「失敗学のすすめ」  畑村 洋太郎  講談社

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ていることから それに 先 行 する 形 で 下 請 業 者 についても 対 策 を 講 じることとしまし た 本 県 としましては それまでの 間 に 未 加 入 の 建 設 業 者 に 加 入 していただきますよう 28 年 4 月 から 実 施 することとしました 問 6 公 共 工 事 の

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Transcription:

失 敗 学 のすすめ 畑 村 洋 太 郎 講 談 社 なぜ 致 命 的 な 失 敗 が 統 くのか JR 西 日 本 のトンネルのコンクリート 剥 落 事 故 JCO の 臨 界 事 故 地 下 鉄 日 比 谷 線 の 脱 線 事 故 雪 印 の 食 中 毒 事 件 増 える 一 方 の 医 擦 ミス これらの 事 故 に 対 し いずれのケースも 日 常 的 な 失 敗 とのつき 合 い 方 そのものに 問 題 があり いわば 失 敗 と うまくつき 合 うことができなかったことが 原 因 の 事 故 だと 私 自 身 は 考 えています 人 の 心 は 意 外 に 弱 いものです 強 い 負 のイメージがつきまとう 失 敗 を 前 にすると 誰 しもつい 恥 ずかしいから 直 視 できない できれば 人 に 知 られたくない などと 考 えがちです 失 敗 に 対 するこうした 見 方 は 残 念 ながら いまでは 日 木 中 のありとあらゆる 場 面 で 見 受 けられます 実 際 負 のイメージでしか 語 られない 失 敗 は 情 報 として 伝 達 されるときにどうしても 小 さく 扱 われがちで 効 率 や 利 益 と 失 敗 しないための 対 策 を 秤 にかけると 前 者 が 重 くなるのはよくあることです 人 は 聞 きた くないもの は 聞 こえにくい し 見 たくないもの は 見 えなくなる ものです しかし 失 敗 を 隠 すことによって 起 きるのは 次 の 失 敗 さらに 大 きな 失 敗 という よつ 大 きなマイナスの 結 果 でしかありません 失 敗 から 目 を 背 けるあまり 結 果 として まさか という 致 命 的 な 事 故 がくリ 返 し 起 こっている のだとすれば 失 敗 に 対 するこの 見 方 そのものを 変 えていく 必 要 があります 失 敗 学 における 失 敗 とは 人 間 が 関 わって 行 うひとつの 行 為 が はじめに 定 めた 目 的 を 達 成 できないこと を 失 敗 と 呼 ぶことにします 別 の 表 現 を 使 えば 人 間 が 関 わってひとつの 行 為 を 行 ったとき 望 ましくない 予 期 せぬ 結 果 が 生 じること とすることもできます 失 敗 の 必 要 性 必 要 な 失 敗 をあえて 経 験 させながら 子 ども 自 身 が 学 び 取 るようにしてはじめて 子 どもの 判 断 能 力 は 増 加 す るものです たとえば ナイフは 危 ないから 気 をつけろといっているうちに いまでは 学 校 でも 家 でもナイフを 子 どもたちが 使 う 機 会 はほとんどなくなりました その 結 果 子 どもたちは たしかにナイフを 使 って 手 を 切 ることはなくなり 安 全 を 手 に 入 れましたが 一 方 ではナイフで 手 を 切 るという 小 さな 失 敗 をする 経 験 を 奪 われたともいえるのです おそらくナイフで 手 を 切 るという 痛 い 経 験 をしていない 子 どもは ナイフが 実 際 どれくらい 危 険 なものか きち んと 理 解 できないまま 成 長 することになります 小 さな 失 敗 を 不 用 意 に 避 けることは 将 来 起 こりうる 大 きな 失 敗 の 準 備 をしていることだ ということを もっと 私 たちは 知 るべきなのです 三 大 事 故 ワシントン 州 タコマの 吊 橋 ; 完 成 から 4 ヶ 月 で 崩 壊 原 因 は 横 風 による 自 励 振 動 イギリスのコメット 機 (ジェット); 就 航 2 年 後 に 相 次 いで2 機 が 空 中 分 解 原 因 は 金 属 疲 労 金 属 疲 労 のメカニズム; 高 空 では 機 体 の 内 外 の 圧 力 差 が 激 しく 地 上 とは 比 較 にならない 荷 重 が 飛 行 機 の 胴 体 に 加 わります デハビランド 社 では この 圧 力 差 を 考 慮 した 疲 労 実 験 を 実 施 して 一 応 は 問 題 なしと 判 断 して いましたが その 途 中 耐 圧 試 験 をはさんで 行 っていたため 機 体 を 圧 縮 したことで 亀 裂 発 生 が 抑 制 され 実 際 の 十 倍 以 上 に 寿 命 を 見 積 もるミスを 犯 してしまったのです 私 たちが 針 金 を 切 断 するとき ペンチを 使 わずとも 繰 り 返 し 曲 げることでこれを 切 ることができますが これ がまさに 金 属 疲 労 による 疲 労 破 壊 の 原 理 です 金 属 疲 労 には 不 思 議 な 性 質 があり たとえば 十 の 力 をあたえ れば 百 万 回 の 動 きに 耐 えられるものの 二 十 の 力 では 百 回 しか 持 たないというように 加 える 力 によって 大 きな 差 が 生 じます 機 械 が 壊 れるのは たいていの 場 合 疲 労 破 壊 が 原 因 で そのことは 当 時 からある 程 度 わかっていました ところが コメット 機 のケースでは 使 用 時 の 状 態 と 異 なる 条 件 で 耐 久 実 験 を 行 うというミスを 犯 していたために 金 属 疲 労 の 寿 命 の 計 算 を 誤 り 結 果 的 に 事 故 を 繰 り 返 すことになってしまったわけです この 事 故 から 私 たちは 品 質 確 認 試 験 は 実 際 の 使 用 状 態 にできるだけ 近 づけて 実 施 する 必 要 性 を 学 びまし た 第 二 次 大 戦 中 アメリカはリバティー 船 と 呼 ばれる 約 一 万 トン 程 度 の 輸 送 船 を 大 量 に 製 造 しました これらの 船 は 就 航 問 もない 一 九 四 二 年 から 一 九 四 六 年 にかけて 次 から 次 へと 不 可 思 議 な 破 壊 事 故 を 起 こします 具 体 的 には 船 体 がなんらかの 形 で 破 壊 されたのは 全 体 の 四 分 の 一 に 相 当 する 約 千 二 百 隻 にのぼりました そのうちの 二 百 三 十 隻 は 破 壊 によって 沈 没 もしくは 使 用 不 能 の 状 態 に 陥 り 中 には 船 体 が 前 後 真 っ 二 つに なってしまうような 極 端 なケースもありました 事 故 は 北 洋 で しかも 寒 冷 期 に 数 多 く 発 生 していました

そこで 大 規 模 な 調 査 研 究 を 行 って 原 因 を 究 明 したところ 物 理 的 な 問 題 としては 溶 接 の 欠 陥 低 温 脆 性 な どがあげられ このうち 特 に 温 度 が 低 くなると 金 属 そのものがもろくなる 低 温 脆 性 が 主 原 因 であると 判 断 されま した また この 船 は 鋼 板 を 溶 接 で 接 含 したため 従 来 のリベット 継 ぎ 手 とはちがって 亀 裂 の 進 行 をリベット 用 にあけた 穴 の 部 分 で 阻 止 することもできないことがわかったのです 私 たちが 鉄 でできている と 考 えているもののほとんどは じつは 鉄 と 炭 素 の 合 金 である 鋼 (はがね)を 使 っ てつくられています 鋼 は 強 度 が 高 いことで 知 られていますが 外 部 から 力 を 加 えられた 際 には 金 属 が 伸 び 縮 みすることでこの 力 を 逃 がし 強 度 を 保 っているわけです ところが この 伸 縮 性 は 摂 氏 零 度 にまで 温 度 が 下 がると 完 全 に 失 われてしまいます この 状 態 で 鋼 に 大 きな 力 を 加 えると 力 を 逃 がすことができずにポッキ リと 折 れてしまうようになり これを 低 温 脆 性 と 呼 んでいます 痛 い 目 にあって 生 きる 教 訓 ある 学 生 がフッ 酸 (フッ 化 水 素 酸 )に 素 手 で 触 って 負 傷 したのは アルミニウムを 使 った 凝 固 実 験 がきっかけで した フッ 酸 によってきれいにエッチングした 結 晶 組 織 を 観 察 しようとしたところ フッ 酸 に 関 する 知 識 がなく 軽 々に 扱 ったため この 学 生 は 激 痛 に 苦 しむことになったのです フッ 酸 には 皮 膚 に 直 接 触 れた 場 合 外 傷 を 残 さずに 皮 膚 に 浸 透 し 骨 を 直 接 溶 かす 作 用 があります た いへん 恐 ろしい 薬 品 で ある 企 業 のアドバイスを 得 てその 三 年 前 から 同 じ 実 験 を 学 内 で 行 うようになったときに は 薬 品 手 袋 を 二 枚 重 ねて 慎 重 に 扱 っていました ところが こうした 注 意 点 は 新 しい 学 生 がやってきて 人 から 人 へと 伝 えられていく 中 で 徐 々に 風 化 し フッ 酸 の 怖 さも 伝 わらずに いつの 間 にか 素 手 で 扱 うようになっていました 表 面 的 な 知 識 は 伝 わりづらいというこ とのひとつの 典 型 例 です さて フッ 酸 による 負 傷 時 の 治 療 法 に 詳 しい 大 学 病 院 のドクターに 診 てもらった 学 生 は 指 を 切 り 落 とすか 指 先 の 爪 の 問 からカルシウム 注 射 を 続 けるかの 二 者 択 一 を 迫 られました 指 を 切 り 落 とすなど 誰 しも 避 けたい ところですが 爪 の 間 に 針 を 刺 すなど 拷 問 のようなものですから 彼 はその 場 で 真 っ 青 になっていました そ れでもなんとか 我 慢 しながらこの 治 療 を 受 け 二 ヵ 月 後 には 完 治 しました この 失 敗 談 を 学 生 たちにすると まるで 自 分 が 爪 の 先 に 針 を 刺 されたような 苦 痛 の 表 情 を 浮 かべます 痛 みを ともなうものは たとえ 他 人 の 体 験 であっても 心 に 響 くようで 以 後 薬 品 をぞんざいに 扱 う 学 生 はいなくなりま した 設 計 における 失 敗 原 因 の 分 類

上 の 図 は 五 十 三 ページにあった 失 敗 原 因 の 階 層 図 を 別 の 角 度 から 見 たものです 図 では 設 計 における 失 敗 の 原 因 となっていますが 世 の 中 のあらゆる 失 敗 の 原 囚 も 基 本 的 には 同 じです 失 敗 の 原 因 を 分 類 すると 次 の 十 の 項 目 に 大 別 することができます ここで 十 番 目 の 未 知 を 除 けば 番 号 が 大 きくなるにつれてより 高 度 な 判 断 ミスで 社 長 など 組 織 のリーダーが 起 こす 失 敗 の 原 因 だと 見 ることもできま す 1 無 知 失 敗 の 予 防 策 や 解 決 法 が 世 の 中 にすでに 知 られているにもかかわらず 本 人 の 不 勉 強 によって 起 こす 失 敗 です これを 防 ぐには 勉 強 しかありませんが 無 知 による 失 敗 を 怖 れるあまり 行 動 することなく 調 査 や 勉 強 ばかりに 力 を 注 いでいると 失 敗 によって 失 うものよりさらに 大 事 なやる 気 と 時 間 を 失 うことになりま す 2 不 注 意 十 分 注 意 していれば 問 題 がないのに これを 怠 ったがために 起 こってしまう 失 敗 です 体 調 不 良 や 過 労 あるいは 多 忙 中 や 焦 燥 感 を 募 らせて 平 常 心 を 失 っているとき つい 集 中 できずに 起 こしてしまうケ ースです 致 命 的 な 結 果 に 結 びつく 作 業 では 不 注 意 による 失 敗 を 避 けるべく 作 業 そのものを 中 止 する 配 慮 が 必 要 で す いねむり 運 転 などが その 最 たる 例 です 3 手 順 の 不 順 守 決 められた 約 束 事 を 守 らなかったために 起 こる 失 敗 です とくに 組 織 の 中 で 活 動 を 行 う 場 合 約 束 事 を 無 視 した 一 人 の 身 勝 手 な 行 動 が そのまま 失 敗 に 結 びつくことがたくさんあります これを 防 止 するために 企 業 の 中 では 必 ず 作 業 手 順 をマニュアル 化 し 同 じことを 誰 がやっても 失 敗 なく 行 え るように 努 めています ところが こうした 管 理 千 法 で 行 動 を 定 式 化 すると それにしたがって 動 いている 人 が マニュアルを 守 りさえすれば 十 分 という 錯 覚 に 陥 リ あらかじめ 想 定 していない 事 態 や 事 故 に 遭 切 に 対 応 で きないという 欠 点 も 併 せ 持 っているので 注 意 する 必 要 があります 4 誤 判 断 状 況 を 正 しくとらえなかったり 状 況 は 正 しくとらえたものの 判 断 のまちがいをおかしたりすること から 起 こるものです 判 断 に 用 いた 基 準 や 決 断 にいたった 手 順 がまちがっていたため 結 果 として 誤 判 断 とな るものもあ.ります 俗 にいう 考 え 足 らず 考 え 落 とし による 失 敗 もこれに 含 まれます これらを 防 ぐには さまざまな 状 況 を 想 定 してその 結 果 までを 頭 の 中 で 考 える 仮 想 演 習 (この 言 葉 については 第 五 章 で 詳 述 します)を 行 うべきです 5 調 査 検 討 の 不 足 判 断 する 人 が 当 然 知 っていなければならない 知 識 や 情 報 を 持 っていないために 起 きる 失 敗 や 十 分 な 検 討 を 行 わないために 生 じる 失 敗 です 決 断 者 が 優 秀 なら 白 分 の 判 断 がまちがった ときのことも 想 定 し その 場 合 の 対 処 方 法 も 十 分 に 考 えていることもあります こういうケースでは たとえそこで 失 敗 しても その 後 に 右 往 左 往 することも 少 ないわけです 6 制 約 条 件 の 変 化 なにかをつくり 出 したリ あるいは 企 画 するとき 必 ずあらかじめある 種 の 制 約 条 件 を 想 定 してことを 始 めます そのとき はじめに 想 定 した 制 約 条 件 が 時 間 の 経 過 とともに 変 わり そのために 思 っ てもみなかった 形 で 好 ましくないことが 起 こるのが 制 約 条 件 の 変 化 による 失 敗 です たとえば 輸 入 や 輸 出 で 商 品 を 扱 う 事 業 などは 為 替 レートに 大 きな 変 動 があると 事 業 に 多 大 な 影 響 が 生 じます ここでの 失 敗 を 防 ぐには 為 替 変 動 に 対 するリスクヘッジとしての 先 物 取 引 や 海 外 生 産 拠 点 の 変 更 など 事 業 の 責 任 者 は 変 化 を 見 越 した 事 業 計 画 を 立 てる 必 要 があります 7 企 画 不 良 企 画 ないし 計 画 そのものに 問 題 がある 失 敗 です 役 割 分 担 が 明 確 な 企 業 などの 組 織 では 企 画 者 の 下 に 実 行 者 がいるのが 一 般 的 です このケースでは 企 画 そのものが 悪 ければ 実 行 者 がどんなに がんばってもうまくいくはずがありませんが 実 際 はまったく 責 任 がないはずの 実 行 者 に 失 敗 原 因 が 帰 せられ て 後 始 末 が 行 われることが 多 く 企 画 不 良 による 失 敗 は 実 行 者 にとって 最 もつらい 形 になりがちです とりわけ こうしたことは トップに 権 力 が 集 中 している 組 織 に 起 こりがちです 8 価 値 観 不 良 自 分 ないし 自 分 の 組 織 の 価 値 観 が まわりと 食 いちがっているときに 起 きる 失 敗 です 過 去 の 成 功 体 験 だけを 頼 りにしたり 組 織 内 のルールばかりに 目 を 向 けていると 経 済 法 律 文 化 などの 面 か らいわゆる 常 識 的 な 評 価 がきちんとできなくなり この 種 の 失 敗 に 陥 りやすいのです 価 値 観 不 良 による 失 敗 は とくに 最 近 の 行 政 機 関 に 見 られがちで 薬 害 エイズ 問 題 などはその 典 型 例 です 本 来 国 の 機 関 は 国 民 の 利 益 を 優 先 させるのが 鉄 則 のはずですが 患 者 側 の 立 場 に 立 たず 製 薬 会 社 な ど 商 売 を 行 う 側 の 営 業 や 利 益 を 考 えて 対 処 した 結 果 HIV(エイズウィルス)に 汚 染 された 血 液 製 剤 の 流 通 を 許 して 傷 口 を 広 げてしまいました 企 業 の 指 導 という 役 割 以 前 に 国 民 の 利 益 を 優 先 する 前 提 があるという 価 値 観 が 国 の 機 関 に 欠 落 していたのです

9 組 織 運 営 不 良 組 織 白 体 が きちんと 物 事 を 進 めるだけの 能 力 を 有 していないケースでの 失 敗 です 最 たるものは 組 織 の 長 が 失 敗 を 失 敗 と 認 識 できないために これを 見 逃 して 傷 口 を 大 きくするパターンで す バブル 期 の 拡 大 路 線 で 失 敗 した 大 手 百 貨 店 のそごうの 倒 産 や 対 策 を 打 たずにいたずらに 被 害 を 拡 大 した 先 の 雪 印 乳 業 の 集 団 食 中 毒 事 件 でも 組 織 運 営 不 良 が 見 受 けられました これらはいずれも 組 織 の 長 が 判 断 を 誤 り 組 織 運 営 を 修 正 する 決 断 を 行 わなかったために 問 題 を 必 要 以 上 に 大 きくしました 10 未 知 世 の 中 の 誰 もが その 現 象 とそれにいたる 原 因 を 知 らないために 起 こる 失 敗 です 人 間 の 歴 史 を ひもといてみると 未 知 を 原 因 とする 失 敗 に 遭 遇 した 後 その 原 因 とメカニズムについて 賢 者 たちが 徹 底 的 に 考 えることで 失 敗 を 防 ぐ 手 だてを 発 見 し その 集 積 によって 文 化 を 築 いてきました その 意 味 では 未 知 によ る 失 敗 はいたずらに 忌 み 嫌 うものではなく 文 化 をつくる 最 大 の 糧 として 大 切 に 扱 うべきです 大 失 敗 を 誘 発 する 樹 木 構 造 ある 主 題 にぶつかったとき これを 直 観 的 にすべて 理 解 できる 人 などほとんどいません たいていの 人 は 樹 木 構 造 で 順 序 立 ててものごとを 理 解 しています 樹 木 構 造 は 頭 を 整 理 する 方 法 としてはたいへん 見 やすく すぐれたものです 極 論 するならば 思 考 をひ とつひとつのパートごとに 整 理 して 樹 木 構 造 の 形 にしないかぎり 人 が 全 体 についての 理 解 を 身 につけること など 不 可 能 だといっても 過 一 言 ではありません 樹 木 構 造 は 社 会 のいたるところで 見 ることができます 知 識 を 伝 える 学 問 は ほとんどが 系 統 立 てた 樹 木 構 造 で 整 理 されています また たとえば 人 がつくりあげた 製 品 である 自 動 車 の 構 造 も エンジンや 車 体 など 数 多 くのパーツを 系 統 立 てて 寄 せ 集 め ひとつの 目 的 を 達 成 し ているので 樹 水 構 造 で 説 明 することができます また 組 織 を 効 率 的 にひとつの 目 的 に 向 かって 動 かすとき 樹 木 構 造 はたいへん 力 を 発 揮 します とはいえ ここで 注 意 しなければならないのは 樹 木 構 造 はあくまで 人 がその 対 象 を 単 純 化 してわかりやすく 理 解 するための 方 法 にすぎず 実 際 の 概 念 や 事 象 はもっと 複 雑 なものであるということです 実 際 の 概 念 や 事 象 では 系 統 の 最 も 末 端 にあるもの 同 土 にも 上 図 のように 見 えないリンク( 関 連 )が 必 ず 存 在 しています そのことを 忘 れて 樹 木 構 造 の 中 ですべてを 理 解 したつもりになっていると 手 痛 いしっぺ 返 しを 受 けることになります じつは 失 敗 原 因 を 分 析 してみると こうした 樹 木 構 造 の 呪 縛 の 中 で すべてを 理 解 したつもりになった 錯 覚 が 背 景 にあるケースがほとんどです いいかえれば 樹 木 構 造 の 弱 点 が 失 敗 という 現 象 として 現 れている のです よくある 例 ; ある 部 署 で 起 きた 失 敗 の 情 報 が 伝 わらず すぐ 隣 の 部 署 で 同 じような 失 敗 が 繰 り 返 されるようなケース ( 効 率 化 を 最 優 先 にして 意 図 して 横 のつながりを 分 断 したために 起 こる また 業 績 を 上 げるために 部 署 間 の 競 争 を 促 すと リンクが 希 薄 になる 樹 木 構 造 の 弱 点 を 補 うには

これら 樹 木 構 造 的 組 織 の 中 で 起 こりやすい 失 敗 を 避 けるには 樹 木 構 造 の 中 の 見 えないリンクを 知 り 尽 くし 全 体 の 動 きをトータルに 管 理 監 督 する 役 割 を 担 う 存 在 が 不 可 欠 です 大 企 業 でこの 種 の 問 題 を 克 服 しているユニークな 例 としては トヨタ 白 動 車 の CE(チーフエンジニア)という 制 度 をあげることができます CE というのは いわば 新 しい 車 を 開 発 する 責 任 者 で どんな 車 をつくるかという コンセプトから 設 計 者 デザイナー 熟 練 技 能 者 などのスタッフに 構 想 を 伝 え 目 標 に 向 かって 全 体 を 引 っ 張 ることを 主 たる 役 割 にしています 七 万 人 のトヨタの 杜 員 のうち たった 十 数 名 がその 役 割 にあり 職 制 上 は 単 なるスタッフでも 車 の 開 発 においては 重 役 よりも 強 い 発 言 権 が 与 えられているそうです 失 敗 は 成 長 する 新 聞 沙 汰 になるような 事 故 やトラブルが ある 日 突 然 降 って 湧 いたように 現 れた などということは そもそもあ りえません 過 去 をふりかえってもそのようなケースはなく 前 述 の 雪 印 乳 業 の 集 団 食 中 毒 や JCO の 臨 界 事 故 もしかりで 最 近 多 発 する 企 業 不 祥 事 の 原 因 を 探 ると むしろ いままでよく 事 件 事 故 が 起 こらなかった とい う 率 直 な 思 いにぶつかるはずです そうだとすれば 仮 に まずい という 体 験 があったときになんらかの 防 止 策 を 打 つことができれば 失 敗 の 成 長 は 止 められるはずです それをせずに 放 置 しておくと 数 は 少 ないにしても より 影 響 力 の 大 きなクレーム 程 度 の 失 敗 が 必 ず 芽 を 出 します そこでも 防 止 策 が 打 てなければ 失 敗 はさらに 大 きな 形 で 現 れ まわりに 多 大 な 被 害 を 与 える 致 命 的 失 敗 へ 成 長 するというのが まさに 失 敗 のハインリッヒの 法 則 の 考 え 方 です 事 故 やトラブルなど 世 間 を 震 撼 させ る 大 失 敗 には 背 景 に 少 なからずこれと 同 じ 構 図 があります もし 自 動 車 が 一 年 間 に 出 す 二 酸 化 炭 素 の 量 なんて 自 分 にわかるわけがない とすぐにあきらめるようなら この 人 は 技 術 者 としては 失 格 です というのも この 程 度 の 計 算 は 基 礎 的 な 知 識 があれば 誰 でも 十 分 にでき るからです まず 自 分 が 一 年 間 にどの 程 度 車 で 走 るかなどは 走 行 距 離 のメーターを 見 れば 簡 単 にわかります これ と 別 にガソリンスタンドでもらう 領 収 書 を 見 るという 方 法 もあるし ガソリンの 総 量 と 燃 費 の 数 字 さえ 押 さえていれ ば そこから 二 酸 化 炭 素 の 排 出 量 を 簡 単 な 計 算 で 導 くことは 決 して 難 しいことではありません たとえば 一 年 間 に 走 る 距 離 が 五 千 キロ 燃 費 がガソリン 一 リットルあたり 十 キロメートル ガソリンの 比 重 を だいたい 八 に 設 定 して 計 算 します 一 年 間 に 使 用 するガソリンの 量 は 重 さにしてちょうど 四 百 キログラム になります ここで 必 要 な 基 本 知 識 は 水 素 1 炭 素 12 酸 素 16 という 原 子 量 の 数 値 です 多 くの 燃 料 は 炭 素 が 中 心 で これにわずかに 水 素 がついているだけなので 燃 焼 後 は H2O と CO2 に 分 かれるとすれば 重 さ 四 百 キロのガ ソリンはイコールほぼ 四 百 キロの 炭 素 と 考 えることができるので 四 百 キロかける 12 分 の 44 という 計 算 式 が 成 り 立 ちます この 数 字 の 12 は 炭 素 44 は CO2 の 原 子 量 を 表 したもので そこからこの 人 は 年 間 一 五 トンも の 炭 酸 ガスを 排 山 していたという 結 果 が 導 かれます 基 本 的 な 知 識 を 使 いこなして 素 朴 な 疑 問 の 答 えに 行 き 着 いた 技 術 者 は これはたいへんだから なにか 対 策 を 打 たなければならない という 思 いに 駆 られるでしょう そして たとえ 自 分 が 自 動 車 の 製 造 に 携 わって いなくても 技 術 者 としての 仕 事 にここで 得 た 知 識 を 生 かそうと 考 えるにちがいありません じつは これくらいのことを 理 解 するのは 中 学 校 程 度 の 理 科 の 知 識 があれば 十 分 です 疑 問 にぶつかっ たとき もし 技 術 者 が 自 動 車 が 一 年 間 に 出 す 二 酸 化 炭 素 の 量 なんて 自 分 にわかるわけがない と 考 えたと したら これほどナンセンスなことはありません 創 造 力 のセンスがある 人 とない 人 の 違 いは 自 分 の 中 に 備 えた 基 礎 知 識 を 応 用 して 使 いこなせるか 使 いこ なせないかの 違 いと 考 えられます 本 当 のベテラン 世 の 中 には ベテラン と 呼 ばれる 人 がたくさんいますが 厳 密 にいえば 体 験 をべースにしながらも さま ざまな 知 識 も 貧 欲 に 吸 収 している 本 当 のベテラン と 経 験 だけはたくさんしてもなにひとつ 知 識 化 できない でいる 偽 ベテラン の 二 種 類 に 分 類 されます 後 者 は 失 敗 の 種 を 大 きく 成 長 させる 張 本 人 になることも 多 く 自 分 が 対 応 できない 問 題 が 生 じたときには これを 無 視 し 対 策 をとらず 見 て 見 ぬふりをするなどして 結 果 的 に 大 きな 失 敗 の 発 生 に 加 担 していることもしばしばあります それでいて 組 織 の 長 をつとめていたり ふだんは 横 柄 にふるまっていることも 多 いので こういう 偽 ベテランは 組 織 にとってもかなりやっかいな 存 在 です 本 当 のベテランは 自 分 の 関 わるものごとを 真 に 理 解 ( 理 科 系 の 仕 事 だと 真 の 科 学 的 理 解 )している 人 とい いかえられます こういう 本 当 のプロと 呼 ばれる 人 の 仕 事 には どんな 世 界 でも 深 い 理 解 に 基 づいた 綴 密 さを 感 じることができます

ムダな 会 議 が 多 すぎる 会 議 の 目 的 は 木 来 は 議 論 により 結 論 を 得 ることと 決 められたことを 連 絡 する 場 合 の 二 種 類 に 大 別 できま す ところが 参 加 する 側 にはその 意 識 が 希 薄 で 自 分 とは 関 係 ないと 思 って 聞 いていない 居 眠 りをしてい る 定 時 に 来 ない 呼 び 出 しがあると 逃 げるなどということがよくあります 日 常 的 に 見 られる 参 加 者 たちのこう した 行 動 は 意 昧 のない ムダな 会 議 が 多 いという 現 実 を 如 実 に 表 しています 実 際 会 議 の 場 での 議 論 で 重 要 な 決 定 がなされることは 現 実 にはほとんどありません むしろ 審 議 をして 決 めたという 既 成 事 実 づくりが 目 的 で これを 盾 に 反 対 者 の 口 封 じを 行 ったり 失 敗 時 の 責 任 回 避 のための 予 防 線 にされているのが 実 態 です 責 任 回 避 のための 会 議 を 頻 繁 に 開 く 組 織 では ひとりひとりの 責 任 意 識 までが 希 薄 になり 小 失 敗 を 見 つ けても これに 素 早 く 対 処 する 発 想 も 出 てきません これがまさにダメ 組 織 にありがちな 姿 で 放 置 された 失 敗 がやがて 致 命 的 な 失 敗 に 成 長 し 組 織 に 多 大 な 被 害 をあたえることは 想 像 に 難 くありません 手 間 をかけて 2 万 件 の 失 敗 事 例 のデータベースを 作 ったが 活 用 されなかった => 知 りたい 人 に 知 りたいとき 知 りたい 中 身 を 欲 しい 形 で 示 すことができるためのデータベース 化 で なければなりません 目 を 通 すだけでもウンザリさせられるほどの 膨 大 なデータを 前 にすれば 必 要 であっても 思 わず 目 を 背 けたく なるのが 人 間 の 心 理 です その 意 味 では 失 敗 のデータを 活 用 するとき これを 単 なる 情 報 の 羅 列 とするので はなく もう 少 し 整 理 した 形 すなわち 知 りたい 中 身 を 欲 しい 形 にして 情 報 提 供 する 必 要 があります 私 は 二 万 個 に 及 ぶ 失 敗 情 報 といえども 同 種 のものを 集 め それを 代 表 する 典 型 的 な 例 に 集 約 する 形 でグ ループ 化 していけばどんなに 多 くても 三 百 個 程 度 にまで 絞 り 込 むことができるのではないかと 考 えています 失 敗 を 生 かすと 得 になる 仕 組 み 失 敗 を 忌 み 嫌 う 風 潮 をあらため これと 上 手 につき 合 うには 一 個 人 や 一 組 織 の 努 力 だけでなく 社 会 として 失 敗 と 積 極 的 に 向 き 合 うシステムを 確 立 する 必 要 があります 第 六 章 でも 触 れていますが そのことをあらため てここで 強 調 しておきます 先 に 私 が 行 った 提 案 は ひとつには 企 業 のバランスシートの 負 債 の 項 目 に 潜 在 失 敗 というものを 加 えて 会 計 処 理 を 行 ってはどうかということでした 万 一 失 敗 が 生 じたときの 損 害 の 程 度 を 予 測 し この 総 額 に 失 敗 の 発 生 確 率 を 乗 じて 含 み 損 として 示 していこうというもので 目 的 は 失 敗 に 対 して 否 定 的 なこれまでの 日 本 の 企 業 風 土 を 変 えていくことにあります 現 実 の 間 題 として 小 失 敗 を 放 置 することで 致 命 的 な 失 敗 を 発 生 させ そのことで 何 十 年 もかかってつくりあ げたブランドイメージを 損 なった 上 に 多 大 の 損 害 を 被 るという 危 険 性 は 成 熟 期 を 迎 えた 日 本 のどの 企 業 にも 起 こり 得 る 問 題 です さらにいえば 官 公 庁 などの 公 的 な 機 関 もしかりで 行 政 制 度 もまた 成 熟 期 を 迎 える 中 で 大 失 敗 を 誘 発 する 危 険 性 を 有 しているといっても 過 言 ではありません 日 本 中 のどこでも 見 られるこうした 危 険 な 風 潮 を 改 善 していくには 個 々のパートの 努 力 だけではもはや 眼 界 があります 社 会 としての 取 り 組 みは 不 可 欠 で 失 敗 と 積 極 的 に 向 き 合 える 環 境 づくりを 進 めるためにも 第 六 章 でも 触 れたように 潜 在 失 敗 を 想 定 した 会 計 システムを 導 入 したり アメリカのように 司 法 取 引 や 懲 罰 的 賠 償 制 度 のようなものを 社 会 システムとして 取 り 入 れる 必 要 があるのではないでしょうか 第 一 章 失 敗 とは 何 か 人 間 が 関 わっている 望 ましくない 結 果 それが 失 敗 21 失 敗 学 が 生 まれた 理 由 23 なぜ 失 敗 に 学 ぶ 必 要 があるのか 25 社 会 を 発 展 させた 三 大 事 故 28 青 函 トンネルに 生 かされている 失 敗 の 英 知 34 失 敗 学 に 基 づく 東 大 機 械 科 の 学 習 法 39 サポートはたいへんでも 失 敗 学 習 は 意 義 がある 41 記 憶 に 残 る 失 敗 談 が 学 生 の 成 長 を 促 す 43 第 二 章 失 敗 の 種 類 と 特 徴 失 敗 には 階 層 性 がある 49 よい 失 敗 悪 い 失 敗 55 失 敗 原 因 を 分 類 する 59 大 失 敗 を 誘 発 する 樹 木 構 遣 64 途 中 変 更 が 諸 悪 の 根 源 68 樹 木 構 造 の 弱 点 を 補 うには 70 失 敗 は 成 長 する 72

失 敗 は 予 測 できる 75 第 三 章 失 敗 情 報 の 伝 わり 方 伝 え 方 失 敗 情 報 は 伝 わりにくく 時 間 が 経 つと 減 衰 する 79( 当 事 者 の 次 までは 伝 わるが その 次 くらいから 減 衰 す る ) 失 敗 情 報 は 隠 れたがる 82( 人 間 の 心 理 として 失 敗 は つい 隠 したがる ) 失 敗 情 報 は 単 純 化 したがる 86( 人 づての 話 では ひとつかふたつのフレーズに 集 約 されてしまう ) 失 敗 原 因 は 変 わりたがる 88( 伝 達 経 路 の 人 たちの 利 害 で 変 わってしまう 下 の 者 の 責 任 にしたがる ) 失 敗 は 神 話 化 しやすい 90( 本 質 が 見 えにくくなる ) 失 敗 情 報 はローカル 化 しやすい 91( 自 部 署 内 に 留 める ) 客 観 的 失 敗 情 報 は 役 に 立 たない 94 失 敗 は 知 識 化 しなければ 伝 わらない 98 六 項 目 による 記 述 101 当 事 者 が 記 述 できないときはどうするか 112 決 して 批 判 をするな 114 第 四 章 全 体 を 理 解 する 解 を 求 める 学 習 で 得 た 知 識 と 体 感 学 習 で 得 た 知 識 は 違 う 119 日 立 での 貴 重 な 二 年 間 120 空 母 大 鳳 はなぜ 爆 発 したか 122 まずは 行 動 してみよう 126 仮 想 失 敗 体 験 128 全 体 を 理 解 することの 大 切 さ 131 偽 ベテラン と 本 当 のベテラン の 違 い 133 真 の 理 解 への 理 想 的 プロセス 137 第 五 章 失 敗 こそが 創 造 を 生 む 論 理 的 思 考 のウソ 141 思 考 平 面 上 にアイデアの 種 が 落 ちてくる 143 人 切 なのは 仮 想 演 習 をすること 146 アイデアの 種 は 大 胆 に 切 り 捨 てる 150 口 に 出 さない 常 識 がある 152 思 いつきノートをつけよう 155 表 プランと 裏 プラン 162 考 えの 全 体 構 成 を 見 よう 164 どんな 創 造 も 仮 想 演 習 から 生 まれる 170 第 六 章 失 敗 を 立 体 的 にとらえる 潜 在 失 敗 を 含 み 損 としてとらえる 経 済 と 失 敗 175 訓 練 失 敗 を 組 み 入 れる 人 の 心 理 と 失 敗 181 懲 罰 的 賠 償 制 度 と 司 法 取 引 法 律 と 失 敗 188 第 七 章 致 命 的 な 失 敗 をなくす 技 術 の 成 熟 と 利 益 追 求 195 すべての 組 織 が 陥 る 病 200 まさかこんなことが 起 こるとは 思 わなかった のウソ 204 局 所 最 適 と 全 体 最 悪 208 いまあるものを 絶 対 に 変 えない いじらない 212 TQC の 落 とし 穴 214 ISO も 危 ないぞ 219 ダメ 上 司 には 気 をつけろ 220 ムダな 会 議 が 多 すぎる 222 リーダーにより 失 敗 は 三 倍 違 う 223 第 八 章 失 敗 を 生 かすシステムつくり 二 万 個 の 失 敗 情 報 を 集 めても 意 味 はない 231 必 要 な 情 報 は 最 大 三 百 個 233

知 識 と 経 験 を 与 える 場 づくり 236 失 敗 を 生 かすと 得 になる 仕 組 み 240 失 敗 博 物 館 241 エピローグ 失 敗 を 肯 定 しよう 日 本 企 業 の 抱 える 病 根 244 マネ 文 化 の 限 界 246 そして 失 敗 は 続 く 249