真菌症について ケカビ 1
人の役に立つ真菌は少なくない ペニシリン ( ペニシリウム ) フレミング博士 真菌は非常に身近なとことろにいる 酵母様真菌 -カンジダは常在真菌 人の役に立つ真菌も多い 時に病原性を発揮毒素 皮膚 内臓 2
ヒト真菌症の主な原因真菌 1. カンジダ 2. アスペルギルス 3. クリプトコックス 4. ニューモシスチス ( 肺炎 ) ヒトにおけるカンジダ症 1. カンジダ属は ヒトの皮膚や粘膜の常在菌であり 消化管や外陰部に分布している 2. 感染経路として 血管カテーテル刺入部の皮膚や手術 化学療法等で損傷した粘膜が主な侵入門戸となる 3. 全身的および局所的な感染防御能 つまり患者の基礎疾患と治療に関連した医原的要因がカンジダ症発症の主なリスクファクターである 4. カンジダ症は 殆どが内因性の感染であるが 外因性の感染もある 病院内で交差感染による集団感染事例もみられる 5. 予防と感染制御では 基本的な感染対策の遵守が重要 6. 領域によっては抗真菌薬による予防投与が有効 3
代表的なカンジダ種 Candida albicans C. tropicalis C. parapsilosis C. glabrata C. krusei C. Guilliermondii その他 Non-albicans Candida 4
カンジダの特徴 カンジダ属は ヒトだけでなく環境やイヌ 猫などの動物からも分離される ヒトでは常在菌として 皮膚や女性の膣 外陰部 特に口腔内を含む消化管に分布する 通常 Candida albicans の分離頻度が高い 広域抗菌薬投与や抗真菌薬予防投与によって影響を受ける 臨床検体からは 喀痰や尿 便 創部 血液 留置カテーテル先端などから分離される 喀痰のような無菌検体以外から検出されても原因菌とはかぎらない 感染経路 感染経路として 血管カテーテル刺入部の皮膚や化学療法で損傷した消化管粘膜が主な侵入門戸となる 消化管はカンジダの主な定着部位であるため カンジダ敗血症や各臓器への播種性病変を引き起こす際の血流への主な侵入経路は 手術や化学療法で粘膜の統合性が失われた腸管である 血管カテーテルや尿道カテーテルが留置されている場合には バリヤ機能の損なわれたカテーテル刺入部の皮膚や粘膜が侵入門戸となる ペースメーカーなど心内デバイスや 人工弁その他人工物がある場合にはカンジダ血症からそれら人工物が感染巣となることもある 5
患者の感染リスク 患者の基礎疾患とカテーテル留置など局所的要因が主なリスクファクターである 基礎疾患 : 固形がん 血液疾患 臓器移植 腹部手術 広範囲熱傷 DM 低栄養状態など 医原的要因 : 抗菌薬がん化学療法 放射線 ( 粘膜障害 好中球減少 ) ステロイド投与 抗菌薬長期 中心静脈カテーテル留置 尿道カテーテル留置など カテーテル関連血流感染 CV 抜去 カテーテル先端培養血液培養 6
カンジダ CV 抜去抗真菌薬眼内炎チェック 血液分離カンジダの内わけ - 抗真菌薬曝露 (n=2448) 100% FLCZ(+) Caspo(+) 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% C. krusei C. tropicalis C. parapsilosis C. glabrata C. albicans 20% 10% 0% Lortholary O. 2011 7
ヒト真菌症の主な原因真菌 1. カンジダ 2. アスペルギルス 3. クリプトコックス 4. ニューモシスチス ( 肺炎 ) 5. その他 カンジダ感染症 深在性カンジダ症 カンジダ血症 播種性カンジダ症 ( 肝脾カンジダ症 ) 表在性カンジダ症 細胞性免疫不全 皮膚粘膜カンジダ症 ( 口腔カンジダ症 食道カンジダ症 膣カンジダ症 ) 8
カンジダ血症 -CV カテーテル関連血流感染 発熱 悪寒 戦慄 診断は血液培養 β- グルカン測定も有用 治療は抗真菌薬投与 CV カテーテル抜去 カンジダ眼内炎のチェックを忘れない ( 眼科紹介 ) 血液培養 ( グラム染色 ) 酵母様真菌 9
慢性播種性カンジダ症 ( 肝脾膿瘍 ) 22 歳男性急性骨髄性白血病で化学療法中 好中球 <500 個 /mm 3 となり 39 の発熱がみられるようになった 消化管に常在するカンジダが血行性に播種して肝臓 脾臓に膿瘍を形成する 診断 : 腹部 CT 画像 エコー β-d- グルカン血液培養膿瘍穿刺培養 治療 : 抗真菌薬 皮膚粘膜カンジダ症 口腔カンジダ症 37 歳男性同性愛者咽頭痛で来院 HIV 抗体陽性 CD4 数 180 個 /ml 常在しているカンジダが粘膜で増殖する 診断 : 組織検査, 培養 治療 : 抗真菌薬の経口および内服 食道カンジダ症 10
アスペルギルス症 1. アスペルギルスは世界中に広く存在 室内 室外を問わず検出される 2. ホストの免疫状態により 複数の病態を呈する 3. 侵襲性アスペルギルス症 (Invasive aspergillosis :IA) は致命的な疾患である 4. 侵襲性アスペルギルス症では好中球減少が最も影響するリスク因子である 5. 建築 改築などの塵埃の増加に関連する集団発生が報告されている 6. ハイリスク患者を防護環境に置くことにより IA の発生を減少させることができる 感染経路 1. 主として経気道感染である 2. 損傷した皮膚や粘膜から侵入することもある 3. 医療デバイスや薬剤汚染が原因となることもある 11
患者の状態と感染リスク ( 侵襲性肺アスペルギルス症 ) 発症リスクが高い 500/μl 以下で 10 日以上続く好中球減少 同種造血幹細胞移植よび GVHD 期 急性白血病の好中球減少期 臓器移植 ( 拒絶反応 ) CD4 細胞数 50/μl 以下の AIDS 施設工事などの環境要因 リスク因子が複数重なるほど 発症リスクは高まる アスペルギルスの気道への定着もリスク因子 (%) 35 糸状菌感染症の基礎疾患 (Austrian Registry より ) 30 25 20 15 10 5 0 AML SOT ICU など NHL ALL MDS CLL ST その他 Perkhofer S et al. Intern J Antimicrob Agents 2010 12
アスペルギルス症 1. アスペルギローマ肺の既存空洞内に菌球 (fungus ball) を形成する通常非侵襲性である血痰 喀血 無症状沈降抗体が陽性可能なら手術 2. 侵襲性肺アスペルギルス症白血病の化学療法中や 幹細胞移植後等高度の免疫不全患者空気中のアスペルギルス胞子を吸入して発症症状は 発熱や咳嗽 胸痛 血痰など Aspergillus fumigatus が多くを占める死亡率は高い アスペルギローマ 慢性壊死性肺アスペルギルス症 13
侵襲性肺アスペルギルス症 55 歳女性急性白血病左中肺野に浸潤影あり 環境中に浮遊するアスペルギルスの胞子を吸入することで肺に病変が形成される 7/15 診断 : 胸部 CT 画像アスペルギルス抗原 ( 血清, 肺胞洗浄液中 ) β-d- グルカン病変部よりの培養 治療 : 抗真菌薬 アスペルギルス症 air crescent sign halo sign 14
症例 : 悪性リンパ腫 白血病患者侵襲性アスペルギルス症の脳病変 15
多発性の病変と血管浸潤 侵襲性アスペルギルス症のアウトブレイク事例 多量の真菌に曝露されたと推定される状況で発生 建設工事などに伴う分生子の量の増加と関連した事例の報告 アウトブレイクの多くは 血液疾患患者における事例 空気感染が関連ー建築 改築 空調設備の管理不十分 対策 建築等について通知し 周知する リスク因子を考慮して適切な空調管理を行う 16
環境面での管理における留意点 標準予防策の順守 ( 手洗い 適切な防護具の使用 ) 湿式清掃を行う 埃を飛散させる清掃を行わない カーペット46を部屋および廊下に敷かない 布張りの家具や調度品 47を置かない 植物 ( ドライフラワー含む ) や鉢植え植物を持ち込まない 掃除機にはHEPAフィルターをつける 埃をできるだけ少なくする 定期的に隙間やスプリンクラーヘッドの洗浄を行う クリプトコックス症 Cryptococcus neoformans 血清型 A D AD(var. neoformans) 世界のほとんどの地域日本のほぼ 100% ハトなど鳥類の糞 Cryptococcus gatti 血清型 B C C. gatti はある種の木の表面 周辺で菌の増殖 維持が行われている ユーカリの木に棲息分布地域に偏りがあり オーストラリア 南アメリカ 東南アジア アフリカに加え 近年北米北西部に流行地域が存在する 17
C. neoformansはハトを中心とした鳥の糞で増殖し その粉塵の吸入によって感染する Cryptococcus gatti は特定の種類の木の表面 周辺で増殖する 日本国内での環境分離報告はなく 輸入感染症と位置づけられる 細胞性免疫不全患者は 鳥類の飼育や 鳥糞粉塵の吸引リスクのある作業 浸淫地区への滞在などは避けることが望ましい 病院では鳥類の飛来を避ける 感染患者からの感染伝播は例外を除き通常起こらない 感染経路 菌の豊富な有機物の粉塵を吸入することによる気道感染が主たる感染経路である 伝播経路は空気感染 ( 粉塵感染 ) が推定される 感染リスク 細胞性免疫不全が感染リスクである 主な基礎疾患としては HIV/AIDS 腎移植後 免疫抑制剤使用中などがある 多量の菌体を吸入した場合は 免疫健常者でも肺病変を形成しうる C.gatti( 高病原性 ) では免疫健常者でも発症する 浸淫地域の 1 年以内の旅行 滞在歴が重要である 18
クリプトコックス感染症 環境中 ( 鳩の糞など ) 髄膜炎 脳炎 Cryptococcus neoformans 経気道的感染, 健常者でも感染するが免疫不全の存在で肺より全身に播種 菌体の吸入 肺炎, 肉芽腫 診断 : 肺組織, 髄液中の菌体の証明血清中および髄液中のクリプトコックス抗原 治療 : 抗真菌薬 全身播種 肺クリプトコッカス症と基礎疾患 (non-hiv) 症例数 60 50 その他 糖尿病 40 30 肝硬変 肺結核 固形癌 20 10 0 無し 膠原病 血液疾患 腎疾患 有り 基礎疾患 19
肺クリプトコックス症の画像 基礎疾患なし 基礎疾患あり 糖尿病糖尿病 悪性リンパ腫 悪性リンパ腫 エイズ 髄液の墨汁染色 厚い莢膜がみえる 20
46 歳アメリカ人男性基礎疾患なし 46 歳アメリカ人男性基礎疾患なし 21
39 歳男性 77 歳女性 エイズの日和見感染症 トキソプラズマ症 その他 ニューモシスチス肺炎 クリプトコッカス症 HIV 脳症 カポジ肉腫 2.9% 非結核性抗酸菌症 活動性結核 サイトメガロウイルス感染症 カンジダ症 22
Pneumocystis Pneumonia (PCP) P. jirovecii は世界中に分布している 日常生活の中で 病原体 ( P. jirovecii ) に曝露するリスクは高いと考えられる 環境中における病原体 ( P. jirovecii ) の局在については不明であり 具体的なリスク因子は未だ同定されていない 感染リスク HIV 感染者では PCP 発症リスクが高く CD4<200/μl の場合は ST 合剤の予防投与が推奨されている HIV 以外では 血液悪性疾患 骨髄移植 臓器移植 膠原病患者で PCP 発症リスクが高い ST 合剤による予防効果が示されている ニューモシスチス肺炎 55 歳女性膠原病原疾患に対してステロイド投与中発熱と呼吸困難が出現 胸部 X 線上すりガラス状の陰影がみられた 23
ニューモシスチス肺炎 Pneumocystis jirovecii ( 以前は carinii) の経気道的感染, および以前に感染して潜伏していた菌体の再活性化で発症 診断 : 胸部 CT 画像 β-d- グルカン喀痰および気管支肺胞洗浄液中の菌体の証明 治療 :ST 合剤 ペンタミジン グロコット染色 ( 肺胞洗浄液 ) 接合菌感染症 いわゆるケカビのひとつであり 土壌など自然環境中に広く分布する寄生性の真菌 ムーコル症ともいわれる 病系鼻脳型 ( 鼻 眼窩 副鼻腔 脳 ) 皮膚病変 肺病変播種型 急速に進行し予後不良 24
アウトブレイク事例接合菌による皮膚潰瘍 血液疾患患者における点滴固定用のテープが原因 タクトフェノールコットンブルーによる直接染色 国内 : 血液内科病棟でのアウトブレイク事例 5 か月間で 3 例の接合菌症がみられた 異なる時期に同じ病室に入院 空調周囲から接合菌の発育あり フィルター交換や排気口などの清掃を行い収束をみた 25
輸入真菌 ( 症 ) 我が国には本来棲息していないと考えられている真菌 各菌種で特徴的な地理的局在があり 流行地域の土壌 特定の動植物に存在している 環境から空気中に浮遊した菌体の吸入により経気道感染する 原則としてヒトーヒト感染はない 感染力はきわめて強く 培養された検体からの検査室内感染の事例が報告されている 真菌症主な流行地原因菌ヒトへの感染力 コクシジオイデス症 米国 ( アリゾナ カリフォルニア ニューメキシコ テキサス ) メキシコ ベネズエラ ブラジルなど中南米 Coccidioides immitis および C. posadasii 極めて強い ヒストプラズマ症 米国 ( セントローレンス ミシシッピー川流域 ) 中南米 東南アジア アフリカ Histoplasma capsulatum および H. duboidii 強い パラコクシジオイデス症 ブラジル ベネズエラ コロンビアなど中南米 Paracoccidioides brasiliensis 弱い? (*) マルネッフェイ型ペニシリウム症 東南アジア ( タイなど ) 中国南部 Penicillium marneffei 比較的弱い ブラストミセス症 米国 ( ウィスコンシン イリノイ ミシシッピー川流域 ) アフリカ Blastomyces dermatitidis 強い ガッティ型クリプトコックス症 オセアニア ( オーストラリア ニューギニア グアムなど ) 北米西海岸 ブラジル メキシコなど中南米 Cryptococcus gattii 強い (**) 26
米国における注射用ステロイドの汚染が原因の糸状菌髄膜炎アウトブレイク New England Compounding Center による保存剤無添加の酢酸メチルプレドニゾロンの硬膜外注射を受けた多数の患者で 糸状菌によるまれな髄膜炎が多発 10 月までに 10 の州で 137 例がみつかり 12 名が死亡した 汚染したステロイドは 23 の州の 75 のクリニックに送付されていた 50 代男性腰痛のため 4 週間前に硬膜外注射を受けていた 第 4 脳室の出血 くも膜下出血 27
血管造影では mycotic aneurysm を疑う所見 髄液から分離培養されたアスペルギルス 組織 ( 軟膜 ) 中に菌糸を伸ばすアスペルギルス Pettit et al NEJM 2012 28
Exserohilum による致死的脳髄膜炎 29
分生子は紡錘形, くちばし状, 平滑, 褐色 ~ 黒褐色, 偽隔壁, 両端の濃色バンドおよび基端の明らかなヘソが特徴的. Multistate Fungal Meningitis Outbreak Map of Healthcare Facilities that Received Three Recalled Lots* of Methylprednisolone Acetate from New England Compounding Center on September 26, 2012 30
Kainer MA. et al. NEJM 2012 31