第 25 回 海 洋 工 学 シンポジウム 平 成 27 年 8 月 6, 7 日 The 25th Ocean Engineering Symposium, August 6-7, 2015 日 本 海 洋 工 学 会 日 本 船 舶 海 洋 工 学 会 J F O E S & J A S N A O E OES25-122 AIS データを 用 いた 石 油 コンビナート 周 辺 海 域 における 船 舶 の 沖 待 ち 状 況 解 析 高 欣 佳 神 戸 大 学 院 海 事 科 学 研 究 科 牧 野 秀 成 大 阪 大 学 古 莊 雅 生 神 戸 大 学 Analysis on The Situation of Waiting Ship Anchor around Coastal Industrial Zone Xinjia GAO Hidenari MAKINO Masao FURUSHO Department of Maritime Sciences, Kobe University E-mail: 123w324w@stu.kobe-u.ac.jp Osaka University Kobe University Abstract This study has focused on disaster prevention of coastal industrial zone form a point of view in the maritime safety. A maritime accident may cause that maritime transportation is at a standstill and the environment is polluted by oil spills from ships. The damage may even influences in the coastal industrial zone when the disaster occurs in coast. However, the study is to analyze the ships anchor offshore before entering the port. Because the anchor ships commonly crowded together offshore. This causes numerous maritime accidents, including collisions and grounding offshore, especially when ships anchor at the mercy of the wind and current. The method of this study is to utilize automatic identification system (AIS) data, which make it much easier to conduct studies involving a large number of observations. According to the analysis of AIS data, the situation of anchor ships is determined, and the ships dragging in particular have been understood when anchor in the stormy weather. This study also presents the results of an analysis of how the anchor ships affect the traffic 1 緒 言 2011 年 3 月 に 発 生 した 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 では, 臨 海 の 石 油 コンビナートで 重 大 事 故 が 多 数 発 生 した 1) 特 に 岩 手 県 や 宮 城 県 の 沿 岸 域 ではタンクが 爆 発, 炎 上 し 長 時 間 にわたり 延 焼 した さらに, 流 出 した 油 は 海 及 び 沿 岸 域 を 汚 染 した 今 後 の 地 震 や 津 波 に 対 応 すべく, 臨 海 コンビナートにおける 防 災 対 策 が 進 んでいる 一 方,そうした 港 湾 の 資 源 貯 蔵 基 地 に 資 源 を 輸 送 するために 重 要 な 役 割 を 担 っている 船 舶 につい てそれら 個 別 の 防 災 対 策 は 昔 から 講 じられてきているが, 近 年 の 世 界 経 済 の 急 速 な 発 展 により 大 量 物 資 輸 送 機 能 としての 船 舶 はその 船 体 が 巨 大 化 し,かつ 船 舶 の 交 通 量 も 増 加 してい るため,それらに 見 合 った 防 災 対 策 の 再 考 が 必 要 となる 特 に 危 険 物 を 積 載 する 船 舶 は, 大 量 の 原 油 や 化 学 物 質 などを 運 搬 し, 混 雑 時 などはそれら 船 舶 が 連 続 して 航 行 しているため, まるで 大 きな 石 油 タンクが 移 動 する 石 油 コンビナートのよう に 海 上 や 沿 岸 域 に 分 散 している また, 船 舶 自 身 の 航 行 は 気 象 海 象 や 海 上 の 交 通 状 況 に 影 響 されやすく 海 難 発 生 のリス クが 高 い 航 路 上 やその 付 近 で 海 難 が 発 生 した 場 合, 海 上 交 通 がストップし, 海 上 輸 送 機 能 が 失 われる こうした 状 況 下 では, 他 船 も 巻 き 込 んでの 同 時 事 故 が 多 発 的 に 発 生 する 可 能 性 も 考 えられる さらに 油 流 出 により, 海 上 火 災 が 発 生 し 環 境 汚 染 も 起 こるため 重 大 な 問 題 を 引 き 起 こす 可 能 性 がある 本 研 究 では, 上 述 の 様 々な 海 上 リスクの 起 因 となる 船 舶 に ついて 航 行 安 全 及 び 海 難 防 止 の 点 から 船 舶 が 入 港 する 際 に 港 外 で 入 港 の 順 番 を 待 つ 所 謂 沖 待 ち 船 舶 に 着 目 した この 沖 待 ち 船 舶 は 各 港 の 周 辺 海 域 に 停 泊 しているため,それらの 存 在 が 多 い 場 合 は 海 上 交 通 の 航 行 安 全 を 阻 害 するリスクがある というのも, 長 時 間 の 港 湾 付 近 での 停 泊 は, 海 上 に 巨 大 でし かも 若 干 の 漂 流 を 伴 う 障 害 物 が 存 在 していることと 同 様 であ るため, 沖 待 ち 船 舶 が 原 因 となる 錨 泊 待 機 中 の 船 舶 の 走 錨 に よる 衝 突 や 乗 揚 げ 事 故 が 多 発 している 2)3) 特 に, 荒 天 時 や 台 風 接 近 時 は 船 舶 が 走 錨 しやすく, 多 くの 危 険 が 潜 伏 している もしこの 船 舶 が 事 故 になると, 海 上 に 重 大 な 被 害 を 及 ぼすだ けではなく, 船 舶 から 流 出 した 油 は 臨 海 のコンビナートに 拡 散 する 可 能 性 もある このような 危 険 性 がある 沖 待 ち 船 舶 に ついては,これまでに 錨 泊 時 の 船 体 運 動 やアンカーを 考 慮 し た 船 体 振 れ 回 り,または 走 錨 などの 解 析 研 究 は 行 われている が,いずれも 対 象 船 舶 自 身 に 対 しての 解 析 であり, 実 際 のデ ータを 用 いた 検 証 などはほとんどなされていない 特 に,そ うした 錨 泊 船 舶 が 多 数 存 在 することで 危 険 な 状 況 につながる 荒 天 時 における 実 際 の 状 況 を 基 礎 とした 客 観 的 な 指 標 に 基 づ く 海 域 対 象 の 研 究 はなされていない というのも,これまで はそうした 錨 泊 船 舶 の 停 泊 状 況 がほとんど 把 握 されていなか ったからである そのため 本 研 究 では,AIS( 船 舶 自 動 識 別 装 置 )データの 活 用 により 沖 待 ち 船 舶 を 抽 出 し, 停 泊 の 実 態 を 把 握 した さらに, 荒 天 時 において, 船 舶 が 避 難 のために 海 域 に 集 中 し, 沖 待 ち 船 舶 を 含 めた 停 泊 船 舶 の 輻 輳 状 況 を 解 析 した 2 AIS データを 用 いた 沖 待 ち 船 舶 の 抽 出 2.1 AIS データの 活 用 AIS は 船 舶 の 安 全 航 行, 現 在 位 置 や 針 路, 船 首 方 位 や 速 度 などの 動 的 情 報 と 船 種 や 船 長, 船 幅 や 目 的 地 入 港 予 定 時 間 - 565 -
などの 静 的 情 報 を 相 互 に 自 動 送 受 信 することで, 周 囲 の 船 舶 の 航 行 状 況 を 把 握 するための 装 置 である AIS は SOLAS 条 約 に 従 って, 対 象 船 舶 ( 国 際 航 海 では 旅 客 船 と 300 総 トン 以 上, 国 際 航 海 以 外 では 500 総 トン 以 上 )が 義 務 化 されている 4) AIS データを 用 いた 研 究 として, 海 上 交 通 流 調 査 5) や 港 湾 管 理 6) など 多 くの 分 野 で 行 われている 本 研 究 においては AIS データを 用 いて,これまでに 実 情 把 握 が 困 難 であった 沖 待 ち 船 舶 の 抽 出 や 停 泊 船 舶 の 挙 動 解 析 を 行 った て 平 均 風 速 20m/s 以 上 の 強 風 が 観 測 された この 強 風 により 錨 泊 船 舶 は 走 錨 しやすく, 衝 突 や 沿 岸 に 乗 揚 事 故 が 多 発 する 本 研 究 は 天 候 良 好 の 時 及 び 荒 天 時 の 船 舶 の 錨 泊 状 況 を 解 析 し た 2.2 研 究 対 象 海 域 本 研 究 は 大 阪 湾 (134 54'12"E-135 27'59"E ; 34 15'47"N-34 43'11"N )にある 臨 海 コンビナート 周 辺 の 船 舶 を 対 象 とした Fig. 1 は 対 象 海 域 である 大 阪 湾 及 び 臨 海 工 業 地 帯 を 示 す この 地 域 では 工 業 が 発 達 し, 日 本 三 大 工 業 地 帯 の 一 つである 阪 神 工 業 地 帯 と 呼 ばれている 特 に 石 油 化 学 な どの 重 工 業 は 大 阪 湾 の 東 部 に 集 中 し,その 面 積 も 大 きい 7) もしこの 海 域 に 火 災 や 爆 発 が 起 きれば, 長 時 間 にわたって 続 々と 火 災 が 拡 大 する さらに 海 上 においては, 国 際 戦 略 港 湾 を 複 数 存 在 し 常 時 多 くの 大 型 船 舶 が 航 行 している 加 えて, 多 くの 漁 場 も 存 在 するため, 多 種 多 様 な 船 舶 が 常 に 輻 輳 状 態 な 海 域 である 今 後 も 航 行 船 舶 量 の 増 加 が 予 想 される 本 研 究 では, 上 述 のような 危 険 が 潜 伏 している 大 阪 湾 を 研 究 対 象 とした 調 査 期 間 は 2012 年 3 月 6 日 ( 火 ) 及 び 一 週 間 後 2012 年 4 月 3 日 ( 火 )の 二 日 における 船 舶 の 動 向 を 解 析 した 調 査 対 象 期 間 2012 年 3 月 6 日 の 天 候 については, 気 象 庁 の 情 報 より 降 雨 量 は 少 なく, 風 もほとんどない 状 況 で, 視 界 は 良 好 であったことが 確 認 された それに 対 して,2012 年 4 月 3 日 は 急 速 に 発 達 した 低 気 圧 が 大 阪 湾 を 直 撃 し, 海 域 は 午 前 から 暴 風 雨 や 高 波 が 強 く, 巨 大 台 風 通 過 時 のような 状 況 であ った 当 日 の 午 前 9 時 の 天 気 図 を Fig. 2 に 示 す この 後, 同 低 気 圧 は 勢 力 を 強 めながら 東 に 進 んでいく 大 阪 湾 では, 特 に 午 後 から 夕 刻 にかけて 風 速 20m/s 以 上 の 強 風 が 断 続 的 に 吹 き 荒 れ, 和 歌 山 県 友 ヶ 島 では 最 大 風 速 32.2m/s を 観 測 した 同 日 の 大 阪 湾 内 の 風 速 について 気 象 庁 の 観 測 データを Fig. 3 (a,b)に 示 す Fig. 3 (a) は 神 戸 空 港 で 観 測 された 風 速 がグラフ である 神 戸 空 港 周 辺 海 域 では 16 時 から 17 時 にかけて 最 大 風 速 は 24.1m/s を 観 測 した また Fig. 3 (b)で 示 す 大 阪 の 南 部 関 西 空 港 辺 りでは 13 時 から 14 時 及 び 17 時 から 19 時 にかけ Fig. 2 Weather chart (9AM, April 3) by Japan Weather Association (a) Observation data at Kobe airport observatory Fig. 1 Osaka Bay and Coastal Industrial Zone (b) Observation data at Kansai airport observatory Fig. 3 Observation data of wind speed and wind direction by Japan Meteorological Agency - 566 -
AIS データ 解 析 結 果 から, 通 常 時 である 2012 年 3 月 6 日 ( 火 ) の 航 行 船 舶 数 は 275 隻 であった また, 異 常 気 象 海 象 時 で あった 4 月 3 日 ( 火 )の 船 舶 数 は 304 隻 であった 通 常 時 と 比 較 して 船 舶 数 が 30 隻 程 度 多 く 確 認 された その 理 由 として, 荒 天 時 には 港 内 に 停 泊 していた 船 舶 が 港 外 に 出 航 したことや, 太 平 洋 沿 岸 を 航 行 していた 船 舶 が 荒 天 避 難 のために 大 阪 湾 内 に 入 ってきたことに 船 舶 数 が 増 加 したことが 挙 げられる 次 に, 同 航 行 船 舶 の 船 種 について 調 査 した 結 果, 両 日 ともに 貨 物 船 が 最 も 多 く 約 60% 程 度 を 占 め, 次 いでタンカーが 約 20% であった 平 時 である 3 月 6 日 と 比 較 して, 荒 天 時 である 4 月 3 日 は 大 型 貨 物 船 が 20 隻 も 増 加 し,さらに 海 域 内 には 50 隻 以 上 のタンカーの 存 在 を 確 認 した また, 時 間 毎 の 船 舶 数 について,4 月 3 日 は 平 時 の 船 舶 数 より 2 倍 が 多 く 確 認 され た このことより, 大 阪 湾 内 には 多 くの 荒 天 避 難 の 船 舶 が 存 在 していたことが 把 握 された 2.3 沖 待 ちの 抽 出 沖 待 ち とは, 入 港 予 定 の 船 舶 が 港 内 における 船 混 みや, その 他 の 事 情 から 港 内 の 係 留 施 設 に 係 留 できない 場 合 に 港 外 に 投 錨 停 泊 し 入 港 の 機 会 を 待 つ 状 態 である 8) 通 常, 船 舶 の 航 行 状 況 の 把 握 には, 目 視 やレーダー 画 像 等 による 観 測 手 法 がある しかし,これらの 手 法 では 船 舶 の 船 速, 船 の 全 長, 船 種 等 を 正 確 に 把 握 できない 更 に, 船 舶 に 関 する 多 くのデ ータを 長 期 間 継 続 して 取 得 することは 非 常 に 手 間 が 掛 かり 難 しい 特 に 沖 待 ち 船 舶 の 調 査 において, 目 視 やレーダー 画 像 等 手 法 では 船 舶 の 錨 泊 状 態 を 詳 細 に 把 握 することが 不 可 能 で ある これらが 要 因 となり, 船 舶 の 沖 待 ちの 実 情 に 関 する 研 究 はほとんど 存 在 しない 本 研 究 では,AISデータを 用 いて 沖 待 ち 船 舶 を 抽 出 する 手 法 を 提 案 する AISデータの 活 用 に より,これまであまり 把 握 されてなかった 船 舶 の 沖 待 ちの 実 情 について, 船 舶 の 航 行 状 態 を 正 確 的 にかつ 定 期 的 に 把 握 で き, 高 精 度 な 船 舶 の 動 静 を 詳 細 に 把 握 が 可 能 である さらに, この 膨 大 のデータを 解 析 することで, 船 舶 の 実 航 行 による 海 域 の 特 徴 が 把 握 できる Fig. 4はAISデータから 沖 待 ち 船 舶 を 抽 出 する 手 順 を 示 す はじめに, 全 AIS データについて 個 々の 船 舶 について 仕 分 け を 行 う 次 に,それら 仕 分 けされた 個 々の 船 舶 とそれに 紐 付 くデータについて, 船 舶 が 航 行 しているか 停 泊 しているかを 区 別 するために 船 速 3 ノット 未 満 を 閾 値 とし 判 別 を 行 った 次 に, 海 域 な 船 舶 の 航 行 平 均 速 度 によって 閾 値 を 設 定 するが, 今 回 は 10 分 間 の 船 舶 移 動 距 離 が 100m 未 満 の 船 舶 は 停 泊 船 を 判 別 した 同 時 に 停 泊 船 舶 と 判 断 した 船 舶 の 航 行 時 間 を 記 録 し, 各 船 舶 の 停 泊 時 間 を 推 算 した しかし,この 停 泊 船 舶 で は, 港 外 で 沖 待 ちの 停 泊 船 舶 や 港 内 で 荷 役 するための 停 泊 船, また 入 港 せずに 港 外 で 停 泊 する 船 舶 が 含 まれている 特 に, 荒 天 時 や 台 風 接 近 時 は 船 舶 が 避 難 のために 港 外 で 錨 泊 する これらの 停 泊 船 を 区 別 するには 最 後 に 港 外 停 泊 及 びバース 内 停 泊 の 両 方 の 条 件 を 満 たす 必 要 がある そうして 抽 出 された 船 舶 が 沖 待 ち 船 舶 として 選 出 される 3 沖 待 ち 船 舶 の 解 析 3.1 大 阪 湾 における 沖 待 ち 船 舶 の 分 布 Fig. 5 は 2012 年 3 月 6 日 及 び 4 月 3 日 の AIS データを 用 い て 沖 待 ち 船 舶 について 解 析 を 行 った 結 果 を 示 す 両 日 の 湾 内 航 行 船 舶 数 はそれぞれ 275 隻,304 隻 であった 両 日 は 共 に 火 曜 日 であり, 大 阪 湾 においては 1 週 間 の 中 で 航 行 船 舶 数 の 多 い 曜 日 である 平 時 である 3 月 6 日 に 対 して, 荒 天 時 であ る 4 月 3 日 の 全 航 行 船 舶 数 は 29 隻 多 く 確 認 された この 原 因 として, 湾 外 を 航 行 していた 船 舶 が 荒 天 のために 湾 内 に 避 難 していたことが 挙 げられる 沖 待 ち 船 舶 数 については, 両 日 の 沖 待 ち 船 舶 数 はほぼ 同 じであった また 港 外 に 錨 泊 した 船 舶 については,3 月 6 日 は 26 隻 であったのに 対 して,4 月 3 日 は 117 隻 が 確 認 された その 原 因 として,4 月 3 日 は 荒 天 のため 多 くの 船 舶 は 港 外 に 避 難 したことが 挙 げられる 上 記 の 解 析 結 果 の 具 体 的 要 因 を 分 析 するために,AIS データの 船 舶 の 位 置 情 報 を 基 に, 地 理 情 報 システム 上 で 船 舶 の 沖 待 ち 海 域 をマッピングし 可 視 化 解 析 を 行 った Fig. 6 及 び Fig. 7 は 調 査 期 間 の 船 種 による 沖 待 ち 船 舶 の 分 布 を 示 す 赤 色 の 三 角 は タンカーを 示 し, 青 色 の 三 角 は 貨 物 船 を 示 す また 黄 色 の 領 域 は 大 阪 湾 の 石 油 コンビナートを 示 し, 緑 色 の 領 域 は 港 則 法 による 港 区 内 である この 沖 待 ち 分 布 から 見 ると, 港 内 錨 泊 が 許 可 されている 船 舶 以 外 に, 港 内 錨 泊 を 許 可 されていない 多 くの 船 舶 は 港 区 外 に 錨 泊 していたことが 確 認 された さら に 各 船 舶 は 入 港 予 定 の 港 に 近 い 海 域 で 沖 待 ちしている 現 状 が 把 握 された 特 に, 大 阪 区 と 堺 泉 北 区 の 南 側 に 危 険 物 を 積 載 Fig. 4 Process of extraction anchoring ship Fig. 5 The number of ships in Osaka Bay - 567 -
Fig. 6 Location of waiting ship in March 6 Fig. 8 Location of anchoring ship in March 6 (including waiting ships) Fig. 7 Location of waiting ship in April 3 するタンカーの 沖 待 ち 船 舶 数 が 多 いことが 確 認 された この ような 沖 待 ち 船 舶 が 過 密 に 集 中 しているため, 衝 突 などの 海 難 に 繋 がる 危 険 性 が 高 い さらにタンカーの 沖 待 ち 分 布 から 見 ると, 大 阪 湾 の 石 油 コンビナートの 周 辺 に 多 く 存 在 し,5 マイル 以 内 の 距 離 で 錨 泊 していることが 確 認 された このよ うに 危 険 施 設 から 近 い 距 離 で 海 上 火 災 が 発 生 した 場 合, 火 災 は 臨 海 コンビナートに 到 達 することも 考 えられる 常 時 に 港 周 辺 に 沖 待 ち 船 舶 が 集 中 しており, 沖 待 ち 船 舶 以 外 にも 関 西 空 港 地 区 の 周 辺 に 多 くの 停 泊 船 が 集 中 している その 錨 泊 状 態 は Fig. 8 に 示 す しかし, 荒 天 時 や 津 波 等 の 緊 急 事 態 が 発 生 する 際 に, 更 に 多 くの 船 舶 は 避 難 するために 錨 泊 すること より, 大 阪 湾 に 船 舶 が 輻 輳 な 状 況 になった Fig. 9 はその 状 況 を 示 す 図 中 に 沖 待 ち 船 舶 を 含 めた 全 錨 泊 船 舶 の 分 布 であ る 赤 色 の 円 はタンカー, 青 色 の 円 は 貨 物 船 を 示 す Fig. 8 から 3 月 6 日 の 分 布 から 関 西 空 港 周 辺 に 錨 泊 する 船 舶 が 確 認 された この 海 域 に 錨 泊 する 船 舶 のほとんどは 大 阪 湾 の 港 に 入 港 することなく 明 石 海 峡 及 び 友 ヶ 島 水 道 を 通 過 する これ らの 船 舶 の 錨 泊 目 的 は, 夜 明 けを 待 つための 停 泊 や 目 的 地 の Fig. 9 Location of anchoring ship in April 3 (including waiting ships) 到 着 時 間 を 調 整 するための 仮 錨 泊 である Fig. 7 は 4 月 3 日 荒 天 時 の 船 舶 の 錨 泊 分 布 を 示 す 平 時 に 比 べ 港 付 近 や 関 西 空 港 や 淡 路 島 等 の 海 域 で 錨 泊 船 が 多 く 存 在 していたことが 確 認 された 特 に 堺 泉 北 区 の 周 辺 では,タンカーが 過 密 状 態 で 停 泊 しており, 沿 岸 に 近 い 海 域 で 錨 泊 していたことが 把 握 され た 沖 待 ち 以 外 には 多 くの 船 舶 が 海 上 で 漂 流 し, 湾 内 は 船 舶 が 輻 輳 状 態 であったことも 確 認 された 3.2 強 風 時 における 湾 内 停 泊 船 舶 の 走 錨 状 況 把 握 台 風 通 過 時 などの 暴 風 時 は 錨 泊 にとって 最 大 の 問 題 である 特 に 大 型 船 舶 は 錨 泊 中 に 操 船 困 難 となり, 強 風 や 高 波 に 影 響 されて 把 駐 力 が 低 下 し 走 錨 による 衝 突 や 乗 揚 事 故 が 多 発 して いる 9) ここでは 船 舶 の 錨 泊 状 況 を 把 握 したことにより, 船 舶 の 走 錨 事 情 を 明 らかにした その 結 果 の 例 をとして,Fig. 10(a, b,c) は 4 月 3 日 に 関 西 空 港 周 辺 の 船 舶 の 走 錨 実 態 を 示 す 鎖 長 の 略 算 式 に 従 って 10), 荒 天 の 時 に 4D( 水 深 )+145m の 鎖 長 を 出 せば 安 心 だと 言 われている 9) この 海 域 周 辺 の 水 深 は 約 15m から 20m であり, 鎖 長 の 上 に 更 に 船 舶 自 身 の 長 - 568 -
さを 加 えて, 錨 泊 船 は 漂 流 を 伴 うためにその 振 れ 幅 は 300m 以 上 が 必 要 となる ここで 各 船 舶 を 中 心 に 半 径 300m の 円 を 用 い 安 全 避 航 水 面 としてリスク 評 価 を 行 った つまり, 船 舶 間 の 距 離 は 600m 以 下 になると 衝 突 の 危 険 が 発 生 する 4 月 3 日 の 13 時 帯 では,この 海 域 には 28 隻 の 錨 泊 船 が 存 在 してい た これらの 船 舶 は 全 船 長 が 100m 以 上 の 中 大 型 船 舶 がその ほとんどであった 危 険 な 錨 泊 配 置 状 況 として, 危 険 物 を 積 載 するタンカーに 隣 接 して 多 くの 乗 客 を 有 する 客 船 も 錨 泊 し ていたことが 確 認 された 船 舶 が 走 錨 する 直 前 の 11 時 台 では, 船 舶 間 の 距 離 は 約 1 マイル(1852m) 程 度 の 距 離 を 保 ってい た しかし,12 時 から 最 大 瞬 間 風 速 が 20 m/s 以 上 となり,12 時 45 分 から 多 数 の 錨 泊 船 が 走 錨 し 始 めた そのため 各 船 舶 の 距 離 が 短 くなり 危 険 度 が 増 加 した Fig. 10(a) は 13 時 05 分 の 錨 泊 状 況 図 を 示 す 図 中 の 矢 印 は 船 舶 の 船 首 方 位 を 示 し, 赤 色 の 点 線 は 船 舶 の 30 分 間 の 航 跡 を 示 す この 時 点 ではこの 海 域 において 同 時 に 8 隻 の 走 錨 船 を 確 認 した 図 中 の 赤 円 は 船 舶 の 安 全 避 航 水 面 内 に 船 舶 が 接 近 したことを 示 す 南 から 強 風 の 影 響 により Ship A は 北 方 向 に 約 1900m を 走 錨 した 走 錨 中 に 後 ろの 錨 泊 船 とわずか 260m の 距 離 まで 接 近 した ま た, 錨 泊 船 舶 は 海 中 の 錨 鎖 の 状 態 が 突 っ 張 った 状 態 にならな いように 保 つ 行 動 をとる なぜなら, 錨 鎖 が 突 っ 張 った 状 態 はアンカーが 抜 けやすく 走 錨 につながる 危 険 な 状 態 であるか らである 錨 鎖 がこのような 状 態 になればそれを 緩 める 状 態 にするために 船 舶 は 速 力 を 出 してアンカーに 向 かう 行 動 をと るのが 通 例 である しかし, 図 で 示 すようなすでに 過 密 の 状 況 になったこの 海 域 では, 船 舶 自 身 の 移 動 は 他 船 舶 との 距 離 が 保 てなくなるため, 他 の 錨 泊 船 舶 と 衝 突 する 可 能 性 があり 危 険 リスクが 増 大 することが 判 明 した Fig. 10(b) は 13 時 40 分 における 船 舶 の 錨 泊 状 況 である こ の 時 点 で 更 に 多 数 の 走 錨 船 舶 が 確 認 された 特 に 全 船 長 178m の 自 動 車 運 搬 船 (Ship B)はアンカーを 引 きずりながら 約 2920m の 距 離 を 走 錨 したことが 確 認 された さらに,この 船 舶 は 北 方 向 に 漂 流 し 友 ヶ 島 水 道 及 び 港 との 間 の 航 路 に 重 なっ ていた その 同 時 刻 に, 船 速 15.2 ノットで 航 行 していた 全 長 138m のコンテナ 船 (Ship C)が 1080m の 接 近 距 離 を 通 過 した 走 錨 状 態 は 船 舶 の 操 縦 も 思 い 通 りにできなく 船 舶 自 身 の 動 き が 風 波 などの 外 的 要 因 に 依 存 してしまうため,このような 近 接 距 離 を 航 行 することは 衝 突 になる 危 険 が 非 常 に 高 い 状 況 であった また, 海 中 は 錨 鎖 も 引 き 連 れて 移 動 しているため, 航 行 船 舶 が 錨 鎖 に 引 っ 掛 かり 海 難 となるリスクも 考 えられる Fig. 10(c) は 17 時 40 分 の 錨 泊 船 舶 の 状 況 である この 時 点 で 31 隻 の 錨 泊 船 舶 が 確 認 された 風 向 が 西 方 向 になり, 29.3m/s の 風 速 が 観 測 された こうした 状 況 下 で 図 中 の 赤 円 で 示 した 2 隻 の 走 錨 船 はわずか 380m の 距 離 であった もしこ れらの 船 舶 は 衝 突 や 火 災 等 の 事 故 が 起 きた 場 合 は, 錨 泊 船 は 過 密 な 状 態 のため 他 船 にも 被 害 を 及 ぼすことも 考 えられるた め, 連 鎖 的 な 海 難 が 発 生 する 可 能 性 がある さらに, 気 象 の 影 響 により 西 方 向 は 炎 上 を 沿 岸 まで 拡 散 する 可 能 性 があるた め 周 辺 にある 関 西 空 港 地 区 や 岬 地 区 等 の 石 油 コンビナートま で 約 4 マイルのため 被 害 は 短 時 間 に 拡 大 し 更 なる 重 大 事 故 に つながる 可 能 性 も 考 えられる このように, 極 めて 危 険 なリ スクが 潜 伏 していたことが 把 握 された (a) (b) (c) Fig. 10 Examples of ship dragging anchor AIS データを 用 いた 錨 泊 船 舶 の 解 析 により,4 月 3 日 の 走 錨 船 舶 を 統 計 した その 結 果 117 隻 の 錨 泊 船 のうちに 24 隻 ( 約 21%)の 錨 泊 船 が 走 錨 し, 中 に 危 険 物 を 積 載 したタンカーは 4 隻 が 存 在 した 実 態 が 把 握 された これらの 船 舶 の 走 錨 地 点 を Fig. 11 中 の 緑 の 星 印 で 示 す この 分 布 をみると, 走 錨 船 は 各 港 付 近 に 存 在 し, 特 に 堺 泉 北 区 や 関 西 空 港 周 辺 の 錨 泊 船 が 集 中 している 箇 所 が 最 も 多 いことが 確 認 された 海 難 事 故 やそれに 起 因 する 連 鎖 災 害 を 防 ぐため, 沖 待 ち 船 舶 等 の 錨 泊 船 や 走 錨 船 の 状 況 を 把 握 し 台 風 や 津 波 等 の 非 常 時 に 船 舶 の 安 全 避 難 や 災 害 発 生 後 の 早 期 復 旧 策 の 構 築 において 重 要 なデー タである - 569 -
泊 し, 特 に 石 油 コンビナートがある 大 阪 区 や 堺 泉 北 区 の 沿 岸 に 集 中 している 荒 天 時 の 際 に,この 辺 りにさらに 錨 泊 船 が 増 加 し, 関 西 空 港 地 区 にも 多 くの 錨 泊 船 を 確 認 し, 海 上 は 輻 輳 な 状 況 になった (3) 錨 泊 船 の 解 析 により, 荒 天 時 に 走 錨 した 船 舶 が 存 在 した 錨 泊 船 の 約 21%の 船 舶 は 走 錨 したことがわかった (4) 強 風 に 当 たって, 船 舶 がドラックし 安 全 避 航 領 域 内 に 接 近 したことが 確 認 できた さらに 走 錨 した 船 舶 の 分 布 を 把 握 した 本 研 究 の 解 析 結 果 により, 船 舶 の 沖 待 ち 状 況 の 緩 和 や 緊 急 時 における 避 航 対 策 に 役 立 つ 研 究 に 発 展 させる 予 定 である Fig. 11 Distribution of dredging anchor ship in April 3 4 まとめ 本 研 究 は 石 油 コンビナートの 防 災 に 関 連 する 海 上 の 安 全 安 心 の 視 点 から, 港 外 に 停 泊 する 沖 待 ち 船 舶 に 着 目 した こ の 沖 待 ち 船 舶 は 長 期 間 港 の 周 辺 に 存 在 し 航 行 船 舶 にも 悪 影 響 するため, 海 難 を 引 き 起 こすリスクが 高 い 特 に 荒 天 時 に 船 舶 の 走 錨 による 事 故 が 多 発 している その 場 合 は 船 舶 からの 油 流 出 による 海 上 輸 送 が 停 滞 し, 海 上 臨 海 のコンビナートに も 危 険 が 及 ぶ 可 能 性 がある しかし,こうしたリスクの 起 因 となる 沖 待 船 舶 の 実 情 把 握 を 目 的 とした 本 研 究 では, 大 型 船 舶 に 義 務 につけている AIS から 取 得 したデータを 活 用 するこ とより, 沖 待 ち 船 舶 も 含 めて 錨 泊 中 の 事 情 を 解 析 し, 通 常 時 及 び 荒 天 時 におけて, 船 舶 の 沖 待 ち 状 況 や 走 錨 実 態 を 把 握 し た その 主 な 結 果 は 以 下 のとおりである; (1) AIS データから 沖 待 ちを 含 めて 錨 泊 船 舶 を 抽 出 できた 大 阪 湾 において, 全 体 航 行 船 舶 の 約 3 割 の 船 舶 は 沖 待 ち した 常 時 に 比 べて 荒 天 時 に 大 阪 湾 の 錨 泊 船 舶 数 が 大 幅 に 増 加 した (2) 船 舶 の 位 置 情 報 に 従 って, 大 阪 湾 の 沖 待 ち 船 舶 及 び 錨 泊 船 舶 の 位 置 分 布 を 把 握 した 船 舶 の 殆 どは 港 の 周 辺 に 停 参 考 文 献 1) 濱 田 政 則, 樋 口 俊 一, 中 村 孝 明, 佐 藤 孝 治, 飯 塚 信 夫 : 東 京 湾 岸 の 地 震 防 災 対 策 - 臨 海 コンビナートは 大 丈 夫 か, 早 稲 田 大 学 出 版 部,2014 年 9 月 2) 海 難 審 判 所 ホ ー ム ペ ー ジ, 日 本 の 重 大 海 難, http://www.mlit.go.jp/jmat/monoshiri/judai/judai.htm,2006 3) 芳 村 康 男, 雨 宮 伊 作, 松 川 英 輔, 今 吾 一 : 荒 天 錨 泊 時 の 係 留 力 の 実 験 的 検 証, 日 本 航 海 学 会 論 文 集 No.121, pp.161-167,2009. 4) SOLAS:International Convention for the Safety of Life at Sea. London, International Maritime Organization,2012. 5) 丹 羽 康 之 木 本 久 也 :AIS 情 報 による 関 門 海 峡 の 交 通 解 析, 日 本 航 海 学 会 誌 ( 研 究 調 査 ),pp.82-87,2010. 6) 村 井 宏 一 : 港 湾 管 理 における AIS の 有 効 利 用 について, 日 本 航 海 学 会 誌, No.156, pp.57-58, 2003.6. 7) 大 阪 府 石 油 コンビナート 等 の 防 災 計 画, 大 阪 府 石 油 コン ビナート 等 の 防 災 本 部, 平 成 26 年 3 月 8) 国 土 交 通 省 中 部 地 方 整 備 局 港 湾 空 港 部 :みなと 用 語 辞 典, http://www.pa.cbr.mlit.go.jp/jiten/index.html 9) 日 本 海 難 防 止 協 会 : 大 型 タンカーによる 災 害 の 防 止 に 関 する 調 査 研 究 中 間 報 告, 昭 和 42 年 9 月 10) 矢 野 吉 治 : 船 舶 の 錨 泊 監 視 支 援 に 関 する 研 究, 神 戸 大 学 海 事 科 学 研 究 科 博 士 学 位 論 文,2008 年 9 月 - 570 -