 校 における 初 期 費 用 は 普 通 教 室 における 校 内 LAN 整 備 率 13 を 考 慮 する 必 要 がある 2012 年 3 月 時 点 では 83.6%であるが タブレット PC をインターネット 接 続 する 際 に 必 要 な 無 線 LAN を 整 備 している 教 室 は 23.7%と 非 常 に 少 ない 状 況 である 全 国 の 学 級 数 14 は 2012 年 時 点 で 小 学 校 は 約 24 万 学 級 中 学 校 は 約 12 万 学 級 であることから 現 段 階 でデジタル 教 科 書 を 導 入 してオンラインで 学 べる 学 級 数 は 約 36 万 学 級 のうち 約 8.5 万 学 級 と 試 算 できる デジタル 教 科 書 の 特 性 を 活 かして リアルタイムでインターネットに 接 続 できる 環 境 を 整 備 する 場 合 無 線 LAN 環 境 が 必 要 である 全 国 の 学 校 数 は 2012 年 時 点 で 小 学 校 は 2.1 万 校 中 学 校 は 1 万 校 であることから 小 中 学 校 の 一 校 あたりの 平 均 学 級 数 を 計 算 すると どちらも 約 11 学 級 になる これらのことから 初 期 費 用 15 として ハブや 無 線 LAN アクセスポイント 認 証 ゲー トウェイ 工 事 等 の 費 用 を 換 算 すると 1 校 あたり 約 240 万 円 と 計 算 でき 小 学 校 は 約 504 億 円 中 学 校 は 約 240 億 円 になる 合 計 すると 初 期 費 用 は 約 744 億 円 と 試 算 すること ができる また 年 間 費 用 は 約 40 億 円 となる 家 庭 における 費 用 を 考 える 上 では インターネット 普 及 率 を 考 慮 する 必 要 がある 2012 年 末 時 点 のインターネット 人 口 普 及 率 16 は 79.1%である 既 に インターネットを 利 用 し ている 家 庭 においては 新 たに 環 境 を 整 備 する 必 要 はなく 課 題 は インターネットを 利 用 できない 環 境 下 の 20.9%の 家 庭 の 子 どもたちである 2009 年 時 点 での 日 本 の 全 世 帯 数 17 は 約 5,200 万 世 帯 であり インターネットを 利 用 できない 家 庭 は 約 198 万 世 帯 であ ることが 算 出 できる これらの 家 庭 にインターネット 環 境 を 整 えるために 要 する 初 期 費 用 18 は 回 線 の 工 事 等 で 1 家 庭 当 たり 平 均 約 32,000 円 かかることから 約 640 億 円 である また 1 家 庭 の 月 額 平 均 料 金 19 は 4,350 円 である よって 年 間 費 用 は 約 86 億 円 と 試 算 できる 30

小 河 智 佳 子 (2014). デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 費 用 に 関 する 一 考 察 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 24-36. 3-4. 教 員 (ICT 支 援 員 ) 文 部 科 学 省 は 学 校 のデジタル 化 を 進 めていくに 伴 い 学 校 に 外 部 の ICT 専 門 の 人 材 で ある ICT 支 援 員 を 配 置 する 必 要 性 があると 考 えている デジタル 教 科 書 を 導 入 するにあた り どれくらいの 人 数 の ICT 支 援 員 が 必 要 であるのかを 試 算 する 2012 年 度 における 教 員 の ICT 活 用 指 導 力 の 状 況 20 を 踏 まえる これは 教 員 の ICT 活 用 指 導 力 の 基 準 (チェックリスト) 21 を 基 に 調 査 している この 調 査 において わり にできる もしくは ややできる と 回 答 した 教 員 数 は 全 体 の 平 均 値 22 を 算 出 すると 小 学 校 では 74.1% 中 学 校 では 67.5%であった したがって およそ 3 人 に 1 人 の 割 合 で ICT の 活 用 や 指 導 において 支 援 が 必 要 であると 考 えられる 2012 年 時 点 での 教 員 数 23 は 小 学 校 教 員 が 約 42 万 人 中 学 校 教 員 が 約 25 万 人 である 支 援 が 必 要 な 教 員 に 支 援 員 を 配 置 すると 考 えると 全 教 員 の 三 分 の 一 にあたる 人 数 として 約 22.3 万 人 の ICT 支 援 員 が 必 要 になることが 計 算 できる 必 要 な 支 援 員 の 数 を 学 校 数 から 算 出 することも 考 えられる 各 学 校 に 専 属 の ICT 支 援 員 を 配 置 する 2012 年 時 点 での 学 校 数 は 小 学 校 が 約 2.1 万 校 中 学 校 が 約 1 万 校 であ ることから 必 要 人 数 は 約 3.1 万 人 と 計 算 できる 総 務 省 では 地 域 雇 用 創 造 ICT 絆 プロジェクトにおいて 地 域 雇 用 の 創 出 のために ICT 支 援 員 を 雇 用 することを 実 施 しているが 本 プロジェクトでの 雇 用 単 価 は 約 185 万 円 24 である この 金 額 を 基 に 試 算 すると 支 援 が 必 要 な 教 員 に ICT 支 援 員 を 配 置 する 場 合 は 約 4125 億 円 が 各 学 校 に 1 人 配 置 する 場 合 は 約 573 億 円 が 必 要 になることがわかる 3-5. 合 計 費 用 第 3-1 節 から 第 3-4 節 までの 試 算 を 基 に 合 計 でかかる 最 大 費 用 と 最 小 費 用 を 表 2 にま とめた 最 大 費 用 は 14,000 億 円 である これは 8 万 円 のデバイスを 3 年 間 で 交 換 し コンテ ンツは 従 来 の 紙 の 教 科 書 と 教 材 をデジタル 化 し 編 集 費 用 が 30%のケースである また 学 校 でも 家 庭 でもデバイスを 用 いて 学 べる 環 境 を 整 備 し ICT の 活 用 が 得 意 ではない 教 員 に 対 して 1 対 1 で 支 援 員 がサポートする 構 成 である 最 小 費 用 は 2,480 億 円 である これは 1 万 円 のデバイスを 9 年 間 使 用 し 続 け コンテ ンツは 従 来 の 紙 の 教 科 書 をデジタル 化 し 編 集 費 用 が 20%のケースである また 学 校 環 境 のみでの 使 用 もしくは 家 庭 でインターネット 接 続 環 境 がある 児 童 生 徒 のみが 自 宅 でデ 31

小 河 智 佳 子 (2014). デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 費 用 に 関 する 一 考 察 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 24-36. バイスを 用 いて 学 べる 環 境 である 学 校 1 校 につき 1 名 の ICT 支 援 員 がサポートする 表 2 デジタル 教 科 書 の 最 大 費 用 と 最 小 費 用 デバイス コンテンツ ネットワー ク ICT 支 援 員 合 計 最 大 費 用 8,064 301 1,510 4,125 14,000 最 小 費 用 1,008 115 784 573 2,480 ( 単 位 : 億 円 ) * 筆 者 作 成 4. 国 内 先 行 事 例 による 考 察 既 存 の 紙 の 教 科 書 は 国 費 で 賄 われている 第 3 節 にて デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 試 算 を 行 ったが 最 小 費 用 を 採 用 するとしても 紙 の 教 科 書 費 用 よりも 高 い 予 算 が 必 要 であ る 本 節 では 国 の 予 算 ではなく 自 治 体 の 予 算 や 自 己 負 担 によって 国 内 ではいち 早 く 導 入 を 試 みている 事 例 を 紹 介 する 東 京 都 荒 川 区 では 2013 年 度 に 小 学 校 3 校 でモデル 事 業 を 始 め 運 用 方 法 を 検 証 して いる モデル 事 業 の 予 算 案 では デジタル 教 科 書 導 入 費 用 として 約 5,000 万 円 を 計 上 し ている 荒 川 区 立 の 小 学 校 は 24 校 で 児 童 数 は 約 8,000 人 中 学 校 は 10 校 で 約 3,000 人 の 生 徒 数 である 予 備 も 含 め 約 12,000 台 を 導 入 する 見 通 しであり 端 末 や 教 材 ソフトは 企 業 からリースする 見 込 みである 全 体 の 導 入 費 用 は 4 億 5,688 万 円 を 見 込 んでいる こ の 予 算 は 適 正 であるのか 否 か 本 論 文 での 最 大 費 用 と 最 小 費 用 の 試 算 方 法 を 荒 川 区 に 適 用 した 表 3 荒 川 区 を 想 定 したデジタル 教 科 書 の 最 大 費 用 と 最 小 費 用 デバイス コンテンツ ネットワー ク ICT 支 援 員 合 計 最 大 費 用 960 30 193 690 1,873 最 小 費 用 120 12 81 63 276 ( 単 位 : 百 万 円 ) * 筆 者 作 成 32

小 河 智 佳 子 (2014). デジタル 教 科 書 導 入 に 必 要 な 費 用 に 関 する 一 考 察 デジタル 教 科 書 研 究, 1, 24-36. 荒 川 区 での 最 大 費 用 と 最 小 費 用 を 算 出 した 結 果 25 が 表 3 である 最 大 費 用 は 約 18 億 7,300 万 円 最 小 費 用 は 約 2 億 7,600 万 円 となった このことから 荒 川 区 の 予 算 は 最 小 費 用 に 近 い 適 正 な 見 積 もりであることがわかる 導 入 負 担 は 誰 がするのかが 課 題 のひと つであるが 荒 川 区 においては 区 の 予 算 内 にて 賄 うことが 可 能 である 一 方 で 高 等 学 校 の 事 例 ではあるが 佐 賀 県 では 2014 年 度 から 全 県 立 高 校 の 新 1 年 生 ( 約 6,800 人 )が Windows 8 搭 載 のタブレット PC を 一 律 5 万 円 で 自 己 負 担 により 購 入 することが 決 定 している 詳 細 は 2013 年 10 月 現 在 引 き 続 き 検 討 中 ではあるが デジ タル 教 科 書 導 入 を 全 て 公 費 で 賄 うのではなく デバイス 費 用 部 分 を 私 費 で 賄 う 公 費 で 賄 えない 部 分 は 私 費 で 負 担 し 他 の 都 道 府 県 よりも 早 めの 導 入 を 実 現 させようとしている 5.まとめ 本 論 文 では デジタル 教 科 書 導 入 にかかる 費 用 で 必 要 な 項 目 である デバイス コンテ ンツ ネットワーク 教 員 支 援 (ICT 支 援 員 )に 要 する 費 用 から 全 体 での 最 大 費 用 と 最 小 費 用 を 試 算 した 最 小 費 用 を 考 えても 現 状 の 予 算 ではデジタル 教 科 書 の 導 入 は 不 可 能 であることを 示 した 既 存 の 紙 の 教 科 書 は 一 年 あたり 412 億 円 26 の 費 用 がかかって いる この 費 用 をそのままデジタル 教 科 書 費 用 に 充 てるのでは 予 算 が 足 りないことは 明 確 である 最 小 費 用 を 採 用 したとしても 児 童 生 徒 は 9 年 間 同 じデバイスを 使 用 し 続 けるため 新 しい 形 態 のコンテンツに 対 応 できなくなる 可 能 性 は 高 い デジタル 技 術 の 特 性 を 活 かし たオンラインでの 学 習 や 自 宅 での 学 習 も 不 可 能 であるため 多 くの 課 題 が 残 る また 教 員 は 個 々のデジタル 技 術 の 利 活 用 力 を 高 める 必 要 がある 荒 川 区 の 事 例 を 検 証 した 結 果 導 入 を 公 費 で 賄 っていることがわかった しかし 公 費 で 賄 いきれない 場 合 は 自 己 負 担 によって 先 進 的 に 導 入 する 事 例 が 出 始 めていることか らも 既 存 の 紙 の 教 科 書 以 上 に 費 用 がかかるデジタル 教 科 書 を 導 入 するには 私 費 負 担 も 視 野 に 入 れて 検 討 することも 考 えられる 現 状 の 紙 の 教 科 書 のように 公 費 で 賄 っていくの か 私 費 負 担 を 行 っていくのかは 今 後 検 討 すべき 課 題 のひとつである 参 考 URL 荒 川 区, 平 成 25 年 度 荒 川 区 予 算 案 の 概 要, http://www.city.arakawa.tokyo.jp/kus 33