この台風による和歌山県全域での被害をみると, 人的被害は, 死者 56 人 ( うち災害関連死 6 人 ), 行方不明者 5 人, 負傷者 9 人, 物的被害は, 全壊 371 棟, 半壊 1,842 棟, 一部破損 171 棟, 床上浸水 2,680 棟, 床下浸水 3,147 棟, 浸水被害 1

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実施概要 平成 5 年度第 回災害対策等緊急事業推進費 ( 主な対策の ). 梅雨前線に伴う豪雨により被害を受けた地域における対策 5 件 674 百万円 ( 国費 ) 具体的には ()~(5) のとおり () 河川 ( 補助 ) (5) 国道 ( 直轄 ) よどがわすいけいふるかわ 平成 5 年

土木学会論文集の完全版下投稿用

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平成 26 年度公共事業事後評価調書 1. 事業説明シート (1) ( 区分 ) 国補 県単 事業名道路事業 [ 国道橋りょう改築事業 ( 国補 )] 事業箇所南巨摩郡身延町波高島 ~ 下山地区名国道 300 号 ( 波高島バイパス ) 事業主体山梨県 (1) 事業着手年度 H12 年度 (2) 事

近畿地方整備局 資料配付 配布日時 平成 23 年 9 月 8 日 17 時 30 分 件名土砂災害防止法に基づく土砂災害緊急情報について 概 要 土砂災害防止法に基づく 土砂災害緊急情報をお知らせします 本日 夕方から雨が予想されており 今後の降雨の状況により 河道閉塞部分での越流が始まり 土石流

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地すべり学会関西支部大豊地すべり調査 調査報告 メンバー高知大学笹原克夫, 日浦啓全 ( 名誉教授 ) 徳島大学西山賢一京都大学松浦純生, 末峯章, 土井一生国土防災技術 ( 宮本卓也, 井上太郎 相愛山崎尚晃, 松田誠司 四国トライ松尾俊明, 吉村典宏長崎テクノ 讃岐利夫木本工業株西森興司町田博一

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【論文】

家族みんなの防災ハンドブック 保存版

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プレゼンテーションタイトル

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災害復旧制度の目的と沿革 目的 自然災害により被災した公共土木施設を迅速 確実に復旧する 対象施設 河川 海岸 砂防設備 林地荒廃防止施設 地すべり防止施設 急傾斜地崩壊防止施設 道路 港湾 漁港 下水道 公園 沿革 古くは明治 14 年より予算補助の形での国庫補助 明治 32 年 災害準備基金特別

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1.3 風化 侵食状況

平成 29 年 12 月 1 日水管理 国土保全局 全国の中小河川の緊急点検の結果を踏まえ 中小河川緊急治水対策プロジェクト をとりまとめました ~ 全国の中小河川で透過型砂防堰堤の整備 河道の掘削 水位計の設置を進めます ~ 全国の中小河川の緊急点検により抽出した箇所において 林野庁とも連携し 中

01評価調書(大柳仁豊野線)V6(路肩1.5mVer).pptx

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気象庁技術報告第134号表紙#.indd

新都市社会技術融合創造研究会研究プロジェクト 事前道路通行規制区間の解除のあり方に関する研究

第 2 章横断面の構成 2-1 総則 道路の横断面の基本的な考え方 必要とされる交通機能や空間機能に応じて, 構成要素の組合せ と 総幅員 総幅員 双方の観点から検討 必要とされる道路の機能の設定 通行機能 交通機能アクセス機能 滞留機能 環境空間 防災空間 空間機能 収容空間 市街地形成 横断面構

Microsoft Word - ver41 技術発表会の原稿(H27)

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平成 31 年度宮崎河川国道事務所災害時協力会社募集要項 1. 目的宮崎河川国道事務所では 管理する大淀川 小丸川 宮崎海岸 国道 10 号 国道 220 号 東九州自動車道 霧島砂防を主に 災害が発生し または発生のおそれがある場合に迅速な状況把握 ならびに的確な災害対応を図るため 下記の部門にお

鬼怒川緊急対策プロジェクト 鬼怒川下流域 茨城県区間 において 水防災意識社会 の再構築を目指し 国 茨城県 常総市など 7市町が主体となり ハードとソフトが一体となった緊急対策プロジェクトを実施 ハード対策 事業費合計 約600億円 ソフト対策 円滑な避難の支援 住民の避難を促すためのソフト対策を

特集大規模自然災害からの復旧 復興 参考 警察が検視により確認している死者数 50 名 災害による負傷の悪化または避難生活等における身体的負担による死者数 106 名 6 月 日に発生した豪雨による被害のうち熊本地震と関連が認められた死者数 5 名建物被害全壊 8,360 棟, 半壊 3

図 -3.1 試験湛水実績図 平成 28 年度に既設堤体と新設堤体が接合された抱土ゾーンにおいて調査ボーリングを実施し 接合面の調査を行った 図 -2.2に示すように 調査ボーリングのコア観察結果からは 新旧堤体接合面における 材料の分離 は認められなかった また 境界面を含む透水試験結果により得ら

第 7 章砂防 第 1 節 砂防の概要 秋田県は 北に白神山地の二ツ森や藤里駒ヶ岳 東に奥羽山脈の八幡平や秋田駒ヶ岳 南に鳥海山など 1,000~2,000m 級の山々に三方を囲まれています これらを水源とする米代川 雄物川 子吉川などの上流域は 荒廃地が多く 土砂の発生源となっています また 本県

の設置に加え 崩壊斜面の周辺に伸縮計 地盤傾斜計等を設置し計測データによる監視を行うとともに 定点カメラによる視覚的監視を行っている なお 地震動や雨量 各観測計器に基準値を設け 基準値超過時の作業中止基準を定め運用している 2.2, 崩壊地内の無人化機械による施工崩壊斜面上部に残る不安定土砂の崩壊

第 4 章特定産業廃棄物に起因する支障除去等の内容に関する事項 4.1 特定支障除去等事業の実施に関する計画 (1) 廃棄物の飛散流出防止ア廃棄物の飛散流出防止対策当該地内への雨水浸透を抑制し 処分場からの汚染地下水の拡散防止を図るとともに 露出廃棄物の飛散流出防止を図るため 覆土工対策を実施する

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2. 急流河川の現状と課題 2.1 急流河川の特徴 急流河川では 洪水時の流れが速く 転石や土砂を多く含んだ洪水流の強大なエネルギー により 平均年最大流量程度の中小洪水でも 河岸侵食や護岸の被災が生じる また 澪筋 の変化が激しく流路が固定していないため どの地点においても被災を受ける恐れがある

新潟県連続災害の検証と復興への視点

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資料 7-1 特殊車両の通行に関する指導取締要領の一部改正について 国土交通省関東地方整備局道路部交通対策課 1 (1) 特殊車両通行許可制度 2

国土技術政策総合研究所 研究資料

平成29年7月九州北部豪雨の概要 7月5日から6日にかけて 停滞した梅雨前線に暖かく 湿った空気が流れ込んだ影響等により 線状降水帯 が形成 維持され 同じ場所に猛烈な雨を継続して 降らせたことから 九州北部地方で記録的な大雨と なった 朝倉では 降り始めから10数時間のうちに500ミリを 超える豪

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土砂災害防止法よくある質問と回答 土砂災害防止法 ( 正式名称 : 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関 する法律 ) について よくいただく質問をまとめたものです Ⅰ. 土砂災害防止法について Q1. 土砂災害は年間どれくらい発生しているのですか? A. 全国では 年間約 1,00

無電柱化法第12条運用勉強会資料

熊本地震の緊急調査報告

7-2 材料 (1) 材料一般 1. アンカーの材料は JIS などの公的機関の規格により保証されているものか もしくは所要の品質や性能を有していることを確認したものとする 2. アンカーの材料を組み立てる場合には 各材料は他の材料に悪影響を与えないことを確認したものを使用する 1) 材料に関する一

1.2 主な地形 地質の変化 - 5 -

多様な入札 契約特集 2. 技術提案 交渉方式について 技術提案 交渉方式は, 品確法 第 18 条の規 定により, 発注者が, 当該工事の性格等により, 仕様を確定することが困難な場合に適用される 今回のケースでは, 北側復旧ルートは 1 日も早い完成が望まれるが, 本トンネルの十分な調査が完了し

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重ねるハザードマップ 大雨が降ったときに危険な場所を知る 浸水のおそれがある場所 土砂災害の危険がある場所 通行止めになるおそれがある道路 が 1 つの地図上で 分かります 土石流による道路寸断のイメージ 事前通行規制区間のイメージ 道路冠水想定箇所のイメージ 浸水のイメージ 洪水時に浸水のおそれが

横書き 2組

西日本豪雨 市民への緊急メッセージ 記者発表会 防災学術連携体幹事会 趣旨 防災に関わる56の学会ネットワークである防災学術連携体は 平成 30 年 7 月豪雨による西日本を中心とした豪雨災害に関して緊急集会を行い 地球環境の変化は自然災害として身近に迫っており 今後 夏後半から秋にかけては大雨が降

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平成31年度予算概算決定額 森林整備事業 治山事業 林野公共事業 (平成30年度1次補正予算額5,199百万円 182, ,049 百万円 平成30年度第2次補正予算額 32,528百万円) 臨時 特別の措置 として31年度概算決定額44,128百万円を別途措置 対策のポイント 林業の成

10.2 道路占用規則関係 ( 太田市に関して ) 当該様式は 参考例として掲載しております 申請の際には 所管にて必ず確認を行ってください 111

平成 27 年度第 1 回状況説明 ( 要望 ) 活動 平成 27 年 8 月 3 日 ( 月曜日 ) 1 国土交通省 財務省 総務省 内閣府への状況説明 ( 要望 ) 活動について国土交通省へは 岡﨑高知市長と清水大洲市長を先頭に 国土交通省幹部及び関係部局へ状況説明 ( 要望 ) 書の手渡しと要

ハザードマップポータルサイト広報用資料

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秋田国道維持出張所 道路占用許可申請 ( 道路法第 32 条 ) の手引き ( 案 ) ~ 自家用看板 投光器 日除け編 ~ Ⅰ. 道路占用許可申請時提出書類 道路占用許可申請時 次に揚げる書類の提出が必要です 提出部数は申請書のみ 1 部 ( 複写式のため ) とし その他については全て 2 部添


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2018年台風21号

溶結凝灰岩を含む火砕流堆積物からなっている 特にカルデラ内壁の西側では 地震による強い震動により 大規模な斜面崩壊 ( 阿蘇大橋地区 ) や中 ~ 小規模の斜面崩壊 ( 南阿蘇村立野地区 阿蘇市三久保地区など ) が多数発生している これらの崩壊土砂は崩壊地内および下部に堆積しており 一部は地震時に

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新たな 国土交通省技術基本計画 特集 技術基本計画における水管理 国土保全分野の取組み 国土交通省水管理 国土保全局河川計画課河川情報企画室下水道部下水道企画課砂防部保全課 1. はじめに 水管理 国土保全局においては, 行政を取り巻 く課題について, その解決を図るため, 国土技術 政策総合研究所

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資料 4 安全 安心の確保 ~ 道路の防災 震災対策 ~ Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism

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平成 28 年度 支笏湖特有の気象特性に対する 維持管理の検討 札幌開発建設部千歳道路事務所 新保貴広 札幌開発建設部千歳道路事務所 吉田昭幸 札幌開発建設部千歳道路事務所 樋口侯太郎 一般国道 453 号を管理する千歳道路事務所では 支笏湖の越波発生により 度々通行規制を実施している 淡水湖におけ

地域のために

国土技術政策総合研究所研究資料

第 7 章砂防第 1 節砂防の概要 秋田県は 北に白神山地の二ツ森や藤里駒ケ岳 東に奥羽山脈の八幡平や秋田駒ヶ岳 南に鳥海山など 1,000~2,000m 級の山々に三方を囲まれています これらを水源とする米代川 雄物川 子吉川などの上流域は 荒廃地が多く 土砂の発生源となっています また 本県の地

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連載 土砂災害の解消を目指して v1140 P.indd

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地区概況 7-6 ( 旧 ) 平三小学校 大字 平蔵 米原 小草畑 概要市の南東部に位置し 長南町 大多喜町に接している 丘陵地と平蔵川沿いの低地からなり 丘陵地にはゴルフ場が複数立地し 低地では 民家や農地が分布する 地区を南北に国道 297 号が通り 国道 297 号沿いには小規模な造成宅地があ

2 6.29災害と8.20災害 空中写真による災害規模の比較 5 土石流流出位置 災害時の空中写真 3 3 平成26年8月豪雨による広島土砂災害 三入の雨量グラフ 災害時の空中写真 可部地区 山本地区 八木 緑井地区 三 入 では雨量 強度 8

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(2) 地質当該地域の山地を構成している基盤岩は白亜紀の四万十帯日高川層群美山層と呼ばれる砂岩 頁岩 チャートなどの堆積岩からなる 地質構造は 走行が概ねで 北へ 45 ~70 程度で傾斜する 従って 北向きの斜面では流れ盤となってくる 被覆層は 崩積土が広く分布しており 谷部及び凹状の斜面ではやや

( 熊本県防災情報メールサービスに関すること ) 熊本県危機管理防災課電話

労働災害発生状況

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別添フロー 地すべり 事業着手の前年度まで 全体計画と構造協議の流れ 事業着手年度以降 ( 整備計画や事業実施計画に位置付け ) 時間の経過 事前協議に必要な地質調査等の実施 詳細設計を実施するための 地すべりブロックの特定 対策工の概略設計 追加調査の実施 事前協議 事業の必要性 費用対効果 交付

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Microsoft PowerPoint - 02 関(HP用).pptx

東日本大震災に係る災害等廃棄物処理事業の実地調査について

播磨臨海地域と主要な港湾拠点とのアクセス機能 ( 速達性 定時性 ) の強化 神戸港の貨物取扱個数は全国 位であり 神戸港のコンテナ貨物車の 4 分の 1 は播磨臨海地域以西を発着 播磨臨海地域 ~ 神戸港 阪神地域間の交通需要が高い一方で 速達性 定時性に優れた自動車専用道路ネットワークは 国道

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目次 1. はじめに 1 2. 協議会の構成 2 3. 目的 3 4. 概ね5 年間で実施する取組 4 5. フォローアップ 8

豪雨災害対策のための情報提供の推進について

記者発表資料 平成 29 年 1 月 12 日東北地方整備局仙台管区気象台 大雪に対する緊急発表について 今週末にかけての大雪に備え ドライバー等の皆様への呼び掛けについてお知らせします 東北地方では 15 日頃にかけて大雪が継続し 猛吹雪となるところがある見込みです 14 日 ~15 日頃にかけて

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道路建設事業の再評価項目調書 とのみ 事業名 一般国道 2 号 富海拡幅 事業 一般国道 事業 国土交通省 区分 主体 中国地方整備局 やまぐちしゆうなんへた 起終点自 : 山口県周南市戸田延長 3.6km 事業概要 やまぐちほうふとのみ 至 : 山口県防府市富海 おおさか きたきゅうしゅう 一般国

(6) 災害原因荒廃渓流の源頭部にある0 次谷の崩壊は 尾根付近から発生している 尾根部は山腹斜面に比べ傾斜が緩やかであるが 記録的な集中豪雨 (24 時間雨量 312.5mm( 平成 30 年 7 月 6 日 6 時 ~ 平成 30 年 7 月 7 日 6 時まで ) 累積雨量 519.5mm(

Transcription:

別紙 2 国道 424 号道路災害関連事業の概要報告 栗山靖崇 1 1 和歌山県県土整備部道路局道路建設課 ( 640-8585 和歌山県和歌山市小松原通 1-1). 2011 年台風 12 号に伴う豪雨により, 和歌山県が管理する一般国道 424 号が被災し, 道路災害関連事業として取り組んでいる事例について紹介する. 位置 : 和歌山県日高郡みなべ町清川地内路線名 : 一般国道 424 号特色 :2011 年台風 12 号に伴う豪雨により, 一般国道 424 号に隣接する法面で, 深層崩壊と地すべりが連続して発生した. これの復旧効果をさらに合理化させるために, 隣接地で計画していた交付金事業による改良計画と併せて, 一体で整備を行う改良復旧 キーワード災害復旧, 災害関連 1. はじめに 2. 被災の状況 和歌山県日高郡みなべ町清川地内において被災した一般国道 424 号は, 和歌山県田辺市から日高郡みなべ町, 日高川町, 有田郡有田川町, 海南市を経て紀の川市に至る延長 120.6km の幹線道路であり, みなべ町では国道 42 号及び近畿自動車道紀勢線とアクセスする幹線道路である. また, 和歌山県地域防災計画 では 第二次緊急輸送道路 に指定され, 防災上からも重要な路線である ( 図 -1). (1) 台風 12 号による県下の被災概要 2011 年 8 月 25 日に発生した台風 12 号は, 発達しながらゆっくりとした早さで北上し, 四国地方, 中国地方を縦断し,9 月 4 日未明には日本海に進んだ ( 図 -2). 台風が大型で, 動きが遅かったため, 長時間にわたり台風周辺の湿った空気が異常に流れ込み, 西日本から北日本にかけて, 山沿いを中心に広い範囲で記録的な大雨となった. 図 -1 一般国道 424 号位置図 図 -2 台風 12 号の進路 1

この台風による和歌山県全域での被害をみると, 人的被害は, 死者 56 人 ( うち災害関連死 6 人 ), 行方不明者 5 人, 負傷者 9 人, 物的被害は, 全壊 371 棟, 半壊 1,842 棟, 一部破損 171 棟, 床上浸水 2,680 棟, 床下浸水 3,147 棟, 浸水被害 1,592 棟 (2012 年 4 月時点 ) にも及んでおり, 和歌山県に甚大な被害を与えた. (2) 災害の発生台風 12 号により,2011 年 9 月 1 日から 9 月 5 日まで断続的に降り続いた雨は, 時間最大雨量 67mm,5 日間累積雨量 723mm と記録的豪雨であった ( 図 -3). この豪雨により, 日高郡みなべ町清川地内では,2011 年 9 月 4 日 2 時頃に, 国道 424 号法手見トンネル終点側坑口の谷部で幅約 40m, 延長約 195m の深層崩壊, 隣接する斜面で幅約 110m, 延長約 85m の地すべりが発生し, その崩土により国道 424 号が埋没し, 全面通行止めとなった. また,1 名の方が亡くなられたことは, 痛恨の極みであった. (3) 地形及び地質, 災害発生のメカニズム a) 地形及び地質被災斜面は, 一般国道 424 号みなべ町清川地内の法手見トンネル終点側坑口側の谷部及び隣接する尾根部である. 周辺の地形は, 果無山脈の西部で標高 300~400m 程度の急峻な山体が分布しており, その山間部を二級河川の南部川が蛇行を繰り返し, 南西方向に流下している. 被災斜面は南北に伸びる最大約 280m の尾根の南端部で, 南部川の攻撃斜面に位置し, 今回の被災斜面より上流部において, 過去に地すべりが発生しており, 斜面形成過程において南部川の攻撃斜面は, 浸食風化を受けて岩盤が脆くなっているものと推測される. b) 災害発生のメカニズム台風 12 号による記録的豪雨によって, 法手見トンネル終点側坑口の谷部で谷部深層崩壊が発生し, その後隣接する斜面で地すべりが発生した ( 写真 -1),( 図 -4). 図 -3 台風 12 号に伴う降水量 写真 -1 被災当初の全景 図 -4 被災状況平面図 2

谷部深層崩壊地は, 幅約 40m, 延長約 195m, 頭部滑落崖高約 30m にわたって崩壊し, その側方斜面には層厚約 10m の風化が著しい泥岩が分布しており, それ以深には破砕質の分布が認められるものの, 安定した岩盤が確認でき, 風化が著しい泥岩層と安定した岩盤層の境界に脆弱化が進行した撹乱帯が確認された. 谷部深層崩壊地はもともと湧水が豊富な谷部で, 台風 12 号による記録的な豪雨により, 地下水位がこれまでになく上昇したことで, 潜在的に存在していたすべり面を境界に潜在地すべりブロックの右側方部が大規模に崩壊したものと考えられる. 地すべりブロックは, 幅約 110m, 延長約 85m, 最大層厚約 27m にわたり, 台風 12 号による記録的な豪雨により, 亀裂の発達した岩盤内の地下水位が上昇することで, 間隙水圧が上昇し, 活動したものと考えられる. 被災後も, 降雨時に変位の累積が確認されたことから, 降雨による地下水位の上昇にて不安定化する傾向にある. 潜在地すべりブロックは, 幅約 160m, 延長約 170m, 最大層厚約 29m にわたり, 台風 12 号による記録的な豪雨の後には顕著な活動は確認されなかったが, 地すべりブロックの活動や谷部深層崩壊による右サイドフリクションがなくなったことにより, 今後潜在地すべりブロックの不安定化が懸念される. 3. 復旧事業の概要 (1) 災害関連事業の適用被災箇所は, 現時点では顕著な動きは確認できないものの, 谷部深層崩壊斜面を含む大規模な潜在地すべりブ ロックが存在することから, 復旧工事においては, 被災した深層崩壊斜面と地すべりブロックの復旧対策工事のみでは, 潜在地すべりブロックや周辺の脆弱化した斜面を残存させることになり, 潜在地すべりブロックに対する長期的な安全を確保できないこととなる. このため, 潜在地すべりブロックや周辺部の脆弱化した斜面を含む範囲の再度災害の防止を図るため, 災害を受けた施設を原形に復旧する災害復旧事業のみならず, 災害箇所の原形復旧のみではその効果が限定される場合等において, 災害箇所や未被災箇所等を含めて復旧する改良復旧事業の一つである災害関連事業の要望を行った. この災害関連事業を要望するにあたり, 復旧効果をさらに合理化させるために, 隣接地の幅員狭小や線形不良区間の解消を図り, 路線バス等の円滑な走行性を確保するために, 計画していた交付金事業による改良計画と併せた一体整備により, 被災箇所の路線 道路の区域変更も合せて行い施行する改良復旧について検討し, 要望を行った. (2) 災害復旧事業による復旧工法 ( 親災 ) 谷部深層崩壊地と地すべりブロックについて, 崩壊斜面の危険要因としては, 以下の点が挙げられ, 復旧工法としては, それらの危険要因を解消する工法を選定し検討を行った. a) 谷部深層崩壊地 1 頭部滑落崖の東側に残存する不安定化した土塊の崩落 2 長大滑落崖部法面の侵食や風化の進行に伴う崩壊これらを対策する工法として,1 の残存する落ち残り不安定土塊に対しては, 原位置で抑止する工法, 待ち受ける工法, 排土する工法の 3 案について比較し, 除去す 表 -1 災害復旧事業工法比較検討表 3

る工法の排土工を選定し, 法面保護工として, 植生基材吹付工を採用した. また,2 の長大滑落崖部法面の法面保護工としては, 吹付枠工を採用した. b) 地すべりブロック 1 崩壊頭部の強風化土 強風化岩の崩落 2 崩壊によって発生した亀裂に沿って劣化が進行した斜面中腹から末端部の風化岩 風化土の落石や崩壊 3 裸地化した斜面の降雨時の侵食 4 最大層厚約 27m の地すべりブロックの活動これらの地すべりブロックの対策工法として, 地すべりブロックを排土する工法, アンカーにより抑止する工法, 排土とアンカーを組み合わせた工法の 3 案について比較し, アンカーにより抑止する工法を採用した. なお, 地すべりの対策として, 押え盛土工は地すべりの末端部が, 河川に近接しており施工できないため, 比較案から除外している. これらの, 谷部深層崩壊地と地すべりブロックを対策する現道復旧案と被災箇所をバイパスにより迂回することで, 安全性を確保するトンネル案を比較した結果, 経済性に優れる現道復旧案を親災として災害申請を行った ( 表 -1). (3) 災害関連事業による復旧工法 ( 関連 ) 前述したように, 復旧工事において, 被災した谷部深層崩壊地と地すべりブロックの復旧対策工事のみでは, 潜在地すべりブロックや周辺の脆弱化した斜面を残存させることになり, 長期的な安全を確保できないこととなるため, 潜在地すべりブロックや周辺の脆弱化した斜面の安全を確保するために, これらの被災箇所をトンネルによりバイパス道路を構築し復旧する案と潜在地すべり ブロックや周辺の脆弱化した斜面を含めて対策を行い現道にて復旧する案との比較検討を行った. a) トンネル案谷部深層崩壊地を含む潜在地すべりブロックおよび周辺部の脆弱化した斜面をトンネルにより通過する案. b) 現道復旧案潜在地すべりブロックをアンカー工にて対策し, 隣接する谷部深層崩壊地を排土工と法面保護工で対策し, 現道復旧を行う案. 上記 2 案の比較検討の結果, 経済性で優れるトンネル案を採用し, 災害関連事業の要望を行った ( 表 -2). これにより, 谷部深層崩壊地を含めた潜在地すべりブロックの再度災害防止の目的が達成され, かつ安全性, 経済性も確保される合理的な復旧案となった. (4) 災害関連事業の概要 復旧延長 L=642.4m トンネル延長 L=487m 幅 員 土工部 9.25m トンネル部 8.50m 道路規格 第 3 種第 4 級 設計速度 V=40km/h 災害関連事業トンネル案の復旧ルート検討にあたり, 問題となったのは, 被災箇所に隣接して計画されていた, 交付金事業による改良計画との取り合わせである. 通常, 災害復旧事業, 災害関連事業ともに, 現道へ接 続することで, 事業が完了するが, 交付金事業の改良計 画に合わせてルートを計画すると, 災害関連事業のトン ネルの終点側坑口が地すべりブロックと干渉し, 安全性 に懸念が残る. 逆に, 地すべりブロックを避ける位置に トンネルの終点側坑口を計画すると, 交付金事業の改良 表 -2 災害関連事業復旧工法比較検討表 災害関連事業延長 L=642.4m ( トンネル延長 L=487.0m) 4

計画に接続する道路線形が非常に悪くなる. このため, 被災箇所における復旧効果をさらに合理化させることを目的とし, 交付金事業の改良計画の線形を見直し, 一体整備を行う計画とした ( 図 -5,6). 4. おわりに 安全安心な国道を構築する災害関連事業として採択されたものである. 謝辞 : 近年まれにみる非常に大きな災害であり, 災害関連事業の要望から採択に至る事務について手探りの状態であったが, 国土交通省水管理 国土保全局防災課をはじめ, 各関係機関の皆様方から多大なご協力, ご指導を頂き深く感謝申し上げます. 2011 年の台風 12 号に伴う豪雨により, 和歌山県の管理道路である一般国道 424 号の法手見トンネルの終点側坑口から, 延長約 150m で深層崩壊と地すべりが発生し, 全面通行止めとなり, みなべ町清川において, 約 240 世帯,850 名が一時孤立した. そのため, 早期ライフラインの確保と防災上重要な路線である第二次緊急輸送道路としての安全 安心な道路として, 災害復旧を行う必要があった. 災害復旧事業 ( 親災 ) としては, 現道復旧として谷部深層崩壊地と地すべりブロックに対する対策による災害申請を行った. その一方で, 現道復旧のみでは, 潜在地すべりブロックや周辺の脆弱化した斜面を残存させることになり, 長期的な安全を確保できないこととなるため, 再度災害の防止と復旧効果をさらに合理化させるためにトンネルバイパス案で災害関連事業の要望を行った. この災害関連事業の特長は, 災害関連事業の計画と交付金事業の計画が互いに成立することで, 復旧効果が得られるものであり, それぞれの事業が完了するだけでは, 復旧効果が得られない珍しい事例であが, 被災箇所前後の改良計画の法線変更と併せて, 新設トンネルを計画し, 0.750 0.750 5.500 0.500 2.500 0.500 2.750 2.750 1.276% 道路中心 C L 0.603 1.500% トンネル中心 1.000% 0.750 0.500 5.500 0.500 2.000 2.750 2.750 1.5% 1.5% 1.094 3.937 4.086 0.945 10.062 図 -5 標準断面図 図 -6 計画平面図 5