瀬 戸 内 沿 岸 部 におけるブドウ 安 芸 クイーン の 着 色 向 上 技 術 の 開 発 広 島 県 立 総 合 技 術 研 究 所 農 業 技 術 センター 果 樹 研 究 部 山 根 崇 嘉 はじめに ブドウ 安 芸 クイーン の 特 徴 近 年 は 種 なしに 対 する 需 要 が 高 まっており ジベレリン 処 理 によって 容 易 に 種 なし 果 実 を 生 産 できる ピオーネ の 栽 培 面 積 が 増 加 している 25 年 の 果 樹 統 計 ( 日 本 園 芸 農 業 組 合 連 合 会 )によれば 東 京 横 浜 大 阪 名 古 屋 の いわゆる 4 大 市 場 における ピオ ーネ の 販 売 数 量 は 1996 年 の 2,67 t から 25 年 の 5,5 t へ この 1 年 間 で 倍 増 して いる しかし 単 一 品 種 の 生 産 量 のみが 増 加 することに 伴 う 価 格 低 下 の 懸 念 や 特 色 ある 品 種 に 対 する 高 値 販 売 への 期 待 から 一 部 の 地 域 では オリンピア 紅 伊 豆 紅 瑞 宝 竜 宝 などの 4 倍 体 の 赤 色 系 品 種 の 栽 培 が 試 みられてきた しかし これらの 品 種 は 裂 果 が 多 発 しやすいことや 柔 らかすぎる 肉 質 といった 問 題 点 があり 栽 培 面 積 はわずかで あった 今 回 紹 介 する 安 芸 クイーン は 巨 峰 の 自 家 受 粉 により 農 林 水 産 省 果 樹 試 験 場 ( 現 在 は 独 立 行 政 法 人 農 業 食 品 産 業 技 術 総 合 研 究 機 構 果 樹 研 究 所 )で 育 成 された 品 種 (1991 年 に 登 録 )で 紅 伊 豆 紅 瑞 宝 竜 宝 よりも 果 粒 が 大 きく 肉 質 が 優 れ オリンピア よりも 裂 果 が 少 ない 赤 色 の 優 良 品 種 である また 安 芸 クイーン は 高 糖 度 で 豊 かな 香 りを 持 っており 食 味 調 査 では ピオーネ よりも 高 い 評 価 を 得 ている しかし 着 着 色 良 好 果 着 色 不 良 果 色 不 良 の 発 生 という 赤 色 系 品 種 共 通 の 問 題 点 を 抱 え 写 真 1 安 芸 クイーン の 着 色 の 様 子 ている( 写 真 1) 着 色 は 品 質 の 証 ブドウの 着 色 不 良 は 古 くからの 問 題 であり 今 回 取 り 上 げる 安 芸 クイーン だけでな く デラウェア 巨 峰 ピオーネ などでも 大 きな 問 題 である 着 色 は 温 度 の 影 響 を 受 け 高 温 地 域 で 着 色 不 良 となりやすいことは 古 くから 知 られている 一 方 着 色 は 低 温 であれば 必 ず 良 好 で 高 温 であれば 必 ず 不 良 というわけではなく 着 色 には 温 度 の 他 に 着 果 量 や 窒 素 光 などが 関 係 する これらの 要 因 は 着 色 だけでなく 糖 度 にも 影 響 を 及 ぼ し 着 果 過 多 や 窒 素 過 多 日 射 不 足 は 着 色 だけでなく 糖 度 や 香 りを 低 下 させる 高 橋 (1987) は 198 年 代 当 時 巨 峰 の 人 気 が 高 い 理 由 の 一 つとして 着 色 と 品 質 が 関 連 しているた め 消 費 者 の 信 頼 を 勝 ち 得 たのではないかと 述 べている 現 在 においても ブドウは 着 色 の 良 否 により 等 級 が 変 わり 価 格 が 大 きく 異 なる 安 芸 クイーン は 特 に 等 級 ( 着 色 )に よる 価 格 差 が 顕 著 であるが このことは 消 費 者 が 見 た 目 の 良 いものを 求 めているだけで
はなく 美 味 しいものを 求 めていることを 示 している 着 色 のよいブドウを 作 ることは 外 観 食 味 共 に 高 品 質 なブドウを 作 ることであり 産 地 の 発 展 にとって 最 も 重 要 な 課 題 の 一 つである 成 果 技 術 等 の 概 要 について 気 温 と 着 色 との 関 係 瀬 戸 内 沿 岸 部 の 高 温 地 域 におい て 安 芸 クイーン の 着 色 を 向 上 させることを 目 的 に 研 究 を 行 った まず 温 度 と 着 色 との 関 係 を 調 査 し た 結 果 着 色 開 始 後 8~21 日 目 の 気 温 が 安 芸 クイーン の 着 色 にとっ て 重 要 であり この 時 期 に 夜 温 が 25 以 下 に 低 下 する 時 間 が 長 いほ ど 着 色 が 良 好 となることが 明 らか となった( 図 1,Yamane ら 26; Yamane Shibayama 26b; 山 根 ら 27) 瀬 戸 内 沿 岸 部 では 着 色 開 始 後 8~21 日 目 が 7 月 下 旬 から 8 月 上 旬 の 1 年 で 最 も 暑 い 時 期 と 重 なり 着 色 不 良 を 招 いていた しか し 圃 場 の 気 温 を 下 げる 有 効 な 手 段 はない このような 地 域 では 逆 に 生 育 初 期 に 保 温 し 熟 期 を 最 低 3 週 間 前 進 させることにより 比 較 的 涼 しい 時 期 に 着 色 させることが 有 効 であ る 環 状 剥 皮 による 着 色 改 善 高 温 条 件 でも 着 色 を 促 進 させる 技 術 として 環 状 剥 皮 に 注 目 し 研 究 を 行 った 環 状 剥 皮 は 着 色 を 向 上 させるこ とが 古 くから 知 られているが 単 に 環 状 剥 皮 を 行 うだけでは 効 果 は 小 さく 温 暖 地 ブドウの 着 色 向 上 には 不 十 分 で ある また 環 状 剥 皮 は 根 の 伸 長 を 停 止 させることから 樹 を 衰 弱 させるこ とが 懸 念 されている 本 研 究 では 温 暖 地 ブドウの 着 色 を 向 上 させる 技 術 と して 環 状 剥 皮 と 着 果 負 担 の 軽 減 を 組 カラーチャート 値 3. 2.5 2. 1.5 1. 対 照 区.5 低 温 区 着 色 開 始 後 8~21 日 高 温 区 1 2 3 5 7 1 2 3 5 7 1 2 3 5 7 1 2 3 5 7 処 理 後 日 数 図 1 時 期 別 の 温 度 処 理 が 果 皮 の 着 色 に 及 ぼす 影 響 (Yamane Shibayama, 26b) アントシアニン 含 量 (mg / g FW) 着 果 量 無 処 理 剥 皮 無 処 理 剥 皮 2.5t / 1 a 1.3t/ 1 a み 合 わせた 処 理 について 着 色 向 上 効 果 根 の 伸 長 および 翌 年 の 生 育 に 及 ぼす 影 響 につい て 検 討 を 行 い 効 果 が 大 きく 樹 を 衰 弱 させない 環 状 剥 皮 処 理 方 法 を 検 討 した 図 2に 着.4.3.2.1 図 2 着 果 量 の 異 なる 樹 における 環 状 剥 皮 処 理 がブドウ 安 芸 クイーン の 果 皮 のアントシアニン 含 量 に 及 ぼ す 影 響 (Yamane Shibayama, 26a) ( 縦 線 は 標 準 誤 差 (n = 5))
果 量 の 軽 減 と 環 状 剥 皮 を 組 み 合 わせた 場 合 の 着 色 向 上 効 果 ( 色 素 :アントシアニン 含 量 )を 示 す 環 状 剥 皮 のみ または 着 果 量 の 減 少 のみでは 着 色 改 善 効 果 は 小 さい が 着 果 量 を 減 らした 上 で 環 状 剥 皮 を 組 み 合 わせることで 大 きな 効 果 を 出 すことが できた この 理 由 として 環 状 剥 皮 は 葉 で つくられた 養 分 が 根 へ 移 行 することを 遮 ることから 着 果 量 を 減 らすことにより 葉 でつくられた 養 分 が 果 実 へ 多 く 蓄 積 し たことが 原 因 と 考 えられた 実 際 に 環 状 剥 皮 により 着 色 が 向 上 した 果 実 では 糖 度 が 大 きく 向 上 していた また 環 状 剥 皮 処 理 は 着 果 量 の 多 少 にかかわらず 新 根 の 発 生 を 約 2 週 間 停 止 させたが 剥 皮 部 がゆ 合 した 後 の 着 果 量 が 少 ない 場 合 には 根 が 旺 盛 に 伸 長 し 7 月 末 には 無 処 理 樹 と 同 等 になった( 図 3) なお 翌 年 の 生 育 は すべての 処 理 区 間 に 差 がなかった 以 上 のことから 着 果 量 を 軽 減 し 環 状 剥 皮 を 行 えば 効 果 が 大 きいだけでなく 根 の 伸 長 を 減 少 させないことが 明 らか となった 実 験 では 着 果 量 を 半 分 に 減 らしたが 実 際 にはそれほど 着 果 量 を 減 らす 必 要 は ない 写 真 2に 高 温 条 件 の 現 地 で 環 状 剥 皮 を 行 った 状 況 を 示 す この 園 地 では 着 果 量 を 89%または 73%とした 上 で 環 状 剥 皮 を 行 えば 良 好 な 着 色 を 得 ることが できた 最 適 な 着 果 量 は 栽 培 方 法 により 大 きく 異 なるが 1a あたり 1.2~2.5t の 範 囲 にあると 思 われ 収 量 と 単 価 の 関 係 環 状 剥 皮 処 理 (6/23) 6/2 6/16 6/3 7/14 7/28 8/11 8/25 月 / 日 図 3 着 果 量 の 異 なる 樹 における 環 状 剥 皮 処 理 が ブドウ 安 芸 クイーン の 根 の 伸 長 に 及 ぼす 影 響 (Yamane Shibayama,26a) から 粗 収 入 が 最 大 となる 点 を 探 す 必 要 がある 実 験 を 行 った 現 地 の 着 色 別 の 収 量 と 単 価 を 掛 けて 粗 収 入 を 計 算 した 結 果 収 量 を 73%として 環 状 剥 皮 した 結 果 粗 収 入 が 最 も 多 く なった 着 色 良 好 果 と 多 収 の 両 方 を 目 指 す 場 合 は 葉 を 健 全 に 保 つこと 開 花 期 以 降 に 窒 素 が 効 かないような 土 壌 管 理 をすること 果 粒 を 大 きくしすぎないように 注 意 することな 1 どが 重 要 で 樹 体 および 園 地 の 生 産 能 力 を 向 上 させることが 高 品 質 多 収 につながる 累 積 新 根 発 生 量 (cm) 8 6 4 2 2.5t 無 処 理 2.5t 剥 皮 1.3t 無 処 理 1.3t 剥 皮 着 果 調 節 (6/6) 収 穫 (8/1) 糖 度 19.3 度 糖 度 19.1 度 糖 度 18.1 度 着 果 量 73% 89% 1% 剥 皮 あり 剥 皮 なし 写 真 2 着 果 量 の 軽 減 と 環 状 剥 皮 の 効 果 樹 を 衰 弱 させない 剥 皮 法
剥 皮 部 のゆ 合 が 不 良 であると 樹 が 衰 弱 することが 環 状 剥 皮 の 問 題 点 である 剥 皮 部 の ゆ 合 不 良 に 関 与 する 要 因 として 剥 皮 幅 剥 皮 時 期 および 剥 皮 方 法 が 考 えられる 剥 皮 幅 については これまで 我 が 国 では 主 幹 に 2 cm 幅 で 処 理 されていた( 藤 島 ら 25; 大 井 上 193; 山 本 ら 1992) 我 々が 結 果 枝 を 用 いて 剥 皮 幅 の 検 討 をしたところ カルスは 1 週 間 で 約 2 mm 肥 大 し 3 ~ 2 mm 幅 では 剥 皮 幅 が 狭 いほど 剥 皮 部 がゆ 合 するまでの 期 間 が 短 くなったが このとき 剥 皮 幅 は 着 色 向 上 効 果 に 大 きな 影 響 を 及 ぼさなかった( 図 4, 山 根 柴 山 27) 環 状 剥 皮 の 適 期 は 幅 にかかわらず 満 開 後 3~35 日 目 であった この ことから 幅 は 狭 い 方 がゆ 合 が 良 好 であり 主 幹 に 処 理 する 場 合 5mm 程 度 の 幅 で 十 分 に 効 果 が 発 揮 されることが 明 らかとなった( 山 根 ら 27) また 剥 皮 処 理 する 場 合 は 形 成 層 を 含 む 薄 皮 状 の 師 部 組 織 を 完 全 に 除 去 する 必 要 があるが 剥 皮 部 をビニルテープで 被 覆 することにより 露 出 した 木 部 から 直 接 カルスが 発 生 し ゆ 合 が 促 進 された( 山 根 ら 印 刷 中 ) これらの 結 果 から 図 5のように 剥 皮 処 理 方 法 をマニュアル 化 した この 方 法 に 従 い 環 状 剥 皮 を 行 えば ゆ 合 不 良 が 発 生 することはなく 樹 を 衰 弱 させることはないと 考 えられる 今 後 の 問 題 点 また 環 状 剥 皮 は 着 色 とともに 糖 度 を 上 昇 させるが 酸 含 量 は 処 理 しない 樹 と 変 わらな いので 環 状 剥 皮 したブドウを 無 処 理 樹 と 同 等 の 着 色 程 度 に 達 した 時 点 で 早 くから 収 穫 すると 酸 含 量 が 高 いものとなる 広 島 県 では 戦 前 キャンベル アーリー に 環 状 剥 皮 を 処 理 していたが 盆 前 に 収 穫 することを 目 的 としたものであり 結 果 として 酸 っぱい ブドウ となり 消 費 者 の 人 気 を 失 った 経 緯 がある 安 芸 クイーン は 酸 含 量 が キャン ベル アーリー ほど 高 い 品 種 ではないが 環 状 剥 皮 した 場 合 には 酸 含 量 の 低 下 を 待 っ アントシアニン 含 量 (mg/g skin FW).3.2.1 35 42 49 56 63 35 42 49 56 63 35 42 49 56 63 35 42 49 56 63 3mm 5mm 1mm 2mm 無 処 理 剥 皮 時 期 ( 満 開 後 日 数 ) 剥 皮 幅 図 4 剥 皮 時 期 および 剥 皮 幅 がブドウ 安 芸 クイーン の 果 皮 のアントシアニン 含 量 に 及 ぼす 影 響 ( 山 根 柴 山,27) てから 収 穫 することを 心 がけ 早 穫 りしないよう 注 意 する 必 要 がある なお 温 暖 地 にお ける 安 芸 クイーン の 収 穫 の 目 安 は 着 色 開 始 後 4 日 程 度 である
環 状 剥 皮 の 手 順 1. 処 理 時 期 は 満 開 後 3~35 日,この 時 期 は 着 色 が 始 まる2 週 間 前 にあたる 適 期 を 逃 すと 効 果 が 劣 る 2. 剥 皮 処 理 は 主 幹 ( 処 理 位 置 の 高 さは 効 果 に 関 係 ない)に 幅 5mmでおこなう 広 い 幅 でも 効 果 は 変 わらず,ゆ 合 不 良 が 発 生 することがある 3. 剥 皮 は 内 側 の 薄 皮 ( 師 部 組 織 )もきれいに 取 る 薄 皮 が 少 しでも 残 ると 効 果 は 大 きく 劣 る 薄 皮 は 時 間 が 経 つと 褐 変 するので 確 認 できる 4. 剥 皮 部 の 木 片 のなどのごみはきれいに 取 り 除 く 5. 剥 皮 部 は 幅 の 広 いビニールテープなどで 保 護 する 6. 約 1ヶ 月 たったらテープを 取 る (テープがあるとコウモリガ 等 の 食 害 を 受 けやすい) 注 意 点 着 果 過 多 の 樹 に 剥 皮 処 理 を 行 っても 効 果 はほとんどない 樹 勢 の 弱 い 樹 はゆ 合 が 劣 るので, 新 梢 長 7cm 未 満, 新 梢 径 7mm( 鉛 筆 大 ) 未 満 の 樹 には 処 理 を 行 わない 剥 皮 後 は 極 端 な 乾 燥 を 避 け,かん 水 を 適 宜 行 う 必 要 がある コウモリガ クビアカスカシバの 食 害 に 注 意 すること( 特 に 山 間 部 ) 木 部 を 深 く 傷 つけると 樹 液 がでる 図 4 環 状 剥 皮 マニュアル 引 用 文 献 藤 島 宏 之 ら. 25. 園 学 研. 4: 313-318. 大 井 上 康. 193. 葡 萄 之 研 究. p. 55-557. 高 橋 国 昭. 1987. 農 および 園. 62: 446-452. 山 本 孝 司 ら. 1992. 近 畿 中 国 農 研. 83: 38-42. Yamane, T.ら 26. Amer. J. Enol. Viticult. 57: 54-59. Yamane, T. and K. Shibayama. 26a. J. Japan. Soc. Hort. Sci. 75: 439-444. Yamane, T. and K. Shibayama. 26b. J. Japan. Soc. Hort. Sci. 75: 458-462. 山 根 崇 嘉 柴 山 勝 利. 27. 園 学 研. 6: 233-239. 山 根 崇 嘉 ら. 27. 園 学 研. 6: 441-447. 山 根 崇 嘉 ら. 園 学 研. 印 刷 中.