林 芳 正 参 議 院 議 員 を 囲 む 特 別 懇 談 会 テーマ 貿 易 立 国 から 投 資 立 国 へGNI 大 国 を 目 指 して 開 催 日 時 開 催 場 所 主 催 者 2012 年 5 月 30 日 ( 水 ) 16 時 ~18 時 TKPガーデンシティ 品 川 エーピーアイコンサルタンツ 株 式 会 社 林 芳 正 参 議 院 議 員 セミナー 風 景 セミナー 項 目 1GDP( 国 内 総 生 産 )からGDI( 国 民 富 )へ 2 基 本 認 識 国 民 富 の 最 大 化 を 目 指 す 3 第 一 ステップ: 投 資 大 国 になる 4 第 二 ステップ: 海 外 の 富 を 国 内 へ 還 元 する 5 第 三 ステップ: 国 内 の 雇 用 を 増 加 させる 6 包 括 的 な 政 策 体 系 の 構 築 へ セミナー 資 料 GNI 研 究 会 報 告 書 GNI 大 国 を 目 指 して
GNI 研 究 会 報 告 書 GNI 大 国 を 目 指 して 林 芳 正 と GNI 研 究 会 (1) はじめに:GDP から GNI へ 経 済 政 策 の 論 議 から 夢 が 感 じられなくなっている 人 口 が 減 る デフレが 続 く 社 会 保 障 が 大 変 だ 円 高 が 止 まらない 成 長 率 も 上 がらない など 暗 い 話 ばかりである なお かつ 過 去 の 成 功 体 験 に 縛 られて 物 事 を 変 えようという 話 も 進 まない とりあえず 今 は これだけでもやらなければ と 五 月 雨 方 式 で 物 事 が 決 められている 現 在 の 日 本 は 震 災 からの 復 興 エネルギー 問 題 という 短 期 の 問 題 から 財 政 状 況 の 悪 化 経 済 の 低 成 長 さらには 少 子 高 齢 化 現 象 という 多 くの 難 題 に 直 面 している 明 るい 見 通 しを 描 くことは 確 かに 難 しい 局 面 ではあるが そのような 中 でも 政 策 当 事 者 たるもの は 前 向 きなビジョンを 掲 げなければならない 気 持 ちが 萎 縮 しがちな 中 で 現 状 維 持 に 汲 々 とすることなく 経 済 全 体 のパイを 拡 大 することを 考 えるべきである そのためには イ ンフラ 輸 出 クール ジャパン といった 戦 術 面 に 限 らない 本 当 の 意 味 での 総 合 的 な 成 長 戦 略 が 必 要 である われわれはそのための 切 り 口 として 国 民 富 (GNI)に 着 目 し 従 来 の 国 内 総 生 産 (GDP)に 代 わる 指 標 とすることを 提 案 したい GNI( 国 民 総 所 得 )とは 昔 懐 かしい GNP( 国 民 総 生 産 )の 概 念 に 等 しく これを 分 配 面 から 見 たものである 旧 経 済 企 画 庁 ( 現 内 閣 府 )では 1993 年 から GNP に 代 わって GDP ( 国 内 総 生 産 )を 使 用 しており 国 民 経 済 計 算 では 2000 年 以 降 は GNP に 代 わって GNI を 使 っている これは GDP に 海 外 からの 利 子 配 当 などの 純 受 取 額 を 加 えたものであ り ごく 単 純 化 すると 以 下 の 公 式 で 表 すことができる 名 目 GNI= 名 目 GDP+ 所 得 収 支 1
図① 日本のGNIとGDP わが国の GDP が伸び悩む中にあっても 所得収支は着実に増加しており GNI は GDP よりも 3 程度大きくなっている1 図① 日本の GNI と GDP 欧米先進国でも これ だけ乖離が大きくなっている例は少なく わが国の海外投資や企業の海外活動が活発であ ることの証左となっている そこで GNI を最大化することを経済政策の大目標に掲げ 他の政策をこれに連動させる ことにより 日本経済の明るい未来に向けての総合的な戦略を描いてみたい 当 GNI 研究会は 2011 年 10 月から 12 月の間に都合 9 回の会合を開き 有識者の意見 を聞くとともに議論を重ねてきた 以下はまだ中間報告に近いものだが ここで公開する ことにより より多くの人に議論への参加を求めたいと思う 2 基本認識 国民富 の最大化を目指す 2008 年に発生した世界金融危機は 各国政府の大胆な財政金融政策の発動と国際協調に より 一時は終息したように見えたものの 3 年後の現在は欧州債務危機に姿を変えて再燃 している 当面の先進国経済は 厳しい状態を迎えることを余儀なくされるだろう ただ しそのような中でも 欧米企業は新興国で稼ぐビジネスモデルに転換し 高い収益率を誇 っていることは注目に値する 他方 日本経済は 百年に一度 の金融危機のすぐ後で 千年に一度 とも称される東 名目 GNI492 兆円 名目 GDP479 兆円 2010 暦年 なお実質で考えるときは 交易利 得を考慮する必要がある 1 2
日 本 大 震 災 を 体 験 することとなった その 後 のサプライチェーン 問 題 は 比 較 的 早 期 に 解 消 することができたものの 原 発 事 故 後 の 電 力 不 足 は 長 期 化 する 見 通 しであるし 被 災 地 の 復 興 にはさらに 時 間 と 労 力 を 必 要 とするだろう また 政 府 部 門 は 巨 額 の 財 政 赤 字 を 抱 え 日 本 企 業 は 実 力 以 上 の 円 高 に 苦 しんでいる われわれはどこに 活 路 を 見 出 せばいいのだろ うか 言 い 尽 されたことではあるが 少 子 高 齢 化 の 中 でも 日 本 経 済 が 成 長 発 展 を 続 けてい くためには 国 内 だけでは 限 界 がある 日 本 市 場 は 今 では 世 界 の 8%を 占 めるに 過 ぎない 輸 出 依 存 度 は GDP の 15%だけ という 意 見 もよく 聞 くところだが 食 糧 やエネルギー など 多 くの 資 源 を 海 外 に 依 存 するわが 国 としては 海 外 を 無 視 した 議 論 は 論 外 といえる 幸 いなことに わが 国 が 属 するアジア 太 平 洋 地 域 は 高 いポテンシャルを 秘 めている 日 本 人 や 日 本 企 業 は 今 こそ 海 外 で 大 いに 飛 躍 しなければならない そこで 経 済 政 策 の 基 準 を GDP から GNI に 切 り 替 え 日 本 人 日 本 企 業 が 世 界 全 体 で 行 う 経 済 活 動 を 最 大 化 することを 目 標 に 掲 げてみたい GDP が 日 本 国 内 での 価 値 創 造 であるのに 比 べ GNI とは 日 本 人 が 世 界 全 体 で 行 っている 価 値 創 造 である 日 本 は 世 界 最 大 の 債 権 国 であり 所 得 収 支 は 現 在 GDP 比 3% 程 度 の 規 模 となり 底 堅 く 推 移 してい る 他 方 貿 易 収 支 は 2000 年 代 後 半 から 漸 減 傾 向 となっている 両 者 は 2005 年 度 から 逆 転 し その 後 は 所 得 収 支 の 黒 字 が 貿 易 収 支 の 黒 字 を 上 回 るようになっている 国 際 収 支 の 発 展 段 階 説 で 言 えば 日 本 は 2005 年 頃 を 境 に 未 成 熟 な 債 権 国 から 成 熟 した 債 権 国 へ シフトした 公 算 が 高 い すなわち 現 在 の 日 本 経 済 は 貿 易 立 国 から 投 資 立 国 への 移 行 過 程 にあると 考 えられる 図 2 経 常 収 支 兆 円 30 経 常 収 支 25 20 15 10 5 0 1996 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11(est) 12(est) 経 常 収 支 貿 易 収 支 所 得 収 支 3
(2011 年 12 年 度 は 日 本 貿 易 会 の 予 測 による 2 ) 投 資 立 国 というと かつての 英 国 の 例 がすぐ 念 頭 に 浮 かぶかもしれない 七 つの 海 を 支 配 した 大 英 帝 国 は 早 い 時 期 に 脱 工 業 化 の 過 程 に 入 り 代 わりに 金 融 海 運 保 険 非 鉄 金 属 取 引 などで 世 界 の 中 心 的 な 地 位 を 占 めるようになった 世 界 の 状 況 を 的 確 に 把 握 する ために 新 聞 や 放 送 局 などのメディアも 発 展 を 遂 げた 田 園 地 帯 に 住 み ゴルフや 競 馬 な どの 趣 味 を 楽 しむという 英 国 紳 士 の 暮 らしぶりは 投 資 立 国 たる 英 国 が 生 み 出 したライフ スタイルといえる ただし 投 資 立 国 モデルには 既 に 最 盛 期 を 過 ぎた 国 という 暗 いイメージもある 富 裕 層 は 金 利 で 生 活 することができても 中 産 階 級 以 下 には 就 業 機 会 が 乏 しい 格 差 社 会 となり 企 業 は 繁 栄 しても 家 計 部 門 は 停 滞 している 最 近 の 米 国 における 反 ウォール 街 デモ ある いは 英 国 における 若 者 の 暴 動 などには 成 熟 した 債 権 国 の 陰 の 部 分 が 見 え 隠 れしてい るようにも 感 じられる もしも 日 本 が 投 資 立 国 を 目 指 すのであれば こういった 例 を 真 似 ることなく 日 本 型 の モデルを 生 み 出 す 必 要 がある それは 従 来 のように 中 間 層 が 厚 い 社 会 であり 企 業 部 門 と 家 計 部 門 は 良 好 な 関 係 を 持 つことが 望 ましい 日 本 はまた 長 い 歴 史 に 基 づく 優 れた 地 域 の 絆 (ソーシャル キャピタル)を 持 つ 国 であり そのことは 先 の 震 災 後 の 被 災 地 の 人 々 の 立 派 な 対 応 や 企 業 が 発 揮 した 現 場 力 を 見 ても 健 在 である そういった 社 会 の 強 み を 維 持 していくことも 肝 要 といえよう また 日 本 は 国 際 的 に 開 かれた 国 でなければなら ず 常 に 新 しいものを 生 み 出 すクールな 国 という 最 近 のイメージも 大 切 にしていきたい ところである かつて GDP 大 国 を 目 指 したわが 国 が 新 たに GNI 大 国 を 目 指 す 場 合 には 以 下 に 掲 げ る 3 つのステップが 重 要 である 1. 日 本 人 や 日 本 企 業 が 海 外 で 大 いに 活 躍 すること 2. その 成 果 を 国 内 に 還 元 すること 3. さらに 国 内 の 雇 用 に 結 びつけること 以 下 それぞれのステップについて 必 要 な 課 題 を 考 察 してみたい (3) 第 1 ステップ: 投 資 大 国 になる 貿 易 立 国 ではなく 投 資 立 国 を 目 指 すことを 考 えたとき 現 在 の 円 高 は 苦 難 どころではな く 滅 多 にないバーゲンチャンスということになる 積 極 的 な 対 外 投 資 はそのこと 自 体 が 外 貨 買 い 円 売 りを 意 味 するので 同 時 に 円 高 対 策 にもなる 既 に 多 くの 企 業 が 海 外 企 業 の 買 収 に 着 手 しているが これらは 理 に 適 った 行 動 といえるだろう わが 国 の 大 手 製 造 業 は これまでにも 円 高 対 応 のために 生 産 拠 点 の 再 配 置 を 進 めてきた プラザ 合 意 以 降 の 海 外 進 出 は 東 アジア 各 地 に 有 力 な 産 業 集 積 を 生 み 出 し 現 地 経 済 の 発 2 http://www.jftc.or.jp/research/index2.html 4
展 に 資 するとともに 日 本 企 業 の 国 際 競 争 力 を 強 めてきた しかし 現 状 の 1 ドル 70 円 台 の レートには もう 限 界 との 声 も 少 なくない われわれは 日 本 企 業 は 空 洞 化 を 恐 れず さらに 積 極 的 に 外 へ 打 って 出 るべきであると 考 える そもそも 空 洞 化 への 懸 念 とは なるべく 多 くの 雇 用 を 国 内 にとどめておこうとす る GDP 最 大 化 時 代 の 発 想 である これに 対 し 日 本 企 業 が 内 外 一 体 で 活 動 を 広 げるこ とにより 海 外 に 新 たな 拠 点 を 生 み 出 しつつ トータルでより 多 くのリターンを 得 ようと するのが GNI 最 大 化 の 戦 略 である グローバル 化 を 推 進 している 企 業 は けっして 国 内 の 雇 用 を 減 らしているわけではない ゼロサムゲームの 思 考 に 陥 ることなく 日 本 企 業 は 新 たな 領 域 に 挑 戦 していくべきである 日 本 国 内 には 世 界 最 先 端 の 技 術 を 持 ちながら 低 い 収 益 に 甘 んじている 企 業 が 少 なくな い 内 向 きな 経 営 風 土 や 意 思 決 定 の 遅 さが 仇 になっているケースも 多 いだろう 日 本 企 業 をホームバイアスから 解 放 し ジャパンブランドを 前 面 に 押 し 出 して アウェイで 戦 う 強 い 体 質 を 作 る 必 要 がある 海 外 で 稼 ぐ ことを 考 える 場 合 日 本 が 高 成 長 地 域 であるアジア 太 平 洋 に 位 置 するこ とは 恵 まれた 条 件 といえる 今 日 の 日 本 経 済 は アジアとの 貿 易 が 全 体 の 半 分 以 上 を 占 め ている ところが 投 資 先 は 欧 米 が 中 心 である アジアで 稼 いで 欧 米 で 運 用 する という 図 式 になっているが 将 来 的 には アジアで 稼 いで アジアで 運 用 する ことができれば パフォーマンスはさらに 向 上 するはずである 特 に 欧 州 債 務 危 機 が 広 がりを 見 せる 中 で 金 融 危 機 をアジアに 及 ぼさないことが 死 活 的 に 重 要 である 欧 州 の 金 融 機 関 はアジアで 大 きなエクスポージャー( 与 信 額 )を 有 している < 図 3: 金 融 機 関 の 新 興 国 途 上 国 向 けエクスポージャー> 今 後 彼 らの 体 力 が 低 下 することで 信 用 収 縮 を 招 かないように 日 本 の 金 融 機 関 が 積 極 的 に 進 出 することにより アジアの 安 定 に 貢 献 することが 求 められるだろう 図 3 金 融 機 関 の 新 興 国 途 上 国 向 けエクスポージャー ( 出 所 )BIS(2011 年 10 月 ) 5
すでにチェンマイ イニシアティブにより 日 中 韓 と ASEAN 諸 国 は 相 互 に 外 貨 準 備 を 融 通 することができるようになっている アジアにおいて 安 定 した 金 融 市 場 を 創 造 するこ とは 長 期 的 に 見 て 日 本 の 投 資 家 にとっても 利 益 となる すでに 2003 年 から ASEAN+3の 間 で アジア 債 券 市 場 育 成 イニシアティブ(ABMI) と 呼 ばれる 取 り 組 みが 行 われており アジアにおける 貯 蓄 をアジアに 対 する 投 資 へと 活 用 することを 目 的 としている 今 は 国 債 が 中 心 だが いずれは 社 債 市 場 や 証 券 市 場 を 育 成 し アジアの 高 成 長 を 取 り 込 むことを 目 指 していくべきである アジア 太 平 洋 地 域 の 貿 易 自 由 化 も 重 要 な 課 題 である 日 本 は 経 済 圏 の 創 造 に 向 けて 主 導 的 な 立 場 に 立 つべきであるが 特 に GNI を 伸 ばす 観 点 からは 投 資 やサービスなどの 自 由 化 が 重 要 な 課 題 である 現 在 日 本 の 投 資 協 定 は27に 止 まっているが これはドイツの1 37 中 国 の127 韓 国 の90などに 比 べて 大 きく 後 れをとっていることを 指 摘 して おきたい < 表 1: 投 資 協 定 の 署 名 数 > 表 1 投 資 協 定 の 署 名 数 (2011 年 11 月 現 在 ) 日 本 企 業 を 政 策 的 に 支 援 するために 外 為 特 会 資 金 などを 利 用 して 国 際 協 力 銀 行 (JBIC) や 石 油 天 然 ガス 金 属 鉱 物 資 源 機 構 (JOGMEC) さらには 産 業 革 新 機 構 などを 通 じて 民 間 の 対 外 投 資 を 促 進 する 試 みが 行 われている これらの 政 府 系 機 関 は かつては 民 間 でできることは 民 間 に として 行 革 や 民 営 化 の 対 象 となったものだが 見 方 を 変 えれば これらは 日 本 版 の 国 家 戦 略 ファンド (SWF)として 位 置 付 けることが 可 能 である 進 境 著 しい 新 興 国 の 中 には 国 家 資 本 主 義 的 な 運 営 が 行 われているところも 少 なくない わ が 国 としてもこれら 政 府 系 機 関 の 戦 略 的 な 活 用 と 官 民 協 調 体 制 が 望 まれるところである さらに 言 えば 企 業 だけでなく 人 を 海 外 に 送 り 込 むことも 重 要 である 震 災 後 の 国 民 の 心 理 はとかく 内 向 き になりがちだが ビジネスに 限 らず 観 光 留 学 などの 形 で 国 境 を 越 える 双 方 向 の 人 の 移 動 (インバウンド/アウトバウンド)を 活 発 にすることは GNI の 最 大 化 を 考 える 上 で 重 要 となってくる (4) 第 2 ステップ: 海 外 の 富 を 国 内 へ 還 元 する GNI 最 大 化 を 経 済 政 策 の 目 標 とした 場 合 重 要 になってくるのは 海 外 で 稼 いだ 富 を 国 内 に 還 元 することである 6
日 本 企 業 が 海 外 で 稼 いだ 利 益 が 本 国 に 持 ち 帰 って 所 得 として 計 上 され そこから 法 人 税 収 が 国 庫 に 入 れば 問 題 はない しかし 企 業 側 としては 海 外 で 稼 いだ 外 貨 を 円 に 換 える ことで 為 替 差 損 が 発 生 することを 嫌 うケースもあるだろう ここで 重 要 なことは 海 外 に おける 企 業 の 所 得 を 国 内 に 還 流 させやすくする 税 制 のあり 方 である 例 えば 米 国 における 本 国 投 資 法 は 時 限 立 法 で 使 途 を 限 定 しつつ 本 国 への 送 金 を 優 遇 する 手 法 をとった これに 対 しわが 国 では 2009 年 に 海 外 子 会 社 からの 配 当 を 使 途 を 限 定 せず 原 則 非 課 税 とする 制 度 が 導 入 された そのお 陰 でリーマンショック 以 降 世 界 経 済 が 減 速 して 収 益 が 減 少 する 中 にあっても 国 内 に 還 流 する 配 当 金 は 安 定 的 に 推 移 している このことにとどまらず 送 金 規 制 や 技 術 供 与 の 対 価 に 関 する 当 該 国 の 制 度 の 改 善 を 求 め あるいは 租 税 条 約 ネットワークを 拡 充 するなどして 海 外 資 金 の 還 流 を 阻 害 する 要 因 を 除 去 していく 必 要 がある こういった 意 味 でも 前 述 の 投 資 協 定 の 締 結 は 重 要 である 次 なる 課 題 は 企 業 部 門 から 家 計 部 門 への 資 金 移 動 である 従 来 であれば 企 業 収 益 は いずれ 配 当 や 賃 金 といった 形 で 支 出 され 家 計 部 門 に 還 流 することが 当 たり 前 で あった しかし 21 世 紀 に 入 った 頃 から 企 業 部 門 が 高 収 益 を 上 げても それが 家 計 部 門 に は 還 流 せず 結 果 として 個 人 消 費 が 盛 り 上 がらないという 状 態 が 続 いている このことは 昨 今 の 米 国 経 済 でも 顕 著 な 傾 向 であり 強 い 企 業 と 弱 い 家 計 が 併 存 し 反 ウォール 街 デモ を 招 く 一 因 となっている 特 に 企 業 が 海 外 で 稼 いだ 所 得 は 配 当 原 資 や 雇 用 には 向 かいにくい 傾 向 がある しかし なるべくなら 企 業 が 雇 用 を 増 やすことによって 家 計 部 門 にも 資 金 がいきわたり 好 景 気 を 長 期 化 させる 方 が 全 体 の 利 益 となるはずである 経 済 の 供 給 サイドばかりではなく 需 要 サイドにも 目 配 りをすることが 全 体 最 適 を 生 み 出 す 近 道 であることを 強 調 しておきた い 家 計 が 直 接 世 界 の 経 済 成 長 の 果 実 を 得 るルートも 考 えておくべきであろう グローバ ル 企 業 の 成 長 が 資 産 効 果 を 通 じて 家 計 部 門 に 浸 透 することがもっとも 効 果 的 である そ のための 具 体 策 のひとつとして 日 本 版 401K を 活 用 して アジアの 成 長 を 年 金 パフォ ーマンスに 反 映 させることを 提 案 したい 必 要 とされているのは アンチ 企 業 ではなく かといって 財 界 べったり でもなく ほどよい 緊 張 関 係 を 持 った プロ ビジネス 政 治 である (5) 第 3 ステップ: 国 内 の 雇 用 を 増 加 させる 最 後 に 内 外 の 経 済 成 長 による 果 実 をもとに 国 内 の 雇 用 を 増 加 させることが 必 要 であ る 前 述 の 通 り GNI を 軸 に 経 済 政 策 を 考 える 場 合 企 業 の 海 外 移 転 はけっして 悪 いことで はない それでは 国 内 の 雇 用 が 失 われる という 懸 念 は 当 然 あるだろう しかし 戸 堂 康 之 東 大 教 授 の 研 究 によれば 製 造 拠 点 を 海 外 に 移 した 企 業 はむしろ 雇 用 を 増 やしているとい う 実 際 に 建 設 機 械 で 圧 倒 的 な 地 位 を 持 つコマツは 発 祥 の 地 である 小 松 市 の 製 造 拠 点 の 7
跡 地 に 研 修 施 設 を 立 地 している この 場 合 仕 事 の 中 身 は 変 わることになるが 地 元 には 新 たな 雇 用 が 生 じることになる 大 切 なことは 企 業 がグローバル 化 を 進 めて 成 長 と 繁 栄 を 続 けることである 世 界 で 活 躍 できる 高 い 潜 在 能 力 を 持 ちながら 日 本 国 内 に 埋 もれている 臥 龍 企 業 をグローバル 化 によって 可 能 性 を 解 き 放 つことにより 新 たな 雇 用 を 生 み 出 すことが 出 来 るのではない か GNI 戦 略 によってアジアの 成 長 力 を 取 り 込 みつつ 日 本 企 業 が 強 くなることで 新 たな 投 資 余 力 を 生 み 出 すというポジティブ フィードバックを 目 指 すべきである それと 同 時 に 新 しい 分 野 で 雇 用 を 生 み 出 す 努 力 も 欠 かせない 新 分 野 としては 日 本 でも 医 療 介 護 分 野 で 就 業 人 口 が 増 えている この 分 野 では 今 後 20 年 間 に 400 万 人 規 模 の 雇 用 創 出 が 見 込 まれる 図 4:75 歳 以 上 人 口 と 医 療 介 護 分 野 の 就 業 人 口 ただし これは 単 に 福 祉 の 予 算 を 増 やせばいいというものではない 少 子 高 齢 化 時 代 の 日 本 においては まずは 自 助 があり 次 に 共 助 があり 最 後 に 公 助 がある という 形 が 理 想 である 日 本 の 優 れたソーシャル キャピタル( 地 域 の 絆 )を 次 世 代 に 残 していくためにも 社 会 保 障 のあり 方 には 知 恵 が 求 められよう 医 療 介 護 の 分 野 においては むしろ 公 的 保 険 の 範 囲 外 のサービスにチャンスがありそ うだ 今 の 日 本 の 医 療 や 介 護 においては ファーストクラスとエコノミークラスの 中 間 が ない と 言 われている ある 程 度 の 所 得 層 を 対 象 にしたビジネスクラスのサービスを 提 供 することにより 大 きな 需 要 を 開 拓 することができるのではないか 例 えば 独 り 暮 らしの 老 人 が 気 軽 に 頼 める 家 事 代 行 サービスが 広 がれば 供 給 が 需 要 を 8
生 み 出 す 展 開 が 期 待 できよう サービスの 供 給 が 育 っていけば それは 普 通 の 人 にとっ ても 使 い 勝 手 の 良 いビジネスに 発 展 していくはずだ 教 育 保 育 ビジネスにも 大 いに 可 能 性 がある 保 育 ビジネスは 地 域 性 が 大 きく けっし て 高 収 益 のビジネスとはいえないが ここでも 供 給 が 需 要 を 生 み 出 す という 特 質 があ る すなわち 質 の 良 い 保 育 があることで 女 性 の 労 働 参 加 を 促 し 新 たな 人 材 供 給 を 可 能 にすることができるのである 農 林 水 産 業 にも 大 きなチャンスがある 丹 精 込 めて 作 る 日 本 の 食 品 が 世 界 の 食 卓 に 並 んで それを 目 当 てに 世 界 の 人 々が 日 本 にやって 来 る 好 循 環 を 目 指 すべきである さらにいえば 富 裕 層 向 けのビジネスにおいては 日 本 はまだまだ 未 整 備 な 状 態 といえ るのではないだろうか 日 本 の 温 泉 などのサービスには 海 外 の 富 裕 層 をも 惹 きつけてや まないものがあるという 日 本 ならではの 高 度 なサービスは 海 外 展 開 して 新 たなスタン ダードを 生 み 出 すことも 不 可 能 ではないはずである 雇 用 を 新 たに 生 み 出 す 面 では ベンチャー 企 業 の 成 長 に 期 待 するところが 大 きい そこ で 新 たなベンチャー 支 援 策 として 雇 用 者 数 を 前 年 比 で 倍 にした 企 業 は 法 人 税 を 半 額 に するというアイデアはどうだろうか ベンチャー 企 業 の 経 営 者 に 聞 くと 最 初 は 数 人 で 始 めた 会 社 が 軌 道 に 乗 り 始 めると 社 員 数 は 10 人 20 人 と 倍 々ゲームで 増 え 始 める そういう 時 期 が もっとも 経 営 が 苦 しいの だそうだ 難 しい 時 期 を 支 援 することは 意 義 深 いことであるし 仮 に 試 みが 失 敗 に 終 わっ たとしても ベンチャー 企 業 立 ち 上 げの 経 験 を 有 する 若 者 が 増 えることは かならずや 次 の 挑 戦 につながることだろう 雇 用 の 問 題 を 考 える 際 に 避 けて 通 れない 問 題 がある 世 界 的 に 中 間 所 得 層 の 没 落 が 問 題 になっていることだ それは 反 ウォール 街 デモが 訴 えているように 1%の 富 裕 層 が 99% の 普 通 の 人 たちを 搾 取 しているから といった 単 純 な 理 由 からではない 国 際 競 争 の 激 化 や 技 術 の 発 展 産 業 構 造 の 変 化 などの 長 期 的 なトレンドが 背 景 にある この 流 れを 逆 転 さ せるのは 容 易 ではない こうした 中 で 中 間 層 を 維 持 し 日 本 ならではの 社 会 構 造 を 守 っていくためには 所 得 の 再 分 配 も 必 要 であるとわれわれは 考 える ただしそれは 高 所 得 者 から 低 所 得 者 へといっ た 画 一 的 なものではなく 高 齢 者 から 若 年 層 へ 既 得 権 者 から 非 既 得 権 者 へといったさま ざまな 所 得 移 転 を 政 策 的 に 推 進 すべきである GNI 時 代 においては すでにあるストックをいかに 活 用 するかが 重 要 な 意 味 を 持 つ 例 えば 昔 の 日 本 には 養 子 縁 組 という 手 法 によって 高 齢 者 の 資 産 と 有 為 な 若 者 を 結 び 付 ける 知 恵 があった これを 現 代 的 な 手 法 に 置 き 換 えて 資 産 の 有 効 活 用 を 図 ることができ ないだろうか 相 続 税 と 贈 与 税 については 住 宅 減 税 と 組 み 合 わせる 形 ですでに 多 くの 施 策 が 実 施 され ている 最 近 では 住 宅 以 外 にも 親 子 間 や 三 世 代 にわたる 相 続 を 推 進 する 税 制 改 正 が 行 われ ているが 世 代 間 の 所 得 移 転 を 推 進 していくことも 重 要 な 課 題 といえる 国 民 の 金 融 資 産 が 宝 の 持 ち 腐 れ にならぬよう 広 くアイデアを 求 めていきたいところである 9
(6) 包 括 的 な 政 策 体 系 の 構 築 へ 現 在 の 経 済 政 策 は 個 々に 五 月 雨 式 に 議 論 が 行 われており 全 体 としての 戦 略 性 に 乏 しい そこで 包 括 的 な GNI という 軸 を 用 いて 新 たな 政 策 体 系 を 構 築 していくことを 提 案 した い 税 制 については 企 業 や 個 人 が 海 外 に 進 出 したり 投 資 したりすることを 促 進 するための 投 資 優 遇 税 制 や 資 金 の 環 流 を 促 進 するために 必 要 な 措 置 や 阻 害 要 因 の 除 去 を 進 める そ の 上 で 日 本 の 中 間 層 を 維 持 するための 重 要 な 再 分 配 にあたっては 所 得 (フロー)よりも 資 産 (ストック)に 着 目 した 制 度 に 移 行 していく 社 会 保 障 政 策 においては 消 費 税 による 公 的 保 障 の 充 実 を 前 提 とした 上 で さらに 保 険 外 のサービスを 充 実 させるための 施 策 を 推 進 する これにより 中 間 層 が 安 心 して 働 ける 職 場 を 確 保 すると 同 時 に 日 本 人 特 有 の 細 かなサービスを 用 いた 差 別 化 によって 外 国 人 富 裕 層 の 利 用 も 促 進 する 通 商 政 策 においては 物 品 サービスのみならず 投 資 知 財 により 力 点 を 置 いた 経 済 連 携 協 定 の 締 結 を 促 進 する 同 時 に 租 税 協 定 や 社 会 保 障 協 定 の 締 結 を 推 進 する エネルギー 資 源 の 安 定 確 保 のため 海 外 における 権 益 の 確 保 共 同 開 発 など より 川 上 ( 上 流 )を 目 指 すための 政 策 を 展 開 する またアジア 共 同 パイプラインやクラ 地 峡 (マレ ー 半 島 の 最 狭 部 となる 陸 地 )の 航 路 化 などアジア 全 体 のインフラ 整 備 も 積 極 的 に 推 進 して いく 最 後 に 強 調 したいのが 日 本 の GNI 戦 略 を 支 えるための 教 育 の 重 要 性 である 学 校 での 英 語 教 育 のあり 方 から 企 業 のグローバル 展 開 を 支 える 人 材 育 成 まで 課 題 は 広 範 にある 例 えば アジア 六 大 学 を 考 えた 場 合 北 京 大 学 清 華 大 学 上 海 交 通 大 学 香 港 大 学 シンガポール 大 学 あたりが 当 確 となり 東 京 大 学 でさえ かろうじて 6 番 目 の 地 位 をソウ ル 大 学 や 台 湾 大 学 と 競 っているのが 現 状 ではないだろうか いずれにせよ GNI を 経 済 政 策 の 中 心 に 据 えて 考 えてみると なすべきことは 非 常 に 多 いことが 明 らかになってくる と 同 時 に 希 望 も 湧 いてくるし 新 たな 夢 も 描 けるのではな いかと 思 う 読 者 からの 創 造 的 かつ 建 設 的 な 意 見 や 批 判 を 待 つ 次 第 である 以 上 10