日本の通商戦略の課題と将来展望



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Microsoft PowerPoint - 報告書(概要).ppt

平成25年度 独立行政法人日本学生支援機構の役職員の報酬・給与等について

公表表紙

Microsoft Word - 目次.doc

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スライド 1

●電力自由化推進法案

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公 的 年 金 制 度 について 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 め 将 来 の 世 代 の 給 付 水 準 の 確 保 等 を 図 るため 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 に 基 づく 社 会 経 済 情

18 国立高等専門学校機構

1 総 合 設 計 一 定 規 模 以 上 の 敷 地 面 積 及 び 一 定 割 合 以 上 の 空 地 を 有 する 建 築 計 画 について 特 定 行 政 庁 の 許 可 により 容 積 率 斜 線 制 限 などの 制 限 を 緩 和 する 制 度 である 建 築 敷 地 の 共 同 化 や

m07 北見工業大学 様式①

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

私立大学等研究設備整備費等補助金(私立大学等

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平成24年度税制改正要望 公募結果 153. 不動産取得税


Microsoft Word - 佐野市生活排水処理構想(案).doc

質 問 票 ( 様 式 3) 質 問 番 号 62-1 質 問 内 容 鑑 定 評 価 依 頼 先 は 千 葉 県 などは 入 札 制 度 にしているが 神 奈 川 県 は 入 札 なのか?または 随 契 なのか?その 理 由 は? 地 価 調 査 業 務 は 単 にそれぞれの 地 点 の 鑑 定

Ⅰ 人 口 の 現 状 分 析 Ⅰ 人 口 の 現 状 分 析 1 人

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16 日本学生支援機構

課 税 ベ ー ス の 拡 大 等 : - 租 税 特 別 措 置 の 見 直 し ( 後 掲 ) - 減 価 償 却 の 見 直 し ( 建 物 附 属 設 備 構 築 物 の 償 却 方 法 を 定 額 法 に 一 本 化 ) - 欠 損 金 繰 越 控 除 の 更 な る 見 直 し ( 大

別 紙 第 号 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 議 案 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 を 次 のように 定 める 平 成 26 年 2 月 日 提 出 高 知 県 知 事 尾

●幼児教育振興法案

セルフメディケーション推進のための一般用医薬品等に関する所得控除制度の創設(個別要望事項:HP掲載用)

その 他 事 業 推 進 体 制 平 成 20 年 3 月 26 日 に 石 垣 島 国 営 土 地 改 良 事 業 推 進 協 議 会 を 設 立 し 事 業 を 推 進 ( 構 成 : 石 垣 市 石 垣 市 議 会 石 垣 島 土 地 改 良 区 石 垣 市 農 業 委 員 会 沖 縄 県 農

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就 学 前 教 育 保 育 の 実 施 状 況 ( 平 成 23 年 度 ) 3 歳 以 上 児 の 多 く(4 歳 以 上 児 はほとんど)が 保 育 所 又 は 幼 稚 園 に 入 所 3 歳 未 満 児 (0~2 歳 児 )で 保 育 所 に 入 所 している 割 合 は 約 2 割 就 学

弁護士報酬規定(抜粋)

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預 金 を 確 保 しつつ 資 金 調 達 手 段 も 確 保 する 収 益 性 を 示 す 指 標 として 営 業 利 益 率 を 採 用 し 営 業 利 益 率 の 目 安 となる 数 値 を 公 表 する 株 主 の 皆 様 への 還 元 については 持 続 的 な 成 長 による 配 当 可

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検 討 検 討 の 進 め 方 検 討 状 況 簡 易 収 支 の 世 帯 からサンプリング 世 帯 名 作 成 事 務 の 廃 止 4 5 必 要 な 世 帯 数 の 確 保 が 可 能 か 簡 易 収 支 を 実 施 している 民 間 事 業 者 との 連 絡 等 に 伴 う 事 務 の 複 雑

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社 会 保 障 税 一 体 改 革 ( 年 金 分 野 )の 経 緯 社 会 保 障 税 一 体 改 革 大 綱 (2 月 17 日 閣 議 決 定 ) 国 年 法 等 改 正 法 案 (2 月 10 日 提 出 ) 法 案 を 提 出 する または 法 案 提 出 を 検 討 する と された 事

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は 固 定 流 動 及 び 繰 延 に 区 分 することとし 減 価 償 却 を 行 うべき 固 定 の 取 得 又 は 改 良 に 充 てるための 補 助 金 等 の 交 付 を 受 けた 場 合 にお いては その 交 付 を 受 けた 金 額 に 相 当 する 額 を 長 期 前 受 金 とし

 

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文化政策情報システムの運用等

1 予 算 の 姿 ( 平 成 25 当 初 予 算 ) 長 野 県 財 政 の 状 況 H 現 在 長 野 県 の 予 算 を 歳 入 面 から 見 ると 自 主 財 源 の 根 幹 である 県 税 が 全 体 の5 分 の1 程 度 しかなく 地 方 交 付 税 や 国 庫 支

ていることから それに 先 行 する 形 で 下 請 業 者 についても 対 策 を 講 じることとしまし た 本 県 としましては それまでの 間 に 未 加 入 の 建 設 業 者 に 加 入 していただきますよう 28 年 4 月 から 実 施 することとしました 問 6 公 共 工 事 の

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(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 き 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている

1 特 別 会 計 財 務 書 類 の 検 査 特 別 会 計 に 関 する 法 律 ( 平 成 19 年 法 律 第 23 号 以 下 法 という ) 第 19 条 第 1 項 の 規 定 に 基 づき 所 管 大 臣 は 毎 会 計 年 度 その 管 理 する 特 別 会 計 について 資 産

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市街化区域と市街化調整区域との区分

目 次 高 山 市 連 結 財 務 諸 表 について 1 連 結 貸 借 対 照 表 2 連 結 行 政 コスト 計 算 書 4 連 結 純 資 産 変 動 計 算 書 6 連 結 資 金 収 支 計 算 書 7

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(1) 率 等 一 覧 ( 平 成 26 年 度 ) 目 課 客 体 及 び 納 義 務 者 課 標 準 及 び 率 法 内 に 住 所 を 有 する ( 均 等 割 所 得 割 ) 内 に 事 務 所 事 業 所 又 は 家 屋 敷 を 有 する で 内 に 住 所 を 有 し ないもの( 均 等

6 構 造 等 コンクリートブロック 造 平 屋 建 て4 戸 長 屋 16 棟 64 戸 建 築 年 1 戸 当 床 面 積 棟 数 住 戸 改 善 後 床 面 積 昭 和 42 年 36.00m m2 昭 和 43 年 36.50m m2 昭 和 44 年 36.

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容 積 率 制 限 の 概 要 1 容 積 率 制 限 の 目 的 地 域 で 行 われる 各 種 の 社 会 経 済 活 動 の 総 量 を 誘 導 することにより 建 築 物 と 道 路 等 の 公 共 施 設 とのバランスを 確 保 することを 目 的 として 行 われており 市 街 地 環

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定 性 的 情 報 財 務 諸 表 等 1. 連 結 経 営 成 績 に 関 する 定 性 的 情 報 当 第 3 四 半 期 連 結 累 計 期 間 の 業 績 は 売 上 高 につきましては 前 年 同 四 半 期 累 計 期 間 比 15.1% 減 少 の 454 億 27 百 万 円 となり

3. 選 任 固 定 資 産 評 価 員 は 固 定 資 産 の 評 価 に 関 する 知 識 及 び 経 験 を 有 する 者 のうちから 市 町 村 長 が 当 該 市 町 村 の 議 会 の 同 意 を 得 て 選 任 する 二 以 上 の 市 町 村 の 長 は 当 該 市 町 村 の 議

為 が 行 われるおそれがある 場 合 に 都 道 府 県 公 安 委 員 会 がその 指 定 暴 力 団 等 を 特 定 抗 争 指 定 暴 力 団 等 として 指 定 し その 所 属 する 指 定 暴 力 団 員 が 警 戒 区 域 内 において 暴 力 団 の 事 務 所 を 新 たに 設

退職手当とは

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Ⅶ 東 海 地 震 に 関 して 注 意 情 報 発 表 時 及 び 警 戒 宣 言 発 令 時 の 対 応 大 規 模 地 震 対 策 特 別 措 置 法 第 6 条 の 規 定 に 基 づき 本 県 の 東 海 地 震 に 係 る 地 震 防 災 対 策 強 化 地 域 において 東 海 地 震

(2) 地 域 の 実 情 に 応 じた 子 ども 子 育 て 支 援 の 充 実 保 育 の 必 要 な 子 どものいる 家 庭 だけでなく 地 域 の 実 情 に 応 じた 子 ども 子 育 て 支 援 の 充 実 のために 利 用 者 支 援 事 業 や 地 域 子 育 て 支 援 事 業 な

03 平成28年度文部科学省税制改正要望事項

った 場 合 など 監 事 の 任 務 懈 怠 の 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 減 算 する (8) 役 員 の 法 人 に 対 する 特 段 の 貢 献 が 認 められる 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 加 算 することができる

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注 記 事 項 (1) 当 四 半 期 連 結 累 計 期 間 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 : 無 (2) 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 : 有 ( 注 ) 詳 細 は 添 付 資 料 4ページ 2.サマリー 情 報 (

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リング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 に 係 る 繰 延 税 金 資 産 について 回 収 可 能 性 がないも のとする 原 則 的 な 取 扱 いに 対 して スケジューリング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 を 回 収 できることを 反 証 できる 場 合 に 原 則

参 考 改 正 災 害 対 策 基 本 法 1 ( 災 害 時 における 車 両 の 移 動 等 ) 第 七 十 六 条 の 六 道 路 管 理 者 は その 管 理 する 道 路 の 存 する 都 道 府 県 又 はこれに 隣 接 し 若 しくは 近 接 する 都 道 府 県 の 地 域 に 係

頸 がん 予 防 措 置 の 実 施 の 推 進 のために 講 ずる 具 体 的 な 施 策 等 について 定 めることにより 子 宮 頸 がんの 確 実 な 予 防 を 図 ることを 目 的 とする ( 定 義 ) 第 二 条 この 法 律 において 子 宮 頸 がん 予 防 措 置 とは 子 宮

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経 常 収 支 差 引 額 の 状 況 平 成 22 年 度 平 成 21 年 度 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 4,154 億 円 5,234 億 円 1,080 億 円 改 善 赤 字 組 合 の 赤 字 総 額 4,836 億 円 5,636 億 円 800 億 円 減

既 存 建 築 物 の 建 替 市 街 化 調 整 区 域 で 許 可 を 不 要 とする 取 扱 いについて 既 存 建 築 物 の 建 替 は 以 下 の1)~3)をすべて 満 たしている 場 合 に 可 能 です 1) 建 替 前 の 建 築 物 ( 以 下 既 存 建 築 物 という )につ

1 林 地 台 帳 整 備 マニュアル( 案 )について 林 地 台 帳 整 備 マニュアル( 案 )の 構 成 構 成 記 載 内 容 第 1 章 はじめに 本 マニュアルの 目 的 記 載 内 容 について 説 明 しています 第 2 章 第 3 章 第 4 章 第 5 章 第 6 章 林 地

新 市 建 設 計 画 の 変 更 に 係 る 新 旧 対 照 表 ページ 変 更 後 変 更 前 表 紙 安 中 市 松 井 田 町 合 併 協 議 会 安 中 市 松 井 田 町 合 併 協 議 会 平 成 27 年 3 月 変 更 安 中 市 6 2. 計 画 策 定 の 方 針 (3) 計


技 能 労 務 職 公 務 員 民 間 参 考 区 分 平 均 年 齢 職 員 数 平 均 給 与 月 額 平 均 給 与 月 額 平 均 給 料 月 額 (A) ( 国 ベース) 平 均 年 齢 平 均 給 与 月 額 対 応 する 民 間 の 類 似 職 種 東 庄 町 51.3 歳 18 77

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目 次 はじめに タスクフォース 委 員 一 覧 iv v 序 章 日 本 の 通 商 戦 略 の 課 題 と 将 来 展 望 1 ( 浦 田 秀 次 郎 ) 1. 問 題 の 所 在 とプロジェクトの 目 的 1 2.グローバリゼーションとリージョナリゼーションが 同 時 進 行 する 世 界 経 済 2 3. 厳 しい 状 況 に 置 かれている 日 本 経 済 14 4. 日 本 経 済 復 活 へ 向 けての 提 言 :TPP への 参 加 と RCEP の 推 進 18 第 1 章 日 本 の FTA 戦 略 と TPP 21 ( 石 川 幸 一 ) 1.はじめに 21 2. 日 本 の FTA 戦 略 と FTA の 現 状 21 3. 日 本 の 締 結 した FTA とその 特 徴 24 4. 環 太 平 洋 経 済 連 携 協 定 (TPP) 27 5.TPP の 交 渉 の 概 要 と 論 点 29 6.TPP で 獲 得 実 現 すべき 事 項 と 懸 念 事 項 37 7.おわりに: 課 題 と 提 言 43 第 2 章 日 本 の 対 東 アジア 通 商 戦 略 46 ( 木 村 福 成 ) 1. 東 アジアの 経 済 成 長 と 新 たな 国 際 分 業 46 2. 東 アジアと 日 本 経 済 48 3. 新 たな 国 際 経 済 秩 序 の 構 築 と 地 域 主 義 49 4. 東 アジア 広 域 FTA に 向 けての 動 き 52 5. 東 アジアの 開 発 アジェンダ 56 6. 政 策 提 言 58 i

第 3 章 東 アジア 経 済 統 合 の 新 段 階 61 ( 深 川 由 起 子 ) 1.はじめに 61 2. 東 アジア 経 済 統 合 の 新 段 階 と 日 中 韓 FTA 61 3. 日 中 韓 FTA をめぐる 環 境 変 化 68 4. 制 度 収 斂 への 戦 略 的 アジェンダ 70 5. 政 策 提 言 に 代 えて 73 第 4 章 日 本 の 対 外 農 業 政 策 と 今 後 の 展 開 75 ( 本 間 正 義 ) 1.はじめに 75 2. 日 本 の 農 産 物 貿 易 と 貿 易 政 策 の 変 遷 76 3.FTA の 進 展 と 農 業 問 題 78 4. 今 日 のグローバル 化 の 意 義 81 5.TPP と 今 後 の 展 開 83 6. 日 本 農 業 の 対 外 政 策 のこれから むすびにかえて 85 第 5 章 サービス 貿 易 等 における 日 本 の 通 商 政 策 とその 課 題 92 ( 石 戸 光 ) 1.はじめに:サービス 貿 易 拡 大 の 重 要 性 92 2. 個 別 サービス 等 分 野 の 動 向 および 通 商 政 策 課 題 93 3. 日 本 の GATS 約 束 表 と FTA における WTO プラス 115 4. 総 括 および 政 策 提 言 123 第 6 章 貿 易 自 由 化 交 渉 と 人 の 移 動 をめぐる 政 策 課 題 126 ( 井 口 泰 ) 1. 問 題 の 所 在 経 済 統 合 と 国 際 的 な 人 の 移 動 の 関 係 126 2.WTO 設 立 協 定 と 国 際 的 な 人 の 移 動 128 3.アジア 太 平 洋 地 域 における 事 実 上 の 経 済 統 合 と 人 口 変 動 130 4. 日 本 における 外 国 人 雇 用 人 口 の 変 化 と 政 策 課 題 138 5. 結 論 FTA TPP を 補 完 する 人 材 交 流 を 145 ii

第 7 章 エネルギー 問 題 と 通 商 政 策 150 ( 石 田 博 之 ) 1. 序 論 150 2. 日 本 のエネルギー 需 給 150 3. 日 本 のエネルギー 安 全 保 障 政 策 154 4. 日 本 を 取 り 巻 く 環 境 変 化 155 5. 日 本 の 対 応 162 6.アジアにおけるエネルギー 協 力 と 政 策 強 化 の 可 能 性 164 第 8 章 TPP FTAAP の 経 済 効 果 分 析 170 ( 板 倉 健 ) 1.はじめに 170 2.GTAP データベースおよび 分 析 モデルの 概 略 170 3. 日 本 についてのシミュレーション 結 果 174 4.まとめと 今 後 の 課 題 177 第 9 章 自 由 貿 易 をめぐる 選 好 形 成 メカニズムとその 国 際 比 較 188 ( 久 野 新 ) 1.はじめに 188 2. 検 定 可 能 な 仮 説 および 実 証 分 析 のモデル 189 3.データ 191 4. 実 証 分 析 の 結 果 193 5. 結 語 197 第 10 章 通 商 ルール 定 立 の 場 としての WTO 今 後 の 可 能 性 204 ( 小 寺 彰 ) 1.はじめに 204 2.WTO の 構 造 的 変 化 206 3.WTO の 今 後 の 役 割 211 4.まとめ 218 iii

はじめに 日 本 経 済 は 東 日 本 大 震 災 による 大 きな 落 ち 込 みからはほぼ 回 復 したが 電 力 の 安 定 供 給 への 不 安 など 経 済 活 動 の 本 格 的 な 復 活 には 様 々な 障 害 がある 昨 年 は 大 震 災 による 生 産 低 迷 原 発 事 故 に 伴 う 原 油 輸 入 の 拡 大 円 高 による 輸 出 減 少 などを 背 景 として 31 年 ぶり に 貿 易 収 支 が 赤 字 となり 日 本 経 済 の 将 来 に 対 する 懸 念 が 高 まっている 実 際 日 本 経 済 は 短 期 的 な 問 題 以 外 にも 人 口 減 少 少 子 高 齢 化 深 刻 な 財 政 状 況 閉 鎖 的 な 経 済 といっ た 中 長 期 的 な 問 題 を 抱 えており これらへの 適 切 な 対 応 がなければ 日 本 経 済 の 将 来 は 極 めて 悲 観 的 なものにならざるをえない 日 本 経 済 の 置 かれた 環 境 は 非 常 に 厳 しいが 日 本 を 取 り 巻 く 世 界 および 地 域 経 済 で 生 じ ている 潮 流 グローバリゼーションとリージョナリゼーションの 同 時 進 行 は 日 本 経 済 の 再 生 への 好 機 である 中 国 やインドなどの BRICs や 東 アジア 諸 国 などでは 市 場 開 放 に よる 貿 易 や 直 接 投 資 の 拡 大 を 通 じて 経 済 成 長 を 実 現 させている 市 場 の 開 放 は 競 争 圧 力 強 化 を 通 じて 生 産 の 効 率 性 を 向 上 させ 結 果 として 輸 出 増 加 を 可 能 にする 直 接 投 資 流 出 入 の 拡 大 も 効 率 的 生 産 を 可 能 にすることから 経 済 成 長 を 推 進 する さらに 人 の 国 際 間 移 動 の 活 発 化 も 経 済 成 長 に 寄 与 するだろう こうした 問 題 意 識 のもと 21 世 紀 政 策 研 究 所 は 研 究 プロジェクトを 立 ち 上 げ 日 本 経 済 の 復 活 および 国 民 の 経 済 厚 生 向 上 を 実 現 させる 通 商 戦 略 のあり 方 について 様 々な 視 点 か ら 分 析 してきた 本 報 告 書 はその 成 果 をとりまとめたものである 今 後 の 日 本 の 通 商 戦 略 を 考 える 上 で 本 報 告 書 が 参 考 になれば 幸 いである 21 世 紀 政 策 研 究 所 研 究 主 幹 浦 田 秀 次 郎 本 報 告 書 は 21 世 紀 政 策 研 究 所 の 研 究 成 果 であり 経 団 連 の 見 解 を 示 すものではない iv

タスクフォース 委 員 一 覧 研 究 主 幹 浦 田 秀 次 郎 早 稲 田 大 学 大 学 院 アジア 太 平 洋 研 究 科 教 授 委 員 ( 五 十 音 順 ) 井 口 泰 関 西 学 院 大 学 経 済 学 部 教 授 石 川 幸 一 石 田 博 之 亜 細 亜 大 学 アジア 研 究 所 教 授 青 山 学 院 大 学 社 会 情 報 学 部 教 授 石 戸 光 千 葉 大 学 法 経 学 部 准 教 授 板 倉 健 名 古 屋 市 立 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 准 教 授 木 村 福 成 慶 應 義 塾 大 学 経 済 学 部 教 授 久 野 新 杏 林 大 学 総 合 政 策 学 部 講 師 小 寺 彰 東 京 大 学 大 学 院 総 合 文 化 研 究 科 教 授 深 川 由 起 子 本 間 正 義 早 稲 田 大 学 政 治 経 済 学 部 教 授 東 京 大 学 大 学 院 農 学 生 命 科 学 研 究 科 教 授 v

序 章 日 本 の 通 商 戦 略 の 課 題 と 将 来 展 望 早 稲 田 大 学 大 学 院 アジア 太 平 洋 研 究 科 教 授 浦 田 秀 次 郎 1. 問 題 の 所 在 とプロジェクトの 目 的 日 本 経 済 は 東 日 本 大 震 災 から 一 年 経 過 して 震 災 による 大 きな 落 ち 込 みから 回 復 し 工 業 水 準 は ほぼ 震 災 前 の 水 準 まで 戻 った ただし 震 災 により 大 きな 被 害 を 受 けた 東 北 地 区 の 産 業 は 依 然 として 厳 しい 状 況 にある また 原 発 再 稼 働 が 厳 しい 状 況 にあることから 電 力 の 安 定 的 供 給 に 支 障 をきたす 可 能 性 もあり 順 調 な 経 済 活 動 を 復 活 させるには 様 々 な 障 害 がある 昨 年 は 大 震 災 による 生 産 活 動 の 低 迷 原 発 に 代 わるエネルギーの 供 給 源 である 原 油 の 輸 入 拡 大 円 高 による 輸 出 低 下 などにより 31 年 ぶりに 日 本 の 貿 易 収 支 が 赤 字 になり 日 本 経 済 の 将 来 に 対 する 不 安 が 活 発 に 議 論 されるようになった 実 際 日 本 経 済 は 上 述 したような 短 期 的 な 問 題 を 抱 えているだけではなく 中 長 期 的 にみると 人 口 減 少 少 子 高 齢 化 深 刻 な 財 政 状 況 閉 鎖 的 な 経 済 といった 問 題 を 抱 えており これらの 問 題 に 対 して 適 切 な 対 応 ができなければ 日 本 経 済 の 将 来 は 極 めて 悲 観 的 なものになってし まう 日 本 経 済 の 置 かれている 環 境 は 非 常 に 厳 しいが 日 本 を 取 り 巻 く 世 界 および 地 域 経 済 の 進 展 は 日 本 経 済 の 再 生 を 可 能 にするような 機 会 を 提 供 している 具 体 的 には 世 界 経 済 で は グローバリゼーションとリージョナリゼーションが 同 時 に 進 行 しており それらによっ て 与 えられるビジネスチャンスをとらえることで 日 本 経 済 の 再 生 を 実 現 させることは 可 能 であろう 実 際 近 年 継 続 的 に 高 成 長 を 記 録 している 中 国 やインドなどの BRICs に 属 する 国 々や 着 実 に 成 長 を 実 現 させている 東 アジア 諸 国 など 所 謂 新 興 国 は それらによって 与 え られたビジネスチャンスを 的 確 にとらえている これらの 国 々は 市 場 を 開 放 することで 貿 易 や 直 接 投 資 の 拡 大 を 通 じて 経 済 成 長 を 実 現 させている 市 場 の 開 放 は 輸 入 増 加 による 競 争 圧 力 強 化 を 通 じて 生 産 の 効 率 性 競 争 力 を 向 上 させる 生 産 における 効 率 性 競 争 力 の 向 上 は 輸 出 増 加 を 可 能 にする 他 方 直 接 投 資 流 出 入 の 拡 大 も 効 率 的 生 産 を 可 能 にする ことから 経 済 成 長 を 推 進 する さらに 人 の 国 際 間 移 動 の 活 発 化 も 経 済 成 長 に 寄 与 する 以 上 のような 認 識 に 基 づいて 本 プロジェクトでは 日 本 経 済 の 成 長 を 復 活 させ 国 民 の 1

経 済 厚 生 を 高 めるような 通 商 政 策 を 様 々な 視 点 から 分 析 し 提 言 をまとめる 以 下 では 始 めに 各 論 文 で 議 論 される 諸 問 題 に 対 する 本 プロジェクトでの 位 置 づけに 関 する 理 解 を 深 めるために 上 述 した 世 界 経 済 および 日 本 経 済 における 現 状 について より 詳 しく 議 論 を 展 開 する その 後 各 章 で 提 示 された 政 策 提 言 をもとに 本 プロジェクトとしての 政 策 提 言 を 纏 める 2.グローバリゼーションとリージョナリゼーションが 同 時 進 行 する 世 界 経 済 (1)グローバリゼーションの 進 展 近 年 における 世 界 経 済 では 世 界 化 (グローバリゼーション)と 地 域 化 (リージョナリ ゼーション 地 域 統 合 )が 同 時 進 行 している ヒト モノ カネが 国 境 を 越 えて 世 界 大 で 活 発 に 移 動 するようになり 経 済 のグローバリゼーションが 急 速 に 進 展 している 図 表 1 には 経 常 米 ドルで 計 測 した 世 界 の 国 内 総 生 産 (GDP) 貿 易 および 直 接 投 資 について 1970 年 の 数 値 を 100 として 指 数 化 された 数 値 が 示 されている 1 ここで 貿 易 はモノの 国 際 間 移 動 を 捉 えているのに 対 し 直 接 投 資 はカネの 国 際 間 移 動 を 捉 えている それらの 数 値 によれば 世 界 の GDP は 1970 年 から 2010 年 の 40 年 の 間 に 約 22 倍 増 加 したが 一 方 貿 易 と 直 接 投 資 は 各 々 50 倍 および 93 倍 に 増 加 した 国 内 経 済 活 動 (GDP)と 比 べて 国 際 経 済 活 動 ( 貿 易 直 接 投 資 )がより 急 速 に 拡 大 したというこの 観 察 結 果 は グローバ リゼーションの 進 展 を 示 している 但 し 国 際 経 済 活 動 については 貿 易 の 伸 びは 一 貫 し ているのに 対 し 直 接 投 資 については 振 幅 が 大 きいという 特 徴 を 持 つことを 記 しておき たい カネの 面 でのグローバリゼーションについては 直 接 投 資 の 動 きを 見 たが カネ( 資 金 ) の 形 態 としては 直 接 投 資 だけではなく 証 券 投 資 銀 行 融 資 など 様 々なものがある し かしながら 直 接 投 資 と 比 べて 他 の 資 金 についての 統 計 は 未 整 備 の 部 分 が 多 いことから 一 般 に 世 界 の 金 融 の 状 況 は 推 計 値 という 形 で 捉 えられている 例 えば Crafts(2000)によ れば 世 界 の 対 外 資 産 (ストック) GDP 比 率 は 1960 年 には 6.4%であったが 80 年 には 17.7% 95 年 には 56.8%と 80 年 以 降 大 きく 拡 大 している この 数 値 は 上 述 した 直 接 投 資 に 関 する 観 察 結 果 と 同 じように 金 融 部 門 におけるグローバリゼーションが 近 年 急 速 に 進 展 したことを 示 している 1 ここでは 直 接 投 資 をフローとして 捉 えている 直 接 投 資 の 捉 え 方 としてはある 一 定 期 間 ( 多 くの 場 合 は 一 年 )に 行 われた 投 資 の 額 を 示 すフローとある 一 時 点 における 投 資 の 累 積 額 を 示 すストックの 二 つ があるが GDP と 貿 易 はフローで 捉 えていることから ここでは 直 接 投 資 もフローで 捉 えている 2

図 表 1 グローバリゼーションの 進 展 : 世 界 の GDP 貿 易 直 接 投 資 16000 1970 年 =100 14000 12000 10000 8000 GDP 貿 易 直 接 投 資 6000 4000 2000 0 出 所 :World Bank World Development Indicators on line および UNCTAD UNCTADstat on line. ヒトの 移 動 に 関 しては 信 頼 できる 情 報 が 乏 しいが 世 界 銀 行 によると 世 界 での 移 民 規 模 (ストック)は 60 年 には 7000 万 人 であったのが 30 年 後 の 90 年 には 2 倍 以 上 の 1 億 5500 万 人 に 増 加 し 2010 年 には 2 億 1350 万 人 に 達 している 2 世 界 人 口 との 比 率 で 見 ると 60 年 には 2.64%であったが 90 年 には 2.95%に 上 昇 し 2010 年 には 3.13%へとさらに 上 昇 した 移 民 は 長 期 的 な 人 口 移 動 を 表 わしているのに 対 して グローバリゼーションにおけ るヒトの 移 動 といった 場 合 には より 短 期 のヒトの 移 動 を 意 味 する 場 合 が 多 いように 思 わ れる そのようなヒトの 移 動 に 注 目 してグローバリゼーションを 捉 えた 場 合 には ビジネ スマンの 短 期 および 中 長 期 の 国 境 移 動 の 動 向 を 検 討 することが 望 ましいが そのような 情 報 を 入 手 するのは 難 しい そこで 旅 行 者 ( 観 光 客 )の 国 境 移 動 でヒトのグローバリゼー ションを 捉 えてみる 世 界 銀 行 によると 世 界 の 観 光 客 の 入 国 者 数 は 95 年 には 5 億 4 千 万 人 であったが 2000 年 には 6 億 9 千 万 人 2009 年 には 8 億 9 千 万 人 へと 急 増 している 3 これらの 観 察 結 果 は ヒトのグローバリゼーションが 進 展 していることを 示 している 2 3 World Bank, World Development Indicators, http://databank.worldbank.org/ddp/home.do 同 上 3

モノが 貿 易 を 通 じて 国 境 を 超 えるだけではなく ヒトや 資 本 などの 生 産 要 素 が 国 境 を 越 えて 移 動 するようになったことで 各 国 間 の 繋 がりはより 緊 密 になった 例 えば 直 接 投 資 を 通 して 多 国 籍 企 業 が 海 外 に 子 会 社 を 設 立 するようになったことで 子 会 社 を 経 営 する 外 国 の 経 営 陣 と 子 会 社 で 働 く 労 働 者 が 直 接 に 接 触 するようになった また 海 外 子 会 社 と 現 地 企 業 との 間 では 競 争 の 激 化 や 協 力 関 係 の 緊 密 化 などが 進 んだ 経 済 のグローバリゼーションは 資 源 配 分 の 効 率 性 を 向 上 させただけではなく 技 術 進 歩 を 促 進 させたことにより 世 界 経 済 の 成 長 に 大 いに 貢 献 した 実 際 グローバリゼーショ ンが 急 速 に 進 んだ 80 年 代 後 半 以 降 世 界 経 済 は 著 しい 成 長 を 記 録 した 中 国 や 東 南 アジア 諸 国 連 合 (ASEAN)など 東 アジアの 発 展 途 上 国 はグローバリゼーションによって 与 えられ たビジネス 機 会 を 活 用 したことで 高 成 長 が 達 成 できた 後 述 するように 日 本 はグローバ リゼーションによって 与 えられたビジネス 機 会 を 活 用 できないでいることが 低 成 長 の 一 つの 要 因 である グローバリゼーションを 推 進 している 要 因 としては 制 度 面 での 自 由 化 と 取 引 コストを 低 下 させるような 技 術 進 歩 が 特 に 重 要 である 貿 易 を 推 進 した 制 度 面 での 要 因 としては 関 税 および 非 関 税 障 壁 の 削 減 が 挙 げられる 1948 年 に 関 税 と 貿 易 に 関 する 一 般 協 定 (GATT) が 発 効 し その 後 GATT の 下 で 多 角 的 貿 易 自 由 化 交 渉 が 進 められた GATT は 1995 年 に 世 界 貿 易 機 関 (WTO)として 発 展 的 に 継 承 されるが それまでに 8 回 の 多 角 的 貿 易 交 渉 が 行 われ 先 進 諸 国 の 平 均 関 税 率 は 大 きく 引 き 下 げられた( 図 表 2) 輸 入 数 量 規 制 や 輸 出 自 主 規 制 などの 非 関 税 障 壁 も 60 年 代 から 90 年 代 にかけて 大 きく 削 減 されたが 4 21 世 紀 になってアンチダンピング 税 やセーフガードなど WTO で 認 められている 非 関 税 措 置 の 乱 用 が 目 立 ってきているようである 一 方 発 展 途 上 国 は GATT での 多 角 的 貿 易 交 渉 で は 貿 易 自 由 化 をあまり 進 めてこなかったが 経 済 危 機 に 直 面 した 際 に 世 界 銀 行 や 国 際 通 貨 基 金 からの 資 金 の 借 り 入 れの 条 件 などにより 片 務 的 に 貿 易 自 由 化 を 進 めてきた 80 年 代 以 降 において 発 展 途 上 諸 国 で 貿 易 自 由 化 が 急 速 に 進 められてきたことが 図 表 2 に 示 されてい る 特 に 中 国 やインドなどのアジア NIEs 以 外 のアジアの 発 展 途 上 国 において 自 由 化 の 速 度 が 著 しい 貿 易 の 拡 大 にあたっては 通 関 業 務 の 効 率 化 や 製 品 に 関 する 規 格 標 準 の 各 国 間 での 相 互 承 認 や 統 一 など 貿 易 円 滑 化 の 対 象 となる 制 度 および 制 度 の 運 用 などの 面 での 改 善 が 必 要 である 4 Crafts (2000) Table 2.4 参 照 4

図 表 2 世 界 諸 国 の 関 税 率 30.0 % 25.0 発 展 途 上 国 高 所 得 OECD 諸 国 世 界 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 出 所 :World Bank, Database on Tariffs. 直 接 投 資 政 策 の 自 由 化 もグローバリゼーションを 推 進 した 貿 易 政 策 の 自 由 化 は 関 税 率 で 捉 えられることができたが 直 接 投 資 政 策 の 自 由 化 を 捉 える 適 当 な 指 標 はなかなかない ただし 東 アジア 諸 国 を 始 めとして 世 界 の 多 くの 国 々で 投 資 許 可 分 野 の 拡 大 などにより 直 接 投 資 政 策 が 自 由 化 されてきたことは 明 らかである ただし まだまだ 投 資 可 能 分 野 に 関 する 制 限 や 投 資 審 査 に 係 る 手 続 きの 煩 雑 さなどが 残 っており 自 由 化 および 円 滑 化 の 余 地 が 多 く 残 っている 投 資 や 労 働 などの 生 産 要 素 が 国 境 を 越 えて 移 動 するような 状 況 においては 各 国 間 での 制 度 の 違 いがグローバリゼーションの 障 害 になってくる 既 に 貿 易 の 円 滑 化 に 関 する 議 論 では 製 品 の 規 格 標 準 などの 各 国 間 における 違 いが 貿 易 障 壁 になることを 指 摘 した 知 的 財 産 権 の 保 護 競 争 政 策 政 府 調 達 政 策 などの 国 内 政 策 における 各 国 間 での 制 度 の 違 いが 生 産 要 素 の 移 動 の 障 害 になっている グローバリゼーションの 推 進 には 国 内 制 度 の 相 互 承 認 や 統 一 が 重 要 な 役 割 を 担 っている 技 術 進 歩 や 規 制 改 革 によって 輸 送 コストや 通 信 コストが 低 下 したことも 貿 易 やヒトの 移 動 の 拡 大 に 貢 献 した 旅 行 客 一 マイル 当 たりに 対 する 航 空 サービス 収 入 は 1990 年 米 ドル で 測 って 1950 年 には 0.30 ドルであったが 90 年 には 0.11 ドルまで 低 下 した 5 通 信 コス 5 Masson (2001), Table 1. 5

トの 低 下 はより 顕 著 である ニューヨークからロンドンへの 3 分 間 の 電 話 通 話 料 は 2000 年 米 ドルで 測 って 60 年 には 60.42 ドルであったが 80 年 には 6.32 ドル 2000 年 には 0.40 ドルまで 低 下 した 6 また インターネットの 普 及 によって 通 信 コストが 飛 躍 的 に 低 下 し たことは 改 めて 指 摘 するまでもない (2)リージョナリゼーション( 地 域 統 合 )の 進 展 世 界 経 済 ではグローバリゼーションの 急 速 な 進 展 により 世 界 各 国 における 経 済 関 係 の 緊 密 化 が 進 む 一 方 特 定 地 域 における 経 済 の 緊 密 度 が 増 大 したことで 地 域 経 済 統 合 も 進 行 した 図 表 3 には EU 東 アジア NAFTA メルコスールにおける 貿 易 に 占 める 域 内 貿 易 の 割 合 が 示 されているが 上 昇 トレンドが 読 み 取 れる これらは 貿 易 における 地 域 統 合 が 進 展 したことを 物 語 っている 図 表 3 世 界 各 地 域 の 域 内 貿 易 依 存 度 80 % 東 アジア EU NAFTA 70 Mercosur 60 50 40 30 20 10 0 出 所 : 経 済 産 業 研 究 所 RIETI-TID on line 地 域 統 合 を 促 進 する 要 因 は 大 きく 分 けて 二 つある 一 つは 経 済 活 動 の 活 発 化 拡 大 であ る ある 地 域 国 において 貿 易 投 資 政 策 の 自 由 化 などによって 経 済 が 開 放 されるとビジ 6 Masson (2001), Table 2. 6

ネスチャンスが 増 え それらを 捕 らえようとしてヒト モノ カネなどがその 地 域 に 集 中 することがある( 市 場 誘 導 型 地 域 統 合 ) 経 済 活 動 が 集 中 することにより 発 生 するメリット は 集 積 の 利 益 と 言 われているが 具 体 的 には 取 引 業 者 が 近 隣 に 立 地 することから 生 産 や 流 通 などの 経 済 活 動 を 円 滑 に 行 うことできることなどが 挙 げられる 特 に 機 械 産 業 のように 多 くの 部 品 を 使 用 する 産 業 においては 部 品 サプライヤーが 近 隣 に 位 置 すること が 効 率 的 生 産 の 実 現 には 重 要 な 要 素 となる 地 域 統 合 を 促 すもう 一 つの 要 因 は 自 由 貿 易 協 定 (FTA)などのように 地 域 内 諸 国 を 優 遇 する 制 度 の 設 立 である 地 域 制 度 が 設 立 されたことにより 経 済 活 動 がある 地 域 に 集 中 し その 結 果 として 地 域 統 合 が 促 進 される( 制 度 誘 導 型 地 域 統 合 ) 欧 州 連 合 (EU)での 地 域 統 合 は 制 度 誘 導 型 の 性 格 が 強 い EU における 制 度 的 地 域 統 合 の 動 きは 第 二 次 大 戦 後 すぐ に 始 まった フランス イタリア 旧 西 ドイツ ベネルクス 3 国 (オランダ ベルギー ルクセンブルグ)の 6 カ 国 を 加 盟 国 として 1952 年 にはヨーロッパ 石 炭 鉄 鋼 共 同 体 (ECSC) 58 年 にヨーロッパ 原 子 力 共 同 体 (EURATOM)とヨーロッパ 経 済 共 同 体 (EEC) が 発 足 した EEC は 関 税 同 盟 であり 工 業 製 品 に 対 する 域 内 関 税 の 撤 廃 域 外 共 通 関 税 の 設 定 および 共 通 農 業 政 策 の 実 施 を 主 な 内 容 としていた EEC は 初 期 の 段 階 から 関 税 同 盟 と して 設 立 されており 現 在 東 アジアや 他 の 地 域 で 形 成 されている 域 内 関 税 の 撤 廃 だけを 含 む 自 由 貿 易 協 定 自 由 貿 易 地 域 (FTA)よりも 統 合 度 の 高 い 枠 組 として 出 発 した 7 EEC は 67 年 に ECSC EURATOM EEC を 統 合 してヨーロッパ 共 同 体 (EC)を 設 立 し 93 年 には 労 働 や 資 本 の 自 由 な 移 動 を 認 める 単 一 市 場 を 創 設 した その 後 加 盟 国 の 拡 大 や 一 部 の 国 々による 共 通 通 貨 の 導 入 などを 進 めて 統 合 の 内 容 を 深 化 させてきた 北 米 での 地 域 統 合 は 市 場 誘 導 型 から 次 第 に 制 度 誘 導 型 の 性 格 を 強 めている 北 米 では 米 国 とカナダによって 91 年 に 発 足 した 米 加 自 由 貿 易 協 定 を 基 礎 に 94 年 にはメキシコを 加 えて 北 米 自 由 貿 易 協 定 (NAFTA)が 発 足 した 91 年 以 前 においては 米 国 とカナダとの 自 動 車 貿 易 において 自 由 貿 易 制 度 が 設 立 されていたが それは 例 外 であり 市 場 誘 導 型 の 地 域 統 合 が 進 んでいた 90 年 代 に 入 ると NAFTA が 発 足 し その 後 94 年 に 南 北 米 州 大 陸 を 包 含 するような 米 州 自 由 貿 易 地 域 (FTAA) 構 想 が 浮 上 した 同 構 想 は 米 州 地 域 34 ヶ 国 (キューバを 除 く 南 北 米 大 陸 諸 国 )を 加 盟 国 とした 自 由 貿 易 地 域 であり 交 渉 が 開 始 された が 中 心 となる 米 国 とブラジルとの 間 で 意 見 の 違 いがあったことから 交 渉 は 2003 年 以 来 7 関 税 と 貿 易 に 関 する 一 般 協 定 (GATT) 世 界 貿 易 機 関 (WTO)では 加 盟 国 間 の 貿 易 障 壁 を 撤 廃 する 自 由 貿 易 協 定 (FTA)と さらに 非 加 盟 国 からの 輸 入 に 対 して 共 通 関 税 を 適 用 する 関 税 同 盟 の 二 つの 貿 易 政 策 を 地 域 経 済 統 合 として 認 めている 詳 しくは 浦 田 他 (2007)などを 参 照 7

中 断 している 東 アジアにおける 地 域 統 合 については 大 まかに 言 って 20 世 紀 までは 市 場 誘 導 型 であっ たが 21 世 紀 に 入 り 制 度 誘 導 型 の 要 素 が 現 れてきている 東 アジア 諸 国 では 1980 年 代 後 半 から 多 国 籍 企 業 は 生 産 工 程 を 細 分 化 し 細 分 化 された 工 程 をその 工 程 が 最 も 効 率 的 に ( 低 コストで) 行 える 国 地 域 に 配 置 する フラグメンテーション 戦 略 を 直 接 投 資 を 用 い て 積 極 的 に 実 施 するようになった そのように 分 散 された 工 程 の 間 で 部 品 が 貿 易 され 人 件 費 の 低 い 国 に 部 品 が 集 められ そこで 最 終 製 品 に 組 み 立 てられて それらが 世 界 に 輸 出 されるという 生 産 貿 易 パターンが 構 築 された そのような 地 域 生 産 ネットワークが 構 築 されたことで 東 アジア 域 内 における 部 品 貿 易 が 拡 大 したことが 東 アジアにおける 地 域 統 合 を 推 進 した そのような 形 での 地 域 統 合 の 進 展 を 促 した 要 因 としては 貿 易 や 投 資 政 策 の 自 由 化 が 重 要 であることから 東 アジアにおける 地 域 統 合 は 市 場 誘 導 型 と 言 われている (3)アジア 太 平 洋 における FTA の 急 増 世 界 の 他 の 地 域 と 比 べると 東 アジアは 1990 年 代 末 になるまで FTA などの 制 度 面 での 地 域 経 済 統 合 には 消 極 的 であった 実 際 2002 年 に 日 本 シンガポール FTA 8 (EPA)が 発 効 するまでは ASEAN 諸 国 による ASEAN 自 由 貿 易 地 域 (AFTA)が 唯 一 の 主 要 な FTA で あった( 図 表 4) ASEAN は 67 年 に 政 治 的 目 的 で 設 立 されたが 89 年 の 東 西 冷 戦 終 結 後 に 経 済 的 枠 組 みとして 活 動 を 活 発 化 させた AFTA は 当 時 の ASEAN 加 盟 国 (ブルネイ インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ)により 設 立 され 1992 年 に 発 効 した その 後 ASEAN に 加 盟 したベトナム ミャンマー ラオス カンボジアが AFTA に 加 わった AFTA では 関 税 が 段 階 的 に 削 減 され 発 足 当 初 からの 6 原 加 盟 国 について は 自 由 化 の 例 外 とされている 商 品 を 除 いて 全 ての 商 品 に 関 する 加 盟 国 間 の 貿 易 に 関 する 関 税 ( 域 内 関 税 )が 2010 年 までに 撤 廃 された 新 規 加 盟 4 カ 国 については 2015 年 までに 域 内 関 税 撤 廃 が 予 定 されている ASEAN では AFTA の 枠 組 みでの 財 (モノ)に 関 する 自 由 貿 易 協 定 だけではなくサービス 貿 易 に 関 する 自 由 貿 易 協 定 (AFAS)および 投 資 に 関 する 協 定 (AIA)も 発 効 させている 9 これらの 協 定 を 完 成 させ 2015 年 には ASEAN 域 内 において 8 9 日 本 シンガポール FTA は 正 式 には 経 済 連 携 協 定 (EPA)となっており 貿 易 自 由 化 だけではなく 投 資 の 自 由 化 や 貿 易 および 投 資 の 円 滑 化 など 包 括 的 な 内 容 を 含 む 枠 組 みになっている 但 し 近 年 締 結 されている FTA は 包 括 的 な 内 容 を 含 んでいることから 実 態 としては FTA と EPA は 違 いがない AFAS は 1995 年 AIA は 1998 年 に 設 立 された AIA は 2009 年 により 包 括 的 な 内 容 を 含 む ACIA に 発 展 した 8

ヒト モノ カネが 自 由 に 移 動 できる ASEAN 経 済 共 同 体 の 設 立 を 目 指 している 10 図 表 4 アジア 太 平 洋 における FTA バンコク 協 定 (1976) タイ NZ(2005) 日 本 ブルネイ(2008) AFTA(1992) シンガポール インド(2005) 中 国 NZ(2008) シンガポール NZ(2001) 韓 国 シンガポール(2006) 台 湾 ニカラグア(2008) 日 本 シンガポール(2002) 日 本 マレーシア(2006) シンガポール ペルー(2009) シンガポール 豪 州 (2003) 韓 国 EFTA(2006) 中 国 シンガポール(2009) シンガポール EFTA(2003) 中 国 チリ(2006) 日 本 スイス(2009) シンガポール 米 国 (2004) 韓 国 ASEAN(2006) 日 本 ベトナム(2009) 韓 国 チリ(2004) シンガポール パナマ(2006) インド ASEAN(2010) 中 国 香 港 (2004) 日 本 チリ(2007) ASEAN 豪 州 NZ(2010) 中 国 マカオ(2004) 日 本 タイ(2007) 中 国 ペルー(2010) 台 湾 パナマ(2004) 中 国 パキスタン(2007) 中 国 台 湾 (2010) シンガポール ヨルダン(2004) マレーシア パキスタン(2007) 韓 国 EU(2011) 日 本 メキシコ(2005) 日 本 フィリピン(2008) 日 本 インド(2011) 中 国 ASEAN(2005) 日 本 ASEAN(2008) 中 国 コスタリカ(2011) タイ 豪 州 (2005) 日 本 インドネシア(2008) 韓 国 ペルー(2011) 出 所 : 各 国 政 府 ASEAN は 21 世 紀 に 入 り 積 極 的 に FTA を 締 結 してきた 2005 年 に 中 国 との FTA を 発 効 させてから 2010 年 までに 韓 国 日 本 豪 州 ニュージーランド インドとの 間 に 5 つの ASEAN+1 と 呼 ばれている FTA を 発 効 させており ASEAN は 東 アジアにおける FTA のハ ブ( 軸 ) 的 存 在 になっている これらの FTA は ASEAN が 働 きかけたというよりは 相 手 から 持 ちかけられたという 性 格 が 強 いようであるが 相 手 の 国 々にとって 経 済 面 および 政 治 面 において ASEAN の 重 要 性 を 認 識 させることができたことは ASEAN の 外 交 能 力 が 高 いことを 示 している 現 在 ASEAN は EU と FTA 交 渉 を 行 っている ASEAN 加 盟 国 の 中 には 単 独 で ASEAN 加 盟 国 以 外 の 国 々とも FTA を 進 めている 国 々も 10 ASEAN の 統 合 に 関 しては Chia(2011)が 詳 細 な 分 析 を 行 っている 9

ある 最 も 積 極 的 なのはシンガポールである シンガポールは 現 時 点 で 日 本 や 米 国 などと 18 の FTA を 発 効 させている 11 さらに 現 在 交 渉 中 や 提 案 されている FTA を 含 めると 35 に も 上 る その 他 の ASEAN 諸 国 では タイとマレーシアが 多 くの FTA に 関 係 している こ れらの ASEAN 原 加 盟 国 と 比 べると カンボジア ラオス ミャンマー ベトナム(CLMV) といった ASEAN 新 規 加 盟 国 は FTA への 動 きが 遅 い その 背 景 には ASEAN 原 加 盟 国 と 比 べて 貿 易 自 由 化 に 遅 れており 貿 易 自 由 化 を 要 求 される FTA への 参 加 が 容 易 ではないと いう 事 情 がある 東 南 アジアの ASEAN 諸 国 に 比 べ 中 国 日 本 韓 国 台 湾 の 北 東 アジア 諸 国 地 域 は FTA 交 渉 に 積 極 的 ではなかった 実 際 これらの 国 々は WTO 加 盟 国 の 中 で 21 世 紀 になる まで FTA や 関 税 同 盟 などの 地 域 経 済 統 合 に 参 加 していない 数 少 ない 国 々であった しかし 21 世 紀 以 降 中 国 日 本 韓 国 は 積 極 的 な FTA 政 策 を 展 開 している 中 国 は ASEAN 香 港 マカオ 台 湾 などと 11 の FTA を 発 効 させており 多 くの 国 々と 交 渉 あるいは 検 討 を している 日 本 はシンガポール マレーシア タイなどの AFTA 原 加 盟 国 の 他 ASEAN インド メキシコ チリなどと 13 の FTA を 発 効 させており 豪 州 湾 岸 協 力 会 議 (GCC) 韓 国 などと FTA を 交 渉 中 である 韓 国 は 発 効 させている FTA の 数 は 日 本 や 中 国 よりも 少 ないが ASEAN 米 国 や EU などの 大 きな 貿 易 相 手 国 との FTA を 進 めている 近 年 における 東 アジアでの FTA 急 増 の 背 景 にはさまざまな 理 由 がある 第 一 は 世 界 の 他 の 地 域 で FTA が 急 速 に 拡 大 していることを 受 け 東 アジア 諸 国 も 輸 出 機 会 を 維 持 拡 大 するためには FTA を 形 成 することが 重 要 であると 認 識 したことにある 実 際 2000 年 ま でに GATT WTO に 報 告 された FTA は 116 にも 上 った 12 東 アジアにおいて FTA に 対 する 関 心 が 高 まった 第 二 の 理 由 は 経 済 成 長 実 現 のために 構 造 改 革 を 推 進 することが 重 要 であると 考 えている 国 が 構 造 改 革 に 対 する 反 対 勢 力 への 影 響 力 を 獲 得 する 手 段 として FTA を 利 用 しようとしたことがある 国 内 改 革 の 推 進 にあたっ て 外 圧 を 利 用 する 戦 略 は 以 前 から 頻 繁 に 使 われてきた 前 述 したように WTO での 貿 易 自 由 化 が 進 まない 状 況 においては FTA がそのための 戦 略 として 用 いられるようになった 第 三 の 理 由 としては 東 アジア 諸 国 間 でのライバル 間 競 争 が 挙 げられる 競 争 の 動 機 と しては 輸 出 市 場 の 獲 得 だけではなく 地 域 での 指 導 的 役 割 の 獲 得 といった 国 際 政 治 上 の 動 機 もある 東 アジア 諸 国 のなかでも 中 国 と 日 本 の 競 争 が 顕 著 である 地 域 の リーダー 11 12 アジア 開 発 銀 行 のデータベースを 参 照 http://aric.adb.org/10.php 石 川 (2002) 参 照 10

になることを 狙 って 中 国 と 日 本 は ASEAN を 中 心 として 東 アジア 諸 国 との 関 係 強 化 に 熱 心 である 日 本 と 中 国 のライバル 間 競 争 を 示 している 一 つの 例 としては 日 中 による ASEAN との FTA への 働 きかけが 挙 げられる 中 国 は 香 港 マカオを 除 いて 最 初 の FTA の 相 手 国 地 域 として 経 済 的 および 政 治 的 重 要 性 から ASEAN を 選 んだ 一 方 ASEAN との FTA で 出 遅 れた 日 本 は 中 国 と ASEAN が FTA 交 渉 開 始 に 合 意 した 翌 日 (2002 年 11 月 5 日 )に EPA を ASEAN に 提 案 した 日 中 以 外 でも ASEAN や 韓 国 も FTA を 東 アジアでの 影 響 力 を 維 持 拡 大 する 手 段 と 見 なしている (4) 東 アジア 全 体 を 包 摂 する FTA の 可 能 性 東 アジア 諸 国 全 体 を 包 摂 する FTA 構 想 も 浮 上 している 1998 年 の ASEAN+3(ASEAN 加 盟 国 中 国 日 本 韓 国 ) 首 脳 会 議 では 長 期 的 な 経 済 協 力 ビジョンを 研 究 する 東 アジア ビジョングループ(East Asia Vision Group)の 設 置 が 決 定 された 同 グループは 2002 年 に 東 アジア 自 由 貿 易 協 定 (EAFTA)の 形 成 を 含 む 政 策 提 言 を 首 脳 に 提 出 した 2005 年 には 専 門 家 による EAFTA の 実 現 可 能 性 に 係 る 民 間 研 究 者 による 研 究 会 が 開 始 され 第 一 および 第 二 フェーズが 終 了 し 2009 年 に 政 府 間 での 検 討 を 開 始 すべきであるという 提 言 をまとめた その 後 中 国 政 府 が 中 心 となり 原 産 地 規 則 など 地 域 レベルの FTA 設 立 にあたって 重 要 なテー マを 取 り 上 げて ワーキンググループを 形 成 し 政 府 間 で 議 論 を 進 めている 13 日 本 は ASEAN+3+3(ASEAN+3 インド 豪 州 ニュージーランド)を 加 盟 国 とす る FTA を 含 む 経 済 連 携 協 定 である 東 アジア 包 括 的 経 済 連 携 (CEPEA) 構 想 を 2006 年 に 提 案 した ASEAN+3+3(ASEAN+6)は 2005 年 に 発 足 した 東 アジア 首 脳 会 議 のメンバー でもある 日 本 と 中 国 の 対 抗 意 識 を 考 えれば また EAFTA に 関 する 議 論 でイニシャティ ブをとったのは 中 国 だったことを 考 慮 すれば CEPEA 構 想 の 背 景 には 東 アジアの 地 域 制 度 構 築 において 指 導 的 役 割 を 果 たしたい 日 本 の 戦 略 が 存 在 することが 分 かる CEPEA の 実 現 可 能 性 を 検 討 する 民 間 研 究 者 による 研 究 会 は 2007 年 に 開 始 され 第 一 および 第 二 フェーズ を 経 て 2009 年 に 政 府 間 での 検 討 を 開 始 すべきであるという 提 言 を 行 った その 提 言 を 受 け て 政 府 では EAFTA 同 様 に 原 産 地 規 則 など CEPEA 実 現 にあたって 重 要 なテーマを 抽 出 し ワーキンググループの 下 で 検 討 を 進 めている EAFTA と CEPEA が 対 立 するような 形 で 共 存 している 状 況 において 後 述 する 環 太 平 洋 連 携 協 定 (TPP)や 日 中 韓 FTA の 動 きが 出 てきたことから 日 本 と 中 国 は 東 アジアにおけ 13 東 アジアなどにおける FTA の 動 向 については 経 済 産 業 省 (2011)などを 参 照 11

る 地 域 統 合 の 動 きを 加 速 させることを 目 指 して EAFTA と CEPEA を 統 合 させるような 行 動 をとるようになった 具 体 的 には 2011 年 8 月 の ASEAN+6 による 経 済 大 臣 会 合 で 日 本 と 中 国 は 貿 易 自 由 化 に 関 する 新 たな 3 つの 作 業 部 会 ( 財 投 資 サービス)の 立 ち 上 げ を 提 案 した EAFTA と CEPEA が 統 合 されていく 状 況 において ASEAN は 東 アジアにお ける 地 域 統 合 の 中 心 的 役 割 を 維 持 するために 国 の 数 を 限 定 しない 形 の 枠 組 み(ASEAN+ + 公 式 には 地 域 包 括 的 経 済 連 携 RCEP )を 2011 年 11 月 の 東 アジアサミットで 提 案 し た 2012 年 4 月 の ASEAN 首 脳 会 議 において 2012 年 11 月 までに RCEP の 交 渉 開 始 を 目 指 すことが 合 意 された EAFTA CEPEA RCEP 設 立 の 一 つの 目 的 は 東 アジアにおいて 統 一 市 場 を 形 成 するこ とで 経 済 活 動 をより 活 発 化 させることである 現 時 点 では 上 述 したように ASEAN を 軸 として 中 国 韓 国 日 本 インド 豪 州 ニュージーランドとの 5 つの FTA が 設 立 されて いるが 中 韓 日 中 日 韓 などでは FTA が 設 立 されていないことから 東 アジア 統 一 市 場 は 設 立 されていない 東 アジアにおいても 欧 州 におけるような 統 一 市 場 が 設 立 されれば ヒト モノ カネなど 経 済 活 動 において 重 要 な 役 割 を 担 っている 要 素 が 活 発 に 移 動 するよ うになり 経 済 成 長 経 済 的 繁 栄 が 期 待 できる より 具 体 的 には 東 アジアに 自 由 で 開 放 的 な 統 一 市 場 の 形 成 によって 東 アジアに 張 り 巡 らされた 地 域 生 産 ネットワークの 拡 大 と 円 滑 な 活 用 が 可 能 になることである 地 域 生 産 ネットワークの 拡 大 および 活 発 化 によって 経 済 成 長 が 促 進 され その 結 果 として 東 アジアに 居 住 する 人 々の 所 得 が 上 昇 すれば 東 アジ アで 生 産 される 製 品 に 対 する 需 要 が 拡 大 し 東 アジアと 米 国 との 間 で 深 刻 化 している 経 常 収 支 不 均 衡 問 題 に 対 しても 好 ましい 効 果 が 期 待 される 東 アジア 諸 国 を 包 摂 するような EAFTA CEPEA RCEP は 既 存 の ASEAN+1FTA を 束 ねることで 設 立 が 可 能 であるという 見 方 がある 理 論 的 には 間 違 ってはいないが ASEAN +1FTA の 内 容 がかなり 異 なっていることから 実 際 にはそう 簡 単 ではない さらに EAFTA や CEPEA の 設 立 の 障 害 になっているのは 日 中 韓 三 国 による FTA の 設 立 への 動 きが 遅 い ことである 日 韓 FTA は 2003 年 に 交 渉 が 開 始 されたが 交 渉 の 枠 組 みに 関 する 合 意 が 成 立 しないまま 2004 年 には 交 渉 が 中 断 してしまった 農 水 産 業 での 市 場 開 放 を 回 避 したい 日 本 工 業 製 品 分 野 での 市 場 開 放 による 中 小 企 業 への 悪 影 響 を 恐 れる 韓 国 の 間 には 市 場 開 放 をめぐって 意 見 が 対 立 していることが 障 害 になっている 日 中 FTA に 関 しては 日 本 の 産 業 界 は 極 めて 前 向 きであるが 農 業 は 市 場 開 放 による 被 害 を 恐 れて 断 固 として 反 対 の 立 場 である 日 韓 と 日 中 の FTA を 難 しくしている 要 因 には 上 述 したような 経 済 的 要 因 だけ 12

ではなく 歴 史 や 政 治 の 問 題 もある 中 韓 FTA は 実 現 可 能 性 に 関 する 研 究 会 を 経 て 2012 年 5 月 に 交 渉 が 開 始 された 日 中 韓 首 脳 の 先 導 の 下 三 国 間 FTA に 関 する 産 官 学 共 同 研 究 会 が 2010 年 に 設 立 され 2011 年 12 月 に 報 告 書 が 取 りまとめられ 日 中 韓 FTA の 早 期 交 渉 開 始 を 提 言 した それを 受 けて 2012 年 5 月 に 開 催 された 日 中 韓 首 脳 会 議 で 日 中 韓 FTA 交 渉 開 始 宣 言 が 期 待 された が 韓 国 の 反 対 で 開 始 宣 言 はなされず 同 年 末 までの 開 始 が 合 意 されたにとどまった 東 アジアにおける FTA の 顕 著 な 特 徴 は 内 容 の 包 括 性 である EAFTA CEPEA RCEP 共 に 貿 易 自 由 化 に 加 え 貿 易 円 滑 化 直 接 投 資 の 自 由 化 / 円 滑 化 さらには 経 済 協 力 が 含 ま れている それらの 中 でも 特 に 経 済 協 力 の 重 要 性 が 強 調 されている その 理 由 としては 東 アジア 諸 国 の 間 には 大 きな 発 展 段 階 の 格 差 があることから 東 アジア 全 体 の 持 続 的 な 発 展 成 長 には 発 展 格 差 の 縮 小 が 大 きな 課 題 であるという 認 識 がある 東 アジアにおいて 地 域 レベルの FTA 構 想 が 検 討 される 状 況 において 米 国 は APEC メン バーを 加 盟 国 としたアジア 太 平 洋 自 由 貿 易 圏 (FTAAP)を 2006 年 に 提 案 した 米 国 によ る 提 案 の 一 つの 主 な 理 由 は 米 国 の 東 アジア 市 場 へのアクセスを 確 保 維 持 することである FTAAP については 2010 年 に 横 浜 で 開 催 された APEC 首 脳 会 議 において アジア 太 平 洋 に おける 地 域 経 済 統 合 の 主 要 な 手 段 であると 捉 え FTAAP を 実 現 するにあたっての 道 筋 とし て EAFTA CEPEA および TPP があるとしている TPP は 2006 年 にシンガポール ニュー ジーランド チリ ブルネイの 4 カ 国 を 加 盟 国 として 設 立 された FTA であるが 原 則 とし て 全 ての 商 品 にかかる 関 税 を 撤 廃 する 自 由 化 度 の 高 い FTA である 14 TPP は 2008 年 に 米 国 が 関 心 を 示 したことから 注 目 を 集 めるようになった 2009 年 に 就 任 した 米 国 のオバマ 大 統 領 は 雇 用 拡 大 のために 輸 出 拡 大 を 約 束 したが 成 長 するアジアへの 輸 出 拡 大 の 機 会 として TPP に 関 心 を 示 し 2010 年 から 豪 州 ペルー ベトナム マレーシアと 共 に 拡 大 TPP 交 渉 に 参 加 している 管 直 人 首 相 は 横 浜 での APEC において TPP 参 加 への 強 い 関 心 を 表 明 した が 農 産 品 自 由 化 に 反 対 する 農 業 関 係 者 からの 強 い 政 治 的 圧 力 に 遭 い TPP 交 渉 参 加 につ いての 結 論 は 2011 年 6 月 まで 延 期 した その 後 東 北 大 震 災 が 発 生 し TPP 交 渉 参 加 への 準 備 が 十 分 には 行 われなかったことから TPP 交 渉 参 加 への 決 定 は 再 び 延 期 された 2011 年 9 月 になって 野 田 佳 彦 首 相 が 誕 生 し 同 首 相 は 同 年 11 月 のホノルルでの APEC 会 議 に おいて TPP 交 渉 参 加 への 関 心 を 示 し その 後 TPP 交 渉 参 加 へ 向 けて 交 渉 国 との 事 前 協 議 14 因 みに 日 本 の 設 立 した FTA では 全 商 品 の 中 で 自 由 化 を 行 う 商 品 の 割 合 を 示 す 自 由 化 度 は 90% 以 下 であり 他 の 先 進 諸 国 の 設 立 した FTA と 比 べると 自 由 化 度 は 低 い 浦 田 安 藤 (2011)などを 参 照 13

を 進 めている 他 方 国 内 では TPP 交 渉 参 加 へ 向 けて 国 民 の TPP に 対 する 理 解 を 深 めるこ とを 目 的 として 地 方 都 市 などで 討 論 会 を 開 催 している TPP は 東 アジアの 地 域 統 合 の 推 進 にあたって 踏 み 石 になるのであろうか? あるいは 障 害 になるのであろうか? 現 段 階 では 双 方 の 見 方 があり 結 論 的 な 見 解 は 出 ていない TPP は 現 在 では APEC に 属 する 9 カ 国 で 交 渉 が 行 われているが 交 渉 に 参 加 する 国 が 増 えるな らば 東 アジア 地 域 の 統 合 へ 繋 がる 可 能 性 もある その 場 合 一 つの 重 要 な 問 題 は 貿 易 自 由 化 水 準 である TPP における 貿 易 自 由 化 は 基 本 的 には 例 外 を 設 けないということであるが この 条 件 を 緩 和 しなければ 多 くのアジア 諸 国 は 参 加 することが 難 しく 結 果 としてアジア 地 域 の 統 合 へは 繋 がらない その 場 合 現 状 もそうであるが 東 アジア 諸 国 の 中 で TPP に 参 加 する 国 としない 国 が 出 てくることから 東 アジアでの 経 済 の 統 合 というよりは 分 裂 を 発 生 させる 可 能 性 もある このような 状 況 を 回 避 するためには RCEP を 進 めなければな らない 3. 厳 しい 状 況 に 置 かれている 日 本 経 済 日 本 経 済 は 極 めて 厳 しい 状 況 に 置 かれている 2008 年 のリーマンショックをきっかけに 発 生 した 世 界 金 融 危 機 からの 回 復 が 軌 道 に 乗 りかけた 矢 先 の 昨 年 3 月 に 東 日 本 大 震 災 に 見 舞 われ 二 万 人 の 人 命 が 奪 われただけではなく 農 地 の 破 壊 やサプライチェーンの 寸 断 な どにより 経 済 活 動 が 大 きく 低 下 した サプライチェーンは 当 初 の 予 想 よりも 短 期 間 で 復 旧 したが 被 害 を 受 けた 農 地 が 再 び 使 用 できるようになるまでには 数 年 かかると 見 られて いる また 地 震 と 津 波 により 発 生 した 原 発 事 故 による 放 射 能 問 題 の 影 響 で 現 在 も 数 十 万 人 が 避 難 生 活 を 強 いられているだけではなく 農 産 物 の 生 産 販 売 に 深 刻 な 影 響 をもたら している 大 震 災 からの 復 興 が 徐 々に 進 み 始 めた 昨 年 の 春 頃 から 急 激 な 円 高 や 欧 州 の 債 務 問 題 に 端 を 発 した 世 界 経 済 の 低 迷 などが 追 い 打 ちをかけるような 形 で 日 本 経 済 の 回 復 を 遅 らせている 日 本 経 済 は 構 造 的 な 問 題 を 抱 えていることから 中 長 期 見 通 しも 明 るくない 実 際 日 本 経 済 は 1990 年 代 初 めのバブル 崩 壊 以 来 20 年 以 上 に 亘 って 低 成 長 に 喘 いでいる( 図 表 5 および 図 表 6) 最 も 深 刻 な 問 題 は 人 口 の 減 少 と 高 齢 化 である 経 済 成 長 は 供 給 面 と 需 要 面 の 要 因 の 相 互 関 係 により 実 現 するが これらの 両 面 で 厳 しい 状 況 にある 供 給 面 でみると 経 済 成 長 の 実 現 には 労 働 投 入 の 増 加 資 本 投 入 の 増 加 あるいは 生 産 性 の 上 昇 が 必 要 で あるが 人 口 減 少 と 高 齢 化 は 労 働 投 入 と 資 本 投 入 の 増 加 を 難 しくしている 日 本 の 人 口 は 14

2005 年 に 減 少 し 2006 年 には 一 時 的 に 増 加 するが 2007 年 から 継 続 的 に 減 少 している( 図 表 7) 国 立 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 による 推 計 では 現 在 の 一 億 二 千 万 人 強 の 人 口 が 2046 年 には 一 億 人 を 切 り 2055 年 には 9000 万 人 になるとしている 15 他 方 労 働 力 人 口 はそれ 以 前 の 1995 年 から 減 少 しており 今 後 も 継 続 的 に 減 少 することが 予 測 されている 人 口 減 少 を 逆 転 させることができなければ 女 性 や 高 齢 者 の 就 労 を 促 すか 外 国 人 労 働 者 を 受 け 入 れなくては 労 働 投 入 の 増 加 は 難 しい 20 % 15 図 表 5 日 本 中 国 世 界 の GDP 成 長 率 中 国 日 本 世 界 10 5 0-5 -10 出 所 :World Bank, World Development Indicators on line 15 国 立 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 日 本 の 将 来 推 計 人 口 ( 平 成 18 年 12 月 推 計 ) 中 位 推 計 http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/suikei07/suikei.html#chapt1-1 15

10 億 ドル 16000 図 表 6 日 米 中 の GDP 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 出 所 :World Bank, World Development Indicators on line 1,000 人 140,000 120,000 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 0 65 歳 - 15-64 歳 0-14 歳 図 表 7 日 本 の 人 口 出 所 : 総 務 省 統 計 局 統 計 調 査 部 国 勢 統 計 課 国 勢 調 査 報 告 我 が 国 の 推 計 人 口 人 口 推 計 年 報 および 国 立 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 日 本 の 将 来 推 計 人 口 ( 平 成 18 年 12 月 推 計 ) 中 位 推 計 16

資 本 投 入 の 増 加 には 国 内 貯 蓄 か 海 外 からの 投 資 が 必 要 であるが 日 本 の 国 内 貯 蓄 は 高 齢 化 の 進 展 などにより 減 少 しており また 海 外 からの 資 本 流 入 も 日 本 経 済 の 将 来 が 不 透 明 なことから 低 迷 している 国 内 総 貯 蓄 率 は 1990 年 には 33.7%と 先 進 諸 国 の 中 でも 高 い 値 を 記 録 していたが 継 続 的 に 低 下 し 2010 年 では 21.4%になっている 16 需 要 面 からみても 経 済 成 長 は 期 待 できない 人 口 減 少 と 低 成 長 率 により 消 費 は 伸 びず 将 来 の 消 費 が 伸 びないことから 設 備 投 資 は 低 迷 すると 予 想 される また 政 府 は 国 内 総 生 産 (GDP)の 2 倍 以 上 にものぼる 膨 大 な 債 務 を 抱 えていることから 実 需 につながるよう な 支 出 の 拡 大 は 難 しい( 図 表 8) 高 齢 化 の 急 速 な 進 展 により 社 会 保 障 や 医 療 に 対 する 公 的 支 出 が 拡 大 することが 予 想 されることから 現 在 議 論 されている 社 会 保 障 と 税 の 一 体 改 革 が 実 施 されなければ 財 政 状 況 は 悪 化 し 益 々 経 済 成 長 の 可 能 性 が 小 さくなってしまう 250 % 図 表 8 債 務 残 高 GDP 比 率 200 150 日 本 米 国 ドイツ イタリア 100 50 0 出 所 :OECD 資 料 また グローバリゼーションが 急 速 に 進 展 している 状 況 において 日 本 は 市 場 および 社 会 の 閉 鎖 性 によってグローバリゼーションにより 与 えられた 海 外 とのモノ ヒト カ ネ 情 報 など 経 済 活 動 を 活 発 化 する 重 要 な 要 素 の 相 互 移 動 の 機 会 を 活 用 できないでいる このことは 貿 易 や 直 接 投 資 の GDP に 占 める 割 合 が 他 の 国 々と 比 べて 日 本 において 低 いこ 16 World Bank, World Development Indicators on line. 17

とから 分 かる 具 体 的 には 2010 年 における 日 本 の 貿 易 ( 輸 出 入 ) GDP 比 率 と 直 接 投 資 ( 対 外 対 内 直 接 投 資 フロー) GDP 比 率 は 各 々 29.3% 1.0%で 中 国 の 55.2% 4.1% 米 国 の 28.8% 4.0% 世 界 平 均 の 55.9% 4.4%と 比 べると 低 い 17 4. 日 本 経 済 復 活 へ 向 けての 提 言 :TPP への 参 加 と RCEP の 推 進 世 界 経 済 ではグローバリゼーションとリージョナリゼーションが 同 時 に 進 行 している が その 背 景 には モノ カネ ヒトなどが 国 境 を 自 由 かつ 活 発 に 超 えるようになったこ とがある モノ カネ ヒトの 活 発 な 移 動 は 経 済 成 長 を 推 進 しているが それらの 国 境 移 動 においては 様 々な 障 壁 が 残 っており さらなる 経 済 成 長 の 実 現 にあたっては それらの 障 壁 を 削 減 撤 廃 する 必 要 がある モノ( 貿 易 ) カネ( 投 資 ) ヒトの 移 動 などに 対 する 障 壁 の 削 減 撤 廃 にあたっては 世 界 レベルでの 政 策 が 最 も 大 きな 効 果 を 生 むが 世 界 各 国 におけるそれらの 障 壁 の 削 減 撤 廃 に 対 する 考 えが 異 なることから 世 界 レベルでの 共 通 政 策 の 実 施 は 難 しい そのような 状 況 において 同 じような 考 えを 持 つ 国 々の 間 で 自 由 貿 易 協 定 (FTA)のような 枠 組 みを 構 築 することで 貿 易 や 投 資 政 策 の 自 由 化 が 進 められる ようになった アジア 太 平 洋 地 域 では TPP 交 渉 が 進 められており また 東 アジアでは RCEP 推 進 の 動 きが 高 まっている グローバリゼーションとリージョナリゼーションの 進 展 は 世 界 各 国 企 業 にビジネス チャンスを 提 供 してきたが それらのチャンスを 活 用 できた 国 企 業 は 発 展 成 長 したの に 対 して それらのチャンスを 捉 えられなかった 国 企 業 は 停 滞 している 前 者 の 中 心 は 中 国 やインドなどの 東 アジアに 位 置 する 途 上 国 であるが 後 者 の 代 表 的 な 国 は 市 場 開 放 に 遅 れた 日 本 である 日 本 は さらに 人 口 減 少 高 齢 化 厳 しい 政 府 財 政 などの 問 題 を 抱 え ており 状 況 を 変 えなければ 日 本 経 済 の 将 来 は 悲 観 的 にならざるを 得 ない 深 刻 な 状 況 から 脱 し 将 来 において 経 済 的 繁 栄 を 実 現 させるには 市 場 開 放 と 構 造 改 革 を 進 めることで 経 済 活 動 を 活 発 化 させ 生 産 性 を 向 上 させなければならない また 将 来 高 成 長 が 予 想 されるアジアとの 経 済 交 流 を 活 発 化 させることも 日 本 の 輸 出 や 直 背 投 資 を 拡 大 させることを 通 じて 日 本 経 済 の 復 活 および 成 長 に 寄 与 する これらの 目 的 を 実 現 さ せる 一 つの 重 要 な 政 策 が TPP への 参 加 と RCEP の 推 進 である TPP は 自 由 化 だけではなく 知 的 財 産 権 政 府 調 達 などの 国 内 制 度 の 構 築 を 含 むハイレベ ルな 内 容 になっており アジア 太 平 洋 地 域 における 自 由 で 開 放 的 で 透 明 性 が 高 く 安 定 17 World Bank, World Development Indicators on line. 18

性 の 高 い 公 正 なビジネス 環 境 の 構 築 を 実 現 する そのようなビジネス 環 境 は 日 本 企 業 の 活 動 を 容 易 にする 例 えば 急 速 に 拡 大 する 中 国 市 場 や 中 国 企 業 の 不 透 明 性 などの 問 題 は アジア 太 平 洋 地 域 における 望 ましいビジネス 環 境 の 構 築 には 障 害 となっている TPP はこ のような 問 題 に 対 して 効 果 的 な 対 応 手 段 である TPP に 含 まれると 予 想 される 労 働 や 環 境 などの 取 り 決 めについては 中 国 は 現 時 点 では 受 け 入 れられないと 思 われるが 中 国 経 済 の 成 長 に 伴 って それらの 条 件 を 受 け 入 れて TPP に 参 加 する 可 能 性 は 高 い 特 に アジア 太 平 洋 地 域 の 多 くの 国 々が TPP に 参 加 するようになれば 中 国 による 参 加 の 可 能 性 も 増 大 する 日 本 は そのような 制 度 に 守 られたビジネス 環 境 作 りに 参 加 し 積 極 的 な 役 割 を 担 うべきである 東 アジアでは RCEP を 推 進 すべきである RCEP は 貿 易 投 資 の 自 由 化 円 滑 化 さら には 経 済 協 力 を 含 む 包 括 的 な 枠 組 みである 東 アジアにはカンボジア ラオス ミャンマー などのように 発 展 段 階 が 遅 れた 国 々も 存 在 することから 発 展 格 差 が 深 刻 な 問 題 になって いる そのような 問 題 に 対 処 すると 共 に 東 アジア 全 体 の 経 済 成 長 を 促 進 するためには 経 済 協 力 が 重 要 な 役 割 を 担 う 東 アジア 諸 国 の 成 長 は 日 本 経 済 の 成 長 に 繋 がることから 日 本 は RCEP を 積 極 的 に 推 進 すべきである TPP および RCEP は 上 述 したようなメリットを 日 本 経 済 企 業 にもたらすが TPP は 国 境 措 置 の 自 由 化 や 制 度 構 築 が 主 となっているのに 対 して RCEP は 円 滑 化 や 経 済 協 力 が 大 き な 位 置 を 占 めており それらは 補 完 的 な 関 係 にあることから 同 時 に 推 進 すべきである また TPP および RCEP を 踏 み 石 として FTAAP が 構 築 されたならば 日 本 経 済 企 業 に とって 大 きな 発 展 成 長 の 機 会 が 提 供 される 日 本 企 業 は それらの 枠 組 みから 期 待 され るメリットを 抽 出 し TPP RCEP FTAAP 実 現 に 向 けての 要 望 を 政 府 に 提 出 しなければ ならない その 際 ビジネス 界 の 要 望 を 政 府 に 提 出 する 制 度 を 構 築 し 有 効 に 機 能 させる ことが 重 要 である また TPP RCEP FTAAP から 低 価 格 で 多 様 な 輸 入 品 の 拡 大 により 利 益 を 享 受 できる 消 費 者 の 意 見 を 集 約 し 日 本 政 府 に 提 出 する 制 度 の 構 築 も 必 要 である TPP RCEP FTAAP 設 立 にあたって 最 も 大 きな 障 害 は 保 護 されている 農 業 分 野 からの 強 い 反 対 である 農 産 品 の 自 由 化 で 最 も 抵 抗 の 強 いのがコメの 自 由 化 であるが WTO で 認 められているように 自 由 化 を 10 年 かけて 段 階 的 に 進 めると 共 にコメ 生 産 において 構 造 改 革 を 進 めて 規 模 の 拡 大 分 散 錯 圃 の 解 消 単 収 増 加 を 実 現 することができれば 輸 入 保 護 が 不 必 要 になるだけではなく コメを 有 望 な 輸 出 品 にすることが 可 能 となる そのような 状 況 においては 輸 出 相 手 国 における 関 税 や 検 疫 制 度 などの 非 関 税 障 壁 の 削 減 撤 廃 が 日 19

本 にとって 重 要 な 政 策 課 題 となるが それらへの 対 応 として TPP RCEP FTAAP が 極 め て 有 効 な 枠 組 みとなる 農 産 品 の 自 由 化 による 輸 入 の 増 大 は 生 産 および 雇 用 の 減 少 をもたらす 可 能 性 があるが そのような 被 害 への 対 応 としては 一 時 的 所 得 補 填 や 再 教 育 再 訓 練 などの 貿 易 調 整 支 援 が 不 可 欠 である また TPP RCEP FTAAP などの 実 現 には 本 研 究 の 分 析 で 明 らかに なった 貿 易 自 由 化 への 抵 抗 が 比 較 的 に 強 い 女 性 や 地 域 志 向 の 強 い 人 々に 対 して 安 心 感 を 与 えるような 政 策 を 構 築 実 施 することが 重 要 である アジア 太 平 洋 におけるヒトの 国 際 移 動 は 近 年 大 きく 拡 大 していが 財 サービス 資 本 などと 比 べると 障 壁 が 大 きいことから 将 来 において 拡 大 の 余 地 が 大 きい 財 サービ スの 生 産 貿 易 資 本 移 動 などの 経 済 活 動 においてはヒトが 不 可 欠 であることを 認 識 する ならば 経 済 統 合 の 深 化 にはヒトの 移 動 が 不 可 欠 であることが 分 かる ただし ヒトの 国 境 移 動 は 移 入 国 において 労 働 者 の 失 業 を 発 生 させる 可 能 性 があるだけではなく 文 化 や 習 慣 の 違 いなどにより 摩 擦 が 生 じることもあることから 慎 重 に 進 めなければならない 具 体 的 には 一 国 ではなく 地 域 レベルでの 協 力 協 調 を 通 してルールを 構 築 することが 重 要 である 日 本 に 関 しては ヒトを 円 滑 に 受 け 入 れるにあたって 国 の 出 入 国 管 理 政 策 と 雇 用 住 宅 教 育 社 会 保 障 日 本 語 学 習 などの 社 会 統 合 政 策 を 両 輪 とする 包 括 的 な 外 国 人 政 策 を 実 現 する 必 要 がある 新 興 国 の 高 成 長 に 伴 いエネルギー 需 要 が 世 界 で 大 きく 拡 大 している 状 況 において 東 日 本 大 震 災 による 原 発 事 故 の 影 響 で 原 発 が 停 止 し 再 開 の 目 処 がつかない 状 況 にある 日 本 で は エネルギー 供 給 の 確 保 が 深 刻 な 問 題 になっている 対 応 策 としては 省 エネルギー 推 進 国 産 エネルギー 代 替 エネルギー 開 発 海 外 自 主 開 発 輸 入 源 多 様 化 エネルギー 生 産 国 との 関 係 強 化 石 油 備 蓄 制 度 の 整 備 などがある 日 本 は これらの 活 動 を 独 自 で 行 う だけではなく アジア 太 平 洋 諸 国 との 協 力 を 通 じて 推 進 しなければならない その 際 には 協 力 の 枠 組 み 構 築 や 内 容 の 設 定 に 関 する 議 論 を 先 導 すると 共 に 省 エネ 技 術 などに 関 する 技 術 支 援 や 人 材 育 成 など 日 本 が 果 たすべき 役 割 は 大 きい 20

第 1 章 日 本 の FTA 戦 略 と TPP 亜 細 亜 大 学 アジア 研 究 所 教 授 石 川 幸 一 1.はじめに 野 田 総 理 は 2011 年 11 月 13 日 の APEC ハワイ 首 脳 会 議 で TPP 交 渉 参 加 に 向 けて 関 係 国 と 協 議 に 入 ることを 表 明 した 2012 年 2 月 時 点 で 9 カ 国 と 協 議 を 行 い 米 国 豪 州 ニュー ジーランドを 除 く 6 カ 国 から 交 渉 参 加 への 同 意 を 得 ている TPP 交 渉 参 加 は 日 本 の FTA 戦 略 において 大 きな 意 義 を 持 っている 日 本 は 13 の EPA を 締 結 しているが 米 などの 農 産 品 を 除 外 しているため 自 由 化 率 は 高 くない 農 産 品 の 除 外 のため 相 手 国 にもセンシティ ブ 品 目 の 除 外 を 認 めざるを 得 なかった TPP 参 加 により 日 本 の FTA 交 渉 力 は 従 来 に 比 べ 格 段 に 強 化 される 次 に アジア 太 平 洋 地 域 の 経 済 秩 序 作 りに 参 加 することである 日 本 と 同 時 に カナダ メキシコが 交 渉 参 加 を 表 明 し TPP 参 加 国 は 拡 大 して 行 く 見 通 しである 米 国 を 含 め たアジア 太 平 洋 地 域 でのルール 作 りに 参 加 していくことは 日 本 の 国 益 に 不 可 欠 である 本 論 では 日 本 の FTA 戦 略 における TPP の 意 義 を 論 じると 共 に 大 枠 合 意 を 含 めた TPP 交 渉 の 論 点 を 概 観 し TPP により 日 本 が 獲 得 すべき 内 容 と 懸 念 されている 事 項 について 検 討 している 2. 日 本 の FTA 戦 略 と FTA の 現 状 (1) 日 本 の FTA 戦 略 Ⅰ.ASEAN 各 国 との FTA を 優 先 日 本 は 21 世 紀 を 迎 えるとともに FTA 外 交 を 活 発 化 させた 最 初 の FTA 交 渉 の 相 手 国 と なったのはシンガポールであり 共 同 検 討 会 合 を 経 て 2001 年 1 月 に 交 渉 が 開 始 され 10 月 には 実 質 合 意 に 至 った 署 名 は 2002 年 1 月 発 効 は 同 年 11 月 である 日 本 シンガポール 新 時 代 経 済 連 携 協 定 (JSEPA)は 日 本 の 最 初 の FTA であり その 後 の FTA の 内 容 および 交 渉 方 式 のモデルとなった 日 本 は 当 初 は 相 手 国 からの 提 案 により FTA 交 渉 を 開 始 していたが 交 渉 を 進 めていく 中 で FTA 戦 略 が 形 成 されてきた その 最 初 のものに 2002 年 10 月 に 外 務 省 が 発 表 した 日 21

本 の FTA 戦 略 がある 日 本 の FTA 戦 略 では 相 手 国 の 優 先 順 位 の 判 断 基 準 として 1 経 済 的 基 準 2 地 理 的 基 準 3 政 治 外 交 的 基 準 4 現 実 的 可 能 性 による 基 準 5 時 間 的 基 準 をあげている 具 体 的 検 討 課 題 として 広 い 意 味 での 政 治 的 経 済 的 安 保 の 確 保 を 考 慮 しながら 緊 密 な 経 済 関 係 を 有 しつつも 比 較 的 高 い 貿 易 障 壁 の 存 在 故 に 日 本 経 済 の 拡 大 の 障 壁 の 残 る 国 地 域 との FTA 締 結 を 優 先 すべきとして 東 アジアを 有 力 な 交 渉 相 手 地 域 と し 韓 国 と ASEAN を 最 初 の 交 渉 相 手 と 位 置 づけ 同 時 にメキシコについても 早 急 な 対 応 が 必 要 としている 18 2004 年 12 月 に 日 本 政 府 全 体 として 最 初 の FTA 戦 略 である 今 後 の 経 済 連 携 についての 基 本 方 針 が 経 済 連 携 促 進 関 係 会 議 で 決 定 された 基 本 方 針 では EPA の 意 義 として 1WTO を 中 心 とする 多 角 的 貿 易 体 制 の 補 完 2 構 造 改 革 の 推 進 3 外 交 戦 略 上 日 本 に 有 利 な 国 際 環 境 の 形 成 の 3 点 をあげ 当 面 東 アジア 諸 国 との 交 渉 に 傾 注 するとしている 交 渉 相 手 国 の 決 定 の 基 準 は 1 我 が 国 にとり 有 利 な 国 際 環 境 の 形 成 2 我 が 国 全 体 としての 経 済 的 利 益 の 確 保 3EPA/FTA の 実 現 可 能 性 をあげている このうち 協 定 の 不 存 在 に よる 不 利 益 の 是 正 はメキシコとチリとの FTA が 該 当 し 資 源 および 食 糧 の 安 定 輸 入 はイン ドネシア ブルネイとの FTA の 目 的 となっている 2006 年 5 月 には 経 済 財 政 諮 問 会 議 が グローバル 戦 略 を 決 定 し 東 アジアとの EPA の 加 速 し 資 源 産 出 国 人 口 大 国 との 交 渉 に 積 極 的 取 組 むとともに 工 程 表 によりスピード 感 をもって 交 渉 を 進 めるとし 2010 年 には EPA 締 結 国 との 貿 易 額 の 割 合 が 全 貿 易 額 の 25% 以 上 となっていることを 期 待 するとした 2007 年 3 月 には 交 渉 のスピードアップのため に 1 協 定 の 雛 形 の 提 示 2 交 渉 メニューを 絞 るなど 取 り 組 みパターンの 多 様 化 3 事 前 準 備 の 簡 略 化 の 3 つの 改 善 策 に 取 組 むことが 確 認 されている EPA 交 渉 についての 工 程 表 は 2007 年 5 月 に 改 定 され 今 後 2 年 間 に EPA 締 結 国 が 12 カ 国 以 上 に 増 加 していること 2010 年 に EPA 締 結 国 との 貿 易 額 を 25% 以 上 とすることを 期 待 するとともに 東 アジアでの ASEAN プラス 日 中 韓 印 豪 ニュージーランドの 16 カ 国 の 経 済 連 携 を 含 めた 広 域 経 済 連 携 の 研 究 を 行 うこと 米 国 EU を 含 む 大 市 場 国 投 資 先 国 と の EPA を 将 来 の 課 題 として 検 討 することが 追 加 された Ⅱ. 課 題 となる 主 要 国 との 高 いレベルの FTA 2009 年 9 月 に 政 権 が 交 代 し 民 主 党 国 民 新 党 連 立 政 権 下 で 2010 年 6 月 に 新 成 長 戦 18 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/senryaku.html 22

略 が 閣 議 決 定 された 新 成 長 戦 略 では 21 世 紀 日 本 の 復 活 に 向 けた 21 の 国 家 戦 略 プ ロジェクトの 一 つとして アジア 太 平 洋 自 由 貿 易 圏 (FTAAP)の 構 築 を 通 じた 経 済 連 携 戦 略 が 掲 げられ 2010 年 秋 までに 包 括 的 経 済 連 携 に 関 する 基 本 方 針 を 策 定 するとした 2010 年 10 月 には 菅 総 理 ( 当 時 )が 施 政 方 針 演 説 で 環 太 平 洋 経 済 連 携 協 定 (TPP) 参 加 を 検 討 することを 表 明 した 突 然 の 表 明 であったため 与 党 政 府 内 を 含 め 交 渉 参 加 を 巡 って 国 論 を 2 分 する 論 争 が 起 こり 2010 年 11 月 の APEC 横 浜 首 脳 会 議 では TPP 交 渉 参 加 の 表 明 は 出 来 なかった 2010 年 11 月 9 日 に 閣 議 決 定 された 包 括 的 経 済 連 携 に 関 する 基 本 方 針 では WTO の ドーハ 開 発 アジェンダ 交 渉 が 不 透 明 な 中 で 主 要 貿 易 国 間 で 高 いレベルの EPA/FTA 網 が 拡 大 しているが 日 本 の 取 り 組 みは 遅 れているとして これまでの 姿 勢 から 大 きく 踏 み 込 み 世 界 の 主 要 貿 易 国 との 間 で 高 いレベルの 経 済 連 携 を 進 めるとともに 競 争 力 強 化 などの 抜 本 的 な 国 内 改 革 を 先 行 的 に 推 進 するとしている 具 体 的 な 取 組 みとしては センシティブ 品 目 に 配 慮 しつつすべての 品 目 を 自 由 化 交 渉 対 象 とし 高 いレベルの 経 済 連 携 を 目 指 すとし て 次 のような 方 針 を 掲 げている( 図 表 1) 図 表 1 包 括 的 経 済 連 携 に 関 する 基 本 方 針 の 具 体 的 取 組 み 1.アジア 太 平 洋 地 域 における 取 組 み 交 渉 中 の EPA 交 渉 (ペルー 豪 州 )の 妥 結 中 断 中 の 日 韓 EPA 交 渉 の 加 速 東 アジア 自 由 貿 易 圏 (EAFTA) 東 アジア 包 括 的 経 済 連 携 構 想 (CEPEA)などの 研 究 段 階 の 広 域 経 済 連 携 共 同 研 究 実 施 中 のモンゴルとの EPA の 交 渉 開 始 の 可 及 的 速 やかな 実 現 TPP は 情 報 収 集 を 進 めながら 対 応 する 必 要 があり 国 内 の 環 境 整 備 を 早 急 に 進 める とともに 関 係 国 との 協 議 を 開 始 2.アジア 太 平 洋 地 域 以 外 の 主 要 国 地 域 に 対 する 取 組 み 共 同 検 討 作 業 中 の EU と 交 渉 に 入 るための 調 整 を 加 速 し 国 内 の 非 関 税 措 置 への 対 応 を 加 速 交 渉 中 の 湾 岸 協 力 理 事 会 (GCC)との 交 渉 促 進 3.その 他 の 国 地 域 との 取 組 み その 他 のアジア 諸 国 新 興 国 資 源 国 について 経 済 的 観 点 外 交 戦 略 上 の 観 点 から 総 合 的 に 判 断 し EPA 締 結 を 含 めた 経 済 連 携 の 強 化 を 積 極 的 に 推 進 ( 資 料 ) 包 括 的 経 済 連 携 に 関 する 基 本 方 針 により 作 成 23

経 済 連 携 交 渉 と 国 内 対 策 の 一 体 的 実 施 として 農 業 人 の 移 動 規 制 制 度 改 革 の 3 分 野 で 適 切 な 国 内 改 革 を 先 行 的 に 推 進 するとしている 農 業 については 農 業 構 造 改 革 推 進 本 部 (2010 年 11 月 に 食 と 農 林 漁 業 の 再 生 推 進 本 部 として 設 置 )を 設 置 し 2011 年 6 月 をめ どに 基 本 方 針 を 決 定 し 中 長 期 的 な 視 点 を 踏 まえた 行 動 計 画 を 2011 年 10 月 をめどに 策 定 するとしている そして 関 税 措 置 等 の 国 境 措 置 を 見 直 し 納 税 者 負 担 制 度 に 移 行 するこ とを 検 討 するとしている 2011 年 3 月 11 日 の 東 日 本 大 震 災 という 国 難 に 直 面 して 政 府 は 復 旧 復 興 に 全 力 で 取 組 むことになり 5 月 17 日 閣 議 決 定 の 政 策 推 進 指 針 で 高 いレベルの 経 済 連 携 推 進 や 経 済 安 全 保 障 の 確 立 などの 国 と 国 の 絆 の 強 化 に 関 する 基 本 的 な 考 え 方 は 震 災 や 原 子 力 災 害 により 大 きな 被 害 を 受 けている 農 業 者 漁 業 者 の 心 情 国 際 交 渉 の 進 捗 産 業 空 洞 化 の 懸 念 などに 配 慮 しつつ 検 討 するとし TPP 交 渉 参 加 の 判 断 時 期 は 総 合 的 に 判 断 するとした 8 月 5 日 閣 議 決 定 の 日 本 再 生 のための 戦 略 に 向 けて では 日 EU EPA について 協 定 の 対 象 と 範 囲 を 決 める 予 備 交 渉 であるスコーピング 作 業 を 開 始 し 交 渉 の 早 期 開 始 に 努 めるほ か 日 中 韓 FTA の 共 同 研 究 を 着 実 に 終 了 させ 2012 年 の 日 中 韓 サミットでの 合 意 開 始 を 目 指 すとした ほかに 日 豪 EPA 交 渉 の 推 進 日 韓 EPA 交 渉 の 早 期 再 開 に 向 けて 取 組 み を 強 化 し 日 加 EPA 共 同 研 究 の 早 期 終 了 日 モンゴル EPA 交 渉 の 開 始 CEPA EAFTA の 早 期 交 渉 に 向 けて 積 極 的 に 取 組 むとし TPP 交 渉 参 加 の 判 断 時 期 は 総 合 的 に 判 断 しできる だけ 早 期 に 判 断 するとした 2011 年 9 月 の 野 田 内 閣 発 足 後 に TPP については 民 主 党 の 経 済 連 携 プロジェクトチーム で 20 数 回 の 議 論 を 経 て 野 田 総 理 が 11 月 11 日 の 記 者 会 見 で 交 渉 参 加 に 向 けて 関 係 国 との 協 議 に 入 ることを 表 明 し 13 日 の APEC 首 脳 会 議 で 同 様 の 表 明 を 行 った 2010 年 10 月 の TPP 交 渉 参 加 の 検 討 の 表 明 は 唐 突 に 出 されたとの 印 象 があるが 1 年 後 の 交 渉 参 加 の 決 定 は 従 来 の 日 本 の FTA 政 策 から 大 きく 踏 み 出 す 重 要 な 決 定 である 3. 日 本 の 締 結 した FTA とその 特 徴 (1)13 の EPA を 締 結 日 本 の 2012 年 4 月 時 点 での EPA は 発 効 が 12 署 名 したものが 1 交 渉 中 が 3( 中 断 し ている 韓 国 を 含 む) 研 究 議 論 中 が 7 となっている( 図 表 2) 韓 国 は 締 結 している FTA は 8 と 日 本 より 少 ないが 米 国 ( 署 名 済 み)EU( 発 効 )と 先 進 国 かつ 巨 大 経 済 圏 との FTA が 含 まれる そのため FTA 比 率 ( 輸 出 に 占 める FTA 締 24

結 国 のシェア)は 36.2%(2010 年 6 月 )と 日 本 の 17.6% を 上 回 っている 日 本 の 工 業 品 の 主 な 競 合 相 手 国 の 一 つは 韓 国 であり 韓 国 が 米 国 EU と FTA を 結 ぶことにより 日 本 の 輸 出 工 業 品 が 劣 位 に 置 かれることが 懸 念 されている 韓 国 は 新 興 国 との FTA に 積 極 的 であ り インドとの FTA は 日 本 より 2010 年 1 月 に 早 く 発 効 し トルコとは 2010 年 4 月 から 交 渉 を 開 始 した 中 国 とは 2012 年 1 月 の 首 脳 会 談 で 交 渉 に 向 けた 準 備 作 業 加 速 に 合 意 し 2012 年 の 前 半 に 交 渉 の 見 通 しであり メルコスール ロシアなど 11 の FTA を 交 渉 準 備 あるい は 研 究 中 である 図 表 2 日 本 の EPA 締 結 交 渉 状 況 ( 注 )TPP は 関 係 国 と 協 議 中 研 究 議 論 中 は EAFTA(ASEAN+3) CEPEA(ASEAN+6) 日 中 韓 ( 研 究 終 了 ) モンゴル( 研 究 終 了 ) EU カナダ コロンビア ( 資 料 ) 外 務 省 資 料 により 作 成 25

(2) 日 本 の FTA の 特 徴 Ⅰ. 包 括 的 な 協 定 日 本 の FTA の 特 徴 として 包 括 的 であることがあげられ 日 本 政 府 は EPA( 経 済 連 携 協 定 )という 用 語 を 使 用 している EPA の 内 容 は 貿 易 サービス 貿 易 の 自 由 化 投 資 の 自 由 化 から 税 関 手 続 きと 貿 易 円 滑 化 衛 生 植 物 検 疫 (SPS) 強 制 規 格 任 意 規 格 適 合 性 評 価 手 続 き(TBT) 貿 易 取 引 文 書 の 電 子 化 電 子 商 取 引 政 府 調 達 知 的 財 産 権 競 争 自 然 人 の 移 動 エネルギー 資 源 の 安 定 供 給 ビジネス 環 境 整 備 2 国 間 協 力 紛 争 解 決 ま で 極 めて 広 範 囲 であり 幅 広 い 経 済 関 係 の 強 化 を 実 現 することが 期 待 されている 自 然 人 の 移 動 では ビジネス 関 係 者 の 移 動 に 加 え フィリピン インドネシアとの EPA で 看 護 師 介 護 福 祉 士 の 移 動 が 規 定 されている 2 国 間 協 力 は JSEPA から 実 施 されており マレーシアとの EPA では 自 動 車 産 業 への 協 力 インドネシアとの EPA では 金 型 産 業 と 自 動 車 部 品 産 業 への 協 力 タイとの EPA では 食 品 安 全 協 力 や 地 域 間 協 力 など 農 水 産 分 野 での 協 力 を 行 うなど 相 手 国 の 産 業 の 競 争 力 強 化 に 役 立 つ 協 力 を 行 っている エネルギー 資 源 の 安 定 供 給 は ブルネイとインドネシアとの EPA で 独 立 の 章 が 設 けられ 安 定 供 給 投 資 環 境 整 備 協 力 政 策 対 話 などが 規 定 されている スイスとの EPA では 環 境 に 関 する 物 品 およびサービスの 貿 易 を 促 進 する 規 定 を 入 れると ともに 初 めて 電 子 商 取 引 章 を 設 けた TPP の 交 渉 分 野 は 日 本 の EPA の 対 象 分 野 とほぼ 共 通 している 日 本 の EPA でカバーしていないのは 環 境 労 働 分 野 別 横 断 事 項 である 日 本 は TPP で 対 象 としている 分 野 の 自 由 化 を WTO および EPA で 進 めてきており TPP に より 全 く 新 たに 開 国 をするわけではない Ⅱ. 低 い 自 由 化 率 日 本 は 包 括 的 で 質 の 高 い( 自 由 化 レベルの 高 い)FTA を 目 指 してきた FTA を 形 成 す る WTO 上 の 要 件 は GATT24 条 に 規 定 されている 実 質 的 に 全 ての 貿 易 上 の 障 害 を 撤 廃 すること である 通 常 は 輸 入 額 の 90% 以 上 を 自 由 化 ( 関 税 撤 廃 )すると 解 釈 されてい る 輸 入 額 ベースで 見 た 日 本 の FTA の 自 由 化 率 ( 無 税 化 率 )は メキシコとの FTA を 除 き 90%を 越 えているが 相 手 国 の 自 由 化 率 と 比 較 すると 半 数 の EPA で 相 手 国 よりも 低 く なっている( 図 表 3) 先 進 国 と 開 発 途 上 国 の FTA では 先 進 国 側 の 自 由 化 率 が 高 いのが 普 通 であるが 日 本 の FTA の 場 合 逆 となっている 自 由 化 率 をタリフライン( 関 税 分 類 品 目 HS8-9 桁 )ベースでみると 日 本 の 自 由 化 率 はさらに 低 くなる 26

図 表 3 日 本 の FTA における 自 由 化 率 日 本 側 自 由 化 率 相 手 国 側 自 由 化 率 日 本 シンガポール 日 本 メキシコ 日 本 マレーシア 日 本 タイ 日 本 フィリピン 日 本 チリ 日 本 ブルネイ 日 本 インドネシア 日 本 ASEAN 日 本 ベトナム 日 本 スイス 日 本 インド 日 本 ペルー 94.7%(84.4%) 86.8%(86.0%) 94.1%(86.8%) 91.6%(87.2%) 91.6%(88.4%) 90.5%(86.5%) 99.9%(84.6%) 93.2%(86.8%) 93.0%(86.5%) 94.9%(86.5%) 99.3%(85.6%) 97.0%(86.4%) 99.0%(87%) 100.0% 98.4% 99.3% 97.4% 96.6% 99.8% 99.9% 89.7% 90.0% 87.7% 99.7% 90.0% 99.0% ( 注 )インドネシアの 96%は 鉄 鋼 の 特 定 用 途 免 税 を 含 めた 場 合 の 数 値 カッコ 内 は 品 目 ベース(タリフライン)の 自 由 化 率 (10 年 以 内 に 関 税 を 撤 廃 する 品 目 の 比 率 ) ( 資 料 ) 外 務 省 (2009) 日 本 の 経 済 連 携 協 定 (EPA) 交 渉 現 状 と 課 題 タリフラインの 自 由 化 率 は 内 閣 官 房 (2011) 包 括 的 経 済 連 携 の 現 状 について 日 本 の 場 合 EPA で 関 税 撤 廃 をしたことない 品 目 は 約 940 品 目 ある そのうち 鉱 工 業 品 は 95 品 目 であり 自 由 化 率 の 低 い 理 由 は 農 林 水 産 品 分 野 での 例 外 品 目 である 米 小 麦 大 麦 指 定 乳 製 品 豚 肉 牛 肉 などが 除 外 再 協 議 としており 関 税 割 当 段 階 的 関 税 削 減 とする 品 目 も 多 い 日 本 側 が 農 林 水 産 品 を 例 外 扱 いにすることにより 相 手 国 側 は 工 業 製 品 を 例 外 とすることが 可 能 となるため これまで 締 結 してきた EPA では 相 手 国 側 も 多 く の 例 外 品 目 を 設 けている また 豪 州 との FTA や 将 来 的 に 考 えられるブラジルなど 新 興 国 との FTA の 締 結 は 極 めて 困 難 である センシティブな 農 産 品 の 自 由 化 に 踏 み 込 むことが 出 来 れば TPP 締 結 によりレベルの 高 い FTA 締 結 への 隘 路 を 打 破 することができ 日 本 の FTA での 交 渉 力 は 格 段 に 強 化 される 4. 環 太 平 洋 経 済 連 携 協 定 (TPP) (1)P4 から TPP へ 環 太 平 洋 経 済 連 携 協 定 (TPP)は 2006 年 5 月 に 発 効 した 環 太 平 洋 戦 略 的 経 済 連 携 協 定 (Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)を 拡 大 発 展 する 自 由 貿 易 協 定 (FTA)である 環 太 平 洋 戦 略 的 経 済 連 携 協 定 は ブルネイ チリ ニュージーランド シ 27

ンガポールの 4 カ 国 が 参 加 する FTA(P4)であり 2005 年 7 月 18 日 にブルネイを 除 く 3 カ 国 が 調 印 ブルネイは 2 週 間 後 に 調 印 し 2006 年 に 発 効 した 発 効 後 は チリの 要 請 により 2 年 延 期 された 投 資 と 金 融 サービス 交 渉 が 2008 年 3 月 か ら 開 始 され 米 国 は 投 資 金 融 サービス 分 野 の 交 渉 に 2 月 に 参 加 を 表 明 交 渉 に 参 加 し 9 月 には シュワブ USTR 代 表 が 全 分 野 の 交 渉 への 参 加 を 表 明 した 2008 年 11 月 の APEC 閣 僚 会 議 後 に 豪 州 とペルーが 参 加 を 表 明 し ベトナムは 準 メンバーとして 参 加 を 表 明 し ている 19 この 時 点 で 8 カ 国 が 交 渉 参 加 を 表 明 しており 以 下 は TPP と 呼 ぶことにする オバマ 大 統 領 は 2009 年 11 月 に 広 範 な 加 盟 国 と 高 いレベルの 地 域 協 定 を 作 るために 環 太 平 洋 経 済 連 携 に 関 与 する(engage)と 表 明 し TPP は 広 く 関 心 を 集 めた 12 月 にロン カー ク USTR 代 表 は 議 会 に 公 式 交 渉 に 参 加 することを 通 告 している TPP 交 渉 は 2010 年 3 月 にメルボルンで 8 カ 国 により 開 始 され 10 月 にはマレーシアの 交 渉 参 加 が 認 められ 交 渉 参 加 国 は 9 カ 国 になった マレーシアは 米 国 と 2 国 間 FTA を 交 渉 していたが 2009 年 11 月 に 米 国 から 2 国 間 FTA よりも TPP 交 渉 を 優 先 することを 通 告 さ れ TPP 交 渉 参 加 を 検 討 し 2010 年 7 月 に 参 加 を 決 定 していた 11 月 にはベトナムが 準 メ ンバーから 正 式 交 渉 メンバーに 格 上 げされた その 後 6 回 の 交 渉 が 行 われ 2011 年 11 月 にハワイで 行 われた APEC 首 脳 会 議 の 際 に 開 催 された TPP 交 渉 参 加 国 首 脳 会 議 で 大 枠 に 達 した (2)TPP の 意 義 TPP は 21 世 紀 のアジア 太 平 洋 地 域 の 経 済 秩 序 の 形 成 という 重 要 な 意 義 を 持 っている 東 アジアの 広 域 FTA 構 想 に 参 加 していなかった 米 国 を 含 むアジア 太 平 洋 地 域 の 多 数 の 国 が 参 加 し 高 いレベルの 貿 易 自 由 化 を 目 指 すとともに 新 しいルールを 含 めた 広 範 な 分 野 の ルールを 交 渉 しており TPP のルールがアジア 太 平 洋 の 事 実 上 (デファクト)のルールに なる 可 能 性 が 高 い これらの 特 徴 は 米 国 の 参 加 によるものであり 東 アジアで 検 討 され てきた 広 域 FTA 構 想 である EAFTA CEPEA と 対 照 的 である 米 国 の 参 加 は ブッシュ 政 権 時 代 の 中 東 偏 重 からアジア 太 平 洋 を 重 視 する 米 国 の 戦 略 の 変 更 によるものであり 経 済 および 軍 事 面 でこの 10 年 間 に 台 頭 してきた 中 国 への 牽 制 が 意 図 されていることは 間 違 い ないだろう 知 的 財 産 権 の 保 護 政 府 調 達 の 透 明 性 国 営 企 業 と 民 間 企 業 の 対 等 な 競 争 な ど 巨 大 な 市 場 を 武 器 に 独 自 のルールを 作 る 傾 向 にある 中 国 を 想 定 したルール 策 定 も TPP で 19 経 済 産 業 省 通 商 政 策 局 経 済 連 携 課 日 本 の 通 商 政 策 と 今 後 の 経 済 連 携 のあり 方 2010 年 28

議 論 されている なお 中 国 は TPP 交 渉 参 加 9 カ 国 のうち 7 カ 国 と FTA を 締 結 豪 州 と 交 渉 している TPP は APEC の FTA(FTAAP)を 目 指 しており 参 加 国 が 増 加 するのは 確 実 である 2011 年 11 月 には 日 本 と 同 時 にメキシコ カナダが 参 加 を 表 明 した FTA のドミノ 効 果 (FTA 参 加 国 がドミノ 倒 しのように 増 加 する 現 象 )により 他 の ASEAN や 韓 国 などが 参 加 する 可 能 性 は 高 く アジア 太 平 洋 の 広 域 FTA になるであろう 日 本 からみると TPP は EPA に 比 べはるかに 自 由 化 レベルの 高 い 国 際 水 準 の FTA であ り 大 幅 な 農 業 の 自 由 化 を 行 うことにより 日 本 の FTA 交 渉 での 制 約 要 因 が 取 り 除 かれ FTA における 日 本 の 交 渉 力 が 大 幅 に 強 化 できるという 意 義 がある そのことにより 従 来 の EPA で 認 めざるを 得 なかった 工 業 品 を 中 心 とする 相 手 国 側 の 例 外 品 目 を 大 幅 に 減 少 させること できるようになる EU との EPA 日 中 韓 EPA CEPEA などの 交 渉 における 日 本 の 競 争 力 強 化 の 意 味 は 非 常 に 大 きい そして アジア 太 平 洋 地 域 の FTA に 発 展 する TPP に 参 加 す ることによりアジア 太 平 洋 地 域 の 経 済 との 統 合 を 進 めこれら 地 域 の 経 済 活 力 を 少 子 高 齢 化 と 人 口 減 少 が 進 み 国 内 市 場 が 縮 小 する 日 本 に 取 り 込 むことができることである 5.TPP の 交 渉 の 概 要 と 論 点 (1)TPP の 概 要 と 大 枠 合 意 TPP は 2010 年 12 月 から 24 の 作 業 部 会 で 交 渉 が 行 われている 20 首 席 交 渉 官 協 議 や 制 度 的 事 項 などを 省 き 自 由 化 ルール 策 定 に 関 する 分 野 を 中 心 に 交 渉 の 内 容 進 展 状 況 大 枠 合 意 などについて 日 本 政 府 が 2011 年 11 月 に 公 表 した TPP 協 定 交 渉 の 分 野 別 状 況 をベースに 交 渉 参 加 国 との 協 議 の 結 果 などのその 他 の 資 料 を 追 加 しまとめてみた 21 Ⅰ. 物 品 の 貿 易 高 いレベルの 自 由 化 を 目 指 しているが 二 国 間 ベースの 交 渉 が 続 いており 関 税 撤 廃 や 20 21 首 席 交 渉 官 協 議 市 場 アクセス( 工 業 ) 市 場 アクセス( 繊 維 衣 料 品 ) 市 場 アクセス( 農 業 ) 原 産 地 規 則 貿 易 円 滑 化 衛 生 植 物 検 疫 (SPS) 強 制 規 格 任 意 規 格 適 合 性 評 価 手 続 き(TBT) 貿 易 救 済 政 府 調 達 知 的 財 産 競 争 政 策 サービス( 越 境 サービス) サービス( 金 融 ) サービス( 電 気 通 信 ) サービス( 商 用 関 係 者 の 移 動 ) 電 子 商 取 引 投 資 環 境 労 働 制 度 的 条 項 紛 争 解 決 協 力 分 野 横 断 的 事 項 である 国 家 戦 略 室 環 太 平 洋 パートナーシップ(TPP) 協 定 交 渉 の 分 野 別 状 況 (2011 年 10 月 ) 大 枠 合 意 に ついては 外 務 省 仮 訳 環 太 平 洋 パートナーシップ(TPP)の 輪 郭 2011 年 11 月 TPP 交 渉 参 加 に 向 けた 関 係 国 との 協 議 の 結 果 ( 米 国 )(2012 年 2 月 ) TPP 交 渉 参 加 に 向 けた 関 係 国 との 協 議 の 結 果 ( 米 国 以 外 8 カ 国 )(2012 年 3 月 ) 国 家 戦 略 室 TPP 協 定 交 渉 の 分 野 別 状 況 (2012 年 3 月 ) 29

削 減 方 法 について 本 格 的 な 交 渉 を 行 う 段 階 に 至 っていない 例 外 品 目 が 認 められるかどう かは 未 定 であり センシティブ 品 目 の 扱 いは 交 渉 全 体 のパッケージの 中 で 決 まるとされて いる TPP では 既 存 FTA を 残 し FTA 未 締 結 国 と 2 国 間 FTA を 交 渉 する 方 式 を 米 国 が 主 張 し 既 存 の FTA を 含 め 統 一 交 渉 を 行 うという 交 渉 方 式 を 豪 州 などが 主 張 している TPP 交 渉 参 加 国 間 の FTA には 米 豪 FTA や 豪 州 ASEAN の FTA のように 例 外 品 目 がある FTA が ある 2011 年 11 月 の 大 枠 合 意 では 協 定 文 は 各 国 が WTO での 義 務 を 超 える 約 束 を 含 む 関 税 撤 廃 と 非 関 税 障 壁 の 撤 廃 を 取 り 扱 っている となっており 例 外 なき 関 税 撤 廃 との 表 現 はない 繊 維 衣 料 品 については 税 関 協 力 原 産 地 規 則 特 別 セーフガード などを 議 論 しているとしている Ⅱ. 原 産 地 規 則 TPP 交 渉 参 加 国 間 で 27 の FTA があり 統 一 的 原 産 地 規 則 を 作 るための 交 渉 が 行 われて いる 原 産 品 の 基 準 の 内 容 や 原 産 地 証 明 制 度 ( 自 己 証 明 あるいは 第 三 者 証 明 など)が 論 点 になっており 自 己 証 明 制 度 を 中 心 に 議 論 が 進 んでいるが 受 入 れに 難 色 を 示 す 国 があると いわれる 大 枠 合 意 では 共 通 の 原 産 地 規 則 の 策 定 に 合 意 し 客 観 性 透 明 性 予 見 可 能 性 を 備 えたものにすることと 累 積 (TPP 参 加 国 の 原 材 料 を 自 国 の 原 材 料 として 認 める)に ついても 議 論 している としている 繊 維 衣 料 品 の 原 産 地 規 則 では 米 国 がベトナムに 提 案 したヤーンフォワード( 使 用 される 原 糸 が FTA 参 加 国 産 でなければならないという 繊 維 の 原 産 地 規 則 )が 論 点 になっており 交 渉 が 難 航 している 米 国 の FTA は 繊 維 の 原 産 地 規 則 はヤーンフォワードを 採 用 している Ⅲ. 貿 易 円 滑 化 P4 に 基 づいて 貿 易 規 則 の 透 明 性 手 続 簡 素 化 国 際 標 準 への 調 和 化 電 子 証 明 シン グル ウィンドウなどの 議 論 が 行 われており 大 きな 対 立 もなく 交 渉 は 進 展 している P4 では 通 関 手 続 きの 円 滑 化 税 関 協 力 関 税 評 価 事 前 教 示 ぺーパーレス 貿 易 の 促 進 ( 電 子 化 ) 迅 速 貨 物 通 関 リスク 管 理 などを 規 定 し 物 品 の 税 関 からの 引 渡 しは 到 着 から 48 時 間 以 内 に 行 うとしている 大 枠 合 意 では 税 関 に 関 する 条 文 案 の 重 要 な 要 素 および 予 見 可 能 で 透 明 性 があり 貿 易 を 迅 速 化 し 促 進 する 税 関 手 続 きを 設 けることが 非 常 に 重 要 である ことに 合 意 した としている 30

Ⅳ. 衛 生 植 物 検 疫 (SPS) WTO の SPS 協 定 の 権 利 義 務 の 再 確 認 を 基 本 として 手 続 きの 迅 速 化 透 明 性 の 向 上 な どが 議 論 されており 規 制 当 局 間 の 委 員 会 を 設 置 し 措 置 の 同 等 輸 出 証 明 輸 入 検 査 な ど 個 別 論 点 について 協 議 協 力 を 行 うことと リスク 評 価 における 科 学 的 根 拠 の 開 示 が 議 論 されているといわれる 大 枠 合 意 は 条 文 案 は WTO の SPS 協 定 の 権 利 義 務 を 強 化 発 展 させることに 合 意 した としている また 条 文 案 には 科 学 透 明 性 地 域 主 義 協 力 お よび 同 等 性 に 関 する 一 連 の 約 束 が 含 まれるであろう としている 地 域 主 義 措 置 の 同 等 などについては 議 論 は 収 斂 していないといわれる Ⅴ. 貿 易 の 技 術 的 障 害 (TBT) WTO の TBT 協 定 の 権 利 義 務 の 再 確 認 を 基 本 として 基 準 の 策 定 過 程 に 相 手 国 の 利 害 関 係 者 の 参 加 を 認 めることなどが 議 論 されているといわれる 大 枠 合 意 では 条 文 案 は WTO の TBT 協 定 の 権 利 義 務 を 強 化 発 展 させるものであり 規 制 当 局 が 健 康 安 全 環 境 を 保 護 し その 他 の 正 当 な 政 策 目 的 を 達 成 することを 助 ける としている また 遵 守 期 間 適 合 性 評 価 手 続 き 国 際 規 格 制 度 的 メカニズムおよび 透 明 性 に 関 する 約 束 が 含 まれる と し 規 制 に 関 する 協 力 透 明 性 特 定 分 野 を 対 象 とする 提 案 などについても 議 論 している としている 各 国 の 権 限 を 認 める 一 方 で 特 定 分 野 についての 提 案 が 出 されていることが 注 目 される なお 遺 伝 子 組 み 換 え 作 物 と 自 動 車 についての 提 案 は 出 されていない Ⅵ. 貿 易 救 済 措 置 統 合 条 文 案 に 基 づいた 交 渉 が 行 われているが 物 品 貿 易 におけるセンシティブ 品 目 の 扱 いと 密 接 に 関 連 するため 他 の 分 野 での 交 渉 進 展 を 待 って 議 論 をするといわれ 議 論 は 進 んでいない P4 では セーフガード 協 定 アンチ ダンピング 協 定 補 助 金 および 相 殺 措 置 に 関 する 協 定 による 権 利 と 義 務 を 確 認 し チリは 特 定 品 目 ( 乳 製 品 )について 関 税 削 減 期 間 中 に 限 り 特 別 農 業 セーフガード 措 置 を 採 用 できる 大 枠 合 意 では WTO 協 定 上 の 権 利 と 義 務 を 確 認 することに 合 意 し 透 明 性 や 適 正 手 続 きの 分 野 で 既 存 の 権 利 義 務 を 発 展 させた 義 務 などについての 新 提 案 の 検 討 暫 定 的 な 地 域 セーフガードメカニズムに 関 する 提 案 も 出 されている としている 新 提 案 と 地 域 的 なセーフガードメカニズムが 論 点 とな ろう 31

Ⅶ. 政 府 調 達 WTO の 政 府 調 達 協 定 (GPA) 並 みの 規 定 とするか それを 上 回 るレベルにするかを 中 心 に 交 渉 が 行 われ 対 象 機 関 については 地 方 政 府 機 関 およびその 他 の 機 関 を 含 めることを 目 指 している 国 もあるが 現 時 点 では 中 央 政 府 に 集 中 して 議 論 されている TPP 参 加 国 の うち GPA 締 約 国 は 米 国 とシンガポールの 2 カ 国 である GPA は 内 国 民 待 遇 と 最 恵 国 待 遇 入 札 手 続 き 供 給 者 の 資 格 調 達 の 効 果 を 減 殺 する 措 置 (オフセット) 透 明 性 適 用 除 外 などを 規 定 している 適 用 範 囲 は 中 央 政 府 機 関 地 方 政 府 機 関 政 府 関 係 機 関 で あり 基 準 額 は 各 締 約 国 の 付 表 で 提 示 される なお 2011 年 12 月 の WTO 閣 僚 会 議 で GPA 交 渉 が 大 筋 合 意 し 日 本 は 物 品 調 達 の 基 準 額 を 1900 万 円 から 1500 万 円 に 引 下 げ 政 令 指 定 都 市 7 市 を 国 際 調 達 の 対 象 に 加 えるなど 各 加 盟 国 が 政 府 調 達 市 場 の 開 放 範 囲 を 拡 大 し 約 800 億 ドルの 政 府 調 達 市 場 が 新 たに 開 放 されることになった 22 大 枠 合 意 では 基 本 原 則 と 手 続 きに 合 意 し 特 定 の 義 務 について 策 定 している とし 途 上 国 について 経 過 措 置 により 調 達 市 場 を 開 放 する 必 要 を 認 識 しながら 全 ての 国 が 同 等 のレベルの 調 達 市 場 を 開 放 することを 目 指 している としている また 相 互 のセンシティ ビティを 認 識 しつつ 相 互 の 政 府 調 達 市 場 へのアクセスを 最 大 にするように 対 象 範 囲 の 拡 大 を 追 求 しながら 交 渉 が 行 われている としている Ⅷ. 知 的 財 産 WTO の TRIPS 協 定 ( 知 的 所 有 権 の 貿 易 的 側 面 に 関 する 協 定 )の 保 護 水 準 保 護 内 容 を どの 程 度 上 回 る 規 定 にするかを 中 心 に 議 論 が 行 われている 米 国 は 米 韓 FTA のような TRIPS 協 定 の 保 護 の 水 準 を 上 回 る 規 定 (TRIPS プラス)を 主 張 し ニュージーランドは WTO の TRIPS 協 定 の 規 定 に 準 拠 することを 主 張 しているといわれる 豪 州 シンガポー ル チリ ペルーは 米 国 と FTA 締 結 済 みであり TRIPS プラスは 受 入 れ 可 能 ニュージー ランド ブルネイ ベトナム マレーシアは 国 内 法 制 に TRIPS プラス 規 定 と 整 合 的 でない 部 分 があり 議 論 は 収 斂 していない 大 筋 合 意 では TRIPS 協 定 の 権 利 義 務 を 強 化 発 展 させることで 合 意 し 商 標 地 理 的 表 示 著 作 権 と 関 連 する 権 利 特 許 営 業 秘 密 一 定 の 規 制 製 品 に 必 要 なデータ 知 的 財 産 の 執 行 遺 伝 資 源 と 伝 統 的 知 識 を 含 む 多 くの 形 態 の 知 的 財 産 に 関 する 提 案 は 議 論 され TRIPS 協 定 と 公 衆 衛 生 に 関 するドーハ 宣 言 についての 共 有 された 約 束 を 条 約 文 に 反 映 する 22 経 済 産 業 省 WTO 政 府 調 達 協 定 交 渉 の 大 筋 合 意 2011 年 12 月 32