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A 農場の自家育成牛と導入牛の HI 抗体価の と抗体陽性率について 11 年の血清で比較すると 自家育成牛は 13 倍と 25% で 導入牛は 453 倍と % であった ( 図 4) A 農場の個体別に症状と保有している HI 抗体価の と抗体陽性率を 11 年の血清で比較した および流産 加療

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通常 繁殖成績はなかなか乳量という生産性と結びつけて考えることが困難なのですが この平均搾乳日数という概念は このように素直に生産性 ( 儲け ) と結びつけて考えることができます 牛群検定だけでなく色々な場面で非常に良く使われている数値になりますので覚えておくと便利です 注 1: 平均搾乳日数平均

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5. 死亡 (1) 死因順位の推移 ( 人口 10 万対 ) 順位年次 佐世保市長崎県全国 死因率死因率死因率 24 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 位 26 悪性新生物 350

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

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し重症化すると黄色い塊 ( 黄色腫 ) が体のあちこちにできたり 血管が詰まって脳梗塞や心筋 梗塞を引き起こしたりする恐ろしい病気です それでは脂質異常症とはいったい何でしょう か? (1) 脂質異常症の原因 ( 食生活の乱れ 運動不足 ) 脂質異常症は 血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールが異常に

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2015 年度 SFC 研究所プロジェクト補助 和食に特徴的な植物性 動物性蛋白質の健康予防効果 研究成果報告書 平成 28 年 2 月 29 日 研究代表者 : 渡辺光博 ( 政策 メディア研究科教授 ) 1

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果


Transcription:

1 牛の代謝病 (metabolic disease) 野生の牛が自ら餌を探し求めていた頃に比べて 家畜化された牛は生産性を期待して改良が重ねられ多量の飼料が与えられ 栄養が過剰になったり 偏ってしまうことで いわゆる生産病 (Production Diseases) に陥ることがある 代謝調節の乱れによる代表的疾病について概説する 動物の家畜化抗病性の低下生体調節能力の低下生産病の発生生産性を上げるための育種改良飼育形態の変化 ( 多頭羽飼育など ) 不適切な飼養管理 ( 濃厚飼料多給など ) 不適切な飼養環境 ( 暑熱 騒音など ) 病原微生物数千年第 3 胃は第 2 胃の奥にある胃全体の容積は 90-200l で腹腔容積の 75% を占める その中で 第 1 胃が 80% 第 2 胃が 5 % 第 3 胃と第 4 胃が 7-8 % を占める これらが正常に機能することが最重要 第 1 胃 ( ルーメン ): 大小の柔毛が密生し 微生物が発酵して産生した栄養素をできる限り効率よく吸収するため表面積を大きくしている 第 2 胃 ( 蜂巣胃 ): 第 1 胃の作用を助け 内容物は第 1 胃と行ったり来たりしている 第 3 胃 ( 葉状胃 ): ヒダが密生し 内容物をすりつぶすような構造をしている 第 4 胃 ( 腺胃 ): 胃液を分泌し酸性 (ph2) なので 微生物は死滅して消化される

反芻獣の胃 ( 発酵工場 ) の機能管理 唾液通常 1 日に 100~190l 分泌される 第 1 胃内の酸を中和し 胃内の酸性化を防いでいる 咀嚼する飼料にぬめりを与え 食道の損傷を防いでいる 唾液中には尿素が存在し 窒素化合物を再利用している 第 1 2 胃 ( 反芻胃 ; ルーメン ) 第 1 胃は約 100l と大きく 多数の微生物 ( 細菌 原虫 ) が共生して 繊維などの消化 吸収できない飼料をペプチド アミノ酸 アンモニアなどに一旦分解し微生物を増殖させており 大きな発酵工場といわれている 微生物が産生する揮発生脂肪酸 ( VFA ; 酢酸 酪酸 プロピオン酸 ) は乳牛の主要なエネルギー源となっている 第 1 胃と 2 胃の内容物は 常に行ったり来たりしており 消化過程でも 両者のはたらきは殆ど同じである 反芻通常 1 回の反芻時間は 40~ 50 分で それが 1 日 8~ 9 回繰り返され 合計 8 時間程度になる 飼料中の中性デタージェント繊維 (NDF) 含量と関係が深く NDF 合量が高くなる程反芻時間や繰り返し回数は多くなる これらを確認することで 粗飼料と濃厚飼料のバランスがどうなっているかの判断材料となる ルーメンマット飼料の繊維が束になって細かい飼料片をからませて長時間胃中に滞留させ 微生物の分解を受け易くしている 濃厚飼料の前に粗飼料を与える必要性の根拠 ルーメン微生物真菌 ( カビ ) はルーメン微生物に悪影響 ( カビた飼料は与えない ) 水不足はルーメン微生物に悪影響 ( 給水能力は最大需要時に合わせる ) 一度崩壊したルーメン微生物叢はなかなか回復できない 飼料の変更にルーメン微生物叢が完全に対応できるのは 飼料内容が安定してから 3~4 週間 ( 飼料の急変は厳禁 ) 第 3 胃第 4 胃の胃液作用を受ける前に 水分 塩類 VFA などの発酵産物や塩類を吸収する 粗い飼料片を選別して第 2 胃へ戻すなど 第 2 胃からの内容物の流入を調節している 採食したものが排糞されるまで平均 70 ~90 時間 全て排出するまで 7~10 日 第 4 胃第 4 胃 ( 後胃 ) は前胃 ( 第 1~3 胃 ) と連続する連絡口 人間の胃では噴門に相当する部位に粘膜がヒダ状に突出した分界弁があり 逆流を防いでいる 人間の胃と同じように 胃液 ( 塩酸やペプシン ) を分泌し タンパク質の消化を行っている こうしたことから 胃壁を保護する粘液分泌が阻害されると胃潰瘍も生じる 第 4 胃潰瘍四胃変位の手術後に死亡した症例 2

問題となっている主な生産病 (1) 乳牛代謝障害 : ルーメンアシドーシス 脂肪肝やケトーシス等の肝機能障害 第四胃変位 低カルシウム血症繁殖障害 : 卵胞発育障害 卵巣嚢腫 鈍性発情 排卵障害 子宮内膜炎 胚の早期死滅 着床障害運動器障害 : 蹄葉炎等蹄病全般泌乳障害 : 臨床性乳房炎 潜在性乳房炎 慢性乳房炎 (2) 肉牛代謝障害 : ルーメンアシドーシス 肝機能障害 ビタミン欠乏症その他 : 畜舎環境由来の慢性呼吸器病 消化器病 (3) 豚 鶏畜舎環境由来の慢性呼吸器病 暑熱や寒冷環境による栄養障害 呼吸器感染等 ルーメンアシドーシス (ruminal acidosis) 正常な第一胃では 微生物の働きにより繊維 澱粉 糖分などから揮発性脂肪酸 (VFA; 主に 酢酸 プロピオン酸 酪酸 ) や乳酸などの有機酸などが産生されている この発酵酸の生成量は 牛のもつ緩衝能力 ( 唾液は ph 約 8.0) とルーメンからの吸収能力によって均衡を保っている ( 通常は ph7.0~6.0) 第一胃内において乳酸あるいは VFA の異常な蓄積のために ph5.5 以下に低下した状態 炭水化物に富む穀物 濃厚飼料 果実類などの易発酵性の穀物飼料の急激な大量給与や急激な増飼による横取り 盗食が原因となる 均衡が保たれた状態 ルーメンアシドーシスの状態 ph の変化の影響を受けて活動する微生物の種類が変化し 発生する有機酸の種類も変化する 繊維は発酵が遅く 酢酸を中心とした VFA が発生する 一方 発酵の早い糖やデンプンはプロピオン酸や乳酸といった酸性化の影響力の高い有機酸を発生させる ph が 5.2 を下回ると 正常なルーメン微生物叢と異なって 乳酸を発生させる微生物が主体になる VFA を発生する微生物が減少するこの状況になると ph はますます低下し アシドーシスが悪循環に陥る 3

家畜改良事業団家畜改良事業団の牛群検定成績によれば 経産牛 1 頭当たり乳量は 1985 年の 6,983kg から 2005 年には 9,179kg へと増加しているが 濃厚飼料 1lg 当りの乳量 ( 資料効率 ) や約 2.8 で変わっていない すなわち 乳量増は濃厚飼料をより多く食べさせていることによるものである 疫学的特徴 1 高炭水化物飼料の多量給与あるいは盗食があった 2 給与飼料の急変 3 粗飼料が不足している 第一胃内容液 1 第一胃内容液は ph6.0 以下を示すが 顕著な症状を呈するものでは ph5.0 以下に低下 2 第一胃液の色調が乳褐色あるいは灰白色を呈し 酸臭を帯びる 3 第一胃液乳酸濃度は上昇 4 第一胃内容の亜硝酸還元能は低下 5 第一胃原虫数は減少 酸臭を放ち 絨毛が癒合 正常な第 1 胃粘膜 (12 ヶ月齢 ) 亜急性型 : ルーメン ph が 5.0~5.5 まで低下している 臨床症状は一定でなくはっきりしないことが多いが 摂取量の減少やばらつき ボディコンディションの低下 下痢 ( 写真 ) 鼻血 突然死 はっきりしない健康問題による高い淘汰率 跛行 蹄病 ルーメンの炎症 肝膿瘍 および細菌性肺塞栓が見られる さらに易発酵性の穀物飼料の大量給与を続けると 急性型 : ルーメンpHが突然急激に低下したときや ルーメン内の乳酸濃度が上昇した状態を指す 臨床症状は 食滞 腹部の痛み 頻脈 ( 心拍数の増加 ) 呼吸数の増加 下痢 無気力 よろめき 起立不能 および突然死である 臨床所見 1 食欲喪失, 第一胃膨満, 腹部の発作性疼痛 2 第一胃運動の停止, 反芻停止, 軟便 下痢 3 心拍数増加 4 血圧低下 5 脱水 6 歩様蹌踉 7 乳熱様姿勢 8 乳量及び乳脂率の低下 4

予防には ph 変動の少ないルーメン発酵の安定 十分な反芻による唾液分泌が要である a) 乾乳期の管理 1. 乾乳後期は 3 週間とり 穀類として 3~4kg 与え絨毛を伸ばす準備をする 2. 嗜好性の高い牧草を与え 十分反芻を起こさせ唾液分泌を高める b) 分離給与の場合 1. 分娩直後からコーンサイレーシ を多給せず 良質牧草を多く与える 2. 分娩後の濃厚飼料給与はゆっくり増やし 乳量に応じた多給与は厳禁である 3. 濃厚飼料の単独給与を行わず 次の給与まで 4 時間以上空ける 4. 嗜好性の高い牧草を与える 低質牧草でも切断して与えると採食量を増やすこ とが可能である また飼槽に飼料が無い時間を減らす工夫も必要である c) 完全混合飼料 (TMR: Total mixed ration) 給与の場合 1. 選び食い不断給与 飽食が原則です 栄養濃度を保たせる意味でも掃き寄せをこまめに行う 2. 水分の目安は 50% です 低い場合は選び食いが見られ ルーメン発酵の恒常 性を乱す 3. 粗濃比 有効繊維確保のために乾草類を 2kg 程度入れる 4. 搾乳時に濃厚飼料の給与はなるべく避ける ケトーシス (ketosis) 脳の主なエネルギーは糖である しかし 糖が利用できない場合 ケトン体は糖の代わりとなる脳の唯一の代替エネルギーである 実際には ケトン体はアセチル CoA に変換されてエネルギーとして働く ケトーシスは糖代謝に異状をきたし 代償的にケトン体でエネルギー代謝を賄おうとして引き起こされる アセチル CoA は主にグルコース 脂肪酸 グリセロール アミノ酸から変換される 脂肪酸の β 酸化によってアセチル CoA が 1 分子できる アセチル CoA の形では肝臓から他の臓器に届けられないので 水溶性のケトン体に変換する アセチル CoA クエン酸回路 TCA cycle ATP ケトン体が過剰だと呼気が甘く匂うが それはアセトン臭である 脱炭酸 エネルギー要求量の増加による低血糖を補うため 還元 肝臓でのケトン体合成が亢進し 血中濃度が高まる 5

胎児の発育と泌乳のための栄養要求が著しく増加し とくに高泌乳牛では 蓄積された体脂肪を使ってエネルギー不足を賄おうとする 体脂肪は 遊離脂肪酸として血中に分泌され 肝臓で分解されてアセチル CoA になり さらにケトン体として血中に放出される 酪酸発酵したサイレージに含まれる酪酸は 第一胃及び第三胃の上皮に吸収されて β ハイドロキシ酪酸 ( ケトン体の一種 ) に変換される結果 血中の β ハイドロキシ酪酸含量が高まることによっても発生する 採食量が落ち込み 急激に痩せる 原因 : エネルギー不足 対策 : 分娩前後の移行期には 濃厚飼料馴致を行い エネルギー不足にならないようにします とりわけ濃厚飼料馴致を行う前に早産した牛は注意が必要 また サイレージの調製を失敗 ( 酪酸発酵 ) しないようにする 牛群検定成績表で読み取れる兆候 : 泌乳量の激減が第一の兆候になる とりわけ泌乳ピーク時はエネルギー不足になりがちなので注意が必要である 乳蛋白質率も激減しますが ルーメン内の酪酸や体脂肪から乳脂肪が生成されるため P/F 比としては 0.7 以下になる また プロピオン酸が減少することから乳糖が減少し SNF 率が下がる 分娩後 60 日以内 ( とりわけ分娩後 30 日以内 ) の検定において 乳脂率が 5.0% 以上を示す乳牛については クロースアップ期における栄養がマイナスで 体脂肪の動員 ( 削痩 ) が行われた牛です 体脂肪の動員による脂肪肝のリスクがある 家畜改良事業団 : 高品質な生乳生産や牛群の飼養管理の改善など酪農経営を支援 農家 ( 乳量測定 乳成分 乳質検査用サンプリング ) 乳成分分析所 検定成績表 牛群検定情報分析センター ( 各県 1 ヶ所 ) 6

ボディーコンディションスコアー ( BCS: Body Condition Score ) BCSとは 乳牛の皮下脂肪量またはエネルギー蓄積の相対的な量を計測する方法で 体脂肪の相対的な量を0.25 刻みの1~5までのポイントシステムで計測している BCSは 産乳量と繁殖効率を最大にする一方で 代謝病や他の周産期の疾病を減少させるための重要な管理手法である ステップ1 坐骨 寛骨 腰角を横から見て この3 点を結ぶラインが U 字に見えたら BCS 3.25 V 字に見えたら BCS 3.00 と判定 腰角 坐骨 仙骨靭帯 尾骨靭帯 坐骨 寛骨 腰角 1 で CS 3.25 と判定した場合 後から尾骨靭帯と仙骨靭帯が明瞭に見えるかどうかで 脂肪組織の厚さを推定して 3.25~ 4.00 に評定 1 で CS 3.00 と判定した場合 後から坐骨と腰角を見て 丸いか 角張っているがによって 3.00 ~ 2.25 に評定 7

泌乳ステージ別推奨 BCS 泌乳ステージ最適値 分娩時泌乳初期泌乳中期泌乳後期乾乳期 3.50 3.00 3.25 3.50 3.50 許容範囲 3.25~3.75 2.50~3.25 2.75~3.25 3.00~3.50 3.25~3.75 乾乳期に適切な飼料給与と管理を行うことが重要である 分娩後の泌乳初期には体が絞られてくるのが正常であり ここで乳量に応じた多給与は厳禁である 濃厚飼料はゆっくり増やし 少しずつ BCS を上げる BCS は絶対値よりもその変化が重要で 適正な範囲で変化が少ないのが理想である 牛群管理に BCS を生かす場合には基本的には月に 1 回 乾乳後期から産褥期の牛については変化が大きいので週 1 回の測定が理想的 測定した BCS は乾乳期 泌乳初期 中期 後期の 4 期に分けて平均値と許容範囲からはずれた牛の割合をチェックすることで 牛群の栄養充足度 すなわち飼料給与などの管理が上手くいっているかどうか知ることができる リンク 家畜改良事業団 ( ページ内のボディコンディションを探す ) ボディーコンディションスコアをつけてみよう 分娩性低カルシウム血症 ( 乳熱, 産前 産後起立不能症 ) 出産間近の母牛は胎盤を通じて 1 日約 18g の Ca を胎児に与えており 分娩後には泌乳 1kg( 乳脂率約 4%) に 3g 以上の Ca を流出するので 血中 Ca 濃度を上昇させる生体反応が追いつかないことが発生原因となる また 低 Ca 血症は 起立不能 消化管や子宮の運動性低下による第四胃変位や胎盤停滞 繁殖性等 様々な形で生体機能に悪影響を及ぼし 生産性の低下をもたらす 起立不能 臨床的 骨格筋麻痺 子宮運動性低下 潜在的 平滑筋運動低下 消化管運動低下 陣痛微弱胎盤停滞子宮内膜炎 難産 繁殖成績低下 乾物摂取量低下負のエネルギーバランス体脂肪動員ケトージス 脂肪肝 第四胃変位 乳量低下 8

血液中 Ca 濃度の調節は 骨からの動員 消化管からの吸収 腎臓での再吸収の3 本立てで行われている これらの調節には 上皮小体ホルモンやビタミンD 3 カルシトニンが働き濃度を厳密に管理している 疫学的特徴 1 分娩後おおむね 48 時間以内に発症する 2 乾乳期の K と Ca の比率が不均衡な場合に多発する 3 経産牛 ( とくに 3 産以上 ) に多発する 4 高泌乳牛に多発する 臨床所見 ( 初期 ) 1 食欲不振 2 麻痺, 起立不能 3 興奮, 四肢筋肉の痙攣 歯軋り 歩様蹌踉 ( 伏臥期 ~ 昏睡期 ) 1 意識障害と混濁 犬座姿勢 瞳孔散大 2 体温 皮温の低下 3 頸を横に曲げ頭部を腹部に傾斜 4 昏睡状態, 弛緩性麻痺 5 呼吸促迫 チアノーゼ 上皮小体ホルモン ( パラトルモン :PTH) は血液のカルシウムの濃度を増加させ 逆に甲状腺から分泌されるカルシトニンは減少させるように働く 分娩 2 週間前の摂取飼料中の K Na の過給が血液をアルカリ化させ 上皮小体の機能低下をもたらす ビタミン D3 は腸からの Ca 吸収に重要な働きをしている 3 産目以上の牛や高泌乳牛では Ca 濃度の低下に対する生体反応の遅れや 乳汁中へ移行する Ca 量が多い 分娩前の Ca 摂取 : 過剰 Ca の飼料を与えている場合 体内では貯蔵する為に即効性のカルシトニンが分泌される この状態で分娩すると大量の Ca を流出しているにもかかわらず 貯蔵しようとする その結果 血中濃度を高める遅効性の上皮小体ホルモン ( PTH ) が働き出す間 一時的に Ca 不足に陥ってしまう 骨に蓄積された Ca を血中に放出させるために PTH を活性化させる必要があり そのためには 分娩 1 ヶ月前からは Ca の給与を少なめにして 貯蔵していた Ca がいつでも使える状態にする給与法がある 消化機能 : 胎児の成長により内臓が圧迫され 消化機能の低下が起こりやすくなる また 濃厚飼料やサイレージ等 消化しやすい飼料を多く摂取することにより第 1 胃が酸性に傾き そのうえ Ca が不足すると筋肉の伸縮が鈍くなり 消化 吸収率が低下してしまう 乾乳期に良質な乾草などを十分に採食できる状況にし 第 1 胃環境を整えて Ca の吸収を維持し 骨に蓄積させておく必要がある イオン バランス : 体内に多くの K や Na 等の陽イオンがあると Ca の吸収が抑制される 陰イオンを多めに給与するため ビタミン D 3 とともに CaSO 4 CaCl 2 MgSO 4 MgCl 2 の給与をおこなうと良い 9

低マグネシウム血症 ( グラステタニー ) グラステタニー (grass tetany) とは牧草を主な原因とする低マグネシウム (Mg) 血症を呈し 興奮および痙攣などの神経症状を示す疾病 Mg は体内で多くの酵素の補酵素として働いており 不足するとほとんどの臓器が正常に働かない 不足すると神経細胞の軸索が刺激され易くなり 刺激の伝導速度も速くなる それで振せんや筋肉の痙攣が起こる 反射も亢進する 脳細胞も興奮され易くなり 苛立ち 攻撃性が増したり 運動失調 起立不能 沈鬱が見られたりする また 血小板の凝集を増大させ血栓をできやすくしたり 心冠状動脈の収縮を強めたりして心筋梗塞を起こし易くする 牛の第一胃内での Mg 吸収は K によって阻害されるので K を多く含む飼料は Mg の血中濃度を引き下げてしまう 血中の Mg はカルシウム濃度調整に係るため 低 Mg 血症は乳熱の発生にも影響を与える 作物はカリウム (K) を優先的に吸収する傾向があり 拮抗的にカルシウム (Ca) や Mg の吸収を抑える 一般的に マメ科牧草は Mg Ca 含有量の多いが オーチャードグラス チモシー等のイネ科牧草は Mg Ca 含有量が少ない また 牛糞堆肥には K が多く含まれているので 過剰に施用すると牧草の K 含量を増やし Mg 含量を低下させる 岩手県におけるグラステタニー発生状況 岩手県畜産試験場研究報告 年 発生牧野数放牧頭数発病頭数死廃頭数発病率致死率 1971 2 468 19 7 3.8 38.9 1972 6 1367 41 9 3 22 1973 7 995 42 19 4.2 45.2 1974 10 2672 46 18 1.7 39.1 1975 7 1780 22 12 1.2 54.5 1976 9 37 19 51.3 1977 10 28 15 53.6 1978 4 1413 6 1 0.4 16.7 計 55 241 100 41.5 岩獣会報 発病頭数 1979 9 1980 6 1981 8 1982 9 1983 11 1984 1985 1986 1987 1988 1989 18 9 5 3 7 2 1990 1991 1992 1993 1994 1995-2 - 2-1 わが国では, 1958 年に北海道で乳牛の 1 例, 1968 年には鹿児島と宮崎県の肉用牛に発生し, いずれも舎飼での発生例であった 岩手金では 1971 年に放牧牛で発生し 牧野の改良と飼養衛生の向上によって 1990 年代になってようやく散発状況まで辿りついた 10

放牧地における低 Mg 血症性テタニーの防止対策 1) 野草 樹葉の大部分はミネラルバランスが良好であり これらの放牧利用により牛体の血清 Mg 濃度は上昇もしくは維持されることが確認された 野草地の放牧開始は平均気温が前半旬期より 2~3 低下する時期 もしくは 10 以下になる時期を 目安とし また利用期間は約 4 週間程度でよい ワラビ中毒? 2) 低木雑草型野草地の植生はバラ科 キク科の野草が多く これに樹葉が加わった形のものであるため そのミネラル組成も Ca Mg 含量が多く N P K 含量が少なく K/Ca+Mg 当量比も低い 低木雑草型の野草地に牧草地を 20% 前後の割合で点在させた形の組合せ牧区であれば 低 Mg 血症テタニーの発症は防止できる 3) Mg 入り配合飼料給与による低 Mg 血症性テタニーの予防効果は 激烈な発症が予想される放牧環境にあってもその効果は多大であり 放牧前の血清 Mg 値の差に関係なく低 Mg 血症性テタニーの発症を防止することができる 4) 春季における低 Mg 血症性テタニーの発症要因は 牛体に摂取される Mg 量も大きな要因であるが むしろ Mg のルーメン吸収を阻害する N P の摂取量ならびにエネルギー代謝を促進する低温が最も大きな要因であろうと推定された 放牧牛の血清 Mg 値の推定式を作り 発生予知を可能とし 予防に生かした 鉱塩とは 塩やミネラル分を補うために餌の横に置かれているレンガのようなかたまり 牛が自由に舐める 11

第四胃変位 (abomasum displacement) 第 4 胃が正常な位置から左方 右方または前方に変位し ( 大半が左方変位 ) 慢性の消化障害および栄養障害を起す 第 4 胃の捻転を伴ったものでは急性経過をとり, 発見が遅れると死亡することもある 高泌乳化 大規模化がすすめられている近年の酪農において増加傾向にり とくに高泌乳牛群が発症し易く産乳量が大きく低下するので被害が大きい 発症の大半は分娩前 1 週間 ~ 分娩後 3 週間の間に起きる 手術によって治るとは言え 再発例もある 1 乾乳前から過肥にならぬように気をつける 2 乾乳期には第 1 胃の回復を図るため, 胃運動の刺激の強く繊維分の高く 良質な粗飼料を与える ( スーダン, イタリアン等 ) 3 分娩前には濃厚飼料を 1~2 kg程度投与し第 1 胃を慣らしておく 4 分娩後は Ca 剤を投与する 5 生菌剤を濃厚飼料給与開始と同時期より投与し 第 1 胃内の活性を図る 6 給与飼料は急変は避ける 特に導入牛についてはよく注意する また分娩直前になってからの導入はできるだけ避ける 左 : 第 4 胃変位の死廃被害率の推移 ( 農済日高 ) 乳量と並行して増えてきた 1992 1994 1996 1998 2000 2002 下 : 産次別発生頭数と北海道の産乳量の推移初産が 2 産を超えている 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 12

非妊娠牛の子宮 第一胃 腸 肺 腸 肺 第四胃 心臓 妊娠後期の子宮 第四胃は圧迫されて横隔膜の方に移動 分娩直後の子宮 第一胃 腸 健康牛 肺 第四胃 子宮が縮小し一時的に間隙ができる 第四胃は次第に元に戻る 分娩後の子宮 肺 肺 第四胃が徐々に拡張し変位に向かうが未だガスはない 第四胃変位を発症 四胃内ガス 肺 左方変位 第四胃 第一胃 食欲不振が続くと 第四胃にガスが貯まる 13

第 1 胃内の水素とメタン濃度は飼料摂取による日内変動が少ないとされ 実験群の第 1 胃内濃度に差がなく発酵異常は起こっていなかった しかし 呼気中濃度は第 4 胃変異群で有意に低かった これはあい気反射の抑制が生じ また前胃運動機能障害が存在し 第 1 胃内のガスが第 4 四胃内に流入しているためであった 第 4 胃内ガスの過剰蓄積 は 第 2 胃運動に連動した前胃ガスの流入により発生する 北海道畜産試験場 健常群と第 4 胃変異群の呼気中 H 2 (a) および CH 4 (b) 濃度 (*:p<0.01) 発生原因としては 分娩 過肥および飼料摂取量不足などが挙げられているが ストレスがかかる分娩による食欲低下を招かない飼養管理が重要である X 線透視検査によると 乾物摂取量が低下した牛は第 4 胃内容物の減少により第 4 胃大弯が浮上していた とうもろこしサイレージ給与後絶食した牛は第 4 胃大弯が顕著に浮上したが 乾草または牧草サイレージを給与後絶食した牛は浮上が軽度であった 分娩後の乾物摂取量が低下しないように 乾草または牧草サイレージを給与する 14

肝臓の機能と障害 肝臓は胃腸と同じ消化器系であり 神経の分布も少なく痛みを訴えない 損傷が生じても外部症状がなく 自覚症状が出る頃は非常事態であることから 沈黙の臓器 と呼ばれる 肝臓の働きは多項目に及び その機能障害は様々な病状を示す 1 胆嚢で食物消化を助ける胆汁を産生し 胆管から十二指腸に分泌胆汁酸 : 肝臓でチトクロム P450 の作用でコレステロールを酸化することにより産生される 腸内に分泌され 脂肪球を非常に小さな溶解物に分解し 消化 吸収を助けている 大半が回腸で再吸収され再利用される ( 腸肝循環 ) 胆汁酸には 一次胆汁酸 ( 肝臓で合成されるコール酸 ) 二次胆汁酸 ( 一次胆汁酸が腸内細菌により脱水酸化されて生成されるデオシキコール酸 ) がある 胆汁酸の欠乏は 脂肪や脂質可溶性栄養物の吸収を抑制するとともに 脂肪便 ( 脂肪性下痢 ) を引き起こす 胆汁色素 : 寿命を全うした赤血球のヘモグロビンが肝細胞で代謝され黄色のビリルビンに変化する その大半は腸内細菌によりウロビリノーゲンに還元され その一部が体内に再度吸収される ウロビリノーゲンは抗酸化作用を有し これが体内で酸化を受けると黄色のウロビリンに変化する 循環が閉塞するとビルリビンが血流に入り黄疸を発症する 通常の尿の黄色はウロビリンによるものである 腸内に残ったウロビリノーゲンは酸化されて 大便の茶色の元となる 2 炭水化物 糖質の代謝と養分貯蔵血液中のグルコース ( 血糖 ) をグリコーゲンに変えて貯蔵し 必要時にグルコースに分解して血中に放出し 血糖値を調整する 生体機能が円滑に働くのは 肝臓がグリコーゲンの形でエネルギーを貯蔵 供給しているからである 3 脂質の代謝皮下や筋肉に蓄えた脂肪を血中に可溶性にするため遊離脂肪酸をアルブミンと結合させ血流で肝臓に運ぶ それを酵素でグリセリンと脂肪酸に分解 さらに酸化して炭酸ガスと水にする 脂肪の分解物である脂肪酸からホルモン生成源のコレステロールやリン脂質を合成する 乾乳期の過肥と分娩後のエネルギー不足のために体脂肪を利用しようとするが代謝が進まず 中性脂肪が肝臓に異常に蓄積し脂肪肝ができる 4 蛋白質の代謝食物タンパク質を構成するアミノ酸を再構築し 生体自身のタンパク質を生成する アルブミン 免疫グロブリン フィブリノーゲンなど貴重な血漿蛋白を合成する 5 脱アミノ作用余分のタンパク質アミノ酸からアミノ基 窒素を取り除き グリコーゲン 炭水化物を生成する 脱アミノ反応で生成するアンモニアが尿素回路によって尿素に変化できないと有害作用が起きる 15

6 解毒作用腸から吸収された成分は全て門脈から肝臓に運ばれる 門脈が関所となって肝臓における栄養素としての利用または有害物質としての処理を進める 毒物 薬物 体内の不要ホルモンなどがグルクロン酸と結合されて 胆汁となって排泄される 7 アンモニアを尿素へ変換タンパク質分解産物のアンモニアは有害だが 肝臓で酵素によって炭酸ガスと結合し尿素として腎臓から排出される 8 造血 血流調整機能酸素を運ぶ肝動脈と栄養素を運ぶ門脈の 2 つの血管系があり 心臓から拍出される血液量の約 4 分の 1 に相当する多量の血液の循環調節を行なっている 白血球 赤血球 血小板は 出生前は肝臓と脾臓で造血され 出生後は全て骨髄で造られる 骨髄線維症など病的な状態では 肝臓などでの造血が見られることがある ( 髄外造血 ) 9 体液の恒常性の維持ビタミンの貯蔵 活性化やホルモンの代謝を行う 10 体温保持肝臓からの大量の発熱作用で体温を保持する 脂肪肝肝臓への遊離脂肪酸の過剰動員肥満の高泌乳牛では大量のエネルギーが必要で 食欲不振やストレスが加わると 体脂肪をエネルギーに充てるため大量の遊離脂肪酸が肝臓に流入する 肝臓の処理能力を超えると 中性脂肪が蓄積して脂肪肝となる さらに 処理不能になると大量のケトン体が生成され ケト一シスへと進行する リポタンパク産生の代謝障害肝臓に貯留した中性脂肪は リン脂質 コレステロールおよびアポタンパクと結合して超低密度のリポ蛋白質 (VLDL) となって血液中に運び出される この VLDL の合成や分泌が阻害されると肝臓に脂肪が沈着する VLDL の合成を阻害する要因として アポタンパクの合成阻害 タンパク質や必須脂肪酸の欠乏 リン脂質欠乏 ビタミン欠乏 ( とくに コリン ビタミン E パントテン酸など ) などがある 脂肪肝の予防過肥状態の牛では 分娩後に乾物摂取量が低下するが 消化管充満以外の他の要因が分娩時の飼料摂取を制御していることを推定させる 穀物飼料の多給は 第 1 胃内の低級脂肪酸や酪酸の産生を増加させ 第 4 胃に送り込まれて運動を抑制し その結果として食滞とガス蓄積を起こして採食能力が低下する 分娩中の乾物やビタミンの摂取量を適正に管理することが重要である 16

食肉センターにおける牛肝臓の廃棄情況生産現場の状況を反映している 肝膿瘍 : 化膿菌の感染により肝臓に大小の膿瘍が形成 ルーメン環境の悪化 ( アシドーシス ケラトーシス ) によって粘膜に損傷が生じ そこから菌が侵入し門脈を介して肝臓に達し 化膿巣を形成する 育成期の粗飼料給与量が不足すると肝膿瘍の発生率が高まる 鋸屑肝 : 肝臓の解毒作用の途中で発生するラジカルによって肝細胞が障害を受け 鋸屑 ( のこくず ) を散布したように壊死がに起きている 毒素には ルーメン環境が悪化して細菌が死滅した際に菌体から放出されるエンドトキシンも含まれる 寄生虫性肝炎 : 肝蛭 ( かんてつ ) などの寄生虫による肝炎が多い 稲わら等に付着した肝蛭の幼虫を牛が食べて 肝臓で成長し 総胆管に移行する 感染後 3 ヶ月程度で成虫 ( 体長は 2 3 cm 幅 1 cm ) となり 産卵する 卵は糞とともに排泄され 水田や小川などで発育する 駆虫薬を投与する ビタミン欠乏症 強度のビタミン A 欠乏になると夜盲症になったり 食欲減退にともなって増体が低下する 肥育牛で最も恐ろしいことは ビタミン A 欠乏によって筋肉内に水腫 ( ズル ) が発生し 枝肉の価格が下がることである これらの危険性があっても肥育農家はビタミン A 欠乏の状態にして肥育をしようとする 粗飼料はビタミン A の前駆物質である β- カロチンがほとんど含まれていないバミューダストローを用い 濃厚飼料はビタミン A が全く添加されていない市販の配合飼料を用いた 導入後直ぐに市販のビタミン AD3E 製剤 ( ビタミン A として 100 万 IU/ 頭 ) を経口投与した 17 か月齢をメドに 血中ビタミン A 濃度をコントロール域 (30~50IU/dl) に低下させるため ビタミン製剤の投与を原則的に中断した 出荷前まで 4 週毎の体重測定に併せて 毎回 10~20 万 IU/ 頭のビタミン A 製剤を経口投与した 17

ビタミン A のコントロールを用いた効率的肥育技術畜産技術協会平成 17 年 Q 2 : ビタミン A をコントロールすると脂肪交雑が上昇するのですか? これまで国内の多くの試験研究機関で行われた研究を見るとビタミン A を肥育中期に制限することで BMS No. が 1~4 程度上昇していた Q 8 : ビタミン A をコントロールするとどれくらい儲かりますか? ビタミン A をコントロールした場合と給与した場合の枝肉販売価格は 雄去勢牛で 708,924.0 円と 599,633.6 円で 109,290.4 円の増加 雌牛では 878,679.7 円と 736,157.3 円で 142,522.4 円の増加となった 日本食肉格付協会歩留等級 (A-C 等級 ) 肉質等級 (1-5 等級 ) BMS(Beef Marbling Standard;No.1-No.12) No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 Q 9 : ビタミン A コントロール肥育の欠点はありますか? No.7 No.8 No.9 No.10 No.11 No.12 肥育前期高ビタミン A 中期低ビタミン A 後期高ビタミン A の基本を守れば大きな損失につながるような欠点は無いと思われる Q22: ビタミン A 欠乏のままと畜すると枝肉はどうなるのですか? と畜場において出荷牛の血中ビタミン A 濃度が低いからといって 病畜扱いになることはない と畜後 枝肉検査の際に枝肉に筋水腫 ( ズル ; 写真 3) の発生の可能性が高くなる ズルは筋膜や脂肪層間に見られ 黄色の水腫がたまっている状態である 特にロースの周囲筋やモモによく見られる ビタミン A 欠乏により尿石症を発症している場合 排尿がほとんどないような重度であれば出荷及び輸送のストレスなどにより膀胱が破裂することがある こうなると枝肉は尿毒症と判断され 全廃棄になる可能性がある 明らかなビタミン A 欠乏症状を発症していない場合でも 肥育後期のビタミン A 再給与の期間が短い場合 肝臓の回復期間も同様に短くなり 肝炎や鋸屑肝により廃棄となることがある Q26: ビタミン A が欠乏するとどのような症状がみられますか? 主な症状は初期症状として食欲の低下が見られ その後視覚障害 下痢 血便 尿石症 四肢関節 ( 前後の管部 ) の浮腫 起立不能などがみられる 18

米国人は肉類を世界平均の 3 倍も摂取しており 高脂肪 コレステロールによる慢性疾患の原因となっていることが指摘されてきた 赤身肉 (Red meat; 牛 豚 ) よりも家禽肉 (White meat) の脂肪が少ないことから 後者の消費が伸びている 赤身肉は脂肪交雑が少ないものが好まれ 植物油を使って調理する 鶏肉でもモモより脂肪が少ない胸肉が好まれる Trends in meat consumption in the USA 19