( 様 式 甲 5) 氏 名 出 垣 昌 子 ( ふ り が な ) (いでがき まさこ) 学 位 の 種 類 博 士 ( 医 学 ) 学 位 授 与 番 号 甲 第 号 学 位 審 査 年 月 日 平 成 24 年 1 月 31 日 学 位 授 与 の 要 件 学 位 規 則 第 4 条 第 1 項 該 当 学 位 論 文 題 名 Effects of All-Trans Retinoic Acid Nanoparticles on Corneal Epithelial Wound Healing (オールトランスレチノイン 酸 ナノ 粒 子 の 角 膜 上 皮 創 傷 治 癒 に 対 する 効 果 ) 論 文 審 査 委 員 ( 主 ) 教 授 上 田 晃 一 教 授 森 脇 真 一 教 授 朝 日 通 雄 教 授 芝 山 雄 老 学 位 論 文 内 容 の 要 旨 緒 言 ビタミン A の 生 理 活 性 本 体 であるオールトランスレチノイン 酸 ( 以 下 atra)は 眼 表 面 において 角 結 膜 上 皮 細 胞 の 増 殖 や 分 化 に 不 可 欠 な 物 質 であり その 欠 乏 により 角 結 膜 に は 重 度 の 乾 燥 角 化 が 起 こることが 知 られている また atra は 角 膜 の 創 傷 治 癒 を 促 進 し さまざまな 角 結 膜 疾 患 に 対 して 有 効 な 治 療 薬 になりうる 可 能 性 が 過 去 に 報 告 されてい るが 酸 化 されやすく 不 安 定 であること 脂 溶 性 であるために 眼 軟 膏 としての 使 用 は 可 能 であるが 刺 激 が 強 く 眼 瞼 炎 などの 副 作 用 もあることなどから 臨 床 応 用 は 難 しかった このためより 安 全 かつ 安 定 した 状 態 で 使 用 できる atra 製 剤 の 開 発 が 望 まれてきた 以 前 に 我 々 は atra の 表 面 に 炭 酸 カ ル シ ウ ム 薄 膜 を 形 成 し た ナ ノ カ プ セ ル 化 製 剤 NANOEGG -atra を 開 発 し 皮 膚 のシミ シワ 治 療 において 従 来 の atra 軟 膏 よりも 安 - 1 -
定 性 が 良 いこと 上 皮 細 胞 により 浸 透 することを 報 告 した 今 回 NANOEGG -atra が 従 来 の atra 製 剤 と 比 較 して 刺 激 が 少 なく 両 親 媒 性 であることから 点 眼 剤 として 使 用 できる 可 能 性 に 着 目 した 本 論 文 では 点 眼 投 与 した NANOEGG -atra 溶 液 の 角 膜 上 皮 創 傷 治 癒 に 対 する 効 果 を in vivo 及 び in vitro で 検 討 している 方 法 白 色 家 ウ サ ギ の 片 眼 角 膜 中 央 に 直 径 6mm の 円 形 の 角 膜 上 皮 剥 離 を 作 製 し NANOEGG -atra 溶 液 あるいは 対 照 液 50μl を 剥 離 直 後 より 2 時 間 毎 に 3 回 点 眼 し (1) 角 膜 上 皮 欠 損 面 積 の 変 化 (2) 再 生 した 角 膜 上 皮 のバリア 機 能 (3) 再 生 した 角 膜 上 皮 の 組 織 学 的 検 査 について 検 討 し 角 膜 上 皮 創 傷 治 癒 効 果 を 評 価 した (1) 0.05% 0.5% 1.0% 5.0%( 各 々1.7 17 33 170mM)の NANOEGG -atra 溶 液 あるいは 対 照 として 生 理 食 塩 水 と atra を 含 まない NANOEGG カプセル 溶 液 を 点 眼 し フルオレセインで 染 色 された 角 膜 上 皮 欠 損 部 を 経 時 的 に 写 真 撮 影 し 面 積 の 変 化 につい て 評 価 した 次 に 上 皮 修 復 において 最 も 効 果 があった 33mM NANOEGG -atra 溶 液 と 0.1%ヒアルロン 酸 ナトリウム( 以 下 HA) 溶 液 についても 同 様 の 比 較 検 討 を 行 った (2) 33mM NANOEGG -atra 溶 液 生 理 食 塩 水 0.1%HA 点 眼 処 置 眼 に 対 して 角 膜 上 皮 剥 離 48 時 間 後 に 上 皮 が 再 生 したことが 確 認 した 後 散 瞳 剤 であるトロピカミドを 5 分 毎 に 2 回 点 眼 し 30 分 後 の 瞳 孔 径 を 測 定 した トロピカミドは 角 膜 上 皮 のバリア 機 能 が 完 全 に 修 復 されていない 場 合 のみ 点 眼 後 に 散 瞳 が 確 認 できるように 正 常 角 膜 の 家 兎 眼 に 点 眼 しても 散 瞳 作 用 が 出 ない 最 大 濃 度 を 予 備 実 験 で 確 認 し 4.0 10-6 %に 希 釈 して 使 用 した (3) 33mM NANOEGG -atra 溶 液 生 理 食 塩 水 点 眼 処 置 眼 に 対 して 角 膜 上 皮 剥 離 48 時 間 後 にフルオレセイン 染 色 がされないことを 確 認 し 眼 球 摘 出 後 H&E 染 色 抗 サイト ケラチン 3/12 抗 体 免 疫 染 色 を 行 い 観 察 した 次 に 継 代 培 養 した SV40-adeno virus 組 換 えベクターによる 不 死 化 ヒト 角 膜 上 皮 細 胞 株 ( 以 下 HCE-T)を 用 いて NANOEGG -atra の 効 果 を in vitro で 検 討 した - 2 -
(4) HCE-T 2 10 5 cells/well を 6 well plate に 播 種 後 ほぼ 集 密 的 な 状 態 になるまで 培 養 し 無 血 清 培 地 に 一 晩 静 置 した 後 に 200μl マイクロピペットチップを 用 いて 線 状 の 擦 過 を 行 った 各 well の 培 地 を 330pM から 33μM の NANOEGG -atra あるいは 対 照 液 含 有 無 血 清 培 地 と 交 換 し 6 時 間 毎 に 顕 微 鏡 撮 影 を 行 い 各 薬 剤 濃 度 における 擦 過 した 無 細 胞 領 域 の 最 大 幅 の 変 化 を 比 較 検 討 した (5) HCE-T 2 10-5 cells/well を 96 well plate に 播 種 し 24 時 間 培 養 後 無 血 清 培 地 に 一 晩 静 置 し 各 well の 培 地 を 330pM から 33μMの NANOEGG -atra あるいは 対 照 液 含 有 培 地 と 交 換 し 24 時 間 培 養 後 に 生 存 細 胞 数 と 細 胞 毒 性 を 調 べるために WST-8 アッ セイと LDH アッセイを 行 った 結 果 と 考 察 角 膜 上 皮 剥 離 24 時 間 後 において 上 皮 欠 損 面 積 は NANOEGG -atra 投 与 群 で 濃 度 依 存 性 に 改 善 傾 向 があり 特 に 33mM NANOEGG -atra 溶 液 は 対 照 0.1%HA と 比 較 して 有 意 に 改 善 していた また atra を 含 まない NANOEGG カプセルのみでは 創 傷 治 癒 促 進 効 果 は 見 られなかったことより NANOEGG -atra が in vivo において 角 膜 上 皮 創 傷 治 癒 を 促 進 していると 考 えられた 次 に 組 織 検 討 では 33mM NANOEGG -atra 投 与 群 対 照 ともに 角 膜 実 質 は 再 生 上 皮 で 覆 われていたが NANOEGG -atra 投 与 群 の 方 が 角 膜 上 皮 の 重 層 化 が 進 んでいた 両 群 とも 再 生 された 角 膜 上 皮 は 抗 サイトケラチン 3/12 抗 体 免 疫 染 色 陽 性 であった また ト ロピカミド 点 眼 投 与 前 後 での 瞳 孔 径 の 変 化 は 33mM NANOEGG -atra 投 与 時 は 107± 0.3%で 対 照 129±0.8% 0.1%HA126±8.3%のいずれと 比 較 しても 有 意 に 抑 制 されてい た これらより NANOEGG -atra は 角 膜 上 皮 バリア 機 能 を 早 期 に 修 復 している 可 能 性 があると 考 えられた HCE-T を 用 い た 検 討 で は 擦 過 24 時 間 後 の 無 細 胞 領 域 は 3.3nM と 33nM NANOEGG -atra 含 有 培 地 において 対 照 と 比 較 して 有 意 に 縮 小 していたが HCE-T の 増 殖 は NANOEGG -atra 存 在 下 では 促 進 せず むしろ 33μM NANOEGG -atra 下 では 抑 - 3 -
制 されていた また 33μM NANOEGG -atra 下 ではコントロールと 比 較 して 有 意 に 細 胞 毒 性 が 示 されたが それよりも 低 濃 度 では 有 意 差 はなかった 角 膜 上 皮 細 胞 の 移 動 伸 展 および 増 殖 は 角 膜 創 傷 治 癒 に 重 要 である atra は 培 養 角 膜 上 皮 の 分 化 を 誘 導 するが 増 殖 は 抑 制 するとの 報 告 がある 我 々の in vitro の 結 果 では NANOEGG -atra は 創 傷 治 癒 を 早 期 に 促 したが 細 胞 増 殖 は 抑 制 していた 種 の 違 いを 考 慮 する 必 要 はあるが NANOEGG -atra は 細 胞 の 移 動 伸 展 を 促 すことで 角 膜 上 皮 の 早 期 創 傷 治 癒 を 促 進 したのではないかと 考 えられた 以 上 により NANOEGG -atra は 角 膜 上 皮 創 傷 治 癒 を 促 進 し 角 膜 上 皮 創 傷 治 癒 に 有 用 な 薬 剤 になり 得 るが その 機 序 については 今 後 さらに 研 究 が 必 要 であると 考 えられた - 4 -
( 様 式 甲 6) 論 文 審 査 結 果 の 要 旨 申 請 者 は オ ー ル ト ラ ン ス レ チ ノ イ ン 酸 (atra) の ナ ノ カ プ セ ル 化 製 剤 NANOEGG -atra が 従 来 の atra 製 剤 と 比 較 して 安 定 性 がよく 刺 激 が 少 なく 両 親 媒 性 であるという 特 性 から 点 眼 剤 として 使 用 できる 可 能 性 があることに 着 目 し 本 剤 の 角 膜 上 皮 創 傷 治 癒 に 対 する 効 果 を 検 討 している 白 色 家 兎 を 用 いて 行 った 点 眼 試 験 では 角 膜 中 央 に 作 製 した 上 皮 糜 爛 に 対 する NANOEGG -atra 生 理 食 塩 水 および 従 来 から 角 膜 上 皮 障 害 の 治 療 薬 として 臨 床 使 用 さ れている 0.1%ヒアルロン 酸 ナトリウム 点 眼 液 の 効 果 を 比 較 し 33mM NANOEGG -atra 溶 液 の 点 眼 により 角 膜 上 皮 が 早 期 に 再 生 されることを 示 している また 本 剤 で 再 生 した 角 膜 上 皮 は 重 層 化 しており 抗 サイトケラチン 3/12 抗 体 免 疫 染 色 陽 性 の 正 常 な 上 皮 形 態 で あることを 組 織 学 的 に 示 し かつ 上 皮 バリア 機 能 も 早 期 に 修 復 していることをトロピカミ ド 点 眼 試 験 で 確 認 している 次 に 不 死 化 ヒト 角 膜 上 皮 細 胞 株 HCE-T をマイクロプレート 内 で 培 養 し 底 部 を 擦 過 して 作 製 した 無 細 胞 領 域 が NANOEGG -atra 添 加 培 地 内 では 早 期 に 修 復 されることを 確 認 している また WST-8 法 では NANOEGG -atra による HCE-T の 細 胞 増 殖 促 進 は 確 認 できず このことは NANOEGG -atra の 角 膜 上 皮 修 復 作 用 が 上 皮 細 胞 の 増 殖 促 進 ではなく 移 動 伸 展 を 促 すためであることを 示 している 本 研 究 は NANOEGG -atra によって 従 来 眼 科 領 域 において 臨 床 応 用 が 困 難 とされて いた atra を 点 眼 薬 として 応 用 できることを 示 したものであり 今 後 難 治 性 角 膜 障 害 等 の 眼 疾 患 に 対 する 新 たな 治 療 薬 の 開 発 につながる 可 能 性 がある 以 上 により 本 論 文 は 本 学 大 学 院 学 則 第 11 条 に 定 めるところの 博 士 ( 医 学 )の 学 位 を 授 与 するに 値 するものと 認 める ( 主 論 文 公 表 誌 ) Graefe's Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology 2012 in press - 5 -