検査の背景 (1) 事業者免税点制度消費一般に幅広く負担を求めるという消費税の課税の趣旨等の観点からは 消費税の納税義務を免除される事業者 ( 以下 免税事業者 という ) は極力設けないことが望ましいとされている 一方 小規模事業者の事務処理能力等を勘案し 課税期間に係る基準期間 ( 個人事業者で

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CONTENTS 第 1 章法人税における純資産の部の取扱い Q1-1 法人税における純資産の部の区分... 2 Q1-2 純資産の部の区分 ( 法人税と会計の違い )... 4 Q1-3 別表調整... 7 Q1-4 資本金等の額についての政令の規定 Q1-5 利益積立金額についての政

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1 繰越控除適用事業年度の申告書提出の時点で判定して 連続して 提出していることが要件である その時点で提出されていない事業年度があれば事後的に提出しても要件は満たさない 2 確定申告書を提出 とは白色申告でも可 4. 欠損金の繰越控除期間に誤りはないか青色欠損金の繰越期間は 最近でも図表 1 のよ

課税売上割合 消費税の課税売上割合の計算は 次の算式により計算します 課税売上割合が 95% 以上と未満では 仕入税額 控除の計算方法が変わってくるため算定する必要があります 課税売上割合 = 課税売上 ( 税抜 )/( 非課税売上 + 課税売上 )( 税抜 ) 消費税の課税売上割合が 95% 以上

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13. 平成 29 年 4 月に中古住宅とその敷地を取得した場合 当該敷地の取得に係る不動産取得税の税額から 1/2 に相当する額が減額される 14. 家屋の改築により家屋の取得とみなされた場合 当該改築により増加した価格を課税標準として不動産 取得税が課税される 15. 不動産取得税は 相続 贈与

以下本人の給与収入速報 平成 29 年度税制改正解説所得課税 ~ 配偶者控除及び配偶者特別控除の見直し 2 配偶者の給与収入が 万円超 15 万円以下の場合の改正案の控除額及び改正前後の影響について 配偶者特別控除 配偶者の給与収入 万円超 15 万円 15 万円以上 11 万円 11 万円以上 1

この特例は居住期間が短期間でも その家屋がその人の日常の生活状況などから 生活の本拠として居住しているものであれば適用が受けられます ただし 次のような場合には 適用はありません 1 居住用財産の特例の適用を受けるためのみの目的で入居した場合 2 自己の居住用家屋の新築期間中や改築期間中だけの仮住い

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会計検査院法第 30 条の 2 の規定に基づく報告書 ( 要旨 ) 消費税の課税期間に係る基準期間がない法人の納税義務の 免除について 平成 23 年 10 月 会計検査院

検査の背景 (1) 事業者免税点制度消費一般に幅広く負担を求めるという消費税の課税の趣旨等の観点からは 消費税の納税義務を免除される事業者 ( 以下 免税事業者 という ) は極力設けないことが望ましいとされている 一方 小規模事業者の事務処理能力等を勘案し 課税期間に係る基準期間 ( 個人事業者では課税期間の前々年 法人では課税期間の前々事業年度 ) における課税売上高が1000 万円以下の事業者は 原則として消費税の納税義務が免除されることとなっている ( 以下 この消費税の納税義務が免除される仕組みを 事業者免税点制度 という ) その結果 事業者として新たに事業を開始した場合 個人事業者の新規開業年及びその翌年並びに法人の設立事業年度及びその翌事業年度については それぞれ課税期間に係る基準期間が存在しないことから 原則として免税事業者となり 納税義務が免除されることとなっている (2) 個人事業者の法人成り個人事業者は 事業の拡大等を理由として 当該事業を新たに設立した法人 ( 以下 新設法人 という ) に引き継ぐ場合がある ( 以下 このように個人事業者が行っていた事業を新設法人へ引き継ぐことを 法人成り という ) そして 個人事業者として課税事業者であった場合でも 個人事業者が新設法人に事業を引き継いだときには 法人としての課税期間に係る基準期間が存在しないことから 設立事業年度とその翌事業年度は 原則として免税事業者となる (3) 新設法人における納税義務の免除の特例新設法人の中には設立事業年度から相当の売上高を有する法人もあることなどから 6 年の税制改正において 新設法人のうち その事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額 ( 以下 資本金 という ) が1000 万円以上の法人は 課税期間に係る基準期間が存在しない設立 2 年以内の納税義務が免除されないこととされた (4) 会社法施行に伴う最低資本金制度の撤廃会社に関する法律として 会社法 ( 平成 17 年法律第 86 号 ) が制定されて18 年 5 月から施行された これにより 従来設けられていた株式会社の設立には1000 万円以上の - 1 -

資本金が必要であるとする最低資本金制度が撤廃された そして 上記の最低資本金制度が撤廃された以降においても 新設法人の設立 2 年以内の納税義務について資本金を基準として判定することは 特段見直されていない 検査の状況 (1) 資本金 1000 万円未満の新設法人における売上高等の状況 18 年中に設立された資本金 1000 万円未満の新設法人で検査の対象とした法人 1,283 法人のうち 第 1 期事業年度の売上高が1000 万円を超え 設立 2 年以内の事業者免税点制度の適用を受けて 第 3 期課税期間において納付消費税額を申告している343 法人を抽出して これらの法人の第 1 期事業年度から第 3 期事業年度までの売上高及び消費税の課税の状況についてみると 表 1のとおりである 表 1 売上高 1000 万円超の新設法人に係る売上高の推移等 事業年度等第 1 期事業年度第 2 期事業年度第 3 期事業年度区分 ( 第 1 期課税期間 ) ( 第 2 期課税期間 ) ( 第 3 期課税期間 ) 売 百万円 百万円 百万円 上 売上高計 22,230 35,902 36,187 高の状 百万円 百万円 百万円 況 1 社平均売上高 64 104 105 千円 消 課税標準額計 32,332,422 費税 千円 の 納付消費税額計 652,681 課 免 税 免 税 税 1 社平均 千円 の 課税標準額 94,263 状況 1 社平均 千円 納付消費税額 1,902 343 法人は 第 1 期事業年度及び第 2 期事業年度の 1 社平均売上高が それぞれ 64 百万 円及び 1 億 04 百万円となっているのに 設立 2 年以内の事業者免税点制度の適用を受け て 第 1 期課税期間及び第 2 期課税期間は免税事業者となっていた そして 前記のとおり 最低資本金制度が撤廃されたことから 少額の資本金で法 人を設立しているものも見受けられ 上記 343 法人のうち 257 法人 (74.9%) が資本金 - 2 -

300 万円以下となっていた (2) 法人成りした場合における売上高等の状況 課税事業者となっていた個人事業者 206 人が 18 年中に資本金 1000 万円未満で法人 成りして同一の事業内容等で事業を開始した後 設立 2 年以内の事業者免税点制度の 適用を受けていた場合における個人事業者としての 17 18 両年分の事業収入及び消費 税の課税の状況と 法人成り後の法人としての第 1 期事業年度から第 3 期事業年度まで の売上高及び消費税の課税の状況についてみると 表 2 のとおりである 表 2 法人成り後の法人に係る売上高等の推移 事業年度等 個人事業者 (206 人 ) 法 人 (206 法人 ) 平成 17 年分 18 年分 第 1 期事業年度 第 2 期事業年度 第 3 期事業年度 区 分 ( 第 1 期課税期間 ) ( 第 2 期課税期間 ) ( 第 3 期課税期間 ) 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 売 事業収入計 13,009 7,322 上 売上高計 13,864 16,318 15,330 高 の 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 状 1 人平均事業収入 63 35 況 1 社平均売上高 67 79 74 千円 千円 千円 消 課税標準額計 12,500,211 7,660,587 14,866,994 費税 千円 千円 千円 の 納付消費税額計 156,109 109,114 193,319 課 免 税 免 税 税 1 人 (1 社 ) 平均 千円 千円 千円 の 課税標準額 60,680 37,187 72,169 状況 1 人 (1 社 ) 平均 千円 千円 千円 納付消費税額 757 529 938 法人成りが18 年中に行われていることから 1 年間の売上高で比較するために 個人事業者の17 年分の事業収入と法人の第 2 期事業年度の売上高をみると 個人事業者の17 年分の1 人平均事業収入が63 百万円であるのに対して 法人の第 2 期事業年度の1 社平均売上高は79 百万円と同等以上の売上高となっていた このように事実上 同一の事業内容等を継続していて法人成り後も相当の売上高があるのに 個人事業者が法人成りして事業を開始した後 設立 2 年以内の事業者免税点制度の適用を受けて 第 1 期課税期間及び第 2 期課税期間ともに免税事業者となっていた そして 前記 206 法人のうち156 法人 (75.7%) が 資本金 300 万円以下となっていた (3) 資本金が1000 万円以上となる増資を行っていたなどの法人における売上高 - 3 -

等の状況資本金 1000 万円未満の新設法人のうち 資本金が1000 万円以上となる増資を行っていたなどの法人の状況についてみると 第 1 期事業年度開始の日の翌日以降の同事業年度中に資本金を1000 万円以上に増資して第 1 期課税期間は免税事業者となり 第 2 期課税期間から課税事業者となっていたなどの法人が10 法人 第 2 期事業年度開始の日の翌日以降に資本金を1000 万円以上に増資して第 1 期課税期間及び第 2 期課税期間は免税事業者となり 第 3 期課税期間以降から課税事業者となっていたなどの法人が19 法人 計 29 法人見受けられた また 前記のとおり 最低資本金制度が撤廃されたことから 上記 10 法人の中には 1 万円及び5 万円の資本金でそれぞれ法人を設立して 第 1 期事業年度における売上高が47 百万円及び1 億 41 百万円となっている法人も見受けられた 上記のほか 資本金 1000 万円未満の新設法人が その事業年度開始の日の翌日以降の第 1 期事業年度中に資本金が1000 万円以上となる増資を行ったため 第 2 期課税期間から課税事業者となるところ 第 1 期事業年度中に再度 1000 万円未満となる減資を行ったため第 2 期課税期間も免税事業者となっていたなどの法人が4 法人見受けられた (4) 設立 2 年以内の事業者免税点制度の適用を受けた後に解散等した法人の状況資本金 1000 万円未満の新設法人のうち 設立 2 年以内の事業者免税点制度の適用を受けた後に解散等した法人の状況についてみると 設立 2 年以内において相当の売上高を有していることから第 3 期課税期間は消費税の申告及び納付が見込まれるのに 第 3 期事業年度以降に解散していたり 無申告となっていたりしているなどの法人や 設立 2 年以内の事業者免税点制度の適用を受けた後の第 3 期事業年度以降に他の新設同族法人へ売上げを移転するなどしているとみられる法人が計 24 法人見受けられた 以上の (1) から (4) までの検査の対象とした計 1,546 法人のうち 納付消費税額の推計が可能な計 587 法人 ((1)343 法人 (2)206 法人 (3)29 法人及び (4)9 法人 ) の第 1 期事業年度及び第 2 期事業年度の売上高計は それぞれ408 億 33 百万円及び597 億 49 百万円 計 1 005 億 83 百万円であり これら587 法人の第 1 期課税期間及び第 2 期課税期間の納付消費税額の推計額は それぞれ7 億 0687 万余円及び10 億 5026 万余円 計 17 億 5714 万余円となる - 4 -

(5) 国税庁による消費税の査察調査状況会計検査院が明らかにした検査の状況に関連して 国税庁による消費税の査察調査状況についてみたところ 18 年度から22 年度までの間に検察庁に告発した件数は 10 2 件で このうち58 件は 資本金 1000 万円未満の新設法人が設立 2 年以内の事業者免税点制度を悪用し 法人の設立や解散を繰り返すなどして消費税を免れている事例であった (6) 政府における免税事業者の要件の見直しの状況政府は 事業者免税点制度における免税事業者の要件の見直しに向けた取組を行い 現行制度では 課税売上高が1000 万円を超えた場合に翌々事業年度から課税事業者となるが 同制度を悪用した法人の新設等による課税逃れを抑制する観点から 課税売上高が1000 万円を超えることが事業年度の途中で明らかとなった場合には 翌事業年度から課税事業者とすることとする 消費税法の一部改正を含む 税制改正法案を国会に提出した そして 同法案は国会の審議を経て可決 成立し 現下の厳しい経済状況及び雇用情勢に対応して税制の整備を図るための所得税法等の一部を改正する法律 ( 平成 23 年法律第 82 号 ) として 24 年 1 月 1 日から施行することとされた そして 設立 2 年以内の事業者免税点制度の適用を受けて免税事業者となる期間は短縮されることとなった 所 見 消費税に関する国民の関心が高まっている中で 会計検査院は 事業者免税点制度が有効かつ公平に機能しているかに着眼して検査したところ 新設法人の納税義務の判定を基準期間の課税売上高に代えて資本金により行っていることにより 次のような状況となっていた 1 資本金 1000 万円未満の新設法人において設立 2 年以内の事業者免税点制度の適用を 受けている法人の中には 設立当初の第 1 期事業年度から相当の売上高を有する法人 が相当数見受けられた 2 法人成り後も相当の売上高を有しているのに 第 1 期課税期間及び第 2 期課税期間に おいて免税事業者となっている法人が相当数見受けられた 3 1000 万円未満の資本金で法人を設立し 第 2 期事業年度の開始の日の翌日以降に増 - 5 -

資を行い資本金を 1000 万円以上にすることなどにより 第 1 期課税期間及び第 2 期課税 期間において免税事業者となっている法人が見受けられた 4 設立 2 年以内の事業者免税点制度の適用を受けた後の第 3 期事業年度以降に解散等し ている法人が見受けられた 前記のとおり 現下の厳しい経済状況及び雇用情勢に対応して税制の整備を図るための所得税法等の一部を改正する法律 により 事業者免税点制度の適用に関する改正が行われたところであるが この改正によっても 会計検査院の検査によって明らかになった状況が十分に解消されるまでには至っていないと認められる ついては 今後 消費税に関わる幅広い議論が十分なされるよう 財務省において 消費税の課税の趣旨等の例外として設けられている事業者免税点制度の在り方について 引き続き 様々な視点から不断の検討を行っていくことが肝要である 会計検査院としては 今後とも事業者免税点制度を含む消費税全般について 引き続き注視していくこととする - 6 -