GSAM 会長ジム オニールの視点 情報提供資料 2012 年 2 月 石油 黄金の液体 か 頭痛の種か? 2012 年を迎えるにあたり私が持っていた基本的に楽観的なスタンスと 年明けからこれまで起きてきたことを振り返って 今週は 今後何か悪いことが起きるとしたらどんなことだろうと 少し時間をかけて考えていました 米国の失業保険受給申請件数は相変わらず目覚ましい低下傾向を見せているところから 3 月 2 日の雇用統計には 普段よりも大きな意味を持つ数字として 期待が高まっているようです S&P500 種株価指数先物は 1,370 ポイント辺りを上下し 2 年物国債は上昇 ( 利回りは低下 ) の気配を見せ 米ドル / 円相場はついに反転しそうな気配を示しつつあります こうした状況によってさらに失業率が低下すれば いよいよ景気回復も本番かもしれません この間も 収束の見通しのつかないギリシャの混乱に加えて 何か悪化しそうな事態があるとすれば 石油価格の継続的な上昇も その 1 つではないかと思われます 昨年に比べて私が予測していたよりも世界経済に多くの問題が突然降って湧いたことを振り返ってみると 他のどんな要因よりも大きな役割を演じたのは 食料品とエネルギー価格の上昇だと思います 数 10 年も前に 私は石油価格の動きとそのもたらす結果についての論文を書き 博士号を取得しました たまに冗談で言っているのは この論文を書いていた3 年近い年月で何を学んだか確信が持てないということです 何かを学んだとしたら 多分 2つのことでしょう ひとつは その頃経済学の博士号を取ることは 自分の持つ考えが正しいかどうかを試されることであったということ もうひとつは 石油価格の予想に比べれば為替市場の動きを予想することの方が容易であるということだと思われます ( このことが本当に理解できたのは ずっと後ですが ) このようなことを思いながら 今週の Viewpoint は この話題を専ら論じたいと思います そこで どうして冒頭のようなタイトルをつけたのでしょう? 流れる金とつけた理由の1つは 有名なプレミアリーグのサッカー チームのサポーターの中に 過去数 10 年にわたり堅調だった石油価格の恩恵を受けて 羽振りの良い人たちがいることです こうした人たちは 石油価格が高く上昇し続けることは良いことであると信じるでしょう この他 国家の首脳や著名な政策立案者の多くも 自分たちの望む政策を石油収入によって実現できるなら 石油価格の上昇を良いものと考えるでしょう また 相対的にエネルギー価格が上昇すれば 備蓄 エネルギーの効率活用 代替エネルギーの探査等が促進されるので 石油価格の強いことには 良い面がたくさ 1
んあると考えられます 一方で その他の多くの人々 特に ガソリンスタンドで長い列に並び いつ終わるとも知れぬ石油価格の上昇に頭を悩ませる人たちは 同じようには考えないでしょう 私もひとこと付け加えるならば その他のプレミアリーグの多くのサポーターは かつて資源に恵まれた国々が経験したような 短期的な貿易の改善によって無駄が多くなり 目の前にあるビジネスチャンスを逃してしまうという かの有名な オランダ病 に 石油価格の上昇で潤うサッカークラブも罹って 痛い目を見れば良いのにと望むかもしれません しかし 何が起こるか分かりませんので 何も言わないことにしましょう いずれにせよ インフレや実質所得の減少というさらなるダメージが出てくるのは 石油価格がどの水準に達した時なのでしょうか? 残念なことに 誰にも分かりません 私は 実は 石油価格調整後の金融環境を前提に実体経済への悪影響の強さを見るべきだと固く信じています この観点からは これまでのところ 特に先進各国 ( うち中国と日本がこのところの最重要国ですが ) が金融環境の緩和措置を継続しているので 今のところは大きな問題にはならないと思われます しかし いずれかの時点で 問題化する可能性はあります スポット価格 vs. 大局 この問題に関し この頃ますます私が関心を寄せているのが スポット 価格と長期価格の差です 長年にわたって 石油価格の均衡点というゴールを探す無駄な努力をしてきましたが 本稿では シンプルかつおおまかな指標としてブレント原油 5 年先の限月を使うことにしました 添付したグラフは 5 年先の限月とスポット価格の過去 5 年の推移を対比したものです 私の判断では 5 年先の限月こそが 価格の変動要因となっている需要と供給を知るためのよりよい指標であると思われます この点からグラフを見ると この 2 つの価格の乖離が 2000 年から 2008 年の期間や 2008 年の金融危機後の時期に比べると 次第に大きくなりつつあることが分かりますし 長期価格は 80 米ドル 100 米ドルのレンジで 安定した ように見えます ( 米ドル / バレル ) ブレント原油スポット及び先物価格の推移 スポット価格 5 年先の限月 出所 : ブルームバーグ 2
冒頭で記した私の博士論文についての話題からすると これは自分で言うほど興味深いものではないかもしれません あるいは 一時的な現象かもしれません しかし 私には そう思えないのです グラフに示されたこの動きは 需給両サイドの強力な要因によって起こっている可能性があると考えます そして 確かに需給両サイドについて それを示す報道や事例が増えつつあります 以前お伝えした通り OECD 諸国の石油需要は2011 年には減少 最近の動きを見ると 中国は将来のGDP 成長を緩やかにし 代替エネルギーの ( そして まだ原子力も ) 開発を進める方針に傾いているようです 供給サイドでは 代替エネルギーの開発が進行しているようです 例えば 米国の天然ガスはその中でも重要ですが 金融市場はまだこれをあまり評価していないようです 2009 年終わり頃から長期価格が安定し始めた様子を見ると 他の人ほど あるいは2001 年からの10 年間私がそうであったほど強気になることに躊躇を感じるようになりつつあります ( 対比して言うと ユーロ / 米ドルの均衡点を1.20とすると 1.50を上回るほど強気ではなく 1.00を下回るほど弱気ではないということです ) 現在の状況を見ると 可能性としては 政策立案者たちが 石油のスポット価格を引き下げるために 何らかの措置を採る 可能性もでてきますが もしそうなるとなれば 引下げは昨年よりは実行しやすいかもしれません 私が政策立案者だとしたら これは確かに考えうる措置です いずれにせよ 偶然にも この週末は湾岸地域に参りますので この話題についての見解を集めることを楽しみにしています 代替エネルギー は 世界中のさまざまなところで発見されているようです ちょうどメールの送信ボタンを押そうとしていたところにアンナ ストゥプニツカが ウクライナが大規模なシェールガス層を発見したとの報道を持ち込んで来ました 主要エネルギー源として ポーランドに匹敵するほどのものだそうです 今週 この地域を訪問した際に グルジアの政策立案者と興味深い面談が出来ました そこで聴いたのは グルジアがこの地域の ハブ 経済になることを望んでいるということで その過程においては 特定の一次産品との特別な関係構築や 特定の一次産品生産国との関係構築にはまったく関心がないという発言があり 非常に興味深く感じました 欧州は依然として世界のすべてではない すべての市場参加者やマスコミが ギリシャに対するある種のわだかまりを持ったまま また1 週間が過ぎていきました 最終的に決定された 取引 から何が生まれるのかまったく見当がつきませんが 間違いないと思っているのは ギリシャ以外の欧州通貨同盟の加盟国 特にイタリアとスペインがしっかりと防御壁で囲まれている限りは あまり大変な事態にはならないだろうということです 数週間前に伝えたことを繰り返しますが 中国は11.5 週毎に 新たなギリシャをつくるほどのペースで富を増やしています このことを 今週会ったある方に言ったところ その方は もしかすると中国は 最終的により大きなギリシャになるのではないかとお応えでした ひょっとするとそんなことが起こるかもしれないと 私も思います しかし 私は そんなことは何時間もかけて真剣に議論するようなことではないと反論しました 付け加えて言ったのは 中国の株式市場も少しずつ落着く兆候を見せつつあり もし私が彼の立場にいたなら むしろ中国のより明るい将来について考えるだろうということでした 今週の欧州経済関連データは 好不調混じり合ったものでした 2 月の購買担当者景況指数 ( 速報値 ) は 総合指数が再び49.7に下がるというやや期待を裏切るもので これはドイツに足を引っ張られた部分があります 2ヵ月連続での目立った改善の後とは言え やや失望感のある結果でした 対照的に いずれも統計としては欧州全 3
体の景気の先行指標とされるベルギーの月間信頼感指数とドイツのIFO 企業景況感指数は 著しい改善を見せました ここ英国では 直近の産業連盟 (CBI) 企業調査の詳細結果がかなり良いもので 輸出も改善しつつある兆候も現れています 加えて 英国の小売部門での先行指標の中に ほぼ四半世紀ぶりに 調達を国内から行う動きが見て取れます アフリカは 引き続き興味深い 今週は アフリカについて 興味深いことをいくつも見つけました アフリカへの投資に関し 著名な方々何人かに会うことになっていたこともその理由のひとつですが アフリカ大陸への投資をしようと考えている投資家の数は 引き続き増えているようです 多くの方々からよく受けるのが 当社 ( ここではゴールドマン サックス アセット マネジメントを指します ) はなぜアフリカ ファンドを設定しないのだという質問です 私は 考えてはいますが 設定しない理由のひとつは 当社の既存ファンドの中に アフリカ市場やそこでの投資機会に参画できるような商品がすでにあるということです と答えています より視野を広くすると シェル ( 石油 ) がアフリカでの存在感を拡大しようとしているという報道が今週あり 興味深く思いました 当社で欧州国債投資チームを率いるジョナサン ベイリスがこのニュースを教えてくれたのですが シェルが参加しようとしている入札に タイからの競合者があるとも言っていました こうした景気の良い話とは反対に ナイジェリアでの格差が拡大しつつあるという話を読むと 胸が痛みました 過去の停滞していた経済がこのところ高い成長率を示しつつあるというのに そんなことが起こっているのです ナイジェリアの政策立案者は国民生活を改善しようとする努力には敬意を払いますし それが続くことを望んでいます と言うのは いつかもご紹介した通り アフリカ大陸の全人口の20% を擁するこの国で進められている富の拡大は ナイジェリア1 国の課題ではなく アフリカ全体の課題であるからです ともあれ 今週は ここで筆を置きます そして 雇用統計の発表までには湾岸地域から戻って それから英国サッカーの ビッグ ウィークエンド を楽しみたいと思います 皆さんも 楽しい週末をお過ごし下さい ジム オニールゴールドマン サックス アセット マネジメント会長 ( 原文 :2 月 25 日 ) 本資料に記載されているゴールドマン サックス アセット マネジメント (GSAM) 会長ジム オニール ( 以下 執筆者 といいます ) の意見は いかなる調査や投資助言を提供するものではなく またいかなる金融商品取引の推奨を行うものではありません 執筆者の意見は 必ずしもGSAMの運用チーム ゴールドマン サックス経済調査部 ( 執筆者の前在籍部署 ) その他ゴールドマン サックスまたはその関連会社のいかなる部署 部門の視点を反映するものではありません 本資料はゴールドマン サックス経済調査部が発行したものではありません 追記の詳細につきましては当社グループホームページをご参照ください 本資料は 情報提供を目的として GSAM が作成した英語の原文をゴールドマン サックス アセット マネジメント株式会社 ( 以下 弊社 といいます ) が翻訳したものです 訳文と原文に相違がある場合には 4
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