[ 11 C]AcL703 (4-Acetoxy-7-chloro-3-[3-(4-[ 11 C]methoxybenzyl) phenyl-2(1h)-quinolone) (1) 構 造 に 関 して 4-Acetoxy-7-chloro-3-[3-(4-[ 11 C]methoxybenzyl)phenyl]-2(1H)-quinolone( 以 下 [ 11 C]AcL703 と 略 す)は 脳 内 興 奮 性 グルタミン 酸 受 容 体 のサブタイプである NMDA 型 受 容 体 のグリシン 結 合 部 位 に 結 合 する PET トレーサーである [ 11 C]L-703,717 の 脳 移 行 性 を 改 善 し たプロトレーサーであり 下 記 の 化 学 構 造 を 有 している OR O 11 CH 3 Cl N H O R=COCH 3 : [ 11 C]AcL703 R=H: [ 11 C]L-703,717 - 図 1- (2) 起 源 または 発 見 の 経 緯 に 関 して NMDA 受 容 体 は 記 憶 や 学 習 などの 脳 高 次 機 能 の 発 現 や 脳 虚 血 などによって 引 き 起 こされ る 神 経 障 害 さらには 精 神 分 裂 病 などの 精 神 神 経 疾 患 などの 発 症 に 深 く 関 わっていることから 本 受 容 体 に 対 する PET トレーサーの 開 発 が 強 く 望 まれている しかしながら 多 くの 試 みにも 関 わらず 現 在 に 至 るまで NMDA 受 容 体 選 択 的 なトレーサーは 開 発 されていない 我 々は メルク 社 の 開 発 した NMDA 型 受 容 体 上 にあるグリシン 結 合 部 位 に 高 親 和 性 かつ 選 択 性 を 持 つ L-703,717( 図 1 R=H)に 着 目 し その 炭 素 -11 標 識 体 を 合 成 し 動 物 実 験 により 脳 内 NMDA 受 容 体 画 像 化 の 可 能 性 を 評 価 したところ 本 標 識 薬 剤 は NMDA 型 受 容 体 のなか でも 小 脳 に 限 局 して 発 現 している NR2C (GluRε3)サブユニットで 構 成 される 受 容 体 にのみ 結 合 する 新 規 な PET トレーサーであることを 発 見 した しかしながら 非 常 に 脳 移 行 性 が 悪 く 現 状 では 明 瞭 な 画 像 が 得 られないことも 判 明 した 但 し 本 標 識 薬 剤 はその 脳 移 行 性 を 改 善 する 事 ができれば 有 用 なイメージング 剤 となり 得 る そこで L-703,717 が 有 する 生 理 的 条 件 下 でイオン 化 する 水 酸 基 を 適 切 な 保 護 基 で 保 護 し てやれば イオン 化 が 抑 制 され 脳 移 行 性 が 改 善 されるとの 仮 説 の 基 に 4 位 の 水 酸 基 をアセ チル 基 で 保 護 した 化 合 物 である[ 11 C]AcL703 を 開 発 した さらに 本 薬 剤 は 脳 内 で 活 性 な [ 11 C]L-703,717 に 速 やかに 代 謝 変 換 を 受 けることを 期 待 した すなわち[ 11 C]AcL703 は [ 11 C]L-703,717 の 脳 移 行 性 を 改 善 したプロトレーサーとして 開 発 したものである 1
(3) 外 国 における 使 用 状 況 について [ 11 C]L-703,717 についてラットの 実 験 例 が1 例 あるが [ 11 C]AcL703 については 使 用 例 なし (4) 特 性 および 他 の 医 薬 品 との 比 較 検 討 [ 11 C]L-703,717 は 脳 内 で 小 脳 に 限 局 して 発 現 している NR2C(GluRε3)サブユニットで 構 成 される NMDA 型 受 容 体 (NR1/NR2C)にのみ 優 先 的 に 結 合 することを 既 に 証 明 している さら にこの 結 合 特 性 はインビボ 条 件 下 でのみ 発 現 されることから 内 在 性 アゴニストであるグリシン や D-セリンとの 相 互 作 用 が 小 脳 集 積 性 を 規 定 していることも 証 明 した すなわち [ 11 C]AcL703 は 脳 内 移 行 後 [ 11 C]L-703,717 への 変 換 を 受 けた 後 内 在 性 アゴニストが 少 ない 小 脳 においてサブユニット 選 択 的 な 結 合 特 性 を 示 す PET トレーサーである( 図 2) これまで 開 発 されてきた NMDA 受 容 体 の PET トレーサーは いずれも 1) 脳 移 行 性 の 欠 除 2) 脳 内 特 異 結 合 の 欠 除 の 2 点 において 有 効 性 を 示 せなかった 本 トレーサーは 脳 移 行 性 の 改 善 に 加 え 生 体 脳 での 特 異 結 合 が 認 められた 最 初 の 薬 剤 である さらに これまで 薬 剤 の インビボ 特 異 的 なサブユニット 選 択 性 を 示 した 例 はなく 医 薬 品 開 発 上 においても 非 常 に 興 味 深 い 薬 剤 である - 図 2- (5) 有 効 性 に 関 して 1) マウス ラットにおける 脳 移 行 性 脳 内 変 換 と 脳 内 分 布 ならびにヒトプラズマ 中 での 安 定 性 [ 11 C]ACL703 の 脳 移 行 性 をマウスにおいて 評 価 したところ 約 2 倍 に 脳 移 行 性 が 改 善 された ることが 判 明 した( 図 3) [ 11 C]L-703,717 は 血 中 アルブミンと 強 固 に 結 合 すること この 結 合 は 血 液 凝 固 阻 害 剤 であるワルファリンで 阻 害 され 脳 移 行 性 が 上 昇 することが 既 に 報 告 されて いる 図 3 に 示 したごとく [ 11 C]AcL703 はワルファリン(50 mg/kg) 同 時 投 与 による [ 11 C]L-703,717 の 脳 移 行 性 上 昇 と 同 等 の 脳 移 行 性 を 示 した 2
図 3 ddy マウスにおける 脳 移 行 性 A: [ 11 C]AcL703 尾 静 注 1 分 後 の 脳 内 放 射 能 B: [ 11 C]L-703,717 尾 静 注 1 分 後 の 脳 内 放 射 能 C: ワルファリン(50 mg/kg) 同 時 投 与 1 分 後 の [ 11 C]L-703,717 の 脳 内 放 射 能 活 性 な[ 11 C]L-703,717 への 変 換 をインビトロ( 図 4) インビボ( 図 5) 両 条 件 下 で 検 討 したとこ ろ [ 11 C]ACL703 はラット 尾 静 脈 投 与 後 速 やかに[ 11 C]L-703,717 に 変 換 されており また [ 11 C]L-703,717 以 外 の 代 謝 物 は 認 められなかった さらに ラット 尾 静 脈 投 与 20 分 後 の 摘 出 脳 オートラジオグラフィーでは [ 11 C]L-703,717 と 同 様 に 高 い 小 脳 集 積 が 認 められ この 集 積 は 多 量 の L-703,717 の 同 時 投 与 により 阻 害 を 受 けた( 図 6) また [ 11 C]AcL703 のプラズマ 中 半 減 期 は 図 7 のごとく ラット<<ヒト<サルの 順 に 長 く 代 謝 物 はいずれの 場 合 も 98% 以 上 が[ 11 C]L-703,717 であった ヒトの 場 合 末 梢 から 投 与 された トレーサーが 脳 に 到 達 するまでに 20-30 秒 を 要 するとされおり 今 回 得 られたヒトプラズマ 中 の 半 減 期 (24.3 秒 35.6 秒 )とほぼ 同 程 度 である 従 って [ 11 C]AcL703 の 約 半 分 が 未 変 化 体 と して 脳 に 到 達 できることが 推 測 され ヒトで 利 用 する 場 合 にも[ 11 C]AcL703 の 血 中 安 定 性 は 保 たれているものと 考 えられる 以 上 の 結 果 より [ 11 C]AcL703 は[ 11 C]L-703,717 のプロトレーサーとしての 有 効 性 が 示 され た 3
図 4:ラット 脳 ホモジネート 中 での[ 11 C]AcL703 の 代 謝 [ 11 C]AcL703 in 66mM phosphate buffer [ 11 C]L703,717 in homogenate/buffer (1/10) [ 11 C]AcL-703 in homogenate/buffer (1/10) 図 5:[ 11 C]ACL703 尾 静 注 5 分 後 のラット 脳 内 代 謝 物 (MeOH 抽 出 液 )のラジオ TLC 解 析 a: [ 11 C]L-703,717 b: [ 11 C]AcL703 図 6:トレーサー 尾 静 注 20 分 後 のラット 脳 オートラジオグラフィー 画 像 A: [ 11 C]L-703,717 + warfarin (50 mg/kg); B: [ 11 C]AcL703 のみ C: [ 11 C]AcL703 + L-703,717 (1 mg/kg) + warfarin (60 mg/kg) % total radioactivity 100 80 60 40 20 Human-1 Human-2 Monkey Rat T 1/2 = 24.3 s T 1/2 = 35.6 s T 1/2 = 76.3 s T 1/2 = 0.8 s 0 0 60 120 180 240 300 360 420 Time (sec) 図 7:[ 11 C]AcL703 のプラズマ 中 半 減 期 4
2) サル PET での 前 臨 床 評 価 覚 醒 サルを 用 いた PET 実 験 では [ 11 C]L-703,717 に 比 して 2 倍 の 脳 内 移 行 後 放 射 能 は 経 時 的 な 減 少 を 示 した しかしながら 小 脳 においては 約 20 分 以 降 放 射 能 の 滞 留 が 認 められ 本 トレーサーの 小 脳 特 異 的 な 集 積 がサルにおいても 確 認 された [ 11 C]AcL703 小 脳 皮 質 [ 11 C]L-703,717 小 脳 皮 質 以 上 の 結 果 より 今 回 開 発 した PET トレーサーは 生 体 において 小 脳 の NMDA 受 容 体 (NR1/NR2C サブタイプ)のイメージングを 可 能 とする 世 界 初 の 標 識 薬 剤 となる 可 能 性 が 高 い 特 に 小 脳 は 運 動 機 能 の 学 習 において 非 常 に 重 要 な 機 関 であることからも 小 脳 NMDA 受 容 体 の 画 像 化 に 興 味 が 持 たれる またインビボ 条 件 下 でのみ 引 き 起 こされる 小 脳 特 異 性 は NMDA 受 容 体 の 脳 内 局 所 での 機 能 発 現 の 多 様 性 を 考 えると 非 常 に 興 味 深 い 発 見 であり 本 標 識 薬 剤 はインビボ NMDA 受 容 体 の 活 性 調 節 作 用 の 解 明 にも 何 らかの 示 唆 を 与 えてくれる ことが 期 待 される 参 考 文 献 1) Rowley M., Kulagowski J. J., Watt A. P., Rathbone D., Stevenson G. I., Carling R. W., Baker R., Marshall G. R., Kemp J. A., Foster A. C., Grimwood S., Hargreaves R., Hurley C., Saywell K. L., Tricklebank M. D., and Leeson P. D. Effect of plasma protein binding on in vivo activity and brain penetration of glycine/nmda receptor antagonists. J. Med. Chem. 40: 4053-4068 (1997). 2) Opacka-Juffery J., Morris H., Ashworth S., Osman S., Hirani E., Macleod A. M., Luthra S. K., and Hume S. P. Preliminary evaluation of the glycine site antagonists [ 11 C]L-703,717 and [ 3 H]MDL105,519 as putative PET ligands for central NMDA receptors: In vivo studies in rats. Quant. Func. Brain Imaging with PET. 299-303 (1998). 5
3) Haradahira T. and Suzuki K. An Improved Synthesis of [ 11 C]L-703,717 as a Radioligand for the Glycine Site of the NMDA Receptor. Nucl. Med. Biol., 26: 245-247 (1999) 4) T. Haradahira, M.-R. Zhang, J. Maeda, T. Okauchi, K. Kawabe, K. Kida, K. Suzuki, T. Suhara. A Strategy for Increasing the Brain Uptake of a Radioligand in Animals: Use of a Drug That Inhibits Plasma Protein Binding. Nucl. Med. Biol., 27: 357-360 (2000) 5) T.Haradahira, M.-R. Zhang, J. Maeda, T. Okauchi, T. Kida, K. Kawabe, K. Suzukia and T. Suhara. A Prodrug of NMDA/Glycine Site Antagonist, L-703,717, For Improved BBB Permeability: 4-Acetoxy Derivative and Its Positron-Emitter Labeled Analog. Chem. Pharm. Bull., 49: 147-150 (2001) 6) T. Haradahira, T. Okauchi, J. Maeda, M.-R. Zhang, T. Kida, K. Kawabe, M. Mishina, Y. Watanabe, K. Suzuki, T. Suhara. A positron emitter labeled glycine B site antagonist, [ 11 C]L-703,717 preferentially binds to a cerebellar NMDA receptor subtype consisting of GluRε3 subunit in vivo, but not in vitro. Synapse, 43: 131-133 (2002) 7) T. Haradahira, T. Okauchi, J. Maeda, M.-R. Zhang, T. Nishikawa, R. Konno, K. Suzuki, and T. Suhara. Effects of Endogenous Agonists, Glycine and D-Serine, on In Vivo Specific Binding of [ 11 C]L-703,717, a PET Radioligand for the Glycine-Binding Site of NMDA Receptors. Synapse, 50: 130-136 (2003). 6