7章 第 安全性向上のための諸技術 関根 太郎 日本大学理工学部機械工学科 准教授 7.1 乗用車 第6章で示した安全像を実現する技術を特徴分類し車種ごとに紹介する 主 たる乗用車に関しては図1に示すデバイスの作動タイミング別に紹介する 安全技術取り組み分野 事故による死亡者数を削減する領域 事故件数を削減する領域 事前 直前 最中 直後 ぶつからない 知らせる 被害軽減 支援 衝突 介入 予防安全 事故回避 ACC LKA AFS マルチビューカメラ ABS TRC ESC PASSIVE SAFETY プリクラッシュ セーフティ CMBS Eプリテンショナー 助ける 事故後の自動通報 PRE-CRASH SAFETY ACTIVE SAFETY 事後 障害軽減 被害拡大防止 衝突安全ボディー シートベルト チャイルドシート エアバッグシステム ポップアップ アクティブヘッドレスト 緊急通報システム 衝撃検知ドアロック 図1 安全技術の取り組み分野 7.1.1 アクティブセーフティ 日本国内でも2013年時点で年間約60万件の交通事故が発生しており エレク トロニクス 制御技術を用いて交通事故自体を未然に防ぐアクティブセーフティ技 術の研究開発 普及が日々進められている 1 視認性向上技術 夕暮れ 夜間や悪天候等でドライバーの前方視界の視認性を向上させるため に 高輝度のディスチャージヘッドライトやLEDヘッドライト等が実用化されている
第 7 章 安 全 性 向 上 のための 諸 技 術 75 また, 操 舵 角 および 車 速 からカー ブ 走 行 時 の 車 両 進 行 方 向 を 算 出 し,ヘッドライトユニットの 反 射 鏡 を 制 御 することで 照 射 方 向 を 進 行 方 向 に 合 わ せ るAFS (A d a p t i v e F r o n t - l i g h t i n g System) 等 が 普 及 している 間 接 視 界 に 関 しては, 車 体 に 複 数 のカメラを 設 置 し, 見 通 しの 悪 図 2 インテリジェント ナイトビジョンシステム 1) い 交 差 点 の 交 差 車 線 の 状 況 をモ による 歩 行 者 強 調 表 示 例 ニターに 表 示 したり,バック 時 の 自 車 両 の 後 方 映 像 に 車 両 サイズを 合 成 したり, 車 両 周 辺 状 況 について 画 像 処 理 技 術 を 用 いてアラウンドビューに 合 成 してモニター 表 示 することでドライバーの 理 解 と 視 認 性 を 向 上 させる 技 術 も 実 用 化 されている また, 夜 間 に 近 赤 外 線 を 前 方 に 照 射 しながら, 近 赤 外 線 カメラによって 肉 眼 で は 見 えにくい 歩 行 者 や 道 路 状 況 を 可 視 化 強 調 表 示 することでドライバーへ 注 意 喚 起 を 即 すナイトビジョンシステム 等 も 挙 げられる( 図 2 1) ) (2) 運 転 負 荷 軽 減 技 術 従 来 のクルーズコントロールは 高 速 道 路 上 等 での 一 定 速 維 持 機 能 であったが, ミリ 波 レーダーやステレオカメラを 用 いて 車 両 が 前 方 状 況 を 認 知 し, 前 方 車 両 との 車 間 距 離 を 保 ちながら 速 度 を 合 わせて 自 動 追 従 するACC(Adaptive Cruise Control)が 高 速 道 路 等 の 高 速 域 だけでなく, 一 般 道 路 等 の 渋 滞 内 でも 前 方 車 接 近 警 報 や 追 突 防 止 を 目 的 とした 低 速 ACCとしても 実 用 化 されている 特 に 低 速 ACCは, 低 速 域 の 衝 突 被 害 軽 減 システムCMBS(Collision Mitigation Brake System)の 役 割 も 兼 ねており, 事 故 発 生 件 数 の 多 い 交 差 点 付 近 での 事 故 件 数 削 減 に 有 効 とされている また,カメラ 画 像 による 車 線 認 識 技 術 を 用 いた 車 線 維 持 支 援 LKA(Lane Keep Assist),カーナビゲーションシステムとの 連 携 により,ドライバーに 一 時 停 止 交 差 点 を 案 内 注 意 喚 起 するナビ 連 携 運 転 支 援 システムも 実 用 化 されている (3) 車 両 運 動 性 能 向 上 技 術 ドライバーがハンドルを 切 っても, 車 輪 の 回 転 が 伴 っていないと, 車 両 を 曲 げる ための 横 力 は 発 生 しない そのため 現 行 車 両 はABS(Anti-lock Brake
76 理 論 編 System)がほぼ 標 準 装 備 されている ABSは, 車 輪 回 転 状 態 を 常 に 監 視 し, 滑 りやすい 路 面 等 での 制 動 時 に 車 輪 ロックし 始 めた 際 には, 瞬 時 にブレーキ 圧 を 緩 めることで 車 輪 ロックを 解 消 して, 改 めてロックしない 程 度 にブレーキ 圧 を 上 昇 さ せることで,ハンドル 操 作 を 可 能 としながら 制 動 性 能 を 確 保 している 現 在, 発 進 加 速 時 の 各 車 輪 の 空 転 の 発 生 を 防 ぐTCS(Traction Control System)と ABSを 連 動 させ, 各 輪 のタイヤ 発 生 力 を 積 極 的 に 統 合 制 御 することで 車 両 のふ らつきや 横 すべりを 防 止 低 減 するESC(Electrical Stability Control)が 2012 年 10 月 から 新 型 車 に 対 して 装 着 義 務 化 されている さらに 電 動 パワーステア リングEPS 等 との 統 合 制 御 も 進 んでおり,これらによるトータルの 車 両 走 行 性 能 向 上 によって, 万 一 の 場 合 での 危 険 事 故 回 避 の 実 現 が 図 られている 7.1.2 パッシブセーフティ 万 一 の 衝 突 事 故 の 際 に, 人 への 傷 害 を 最 小 限 に 抑 える 技 術 を 紹 介 する (1) 衝 突 被 害 軽 減 技 術 衝 突 事 故 では, 車 両 走 行 速 度 による 運 動 量 がドライバーへ 伝 達 する 衝 撃 の 大 きさに 影 響 を 及 ぼす 仮 に, 非 常 に 剛 なボディーでは, 衝 撃 が 一 気 にドライバー へ 伝 達 するためドライバーの 損 傷 値 が 高 くなってしまう そこで, 衝 突 時 にクラッシャ ブルゾーンと 呼 ばれるエンジンルーム 部 分 のフレーム 変 形 によりエネルギーを 吸 収 することで 伝 達 する 衝 撃 力 を 低 減 している 現 在 は, 予 め 設 計 段 階 で 衝 撃 に 対 する 時 間 的 なフレーム 変 形 量 を 計 算 し, 衝 撃 の 最 大 値 がドライバーへの 危 険 値 を 下 回 るようにフレーム 設 計 がされている また, 混 合 交 通 下 での 車 両 同 士 の 衝 突 事 故 では, 車 両 相 互 の 車 格 の 違 いによ り, 相 手 車 両 のフレーム 位 置 が 異 なって 衝 突 すると 前 述 のクラッシャブルゾーンの 機 能 が 半 減 してしまう そこで, 軽 自 動 車 と 普 通 自 動 車 のような 異 なる 車 格 同 士 が 衝 突 した 際 でも, 互 いのフレームによりインパクトするようにボディー 構 造 を 工 夫 しコ ンパ チビリティ が 確 保 されてい る( 図 3 2) ) 衝 突 時 の 乗 員 の 衝 撃 を 緩 和 する 技 術 とし 2) ては, 衝 突 を 感 図 3 コンパチビリティー 対 応 ボディー 模 式 図
第 7 章 安 全 性 向 上 のための 諸 技 術 77 知 した 際 は 瞬 時 にシートベルトの 遊 びを 巻 き 取 り,その 後 一 定 以 上 の 荷 重 が 加 わ るとベルトを 送 り 出 すことで, 胸 部 への 負 担 を 軽 減 するロードリミッター 付 プリテンショ ナー ELRシートベルトが 採 用 されている また,SRSエアバッグシステムも, 現 在 では 運 転 席 に 加 えて 助 手 席 にも 搭 載 され ることが 一 般 的 になっている 加 えて, 衝 突 後 の0.015 秒 程 度 で 感 知 するとともに 衝 突 速 度 に 合 わせてエアバッグの 展 開 スピードが 変 化 したり, 連 続 的 に 展 開 容 量 が 変 化 することで, 体 格 の 違 う 乗 員 に 対 する 保 護 性 能 が 向 上 している また, 側 面 衝 突 に 対 するサイドエアバッグシステムは,カーテン 状 に 展 開 することで 頭 部 や 頸 部 を 効 果 的 に 保 護 する 方 式 も 実 用 化 されている (2) 歩 行 者 被 害 軽 減 技 術 歩 行 者 との 衝 突 時 に 歩 行 者 の 被 害 を 軽 減 させる 技 術 としては,ボディー 設 計 に おいて,バンパーやフェンダ,ボンネット 内 部 に 空 間 を 確 保 し,くぼみやすくするこ とで 衝 撃 吸 収 させる 構 造 が 採 用 されている また,ボンネットのヒンジ 部 自 体 も 強 い 衝 撃 が 加 わると 折 れ 曲 がって 衝 撃 を 吸 収 する 構 造 になっている 加 えて,ボ ディー 先 端 部 の 突 起 部 をなるべく 無 くすことで, 衝 突 時 での 歩 行 者 の 身 体 の 引 っ かかりを 無 くしている そのため 展 開 時 にライト 部 が 凸 形 状 になるリトラクタブル 式 のヘッドライトは 現 在 では 採 用 されなくなっている また, 衝 突 感 知 した 瞬 間 にボン ネットフードを 跳 ね 上 げることで, 空 間 を 大 きくするポップアップ 式 のボンネットフード も 採 用 されている 7.2 商 用 車 大 型 トラックやバス 等 は, 車 両 サイズが 異 なるとともに 積 載 物 や 乗 客 の 搭 乗 ス ペースを 確 保 するため 車 両 構 造 自 体 が 乗 用 車 と 異 なる また, 運 用 形 態 も 異 なる ため,その 実 情 に 合 わせた 安 全 技 術 の 搭 載 が 必 要 となる 大 型 車 は, 車 両 サイズが 大 きく, 荷 台 や 積 載 物 等 によっても 運 転 席 からの 死 角 が 発 生 し 後 方 側 方 視 野 が 制 限 される 3) そのため, 視 界 を 確 保 するために, 複 数 のミラーに 加 えてバックカメラやソナーを 配 することで, 周 辺 状 況 の 確 認 性 を 高 めている また, 近 年 では, 助 手 席 側 のドア 下 部 を 透 明 化 することで, 左 側 方 の 直 接 視 界 を 広 げる 試 みもされている 商 用 車 は, 乗 用 車 に 比 べると 長 時 間 運 転 となるため,ドライバーの 運 転 に 対 す
78 理 論 編 る 注 意 力 をモニタリングする 装 備 等 が 実 用 化 されている 例 えば, 走 行 中 のドラ イバーの 顔 の 方 向 や 眼 の 状 態 を 車 載 カメラがモニタリングし 注 意 力 不 足 を 検 知 し たり, 運 転 開 始 時 の15 分 間 の 走 行 パターンを 学 習 して,ハンドル 操 作 等 からファジィ 理 論 によって 注 意 力 低 下 を 検 知 するシステム 等 がある いずれも 注 意 力 低 下 が 検 知 されると 警 報 音 で 警 告 したり, 警 告 表 示 を 行 う また 注 意 力 低 下 に 伴 うふら つきに 対 しては 車 線 逸 脱 警 報 で 注 意 喚 起 するとともに, 警 報 が 続 く 際 には 衝 突 被 害 軽 減 ブレーキの 支 援 タイミングを 早 めることで, 事 故 予 防 が 期 待 できる 4) 車 両 運 動 性 能 についても, 大 型 車 は 車 両 総 重 量 も 重 く, 一 方 で 荷 台 に 積 載 す るため, 積 み 荷 を 含 めた 積 載 時 の 重 心 高 は 高 くなる 傾 向 を 示 す 特 にコーナリン グ 時 のロールオーバーやスピン 等 の 事 故 ケースが 見 受 けられる このような 事 故 を 低 減 するために 現 在 では, 乗 用 車 同 様 にESCが 搭 載 されている また, 事 業 用 貨 物 車 の 事 故 類 型 別 の 事 故 件 数 の 約 50%は 追 突 が 占 めており, 特 に 高 速 道 路 では72%を 占 めている 5) この 傾 向 を 改 善 するために 衝 突 被 害 軽 減 システムCMBSの 義 務 化 が 示 されている また,トラックは 地 面 と 車 体 のすき 間 が 大 きいため 他 のカテゴリの 車 両 との 衝 突 時 に 潜 り 込 み 事 故 が 発 生 していた 現 在 は, 車 両 突 入 防 止 装 置 が 義 務 化 されており, 乗 用 車 と 同 様 にコンパチビリティ の 向 上 が 図 られている 将 来 的 には, 商 用 車 においてもITS 分 野 における 路 車 間, 車 車 間 通 信 を 利 用 した 周 辺 車 両 等 把 握 システム( 電 子 クラクション)による 巻 き 込 み 事 故 の 低 減 や 高 速 道 路 における 隊 列 自 動 追 従 走 行 等 を 実 現 することで, 長 距 離 トラックドライ バーの 疲 労 を 軽 減 させることが 期 待 されている 7.3 二 輪 車 二 輪 車 は, 前 後 車 輪 が1 列 に 配 置 されているため, 走 行 時, 常 にバランスを 取 る 必 要 がある また,ライダーが 直 接 実 だ 角 を 入 力 したり, 旋 回 時 に 車 体 をロール させてバランスを 取 る 等,ダイレクトな 操 作 系 になっているため, 一 部 に 車 両 姿 勢 に 対 応 したエンジン 出 力 制 御 によるリアタイヤのスリップ 抑 制 はあるものの, 四 輪 車 のようなESCによる 積 極 的 な 介 入 が 難 しい 特 徴 がある その 特 徴 の 中 で 実 用 化 されている 安 全 技 術 としては, 電 子 制 御 式 の 前 後 輪 連 動 ABSが 挙 げられる 二 輪 車 は, 乗 用 車 に 比 べてホイールベースが 短 く,また 車
第 7 章 安 全 性 向 上 のための 諸 技 術 79 体 に 対 する 乗 員 の 質 量 比 率 が 近 接 しているた め 重 心 高 が 高 い その ため 制 動 時 には 前 後 荷 重 移 動 が 大 きくな る その 結 果, 二 輪 車 の 理 想 制 動 力 配 分 線 は 図 4のようになる 四 輪 車 と 異 なり,0.5G 以 上 の 急 制 動 を 実 現 しよ うとすると, 前 輪 の 制 動 図 4 二 輪 車 の 理 想 制 動 力 配 分 力 を 増 加 させるとともに 後 輪 の 制 動 力 を 減 少 させる 必 要 がある( 図 4) これを 四 輪 車 のような1 入 力 で 実 現 しようとすると, 急 減 速 時 に 対 する 後 輪 側 の 減 圧 配 管 等 が 非 常 に 複 雑 になるため, 搭 載 スペースが 限 られる 二 輪 車 では 実 用 的 ではな い 従 って, 一 般 車 両 では, 前 後 独 自 の2 系 統 のブレーキ 入 力 系 をライダー 自 身 が 制 御 することでこの 理 想 制 動 力 配 分 に 近 い 特 性 を 実 現 している 電 子 制 御 式 の 前 後 輪 連 動 ABSでは,バイワイヤ 技 術 を 用 いてライダーの 入 力 を 電 子 信 号 に 変 換 し,コンピュータで 前 後 ブレーキの 効 き,ABSのきめ 細 かな 作 動 を 制 御 する 電 子 制 御 にすることで,サスペンション 可 動 部 にあったABS 専 用 の 部 品 を 省 略 するとともに 従 来 パーツの 利 用 が 可 能 となっている 6) また,DCT(Dual Clutch Transmission)を 搭 載 することで, 変 速 時 の 操 作 の 軽 減 や 変 速 ショックの 軽 減 が 実 現 でき, 乗 車 時 の 運 転 に 余 裕 を 持 たせること で, 事 故 リスクを 低 減 することが 期 待 される 7) パッシブセーフティに 関 しても, 車 体 サイズならびに 乗 車 スタイルから 四 輪 車 並 み のクラッシャブル ゾーンを 二 輪 車 に 確 保 す ることは 難 し い 一 方 でASVで の 開 発 を 経 て, 大 型 車 の 一 部 には エア バッグ 装 備 車 も 市 販 6) 図 5 電 子 制 御 式 コンバインドABSのシステム 概 要 図 されている このエ
80 理論編 アバッグはシートベルトで 左折事故防止支援情報提供システム ASV DSSS 拘 束されてない自由 度 のあるライダーの乗車姿 勢を受け止めるために バッグの形状 サイズや 展開方法が二輪用に工 目的 信号機のある交差点を左折する際 見えにくい後方の車両の存在情報を 伝達し 巻き込み事故防止をはかる 期待される効果 左折巻き込み事故の事故件数削減 死角の情報補完による事故防止 二輪車がいます 注意して 左折してください 注意二輪車 アンテナ 光ビーコン 夫されている8 近 年では ライディン グジャケット側にエアバッ グを内 蔵した装 着 型の 制御装置 車両検知カメラ エアバッグも登場してい る 衝 突や転 倒 等によ 図6 ITSにおける路車間連携システム例9 り二輪からライダーが分 離するとエアバッグが展開する仕組みとなっている また 一般道路の二輪車走行実態調査では 路肩走行やすり抜け等も観測 される ITSが普及すると乗用車でも取り上げたような周辺車両にその存在を把 握してもらうために路車間や車車間通信を利用したデバイスの搭載により 側道 からの車両との出合い頭事故や左折巻き込み事故等の減少が期待される 図 6 9 7.4 その他の安全技術 要素技術としては タイヤの構造の変化も著しい ランフラットタイヤでは 図7 に示すようにタイヤのサイド 部分に補強がされているた め パンク時でも一定距離 を走行することが可能であ る これによりスペアタイヤ サイド補強ゴム 従 来 品 ランフラットタイヤ 内圧正常時の形状 空気圧 OkPa時の形状 空気圧 OkPa時の形状 サイド補強ゴム を携行しなくて済むため車 両総重量が減少し 燃費も 向上するメリットがある イメージ図 サイド補強型ランフラットタイヤのメカニズム サイド補強型 ランフラットタイヤの構造 図7 ランフラットタイヤの構造10
第 7 章 安 全 性 向 上 のための 諸 技 術 81 車 体 構 成 材 料 で は, 従 来 の 超 張 力 鋼 に 加 えて, 限 定 的 では あるが 市 販 車 に 対 し て 炭 素 繊 維 強 化 プラ スチック 素 材 の 利 用 も 開 始 された これによ り 車 体 軽 量 化 が 進 み, 運 動 特 性 や 燃 費 の 向 上 が 見 込 まれる ま 11) た,このような 複 合 材 図 8 超 小 型 モビリティのサイズ 比 較 例 料 の 利 用 を 前 提 とした 車 体 構 造 設 計 が 進 むことで, 現 行 の 車 両 形 状 に 対 して 設 計 の 自 由 度 が 大 きくな り, 安 全 性 の 向 上 を 図 ることが 可 能 となる また, 近 年 普 及 している 環 境 対 応 型 のEVやハイブリッド 車 両 がEVモードで 走 行 する 際 には,モーター 駆 動 となるためエンジン 駆 動 モードよりも 静 粛 性 が 高 い 一 方 で, 歩 行 者 等 がその 車 両 の 接 近 に 気 がつかずに 接 触 するケースもある そ のため,EVモードで 走 行 する 際 には, 電 子 音 を 発 生 させることで 周 囲 に 存 在 を 認 知 させる 工 夫 がされている また,EVは, 高 圧 配 線 を 含 むため 万 一 の 事 故 発 生 時 にも 感 電 しないような 配 慮 がされている 一 方 で, 超 高 齢 社 会 の 中 での 個 別 移 動 手 段 として, 車 両 専 有 面 積 も 小 さく, 小 回 りが 利 く 超 小 型 モビリティという 新 しいカテゴリの 登 場 が 期 待 されている( 図 8 11) ) 主 として1 人 から2 人 乗 りの 乗 車 定 員 で,エネルギー 消 費 量 は 通 常 の 自 動 車 の1/6 程 度 ( 電 気 自 動 車 の1/2 程 度 )の 仕 様 となっている 利 用 は 自 宅 か ら 近 郊 までの 利 用 や 観 光 地 や 商 業 地 の 回 遊 周 遊, 小 規 模 配 達 が 想 定 されて いるが, 今 後 の 普 及 に 際 しては 混 合 交 通 内 での 他 のカテゴリの 差 別 化 と 走 行 空 間 の 確 保 が 必 要 となる( 図 9 12) ) また, 二 輪 車 と 同 様 に 車 体 サイズが 小 型 なためクラッシャブルゾーン 等 の 確 保 が 難 しい 従 って 実 用 化 に 際 しては, 衝 突 自 体 を 低 減 できるコンパクトでリーズナ ブルな 衝 突 防 止 装 置 の 搭 載 が 期 待 される
82 理 論 編 図 9 超 小 型 モビリティと 従 来 カテゴリの 位 置 付 け 12) 参 考 文 献 1) 本 田 技 研 工 業 歩 行 者 を 検 知 しドライバーに 知 らせる 世 界 初 の インテリジェント ナイトビジョンシステム を 新 開 発 夜 間 の 運 転 支 援 システムとして 今 秋 発 売 のレジェンドに 搭 載 2004 年, http://www.honda.co.jp/news/2004/4040824a.html(2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 2) 本 田 技 研 工 業 コンパティビリティ 対 応 ボディ 2003 年, http://www.honda.co.jp/tech/auto/compatibility/(2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 3) 自 動 車 安 全 運 転 センター 大 型 貨 物 車 の 安 全 運 転 2007 年, http://www.jsdc.or.jp/search/pdf/all/h18_3.pdf(2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 4) 三 菱 ふそうトラック バス 株 式 会 社 第 58 回 自 動 車 技 術 会 賞 で 運 転 注 意 力 モニター(MDAS III) が 技 術 開 発 賞 を 受 賞 2008 年, http://www.mitsubishi-fuso.com/jp/news/news_content/080424/080424.html(2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 5) 全 日 本 トラック 協 会 事 業 用 貨 物 自 動 車 の 交 通 事 故 の 傾 向 と 事 故 事 例 2014 年, http://www.jta.or.jp/member/pf_kotsuanzen/jikojirei.pdf(2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 6) 本 田 技 研 工 業 スーパースポーツバイクをより 楽 しくする 世 界 初 のスーパースポーツ 用 電 子 制 御 式 コンバ インドABS ブレーキシステム 2009 年, http://www.honda.co.jp/tech/motor/c-abs2/detail/index.html(2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 7) 本 田 技 研 工 業 マニュアルトランスミッションの 楽 しさをオートマチックで 二 輪 車 で 世 界 初 Hondaのデュ アル クラッチ トランスミッション 2012 年, http://www.honda.co.jp/tech/motor/dct/(2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 8) 本 田 技 研 工 業 前 面 衝 突 時 ライダーの 傷 害 を 軽 減 させる 世 界 初 の 量 産 二 輪 車 用 エアバッグシステム 2006 年,http://www.honda.co.jp/tech/motor/airbag/(2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 9) 本 田 技 研 工 業 Honda 先 進 安 全 自 動 車 及 び 安 全 運 転 支 援 システムの 公 道 実 証 実 験 を 開 始 交 通 事 故 低 減 をめざす 車 車 間 及 び 路 車 間 通 信 を 利 用 した 安 全 運 転 支 援 システムの 開 発 に 協 力 2008 年, http://www.honda.co.jp/news/2008/4080324.html(2014 年 12 月 10 日 閲 覧 )
第 7 章 安 全 性 向 上 のための 諸 技 術 83 10)ブリヂストン ランフラットテクノロジー 採 用 タイヤ http://www.bridgestone.co.jp/personal/tire/equipment/rft.html(2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 11) 本 田 技 研 工 業 MC-β 2013 年, http://www.honda.co.jp/mc-beta/feature.html(2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 12) 国 土 交 通 省 超 小 型 モビリティの 導 入 促 進 2013 年, http://www.mlit.go.jp/common/000986236.pdf(2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 推 奨 文 献 1) 社 団 法 人 自 動 車 技 術 会 編 自 動 車 の 百 科 事 典 丸 善,2009 年 2) 国 土 交 通 省 自 動 車 交 通 局 先 進 安 全 自 動 車 推 進 検 討 会 先 進 安 全 自 動 車 に 関 する 研 究 成 果 報 告 書 ASV (Advanced Safety Vehicle)の 研 究 成 果 と 今 後 の 技 術 指 針,2008 年, http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/01asv/resourse/data/asv1report.pdf (2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 3) 国 土 交 通 省 自 動 車 交 通 局 先 進 安 全 自 動 車 推 進 検 討 会 先 進 安 全 自 動 車 (ASV) 推 進 計 画 ( 第 2 期 )に 関 する 報 告 書,2001 年, http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/01asv/resourse/data/asv2report.pdf(2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 4) 国 土 交 通 省 自 動 車 交 通 局 先 進 安 全 自 動 車 推 進 検 討 会 先 進 安 全 自 動 車 (ASV) 推 進 計 画 報 告 書 第 3 期 ASV 計 画 における 活 動 成 果 について,2006 年, http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/01asv/resourse/data/asv3seikahoukokusyocorrection.pdf (2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 5) 国 土 交 通 省 自 動 車 交 通 局 先 進 安 全 自 動 車 推 進 検 討 会 先 進 安 全 自 動 車 (ASV) 推 進 計 画 報 告 書 第 4 期 ASV 計 画 における 活 動 成 果 について,2011 年, http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/01asv/resourse/data/asv4pamphlet_seika.pdf (2014 年 12 月 10 日 閲 覧 ) 参 照 すべき 実 践 編 プロジェクト 東 南 アジアにおけるオートバイの 都 市 交 通 手 段 としての 役 割 と 限 界 に 関 する 研 究 168ページ