世界的なルーメンバイパスアミノ酸の利用 - アミノ酸バランスを整える エボニックジャパン株式会社
蛋白質の機能 からだの組織などをつくる コラーゲン ( 骨 皮 ) ケラチン ( 毛 爪 ) アクチン ミオシン ( 筋肉 ) カゼイン アルブミン からだの働きを助ける 酵素 抗体 ( 免疫グロブリン ) ホルモン
蛋白質の構造
蛋白質とアミノ酸 アミノ酸は蛋白質を構成するブロック アミノ酸の配列によって蛋白質の形状 化学活性や機能が決まる どの蛋白質もそれぞれに特有のアミノ酸組成を持つ たった一つでも必要なアミノ酸が不足すると その蛋白質を作れない
蛋白質とアミノ酸の流れ ルーメン 蛋白質の多く (~65%) とほぼ全ての遊離アミノ酸はルーメン内の微生物によってアンモニアに分解され 微生物蛋白質に再合成される 微生物は必須アミノ酸も合成することができるが 合成量には限度がある 飼料の蛋白質の中で分解されない部分はルーメンバイパス蛋白質 (RUP: ルーメン非分解性蛋白質 ) と呼ばれ ルーメンを通過する
蛋白質とアミノ酸の流れ ルーメン
蛋白質とアミノ酸の流れ 小腸 蛋白質は小腸で構成要素に分解される 遊離アミノ酸は小腸から細胞に運ばれ さらに血液に取り込まれる 一つか二つのアミノ酸が結びついた小さいペプチドは吸収できるが 蛋白質の形では吸収できない
なぜ蛋白質ではなくアミノ酸なのか 牛のアミノ酸要求量は胃を越えたところにある 飼料中の蛋白質のアミノ酸組成は飼料の種類によって違う 飼料中の蛋白質のルーメンバイパス率は飼料の種類によって異なる したがって小腸に到達する蛋白質のアミノ酸組成は飼料の種類によって大きく変わる
メチオニンは牛にとって最も不足しやすいアミノ酸のひとつ 過去 50 年間の文献を見ると乳牛にとっては明らかにメチオニンである 乳蛋白質のメチオニン含量は高い (2.7 % in CP) 微生物蛋白質のメチオニン含量は低い (~1.8 % in CP) 蛋白源として主に使用される大豆などの飼料はメチオニン含量の低いものが多い ほとんどの場合 メチオニンが第一制限アミノ酸となる リジンはその次の制限アミノ酸であり トウモロコシ由来の蛋白質の多い飼料ではメチオニンと共にリジンも不足しやすい
アミノ酸要求量を充足させる方法 飼料の粗蛋白 (CP) 含量を高める 非分解性蛋白質の給与を増やす ルーメンバイパスアミノ酸を利用する
1. 飼料中の蛋白質を増やす 分解性蛋白質の多給につながり 必要以上にルーメン内のアンモニア濃度が上昇する BUN( 血中尿素態窒素 ) MUN( 乳中尿素態窒素 ) の濃度が上昇する BUN の上昇は家畜の健康や繁殖成績に悪影響を及ぼす ( 日本飼養標準 乳牛 2006) 蛋白質の多給には限界がある
2. 非分解性蛋白質を利用する ルーメンバイパス率の高い飼料 バイパス率 コーングルテンミール 62 ビール粕 51 加熱大豆粕 45 大豆 ( ロースト ) 41 ( 日本標準飼料成分表 2009) 血粉 70 魚粉 65 肉骨粉 50 コストや利用可能性の面で制限がある
3. バイパスアミノ酸を利用する 余分な栄養素を与えずに効率良くアミノ酸の供給を高める メチオニンは制限アミノ酸であるため 他のアミノ酸の利用効率も高める 牛に給与する場合はルーメンで分解を免れるよう 保護 されたアミノ酸を与える必要がある ルーメンバイパスメチオニン (RP-Met)
バイパスメチオニンの利用 繁殖成績改善への期待
繁殖と栄養 繁殖成績を左右する要因は様々 代謝疾患 ( 脂肪肝など ) 伝染病 栄養 ( エネルギー 蛋白質 ) 発情発見 授精のタイミング 環境 ( 外部環境 生活環境 ) etc.
肝臓における脂肪代謝 エネルギー不足蛋白質不足 肝臓 脂肪細胞 リン脂質アポ蛋白質 乳腺 その他の組織 体脂肪分解 NEFA トリグリセリド コレステロール リポ蛋白質 (VLDL) エネルギー源乳脂肪合成
肝臓における脂肪代謝 エネルギー不足蛋白質不足 肝臓 脂肪細胞 リン脂質アポ蛋白質 乳腺 その他の組織 体脂肪分解 H NEFA トリグリセリド コレステロール リポ蛋白質 (VLDL) エネルギー源乳脂肪合成
リポ蛋白質とは? 脂質を運ぶ船である トリグリセリド (TG) コレステロール(C) リン脂質および何種類かのアポ蛋白質によって構成される 脂肪を肝臓から乳腺や他の組織に運び出す リポ蛋白質の構造 ( 略図 ) アポ蛋白質 リン脂質
リポ蛋白質 (VLDL) と栄養素の関わり リポ蛋白質 トリグリセリド コレステロール リン脂質 アポ蛋白質 ホスホコリン コリン メチオニン メチル基を供給
血漿パラメータと脂肪肝 2000 30 血漿中 β ヒドロキシ酪酸 (μm/l) 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 25 20 15 血漿中メチオニン (μm/l) 200 10-30 -20-10 0 10 20 30 40 50 60 Met( 通常 ) 分娩日数 ( 日 ) Met( 脂肪肝 ) BHBA( 通常 ) Shibano and Kawamura, 2006 - J. Vet. Med. Sci. 68:393 BHBA( 脂肪肝 )
血漿中アミノ酸と脂肪肝 分娩 1 週間前分娩後 1 週目分娩後 2 週目分娩後 4 週目 血しょう中濃度 (μm/l) 通常脂肪肝通常脂肪肝通常脂肪肝通常脂肪肝 メチオニン 41.2* 24.3 36.2 27.0 21.8* 16.5 24.0 22.9 リジン 71.2 73.5 89.4 84.6 45.0 56.3 62.9 55.4 アルギニン 97.1 83.2 72.4 71.1 82.8 68.1 77.9 75.2 システイン 42.1 43.7 41.3 44.8 44.0 41.2 22.5 34.5 総アミノ酸 2025 1762 1772 1841 1733 1691 2100 2225 *p < 0.05 Pechova et al., 2000 Acta Vet. Brno. 69:93
ケトーシス抑制への期待試験方法 供試動物 ホルスタイン種 20 頭 x 2 年平均乳量 ~8000 kg 試験方法 分娩 2 週間前 ~ 分娩後 100 日目 飼料構成 : 対照区 RP-Met 添加区 コーンサイレージ 28 % 27 % グラスサイレージ 21 % 19 % イアーコーンサイレージ 14 % 15 % ビール粕サイレージ 10 % 10 % 大麦 / エンドウ (90:10) 14 % 15 % 菜種粕 4 % 5 % 大豆粕 8 % 5 % スヘ シャルフィート ( ミネラルミックス RP-Met を含む ) - 5 % Engelhard and Helm, 1998 New Agriculture p64-68
ケトーシス抑制への期待結果ケトン体 泌乳日数 対照区 ( 個体数の割合 ) RP-Met 添加区 血中 β ヒドロキシ酪酸濃度 > 1.0 mmol 1-56 日 29 % 12 % 乳中アセトン濃度 > 0.5 ppm 1-56 日 41 % 28 % 63-98 日 17 % 3 % 乳中アセトン濃度 > 1.0 ppm 1-56 日 19 % 13 % 63-98 日 2 % 1 % Engelhard and Helm, 1998 New Agriculture p64-68
ケトーシス抑制への期待結果ケトーシス牛 ( 個体数の割合 ) 泌乳期間対照区 RP-Met 添加区 2 週目 5 % - 3 週目 5 % - 4 週目 10 % - 5 週目 5 % 9.5 % 6 週目 10 % - Engelhard and Helm, 1998 New Agriculture p64-68
農場での観察繁殖成績 アッシュ牧場 ( ペンシルバニア州 ) 試験区 (n) 平均 AI 回数 初回 AI までの日数 空胎日数 妊娠率 通常飼料 (20) 2.61 83 126 13/20 RP-Met 添加 (20) 2.00 65 118 14/20 差 -0.61-18 -8 有意差 NS 0.04 NS RP-Met(20g/ 頭 / 日 ) を泌乳期 160 日間給与
農場での観察繁殖成績 Fertility スピッツアー牧場 ( ウィスコンシン州 ) 試験区 (n) 平均 AI 回数 初回 AI までの日数 空胎日数 妊娠率 通常飼料 (28) 2.23 59 94 22/28 RP-Met 添加 (27) 1.81 50 88 23/27 差 -0.42-9 -6 有意差 NS 0.01 NS RP-Met(20g/ 頭 / 日 ) を泌乳期 160 日間給与
まとめ 牛にとって不足しやすいメチオニンをバイパスメチオニンで補うことにより期待できること 脂肪肝軽減 ケトーシス軽減 泌乳成績の向上 繁殖成績の改善
バイパスメチオニンの利用 飼料コストの削減
飼料コストとアミノ酸バランス アミノ酸のバランスが悪い飼料設計は無駄が多くなる 蛋白質の合成量の低下 エネルギーの浪費 ( 肝臓でのアンモニアの処理 ) 環境汚染 ( 窒素排出量の増加 ) 蛋白源となる飼料は高価 桶の理論 飼料のアミノ酸バランスを整えると 蛋白質の利用効率が高まる 高価な蛋白質飼料を減らせるため 飼料全体のコストを下げながら泌乳成績も維持または向上できる
アミノカウ アミノカウ : アミノ酸のバランスを簡単に確認できる飼料設計プログラム
アミノ酸のバランスを整える方法 飼料設計例 ( 北海道 N 牧場 ) 体重 644 kg 乳量 40 kg 乳脂肪 4.0% 乳蛋白質 3.4% ( 乾物摂取量 25.0 kg) 6.4 kg グラスサイレージ 5.2 kg コーンサイレージ 9.8 kg 配合飼料 ( 穀類 56% 油粕類 28% そうこう類 6%) 1.8 kg ビートパルプ混合飼料 0.4 kg 圧ぺんトウモロコシ 0.5 kg バイパス蛋白 & バイパス油脂サプリメント (34% CP) 0.2 kg ビートパルプ / 糖蜜 65:35 0.1 kg 炭酸カルシウム 0.5 kg 加熱処理大豆 (43% CP)
アミノ酸の供給元の飼料設計 140 120 107% 113% 128% 121% Original ration 15.9 % CP 111% 要求量に対する充足率 (%) 100 80 60 40 91% 20 0 メチオニン Met リジン Lys ロイシン Leu イソロイシン Ile バリン Val ヒスチジン His 代謝アミノ酸
飼料設計の変更蛋白質を減らし エネルギーを補給 加熱処理大豆 - 0.5 kg バイパス蛋白 & バイパス油脂 - 0.3 kg ビートパルプ / 糖蜜 65:35-0.25 kg 配合飼料 + 0.9 kg 圧ぺんトウモロコシ + 0.2 kg
余剰のアミノ酸が減り 要求量に近づく 要求量に対する充足率 (%) 140 120 100 80 60 40 107% 102% 113% 109% 128% 123% 121% 117% Original ration 15.9% CP AA balanced 15.4% CP 111% 107% 20 0 Met Lys Leu Ile Val His メチオニンリジンロイシンイソロイシンバリンヒスチジン 代謝アミノ酸
不足するメチオニンをバイパス製剤で補う 要求量に対する充足率 (%) 140 120 100 80 60 40 バイパスメチオニン 107% 102% 113% 109% 128% 123% 121% 117% Original ration 15.9% CP AA balanced 15.4% CP 111% 107% 20 0 Met Lys Leu Ile Val His メチオニンリジンロイシンイソロイシンバリンヒスチジン 代謝アミノ酸
飼料コスト計算 - 0.5 kg 加熱大豆 (85 円 /kg) - 42.5 円 / 頭 / 日 - 0.25 kg ビートパルプ / 糖蜜 (50 円 /kg) - 12.5 円 / 頭 / 日 - 0.3 kg バイパス蛋白 バイパス油脂 (80 円 /kg) - 24.0 円 / 頭 / 日 + 0.9 kg 配合飼料 (45 円 /kg) 40.5 円 / 頭 / 日 + 0.2 kg 圧ぺんトウモロコシ (45 円 /kg) 9.0 円 / 頭 / 日 + 0.011 kg バイパスメチオニン (1,800 円 /kg) 19.8 円 / 頭 / 日 飼料コスト削減 - 9.7 円 / 頭 / 日 余分な蛋白質を減らすことで飼料コストが削減できる
飼料の蛋白質レベルを下げても泌乳成績は維持できる アミノ酸バランスの整った飼料設計 余剰のアミノ酸は少なく 不足するアミノ酸は補う 飼料の蛋白質のレベルは下がる 飼料を低蛋白質化した飼養試験は多く行われている 泌乳成績は維持できる MUNは低下する 窒素排出は低減する 窒素効率は改善する
バイパスメチオニンの利用 泌乳成績への影響
ウィスコンシン州フィールド試験 19の牛群 平均 74 頭 / 群 ( 総頭数 1406 頭 ) 牛群の平均泌乳成績乳量 10730 kg 乳脂肪 403 kg (3.8 %) 乳蛋白質 341 kg (3.2 %) 従来の飼料 VSアミノ酸バランスを整えた飼料 従来飼料の平均 CP 17.6% アミノ酸バランス飼料の平均 CP 16.8% Armentano et al., 1998
ウィスコンシン州フィールド試験結果 従来飼料 Existing アミノ酸バランス飼料 Amino Acid 有意差 Difference at p < 0.10 Milk kg 33.90 34.00 No 乳量, kg/ 日 Fat % 3.79 3.70 No 乳脂肪率, % Protein % 3.24 3.29 Yes 乳蛋白質率, %
ウィスコンシン州フィールド試験まとめ 従来飼料の平均 CPは17.6% アミノ酸バランス飼料の平均 CPは16.8% 乳量は同程度であった 乳蛋白質率はアミノ酸バランス飼料で有意に向上した 飼料コスト節約 : 0.06ドル / 頭 / 日 約 - 7 円 / 頭 / 日
ハンガリーフィールド試験 供試頭数 2 x 100 平均乳量 (kg/year) 9000 平均乳脂肪率 (%) 4.00 平均乳蛋白質率 (%) 3.15 3 回搾乳 TMR 飼料 二つのグループに分け 従来の飼料またはアミノ酸バランスを整えた飼料を与えた
ハンガリーフィールド試験結果 従来飼料 アミノ酸バランス飼料 乳量 (kg) 38.5 39.1 乳脂肪 (%) 3.95 03.95 乳脂肪 (kg/d) 1.52 01.54 乳蛋白質 (%) 3.14 03.20 乳蛋白質 (kg/d) 1.21 01.25 飼料コスト 28.9 26.1 (HUF/kg milk) 10% の飼料コスト減
ドイツフィールド試験 供試頭数 45 平均乳量 (kg/year) 9500 平均乳脂肪率 (%) 4.15 平均乳蛋白質率 (%) 3.40 2 回搾乳 TMR 飼料 二つのグループに分け 従来の飼料またはアミノ酸バランスを整えた飼料を与えた
ドイツフィールド試験結果 従来飼料 アミノ酸バランス飼料 乳量 (kg) 32.3 32.9 乳脂肪 (%) 3.81 003.81 乳脂肪 (kg/d) 1.18 001.21 乳蛋白質 (%) 3.58 003.56 乳蛋白質 (kg/d) 1.10 001.15 乳中尿素 (mg/100ml) 315 262 飼料コストは 1 日 1 頭あたり 19 ユーロセント減少した 約 - 27 円 / 頭 / 日
3 つのフィールド試験から 飼料のアミノ酸バランスを整えることで 飼料 CP のレベルが下がり 飼料コストを低減しながら 泌乳成績は少なくとも維持 または向上する
アミノ酸バランスを整えることによる利益 蛋白質の低減による飼料コストの削減 アミノ酸の効率的な供給による蛋白質合成量の増加 高蛋白質の原料を減らすことで栄養バランスを整え 代わりに粗飼料やより安価な飼料の利用を増やすことが可能 低蛋白質飼料の給与 環境への窒素汚染の低減 牛群の健康状態の改善 疾病予防や繁殖改善への期待