ブロイラー生産性向上に関する試験 清水正明 富久章子 吉岡正二 松長辰司 笠原 猛 要約 ブロイラーの給餌においては, 現在の日本飼養標準では3 段階の期別給与が設けられている しかしこの期別給与を用いた場合の我々研究では,5 から6 のと体重の増加幅が小さく, 逆に羽と血液の重量が急増することが明らかになった 通常, 羽の発育にはタンパク質が使われることから, この時期には正肉より羽の発育に優先的にタンパク質が消費されたのではないかと推察で きる そこで,4 から 6 の間タンパク質を高めた飼料を給与し, 生育への影響及びと体 による各部位の増体等を調査した その結果,7 時の雄雌平均体重は対照区の3,434ク ラムに対し3,543ク ラムと約 100ク ラム重かった 飼料要求率は対照区の1.73に対し試験区で1.67, プロダクションスコアも対照区の393に対し417と高かった 高タンパク質飼料の給与を開始した4 以降は各において常にこれらの項目について試験区が勝った また, この傾向は雄で特に顕著であった と体調査の結果からは,7 時の正肉歩留まりが対照区の40.9ハ ーセントに対し試験区では41.5ハ ーセントと改善傾向であった しかし, 高タンパク飼料の給与は羽, 血液も更に増加させ, と体歩留まりは対照区の94.6ハ ーセントに対し試験区では94.0ハ ーセントとやや低くなる傾向であった 目的ブロイラーの早期出荷に向けた遺伝的改良は日々進んいる 改良動向を把握するために我々が継続している産肉能力試験の30 年間のデータ 1) では, 7 時の体重で年間 28グラム,8 時では42 グラム増加し続けている 同試験 37 報では出荷目標の3,000グラムへの到達は雄で6, 雌では 7 で可能となっている 一方, ブロイラーの発育後半の各部位の増体をと体調査すると,5 前後の増体は羽や血液の増加割合が大きく, 正肉等可食部の増体がやや緩慢になっている知見を得た 2) これは, この時期に摂取したタンパク質が羽等の生育に優先的に消費されており, 正肉等可食部へのタンパク質の供給が不足しているのではないかと推察される また, 一般的にブロイラーの早期出荷については, 通常の飼料よりも粗タンパク質 ( 以下 CPという ) や代謝エネルギー ( 以下 MEという ) を高めることでも増体性が良くなることが知られている そこで, 正肉等可食部の増体が緩慢になる5 前後に, 通常飼料よりもCPを高めた飼料をスポット的に給与し, ブロイラーの生育及びと体調査による各部位の増体への影響を明らかにする 材料および方法 1) 試験期間平成 24 年 9 月 4 日から平成 24 年 10 月 23 日 (49 日間 ) まで 2) 試験区分試験区分を表 1に示した 供試鶏には市販ブロイラーコマーシャルを用い, 各区 52 羽を開放型鶏舎の1 室 4.32 平方メートルの - 35 -
部屋に収容した (40 羽 /3.3 平方メートル ) 表 1 試験区分 区 ( 性別 ) 羽数 飼 料 対照区 ( ) 52 通常 ( 市販飼料 ) 対照区 ( ) 52 通常 ( 市販飼料 ) 試験区 ( ) 52 高 CP(4~6w 魚粉 4% 添加 ) 試験区 ( ) 52 高 CP(4~6w 魚粉 4% 添加 ) 試験区の4から6 の高 CP 飼料給与以外は各 区とも同条件, 同飼養管理である また, 各区と も4,5,6,7 時にと体調査用にそれぞれ の区の平均体重に近い個体 3 羽を抜き取っている が, 同条件で飼育している予備群を設けており, 抜き取った個体と同等の鶏を直ちに補充した 供試飼料は市販されているブロイラー肥育用配 合飼料を用い, 成分を表 2に示した 試験区は4 から6 の14 日間に限り, 魚粉を4ハ ーセント添加 した高 CP 飼料 (CP: 約 20ハ ーセント ) を給与した 表 2 供試飼料 種類 CP 成分 (%) ME(kcal 粗脂肪粗繊維粗灰分 /kg) 前期用 23.0 4.0 5.0 8.0 3,010 後期用 18.0 7.0 5.0 7.0 3,300 休薬 18.0 7.0 5.0 7.0 3,320 CP: 粗タンパク質 ME: 代謝エネルギー 3) 調査項目 調査項目は次のとおりである (1) 鶏舎環境 (2) 育成率 (3) 発育体重 (4) 飼料摂取量 (5) 飼料要求率 (6) と体成績 結果及び考察 1) 鶏舎環境 鶏舎気象は図 1 のとおりである 温度 ( ) 35 30 25 20 15 2) 育成率 湿度最高最低 9 時気温 50 1 2 3 図 1 鶏舎気象 育成率は表 3 のとおりである 表 3 期間育成率 区 ( 性別 ) 0-4w 4 ー 6w 6-7w 0-7w 対照区 ( ) 100.0 98.1 98.0 96.2 対照区 ( ) 98.1 100.0 100.0 98.1 ( + ) 99.0 99.0 99.0 97.1 試験区 ( ) 100.0 98.1 98.0 96.2 試験区 ( ) 100.0 98.1 98.0 96.2 ( + ) 100.0 99.0 98.0 96.2 表 4 別発育体重 (%) 区 ( 性 ) 対照区 ( ) 1,710 2,496 3,135 3,650 対照区 ( ) 1,553 2,137 2,707 3,218 ( + ) 1,632 2,317 2,921 3,434 試験区 ( ) 1,733 2,565 3,280 3,859 試験区 ( ) 1,490 2,156 2,711 3,226 ( + ) 1,612 2,361 2,996 3,543 湿度 (%) 100 90 80 70 60 (g) - 36 -
表 5 1 羽 1 日あたりの飼料摂取量 (g/ 羽 / 日 ) 飼料種類 前期用 後期用 休薬用 区 ( 性 ) 1 2 3 対照区 ( ) 19.6 54.0 94.5 150.5 182.3 184.1 193.5 対照区 ( ) 19.6 53.4 89.3 131.7 156.1 163.0 187.7 平均 19.6 53.7 91.9 141.1 169.3 173.6 190.6 試験区 ( ) 20.5 54.0 93.9 148.4 178.2 186.9 205.4 試験区 ( ) 18.3 50.4 85.6 123.8 152.1 161.3 187.5 平均 19.4 52.2 89.7 136.1 165.3 174.7 196.5 3) 発育体重 発育体重は表 4 のとおりである 試験区 ( ) は, 高 CP 飼料の給与を開始した 4 週 齢以降の増体が対照区 ( ) に比べ, 各とも優 れた 試験区 ( ) は, 高 CP 飼料給与後 5 までの増 体は対照区 ( ) より勝ったが, その後の増体は対 照区 ( ) とほぼ同等の増体であった 4) 飼料摂取量 飼料摂取量は表 5 及び表 6 のとおりである 各において各区間で差は認められなかっ た 高 CP 飼料を給与した 4 から 6, またその 前後の摂取量にも差は認められなかった 表 6 期間別飼料摂取量 (g/ 羽 ) 区 ( 性 ) 0-4w 4-6w 6-7w 計 対照区 ( ) 2,231 2,565 1,355 6,151 対照区 ( ) 2,058 2,234 1,314 5,606 平均 2,145 2,399 1,334 5,878 試験区 ( ) 2,217 2,555 1,438 6,210 試験区 ( ) 1,946 2,194 1,313 5,453 平均 2,082 2,375 1,375 5,831 5) 飼料要求率 飼料要求率は表 7 のとおりである 試験区 ( ) では, 高 CP 飼料を給与した 4 から 6 及びその後の7 時までの両期間とも対照 区 ( ) より0.15 低く推移した その結果期間全体 では対照区 ( ) より0.7 低く抑えることができた 雌については高 CP 飼料給与の効果が長く続かな かったものの4から6 時で対照区 ( ) より0. 14 低く抑え, 飼育期間全体でも0.5 低く抑えるこ とができた 表 7 期間飼料要求率 区 ( 性 ) 0-4w 4 ー 6w 6-7w 0-7w 対照区 ( ) 1.34 1.80 2.63 1.70 対照区 ( ) 1.36 1.94 2.57 1.76 平均 1.35 1.86 2.60 1.73 試験区 ( ) 1.31 1.65 2.48 1.63 試験区 ( ) 1.34 1.80 2.55 1.71 平均 1.32 1.72 2.51 1.67 6) プロダクションスコア プロダクションスコアは表 8のとおりである 表 8 期間プロダクションスコア 区 ( 性 ) 0-4w 4 ー 6w 6-7w 0-7w 対照区 ( ) 446 555 274 420 対照区 ( ) 389 426 284 365 平均 418 490 279 393 試験区 ( ) 462 656 327 466 試験区 ( ) 386 476 283 370 平均 424 571 305 417-37 -
試験区では高 CP 飼料給与期間中対照区に比べ高い値となった 雄では給与終了後も高く推移したが, 雌では対照区と同様であった 7) と体成績と体成績を表 9に, また, と体歩留, 羽 血液率, 正肉歩留, むね肉歩留, もも肉歩留, 腹腔内脂肪率の推移をそれぞれ図 2に示した と体調査は,4 以降の各毎に食鳥取引規格に基づき実施した 調査に供試する個体は, 各区の平均体重に近いものを雄, 雌 3 羽ずつとした なお4 時までは各区とも同管理であるため, 試験区と対照区の平均とした と体歩留まり以降の各項目は生体重に対する歩留まりを示している と体歩留まり及び羽 血液率については, 高 CP 飼料給与後 5 時までは各区とも同等に推移したが,6 以降は試験区で羽 血液率の増加にともない, と体歩留まりは対照区に比べやや低く推移した 正肉歩留まりは,6 以降は対照区よりやや高く推移した 内訳を見てみると, 対照区と比較した場合に試験区のむね肉は5 の増加が劣り 6 の増加が勝った 一方もも肉は5 が勝り6 で劣った しかしその後 7 の出荷時には対照区を上回る結果となった 腹腔内脂肪率は5 時までは同等であったがその後は試験区の方が低く推移した 表 8 ー 1 と体成績 (4 時 ) ( 体重 :g, その他 :%) 項目 生体重と体重 と体 むね もも 正肉 ささ 骨付き 可食内蔵 腹空内 区 ( 性 ) 歩留 み 手羽 心臓筋胃肝臓 計 脂肪 平均 1,708 1,565 91.7 16.9 17.1 34.0 3.2 8.1 0.6 1.4 2.7 4.7 1.6 平均 1,555 1,430 92.0 18.1 17.6 35.7 3.8 7.8 0.5 1.5 2.6 4.6 1.8 平均 1,631 1,498 91.8 17.5 17.4 34.8 3.5 8.0 0.5 1.4 2.6 4.6 1.7 表 8 ー 2 と体成績 (5 時 ) ( 体重 :g, その他 :%) 項目 生体重と体重 と体 むね もも 正肉 ささ 骨付き 可食内蔵 腹空内 区 ( 性 ) 歩留 み 手羽 心臓筋胃肝臓 計 脂肪 対照区 ( ) 2,510 2,327 92.7 20.6 18.6 39.2 3.9 7.9 0.5 1.1 2.3 3.9 1.8 対照区 ( ) 2,130 1,977 92.8 20.1 18.3 38.4 4.2 7.8 0.5 1.2 2.1 3.8 2.0 平均 2,320 2,152 92.7 20.4 18.5 38.9 4.0 7.8 0.5 1.2 2.3 3.9 1.9 試験区 ( ) 2,587 2,400 92.8 20.1 19.2 39.3 3.6 7.8 0.5 1.2 2.1 3.7 1.7 試験区 ( ) 2,160 2,000 92.6 19.0 18.3 37.3 4.0 8.0 0.5 1.2 2.2 3.9 2.2 平均 2,373 2,200 92.7 19.6 18.8 38.4 3.8 7.9 0.5 1.2 2.1 3.8 1.9-38 -
表 8 ー 3 と体成績 (6 時 ) ( 体重 :g, その他 :%) 項目 生体重と体重 と体 むね もも 正肉 ささ 骨付き 可食内蔵 腹空内 区 ( 性 ) 歩留 み 手羽 心臓筋胃肝臓 計 脂肪 対照区 ( ) 3,103 2,923 94.2 20.7 19.2 39.9 3.9 8.2 0.5 1.1 2.0 3.6 2.3a 対照区 ( ) 2,703 2,530 93.6 22.0 18.6 40.5 4.6 8.0 0.5 1.2 2.3 4.0 2.0 平均 2,903 2,727 93.9 21.3 18.9 40.2 4.2 8.6 0.5 1.2 2.1 3.8 2.1 試験区 ( ) 3,250 3,023 93.0 22.2 18.5 40.7 4.0 8.5 0.4 1.0 2.0 3.4 1.3b 試験区 ( ) 2,720 2,523 92.8 22.2 18.1 40.3 4.6 8.5 0.4 1.1 2.0 3.5 1.9 平均 2,985 2,773 92.9 22.2 18.3 40.5 4.3 8.5 0.4 1.1 2.0 3.5 1.6 表 8 ー 4 と体成績 (7 時 ) ( 体重 :g, その他 :% 項目生体重と体重と体むねもも正肉ささ骨付き可食内蔵腹空内区 ( 性 ) 歩留み手羽心臓筋胃肝臓計脂肪対照区 ( ) 3,667 3,480 94.9 21.3 19.3 40.6 3.9 8.4 0.4 1.1 2.1 3.6 1.7 対照区 ( ) 3,220 3,037 94.3 23.0 18.2 41.2 4.6 7.9 0.3a 1.0 2.1 3.4a 3.2 平均 3,443 3,258 94.6 22.1 18.8 40.9 4.2 8.2 0.4 1.1 2.1 3.5 2.4 試験区 ( ) 3,940 3,717 94.3 21.9 19.5 41.4 4.3 8.4 0.4 1.1 1.9 3.4 1.7 試験区 ( ) 3,230 3,020 93.5 22.5 19.1 41.7 4.4 7.7 0.4b 1.1 2.3 3.9b 2.6 平均 3,585 3,368 94.0 22.2 19.3 41.5 4.3 8.1 0.4 1.2 2.1 3.6 2.1 95.0 9.0 94.0 8.0 93.0 7.0 92.0 91.0 6.0 90.0 図 2-1 と体歩留の推移 5.0 図 2-2 羽 血液率の推移 - 39 -
43.0 24.0 41.0 22.0 39.0 37.0 20.0 35.0 18.0 33.0 図 2-3 正肉歩留の推移 16.0 図 2-4 むね肉歩留の推移 20.0 2.5 19.0 2.0 18.0 1.5 17.0 図 2-5 もも肉歩留の推移 1.0 図 2-6 腹腔内脂肪率の推移 ブロイラーの5 前後の正肉等可食部の発育の鈍化を, 羽や血液の増加に伴うタンパク質の競合による絶対的な不足が原因と推察しての本試験であり,4 から6 にかけて魚粉添加によりCPを高めた飼料を給与し5 以降の正肉等の可食部の発育促進を狙った 生体重の増加, 飼料要求率, プロダクションスコアは高 CP 飼料給与開始以降対照区よりも優れた と体調査で得られた各部位の割合では, 羽 血液, 正肉等可食部ともに対照区より高く推移した これはすなわち, 高 CP 飼料により羽, 正肉ともにそのタンパク質が使用されたと推察できる さらに注目したいのは, むね肉ともも肉の増加傾向である ブロイラーの 改良はむね肉の増加を主に進められているためか, むね肉は出荷日齢近くでも増加し続ける 逆にもも肉はその時期になると増加が緩慢になる しかし今回の試験においては, むね肉よりもも肉の増加割合の方が高い傾向が見られた 以上のことから, ブロイラーの4 から6 での高 CP 飼料の給与は羽と血液も更に増加させるが, 正肉等の可食部の発育鈍化が改善されるとともに, もも肉の歩留まりが向上することが示唆された 今後, タンパク源の違いや適正な給与期間等を更に検討し, ブロイラー農家の経営向上を視野に入れた技術の確立が必要となる - 40 -
文献 1) 板東成治 富久章子 笠原猛. 徳島県立農林水産総合技術支援センター畜産研究所研究報告,10:47-61.2011. 2) 板東成治 富久章子 吉岡正二 松長辰司 笠原猛. 徳島県立農林水産総合技術支援センター畜産研究所研究報告,11:34-41.2012. - 41 -