薬 理 学 とは 薬 と 生 体 との 相 互 作 用 の 結 果 起 こる 現 象 を 研 究 する 科 学 である 1) 病 気 病 態 についての 知 識 が 必 要 2) 薬 物 そのものや 薬 物 とその 薬 物 を 与 えられるヒト( 患 者 )との 関 係 についての 十 分 な 知 識 が 必 要 この 知 識 を 重 点 的 に 与 えるのが 薬 理 学 である 病 気 の 治 療 手 段 1) 薬 物 治 療 : 内 科 的 治 療 法 保 存 的 治 療 法 2) 外 科 的 治 療 : 病 巣 部 位 の 切 除 3) 放 射 線 治 療 : 各 種 癌 に 対 するコバルト 照 射 などの 照 射 療 法 内 部 照 射 ( 甲 状 腺 癌 の 放 射 性 ヨード 投 与 など) 4) 物 理 療 法 : マッサージ 療 法 温 熱 治 療 など( 理 学 療 法 ) 5) 精 神 療 法 : 森 田 療 法 など 1
薬 理 学 の 構 成 薬 理 学 = 薬 物 動 態 + 薬 力 学 + 実 験 薬 理 学 + 臨 床 薬 理 学 + 毒 性 学 2
薬 物 動 態 薬 物 動 態 学 (pharmacokinetics, PK)とは 生 体 内 へ 投 不 された 薬 物 が 薬 理 効 果 を 発 現 するまでの 変 化 の 過 程 を 研 究 する 学 問 である 薬 物 がどのように 吸 収 (Absorption) 分 布 (Distribution) 代 謝 (Metabolism) 排 泄 (Excretion)されていくのかを 学 ぶ 学 問 である(ADME) 3
薬 理 学 の 成 り 立 ち 薬 物 動 態 学 は 別 名 薬 物 速 度 論 であり 時 間 による 変 化 をみる 血 中 濃 度 などが 時 間 的 に 変 化 していくのをみるのである 薬 物 が 生 体 ( 患 者 )にどのように 作 用 するかを 明 らかにするのが 薬 力 学 (Pharmaco-dynamics: PD)である 4
薬 物 とは 薬 物 とは 生 体 に 対 して 何 らかの 薬 理 作 用 を 起 こす 化 学 物 質 の 総 称 である 薬 とは 薬 物 のことであり 薬 剤 は 製 剤 のこと で 原 薬 を 投 与 しやすいかたちに 加 工 した 製 品 を 示 す アドレナリン 昇 圧 薬 エピネフリン 注 0.1%シリンジ(1ml) 昇 圧 剤 5
薬 物 の 作 用 直 接 作 用 と 間 接 作 用 標 的 臓 器 に 直 接 作 用 して 薬 理 作 用 を 起 こす 場 合 を 直 接 作 用 といい 他 の 薬 理 作 用 を 介 して 間 接 的 に 機 能 を 変 化 させるものを 間 接 作 用 という うっ 血 性 心 不 全 治 療 薬 の 強 心 薬 心 筋 の 収 縮 力 を 増 強 し 循 環 動 態 を 改 善 する( 直 接 作 用 ) その 結 果 腎 血 流 が 増 加 尿 量 増 加 うっ 血 状 態 の 改 善 ( 間 接 作 用 ) 6
主 作 用 と 副 作 用 クスリ リスク 副 作 用 主 作 用 主 作 用 : 病 気 を 治 療 する 際 に 病 態 症 状 に 対 して 期 待 するその 薬 物 の 効 果 副 作 用 : 薬 物 が 生 体 に 及 ぼす 作 用 で 主 作 用 以 外 の 作 用 を 言 う 有 害 作 用 : 使 用 した 薬 物 が 出 現 させる 期 待 する 治 療 効 果 に 反 する 作 用 主 作 用 がうまく 引 き 出 せて 有 害 作 用 を 最 小 限 にとどめることができ 7 る 薬 物 治 療 が 理 想
協 力 作 用 薬 物 を2 種 類 以 上 使 用 した 場 合 に 認 められる 薬 物 相 互 作 用 である 協 力 作 用 薬 物 の 併 用 により 共 通 の 作 用 が 増 強 される 現 象 をいう 相 加 作 用 :それぞれの 薬 効 の 和 アルコールと 催 眠 鎮 静 薬 相 乗 作 用 :それぞれの 薬 効 の 和 よりも 大 きい 場 合 解 熱 鎮 痛 薬 と 催 眠 鎮 静 薬 8
拮 抗 作 用 拮 抗 作 用 とは 薬 物 の 併 用 により それぞれ を 単 独 で 用 いたときよりも 作 用 が 減 弱 する 場 合 をいう 生 理 学 的 拮 抗 : 併 用 薬 物 の 薬 理 作 用 が 相 反 するもので かつ 作 用 点 が 異 なる 場 合 に 起 きる 化 学 的 拮 抗 : 併 用 薬 物 同 士 が 化 学 反 応 を 起 こして 丌 活 性 あ るいは 活 性 の 弱 い 化 合 物 になる 場 合 をいう 特 異 的 拮 抗 : 併 用 薬 物 の 薬 理 作 用 が 相 反 するものであり そ れぞれの 薬 物 の 細 胞 への 作 用 点 が 同 一 である 場 合 をいう 9
選 択 的 作 用 特 定 の 臓 器 や 機 能 にのみ 薬 理 作 用 が 現 れる 場 合 を 選 択 的 作 用 または 特 異 的 作 用 という 抗 癌 薬 癌 細 胞 を 殺 すことを 目 的 として 使 用 癌 細 胞 に 限 局 して 薬 理 作 用 が 発 現 する 選 択 的 作 用 ( 特 異 的 作 用 )に 優 れている 薬 物 が 理 想 である 分 子 標 的 治 療 薬 10
用 量 反 応 曲 線 薬 物 の 薬 理 作 用 と 投 与 量 の 関 係 を 表 したもの が 用 量 ー 反 応 曲 線 という 縦 軸 に 薬 理 作 用 の 強 さ( 反 応 ) 横 軸 に 薬 物 の 投 与 量 ( 用 量 )をとる と その 関 係 はS 字 状 曲 線 となる 反 応 率 % 100 50 0 薬 A 薬 効 薬 B 薬 効 薬 A 毒 性 ED 50 ED 50 LD 50 LD 50 A B 薬 B 毒 性 用 量 の 対 数 治 療 係 数 ( 安 全 域 )= LD 50 (50% 致 死 量 ) ED 50 (50% 有 効 量 ) 安 全 性 :A<B 11
用 量 について 投 与 量 中 毒 量 致 死 量 治 療 量 ( 臨 床 用 量 ) 最 小 致 死 量 最 大 耐 用 量 ( 極 量 ) 最 小 有 効 量 無 作 用 量 ( 使 用 量 が 少 なく 何 の 効 果 も 得 られない) 12
薬 物 血 中 濃 度 時 間 曲 線 薬 物 血 中 濃 度 A AUC: Area under the blood concentration-time curve 血 中 濃 度 時 間 曲 線 下 面 積 Cmax: 最 大 血 中 濃 度 B 致 死 量 中 毒 量 治 療 量 無 作 用 量 A B 時 間 Tmax: 最 高 血 中 濃 度 到 達 時 間 効 果 発 現 時 間 安 全 性 :A>B 13
薬 物 の 体 内 動 態 薬 物 の 投 不 量 と 体 内 の 薬 物 濃 度 の 関 係 を 扱 う のが 薬 物 動 態 学 (pharmacokinetics: PK)である 有 効 濃 度 に 達 した 薬 物 と 生 体 反 応 ( 薬 効 )の 関 係 を 扱 うのが 薬 力 学 (pharmacodynamics: PD) である ADME: 生 体 に 投 不 された 薬 物 は 吸 収 されて 体 循 環 血 液 中 に 入 り 作 用 部 位 に 到 達 し 薬 効 を 発 現 する 生 体 内 に 分 布 し 肝 臓 などで 分 解 ( 代 謝 )され 尿 中 に 排 泄 され 生 体 内 から 消 失 する 作 用 部 位 における 濃 度 は 4つの 因 子 に よ っ て 決 ま る す な わ ち 薬 物 の1 吸 収 (absorption) 2 分 布 (distribution) 3 代 謝 (metabolism) 4 排 泄 (excretion)の4つである 頭 文 字 をとってADME(アドメ)という 14
薬 物 の 生 体 内 運 命 血 液 中 の 薬 物 には 血 漿 蛋 白 と 結 合 した 結 合 型 と そうでな い 遊 離 型 とがある 諸 臓 器 組 織 に 分 布 して 薬 効 を 現 したり 腎 臓 から 排 泄 される のは 遊 離 型 だけであ る 当 然 肝 臓 への 移 行 も 遊 離 型 の み で 結 合 型 は 肝 臓 で の 代 謝 を 受 けない 15
薬 物 の 体 内 動 態 16
薬 物 のタンパク 結 合 多 くの 薬 物 は 血 中 では 血 漿 蛋 白 と 可 逆 的 に 結 合 して 存 在 する なお 薬 物 と 結 合 する 血 漿 蛋 白 は 主 にアルブミンである とくに 酸 性 の 薬 物 はアルブミンと 結 合 し 塩 基 性 の 薬 物 はα1 酸 性 糖 蛋 白 (グロブリン 分 画 に 含 まれる 血 漿 蛋 白 の 一 つ)と 結 合 する 薬 物 の 血 漿 蛋 白 との 結 合 率 が 薬 物 の 組 織 内 移 行 に 大 きな 影 響 を 及 ぼしている 薬 物 によって ほとんど 結 合 していないものから 99.9% 結 合 しているものまである 低 アルブミン 血 症 では 遊 離 型 の 薬 物 が 増 加 し 組 織 へ 移 行 する 薬 物 が 増 加 して 作 用 が 強 く 現 れやすい( 副 作 用 が 発 現 しやすい) 17
血 液 ー 関 門 特 殊 な 臓 器 では 薬 物 が 移 行 するのに 関 門 (barrier)がある その 関 門 を 通 過 することが 薬 物 のその 組 織 へ 移 行 するための 必 要 条 件 となる 脳 は 生 命 維 持 のために 重 要 な 組 織 であり 血 中 の 薬 物 は 脳 組 織 内 に 簡 単 に 移 行 できない( 血 液 ー 脳 関 門 ) それは 脳 の 毛 細 血 管 内 皮 細 胞 の 特 性 による 一 般 に 水 溶 性 の 薬 物 は 脳 内 に 移 行 しにくいが 脂 溶 性 の 高 い 薬 物 は 移 行 し やすい 性 質 がある しかし 薬 物 トランスポーター によって 輸 送 される 水 溶 性 薬 物 もある その 他 に 血 液 ー 胎 盤 関 門 や 血 液 ー 精 巣 関 門 などもあり 薬 物 の 組 織 移 行 性 を 制 限 している 18
薬 物 の 吸 収 ( 消 化 管 吸 収 ) 薬 物 の 生 体 膜 通 過 機 構 1 2 3 4 薬 物 の 吸 収 に 関 して 重 要 なことはその 薬 物 の 脂 溶 性 であり 脂 質 に 溶 けやすい 薬 物 ( 脂 溶 性 薬 物 )は 生 体 膜 を 通 過 しやすい 薬 物 の 生 体 膜 通 過 機 構 は 脂 質 二 重 層 膜 を 受 動 的 に 通 過 する 受 動 拡 散 である しかし 脂 溶 性 が 低 い 薬 物 でも 消 化 管 からトランスポーター( 輸 送 担 体 )を 介 して 吸 収 される 能 動 輸 送 では 濃 度 勾 配 に 逆 らって 薬 物 が 移 動 する ABCトランスポーターを 介 する 輸 送 19
薬 物 の 膜 透 過 モデル 消 化 管 膜 は 脂 質 二 重 層 膜 なので 脂 溶 性 の 高 い 薬 物 分 子 は 吸 収 されやすい 多 くの 薬 物 は 弱 酸 性 か 弱 塩 基 性 で ある 非 イオン 型 薬 物 は 脂 溶 性 が 高 い ので 吸 収 は 良 いが イ オ ン 型 薬 物 は 吸 収 されにくい 20
薬 物 血 中 濃 度 の 経 時 変 化 AUC Cmax= 最 高 血 中 濃 度 Cmin= 最 低 血 中 濃 度 Tmax= 最 高 血 中 濃 度 到 達 時 間 T 1/2 = 血 中 半 減 期 AUC= 血 中 濃 度 時 間 曲 線 下 面 積 トラフ 値 = 次 回 投 不 前 の 最 低 血 中 濃 21 度
薬 物 の 分 布 吸 収 されて 血 中 に 入 っ た 薬 物 が 作 用 を 現 すた めには 血 行 性 に 作 用 部 位 に 到 達 しなければ ならない 血 液 内 の 薬 物 は 組 織 間 液 および 細 胞 内 液 に 移 行 する 組 織 中 への 移 行 速 度 や 移 行 する 薬 物 の 量 は 心 拍 出 量 組 織 の 血 流 量 およびその 組 織 の 容 積 によつて 決 まる 肝 臓 腎 臓 脳 といった 血 流 の 良 い 臓 器 は 最 初 に 多 くの 薬 物 を 取 り 込 む( 第 一 相 ) それに 対 し て その 他 の 内 臓 筋 肉 皮 膚 脂 肪 組 織 へ の 薬 物 の 移 行 はゆっくり している( 第 二 相 ) 22
分 布 容 積 ( 分 布 容 量 ) 薬 物 が 組 織 に 移 行 し や す い か ど う か を 表 す 指 標 と し て 分 布 容 積 (volume of distribution:vd)がある 分 布 容 積 は 薬 物 が 血 漿 中 濃 度 と 等 しい 濃 度 で 均 等 に 分 布 する と 仮 定 した 場 合 の 体 液 の 容 積 ( 容 量 )である 体 内 薬 物 総 量 ( 吸 収 量 )と 血 漿 中 薬 物 濃 度 と の 間 をとりもつ 比 例 定 数 で 分 布 容 積 (Vd)= 体 内 薬 物 総 量 / 血 漿 薬 物 濃 度 と 定 義 され ている よって 体 内 薬 物 総 量 = 分 布 容 量 (Vd) 血 漿 中 濃 度 と 書 き 直 すこともできる Vdにより, 薬 物 の 体 液 中 への 分 布 の 程 度 だけでなく, 臓 器 組 織 による 薬 物 の 取 り 込 みの 程 度 も 推 定 することができる Vd 値 が 大 き いということは 薬 物 の 体 内 分 布 が 広 範 囲 に わたっているか 組 織 への 取 り 込 みが 大 きい ことを 意 味 する 分 布 容 積 が 大 きいことは 体 内 に 広 く 分 布 していることを 示 す 血 管 内 だけにあるなら3リットル 細 胞 間 ( 組 織 間 液 )にまで 分 布 するなら12リットル 細 胞 内 まで 分 布 していたら36リットル 程 度 である 血 漿 蛋 白 との 結 合 率 の 低 い 薬 物 は 分 布 容 積 が 大 きい 脂 溶 性 薬 物 は 脂 肪 組 織 に 血 漿 中 より 高 い 濃 度 で 分 布 し 分 布 容 積 は 著 しく 大 きくなる 23
初 回 通 過 効 果 経 口 投 不 された 薬 物 は 消 化 管 ( 主 に 小 腸 )から 吸 収 され 門 脈 を 経 て 肝 臓 に 運 ばれて 肝 臓 を1 回 通 過 する 間 に 薬 物 代 謝 酵 素 (CYP) により 代 謝 を 受 け 全 身 へ 運 ばれ 未 変 化 体 の 薬 物 量 が 減 少 する こ れを 初 回 通 過 (ファーストパス) 効 果 という 経 口 投 不 チトクロームP-450(CYP) ( 肝 ミクロソームに 存 在 ) 未 変 化 体 未 変 化 体 門 脈 代 謝 物 24
初 回 通 過 効 果 の 模 式 図 25
初 回 通 過 効 果 の 高 い 薬 物 初 回 通 過 効 果 の 高 い 薬 物 は 肝 機 能 の 変 化 ( 肝 障 害 等 )により 血 中 未 変 化 体 量 に 影 響 がでる 経 口 投 不 未 変 化 体 100 門 脈 健 常 人 代 謝 未 変 化 体 10 代 謝 物 90 薬 効 排 泄 肝 機 能 低 下 経 口 投 不 未 変 化 体 100 門 脈 薬 理 効 果 の 増 大 有 害 作 用 の 出 現 代 謝 未 変 化 体 90 代 謝 物 10 薬 効 排 泄 血 中 未 変 化 体 量 が 増 26 加
初 回 通 過 効 果 を 受 けやすい 薬 物 の 例 丌 整 脈 の 治 療 薬 に 使 われているプロプラノロールは 内 服 した 大 部 分 が 消 化 管 から 吸 収 されるにもかかわらず 最 終 的 にはそのうちの1/3だけ しか 全 身 循 環 血 に 入 っていかない(2/3は 初 回 通 過 効 果 を 受 けて 代 謝 さ れる) このような 薬 は 肝 機 能 の 低 下 した 患 者 や 高 齢 者 に 投 薬 すると 代 謝 されない 薬 物 ( 未 変 化 体 )が 増 えて 想 定 した 以 上 の 薬 効 を 示 す 薬 物 名 ニトログリセリン レボドパ プロプラノロール リドカイン モルヒネ イミプラミン 臨 床 応 用 狭 心 症 治 療 薬 パーキンソン 病 治 療 薬 丌 整 脈 治 療 薬 高 血 圧 治 療 薬 丌 整 脈 治 療 薬 麻 薬 性 鎮 痛 薬 抗 うつ 薬 27
Drug Delivery System: DDS 初 回 通 過 効 果 の 回 避 を 目 的 として 開 発 された 薬 物 経 皮 吸 収 ( 持 続 性 ) 貼 付 剤 : 狭 心 症 治 療 薬 ニトログリセリン 口 腔 粘 膜 吸 収 舌 下 錠 : 狭 心 症 治 療 薬 ニトログリセリン 鼻 腔 吸 収 点 鼻 薬 : 尿 崩 症 治 療 薬 デスモプレシ 直 腸 内 吸 収 ( 速 効 性 副 作 用 軽 減 ) 坐 薬 : 麻 薬 性 鎮 痛 薬 モルヒネ : 抗 炎 症 薬 インドメタシン 28
生 物 学 的 利 用 能 経 口 投 不 された 薬 物 が 初 回 通 過 効 果 を 受 けた 後 投 不 量 に 対 して 未 変 化 体 のまま 循 環 血 中 に 到 達 する 割 合 をバイオアベイラビリティ( 生 物 学 的 利 用 能 )という 生 物 学 的 利 用 能 = 経 口 投 不 で 得 られたAUC 静 脈 内 投 不 で 得 られたAUC で 表 わされる 血 中 未 変 化 体 薬 物 濃 度 AUC: Area Under the Curve 静 脈 内 投 不 経 口 投 不 (100%の 生 物 学 的 利 用 能 ) 経 口 投 不 (50%の 生 物 学 的 利 用 能 ) 時 間 29
薬 物 の 代 謝 薬 物 は 生 体 内 で 酵 素 の 作 用 により 化 学 構 造 の 異 なった 物 質 へと 変 化 する 薬 物 のこの 生 体 内 変 化 の 過 程 を 代 謝 という 薬 物 代 謝 が 行 われる 主 要 な 臓 器 は 肝 臓 である 薬 物 の 多 くは 脂 溶 性 であり そのままでは 体 外 に 排 泄 されない そのため, 薬 物 が 排 泄 されるためには 代 謝 されて 親 水 性 の 高 い 物 質 ( 水 溶 性 代 謝 物 )に 変 換 される 必 要 がある なお 水 溶 性 の 薬 剤 は そのままの 構 造 で 尿 中 などに 排 泄 される 薬 物 の 代 謝 は 第 一 相 反 応 と 第 二 相 反 応 に 分 かれる 第 一 相 反 応 は 薬 理 活 性 を 失 わせる 反 応 であり 肝 ミクロソーム 系 酵 素 (チトクロームP450:CYP)によ るものである 第 二 相 反 応 は グルクロン 酸 などの 物 質 と 結 合 し 排 泄 されやす くする 反 応 であり 抱 合 と 呼 ばれる 抱 合 の 結 果 生 成 される 抱 合 体 (グルクロン 酸 抱 合 )は 水 溶 性 で 尿 中 や 胆 汁 中 に 排 泄 されやすい 30
薬 物 の 代 謝 様 式 31
薬 物 の 吸 収 と 排 泄 32
腎 排 泄 薬 物 の 尿 排 泄 には 糸 球 体 濾 過 尿 細 管 分 泌 尿 細 管 再 吸 収 の3 過 程 がある 1 糸 球 体 濾 過 : 血 液 成 分 のうち 分 子 量 が 約 5,000 以 下 のものは 全 部 濾 過 されて 尿 細 管 に 移 行 する 血 漿 蛋 白 と 結 合 している 薬 物 は 糸 球 体 で 濾 過 されない よって 血 漿 蛋 白 との 結 合 率 の 高 い 薬 物 は 長 く 血 液 中 に 残 ることになる 2 尿 細 管 分 泌 : 主 に 近 位 尿 細 管 で 行 われ 有 機 カチオン 輸 送 系 有 機 アニオン 輸 送 系 P 糖 タンパク 質 などの 能 動 的 輸 送 により 血 管 から 尿 細 管 へ 分 泌 されます 3 尿 細 管 再 吸 収 : 遠 位 尿 細 管 と 集 合 管 で 行 われる エネルギーを 必 要 としない 受 動 輸 送 である 33
尿 中 phの 薬 物 排 泄 への 影 響 尿 細 管 における 薬 物 の 再 吸 収 は 尿 のpHによって 変 化 する 弱 酸 性 の 薬 物 では 尿 をアルカリ 性 にするとイオン 型 になり 再 吸 収 されず 排 泄 が 増 加 する 逆 に 塩 基 性 の 薬 物 では 尿 を 酸 性 にするとイオン 型 になり 排 泄 が 増 加 する 電 荷 を 失 い 非 イオン 型 ( 非 解 離 型 )となった 分 子 は 脂 質 の 膜 を 通 過 しやすいのに 対 して イオン 型 は 膜 を 通 過 しにくく 再 吸 収 されにくいのである 弱 酸 性 薬 物 の 場 合 : 尿 のpHが 低 下 ( 酸 性 )すると 非 解 離 型 薬 物 分 子 が 増 え 尿 細 管 再 吸 収 が 促 進 される その 結 果 薬 物 の 腎 排 泄 は 抑 制 され 血 中 薬 物 濃 度 の 消 失 は 遅 延 する 尿 phが 上 昇 (アルカリ)すると 弱 酸 性 薬 物 では 薬 物 の 解 離 型 (イオン 型 )が 増 加 する その 結 果 薬 物 の 再 吸 収 は 低 下 するので 腎 排 泄 の 促 進 が 起 こる 34
胆 汁 排 泄 多 くの 脂 溶 性 薬 物 は 肝 臓 で CYPによって 水 酸 化 され さら にグルクロン 酸 抱 合 されて 排 泄 される 胆 汁 中 に 排 泄 され た 薬 物 は 糞 便 中 に 排 泄 される 一 部 の 薬 物 は 腸 内 細 菌 や 消 化 酵 素 でさらなる 代 謝 を 受 け 極 性 基 を 失 って 再 び 腸 管 から 体 内 に 吸 収 される これを 腸 肝 循 環 という 活 性 を 保 持 し た 薬 物 が 腸 肝 循 環 で 再 吸 収 さ れると 薬 理 作 用 が 持 続 的 と なる 35
高 齢 者 における 薬 物 動 態 高 齢 者 と 成 人 における 薬 物 動 態 上 の 大 きな 相 違 点 は 高 齢 者 において: 1 肝 臓 の 薬 物 代 謝 機 能 の 低 下 2 腎 臓 の 排 泄 機 能 の 低 下 を 認 めることが 多 いことである 高 齢 者 では 加 齢 による 影 響 で 肝 臓 のチトクロームP450(CYP)が 減 少 する そのため 薬 物 代 謝 の 第 一 相 反 応 が 第 二 相 反 応 より 低 下 す る 肝 臓 の 薬 物 代 謝 機 能 の 低 下 により 初 回 通 過 効 果 の 減 少 肝 ク リアランスの 低 下 半 減 期 の 延 長 を 認 めるのが 一 般 的 である 高 齢 者 では 腎 血 流 量 の 減 少 が 起 こり それに 伴 い 糸 球 体 濾 過 率 (glomerular filtration rate: GFR)も 減 少 する なお 加 齢 に 伴 い 尿 細 管 の 分 泌 機 能 も 低 下 する そのため 尿 細 管 から 分 泌 されて 排 泄 さ れる 薬 物 の 半 減 期 も 延 長 する 36
妊 婦 における 薬 物 動 態 妊 娠 時 には 血 漿 容 積 が 妊 娠 初 期 より 増 加 1) 妊 娠 末 期 には 約 50% 増 加 2) 心 拍 出 量 は 約 40% 増 加 3) 肝 血 流 量 は 約 30% 増 加 4) 糸 球 体 濾 過 率 は 約 50% 増 加 このような 生 理 的 変 化 に 伴 い 薬 物 の 肝 クリアランスも 腎 クリアランスも 増 加 する すなわち 妊 婦 において 薬 物 は 非 妊 婦 に 比 べてより 速 やかに 排 泄 される 37
胎 児 における 薬 物 動 態 胎 児 へ 薬 物 が 移 行 するには 血 液 胎 盤 関 門 を 通 過 することが 前 提 となる 血 液 胎 盤 関 門 を 受 動 輸 送 で 通 過 するには ある 程 度 の 脂 溶 性 が 要 求 される 水 溶 性 の 薬 物 や 分 子 量 の 大 きな 薬 物 は 通 過 しにくいが 通 常 使 用 されている 多 くの 薬 物 は 血 液 胎 盤 関 門 を 通 過 する 一 般 に 消 化 管 から 吸 収 される 薬 物 は 胎 児 に 移 行 すると 考 えてよい 胎 児 における 薬 物 代 謝 機 能 は 一 般 に 低 く かつ 胎 児 における 血 液 脳 関 門 は 全 く 存 在 していないので 胎 児 に 移 行 した 薬 物 が 副 作 用 を 起 こすことは 多 い 38
新 生 児 乳 児 幼 児 における 薬 物 動 態 薬 物 は 多 かれ 少 なかれ 母 乳 中 に 移 行 する 母 親 の 薬 物 血 中 濃 度 に 応 じて 母 乳 に 移 行 するが その 濃 度 は 血 中 濃 度 に 比 べ ると 低 い しかし 脂 溶 性 の 薬 物 蛋 白 結 合 率 の 低 い 薬 物 は 母 乳 中 への 移 行 率 が 高 い 傾 向 にある 新 生 児 乳 児 の 薬 物 代 謝 機 能 は 成 人 と 比 べてかなり 低 い よって 授 乳 により 新 生 児 乳 児 に 移 行 した 薬 物 は 体 内 にかなり 蓄 積 される そのため 母 親 に 投 不 された 薬 物 が 新 生 児 乳 児 に 副 作 用 を 発 現 する 危 険 性 がある 小 児 は 肝 臓 の 薬 物 代 謝 機 能 腎 臓 の 排 泄 機 能 血 液 脳 関 門 機 能 などが 未 熟 である かつ 薬 物 感 受 性 が 高 く 特 に 中 枢 神 経 系 に 関 係 する 薬 物 には 敏 感 である 臨 床 での 小 児 の 薬 用 量 の 算 定 には 体 重 や 体 表 面 積 に 準 拠 した 換 算 表 な どが 使 用 される 39