群馬の豊かな自然から考える児童期の自然体験について 狩野里空 1 はじめに群馬県内に存在する小さな町 赤城町は 私が児童期を長く過ごした自然豊かな町だ 季節や天気によって様々な色を見せる山の木々や星空 四季を感じさせる花々 田畑の野菜 虫の鳴き声などが常に身近に存在している 草木 川 土 様々な自然と遊ぶことは 友人との協力や工夫 新しい発見をする絶好の機会であった 勉強やお稽古事から離れ 自由な発想で自然と遊び触れることは 子ども心に癒しとなっていた 上飯坂實 (1998) によると 幼児期や小学生の時期に自然や森林に接することが将来の人間形成に極めて良好な影響を与えるとある 自然体験が子どもの心に影響するならば これほど日常的に自然を感じて育つということは 魅力的なことだと考えられる そこで私は 子どもにとっての自然体験の重要性 また自然の存在しない地域がなすべきことを 自らが体験してきた自然の魅力を例に述べていく 2 自然体験文部科学省では 自然体験活動を 自然の中で 自然を活用して行われる活動であり 具体的には キャンプ ハイキング スキー カヌーといった野外活動 動植物や星の観察といった 自然 環境学習活動 自然物を使った工作や自然の中での音楽会といった文化 芸術活動などを含んだ総合的な活動である と定義している 自然体験は子どもの将来に大きく影響するとして 総合的な学習の時間 で積極的に取り入れる項目に 自然体験 が含まれている ( 文部科学省 2008) 長期宿泊体験は 日頃の生活指導 生徒指導が目指す社会性の育成や適切な人間関係の構築方法の習得を一遍に行える良い機会であると考えられている ( 文部科学省 2006) 群馬県内には 青少年のために設置された研修施設が多数存在する そこでは団体としての行動 協力する姿勢を身につけるだけではなく 山の天気や気温 虫や鳥の存在を自らの肌で感じとり 豊かな自然に触られる 山での散策は怪我のないよう注意 協力をして行動する必要があるため 協調性が高まると同時に 動植物の美しさ また危険性についても知識を得ることもできる 朝靄と澄んだ空気を感じることのできる山の朝は 大変気持ちのよいものである 自然教室 林間学校 と呼ばれる長期宿泊体験をこういった自然の中で行うことにより 子どもに良い影響を促すことが文部科学省の方針である 3 自然体験の現状と影響しかし 一度の長期宿泊体験のみでは自然体験が積極的に行われているとは言い難い 宿泊体験中に体験できる自然は限られており 多くを行うということはできない 指導者の能力によっても 子ども達が今ひとつ納得できない形で終わってしまう可能性もある 私は もっと定期的な自然体験が必要だと考える 図 1 は 青少年の自然体験への取り組み状況に関するアンケートにおいて それぞれの自然体験について ほとんどしたことがない と答えた割合である - 1 -
平成 10 年度と比較すると 平成 21 年度の割合は増加している このデータから 現在の日本では子ども達の自然体験が充分でないことが分かる 日常的に過ごす場所に自然が存在しない地域では 体験が難しい しかし キャンプや登山などを家庭に促すことにも限界がある 自然体験が少ない子どもには 道徳観 正義感 やる気 に影響が現れる 図 2 は 自然体験の多さによる道徳観 正義感の有無を示したものである ( 図 2) 出典 : 文部科学省ホームページ 自然体験が ある と答えた子どもの道徳観 正義感は ない と答えた子どもよりも多いことが見てとれる 自然と触れあうことで知る 美しさや感動が 豊かな心や命の大切さを育む 友人との協力が 集団におけるルールを守ること すなわち社会での態度 善悪を学ばせると考えられる 次の図 3 は 自然に触れる体験をしたあと 勉強に対してやる気が出る子どもについての図である - 2 -
( 図 3) 出典 : 文部科学省ホームページ 小中高すべてにおいて やる気になる が最も多い結果となっている 自然体験が子ども達の やる気 を引き出すきっかけとなっていることは事実であると証明できる これら三つの図から見えてくるのは 自然体験の多さは子どもの心に大きく影響するということだ 4 充実した自然体験とは先に述べた通り 日常的に自然が存在しないというのは 自然体験から遠ざかる原因である そこで 自然のない地域においても日常的な存在にするために必要な点を二つ述べる 一つは 子どもが自然に触れ ゆっくりと観察する機会を設けることだ 例えば 美術や理科の授業時間に行う植物のスケッチはよいチャンスとなる 植物に直接触れること スケッチとなれば細部まで様々な角度から眺めることができる これは 十分な自然体験と言える 私の中学校は すぐそばに 敷島のキンメイチク という国の天然記念物が存在する 緑色と黄金色の部分が 節ごとに交互に現われる珍しく美しい竹だ この竹は 小学生の頃から国にとって重要な天然記念物として教えられ 美術の授業時間には写生の対象としてじっくり観察する機会もあった 身近に天然記念物があるというのは自分の地域に誇りを感じ その美しさによって美術的感性に影響を与えるきっかけともなった また 天然記念物ということを知り 貴重な存在であるこの竹を大切にしたいとも考えた この 敷島のキンメイチク は特に厳重な柵などで管理をされているわけでもなく 簡単に区切られているだけである しかし いたずら好きの小学生も 写生のために絵の具を持った中学生も 竹に触れようともしないのだ この竹がいかに貴重なものかは 幼い頃から皆知っているからである 天然記念物の見学などは 自然の美しさを知るよい機会となる また 小学校では ふれあいタイム という時間が存在した この時間は 学校内に点在する花壇に花の苗を植えることや 枯れてしまった花の除去などを目的としている 植えた苗や球根が季節をまたいで咲いたときには 自分達が大切に育てた花が咲いた喜び - 3 -
と 美しさに胸を躍らせ登校した 枯れてしまった花の除去は 悲しい気持ちと新しい花を植えるための意気込みをもって臨んだ 私はこの ふれあいタイム のおかげで 花の育て方 草木や道具を大切に扱うこと 協力して作業をすること 様々なことを学んだ 作業中に蜂に刺されてしまったときには その危険性と治療法を知った 花は何故咲くのか 種はどうなっているのか 土の中から出てくる虫は何か などのたくさんの興味もわいた 興味 は おもしろい という情動に加えて 知的な追求があらわれ 行動にゆとりが出てくると考えられる ( 山内昭道 1994) 自然を探求することで 知識欲もわいてくるのだ このように 時間をかけて自然と向き合うことは 自然の大切さを学ぶきっかけともなる 環境破壊 地球温暖化といったワードが飛び交う現代で 環境教育は必要なものだ 栓をひねれば水が出る スイッチを押せば火がつき 乗り物によってどこへでも行くことができる時代は とても便利だ しかし 私達は自然に生かされていることを忘れてはならない 水や他の生き物のおかげで この地球が成り立っていることを 子ども達は自らの体験で知る必要がある 子どもは草木 生き物に対して興味を持っているが 触れる機会がなければそのままになってしまう 機会がないのならば 設けなければならない 学校は時間を生かして 定期的な自然体験を盛り込む必要があると私は考える もう一つ述べたいのは 子どもにとっての癒しとして自然体験があるべきということだ 2005 年の習い事をしている子どもの割合を見ると 小学校 1 年生に属する 6 歳児は 80% 前後が習い事をしている ( 長尾 伊藤 2007) もし学校生活も充分に楽しめていない子どもがいたとすれば その子どもには苦痛な毎日となる 戦後から子どもの生活様式は変化し 習い事の多様化 ブームとなった 勉強やお稽古事のようにパターンを学ぶ中 疲労を感じることがまったくないとは言えない 遊びの中で自らが工夫して学ぶのが子どもである 草相撲や泥団子づくり 石や葉 子どもにとってはなんでも遊び道具となり得る 与えられた完成したおもちゃではできることは限定されている 規定外の使い方をすることには危険も生じる しかし 自然は無限大の可能性があり 子どもの能力を引き出す 自由な発想を封じ込めないためにも 自然の中で自由な発想を展開して欲しい 5 まとめゲーム インターネット マスメディアの充実した現在 子ども達の遊びは確実に変わった 子どもが自然と触れあうためには まず機会を設ける必要がある 自然との触れあいをしなくなったのは 子どものせいではない 環境がそうさせているのだ 子どもは自然に対して無垢だ 土の中からやってくるアリをじっと眺めるというのは ほとんどの人間が経験したと私は考えている それは 誰かに教えられたから見ていたのではない 純粋な疑問や興味を持ったからである その自然への興味や発想を無駄にしてはいけない 自然教育という形で ぜひ自然と触れあって欲しい 群馬県は自然が豊かで 自然体験ができるという点で大変魅力的である 自然が身近でないという地域も ここまで述べたような点を参考に他の地域でも自然体験の充実がはかられることを望む - 4 -
< 参考文献 > 上飯坂實 1998 これからの森林 林業教育のあり方と森林総合学 http://ci.nii.ac.jp/els/110009589928.pdf?id=art0010045097&type=pdf&lang=jp&ho st=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1382546621&cp=(2013 年 10 月 24 日アクセス ) 長尾和英 伊藤貞治 2007 子どもの育ちと教育環境 p23 文部科学省 2008 小学校学習指導要綱 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/ icsfiles/afieldfi le/2010/11/29/syo.pdf (2013 年 10 月 24 日アクセス ) 文部科学省 2006 体験活動事例集 - 体験のススメ-[ 平成 17 18 年度豊かな体験活動推進事業より ]1.1. 体験活動の教育的意義 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/04121502/055/003.htm(2013 年 10 月 24 日アクセス ) 山内昭道 1994 幼児からの環境教育 - 豊かな感性と知性を育てる自然教育 - p45-5 -