通りである レベル1 津波 :100 年に 1 度程度発生する規模で, この津波に対しては, 人命, 財産, 経済活動を守る レベル 2 津波 :1000 年に 1 度程度発生する規模で, この津波に対しては, 人命を守り, 経済的損失をできるだけ軽減する また, 大きな二次災害を引き起こさず, 早

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表紙 NRA 新規制基準概要

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目 次 はじめに 1 Ⅰ 福島第一原子力発電所における固体廃棄物貯蔵庫について 1 固体廃棄物貯蔵庫第 9 棟増設の目的と計画 2 (1) 固体廃棄物貯蔵庫第 9 棟増設の目的 (2) 固体廃棄物貯蔵庫第 9 棟増設の計画 2 固体廃棄物貯蔵庫第 9 棟増設に関する安全性 4 (1) 周辺地域への放

耐震等級 ( 構造躯体の倒壊等防止 ) について 改正の方向性を検討する 現在の評価方法基準では 1 仕様規定 2 構造計算 3 耐震診断のいずれの基準にも適合することを要件としていること また現況や図書による仕様確認が難しいことから 評価が難しい場合が多い なお 評価方法基準には上記のほか 耐震等

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強度のメカニズム コンクリートは 骨材同士をセメントペーストで結合したものです したがって コンクリート強度は セメントペーストの接着力に支配されます セメントペーストの接着力は 水セメント比 (W/C 質量比 ) によって決められます 水セメント比が小さいほど 高濃度のセメントペーストとなり 接着

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1 現場の状況と技術的知見へのニーズ 東京電力 ( 株 ) 福島第一原子力発電所 1~4 号機の廃止措置等に向けた研究開発計画に係る国際シンポジウム 2012 年 3 月 14 日 東京電力株式会社 無断複製 転載禁止 東京電力株式会社

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中部電力グループ アニュアルレポート2012

官庁施設の総合耐震 対津波計画基準 第 1 編総 則 第 1 章目的及び適用範囲 目的この基準は 国家機関の建築物及びその附帯施設の位置 規模及び構造に関する基準 ( 平成 6 年 12 月 15 日建設省告示第 2379 号 )( 以下 位置 規模 構造の基準 という ) 及び 国家機

<ハード対策の実態 > また ハード対策についてみると 防災設備として必要性が高いとされている非常用電源 電話不通時の代替通信機能 燃料備蓄が整備されている 道の駅 は 宮城など3 県内 57 駅のうち それぞれ45.6%(26 駅 ) 22.8%(13 駅 ) 17.5%(10 駅 ) といずれも

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既存の高越ガス設備の耐震性向上対策について

第 2 日 放射性廃棄物処分と環境 A21 A22 A23 A24 A25 A26 放射性廃棄物処分と環境 A27 A28 A29 A30 バックエンド部会 第 38 回全体会議 休 憩 放射性廃棄物処分と環境 A31 A32 A33 A34 放射性廃棄物処分と環境 A35 A36 A37 A38

京都大学博士 ( 工学 ) 氏名宮口克一 論文題目 塩素固定化材を用いた断面修復材と犠牲陽極材を併用した断面修復工法の鉄筋防食性能に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 塩害を受けたコンクリート構造物の対策として一般的な対策のひとつである, 断面修復工法を検討の対象とし, その耐久性をより

A23 A24 A25 A26 A27 A28 A38 A39 燃料再処理 A40 A41 A42 A43 第 3 日 休 憩 総合講演 報告 3 日本型性能保証システム 燃料再処理 A29 A30 A31 A32 A33 A34 A35 燃料再処理 A36 A37 燃料再処理 A44 A45 A4

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技術基準改訂による付着検討・付着割裂破壊検討の取り扱いについてわかりやすく解説

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「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の改訂に伴う島根原子力発電所3号機の耐震安全性評価結果中間報告書の提出について

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資料 1-4 廃棄物対策に関わる対応状況について 資料 福島第一原子力発電所固体廃棄物の保管管理計画 ~2018 年度改訂について~ 2018 年 8 月 23 日 東京電力ホールディングス株式会社

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安全防災特別シンポ「原子力発電所の新規制基準と背景」r1

別添資料 地下階の耐震安全性確保の検討方法 大地震動に対する地下階の耐震安全性の検討手法は 以下のとおりとする BQ U > I BQ UN I : 重要度係数で構造体の耐震安全性の分類 Ⅰ 類の場合は.50 Ⅱ 類の場合は.25 Ⅲ 類の場合は.00 とする BQ U : 地下階の保有

新旧対照表

1. 東京電力福島第一原子力発電所事故以前の安全規制への指摘 外部事象も考慮したシビアアクシデント対策が十分な検討を経ないまま 事業者の自主性に任されてきた ( 国会事故調 ) 設置許可された原発に対してさかのぼって適用する ( バックフィット といわれる ) 法的仕組みは何もなかった ( 国会事故

《公表資料》柏崎刈羽原子力発電所6,7号機における自主的な安全対策の取り組みについて

別添 表 1 供給力確保に向けた緊急設置電源 ( その 1) 設置場所 定格出力 2 発電開始 2 運転開始 公表日 3 姉崎火力発電所 約 0.6 万 kw (0.14 万 kw 4 台 ) 平成 23 年 4 月 24 日平成 23 年 4 月 27 日 平成 23 年 4 月 15 日 袖ケ浦

 

Taro-通知文

福井県建設リサイクルガイドライン 第 1. 目的資源の有効な利用の確保および建設副産物の適正な処理を図るためには 建設資材の開発 製造から土木構造物や建築物等の設計 建設資材の選択 分別解体等を含む建設工事の施工 建設廃棄物の廃棄等に至る各段階において 建設副産物の排出の抑制 建設資材の再使用および

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資料 1 3 小規模附属物点検要領 ( 案 ) の制定について Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism

2 号機及び 3 号機 PCV - 分析内容 原子炉格納容器 (PCV) 内部調査 (2 号機平成 25 年 8 月 3 号機平成 27 年 10 月 ) にて採取された (LI-2RB5-1~2 LI-3RB5-1~2) を試料として 以下の核種を分析した 3 H, Co, 90 Sr, 94 N

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国土技術政策総合研究所 研究資料

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津波警報等の留意事項津波警報等の利用にあたっては 以下の点に留意する必要があります 沿岸に近い海域で大きな地震が発生した場合 津波警報等の発表が津波の襲来に間に合わない場合があります 沿岸部で大きな揺れを感じた場合は 津波警報等の発表を待たず 直ちに避難行動を起こす必要があります 津波警報等は 最新

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第 2 回保障措置実施に係る連絡会 ( 原子力規制庁 ) 資料 3 廃止措置施設における保障措置 ( 規制庁及び IAEA との協力 ) 平成 31 年 4 月 24 日 日本原子力研究開発機構安全 核セキュリティ統括部 中村仁宣

第 7 章鹿児島県と連携した耐震改修促進法による指導及び助言等 国の基本方針では 所管行政庁はすべての特定建築物の所有者に対して法に基づく指導 助言を実施するよう努めるとともに 指導に従わない者に対しては必要な指示を行い その指示に従わなかったときは 公表すべきであるとしている なお 指示 公表や建

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平成23年東北地方太平洋沖地震の概要について


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日程表 mcd

《地域説明会資料》福島第一原子力発電所 汚染水の状況

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2 地震 津波対策の充実 強化 (1) 南海トラフ地震や首都直下地震の被害想定を踏まえ 地震防災上緊急に整備すべき施設整備 津波防災地域づくりに関する法律 の実効性確保 高台移転及び地籍調査の推進など事前防災や減災に資するハード ソフトの対策を地方公共団体が重点的に進めるための財政上の支援措置を講じ

国土技術政策総合研究所研究資料

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「原子炉格納容器内部調査技術の開発」ペデスタル外側_1階グレーチング上調査(B1調査)の現地実証試験の結果について

1.1 阪神 淡路大震災環境省は 阪神 淡路大震災 ( 平成 7 年 1 月 17 日発生 ) の際に兵庫県及び神戸市の協力を得て 大気中の石綿濃度のモニタリング調査を実施した 当時の被災地における一般環境大気中 (17 地点 ) の石綿濃度の調査結果を表 R2.1 に 解体工事現場の敷地境界付近に

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これだけは知っておきたい地震保険

電気工事用オートブレーカ・漏電遮断器 D,DGシリーズ

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実用発電用原子炉の設置 運転等に関する規則 ( 抜粋 ) ( 昭和 53 年 最終改正 : 平成 25 年 )( 通商産業省令 ) ( 工場又は事業所において行われる廃棄 ) 第九十条法第四十三条の三の二十二第一項の規定により 発電用原子炉設置者は 発電用原子炉施設を設置した工場又は事業所において行

復興大臣 竹下亘様 要望書 平成 27 年 1 月 29 日 福島県南相馬市長桜井勝延


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国土技術政策総合研究所 研究資料

水冷式冷却専用チラー5~20馬力

その中で 今回対象となるF 雨水ポンプ場の設計諸元値を以下に示す 1 供用開始 : 昭和 50 年 3 月 ( 経過年数 41 年 ) 2 流入渠 : mm 3 放流渠 : mm( 馬蹄渠 ) M 湾へ放流 4 沈砂池 :3.5m 11.0m 2 池 ( 除砂設備無

研究炉班 : 審査会合 (28 回実施 ) ヒアリング (111 回実施 ) 地震津波班 : 審査会合 (33 回実施 ) ヒアリング (73 回実施 ) 新規制基準対応の想定スケジュール (HTTR) 設置変更許可申請 : 平成 26 年 11 月 26 日 第 1 回 : 平成 28 年 10

平成 29 年 4 月 12 日サイバーセキュリティタスクフォース IoT セキュリティ対策に関する提言 あらゆるものがインターネット等のネットワークに接続される IoT/AI 時代が到来し それらに対するサイバーセキュリティの確保は 安心安全な国民生活や 社会経済活動確保の観点から極めて重要な課題

目次 ( )

卵及び卵製品の高度化基準

新安全基準の骨子


< 被害認定フロー ( 地震による被害木造 プレハブ > 第 次調査 ( 外観による判定 一見して住家全部が倒壊 一見して住家の一部の階が全部倒壊 地盤の液状化等により基礎のいずれかの辺が全部破壊 いずれかに いずれにも ( 傾斜による判定 全壊 外壁又は柱の傾斜が/ 以上 ( % 以上 ( 部位

10 地震 火山噴火対策等の推進について 近年 我が国は様々な災害に見舞われている 東日本大震災後も 平成 28 年の熊本地震 本年 6 月の大阪府北部地震及び9 月の北海道胆振東部地震など大規模な地震が発生し 多大な人的 物的被害が発生した 地方公共団体においては 突然発生する大規模自然災害に備え

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複合構造レポート 09 FRP 部材の接合および鋼と FRP の接着接合に関する先端技術 目次 第 1 部 FRP 部材接合の設計思想と強度評価 第 1 章 FRP 構造物の接合部 FRP 材料 FRP 構造物における各種接合方法の分類と典型的な部位 接合方法

質問 4 過去において発生応力と応力状態 VIAs の基準値を 2.5 倍もの差があるケースは見たことがない 基準地震動を超える程度で重大な損傷を受ける可能性があり これで 工事計画 が認可される理由が分からない 何故認可したのかを明らかにして欲しい 回答 申請者は 本申請において原子力発電所耐震設

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大規模地震発生直後における 施設管理者等による建物の緊急点検に係る 指針 平成 27 年 2 月 内閣府 ( 防災担当 )

第2章 事務処理に関する審査指針

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PowerPoint プレゼンテーション

( 県の責務 ) 第三条県は 地震防災に関する総合的な施策を策定し 及びこれを実施する責務を有する 2 県は 市町村 自主防災組織その他防災関係機関等と連携して 地震防災対策を推進しなければならない 3 県は 地震に関する調査及び研究を行い その成果を県民 事業者及び市町村に公表するとともに 地震防

食肉製品の高度化基準 一般社団法人日本食肉加工協会 平成 10 年 10 月 7 日作成 平成 26 年 6 月 19 日最終変更 1 製造過程の管理の高度化の目標事業者は 食肉製品の製造過程にコーデックスガイドラインに示された7 原則 12 手順に沿ったHACCPを適用して製造過程の管理の高度化を

Transcription:

公益社団法人日本コンクリート工学会 平成 25 年 4 月 10 日 JCI 東日本大震災に関する特別委員会からの第二次提言 A 地震対策について ( 既存コンクリート構造物について ) (1) 耐震性能が不十分な既存コンクリート構造物に対しては, 耐震補強の早急な実施を促す 解説 現行の耐震設計法で建造されたコンクリート構造物, ならびに耐震補強されたコンクリート構造物には被害がほとんどなく, 免震構造の建築物にもほとんど被害はなかった ただ, 耐震性能が不十分なコンクリート構造物で耐震補強がなされていないものには, 従来同様の被害が認められた したがって, 耐震性能が不十分なコンクリート構造物については, 適切な耐震補強法を用いて早急に補強を行う必要がある また, さらに有効で利用しやすい耐震補強技術の開発も望まれる ( 今後の課題について ) (2) 新たに建造するコンクリート構造物については, 設定レベルを超えた地震作用を受けても崩壊はせず, かつ迅速な復旧を可能とする耐震計画 耐震設計法を確立する 解説 鉄筋コンクリート造建築物では, 柱やはりなどの構造部材には被害がほとんど見られなかったものの, 間仕切り壁や腰壁 垂れ壁などの非構造部材が破壊して継続使用ができなかったものがあり, 復旧に時間がかかったものもあった コンクリート橋梁構造物などでは, 本震にはかろうじて耐えたが, 強い余震により大きな損傷を生じたものがあった コンクリート構造物の構造計画および設計においては, 設定したレベルを超える地震作用を受けても崩壊はせず復旧が迅速になされるよう, 耐震性能の余裕度や非構造部材の挙動等に配慮する必要がある B 津波対策について ( 既存コンクリート構造物について ) (1) 防波堤や防潮堤などのコンクリート構造物に対しては, 中央防災会議等で示された方針に基づき, 速やかな対策を講じる必要がある 解説 中央防災会議で示された2つのレベルの津波およびそれに対する考え方を要約すると, 以下の 1

通りである レベル1 津波 :100 年に 1 度程度発生する規模で, この津波に対しては, 人命, 財産, 経済活動を守る レベル 2 津波 :1000 年に 1 度程度発生する規模で, この津波に対しては, 人命を守り, 経済的損失をできるだけ軽減する また, 大きな二次災害を引き起こさず, 早期復旧を可能とする レベル1 津波に対しては, 防波堤や防潮堤はほとんど損傷せず, 津波に乗り越えられることのないように計画 設計する 津波の陸地への遡上は, 防潮堤等で防ぐことを原則とする レベル 2 津波に対しては, 津波の陸地への遡上をある程度許容せざるを得ない その際, 津波に襲われたとしても人命を守るという観点からは, 防波堤や防潮堤など複数の構造物による多重防護というハード的な対策に加えて, 避難施設 経路の整備や防災教育といったソフト的な対策を併用するリスクマネジメントに基づく防災対策が求められる 防波堤や防潮堤などの既存コンクリート構造物においては, 上記の考え方に基づき, 必要に応じて嵩上げや補強などの対策を講じて, 耐津波性能を向上させる必要がある その結果, 津波が陸上に到達するまでの時間を遅らせ, 人々が避難する時間的余裕を大きくできるとともに, 溯上する津波の速さや高さを抑えて被害を抑制し, 早期復旧を実現することが可能となる ( 今後の課題について ) (2) 津波避難施設の計画においては, 耐津波性能の高いコンクリート構造物の積極的な活用を促す 解説 鉄筋コンクリート造建築物は, 一般に津波に対する設計を行っていなかった しかしながら, 浸水深が比較的深い地域でも, 木造や鉄骨造など他の構造の建築物と異なり, 甚大な被害を免れた鉄筋コンクリート造建築物は数多く見られた 海岸地域においては, 高台移転や避難施設の配置など都市計画的な観点も取り入れた津波防災対策が検討されているが, 耐津波性能の高い鉄筋コンクリート造建築物を積極的に活用していくことが求められる そのためには, 津波荷重や津波による建築物の破壊メカニズムのより詳細な解明を行うとともに, 継続使用 早期復旧など様々な要求性能に対応する設計法の開発が求められる (3) 港湾 漁港 海岸構造物においては, 津波の引き波による水圧や越流, 地震による液状化との複合作用を考慮して, 粘り強い構造物とする設計法の確立を目指す 解説 港湾 漁港 海岸構造物は, 地震と津波による作用に対して設計されている 東日本大震災では, 地震作用に対しては十分な抵抗性を示したが, 津波の引き波や越流による作用, 地震による液状化と津波との複合作用等により被災した構造物が見られた 今後の港湾 漁港 海岸構造物の設計においては, これらの影響を適切に考慮し, 津波による洗堀を防止するとともに, 構造体としても粘り強い構造とし, 容易には転倒 倒壊しないものとする必要がある このような粘り 2

強い構造を実現するためには,1 作用する外力と構造物の移動 沈下に関する評価,2 巨大な津波の長時間作用の下でのコンクリート構造物の安全性に関する評価,3 地震と津波による複合作用下でのコンクリート構造物の耐荷 変形メカニズムの解明, などの技術開発が求められる C 材料生産 施工上の対策について ( 被災時の避難活動について ) (1) 建設工事現場における仮設の安全性は恒久時よりも低いことを認識し, 大地震時には人命保護を第一とする避難 誘導を行うとともに, 工事再開は安全性を十分に確認した後とすることが肝要である 解説 東日本大震災では, 避難を優先して人的被害を最小限にとどめた企業があった 業務中の避難には, 現場責任者の率先した声掛けと行動が有効であり, 日常の訓練が効果を高めたことが確認された なお, 建設工事現場における避難マニュアルは, 完備されているとは言い難い 工事現場の避難マニュアルを整備し, 日頃より教育 訓練を行うべきである 建設工事中の仮設内の作業環境は, 工事完成後の環境と比べ安全性に劣る場合が多い また, コンクリートの打込み工事は時間の制約があり, 避難を優先することでコンクリートの凝結 硬化などによる機器 機械などの物的被害が増大する場合もある しかし, 人命保護に基づく十分な安全確認を行うことが最優先である 仮設部材の倒壊などにより第三者に影響を与えない配慮を行うと同時に, 安全を確保した上で工事再開を行うことが重要である また, 港湾 海岸工事などでは, 津波が複数回押し寄せることを想定し, 安易な現場確認は避けなければならない ( 生産活動について ) (2) 平常時の法律 法令が復旧 復興の障害とならないように, 緊急時対応の法的な緩和措置などをあらかじめ定めておくことが望まれる また, 生産者は,JIS 認証事業などの継続 再建に必要な各種情報について, 当該地域外にもバックアップを取っておくことが推奨される 解説 レディーミクストコンクリートの生産施設では, 津波被害で制御室の復旧に 3 か月を要しただけでなく, 生産情報の流出によりJISの再認証などに遅れが生じた 津波被害からの防御のための制御施設の移動だけでなく, 生産情報の保管方法などの検討も必要であることが教訓として得られた 生産活動を早期に復旧させるためには, 緊急時の法的緩和措置をあらかじめ定めておくことが必要である 東日本大震災では, 建設資材の生産施設が被災により停止を余儀なくされ, 復旧に時間を要した さらに, 通常時に比べて品質や性能が低下したものも少なくなかった しかし, 東日本大震災後の復旧 復興時においては, 膨大な量の建設資材が必要となり, 通常以上の資材 機材が必要とされた これらの資材 機材については, 平常時とは異なる緊急時対応としての品質 性能 3

用途などの技術的検討が不可避である また, 被災地に生産拠点がある材料を用いて許認可を得た被災地以外の建設工事においても, 材料の供給不足により, 工事に影響を与えた事例が少なからずあった 許認可の取得方法の問題でもあるが, 東日本大震災のような甚大な被害を受けた場合には, 被災地以外でも特別な措置を講じることができるように, 基 規準類の整備が必要である D 福島第一原子力発電所の事故に関わる今後の対策について ( 構造物の残存性能評価 ) (1) 外力の推定, 遠隔的な調査 測定手法などにより, 事故時の爆風荷重 海水 高温の影響を受けた鉄筋コンクリート部材の残存性能を評価する 解説 原子炉建屋は水素爆発による損傷を受けた また, 原子炉圧力容器底部から約 2000 に達する溶融核燃料が原子炉圧力容器を支える部材 ( 以下, ペデスタル ) の底盤 ( 非構造部材 ) のコンクリート面に落下し, この周辺の鉄筋コンクリート部材. ならびに鋼製格納容器が極めて高温度に加熱されたと考えられる したがって, このことが鉄筋コンクリート部材の強度低下に及ぼした影響を推定する必要がある また, 通常運転時において, ペデスタルや遮蔽壁等は, 高温環境下, ならびに放射線の照射環境下に長期間曝されている それらの影響はまだ十分明らかになっていないが, 長期間の中性子照射により, 骨材の種類によってはその体積膨張が生じることが海外の文献により指摘されている 今回の事故時の加熱や海水注入が, それまでに熱や放射線の作用を長時間受けたコンクリートに及ぼす影響を推定する必要がある 以上の鉄筋コンクリート部材の残存性能評価のためには, 外力, ならびに環境条件の推定とともに, 現状の損傷程度の評価が不可欠である この評価のために適用可能な非破壊 微破壊 破壊試験方法を検討し, コンクリートの表面ひび割れ 欠損 強度低下 鉄筋腐食等の調査を早急, かつ継続的に実施する必要がある 人が容易に近づけない状況においては, ロボット等を用いた遠隔操作によるビデオ撮影や非 微破壊的な調査手法を確立する このような調査によって得られた情報に基づいて, コンクリートや鉄筋, さらには鉄筋コンクリート部材としての残存性能を評価することが必要である ( 構造物の将来における残存性能の推定 ) (2) 廃炉までの期間, 温度 湿度 放射線 塩化物等の影響を受けるコンクリートや鉄筋, さらには鉄筋コンクリート部材の長期にわたる残存性能の変化を推定するとともに, 必要に応じて構造体の補修 補強方法を検討し, 提案する 解説 水素爆発や熱的作用による損傷を受けた鉄筋コンクリート部材は, 将来の廃炉に至るまでの相当期間, 温湿度や放射線などの作用を受け続けながら建屋そのもの, ならびに原子炉圧力容器を 4

支持し続けなければならない そのためには, 損傷を受けた鉄筋コンクリート部材の変形特性や強度低下などの長期にわたる残存性能の変化に関する知見を集積しなければならない 特に, 原子炉の冷却のために海水が注入され, その後 40 前後の環境下において継続的な水の注入が行われたことにより, コンクリート中の鉄筋の腐食が促進される可能性がある このような状況における鉄筋コンクリート部材に対し, 想定される外力や環境条件などを整理し, 関連するコンクリートや鉄筋の耐久性に関する知見を踏まえて劣化度の予測手法を提案し, コンクリートや鉄筋さらには鉄筋コンクリート部材の長期にわたる残存性能の変化を推定する必要がある ( 放射性物質の漏洩防止 ) (3) 鉄筋コンクリート部材, ならびに機器 配管系の損傷を考慮し, 原子力発電所建屋からの放射性物質の拡散防止方法を確立する 解説 継続的に冷却水が注入されている現在, 汚染水の一部の外部への漏洩が懸念されており, 放射性物質の汚染拡大防止が必要とされている たとえば, 建屋内への地下水流入出の防止方法, 原子炉循環注水ラインの小ループ化のための原子炉格納容器周りの止水方法, さらには遮蔽性能の高い地中連壁等の構築による汚染水の周辺土壌中への拡散防止方法などの確立が必要と考えられる さらに, 構造物の損傷の定量化を踏まえ, 放射性物質の漏洩を防止するためのコンクリート技術, たとえば高流動コンクリートや水中不分離性コンクリート等による損傷部の遠隔充填技術などの具体的な手法を早急に整備する必要がある 一方, 今後の地震発生により原子炉圧力容器や配管系などが破損することで放射性物質がさらに拡散することも避けなればならない そのためには, 損傷 劣化した鉄筋コンクリート部材が機器ならびに配管系の耐震安全性に及ぼす影響を明らかにする必要がある 建屋の変形と機器の損傷は, 構造と設備の境界問題でもある 現在の原子力施設の機器, ならびに配管系に及ぼす支持部材の影響を明らかにし, 特に損傷危険度の高い部位を推定するとともに支持部材の残存性能の評価, ならびに必要ならばその補強方法を検討する必要がある さらに将来的には, 地盤 構造体 機器の3つの部分で構成される全体系の応答を算定して, 原子力施設がシステムとして頑健であることを確認する技術を, 関連分野と連携 協力して構築することが必要である E 復旧 復興に向けて ( がれきの処理と利用 ) (1) 地震や津波によって発生したがれきの処理と利用を効果的に行うための基準化, がれきを処理せずにそのまま利用するための技術的判断基準の確立, ならびにがれきに内在する成分の影響を勘案した利用等に役立てるために, 現行技術の集積と活用, ならびに新たな技術の開発を促進する 解説 5

地震や津波により発生したがれきには, コンクリートがらの他, 様々なものが含まれている がれき処理を効率的に行う上で分別が容易なものと困難なものがあるが, その他に考慮すべきものとして津波による塩化物や重金属の溶出, ならびに汚染が危惧されるものもある 問題のレベルに応じた対応をしなければならないことは勿論であるが, これらのがれきの中, 特にコンクリートがらは被災地の復旧のための貴重な資源でもある これらの材料を用途に応じて適材適所で使用できるように, 処理と利用を効果的に行うための区分化や基準化, 内在する成分の影響を勘案した活用技術の開発と利用方法の整備が必要である なお, 災害ごとに特別な基準を新たに定めなくてもよいように, 災害復旧用の基準をあらかじめ定めておき, 復旧段階ではそれを運用し, 復興段階では平常時の基準に速やかに移行できるような基準の整備が必要である ( 放射能汚染への対応 ) (2) 原子力発電所施設から周囲環境に放出された放射性物質の再拡散防止, ならびに放射性物質によって汚染されたコンクリートの除染や廃棄物の処理 処分に, コンクリート工学分野の技術を積極的に活用できるように, 有効な技術情報の提供を行う 解説 事故により放出された放射性物質の環境中への再拡散防止のために, 水との接触を低減して溶出を抑制したり, 飛散を防止するためにはセメント固化 ( 固形化, 不溶化 ) が有効な技術の一つである 放射性物質によって汚染された原子力発電所施設外のコンクリート構造物の除染とともに, 高線量の放射線で汚染された施設内の大量のコンクリートの合理的な除染が不可欠である 浸透した放射性物質の分布状況と空間線量率の関係に加え, 放射性物質の可溶性成分の存在割合などの把握が重要である 放射能汚染物質の中間貯蔵や最終処分において, 汚染レベルによっては, コンクリートの活用が求められる コンクリートに求められる要求性能を明確にするとともに, 経済的に合理的な範囲内で関連技術を活用し, 良質なコンクリート構造物を構築すべきである ( 放射能汚染レベルが十分に低い資材の活用 ) (3) コンクリートの安全性を確保した上で, 放射能汚染レベルが十分に低い建設資材の活用を検討するための技術的知見を整備する 解説 まず第一に, 放射能汚染の有無を適切に評価し, 安全で安心なコンクリートの供給を確実に行う必要がある その上で, 放射能汚染レベルが十分に低いコンクリート用材料については, リスクと便益のバランスを考えた上で, 用途を限定した再利用の可能性を検討すべきである 環境評価技術の確立とともに, 流通 供用 廃棄におけるトレーサビリティの確保や管理システムの構築, および情報開示体制の整備が不可欠である 6

F 提言の実現と他学協会等との連携 協力について 関連学協会や関係機関などとの連携 協力を引き続き図りながら, 提言の実現に取り組む 解説 ここに示した第二次提言の内容はコンクリート工学の面からのものではあるが, 解決すべき問題の範囲は広く, ここに掲げた提言の多くは日本コンクリート工学会のみで単独に実現できるものではないと認識している したがって, 今後も引き続いて関連する学会や協会, ならびに関係諸機関などとの連携 協力体制の下に提言の実現に取り組む必要がある 7