D-Report秋号_0919

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わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

フレイルのみかた

< 糖尿病療養指導体制の整備状況 > 療養指導士のいる医療機関の割合は増加しつつある 図 1 療養指導士のいる医療機関の割合の変化 平成 20 年度 8.9% 平成 28 年度 11.1% 本糖尿病療養指導士を配置しているところは 33 医療機関 (11.1%) で 平成 20 年に実施した同調査

News Release 報道関係各位 2015 年 6 月 22 日 アストラゼネカ株式会社 40 代 ~70 代の経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんと 2 型糖尿病治療に従事する医師の意識調査結果 経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんは目標血糖値が達成できていなくても 6 割が治療

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標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

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高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

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糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

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血糖変動を読み解く vol.1

糖尿病の治験から CRC 業務を考える ~ 糖尿病治験を経験して ~ JASMO 第 11 回 CRC 継続研修会 2010 年 2 月 27 日 ノイエス株式会社 畑中かおる

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人


2009年8月17日

助成研究演題 - 平成 27 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 改良型 STOPP を用いた戦略的ポリファーマシー解消法 木村丈司神戸大学医学部附属病院薬剤部主任 スライド 1 スライド 2 スライド1, 2 ポリファーマシーは 言葉の意味だけを捉えると 薬の数が多いというところで注目されがちで

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婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

こうすればうまくいく! 薬剤師による処方提案

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セッション 6 / ホールセッション されてきました しかしながら これらの薬物療法の治療費が比較的高くなっていることから この薬物療法の臨床的有用性の評価 ( 臨床的に有用と評価されています ) とともに医療経済学的評価を受けることが必要ではないかと思いまして この医療経済学的評価を行うことを本研

3 スライディングスケール法とアルゴリズム法 ( 皮下注射 ) 3-1. はじめに 入院患者の血糖コントロール手順 ( 図 3 1) 入院患者の血糖コントロール手順 DST ラウンドへの依頼 : 各病棟にある AsamaDST ラウンドマニュアルを参照 入院時に高血糖を示す患者に対して 従来はスライ

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複製 転載禁止 The Japan Diabetes Society, 2016 糖尿病診療ガイドライン 2016 CQ ステートメント 推奨グレード一覧 1. 糖尿病診断の指針 CQ なし 2. 糖尿病治療の目標と指針 CQ なし 3. 食事療法 CQ3-2 食事療法の実践にあたっての管理栄養士に

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資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

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1 基本健康診査基本健康診査は 青年期 壮年期から受診者自身が自分の健康に関心を持ち 健康づくりに取り組むきっかけとなることを目的に実施しています 心臓病や脳卒中等の生活習慣病を予防するために糖尿病 高血圧 高脂血症 高尿酸血症 内臓脂肪症候群などの基礎疾患の早期発見 生活習慣改善指導 受診指導を実


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インスリン治療は良好な血糖値の維持に有効であり 早期に投与を開始することで糖尿病の進行を遅らせるとともに 合併症のリスクを抑制する重要な治療法です 近年様々な新規製剤が登場したことにより 積極的な治療が可能となった一方 それに伴う 低血糖 リスクの増加が未だ課題として懸念されています 今日のインスリ

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未承認の医薬品又は適応の承認要望に関する意見募集について

調査の概要 本調査は 788 組合を対象に平成 24 年度の特定健診の 問診回答 (22 項目 ) の状況について前年度の比較から調査したものです 対象データの概要 ( 全体 ) 年度 被保険区分 加入者 ( 人 ) 健診対象者数 ( 人 ) 健診受診者数 ( 人 ) 健診受診率 (%) 評価対象者

<4D F736F F F696E74202D208E9197BF315F817582C782B182C582E0826C C B4C985E82C98AD682B782E98DEC8BC EF92868AD495F18D902E B8CDD8AB B83685D>

為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました

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④資料2ー2

2) 各質問項目における留意点 導入質問 留意点 A B もの忘れが多いと感じますか 1 年前と比べてもの忘れが増えたと感じますか 導入の質問家族や介護者から見て, 対象者の もの忘れ が現在多いと感じるかどうか ( 目立つかどうか ), その程度を確認する. 対象者本人の回答で評価する. 導入の質

練馬区国保における糖尿病重症化 予防事業について 平成 29 年 3 月 6 日練馬区区民部国保年金課 1 東京都糖尿病医療連携協議会配布資料

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

改訂糖尿病診断基準とHbA1cに関する記述の原則と実例

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当院人工透析室における看護必要度調査 佐藤幸子 木村房子 大館市立総合病院人工透析室 The Evaluation of the Grade of Nursing Requirement in Hemodialysis Patients in Odate Municipal Hospital < 諸

糖尿病と治療の目的 糖尿病とは 糖尿病とは 体内でインスリンというホルモン p.3参照 が不足したり はたらきが悪くなったりすることによって 血液中に含まれる糖 血糖 の値が高い状態が続く病気です 糖尿病 患者さんの 場合 健康な 人の場合 インスリンによって糖が細胞に取り込まれ 血液中の糖が使われ

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医療事故防止対策に関するワーキング・グループにおいて、下記の点につき協議検討する

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佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

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(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

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Q2 なぜ上記の疾患について服薬指導が大変だと思いますか インフル エンザ その場で吸入をしてもらったほうがいいけれど 時間がかかるのと 熱でぼーっ 一般内科門前薬局 としていると 理解が薄い 患者さんの状態が良くないことが多い上に 吸入薬を中心に 指導が煩雑である から 小児科門前薬局 吸入薬の手

学位論文審査結果報告書

激増する日本人糖尿病 ( 万人 ) 2,500 糖尿病の可能性が否定できない人 (HbA1c 6.0~6.4) 糖尿病が強く疑われる人 (HbA1c 6.5% 以上 ) 2,210 万人 2,000 1,500 1,000 1,620 万人 1,370 万人 万人 880 万人 +

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症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

1. 趣旨 目的 香川県糖尿病性腎症等重症化予防プログラム 香川県医師会香川県糖尿病対策推進会議香川県国民健康保険団体連合会香川県 本県では 糖尿病患者の人口割合が全国上位にあり 糖尿病対策が喫緊 の課題となっている 糖尿病は放置すると網膜症や腎症 歯周病などの合 併症を引き起こし 患者の QOL

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インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

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看護師の注射指導スキルを高め 治療介入が容易となる環境を整える これらを効率的に安全に達成するためには地域内での情報交換も必須であり 医療者の 顔のみえる 関係も重要である また正しい知識を共有しそれに基づいた指導をすること 他職種の業務範囲を厳密に把握することも必要である また このようなネットワ

大阪医科大学医師会会報 第37号

ここが知りたい かかりつけ医のための心不全の診かた

家族の介護負担感や死別後の抑うつ症状 介護について全般的に負担感が大きかった 割合が4 割 患者の死亡後に抑うつ等の高い精神的な負担を抱えるものの割合が2 割弱と 家族の介護負担やその後の精神的な負担が高いことなどが示されました 予備調査の結果から 人生の最終段階における患者や家族の苦痛の緩和が難し

平成14年度研究報告

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

糖尿病予備群は症状がないから からだはなんともないの 糖尿病予備群と言われた事のある方のなかには まだ糖尿病になったわけじゃないから 今は食生活を改善したり 運動をしたりする必要はない と思っている人がいるかもしれません 糖尿病予備群の段階ではなんの症状もないので そう考えるのも無理はないです しか

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

第三問 : 次の認知症に関する基礎知識について正しいものには を 間違っているものには を ( ) 内に記入してください 1( ) インスリン以外にも血糖値を下げるホルモンはいくつもある 2( ) ホルモンは ppm( 百万分の一 ) など微量で作用する 3( ) ホルモンによる作用を内分泌と呼ぶ

ケア困難患者や家族への直接ケア 医療スタッフへのコンサルテーション 退院や倫理的問題を調整する調整 ケアの質を改善 向上させるための教育と研究を実践し CNS が関わることで患者の病状や日常生活機能と社会的機能が改善して 患者と家族の QOL が高まり 再入院が減少することが明らかとなってきておりま

DRAFT#9 2011

Transcription:

Diabetes Report

朝と夕犬と一緒に一万歩

座談会 日本の高齢糖尿病患者の治療実態から考える 質の高い 糖尿病診療の実践 高齢 2 型糖尿病患者の低血糖に関する実態調査結果より 司会土井邦紘 横野浩一北播磨総合医療センター病院長 福田正博日本臨床内科医会常任理事 ( 発言順 ) 日本臨床内科医会学術部学術委員会内分泌 代謝班班長 土井邦紘横野浩一福田正博 血糖コントロールに起因した低血糖の発生は 生命予後の悪化をもたらすのみならず うつや認知症 転倒に伴う骨折などのリスクを高め 患者の quality of life(qol) を悪化させる可能性が高い しかし 特に高齢者では低血糖に気づきにくく また 隠れ低血糖 を有する患者も少なくないと考えられる そこで日本臨床内科医会では 高齢 2 型糖尿病患者における低血糖に関する実態調査を実施し 2014 年の第 57 回日本糖尿病学会年次集会 ( JDS 2014) でその結果を報告した 今回 調査結果から明らかになった高齢者の糖尿病治療における低血糖の実態を紹介しつつ 本領域のエキスパートをお迎えして 高齢者の 質の高い 糖尿病診療を実践するためのポイントについて話し合った 福田当院にも高齢の糖尿病患者さんが非常に多いのですが 以前 地区医師会で糖尿病に関連した臨床研究を実施した際 65 歳以下の患者さんが非常に少なく リクルートに大変苦労した経験があります かかりつけ医が診ている糖尿病患者さんは ほとんどが高齢者といっても過言でなく 糖尿病患者の高齢化を実感しています 高齢 2 型糖尿病患者での低血糖に関する実態を調査 因であるといわれます 質の高い糖尿病診療を実践 求められる フレイル を意識した高齢者の糖尿病診療 するためにも 糖尿病診療に携わる先生方には 高齢糖尿病患者のQOLや予後の悪化につながるサル コペニア さらにはフレイルについての理解をより 土井 高齢者の糖尿病治療において 今 注目す 土井 本日は 高齢者における糖尿病の特徴とそ 深めていただきたいと感じています べき点は何でしょうか れらをふまえたよりよい診療のあり方について話し合っていきたいと思います 加齢は身体や精神にさまざまな変化をもたらします このため 高齢者では治療にあたって 青 壮年者とは異なる配慮が必要になりますね 土井高齢糖尿病患者の治療においては そのような個々人の体力や認知 機能などを考慮した対応が必要だということですね 横野その通りです 身体面や精神面ばかりでなく社会面においても大きな多様性をもつのが高齢糖 横野今回の JDS 2014 においても高齢者の糖尿病を取り上げた演題が多くみられ 高齢化社会を背景にした関心の高さがうかがえました 特に 低血糖と認知症への関心は高いようで 私が共同座長を務めたシンポジウム 今 そこにある危機 - 超 横野 はい 高齢者は加齢に伴いさまざまな機能 尿病患者の特徴ですから 年齢や血糖値のみでは 高齢時代の糖尿病診療 - では 6 人のシンポジス が低下した フレイル という状態に陥りがちです フレイル とは日本老年医学会の命名によるもので なく 患者さん個人の総合的な状態を診て 治療指針や治療目標を決めていくことが重要です 高 トのうち 3 人が低血糖に重点を置いた講演をされたのが印象的でした すが もともとは英語の虚弱 (frailty) に由来して 齢の糖尿病患者は増え続けています また 超少 土井 確かに 低血糖は糖尿病治療における重大 おり 健康と病気 ( 身体機能障害 ) の 中間的段階 と位置づけられています ( 図 1) 高齢者の多くは この状態を経て生活機能障害や要介護状態 死亡に至るとされます 以前は 筋力低下や身体活動性の低下など身体面での虚弱 ( サルコペニア ; 加齢に伴う筋力低下や筋肉量減少 ) がフレイルの要件とされていましたが その後 認知症な 子化の中で自己管理の難しい高齢患者さんを支えるキーパーソンは枯渇しており 老老介護や認認介護も珍しくありません さらに 認知症やうつなどの合併で服薬アドヒアランスの低下した高齢者の血糖管理をどう進めていくかは 多くの臨床医の関心事といえるでしょう な課題です 特に高齢者では 認知機能や自律神経機能の低下などにより 本人や医師が気づかない 隠れ低血糖 を生じている可能性が高いと考えられます そこで 日本臨床内科医会では 質の高い 糖尿病診療実践のために そのような糖尿病治療に伴う低血糖の実態を把握することを目的と どの精神面 あるいは社会面での 虚弱も加えられました 具体的には 加齢に伴う身体的問題 ( 筋力 の低下 動作の俊敏性低下 転倒 リスク増加など ) 精神 心理的問 題 ( 認知機能障害 うつなど ) 社 会的問題 ( 独居 経済的困窮など ) を抱えた状態の高齢者がフレイル とされます ( 図 1) サルコペニアはインスリン抵抗 性の原因になる一方で 糖尿病そ のものが二次性サルコペニアの原

して アンケート調査を実施しました 福田高齢者の糖尿病治療において 低血糖が QOLや予後を悪化させる重大な課題であることは周知のとおりです ところが 高齢者はしばしば非典型的な症状を呈することが多く そのため低血糖への対応が遅れて 低血糖の重症化を招く可能性が高くなります 今回の JDS 2014 の低血糖のセッションでも 高齢者は重篤な低血糖になって運ばれてくるケースが多く 予後も不良であることが指摘されていました そのような状況を未然に防ぐためには 高齢者の低血糖を早期に的確に判断するべきであるとの理由で 今回の調査が実施されたわけです 28 項目からなる自覚症状のチェックシートを作成し 過去 1ヵ月間の低血糖の有無とどのような症状を経験したかを 患者と主治医それぞれにアンケート調査を行いました ( 表 1) 2012 年 10 月 2013 年 12 月に外来通院中の 65 歳以上の 2 型糖尿病患者を対象に実施され 最終的に 1 万 5892 名から回答を得て その集計結果を JDS 2014で発表したのです ( 図 2) 隠れ低血糖 の存在と高齢者における低血糖の具体的な症状 土井今回の調査結果について 簡単にご紹介ください 福田回答者の内訳は 男性が 52.5% 女性が 47.5% で 平均年齢 74.2 歳 身長と体重 ( 平均 ) はそれぞれ 157. 2 cm と59.8kg でした ( 図 2) 直近 1ヵ月の低血糖発現率は 主治医の判断では 7. 8% であったのに対し 患者自身の申告では 10.4% と 患者申告のほうが 2.6% 高いことが明らかになりました ( 図 3) これは患者が低血糖を起こしていても主治医が認識できていない可能性があることを意味しています 主治医はもう少し緻密に問診を行わなくてはなりません さらに 自覚症状チェックシートの結果では 低血糖で生じることの多い 冷や汗 動悸 手のふるえ ボーっとした感じ やたらあくびがでる 空腹時のイライラ 冷感 強い空腹感 にチェックをいれていた患者の割合は31.2% と 主治医と患者が 低血糖と回答した割合を大きく上回っていました これはすなわち 患者本人も主治医も気づかない 隠れ低血糖 の存在を示唆すると考えられます 主治医が 低血糖あり と判断した患者の自覚症状として多かったのは 冷や汗 体がだるい ふらつき ( 約 30%) 次が 目のちらつき ボーっとした感じ ( 約 25%) そして 手のふるえ 強い空腹感 動悸 ( 約 20%) でした 一方 物忘れ など老年症候群に関連する症状は 低血糖あり 群と 低血糖なし 群でほとんど差が認められませんでした 多変量解析の結果 低血糖の最も強力な判断因子となったのは 冷や汗 であり 次に 強い空腹感 ボーっとした感じ ふらつき 目のちらつき などが続き これまで低血糖の症状と認識されていたものとは少々異なる症状が実際には多いことがわかりました 高齢者の診療にあたっては このような症状についても注意深く問診し 低血糖を見逃さないようにしていかなくてはならないと感じます 横野 冷や汗 を除いて 手のふるえ 動悸 といった自律神経症状よりも 強い空腹感 ボーっとした感じ ふらつき といった脳の低グルコース症状とされるものが自覚症状として多いという点は重要ですね 福田今回の調査を通じて私は 一般臨床の先生方が 糖尿病のことをよく勉強されているとの印象をもちました しかし 医師が思っている以上に 患者さんは低血糖を起こしていること その対策があまりなされていないことが明らかになりましたので われわれ医師は これまで以上に患者への語りかけを増やし 低血糖についての啓発を行っていかなくてはならないと感じます 質の高い 診療のためにめざすべき血糖目標値とは 土井では 実際の高齢者の血糖コントロールはどのように行えばよいのでしょうか 横野目標をどう設定するかが最も重要な点です 65 歳以上の高齢糖尿病患者における血糖コントロールに関して 現時点での最新エビデンスを 反映した最も信頼できる指針は 2012 年 10 月に米国糖尿病学会 (ADA) と米国老年医学会 (AGS) が発表したコンセンサスステートメントです ( Kirkman MS, et al. Diabetes Care. 2012; 35: 2650-2664/J Am Geriatr Soc 2012; 60: 2342 2356) このステートメントは 糖尿病合併症ではなく うつ 心不全 慢性腎臓病 (CKD) などの高齢者に多い併存症をもとに 患者の状況 健康状態を分類しているのが特徴で 併存症の数と程度 認知機能低下および日常生活動作 (activities of daily living, ADL) の程度をもとに 1 併存症が少なく認知または機能状態に全く問題がない 低リスク群 2 複数の併存症に罹患 または手技的 ADL が 2 つ以上低下 または軽度 中等度の認知機能低下を認める 中等度リスク群 3 長期治療中あるいは末期の併存症を有する または中等度 重度の認知機能低下 または要介護状態 ( 基礎的 ADL が 2 つ以上低下 ) を認める 高リスク群 の 3 段階に分類して 個々に HbA1c 目標値を提示しています 各群における妥当なHbA1c(NGSP) 目標値は 低リスク群が 7.5% 未満 中等度リスク群が 8.0% 未満 高リスク群が 8.5% 未満とされていますが いずれも低血糖が出現する場合 または血糖維持に多大な努力を要する場合は 下限を設けるよう但し書きがされています つまり 低血糖リスクが高く 強力な血糖降下治療が行えない患者に対しては HbA1c が下がりすぎないように調整するということです さらに このステートメントは 空腹時血糖値 就寝前血糖値についても下限を明記して下げすぎへの注意を喚起する形で規定している点 さらに 血圧 脂質の管理についても管理目標を提示している点で 素晴らしい指針だと考えます 日本では 前向き大規模臨床介入研究である Japanese Elderly Diabetes Intervention Trial (J-EDIT) が適切なコントロールのよい根拠となると考えます この研究では 6 年間の追跡の結果 高齢 2 型糖尿病患者に対しては低血糖などの種々の障害を回避しながらの穏やかな血糖コントロールに加え 血圧 脂質などの総合的管理が重要なことを明らかにしています HbA1c(NGSP) 目標値については 低リスク群で 6.5 7.5% 高リスク ( フレイル ) 群で 7.5 8.5% と やはり低リスク群と高

リスク群に分けて下限を設けた提起がされています 高齢糖尿病患者の約半数が DPP-4 阻害薬を使用 土井そのような血糖コントロール目標達成に向けて 高齢糖尿病患者さんでどのような薬物治療を行うかも重要です 実態調査からの結果はいかがでしたか 福田 dipeptidyl peptidase(dpp)- 4 阻害薬が 53.5% と最も使用されており スルホニルウレア ( SU) 薬は 39.3% と 2 番目に多く インスリンは 16.8% に使用されていました ( 図 4) これらの薬剤の多くは 単剤ではなく併用で使用されていました これが かかりつけ医のもとでの高齢者の糖尿病薬物治療の状況です 横野 DPP- 4 阻害薬が半数以上の患者で用いられていたわけですね 土井やはり 安全性の点から DPP- 4 阻害薬の使用が増えているのだと思います 治療薬と低血糖の発現にはどのような関係がみられましたか 福田単剤投与における低血糖の発現は医師の回答でも患者の回答でも やはりインスリンがいずれも30% 以上と最も多く DPP- 4 阻害薬での低血糖発現率は医師の回答で 1.7% 患者回答で 3.3% SU 薬はそれぞれ 4.0% と6.1% でした SU 薬で意外と少ないのは 単剤のみのデータであったためではないかと思います また 確かに DPP-4 阻害薬単剤使用における低血糖の発現は少ないのですが インスリンを併用するとやはり増えてきます しかし 興味深いことに DPP- 4 阻害薬とインスリンの使用 未使用の組み合わせで検討してみると DPP- 4 阻害薬未使用 インスリン使用の場合に比べて 両者を併用したときのほうが低血糖の発現が少ないことがわかりました ( 図 5) SU 薬とDPP- 4 阻害薬の組み合わせでも同様の結果が得られています これはおそらく DPP- 4 阻害薬を併用する場合には インスリンあるいは SU 薬の用量が低く抑えられているためではないかと思います また 日常臨床においては DPP- 4 阻害薬を上乗せすることによって血糖の日内変動の振れ幅が小さくなることも経験しますので それも理由の 1 つかもしれません 横野非常に興味深いデータだと思います 日本糖尿病学会による DPP- 4 阻害薬と併用してインスリンを減量していきましょう という勧告について データによる裏づけが示されたわけですね さらに その勧告が一般臨床医の先生方に浸透してきていることも表しているのでしょう これからの高齢糖尿病患者での薬物療法はどうあるべきか 土井多種多様な糖尿病治療薬があるなかで 高齢者の薬物療法はどのように進めていくべきでしょうか 横野高齢糖尿病患者の薬物療法に関するステートメントはまだありませんが 特に高齢者では血糖の日内変動をなるべく小さく抑え 低血糖を回避しながら血糖を目標値にコントロールしていくことが望まれます 今回の調査結果から インスリンもSU 薬もDPP-4 阻害薬を併用することで低血糖が少なくなることが示されたことを考えると 高齢糖尿病患者の薬物療法は今後 DPP- 4 阻害薬を中心に進んでいくだろうという印象をもちました そのなかでも 多くの使用経験が蓄積されている薬剤が実臨床では使いやすいかもしれません また 認知症やうつなどの合併により服薬アドヒアランスが低下しがちな高齢者では 1 日 1 回投与の DPP- 4 阻害薬が特に有用ではないでしょうか 土井最近 sodium glucose cotransporter(sglt) 2 阻害薬という新たな選択肢も加わりましたね 福田 SGLT2 阻害薬は血糖低下に加えて体重減少をもたらすことで 大きな期待が寄せられています しかし 高齢者ではメタボ体型の元気な方にはよいかもしれませんが フレイルやサルコペニアのある方の場合には使用を避けるべきでしょう 単に年齢で判断するのではなく 患者個人の特性を見極めたうえで注意して使用していかねばならないと思います また 脱水や女性での性器感染症 尿路感染症への注意も必要です 横野皮疹などの副作用への留意も必要ですね 新規薬剤ですから 慎重に使用経験を重ねるべきだと思います 土井本日は 高齢者糖尿病の特徴および糖尿病治療での低血糖の状況を中心にお話を進めてきました 日本臨床内科医会では 今回の患者実態調査に続き 現在 DPP- 4 阻害薬の使用実態と治療成果を調査研究する SMILE STUDYを開始しています 1 万例のデータ集積をめざし 現在約 7000 例の登録が終了したところですが この研究により高齢者糖尿病のよりよい診療に向けた貴重な情報が得られるのではないかと期待しています 本日は貴重なお話をありがとうございました PROFILE 土井邦紘兵庫県立神戸医科大学 ( 現神戸大学 ) 卒業 カナダ トロント大学生理学ベスト医学研究所留学 神戸大学講師 ( 第二内科学講座 ) 神戸大学医学部代謝機能疾患治療部( 第二内科 ) 助教授などを経て 平成 4 年 8 月に土井内科を開設 京都大学医学部非常勤講師も務めた 専門は糖尿病 横野浩一神戸大学医学部卒業後 同大学第二内科入局 米国 カリフォルニア大学サンフランシスコ校附属細胞生物学研究所留学 神戸大学大学院医学研究科老年内科学教授 同大学理事 副学長などを経て 平成 25 年 10 月より北播磨総合医療センター病院長 日本糖尿病学会理事 日本老年医学会理事なども務める 専門は高齢者糖尿病の治療と管理 福田正博滋賀医科大学卒業後 大阪大学第四内科入局 米国 ハーバード大学ジョスリン糖尿病センター留学 豊中渡邉病院内科部長などを経て 平成 8 年 11 月にふくだ内科クリニックを開設 大阪府内科医会会長 近畿大学内分泌 代謝 糖尿病内科非常勤講師 大阪府医師会生涯教育委員会委員長などを務める 専門は糖尿病

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