第 54 回 ( 社 ) 日本透析医学会学術集会 総会ランチョンセミナー 16 日時 :2009 年 6 月 6 日 / 場所 : パシフィコ横浜 顆粒球吸着療法の開発と 臨床の実際 司会 : 東京女子医科大学東医療センター内科教授佐中孜先生演者 : 札幌北楡病院理事長米川元樹先生高須クリニック院長高須伸治先生兵庫医科大学地域総合医療学主任教授福田能啓先生 共催 : 第 54 回 ( 社 ) 日本透析医学会学術集会 総会株式会社 JIMRO
司会挨拶 アダカラムを用いた顆粒球吸着療法は 2009 年 1 月からクローン病に対しても保険適用となりました そこで今回は アダカラム開発に携わった米川先生 透析施設でアダカラムを使用している高須先生 アダカラムのクローン病への応用に携わった福田先生にお話いただきます 東京女子医科大学東医療センター内科教授佐中孜先生 顆粒球吸着カラム アダカラム開発の歴史 を示した ( 図 1) そこで 1989 年にがん患者の顆粒球を減少さ せて抗腫瘍効果を図る目的で 顆粒球除去を目的としたカラム の開発がスタートした 札幌北楡病院理事長 米川元樹先生 カラムの開発では まず顆粒球を吸着する素材を検討した ポリスチレン ガラス ナイロン 酢酸セルロース テフロンを それぞれビーズ状にして ヘパリン加血と 37 C で 30 分イン キュベーションし 白血球数 顆粒球数 リンパ球数 G/L 比を測 酢酸セルロースを使用したカラムの開発 がん患者では がんが進行するとリンパ球に対する顆粒球の比率 (G/L 比 ) が上昇することが知られていた 実際に悪性腫瘍で死亡した症例の死亡 3カ月以内のデータでは 悪性腫瘍手術前や良性疾患の手術前の患者と比べてG/L 比が圧倒的に高値 定した その結果 酢酸セルロースを用いた場合に最も顆粒球が減少しG/L 比が低下した ( 図 2) そこで 酢酸セルロースのビーズを用いてヘパリン加血を循環させるex vivoの実験を行ったところ 経時的な顆粒球減少効果も認められた 次に酢酸セルロースの長径 2mmの楕円球ビーズを15,000 個充填したカラムを作製し ビーグル犬を用い 100mL/minで45 分間体 図 1: 臨床における G/L 比の検討 図 2: アダカラム吸着素材の検討 2 顆粒球吸着療法の開発と臨床の実際
JSDT LS16 外循環する動物実験を行った この実験で 酢酸セルロースを 使用したカラムでは顆粒球を選択的に吸着する効果があるこ とを確認できた ( 図 3) を中止すると症状が悪化したため こうした症状の改善効果は 顆粒球除去によるものと考えられた さらに肝細胞癌で肝硬変 を合併している症例では 体外循環で顆粒球を除去すると白血 球数が増加し 体外循環治療を中止すると白血球数が減少す 図 3: 単球 リンパ球 顆粒球数の変化 顆粒球除去による炎症抑制効果 体外循環による顆粒球除去で腫瘍増殖を抑制する効果が あるという田淵らの報告 (Tabuchi T, et al. Anticancer Res. 1992:12;795-798) を受け 約 22,000 個のビーズを充填し た臨床用のカラムを作製して臨床研究を開始した 血液流量 50mL/min で 30 分間の体外循環を週 2~3 回 15 回で 1 クール として臨床研究を行ったところ 体外循環開始 10 分頃から顆粒 球数が減少し 14.2% の顆粒球がカラムに吸着されることが確 認された ( 図 4) しかし G/L 比には体外循環による減少が認め られなかった 検討した 7 症例では病状が進行 (PD) または変化 なし (NC) と 一部の症例に腫瘍増殖抑制効果が見られたもの の 腫瘍縮小効果が明らかに認められた例はなかった ( 表 1) ただし 転移性肝癌の症例において 疼痛 倦怠感 血痰の改善 が認められた これらの症例では 体外循環による顆粒球除去 る傾向が認められた ( 図 5) なお 問題となるような副作用は 見られなかった 表 1: 臨床研究成績 図 5: 原発性肝癌患者の白血球数 顆粒球数 リンパ球数の変化 ( 症例 2) 症例疾患名 PS* 自覚症改善成績 1. TY 転移性肝癌 1 4 疼痛 怠感 PD 2. YK 原発性肝癌 1 1 疼痛 怠感 食欲 NC(AFP 低下 ) 3. YO 転移性肝癌 2 1 怠感 PD 4. CO 原発性肝癌 2 1 疼痛 怠感 食欲 PD 5. MA 転移性肺癌 2 1 怠感 咳嗽 血痰 NC 6. HI 転移性肺癌 2 1 怠感 咳嗽 PD 7. FJ 転移性肺癌 1 1 怠感 咳嗽 血痰 NC *PS(Performance Status): 癌患者の一般状態を表す指標 炎症性疾患の治療における アダカラムの有用性 米川元樹 他 : 人工臓器.1992:21;1168-1172 酢酸セルロースを使用したカラムによる体外循環で顆粒球 図 4: 顆粒球の回路循環数 カラム吸着数 回収数 を除去することで 抗腫瘍効果は確認できなかったが 血痰などの腫瘍に伴う炎症を抑制する効果が示唆された そこで ステロイドによる治療が有効な炎症性疾患や急性呼吸促迫症候群 (ARDS) に対する顆粒球吸着療法の効果が期待されることとなった その後 開発されたアダカラムは関節リウマチ (RA) および潰瘍性大腸炎 (UC) に対する治療効果が臨床試験において確認され 2000 年にUCに対して保険収載された また 2009 年 1 月からはクローン病に対しても保険収載されている 今後ますますアダカラムを用いた治療が普及することが望まれる 顆粒球吸着カラム アダカラム開発の歴史 3
透析施設で行う GCAP 療法の実際 GCAP 療法普及に向けてのパラダイムシフト により 中毒性巨大結腸症などで緊急手術となる割合が有意に 減少し 重症 劇症型で手術となる症例も有意に減少していた ( 池内浩基 他. 第 60 回日本大腸肛門病学会総会. 2005 年.) な 高須クリニック院長 高須伸治先生 お GCAP 療法による術後合併症への影響は報告されていな い また 内野らの報告によると 2000 年以前に手術を行った 329 例 (A 群 ) と GCAP 療法開始後 2000~2005 年に手術を 行った 476 例 (B 群 ) では 術前ステロイド投与量が A 群に比べて GCAP 療法は潰瘍性大腸炎の治療に有効 潰瘍性大腸炎 (UC) の患者数は年々増加しており 現在では B 群で有意に減少し (p<0.01) 緊急手術症例も有意に減少した (p<0.01)( 図 1) このように UC に対する GCAP 療法の有用性 は明らかである 約 96,000 人に上る アダカラムを用いた顆粒球吸着 (GCAP) 療法が適用となる中等症以上の活動期 UC 症例は 研究班の 報告によるとこのうち約 49% であるが 実際に GCAP 療法を受けた患者数は年間約 2,700 名で 導入率は 5.7% と非常に少ない 白血球除去 (LCAP) 療法を合わせても 血球成分除去療法の導入率は1 割程度であると考えられる 池内らの報告によると 2000 年以前に手術を行ったUC 325 例 (A 群 ) とGCAP 療法開始後の2000~2004 年に手術を行った387 例 (B 群 ) では 術前のステロイド投与量が A 群 30mg/ 日に比べてB 群で20mg/ 日と少なく 重症 劇症症例の割合もB 群は10% 少なかった (26% 対 16%) GCAP 療法の導入 GCAP 療法を透析施設で行うメリット GCAP 療法はUC 患者の治療において有用であるにもかかわらず 導入率が低くなかなか普及しない背景には 体外循環治療を行える施設が限られていることが挙げられる GCAP 療法を実施している施設数としては 大学病院が 9% 国公立 自治体病院が19% であるのに比べて個人病院等は67% と大半を占める GCAP 療法の実施場所の内訳を見ると 施設数あたりでは透析室は32% であるが 透析室以外で行われている施設 図 1:GCAP 療法と外科手術 図 2:GCAP 療法実施施設 実施場所の内訳 4 顆粒球吸着療法の開発と臨床の実際
JSDT LS16 は68% と多い ( 図 2) そこで 透析施設での GCAP 療法実施件数を増やしていくことで GCAP 療法の導入率を上げることが期待される このため透析医学会でも 2002 年から アダカラムに関するセミナーが開かれている GCAP 療法を実施する施設を持たないかかりつけ医の先生方や 体外循環治療に慣れない病院 診療所では薬物療法に専念していただき GCAP 療法を実施するため透析施設へ患者を紹介していただく こうした連携体制をとることで 寛解導入が容易になり効果的な治療が行えると考えている ( 図 3) が 透析施設ではアダカラム以外はすべて常備しているため 特別な設備を準備する必要がなく いつでも GCAP 療法を行える 当院での治療時には プライミング時には十分にエアを抜くよう注意し 前腕と肘下の 2カ所に穿刺して 静脈圧モニターの監視下で30mL/minの血液流量で約 1 時間の循環を行っている 治療開始直後は静脈圧の下降が見られることがあるため 静脈圧モニターの設定は通常よりも低めにしている 返血時にはカラムの動脈側を上にして 30mL/minの血流 量でゆっくり回収している 技術料とカラムのほか 生理食塩 図 3: 医療連携による GCAP 療法導入へのパラダイムシフト 液や抗凝固剤についても保険請求できるため GCAP 療法は 透析施設でも実施しやすい治療である け医薬物療法 化 医 ( 病 療所 ) 薬物療法 当院では現在 5 症例のUCに対して GCAP 療法を行っている 薬物療法を拒否している症例に対しては GCAP 療法のみで病勢をコントロールしている 女性の左側大腸炎型 中等症の UC 症例に 4 年間で5 度の活動期治療としての GCAP 療法を施行しており その平均寛解維持期間は 8.5カ月である 図 4にこの症例の大腸内視鏡像を示す 透析施設 療法 図 4: 症例呈示 : 薬物治療拒否症例の GCAP 治療のみの 4 年間の経過 体外循環の経験が少ない消化器専門施設とは異なり 透析 施設は体外循環治療の経験が豊富である このため GCAP 療法を安全に施行することができる さらに 透析施設では GCAP 療法を既存の透析コンソールで施行できるため GCAP 専用の体外循環モニター ( アダモニター ) を用意する必要が ないというメリットがある 実際に GCAP 療法を施行する目的 で当院に紹介された患者に対して 全症例とも安全に GCAP 療 法が施行されている GCAP 療法は UC の治療として非常に有用である 透析施設 透析施設における GCAP 療法の実際 当院では 消化器専門の病院から紹介された患者に対して アダモニターではなく血液透析コンソールを使用して GCAP 療法を実施している GCAP 療法の実施には アダカラムのほか 血液透析回路 抗凝固剤 生理食塩液などが必要である を活用して GCAP 療法を行うことで 消化器専門医の治療の幅が広がるだけでなく 患者の予後の向上にもつながる 体外循環のための施設がない 経験が乏しいといった理由で GCAP 療法を敬遠することなく 患者のためによりよい治療を選択するために 透析施設との連携を積極的に行ってほしいと考えている 透析施設で行う GCAP 療法の実際 GCAP 療法普及に向けてのパラダイムシフト 5
顆粒球吸着療法の新たな可能性 クローン病治療の新戦略 与が示唆される虹彩炎や壊疽性膿皮症のほか 膵炎や尿路結 石症 水腎症も見られることがあり 治療期間が長くなると慢性 兵庫医科大学地域総合医療学主任教授 福田能啓先生 の腎障害を生ずる症例も多い CDの発症原因は不明とされるが 食習慣やストレスといった環境因子の影響から免疫異常が起こり 炎症性サイトカイン (TNF-α) の産生が亢進されて病変を生ずるという機序が考え られている 脂肪やタンパク質を含まないアミノ酸で構成され クローン病とはクローン病 (CD) とは 1932 年にクローンらによって初めて報告された疾患である 発症に至る原因は不明であり 若年者に好発する 大腸 小腸 胃など全ての消化管に病変を生じ 深い潰瘍ができて穿孔しやすく 潰瘍が治ると線維化が起こる このため腸管が狭窄しやすく 腸閉塞を起こしやすくなる 潰瘍は縦走し 非連続的 ( 飛び飛び ) に病変を生じやすい ( スキップ病変 ) 病変は非乾酪性肉芽腫性の炎症病変である CDは治療の難しい疾患で わが国では特定疾患に指定されている 特定疾患とは いわゆる難病のうち 1 原因不明 2 治療 た成分栄養剤による栄養療法を行うことで 食事抗原に対するアレルギーの発症を防ぎ寛解維持が可能となる 欧米では CD ないしUC の治療戦略はわが国と大きく異なる 活動期の治療においては免疫抑制剤による薬物療法が主体であり 現在はインフリキシマブ (IFX) を第一選択とする治療が主流となっている ( 図 2) 免疫抑制剤は病勢の安定に効果があるが 感染症のリスクが高まる恐れがあるため 使用には注意が必要である そこで 免疫を抑制せずに調整することができ 副作用の少ないアダカラムによる顆粒球吸着 (GCAP) 療法を治療に取り入れていくことで より安全で効果的な治療が可能になると期待している 方法が確立していない 3 症状は慢性的に経過し後遺症を残す 4 社会復帰が極めて困難もしくは不可能 5 医療費が高額で経 図 1: クローン病の病変 済的負担が大きい6ケアや介護等が必要で 家庭的 精神的負担が大きい7 症例が少なく全国規模での研究が必要 であ る CD 患者数は増加しており 2007 年度末現在で27,000 人ほどに上り 潰瘍性大腸炎 (UC) 患者数と合わせると約 13 万人の 患者がいると言われている 副作用の少ないクローン病治療が必要 CD は若年者に好発し治癒の難しい疾患であるため 一度発 症すると長期にわたって免疫抑制剤などによる薬物治療を続けることになる CDの症状は活動期と慢性期に大別され 活動期には腹痛 下痢 下血 潜血陽性 発熱などが見られ 慢性期になると栄養障害が起こり全身倦怠感 体重減少 貧血などの症状が見られる 病変の位置によって 小腸型 小腸大腸型 大腸型 図 2: 炎症性腸疾患治療の概要 ( 欧米 ) の 3 つに分類され 腸管の病変は痔瘻 瘻孔 膿瘍 癒着 狭窄 閉塞と様々である ( 図 1) 消化管外の合併症では 免疫学的関 6 顆粒球吸着療法の開発と臨床の実際
JSDT LS16 GCAP 療法はクローン病治療に有効 GCAP 療法とは 2000 年 4 月に初めてUC 治療の選択肢として保険収載された 日本発の体外循環療法である UCに対しては重症 劇症 難治性症例が保険適用で CDに対しては 2009 年 1 月に保険適用となった 肘静脈などの静脈から静脈へと循環する全血灌流型の体外循環用カラムであるアダカラムを用いて施行するが血液流量が少ないため シャントは不要である 2003 年に松井らが既存の治療法抵抗性の難治性 CD 患者 7 例を対象に週 1 回のGCAP 療法を5~6 回施行し クローン病活動指数 (CDAI) にて評価し 有効率は 71.4%(5 例 ) であったと報告している (Matsui T, et al. Am J Gastroenterol. 2003: 98; 511-512) 有効例の特徴として 若年で罹病期間が短く 大腸に主病変を有し炎症が高度であることが挙げられている 小腸に主病変がある2 症例は無効であった また 重篤な副作用は確認されなかった そこで 栄養療法が無効の難治性 CD 患者 21 例を対象に (Mucosal Healing) を期待できる症例もあった 保険適用の範囲内で治療を行う場合には 1クール5 回のGCAP 治療を2クール施行する治療方法が望ましく アダカラムの使用は 1 回の活動期につき最大 10 本までとされている 現在では栄養療法および既存の薬物療法が無効または適用できない症例のみが対象であるが 活動期に栄養療法だけでは十分な効果が期待できない場合のみならず 寛解維持中に再燃傾向が見られるような場合にも有効であろうと考えている 特に若い女性で将来妊娠したいと希望される患者の場合には 免疫抑制剤の投与ではなくGCAP 療法で免疫を調節して治療を行うことが望ましいと考えている 患者の QOL を高める治療を CDは治療の難しい疾患であるが 様々な治療方法を組み合わせることで QOLを高めることが可能となる 今後ますますGCAP 療法が普及していくことを期待している GCAP 療法の効果を評価する多施設共同試験を実施した 週 1 回 の GCAP 療法を 5 週連続で施行し 2 週間後に CDAI にて評価を 行った CDAI150 点未満を寛解 50 点以上の改善が認められれ ば有効 50 点以上の悪化が認められた場合には悪化 それ以外 は不変とした CDAI が 50 点以上改善したものの 150 点以下にな らなかった症例に対しては さらに 5 回の GCAP 療法を追加しても よいこととした ( 図 3) 21 例中 15 例は 5 回の GCAP 療法を施行 し 7 週目に評価可能であった この 15 例中 12 例が 7 週で治療 を完了し 3 例は追加治療を施行した 有効率は 52.4%(11 例 ) で寛解が 6 例 改善が 5 例であった 重篤ではない副作用が 10 件 (6 例 ) 発現した なお GCAP 療法により易感染性になることは なかった GCAP 療法により CDAI は有意に改善し (p=0.0005) QOL(IBDQ) も有意な改善が認められた (p=0.0327)( 図 4) GCAP 療法施行時には総白血球数 顆粒球数とも低下するが 24 時間以内にほぼ元と同じレベルまで回復した ( 図 5) この治験で対象とした症例の中には GCAP 療法施行により ステロイドの投与量減量が可能となった症例もあり 粘膜治癒 図 3: 試験デザイン 図 4:GCAP 療法前後での各指標の変化 図 5:GCAP 療法施行における白血球数の推移 顆粒球吸着療法の新たな可能性 クローン病治療の新戦略 7
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