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1. 背景 目次 2. 鋼製下地材の耐震に対する考え方 3. 耐震用天井下地の組み方 ( ブレースが引張材の場合 ) 4. 耐震用天井下地の組み方 ( ブレースが圧縮材の場合 ) 5. 耐震用天井下地の各部材の接合方法と使用部品一覧表 部品の写真 6. 全体及び取り合い部写真 7. 計算例 8. 耐

学校施設における天井等落下防止対策のための手引(1)|国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research


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『非構造部材の耐震設計基準の開発』


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3 天井の耐震性に関する問題点 2 に大きな力が加わると開きやすいという問題点がある いくつかのクリップがはずれると 残りのクリップの荷 3. 1 在来天井の構成 重が増えるため クリップが連鎖的にはずれて天井崩落 一般的に使用されている在来天井の構成を整理すると につながってしまう ②クリップやハ

耐震等級 ( 構造躯体の倒壊等防止 ) について 改正の方向性を検討する 現在の評価方法基準では 1 仕様規定 2 構造計算 3 耐震診断のいずれの基準にも適合することを要件としていること また現況や図書による仕様確認が難しいことから 評価が難しい場合が多い なお 評価方法基準には上記のほか 耐震等

学校施設における天井等落下防止対策のための手引(2)|国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research

PowerPoint プレゼンテーション

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大規模地震発生直後における 施設管理者等による建物の緊急点検に係る 指針 平成 27 年 2 月 内閣府 ( 防災担当 )

第 7 章鹿児島県と連携した耐震改修促進法による指導及び助言等 国の基本方針では 所管行政庁はすべての特定建築物の所有者に対して法に基づく指導 助言を実施するよう努めるとともに 指導に従わない者に対しては必要な指示を行い その指示に従わなかったときは 公表すべきであるとしている なお 指示 公表や建

内容 Ⅰ はじめに Ⅱ 特定天井基準の技術的背景 1) 水平震度設定の背景 : 共振 2) 耐えうる地震動レベル 3) 目標と手段 Ⅲ 設計上の要点 1) 斜め部材の配置 2) 2 次部材の設置 3) 外力算定 4) 部材構成 5) 線形応答の前提 6) 層間変形角 7) 軒天風圧 Ⅳ 関連動向 Ⅴ

はじめに 学校施設は未来を担う子供たちが集い いきいきと学び 生活する場であり また 非常災 害時には地域住民を受け入れ 避難生活のより所として重要な役割を果たすことから その安全性の確保は極めて重要です 平成 23 年 3 月に発生した東日本大震災は 広範囲に甚大な被害をもたらし 多くの学校施設に

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目 次 1 はじめに 1 2 本市の取り組みと学校施設の現状 1 3 耐震化の方針 2 4 今後の対策 3 参考資料学校施設の耐震診断結果 4

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これだけは知っておきたい地震保険



の長嶋修氏 東日本大震災からおよそ 1 年が経過して 震災を一つのリスクと捉えて 冷静に住宅を選ぶ人が増えているようだ また 同時に 購入者の意識の変化に伴い 耐震性や耐久性に対する 業界側の意識も大きく変わった 購入者への情報提供を丁寧に行うことにより 安心感を醸成するよう意識するようになった と

別添資料 地下階の耐震安全性確保の検討方法 大地震動に対する地下階の耐震安全性の検討手法は 以下のとおりとする BQ U > I BQ UN I : 重要度係数で構造体の耐震安全性の分類 Ⅰ 類の場合は.50 Ⅱ 類の場合は.25 Ⅲ 類の場合は.00 とする BQ U : 地下階の保有

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文部科学省公共事業コスト構造改善プログラム取組事例集(平成20~24年度)(その2)

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1 検査の背景及び実施状況 (1) 参議院からの検査要請の内容 参議院からの検査要請の内容は 公共建築物 ( 官庁施設 教育施設 医療施設等 ) における耐震化対策等に関する次の各事項である 耐震診断の状況 耐震改修の状況 東日本大震災に伴う被災等の状況 (2) 公共建築物における耐震化

病院等における耐震診断 耐震整備の補助事業 (1) 医療施設運営費等 ( 医療施設耐震化促進事業平成 30 年度予算 13,067 千円 ) 医療施設耐震化促進事業 ( 平成 18 年度 ~) 医療施設の耐震化を促進するため 救命救急センター 病院群輪番制病院 小児救急医療拠点病院等の救急医療等を担

JIS A9521 F JIS A9521 F 計資料 JIS A 6930 A JIS A9521 F JIS A 6930 A JIS A9521 F JIS A 6930 A JIS A9521 F JIS A 6930 A JIS A9521 F JIS A 6930 A JIS A9521

した 気象庁は その報告を受け 今後は余震確率の公表方法を改めることとしたという 2. 被害状況 被害要因等の分析 (1) 調査方針本委員会は 以下の調査方針で 被害調査と要因分析を行っている 1 極めて大きな地震動が作用し 多数かつ甚大な建築物被害が生じた益城町及びその周辺地域に着目して検討を進め

目次構成

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官庁施設の総合耐震 対津波計画基準 第 1 編総 則 第 1 章目的及び適用範囲 目的この基準は 国家機関の建築物及びその附帯施設の位置 規模及び構造に関する基準 ( 平成 6 年 12 月 15 日建設省告示第 2379 号 )( 以下 位置 規模 構造の基準 という ) 及び 国家機

富士市が所有する市営住宅の耐震性能に係るリスト 目 次 頁 1. 公表の趣旨 1 2. 要旨 1 3. 各別の耐震性能と富士市の耐震性能判定基準 2 4. 用語の説明 3 5. 市営住宅の耐震性能に係るリスト 4 ~ 8 6. 一般公共建築物の耐震性能に係るリスト 別掲載

資料2 災害拠点病院の震災対策の現状と課題(5/7)

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『既存特定天井の脱落対策としての改修・手法と新たな技術基準等について』

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2-3. 設計段階の検討事項設計では本建物の条件として, 特に以下に着目した 1 兵庫県南部地震により杭への被災が想定される 2 建物外周地下に液状化対策として地盤改良が行われている 以上の条件で, 免震改修工法の検討を行うにあたり, 比較検証を基本設計で行った. 比較案は, 基礎下免震型 2 案,

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平成28年熊本地震八次調査報告(HPアップ版v3)反映

ダクトの吊り金物 形鋼振れ止め支持要領 (a) 横走りダクト (1) 吊り金物 (2) 形鋼振れ止め支持インサート金物インサート金物 ダクト 吊り用ボルト (M10) h ダクト L a 材 形鋼 (b) 立てダクト ( 形鋼振れ止め支持 ) 注 (2) のa 材及びインサート金物は 形鋼振れ止め支

わが国は世界有数の地震大国です 日本周辺では世界の 10 分の 1 の地震が起こると言われています 東日本大震災では 被害は甚大なものとなってしまいました 阪神 淡路大震災では犠牲者の大半が 建物の倒壊 や 火災 により亡くなっています 今までの悲劇を繰り返さないためにも 建築物の耐震化は喫緊の課題

北栄町耐震改修促進計画の目的等 目的 本計画は 町民生活に重大な影響を及ぼす恐れのある地震被害から 町民の生命 財産を保護するとともに 地震による被害を軽減し 社会秩序の維持と公共の福祉に資するため 建築物の計画的な耐震化を促進することを目的とします 計画の実施期間 本計画の実施期間は 国及び県の実

階の施工方法 1 は, スパン表に従って 支点間距離が許容範囲内となるように施工します 2 根太受け金物は 原則的に床梁用を使用します ( 図 10) 釘打ちには 必ず 金物専用の ZN 釘を使用し 横架材へ ZN65 10 本 Ⅰ 形梁へ ZN40 4 本とします 3 火打梁を省略す

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家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック

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ポリカーボネート板に関する建築物の屋根への適用状況

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定期報告 耐震診断基本データ 2006 年 4 月 1 日 ~2018 年 12 月 31 日 12 年 9 ヶ月 この耐震診断基本データは前回発表時から追加された診断結果を加算し毎回発表しています 対象の住宅について 1950 年 ( 昭和 25 年 )~2000 年 ( 平成 12 年 )5 月

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事務連絡 平成 27 年 3 月 31 日 各都道府県消防防災主管課 東京消防庁 各指定都市消防本部 御中 消防庁予防課 認知症高齢者グループホーム等の火災対策の充実のための介護保険部 局 消防部局及び建築部局による情報共有 連携体制の構築に関するガイドラインに係る執務資料の送付 認知症高齢者グルー

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栗橋西小学校管理昭和 61 年 8 月 RC 3 3,335 新耐震性あり 栗橋南小学校 ( 北校舎 ) 管理 ( 南校舎 ) ( 南校舎 ) 平成 25 年 7 月 RC 2 2,132 新 改築済 ( 耐震性あり ) 平成 9 年 3 月 RC 2 1,437 新 耐震性あり 平成 9 年 3

Ⅱ 取組み強化のためのアンケート調査等の実施 (1) 建設技能労働者の賃金水準の実態調査国土交通省から依頼を受けて都道府県建設業協会 ( 被災 3 県及びその周辺の7 県を除く ) に対し調査を四半期ごとに実施 (2) 適切な賃金水準の確保等の取組み状況のアンケート調査国は 平成 25 年度公共工事


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資料 5-1 防耐火に係る基準 資料の素案 第 1 章総則 ( 設計基準 ) 1.2 用語の定義 主要構造部 : 建築基準法第 2 条第 5 号による 耐火構造 : 建築基準法第 2 条第 7 号による 準耐火構造 : 建築基準法第 2 条第 7 の 2 号による 防火構造 不燃材料 : 建築基準法

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< 被害認定フロー ( 地震による被害木造 プレハブ > 第 次調査 ( 外観による判定 一見して住家全部が倒壊 一見して住家の一部の階が全部倒壊 地盤の液状化等により基礎のいずれかの辺が全部破壊 いずれかに いずれにも ( 傾斜による判定 全壊 外壁又は柱の傾斜が/ 以上 ( % 以上 ( 部位

学校施設における天井等落下防止対策のための手引|国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research

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2/9 学校 ( 幼稚園 ) 名久保小学校長江小学校土堂小学校 棟用途 棟面積第一次診断第二次診断改修改修後建築年月構造階数区分番号枝番 ( m2 ) 年度 Is 値年度 Is 値年度 普通 特別 管理教室棟 1 1 S8.1 R 3 2,950 旧基準 H H 屋内運動

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国土技術政策総合研究所資料

1. 実現を目指すサービスのイメージ 高齢者や障害者 ベビーカー利用者など 誰もがストレス無く自由に活動できるユニバーサル社会の構築のため あらゆる人々が自由にかつ自立的に移動できる環境の整備が必要 ICT を活用した歩行者移動支援サービスでは 個人の身体状況やニーズに応じて移動を支援する様々な情報

を 0.1% から 0.5% 1.0% 1.5% 2.0% まで増大する正負交番繰り返し それぞれ 3 回の加力サイクルとした 加力図および加力サイクルは図に示すとおりである その荷重 - 変位曲線結果を図 4a から 4c に示す R6-1,2,3 は歪度が 1.0% までは安定した履歴を示した

第2章 事務処理に関する審査指針

<ハード対策の実態 > また ハード対策についてみると 防災設備として必要性が高いとされている非常用電源 電話不通時の代替通信機能 燃料備蓄が整備されている 道の駅 は 宮城など3 県内 57 駅のうち それぞれ45.6%(26 駅 ) 22.8%(13 駅 ) 17.5%(10 駅 ) といずれも

鋼構造建築物の耐震診断と熊本地震

第 1 章要緊急安全確認大規模建築物の耐震診断結果の報告 1 要緊急安全確認大規模建築物について平成 25 年 11 月 25 日の耐震改修促進法の改正により 不特定多数の者が利用する建築物及び避難弱者が利用する建築物のうち大規模なもの等が要緊急安全確認大規模建築物として規定され 平成 27 年 1

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Transcription:

新技術調査レポート ( ) 建築 ト 新技術調査 東日本大震災では 構造躯体にほとんど被害がない場合でも天井や間仕切壁などの非構造部材に損傷の発生した建物が多かった 中でも天井の被害は多数発生し 建物の継続使用に支障が生じたり 大規模な崩落により人的な被害が発生した例もあった ここでは 天井の被害状況や被害要因を概説するとともに 天井の耐震化に向けた国や学協会の動向 民間会社の取り組み等について調査報告する まず 次項以降の理解のため 多くの用途の建物に一般的に使用されている在来天井の構成を説明する 図 1に示すように 上階床スラブ等から吊り下げられた吊りボルト下部に ハンガーと呼ばれる金物を介して野縁受けが取り付けられ その直交方向にクリップと呼ばれる金物を介して野縁が止め付けられ 野縁に天井ボードがビス止めされる 天井の水平変位を抑制するためには耐震 図 1 在来天井の構成 ブレースが設置される 耐震ブレース上端は吊りボルトに金具で取り付けられ 下端は野縁受けなどにビス止めされるか 吊りボルトに金具で固定される 全体的に 簡易な方法で比較的短時間に施工できるように考えられた構成となっている 日本建築学会は 東日本大震災で発生した天井被害の傾向を分析するため 民間企業 7 社 ( ゼネコン5 社 設計事務所 2 社 ) に対してアンケート調査を実施し 各社の保有する被害事例 127 件を分析している 1) 被災場所を用途別に見ると 事務室 会議室 教室が最も多く約 3 割を占め 次いで工場 ホール 展示場 食堂 店舗の順になっている この調査によると 震度 5 弱以上になると天井落下が発生し始めている また 建物別に見ると 鉄骨造の建物が被害の8 割程度を占め 新耐震以後の建物にも多くの被害が発生していることがわかる 被害の顕著な部位としては 天井仕上げのみの被害を除くと 野縁と野縁受けを繋ぐクリップの被害が最も多い 天井落下の発生位置としては 天井の端部が最も多く 次いで天井面の中央 設備機器との取り合い部となっている また 耐震ブレースが何らかの形で設置されている建物が6 割を占め 耐震ブレースも取り付け方や取り付け密度などにより 有効に働いていない場合も多いことがわかる 国土技術政策総合研究所および建築研究所は 東日本大震災における宮城県 福島県 茨城県の学校体育館の天井の被害を調査 分析している 2) 調査した天井には木下地天井 在来天井 システ 42 建築コスト研究 No.80 2013.1

ム天井が含まれている このうち最も数の多い在来天井について 旧耐震基準と現行耐震基準に分けて被害を整理すると表 1のようになる いずれにおいても構造骨組の被災度と天井被害の間に明確な相関は見られず 構造骨組に被害がなくても天井に被害が生じていることがわかる 1) 表 1 屋内運動場における在来天井の被害 (a) 旧耐震基準 構造骨組の被災度区分 (b) 現行耐震基準 構造骨組の被災度区分 天井板 下地落下 天井被害程度 天井端部等損傷 その他被害 被害なし Ⅱs 1 Ⅰs 1 2 1 2 0s 3 2 1 天井板 下地落下 天井被害程度 天井端部等損傷 その他被害 被害なし Ⅱs 1 Ⅰs 0s 2 1 3 前述のように 被害の顕著な部位として野縁と野縁受けを繋ぐクリップが挙げられる クリップの爪は 施工性を重視して手で折り曲げられるようになっており 地震時に大きな力が加わると爪が開きやすいという問題点がある ( 図 2 参照 ) いくつかのクリップが外れると 残りのクリップにかかる荷重が増えるため クリップが連鎖的に外れて天井の崩落に繋がってしまうおそれがある また 鈴木ほか 3) は従来の一般的な在来天井を対象にした振動実験を行い 耐震ブレースを設置した場合でも クリップやハンガーなどの部材接合部が滑ることによりブレースに水平力が十分に伝わらず 天井面の変位を抑制できない場合があることを確認している また ブレース上部の金物は 施工性を重視して下から吊りボルトに引っかけて簡便に取り付けられる機構になってい 写真 1に典型的な被害の例を示す 左は耐震ブレースのない天井で 地震時には大きく天井面が揺れたことが想定され その影響でクリップが外れて野縁と天井ボードが一体で落下したと考えられる 右は天井端部の損傷であり 天井が壁に衝突したために野縁が座屈している 図 2 クリップの変形 外れ クリップの外れによる天井落下 天井端部の損傷 ( 野縁の座屈 ) 写真 1 東日本大震災における天井の被害 建築コスト研究 No.80 2013.1 43

るものが多く 地震時には比較的簡単に外れてしまうことも指摘されている ( 図 3 参照 ) 現状では 天井の耐震性に関する法的な基準はなく 天井下地メーカーや施工業者は 各種団体が発行しているガイドライ 4) ンや指針等 5) を参考に仕様を決めている 国土交通省は 過去の天井の地震被害を受けて技術的助言 6)~8) を公表しているが 耐震設計上の具体的な方策を示したものではなかった 東日本大震災による多数の天井被害を受けて 国土交通省は 2012 年 7 月に 建築物における天井脱落対策試案 9) を公表し 意見募集を行った 試案では 図 4(a) に示すように 6m 以上の高さにある200m2以上の吊り天井を対象として耐震性の検証が義務付けられている 既存建物についても 増築や改築を行う場合には 原則として基準への適合が義務付けられる また 庁舎や避難所に指定されている体育館等の防災拠点施設や劇場 映画館等には早急に改善するように行政指導が行われる 耐震性能の検証ルートと 図 3 振動実験から明らかにされた天井の耐震性に関する問題点 図 4 国土交通省 建築物における天井脱落対策試案 について 9) 44 建築コスト研究 No.80 2013.1

しては 図 4(b) に示すように仕様ルート 計算ルート 特殊検証ルートの3つが考えられており これらの具体的な検証方法等についてはガイドラインが発行される予定になっている 現時点で具体的なスケジュールは未定であるが 法制化に向けた検討が進められている また 文部科学省は 2012 年 9 月に 学校施設における天井等落下防止対策の推進に向けて ( 中間まとめ ) 10) を発表している この中で 屋内運動場などの天井落下防止のため 総点検とその結果に基づいた対策を緊急に実施すべきとしている 落下防止対策としては 以前に文部科学省から出されている耐震化ハンドブックに加え 国土交通省が示した天井脱落対策試案も参考に 1 天井撤去 2 天井の補強による耐震化 3 天井の撤去および再設置 4 落下防止ネット等の設置のいずれかの対策を実施することを求めている また 余震に備えた緊急点検のための体制整備や 地震災害に対する防災教育の推進も緊急に実施すべきとしている 日本建築学会でも 2012 年度末を目途に 天井落下防止と解消に関するガイドライン ( 仮称 ) 11) がまとめられる予定である 基本概念としては まず 天井材などの高所設置の仕上げ材には地震時 非地震時にかかわらず 人命保護 を徹底し その上で必要に応じて 機能維持 を実現するとしている また 落下事故防止の重要なキーワードとして 安全性評価法 フェールセーフ 準構造 が挙げられている 安全性評価法 では 天井材の落下による人命への危険性の程度を適切に評価すること フェールセーフ では 万一天井が落下しても人的被害が生じないような措置を講ずること 準構造 では 劇場やホール等の重量天井については天井も構造として設計 施工することが必要とされている 国や学協会の動きに先駆けて 民間会社各社から天井の耐震化に関する取り組みが発表されている 清水建設 12) による天井の耐震化方法の例を図 5に示す この方法では 耐震ブレースを有効に働かせるため 耐震ブレース交点まわりの9ヵ所に滑りにくい耐震クリップや耐震ハンガーを採用し 耐震ブレース上部の金物にも滑りにくく外れにくい閉鎖型の金物を用いている また 天井落下防止対策として 天井外周部にも耐震クリップを採用している 一般に 従来よりも耐震性の高い天井を構築するためにはコストアップが避けて通れない問題であるが この方法では 天井を部分的に補強することによりコストアップを最小限に抑え 天井下地メーカーの耐震天井カタログ商品に比べて3 割程度ローコストな構法を実現している 鹿島建設 13) は 損傷が発生しやすい天井面の段差部に着目し 斜め補強材を配置した上で接合金物の補強も行う方法を提案している 日建設計と桐井製作所 14) は 天井の耐震性を高める方法として 耐震ブレースの強度のみを高めると吊りボルトが圧縮力で座屈するおそれがあるため 吊 12) 図 5 天井の耐震化方法の例 建築コスト研究 No.80 2013.1 45

りボルトの圧縮補強材とX 型のブレースを組み合わせたシステムを提案している 西松建設と戸田建設 15) は 強度が高く外れにくい耐震クリップを開発し 天井の落下防止を図っている 以上のように 各社の対策工法はさまざまだが いずれも前述の問題点を解決すべく クリップなどの接合金物の補強や耐震ブレース周りの補強に着目しているところは共通している ( 参考文献 ) 1) 小澤雄樹 : 地震時 非地震時の被害と天井被害アンケート結果の概要 頻発する天井の落下防止と解消に向けて 2012 年度日本建築学会大会社会ニーズ対応部門研究協議会資料 pp.11-16 2012 年 9 月. 2) 国土交通省国土技術政策総合研究所 独立行政法人建築研究所 : 平成 23 年 (2011 年 ) 東北地方太平洋沖地震被害調査報告 国総研資料第 674 号 2012 年 3 月. 3) 鈴木健司ほか : 鋼製下地在来工法天井の耐震性能に関す る実験的研究 清水建設研究報告 第 89 号 pp.23-28 2012 年 1 月. 4) 日本建築センター : 体育館等の天井の耐震設計ガイドラ 東日本大震災以降 国や学協会および民間会社では 天井の耐震化に向けた取り組みが精力的に行われてきた しかし 従来の天井下地構成をベースに金具等の補強を行うと コストアップになることは避けられない コストを抑え より簡便で合理的に天井面の水平力を構造体に伝達できる下地構成の見直しが必要である また 天井落下による人的被害を防ぐためには 天井材を軽く柔かくして落下時の危険性を減らすことも考えられる このような材料 ( 例えば膜素材や軽量発泡材など ) は 現状では高価で流通量も少ない 石膏ボードの代替として用いることのできる安価な軽量天井材の開発 普及も喫緊の課題である また 新築建物だけでなく 既存建物の天井の耐震化をどのように推進していくかも今後の大きな課題である 東日本大震災を始め 大きな地震を経験した天井では 一見して被害が見受けられなくても 天井下地に何らかの損傷が発生して耐震性が低下しているものがあることが懸念される このため 天井の簡便で効率的な耐震診断手法や 使いながら施工できる簡易な耐震補強方法などの早急な開発が望まれる イン 2005 年. 5) 日本建築学会 : 非構造部材の耐震設計施工指針 同解説および耐震設計施工要領 2003 年. 6) 国土交通省住宅局建築指導課 : 芸予地震被害調査報告の送付について ( 技術的助言 ) 国住指第 357 号 2001 年 6 月 1 日. 7) 国土交通省住宅局建築指導課 : 大規模空間を持つ建築物の天井崩落対策について ( 技術的助言 ) 国住指第 2402 号 2003 年 10 月 15 日. 8) 国土交通省住宅局建築指導課 (2005) 地震時における天井の崩落対策の徹底について ( 技術的助言 ) 国住指第 1427 号 2005 年 8 月 26 日. 9) 国土交通省 : 建築物における天井脱落対策試案 2012 年 7 月. 10) 文部科学省 : 学校施設における天井等落下防止対策の推進に向けて ( 中間まとめ ) 2012 年 9 月. 11) 川口健一 : 頻発する天井の落下事故防止に向けて 2012 年度日本建築学会大会社会ニーズ対応部門研究協議会資料 pp.1-9 2012 年 9 月. 12) 金子美香 : 在来天井の被害を解決する新耐震天井 建築技術 No.749 pp.160-161 2012 年 6 月. 13) 日経産業新聞 : 天井落下防ぐ新技術 鹿島 つり下げの補強材 2012 年 6 月 15 日. 14) 建設通信新聞 : 日建設計 桐井製作所 / 天井を高耐震化 / 吊ボルト座屈防止 X 型ブレース配置 2012 年 7 月 30 日. 15) 建設通信新聞 : 大地震でも天井材落下をクリップだけで 防ぐ / 西松建設 戸田建設ら 2011 年 12 月 13 日. 46 建築コスト研究 No.80 2013.1