自己免疫性肝炎 1. 概要中年以降の女性に好発し 慢性に経過する肝炎であり 肝細胞障害の成立に自己免疫機序が想定される 診断にあたっては 肝炎ウイルス アルコール 薬物による肝障害 および他の自己免疫疾患の基づく肝障害を除外する 2. 疫学好発年齢は 50~60 歳代であり 男 : 女 =1:6 と

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平成 24 年 ₇ 月 15 日発行広島市医師会だより ( 第 555 号付録 ) 免疫血清部門 尿一般部門 病理部門 細胞診部門 血液一般部門 生化学部門 先天性代謝異常部門 細菌部門 B 型肝炎に関する最近の話題 ~ 免疫抑制によるB 型肝炎ウイルスの再活性化 を中心に~ 検査 1 科血清係 1

1. ウイルス性肝炎とは ウイルス性肝炎とは 肝炎ウイルスに感染して 肝臓の細胞が壊れていく病気です ウイルスの中で特に肝臓に感染して肝臓の病気を起こすウイルスを肝炎ウイルスとよび 主な肝炎ウイルスには A 型 B 型 C 型 D 型 E 型の 5 種類があります これらのウイルスに感染すると肝細胞


目次 1. 肝臓の病気 2. 肝炎ウイルスとは 3. ウイルス性肝炎とは 4. 急性肝炎 5. 慢性肝炎 6. 肝硬変 7.A 型肝炎 8.B 型肝炎 9.C 型肝炎 10.B 型肝炎の治療 11.C 型肝炎の治療 12. 予防方法 13. 肝炎の医療費助成制度 14. おわりに 1

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4 月 20 日 2 胃癌の内視鏡診断と治療 GIO: 胃癌の内視鏡診断と内視鏡治療について理解する SBO: 1. 胃癌の肉眼的分類を列記できる 2. 胃癌の内視鏡的診断を説明できる 3. 内視鏡治療の適応基準とその根拠を理解する 4. 内視鏡治療の方法 合併症を理解する 4 月 27 日 1 胃

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肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

感染 発症 ALT 血清 IgG 抗体 糞便中 HAV 血液中 HAV 糞便中 IgA 抗体 血清 IgM 抗体 月 A 型肝炎ウイルス感染時の各指標の変動 B 型急性肝炎の経過 HBc 抗体陽性 14 7 HBV-DNA 陽性 HBs 抗原陽性 HBc 抗体

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B 型肝炎ウイルス感染リウマチ性疾患患者への免疫抑制療法に関する提言本提言では B 型肝炎ウイルス (HBV) 感染リウマチ性疾患患者において免疫抑制療法を安全に施行するための方策を示す 日本リウマチ学会は平成 23 年 9 月 6 日に本提言を発表したが 平成 23 年 9 月 16 日および 2

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はじめに 我が国の肝がん死亡者数は,2005 年頃を最多とし, その後はゆっくりと減少しつつあります しかし, いまだに年間死亡者数は 3 万人を超えており, 依然として対策が極めて重要な病気です 原因としては,C 型肝炎,B 型肝炎, 非アルコール性脂肪肝炎 (NASH: ナッシュ ) やアルコー

1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

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の場合は特徴的なものを挙げることは困難である 肝障害のタイプからみた所見の特徴肝細胞障害型 胆汁うっ滞型 混合型に特徴的な所見を挙げることは困難である なお肝不全に至った場合 播種性血管内凝固症候群 (DIC) を併発すれば血小板減少 出血傾向に伴う貧血を認め 感染を併発すれば白血球増多や血液像で核

2017 年 10 月改訂版 リツキシマブ投与後の B 型肝炎ウイルス再活性化について 監修 名古屋市立大学大学院医学研究科血液 腫瘍内科学講師楠本茂名古屋市立大学大学院医学研究科病態医科学ウイルス学教授肝疾患センター副センター長中央臨床検査部部長田中靖人 リツキサン注 10mg/mL( 一般名 :

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り感染し 麻薬注射や刺青なども原因になります 輸血の安全性や医療環境の改善によって 医原性の感染は例外的な場合になりました 日本では約 100 万人の B 型肝炎ウイルスキャリアがいます その大部分は成人で, 昔の母子感染を含む小児期の感染に由来します 1986 年から B 型肝炎ウイルスキャリアの

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肝疾患に関する留意事項 以下は 肝疾患に罹患した労働者に対して治療と職業生活の両立支援を行うにあたって ガイド ラインの内容に加えて 特に留意すべき事項をまとめたものである 1. 肝疾患に関する基礎情報 (1) 肝疾患の発生状況肝臓は 身体に必要な様々な物質をつくり 不要になったり 有害であったりす

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10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

1.HBV 持続感染者の自然経過 HBV 持続感染者の病態は 宿主の免疫応答と HBV DNA の増殖の状態により 主に下記の 4 期に分類される HBV 持続感染者の治療に当たってはこのような自然経過をよく理解しておくことが必要である 1 免疫寛容期 immune tolerance phase

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緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

目次 1. 地域医療連携パスとは 肝疾患医療連携パスの運用方法について... 3 (1) 特長 (2) 目的 (3) 対象症例 (4) 紹介基準 (5) 肝疾患医療連携パスの種類 (6) 運用 3. 肝疾患医療連携パス... 7 (1) 肝疾患診断医療連携パス ( 医療者用 : 様式

都道府県単位での肝炎対策を推進するための計画を策定するなど 地域の実情に応じた肝炎対策を推進することが明記された さらに 近年の状況等を踏まえ 平成 28 年 6 月に基本指針の改正を行い 肝炎対策の全体的な施策目標を設定すること等が追記された 都は 肝炎をめぐる都内の状況や基本指針の改正を踏まえ

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Budd-Chiari 症候群は肝静脈や IVC の閉塞により起こるが 通常著明な肝腫大をきたし 痛みに過敏で重篤であり 難治性の腹水を伴う この患者は 8 か月前に施行された画像検査ではこのような所見は見られなかった 加えて 急性肝不全に至る経過が Budd-Chiari 症候群で予想されるよりも

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2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

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2015 年 8 月 27 日放送 第 78 回日本皮膚科学会東京支部学術大会 3 シンポジウム2 基調講演薬疹の最新動向と今後の展望 昭和大学皮膚科教授末木博彦 はじめに本日は薬疹の最新情報と今後の展望についてお話しさせていただきます 最初に薬疹の概念が変遷しボーダレス化が進んでいるというお話 続

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院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ


平成20 年9月平成 20 年 ₉ 月 15 日発行広島市医師会だより ( 第 509 号付録 ) その結果がまとめられたことから 同月 17 日付けで 輸血療法の実施に関する指針 の一 部改正を行い通知しています 輸血前後の感染症マーカー検査の必要性 ( 指針改正箇所を抜粋 ) 本症は早ければ輸血

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目次 C O N T E N T S 1 下痢等の胃腸障害 下痢について 3 下痢の副作用発現状況 3 最高用量別の下痢の副作用発現状況 3 下痢の程度 4 下痢の発現時期 4 下痢の回復時期 5 下痢による投与中止時期 下痢以外の胃腸障害について 6 下痢以外の胃腸障害の副

知っておきたい関節リウマチの検査 : 中央検査部医師松村洋子 そもそも 膠原病って何? 本来であれば自分を守ってくれるはずの免疫が 自分自身を攻撃するようになり 体のあちこちに炎 症を引き起こす病気の総称です 全身のあらゆる臓器に存在する血管や結合組織 ( 結合組織 : 体内の組織と組織 器官と器官

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60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

1)表紙14年v0

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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6. 研究対象者として選定された理由 当科を受診された各種慢性肝疾患の方が研究対象者に含まれます 7. 研究対象者に生じる利益 負担および予想されるリスクノベルジン錠の国内臨床試験に置ける安全性評価対象例 74 例中 23 例 (31.1%) に副作用が認められ 主な自覚症状では悪心 4 例 (5.

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遡及調査にて77日前の献血時のHBVウイルス血症が確認できた急性B型肝炎の一例

目 次 はじめに C 型慢性肝炎は C 型肝炎ウイルスに感染することにより 検査のすすめ 1 なぜ検査を受けたほうがよいのですか? 3 C 型慢性肝炎について 2 C 型慢性肝炎とは どんな病気ですか? 5 発症する病気です 日本には150~200 万人の患者さんがいると考えられていますが 自覚症状

2015 年 3 月 26 日放送 第 29 回日本乾癬学会 2 乾癬本音トーク乾癬治療とメトトレキサート 名古屋市立大学大学院加齢 環境皮膚科教授森田明理 はじめに乾癬は 鱗屑を伴う紅色局面を特徴とする炎症性角化症です 全身のどこにでも皮疹は生じますが 肘や膝などの力がかかりやすい場所や体幹 腰部

資料4-2メイン

脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

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白血病治療の最前線


2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に


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原発性胆汁性肝硬変 (PBC) 1. 概要肝内小型胆管の慢性非化膿性破壊性胆管炎 (CNSDC) および胆管消失により慢性胆汁うっ滞をきたし 最終的には肝硬変にいたる疾患 中年以降の女性に好発し 血中自己抗体である抗ミトコンドリア抗体 (AMA) 抗 pyruvate dehydrogenase(pdh) 抗体が高頻度に出現する 2. 疫学 PBC は中高年の女性に多い疾患で 年間推定発生患者数は 500 人であり 約 50,000-60,000 の患者がいると推定される 近年増加傾向にある 3. 原因自己免疫機序が考えられており 免疫複合体あるいは胆管細胞表面抗原に感作された細胞障害性 T リンパ球による胆管障害が想定されているが 未だ詳細は不明 4. 症状皮膚掻痒感が自覚症状となる症例 ( 症候性 PBC) が多く 病期が進行すると黄疸や門脈圧亢進症状 ( 食道静脈瘤 腹水 肝性脳症 脾腫 ) などの肝障害に基づく自他覚症状を呈するようになる 最近では 検診時肝機能検査値の異常をきっかけとしてみつかる無症候性 PBC が増えている 5. 合併症高脂血症による皮膚黄色腫 脂溶性ビタミン欠乏による骨粗鬆症 低頻度ではあるが肝癌を合併する 6. 治療法進行例を除けば ウルソデオキシコール酸 (UDCA) が第 1 選択 UDCA で正常化しない場合ベザフィブラートの併用が有効である場合がある 7. 研究班難治性の肝 胆道疾患に関する調査研究班

自己免疫性肝炎 1. 概要中年以降の女性に好発し 慢性に経過する肝炎であり 肝細胞障害の成立に自己免疫機序が想定される 診断にあたっては 肝炎ウイルス アルコール 薬物による肝障害 および他の自己免疫疾患の基づく肝障害を除外する 2. 疫学好発年齢は 50~60 歳代であり 男 : 女 =1:6 と女性に多い わが国での患者数は約 1 万人と推定されている 3. 原因発症原因は不明であるが 肝細胞障害の発現と持続に自己免疫機序が関与していると想定されている 4. 症状初発症状としては 全身倦怠感 食欲不振 黄疸など 自覚症状に乏しく偶然の機会に発見されることもある 5. 合併症肝外の自己免疫疾患を合併することも多く 頻度の高いものとして シェーグレン症候群 甲状腺機能低下症 関節リウマチがある 原発性胆汁性肝硬変や原発性硬化性胆管炎を合併することもある 6. 治療法免疫抑制剤 特にコルチコステロイドが奏功することが多い 重症例ではステロイドパルス療法が行われる 劇症肝炎や重症肝炎例では肝移植も考慮する 7. 研究班難治性の肝 胆道疾患に関する調査研究班

劇症肝炎 1. 概要劇症肝炎とは 肝炎ウイルス感染 薬物アレルギー 自己免疫性肝炎などが原因で 正常の肝臓に短期間で広汎な壊死が生じ 進行性の黄疸 出血傾向及び精神神経症状 ( 肝性脳症 ) などの肝不全症状が出現する病態である 初発症状出現から 8 週以内にプロトロンビン時間が 40% 以下に低下し 昏睡 Ⅱ 度以上の肝性脳症を生じる肝炎 と定義され この期間が 10 日以内の急性型と 11 日以降の亜急性型に分類される また 肝性脳症出現までの期間が 8~24 週の症例は遅発性肝不全 (LOHF:late onset hepatic failure) に分類される 研究班は 2011 年に 急性肝不全 の診断基準を発表した この基準では 正常肝ないし肝予備能が正常と考えられる肝に肝障害が生じ 初発症状出現から 8 週以内に 高度の肝機能障害に基づいてプロトロンビン時間が 40% 以下ないしは INR 値 1.5 以上を示すもの と定義される 急性肝不全は肝性脳症が認められない ないしは昏睡度が Ⅰ 度までの 非昏睡型 と 昏睡 Ⅱ 度以上の肝性脳症を呈する 昏睡型 に分類する 従って 劇症肝炎は 急性肝不全 : 昏睡型 の中で 成因が組織学的に肝炎像を呈する症例と見なすことができる 2. 疫学成人の劇症肝炎の年間発生数は 1972 年の調査では約 3,700 人と推定されたが 近年は減少傾向にあり 2005 年の調査では約 400 人と推定されている なお 厚生労働省の研究班の実施している全国調査では年間 100 例前後の症例が登録されており 1990 年以降の年間発生数はほぼ一定と推定される 一方 LOHF の発生頻度は劇症肝炎の 1/10 で 年間発生数は約 50 例と考えられている 3. 原因劇症肝炎 LOHF の成因は ウイルス性 薬物性 自己免疫性 成因不明例と分類される また ウイルス性は A B C E 型およびその他に分類されるが この中で B 型はさらに急性感染例とキャリア例に分類される ウイルス性で最も多いのは B 型であり 全体の約 40% を占めている 急性感染例とキャリア例が 5:3 の比率で見られる なお 2004 年以降は B 型の既往感染例 (HBs 抗原陰性 HBc 抗体ないし HBs 抗体が陽性 ) がリツキシマブ 副腎皮質ステロイドなどの免疫抑制 化学療法を受けた後に HBV の再活性化を生じて劇症化する症例が報告されるようになっている 薬物性と自己免疫性例は何れも全体の 10% 程度であり 成因不明例も未だ全体の約 30% と多い 4. 症状急性肝炎と同様に急性期には消化器症状 ( 悪心 嘔吐 食思不振 心窩部不快感など ) 発熱 全身倦怠感などを認める 劇症肝炎では黄疸が持続し しかも高度であることが多い 昏睡 II 度出現時に見られる症候で最も多いのは黄疸と羽ばたき振戦であり 全国集計では前者は 97% 後者は 74% で観察される 発熱 肝性口臭 腹水 頻脈及び肝濁音界消失が 40~60% 呼吸促迫と下腿浮腫が 20~30% で観察される 病型との関連では 腹水 下腿浮腫は急性型に比して亜急性型と LOHF で高率に観察されるのに対して 発熱 頻脈など SIRS( 全身性炎症反応症候群 :systemic inflammatory response syndrome) に関連する症候は急性型における頻度が高い 5. 合併症

劇症肝炎 LOHF は高率に全身の合併症を併発し 多臓器不全 (MOF:multiple organ failure) に陥る場合もある 合併症では DIC と感染症が約 40% で最も多く 腎不全と脳浮腫は約 30% 消化管出血は約 20% に併発していた 6. 治療法急性肝炎重症型と診断された時点で 成因に対する治療と肝庇護療法をできるだけ速やかに実施するのが望ましい 劇症肝炎 LOHF と診断された場合は血漿交換および血液濾過透析を併用した人工肝補助療法を開始する 肝移植適応ガイドライン ( 日本急性肝不全研究会 1996 年 ) および難治性の肝 胆道疾患に関する調査研究班が作成したスコアシステム (2010 年 ) を用いて初回の予後予測を行い 死亡が予測される場合は生体部分肝移植を考慮する 平成 22 年以降は 臓器移植法の改正により 脳死肝移植の実施数も増えている A B 型の急性感染例では 肝壊死進展防止の目的で抗凝固療法を実施する B 型キャリア例ではエンテカビルなどの核酸アナログ製剤を投与するが その効果出現には数日を要するため インターフェロンを併用した抗ウイルス療法を実施するのが望ましい なお B 型急性感染例でも肝壊死が持続している場合や 肝炎ウイルスマーカーからキャリア例との鑑別が困難な症例では 同様に抗ウイルス療法を実施すべきである 一方 自己免疫性や薬物性の症例では副腎皮質ステロイドをパルス投与する 本療法は肝庇護や過剰免疫の抑制の目的でも有用であり ウイルス性や成因不明例でも実施される場合がある 全身管理および合併症に対する治療も重要である 7. 研究班難治性の肝 胆道疾患に関する調査研究

肝内結石症 1. 概要肝内胆管にビリルビンカルシウム石を主体とする結石を有する疾患 2. 疫学肝内結石症は我が国を含めた東アジアに頻度の高い疾患であるが 近年 減少傾向にある 我が国の全胆石症の 0.6~1.7% に相当し 全国で約 2000 人の患者がいると推定される 男女差はなく 中高年者に多い 3. 原因発生原因は不明だが, 肝内胆管における胆汁うっ滞とそれに伴う細菌感染, 環境因子などの関与が推定されている 4. 症状結石が胆汁の流れを妨げることにより, 腹痛や発熱, 黄疸などの症状が出現する 5. 合併症繰り返す胆管炎や胆道癌の発生が見られる また, 結石を除去しても再発することが少なくない 6. 治療法結石が存在する肝葉の切除や内視鏡による結石除去術が行われる 7. 研究班難治性の肝 胆道疾患に関する調査研究