放課後子ども教室 が小学生の体力及び学力に与える影響 ( 概要 ) mje10066 柿島敢 要旨 これまで 教育行政では学校教育を中心に教育の機会の確保と質の向上が論じられてきた しかし 子どもが放課後をどのように過ごすかは家庭や地域に任されており 親の所得や学歴 居住地域などによって教育の機会に差が生じている 行政として放課後に子どもたちが安心して健やかに過ごせる居場所をつくる 放課後子ども教室 の取り組みは このような教育の機会の差を是正することができているのか 本研究では 沖縄県における放課後子ども教室推進事業の実施が 公立小学校児童の体力及び学力に与える影響を計量分析によって検証した 具体的には 沖縄県学力到達度調査 または 体力 運動能力 運動習慣等調査 の結果をアウトプット 放課後子ども教室推進事業の実施年数や実施場所 活動内容などをインプットとする教育の生産関数を推定し検証を行った 分析の結果 放課後子ども教室推進事業の実施年数及び実施場所と学力に有意な関係があること 継続して実施する活動内容の種類によって運動習慣または学力に与える影響が異なることなどが明らかになった 1 序章 1.1 研究の目的と背景本研究の目的は 沖縄県内の小学校や公民館などで行われている 放課後子ども教室推進事業 ( 以下 放課後子ども教室 と称す ) の実施状況と 子どもの体力や学力との関係を明らかにすることである 子どもの体力や学力の規定要因として 遺伝的な要因と環境的な要因とがある 遺伝的な要因とは 親から引き継がれた先天的な特性であって 遺伝子によって規定される 環境的な要因は数多く存在するため 家庭や学校で行われる教育活動だけではなく その他の社会的 文化的 経済的な違いなど子どもをとりまく様々な状況を考慮する必要がある そして 子どもの生活時間の構造 は これらの影響の結果選択された活動を示すものであり 子どもの体力や学力を規定する環境的な要因を示す一つの指標であるということができよう 総務省が実施している 社会生活基本調査 では 人々の生活における様々な活動を 1 生理的に必要な第 1 次活動 2 社会生活を営む上で義務的な性格の強い第 2 次活動および 3 自由に使える時間における活動である第 3 次活動 の 3 つに分類している しかし 子どもの生活における活動に限っていえば 生理的または社会的に必要な義務的な活動と自由な活動の中間的な活動が存在する ベネッセ教育研究開発センター (2009b) は このような中間的な活動として 子どもの選択はできるが拘束性が強い活動を 2.5 次活動 と定義し その実態調査を行っている その結果として 12.5 次活動の量の増減は 1 次活動または 2 次活動の量にはほとんど影響を与えておらず 3 次活動との間に逆相関の関係にあること 2 このような 2.5 次活動は 地域でみると中山間部よりも都市部に 家庭的な背景でみると父母が大卒である家庭に多くなることが報告されている また 文部科学省の調査では 親の所得や学校外教育支出などの家庭的な背景と子どもの学力には相関関係があること 地域や家庭的な背景と子どもの受ける教育の機会との間にも相関関係があることが明らかにされ 教育の質の向上と機会の確保が求められている 放課後子ども教室 は 2.5 次活動に相当するものであり その増減は 子どもたちの生活時間の構造 の変化を通して子どもたちの体力や学力を規定する環境要因の一つとなると考えられる 放課後子ども教室 では 子 どもたちに安心な居場所を提供しているだけではなく 様々な体験活動や学習支援などによる教育の機会を提供しているにもかかわらず これまでこのような学校外における教育の機会の提供が 地域や家庭的な背景によって生じている教育の機会の差を縮小させているのか 子どもたちの体力や学力を向上させているのかといった 放課後子ども教室 の効果を検証した研究は 日本国内ではごくわずかである 1.2 先行研究放課後の取り組みと子どもの体力や学力との関係を 経済的な手法を用いて分析を行った研究は 筆者が知る限りほとんど行われていない PISSA やゆとり教育によって学力低下が話題となる中 教育のあり方についても関心が高まってきているが 教育行政の対象としては学校教育が中心であり 教育に関する研究も学校教育が中心である 文部科学省や一部の研究者によって放課後対策事業に関する研究が行われてはいるが それらの多くは 放課後対策事業の取り組み内容に対する関係者へのアンケート調査か 事例検証による研究である 財団法人日本システム開発研究所が平成 19 年度に行った 放課後子どもプラン実施状況調査報告書 は 平成 19 年 12 月 1 日現在の 放課後子どもプラン の取り組み状況や課題等の把握のため文部科学省及び厚生労働省が行った合同調査 ( 質問紙調査 ) で 放課後子ども教室を通して 子どもの学校への意識がより積極的なものとなり 学力等の向上につながっている可能性を示している ただし 学力との関連について実証的に分析されたものではない 諸外国においては いくつかの実証研究がある Vandell and Shumow(1999) は 放課後の活動拠点が 特に低学年 低所得層で 学力や学習意欲の向上 感情コントロールや対人関係の向上 問題行動の減尐などの効果を認める研究成果を示している Afterschool Alliance(2004) によれば 放課後活動に参加している子どもの飲酒 喫煙 性交渉を経験する可能性が低く 麻薬使用のリスクが低下するなどの非行防止に効果があるとしている これらの結果は 放課後の学校外教育活動が 子どもの学習意欲 道徳心 正義感などを培い学力に良い影響を与え 問題行動のリスクを低下させ 健全な身体の成長や体力の向上にも良い影 1
響を与えている可能性をうかがわせる 2 放課後対策事業の社会的背景及び概要 2.1 放課後対策事業の経緯子どもたちの放課後の安全をどう確保するのかといった問題は 昭和 30 年代後半の高度経済成長の頃から続く核家族化の進行や共働き世帯の増加といった社会構造の変化の一つとして いわゆる カギッコ の出現と付随した問題として認識され 学校施設の開放事業などが実施されてきた その後 学校週 5 日制の導入に伴う土曜日 日曜日の子どもの安全対策のための平成 11 年度から緊急三カ年戦略として 全国子どもプラン が策定され 地域で子どもを育てる環境の整備が図られた さらに平成 14 年からの完全学校週 5 日制の実施の下 全国子どもプランの実績を踏まえ 子どもたちに継続的な体験活動の機会の充実を目指して 新子どもプラン が策定された 平成 16 年には 青尐年の問題行動の深刻化や 青尐年を巻き込んだ犯罪の多発などを受けて 全国の学校で放課後や休日に 地域の大人の協力を得て 子どもの居場所 を確保し スポーツや文化活動など多彩な活動が展開されるよう 家庭 地域 学校が一体となって取り組む 子どもの居場所づくり新プラン が実施され 翌 17 年には 地域教育力再生プラン と名称が変更され 地域に根ざした多様な活動機会の提供が推進された 平成 18 年 5 月に当時の尐子化担当大臣から 尐子化対策と総合的な放課後対策として 地域子ども教室 と 放課後児童クラブ を 一体的あるいは連携して実施してはどうかとの提案があり 当時の文部科学大臣及び厚生労働大臣の両大臣合意のもと 放課後子どもプラン が創設された このような提案から合意に至り 子どもが放課後に時間を有意義に過ごすことができるという子育て支援策 1 や親 保護者の経済環境が子どもの就学に影響されないようにする子どものチャレンジ支援策 2 として推進が図られ 平成 19 年度からは 放課後子ども教室 と 放課後児童クラブ が実施されている 2.2 沖縄県における放課後対策の状況沖縄県では 地域子ども教室 の実施箇所数では大阪府 東京都に次いで全国 3 番目 小学校児童数に対する子ども教室の実施箇所数では鳥取県に次いで全国で 2 番と 地域子ども教室 が非常に盛んに取り組まれてきた 平成 18 年度には 327 の 地域子ども教室 が市町村教育委員会を中止に実施され 142 箇所が主に学校で 残りの 185 箇所が主に公民館などの地域の施設で実施されていた また 1 箇所あたりの年間実施日数は平均で 111.4 日であった 平成 18 年度に実施されていた 地域子ども教室 のうち 平成 18 年度に新規にスタートした 地域子ども教室 が 70 箇所 平成 17 年度から実施し 2 年目だったところが 115 箇所 平成 16 年度から継続して 3 年目だったところが 142 箇所であった 平成 19 年度 放課後子ども教室 は 143 箇所で実施され 92 箇所が主に学校で 残りの 51 箇所が主に公民館などの地域の施設で実施されていた また 1 箇所あたりの年間実施日数は平均で 76.7 日であった 平成 20 年度 放課後子ども教室 は 175 箇所で実施され 108 箇所が主に学校で 残りの 67 箇所が主に公民館 1 尐子化社会対策会議 ( 平成 18 年 ) 2 経済財政諮問会議 ( 平成 18 年 ) 2 などの地域の施設で実施されていた また 1 箇所あたりの年間実施日数は平均で 81.2 日であった 地域子ども教室 から 放課後子ども教室 への事業が変更した平成 18 年度から平成 19 年度にかけて 184 箇所 (56.3%) と半分以上の子ども教室が継続されなかった これは 10/10 の国庫委託事業が 1/3 の国庫補助事業となったために市町村の財政負担が必要となったことから 事業の実施に慎重になったものであろう 3 分析 3.1 仮説放課後の子どもの居場所をつくる取り組みは 子どもたちにどのような影響を与えているのだろうか 子どもの成長には様々な要因が複雑に関係し影響を与えていることはもちろんであるが 放課後子ども教室 において 様々な体験活動を経験することによって子どもたちの体力向上に もしくは 学習支援活動を通じて学力向上に影響を与えているのではないかと推測されることから 以下の二つの仮説を設定する 仮説 Ⅰ: 放課後子ども教室は 子どもたちの体力を向上させている 仮説 Ⅱ: 放課後子ども教室は 子どもたちの学力を向上させている 3.2 分析の手法本研究では 教育の生産関数を推定し分析を行う 教育の生産関数とは 通常の財やサービスの生産と同様に一種の生産関数を想定し 教育現場における投入要素と教育の成果とを結び付け 教育の成果の規定要因を分析するものである 教育の成果としてのアウトプットには テストの成績や進学率 賃金などが用いられる インプットである教育の投入要素には 教員の技量や 学級規模 同級生の質などの学校の属性や 子どもの性別 年齢 IQ 健康状態などの子どもの属性 両親の学歴 所得 教育熱心度などの家庭の属性 地域の犯罪発生率 都市部か農村部かといった地域の属性などの多様な要因が考えられる ただし それぞれのインプットと教育の成果を結びつける 厳密な理論的モデルが存在するわけではなく 教育の生産関数を推計するにあたっては 教育の成果に関係すると思われる変数をアド ホックに説明変数に加えた回帰分析がしばしば行われている そこで 本研究においては 以下のように教育の生産関数を推定し分析を行う O it = β 0 it + β 1 X it + β 2 Y it + ε it ここで アウトプットの O it は t 時における子どもの体力や学力の状況等である インプットの X it は 放課後子ども教室 の実施状況を表す変数群であり 同じくインプットの Y it は 学級規模などの学校の要因 性別など子どもの属性 家計所得など家庭的な要因 都市部と農村部など地域的な要因をコントロールするための変数群である β 0it は定数項 ε it は誤差項である 3.3 分析に使用するデータ教育の成果としての子どもの体力に関する変数としては 平成 20 年度及び平成 21 年度に文部科学省が実施した 全国体力 運動能力 運動習慣等調査 ( 以下 体力
運動能力調査 と称す ) に関するデータを使用した 体力 運動能力調査は 体力 運動能力調査データ 児童質問紙データから構成されている 同様に 教育の成果としての子どもの学力に関する変数としては 平成 20 年及び平成 21 年に沖縄県教育委員会が実施した 沖縄県学力到達度調査 ( 以下 学力到達度調査 と称す ) に関するデータを使用した 学力到達度調査は 学力調査データ及び学級規模データから構成されている 次に 教育の投入要素としての変数のうち 放課後子ども教室 の取り組みに関する変数としては 平成 16 年度から平成 18 年度に実施された 3 地域子ども教室 の実施状況に関するデータ 4 及び平成 19 年度ならびに平成 20 年度に実施された 放課後子ども教室 の実施状況に関するデータ 5 を使用した 地域子ども教室 は 放課後子ども教室 以前に 小学生等を対象に放課後の居場所づくりのために実施されており 地域子ども教室 が 放課後子ども教室 として継続実施されていることから 放課後子ども教室 の取り組み状況を表す変数として用いた また その他の教育の投入要素の変数としては 市町村の統計データ 6 や体力 運動能力調査の児童質問紙データ 学力到達度調査の学級在籍者数データなどを用いた 3.4 データの制約と分析上の留意点本分析に用いるデータは ある 1 時点での児童の体力や学力等に関するデータであるため 放課後子ども教室 実施前後など経年による変化を分析することはできない そのため 分析結果で 例えば子どもの学力と 放課後子ども教室 の間に統計的に有意な関係性が確認されたからといって 直ちにそれが因果関係にあると立証できるものではないことに留意する必要がある また 教育の生産関数を厳密に推計するためには 本来なら児童一人ひとりの体力や学力の状況や家庭 社会環境などの属性を詳細に把握する必要がある しかし 本分析で扱うのはあくまでも各小学校や学級の児童たちの平均的な体力や学力であり 教育の生産関数の推計としては不十分な面がある そのため 分析結果は 同一集団における平均的な関係性を表すものであって その解釈には慎重に行う必要がある 3.5 分析結果まず 放課後子ども教室 が体力に与える影響を検証するために 小学校児童の運動習慣を被説明変数とし 最小二乗法及び両側トービットによる推計を行った 児童の体力を表す指標としては 児童の体力水準を総合的に示すデータが必要であるが 今回そのようなデータは入手できなかった そのため 先行研究において奥谷らが 日常的な運度の実施頻度が体力に強く影響を及ぼす 7 としていることから 総合的な体力水準を表す代理変数として 運動習慣 を用いた また 体力や運動習慣は子どもの性別による違いが大きい 8 ため 先行研究の知見を借りて 男女を分けてそれぞれについて推計した 3 沖縄県地域子ども教室推進事業運営協議会から再委託を受けた実行委員会が沖縄県内で実施されたものである 4 沖縄県地域子ども教室推進事業運営協議会 (2007) 5 沖縄県教育委員会 (2008,2009) 6 内閣府沖縄総合事務局 (2010) 7 奥谷ら (2004) 8 ベネッセ教育研究開発センター (2009a) 3 女子の運動習慣を被説明変数として推計したところ 放課後子ども教室 の実施場所や実施年数は統計的に有意な関係はほとんど見られなかった ここでは 男子の運動習慣を被説明変数として推計した結果を 表 1 に示す 表 1 分析結果 ( モデル A( 男子 ) 体力に関する分析 ) モデルA( 男子 ) 1-1 1-2 2-1 2-2 OLS tobit OLS tobit 実施年数ダミー 1 年間 -0.039-0.064 + -0.018-0.045 + (0.026) (0.033) (0.020) (0.025) 2 年間 -0.015-0.021 0.004-0.005 (0.021) (0.026) (0.013) (0.017) 3 年間 0.001-0.001 0.019 0.011 (0.020) (0.024) (0.013) (0.016) 実施場所ダミー学校 0.028 0.022 (0.022) (0.027) 地域 0.026 0.025 (0.024) (0.030) 学校と地域 0.017 0.003 (0.020) (0.025) 活動内容ダミー (4 年間 ) スポーツ体験活動 0.012 0.012 0.022 0.018 (0.018) (0.023) (0.016) (0.020) 文化体験活動 -0.014-0.012-0.014-0.015 (0.019) (0.023) (0.019) (0.023) その他体験活動 -0.008-0.017-0.003-0.015 (0.018) (0.022) (0.017) (0.021) 学習活動 0.005 0.012 0.012 0.015 (0.019) (0.024) (0.018) (0.023) エイサー 0.053 * 0.065 * 0.058 * 0.065 * (0.025) (0.031) (0.024) (0.030) 1 人当たり住民所得 -0.008-0.020-0.011-0.025 ( 百万円 ) (0.018) (0.023) (0.018) (0.023) へき地ダミー 0.035 ** 0.080 ** 0.034 ** 0.082 ** (0.011) (0.015) (0.011) (0.014) 生まれ年度ダミー 0.005 0.009 0.006 0.008 (0.009) (0.012) (0.009) (0.012) 身長 -0.002-0.005 + -0.002-0.005 + (0.002) (0.003) (0.002) (0.003) 部活動所属率 0.241 ** 0.340 ** 0.240 ** 0.341 ** (0.024) (0.032) (0.023) (0.032) 毎日朝食摂取 -0.048-0.071-0.049-0.073 (0.035) (0.049) (0.035) (0.048) 6 時間未満睡眠 -0.133 * -0.208 ** -0.132 * -0.209 ** (0.056) (0.074) (0.056) (0.074) 運動が得意 0.110 ** 0.149 ** 0.108 ** 0.146 ** (0.032) (0.043) (0.031) (0.043) 標準誤差 0.121 ** 0.121 ** (0.005) (0.005) 定数項 0.943 ** 1.264 ** 0.950 ** 1.269 ** (0.260) (0.375) (0.259) (0.375) サンプル数 513 513 513 513 補正 R2 乗 0.224 0.226 疑似 R2 乗 -1.320-1.310 F 値 8.763 191.56 10.320 189.58 下段括弧内は 標準誤差 **,*,+ は それぞれ両側検定の結果が1%,5%,10% 水準で統計的に 有意であることを示す 次に 放課後子ども教室 が学力与える影響を検証するために 小学校児童の合計平均正答率 9 を被説明変数とし 最小二乗法よる推計を行った その結果を示したのが表 2 である 3.6 結果の解釈と仮説の検証 放課後子ども教室 が体力に与える影響は次のとおりである 女子の運動習慣と 放課後子ども教室 の実施状況には ほとんど有意な関係が見られなかった 男子の運動習慣を被説明変数とした推計結果を 放課後子ども教室 の実施年数 実施場所 活動内容の分類ごとにまとめる 9 学力到達度調査の国語 A 国語 B 算数 A 算数 B の平均正答率を合計して得た数値
表 2 分析結果 ( モデル B- 学力に関する分析 ) モデルB-1 モデルB-2 モデルB-3 実施年数ダミー 1 年間 -2.181 2.786 (2.557) (2.267) 2 年間 -0.964 5.317 ** (2.250) (1.949) 3 年間 8.582 ** (1.893) 実施場所ダミー 学校 6.286 * 5.157 * (2.743) (2.044) 地域 2.286 0.825 (3.078) (2.210) 学校と地域 9.575 ** 8.711 ** (2.587) (2.057) 活動内容ダミー (3 年間実施 ) スポーツ体験活動 -0.750-0.225 (2.004) (1.796) 文化体験活動 -4.687 * -4.604 * (2.119) (2.111) その他体験活動 -1.987-1.675 (2.039) (1.965) 学習活動 6.668 ** 7.049 ** (2.071) (1.967) エイサー 6.849 ** 7.222 ** (2.580) (2.494) 1 人当たり住民所得 ( 千円 ) 0.016 ** 0.016 ** 0.015 ** (0.003) (0.003) (0.003) へき地ダミー -1.361-1.528-1.983 (1.988) (1.977) (1.983) 生まれ年度ダミー -35.078 ** -35.336 ** -34.537 ** (1.276) (1.186) (1.258) 男子ダミー -17.143 ** -17.139 ** -17.147 ** (1.166) (1.166) (1.173) 学級規模 -1.874 ** -1.886 ** -1.928 ** (0.277) (0.276) (0.278) 学級規模二乗 0.029 ** 0.029 ** 0.031 ** (0.006) (0.006) (0.006) 定数項 295.951 ** 296.111 ** 296.538 ** (6.222) (6.215) (6.084) サンプル数 2233 2233 2233 補正 R2 乗 0.364 0.364 0.356 F 値 80.8 92.3 138 下段括弧内は 標準誤差 **,*,+ は それぞれ両側検定の結果が 1%,5%,10% 水準で統計的に 有意であることを示す 1 年間だけの実施は 10% 水準で統計的に有意にマイナスの関係が確認された 2 年間 3 年間の実施は 統計的に有意な関係は見られなかった 複数年度にわたるデータを用いて継続実施の効果を検証していく必要があろう 実施場所は 統計的に有意な関係は見られなかった 実施場所による効果の差はなく 参加しやすく事業の継続に無理のない場所で実施すればよいことが推測される エイサー 10 の継続実施は 5% 水準で統計的に有意なプラスの関係が確認された 青年会など地域の大人や青年との定期的な交流が有効であることがうかがえる スポーツ活動などその他の活動内容は 統計的に有意な関係は見られなかった 男女の分析結果を比較すると女子の分析結果のほうが有意な関係が見られなかった理由として 女子は 放課後子ども教室 以外の要因が強く効いているため 放課後子ども教室 の影響が過小評価されていることが推測される 10 沖縄の伝統芸能の一つで もともとは旧盆の時期に集落の青年たちが太鼓などの念仏歌に合わせて各戸を踊り回り 各戸の無病息災 家内安全 繁盛を祈り 祖先の霊を供養する行事 4 続いて 学力を被説明変数とした推計結果の解釈を同様にまとめると次のとおりである 複数年の実施が 1% 水準で統計的に有意にプラスの関係が確認された 実施年数が 2 年間より 3 年間と長いほど 回帰係数が大きくなっており事業継続の効果が期待できる 1 年間だけの実施は 統計的に有意な関係は見られなかった 公民館など地域の施設だけでの実施は 統計的に有意な関係は見られなかった 学校や学校と地域の両方での実施は 統計的に有意に正の関係が確認され 学校と地域での実施は 学校だけの実施より回帰係数が大きく 有意水準が 1% と信頼性も高くなっている 小学校区において複数の子ども教室があり 校区よりも小さいより身近な範囲に活動拠点 ( 居場所 ) があるということでよい効果があると推測される 学習活動またはエイサーの継続実施は 統計的に有意にプラスの関係が見られた スポーツ活動またはその他の体験活動とは 統計的に有意な関係は見られなかった 学習活動及びエイサーは 有意水準が 1% と信頼性も高く 活動の継続が効果をあげていることがうかがえる 文化体験活動の継続実施は マイナスの関係となっていた 以下 設定した 2 つの仮説について検証を行う 仮説 Ⅰ は 放課後子ども教室 でエイサーを継続して実施した場合は 男子の運動習慣を向上させることが示された しかし その他の場合 運動習慣との相関がなく 仮説が成立しない 従って 仮説 Ⅰ は 放課後子ども教室 の実施状況により 仮説が成立する場合と仮説が棄却される場合とが存在する 仮説 Ⅱ は 放課後子ども教室 が 複数年実施されている場合 学校や学校と地域で実施されている場合 または 継続して学習活動 エイサーに取り組まれている場合 放課後子ども教室 が実施されていない場合と比較して学力到達度調査における正答率が高くなることが示された 3.7 結論これまでの分析をまとめると 以下の結論が得られる 1 放課後子ども教室 を 1 年間だけ実施することと 運動習慣の間には有意にマイナスの関係がある 2 放課後子ども教室 を複数年間継続して実施することと 学力到達度調査における平均正答率の間には有意にプラスの関係がある 3 放課後子ども教室 の実施場所と 運動習慣の間には有意な関係が見られない 4 放課後子ども教室 を学校施設内で実施することと 学力到達度調査における平均正答率の間には有意にプラスの関係がある さらに 学校施設内だけよりも公民館など地域の施設と両方で実施すると 回帰係数が大きくなる 5 放課後子ども教室 で継続的にエイサーを実施することと 運動習慣の間には有意にプラスの関係がある 6 放課後子ども教室 で継続的に学習活動 またはエイサーを実施することと 学力到達度調査における平均正答率の間には有意にプラスの関係がある 信頼度は落ちるが 継続的に文化体験活動を実施することと 学力到達度調査における平均正答率の間には有意にマイナスの関係が見られる この要因は別途究明する必要があろう
4 政策提言と課題 4.1 政策提言これまでの分析の結果から得られた知見をもとに 放課後子ども教室 の実施について 3 つの提言を行う 第一の提言は 放課後子ども教室 は 無理をせず持続可能な運営方法で継続して実施することである 放課後子ども教室 といっても その内容は 実施回数やボランティア 安全管理員の人数など様々な違いがある 実施期間と運動習慣との関係は 1 年間でマイナス 複数年間では有意な関係はないことが明らかになった しかし 学力には対しては複数年間実施することで 有意にプラスの関係があった 特に年数が長いほど係数が大きく 政策の効果がうかがわれる 平成 19 年度には 事業の補助金化により事業の継続ができなくなった 地域子ども教室が 約 7 割を占めた 現在 放課後子ども教室 は国庫補助事業として 文部科学省 都道府県 市町村がそれぞれ 3 分の 1 ずつの経費を負担して実施されているが 仮に補助事業が終了となっても 事業を継続的に実施していくために 地域の実情に応じた持続可能な事業を設計し 運営していくことが必要であろう 第二の提言は 放課後子ども教室 は学校施設内及び地域の公民館など子どもたちに近い場所とで実施することである 地域の施設だけでの実施は 運動習慣または学力に有意な関係はなかった これは 地域の施設だけでの実施が運動習慣や学力と相関をもっていないことを示している しかし 学校で実施することは 学力と有意にプラスの関係があり さらにあわせて地域の施設でも実施されている方が係数が大きく 政策の効果が強いことがうかがわれる 第三の提言は 放課後子ども教室 ではエイサー及び学習活動を中心に実施することである エイサーの継続的な実施は 運動習慣または学力と有意にプラスの関係があり 学習活動は 学力とは有意にプラスの関係が明らかになった 文化体験活動はマイナスの関係がある可能性があり その他の活動内容は 運動習慣または学力とは有意な関係はないことが明らかになった 4.2 課題本研究では 入手できたデータの制約から 放課後子ども教室 の実施前後による政策の効果をとらえることができなかった 複数年度のデータを蓄積できれば パネル分析や DID 分析を行うことで より詳細な分析が可能となる また 今回の分析は 放課後子ども教室 が当該小学校等で実施されているか否かのデータをもとにした分析であり 子ども教室の実施回数などのデータを用いた詳細な分析までは行っていない 放課後子ども教室 に参加した児童と参加しなかった児童の違い 児童の 放課後子ども教室 への参加率 コーディネーター 安全管理員 学習支援員などスタッフの違いなどによる分析を行うことで より詳細な効果の分析が可能である なによりもこれらの分析に必要なデータの整備が図られることが求められる 沖縄県地域子ども教室推進事業運営協議会 (2007) 平成 18 年度地域教育力再生プラン実績報告書 奥谷雅史 岸田珸 長谷川芳彦 石川元美 田辺正友 若吉浩二 (2004) 児童のスポーツ教室参加に伴う体力および運動習慣の変化 小塩隆史 妹尾渉 (2003) 日本の教育経済学 : 実証分析の展望と課題 ERIC Discussion Paper Series No.69 経済財政諮問会議 ( 平成 18 年 ) 経済財政運営と構造改革に関する基本方針 2006 尐子化社会対策会議 ( 平成 18 年 ) 新しい尐子化対策について 中央教育審議会 (1996) 21 世紀を展望した我が国の教育のあり方について ( 第一次答申 ) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/12/chuuou/to ushin/960701l.htm 中央教育審議会生涯学習部会 ( 平成 16 年 ) 今後の生涯学習の振興方策について ( 審議経過の報告 ) ベネッセ教育研究開発センター (2009a) 学校外教育活動に関する調査調査報告書 http://benesse.jp/berd/center/open/report/kyoiku hi/webreport/index.html ベネッセ教育研究開発センター (2009b) 放課後の生活時間調査 http://benesse.jp/berd/center/open/report/houkag o/2009/hon/index.html 内閣府沖縄総合事務局 (2010) 市町村データ集 ( 平成 21 年度版 ) http://www.ogb.go.jp/soumu/003102.html 文部科学省 ( 昭和 47 年 ) 学制百年史 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpbz19 8101/index.html 文部科学省 (2005) 平成 16 年度文部科学白書 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab20 0401/ 文部科学省 (2006a) 放課後子どもプランの推進について ( 平成 19 年 3 月 14 日 18 文科生第 531 号 雇児発第 0314003 号 ) 文部科学省 (2006b) 平成 19 年度予算概要 http://www.houkago-plan.go.jp/document/ 文部科学省 放課後子どもプランの基本的な考え方 http://www.houkago-plan.go.jp/document/ Afterschool, Alliance (2004), Afterschool programs strengthen communities,afterschool Alert Issue Brief, No.18 Vandell, D. L. and Shumow, L. (1999) After-school Child Care Programs The Future of Children Vol.9 No.2. 本文で引用した参考文献沖縄県教育委員会 (2008) 平成 19 年度放課後子どもプラン推進事業費国庫補助金実績報告書 沖縄県教育委員会 (2009) 平成 20 年度放課後子どもプラン推進事業費国庫補助金実績報告書 5