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対象 :7 例 ( 性 6 例 女性 1 例 ) 年齢 : 平均 47.1 歳 (30~76 歳 ) 受傷機転 運転中の交通外傷 4 例 不自然な格好で転倒 2 例 車に轢かれた 1 例 全例後方脱臼 : 可及的早期に整復

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エントリーが発生 真腔と偽腔に解離 図 2 急性大動脈解離 ( 動脈の壁が急にはがれる ) Stanford Classification Type A Type B 図 3 スタンフォード分類 (A 型,B 型 ) (Kouchoukos et al:n Engl J Med 1997) 液が血管

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研究協力施設における検討例 病理解剖症例 80 代男性 東京逓信病院症例 1 検討の概要ルギローシスとして矛盾しない ( 図 1) 臨床診断 慢性壊死性肺アスペルギルス症 臨床経過概要 30 年前より糖尿病で当院通院 12 年前に狭心症で CABG 施行 2 年前にも肺炎で入院したが 1 年前に慢性

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補足 : 妊娠 21 週までの分娩は 流産 と呼び 救命は不可能です 妊娠 22 週 36 週までの分娩は 早産 となりますが 特に妊娠 26 週まで の早産では 赤ちゃんの未熟性が強く 注意を要します 2. 診断 どうなったら TTTS か? (1) 一絨毛膜性双胎であること (2) 羊水過多と羊

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背景 外傷診療ガイドライン (JATEC) では primary survey 時の出血検索において 後腹膜出血いわゆる骨盤骨折に伴う出血については 骨盤単純 X 線画像 から骨折の有無を確認し 治療を進めることとなっている また 腰椎横突起骨折は後腹膜出血の要因となるため 骨盤単純 X 線撮影でも

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はじめに 連携パス とは 地域のと大阪市立総合医療センターの医師が あなたの治療経過を共有できる 治療計画表 のことです 連携パス を活用し と総合医療センターの医師が協力して あなたの治療を行います 病状が落ち着いているときの投薬や日常の診療はが行い 専門的な治療や定期的な検査は総合医療センターが

1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

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当施設では 骨盤骨折に対する血管内塞栓術と殿筋壊死の関連性 に関する後ろ向き症例集積研究を行っております 骨盤骨折は交通事故や転落 転倒など種々の外傷で生じる比較的頻度の高い外傷です 当施設でも年間約 10~20 例程度の入院治療を行っております 一般的に骨盤骨折により 1000~2000mL 出血

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33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

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脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

は関連する学会 専門医制度と連携しており, 今後さらに拡大していきます. 日本外科学会 ( 外科専門医 ) 日本消化器外科学会 ( 消化器外科専門医 ) 消化器外科領域については, 以下の学会が 消化器外科データベース関連学会協議会 を組織して,NCD と連携する : 日本消化器外科学会, 日本肝胆

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脳卒中の医療連携体制を担う医療機関等における実績調査 調査内容 平成 28 年度の実績 ( 調査内容は別紙様式のとおり ) 別紙 1: 急性期の医療機能を有する医療機関用別紙 2: 急性期及び回復期の医療機能を有する医療機関用別紙 3: 回復期の医療機能を有する医療機関用別紙 4: 維持期の医療機能

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当院に搬送された多発外傷の検討 ( 外傷診療について ) 高松赤十字病院救急科井陽輝 1

外傷診療について 日本人の死亡原因不慮の事故は全年齢層で第 5 位年間 38000 人死亡 ( 平成 20 年 ) 重傷者は死者の約 10 倍とされ年間 40 万人が重傷者として ICU などに収容されている 都市部では重症外傷は救急救命センターに集約される傾向が強まっているが 地方では一般外科整形外科当直医などが初期治療を行っているのが現状 2

それでは あなたは外科系の修錬医 今日は休日ですが外科系日直です 何もなければいーなー と医局にいると PHS がなりました 看護師 先生外傷の受け入れ要請です電話聞いてください えっ! と声をだした時には転送に切り替えられ救急隊の声がしました 3

症例 1 救急隊より救急搬送受け入れ依頼 44 歳男性ジェットスキー中接触事故大きく飛び水面でどこを打ったかわからない意識はしっかりしている呼吸時胸と背中の痛みが強い 4

まずどうします? 多発重症外傷診察の基本 スタッフを集める!! 応援をお願いする!! できるだけマンパワーを集めることが重要 5

搬入 どこから診察治療を行いますか? 原則生命に関わることを最優先する最初に生理学的兆候の異常を把握する確定診断に固執しない時間を重視する 6

JATEC 外傷診療理論 Japan Advanced Trauma Evaluation and Care 7

外傷診療手順 Primary survey と蘇生 ABCDE アプローチ Secondary survey 受傷機転や病歴聴取 (AMPLE) 全身の身体検査と諸検査 根本治療 転送判断 転送判断 Tertiary survey 8

搬入時現症 A( 気道評価 確保 ) B( 呼吸評価と致命的な胸部外傷の処置 C( 循環評価および蘇生と止血 ) D( 生命を脅かす中枢神経障害の評価 ) E( 脱衣 体温管理 ) 9

搬入時現症 A( 気道評価 確保 ) 気道開放会話可能 B( 呼吸評価と致命的な胸部外傷の処置 ) 胸郭運動に左右差なし頸部頸静脈怒脹なし皮下気腫なし SpO2 98%(RA) 右胸部触診で疼痛あり C( 循環評価および蘇生と止血 ) BP148/92 HR 98 末梢冷感なし明らかな外出血なし D( 生命を脅かす中枢神経障害の評価 ) 意識清明 GCS15 E( 脱衣 体温管理 ) 体温 36.8 度 10

全身検索 (Secondary Survey) 頭からつま先まで調べていく 眼窩外耳孔鼻腔口腔尿道肛門穴という穴は調べる! 右胸部ー背部に疼痛訴えあり状態安定しており全身 CT チェックを施行 11

全身 CT 右閉鎖性腎損傷後腹膜血腫 12

全身 CT 右肋骨骨折 Th 8 9 10 11 12 13

サマリー 泌尿器科消化器外科にコンサルト CT 検討いただき保存的加療となる 同日入院入院後バイタル安定血胸合併なし腎周囲血腫も増大なし 最終的に自宅へ独歩退院 14

症例 2 救急隊より受け入れ要請軽自動車運転中の電信柱へ衝突 ( 自損事故 ) シートベルト (-) 意識はしっかりしている左胸部打撲呼吸苦胸痛あり 15

搬入時現症 A( 気道評価 確保 ) 開存会話可能 B( 呼吸評価と致命的な胸部外傷の処置 呼吸は浅い RR40 SpO2 100%(10L リザーバー ) 胸郭変形左右差は無いが左前ー側胸部に皮下気腫 C( 循環評価および蘇生と止血 ) BP107/57 HR87 末梢冷感なし 明らかな外出血なし FAST( エコー ): 心嚢液 (-) 腹腔内大量出血なし 胸部 XP: 大量血胸なし 骨盤 XP: 不安定性骨折なし D( 生命を脅かす中枢神経障害の評価 ) GCS14(E3V5M6) 瞳孔左右差なし 四肢運動良好 E( 脱衣 体温管理 ) KT36.3 16

全身検索 (Secondary Survey) 前頭部打撲痕あり 左前胸部痛 (++) 皮下気腫少量あり 左前胸部打撲痕あり 右膝打撲 採血 : 打撲によるCK 上昇肝臓酵素上昇あり バイタル安定しており全身 CT へ 17

全身 CT 頭部 CT: 異常所見なし 左肋骨多発骨折 Th 3 4 5 6 左皮下気腫 18

全身 CT 肝損傷 (Ⅲ 型 ) 深部損傷 腹腔内出血なし 19

サマリー 消化器外科 Dr コンサルト出血来せば致死的状態になる可能性あり 絶対安静 2 週間となる 保存的加療施行中出血感染なし 最終的に独歩退院となる 肝損傷については経過 20

症例 3 救急隊より受け入れ要請鉄骨を 10 本ほど束ねていたものが倒れ右半身が下敷きになる 2,3 分意識消失その後救出され搬送現在は意識しっかりしている 21

搬入時現症 A( 気道評価 確保 ) 気道開放会話可能 B( 呼吸評価と致命的な胸部外傷の処置 前胸部打撲痕あり疼痛あり胸郭左右差 動揺なし鼓音濁音なし SpO2 100%(10Lリザーバー ) C( 循環評価および蘇生と止血 ) BP138/77 HR80 末梢冷感なし FAST( エコー ): 陰性 骨盤 XP: 左恥骨座骨骨折 活動性外出血なし 胸部 XP: 大量血胸気胸なし D( 生命を脅かす中枢神経障害の評価 ) GCS15 瞳孔所見なしマヒなし E( 脱衣 体温管理 ) BT36.5 22

全身検索 (Secondary Survey) 前胸部打撲痕疼痛強い 季肋部打撲痕 左上腕 5mm 程度の穿通性外傷出血は収まっている 右下肢変形腫脹あり開放創はない 左膝腫脹 23

頭部 CT: 異常なし 胸骨骨折 右肋骨多発骨折 Th 5 6 7 左恥骨座骨骨折 全身 CT 24

全身 CT 胸椎 Th5 腰椎 L2 圧迫骨折 右脛骨骨折 25

サマリー 整形外科コンサルト偏位は少なく保存的加療 翌日フォローアップ CT で血胸認めたため胸部乳腺外科コンサルト大量ではなくこちらも経過観察 住居が善通寺であり近傍での療養希望あり香川労災へ第 4 病日転院 26

症例 4 救急隊より受け入れ要請午前 6 時頃ジョギング中に自動車にはねられ受傷 JCS2 桁 27

搬入時現症 A( 気道評価 確保 ) 気道開放発語あり B( 呼吸評価と致命的な胸部外傷の処置 SpO2 98%(3Lマスク ) 胸郭左右差なし左側胸部打撲擦過傷 C( 循環評価および蘇生と止血 ) BP123/54 HR62 橈骨動脈拍動良好活動性外出血なし D( 生命を脅かす中枢神経障害の評価 ) JCS10 GCS13(E3 V4 M6) 瞳孔所見正常 E( 脱衣 体温管理 ) BT 35.4 度 28

全身検索 (Secondary Survey) 頭部 : 明らかな血腫形成はない 左側胸部ー背部に打撲擦過傷 左前腕腫脹血腫あり 左膝血腫腫脹あり 29

全身 CT 頭部 CT: 外傷性 SAH 急性硬膜下血腫 10mm 左肋骨骨折 (Th 5-11) 左肩甲骨骨折 30

左恥座骨骨折 左仙腸関節骨折 L4 5 左横突起骨折 左前腕骨骨折 31

サマリー 頭部 CT 血腫は少なく経過観察 1 時間後 CT 再検 整形外科コンサルト CTでは出血偏位は少なく骨盤上腕骨ともに保存的加療 多発外傷であり麻酔科入院 ICU 収容となる 32

サマリー ICU 入室後 JCS200まで意識レベル低下あり頭部 CT 再検 緊急手術開頭血腫除去 33

サマリー 術後意識は回復するが見当識障害残存左大脳半球に脳挫傷があり右上下肢マヒを残存 骨盤肋骨骨折については保存的加療で軽快 マヒ残存のためリハビリテーション病院へ最終的に転院となる 34

症例 5 救急隊より受け入れ要請午後 4 時頃自宅 4 階から転落 ( 自殺 ) 鬱で近医通院中 35

搬入時現症 A( 気道評価 確保 ) 気道開存興奮している B( 呼吸評価と致命的な胸部外傷の処置 明らかな胸郭変形なし RR30 回打診聴診では呼吸減弱なし気管偏位なし頸静脈怒脹なし SpO2 97%(6L) C( 循環評価および蘇生と止血 ) 末梢冷感強い BP74/56 HR112 腰部骨盤痛強い XP: 多量血胸気胸 (-) 骨盤左仙腸関節から垂直断裂型骨折 FAST: 心嚢液 (-) 大量腹腔内出血なし 急速輸液開始 輸血準備 末梢ルート確保難しく CV 挿入 36

搬入時現症 D( 生命を脅かす中枢神経障害の評価 ) JCS1 GCS15 瞳孔所見なし疼痛部以外マヒなし E( 脱衣 体温管理 ) BT34.5 度保温加温開始 37

全身検索 (Secondary Survey) 外表 胸郭頸部など所見なし 腹部膨隆あるがもともと Obesity あり緊満はない 骨盤周囲疼痛強い 明らかな活動性外出血なし 38

全身 CT 頭蓋内出血なし 頸椎胸椎損傷なし 右肋骨 1カ所骨折 両側肺挫傷軽度 L3-5 横突起骨折 左仙骨ー恥骨骨折 右恥骨骨折 39

左骨盤骨折周囲血腫 左腸腰筋に沿って血腫広がりあり 全身 CT 40

サマリー 救急外来から ICU 収容入院 24 時間で輸液 5 L MAP10E を投与し BP100 台 HR100 まで回復 整形外科消化器外科胸部乳腺外科へコンサルト 輸液に反応しない場合には放射線科でIVRによる塞栓術を考慮した 最終的に輸液で安定骨盤骨折に対する外固定術目的に第 10 病日整形外科へ転科 41

症例 6 救急隊より受け入れ要請工場内で倒れたフォークリフトと地面にうつぶせで挟まれているところを発見される 救出時心肺停止胸郭骨盤変形あり CPR 継続中 42

搬入時現症 A( 気道評価 確保 ) 自発呼吸なし気管挿管施行 B( 呼吸評価と致命的な胸部外傷の処置 胸郭は不安定両側とも柔らかい 陽圧換気後皮下気腫著明陰嚢までいたる C( 循環評価および蘇生と止血 ) 脈触知なし ECG:Asys CPR 継続 アドレナリン投与 D( 生命を脅かす中枢神経障害の評価 ) JCS300 両側瞳孔散大対光反射 -/- E( 脱衣 体温管理 ) 衣服切断除去 43

全身検索 (Secondary Survey) 44

搬入後 CPR 継続するも Asys 継続 右側胸部を中心として陽圧換気後皮下気腫著明となる右胸腔内ドレナージ挿入ドレナージより約 300cc 程度血液噴出 救急隊救出後より Asys CPR 反応なし 当院でCPR 継続脱気など処置するが反応せず 救出後 1 時間の時点で CPR 終了死亡確認とした 45

AI(Autopsy Imaging) 46

AI(Autopsy Imaging) 頭蓋内血管に空気混入 大動脈虚脱空気混入左大量血胸縦隔血腫両側多発肋骨骨折 骨盤仙骨多発骨折腰椎胸椎破裂骨折腹腔内フリーエアー 47

サマリー 鈍的外傷院外心肺停止症例 CPRで来院継続するも反応なし CPR1 時間の時点で死亡確認 大動脈損傷 骨盤多発骨折 出血性ショック 肋骨多発骨折 48

外傷性心停止について Q1: 鈍的外傷心停止例の 24 時間生存率 A1: 4.5% Q2: 鈍的外傷心停止例の 1 ヶ月生存率 A2: 0.96% Q3: 鈍的外傷心停止例脳機能障害が軽度であった率 A3: 0.19% 非常に予後不良であり蘇生自体行うか侵襲的な治療を行うかについては考慮が必要 49

まとめ 多発外傷は突然やってくる!! 外傷診療経験は容易に積めない JATEC 参加をおすすめ少なくとも理論について理解が必要 外傷診療はチーム医療多くのマンパワーが必要であり普段から周囲スタッフ各科との連携協力体制が必要 50