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Dokkyo Journal of Medical Sciences (3):219 226,28 219 肺の加齢による変化 獨協医科大学内科学 ( 呼吸器 アレルギー ) 福田 健 老化は, 加齢とともに各臓器の機能あるいはそれらを統合する機能が低下し, 個体の恒常性を維持することが不可能になり, 最終的には死に至る過程 と定義されている. 肺は, 老化による影響が最も顕著に現れる臓器の 1つであり, 明らかに良い健康状態を享受しているように見えても, 呼吸機能は年齢と共に確実に低下する. この傾向は6 歳以降とくに顕著である. しかし, 加齢に伴って肺で起こってくる変化を, 老化という言葉で一括してしまうことには注意せねばならない. なぜなら, 肺は外界と交通しているため, 恒常的に喫煙, 大気汚染などの環境汚染物質, 粉塵 ガスなどの職業的汚染物質, 細菌 ウィルスなどの病原体に曝露されており, 年齢を経るほどその効果は蓄積されてくるからである. つまり, 肺においては生理学的な加齢変化と外的侵襲の累積効果として生じてくる病的変化を厳密に区別することは難しい. 肺の老化を論じる場合にこのような制約があることを前置きした上で, 以下, 加齢による肺の構造的変化, 機能的変化について述べ, 後半では, それに伴う呼吸機能検査, 運動耐容能, 睡眠時呼吸の変化について概説する. 健常な老人肺の肉眼的特徴は, 胸郭の前後径の増加により丸みを帯びていることである. 肺の高さ, 前後径, 周囲長を測定した Anderson らの研究 1) によれば, これらの長さはいずれも6 歳までは増加するが前後径の増加が最も特徴的であり,6 歳以降は前後径の増加のみが認められるとしている. 光顕レベルでの変化については気道, 肺実質, 肺循環系に分けて示す. 1) 気道 : 中枢レベルの軟骨性気管支の直径は僅かであるが加齢と共に増加する. 比較的太い小気管支の直径は年齢と無関係にほぼ一定であり, 膜性細気管支レベルになると, その直径は 3 4 歳でピークに達しその後徐々に減少する. 全体としてみると, 解剖学的死腔は加齢に伴い増大するが, 機能的には有意な影響をもたらさない と考えられる 2). 気管支径以外の加齢に伴う変化としては, 軟骨組織の石灰化, 気管支粘液腺の肥大などがある. 2) 肺実質 : 老人の肺の呼吸細気管支と肺胞道は内径が増大しており, いわゆる, ductectasia と称される状態を呈する. 肺実質において肺胞道が占める割合が増加すると肺胞隔が短くなり肺胞は扁平化する.Ductectasiaは 4 歳以降で出現し6 歳以降で顕著になるが, 個人差が大きく,8 歳以上でも認められない場合もある 3). このような変化により, 肺胞径の指標である, 肺胞壁間の距離 mean linear intercepts (Lm) は増加する. 一方, 肺容量に対する肺胞表面積は減少する. 肺容量を5 Lの一定値にして加齢に伴う肺胞表面積の変化を検討したThur- beckの研究 4) によれば, 肺胞表面積は生後 25 歳ぐらいまで増加し続け75 m 2 に達する. その後 3 歳以降は減少傾向に転じ4%/ 年で減り続け7 歳までにはピーク時の 15% 程度減少する ( 図 1). この研究では肺胞径のLmも計測されていて, これは25 歳以降ほぼ直線的に増加することが認められた ( 図 2). さらに, 肺の含気成分を肺胞部分と肺胞道部分に分けて検討しているが, 肺胞道のスペースに含まれている気体の比率は加齢と共に増加するが, 肺胞含気成分比率は逆に年々低下する. 肺気腫患者の肺も終末細気管支以下の気腔の増大,Lmの増加, 肺胞表面積の減少を特徴とするが, 気腔の拡大が生理的な老化肺に比べ不均一であり, 肺胞壁の破壊, 肺胞同士の融合を認める. さらに重要な違いは, 肺気腫では肺胞壁の細胞浸潤, 呼吸細気管支の線維化など病的変化を伴うことである 5). 3) 肺循環系 : 抵抗血管である筋性動脈の内膜で線維化の増強が認められる. また, 肺動脈の細胞外マトリックスは加齢に伴い増加する. 中膜の加齢変化については不明である. 肺毛細血管に関しては, 数, 表面積, 血液量は成人期以降一定に保たれる 6). 加齢に伴う肺循環系の構造的変化が肺循環機能に与える影響については, 全く正常な若年者, 高齢者に右心カテーテルを行った研究が少ないことから明快な結論は得られていないが, 左室収縮機能が正常な心疾患のない47 人の健常人において右心カテーテルを行ったDavidsonとFeeらの研究による

22 福田健 DJMS 9 8 8 肺胞表面積 (m 2 ) 7 6 5 4 肺気量 (L) 6 4 3 2 2 1 1 2 3 4 5 6 7 8 1 肺内外圧差 2 3 肺容積を一定値としたときの肺胞表面積の経年変化 (cmh 2 O) 文献 4) より改変して引用 若年健常人, 高齢健常人, 肺気腫患者における静的 肺圧量曲線 TLC; 全肺気量,RV; 残気量,FRC; 機能的残気量 文献 4) より改変して引用 9 8 7 6 5 4 3 2 21 22 23 24 25 26 27 28 29 3 31 32 33 34 肺胞壁間距離 (Lm) (µm) 肺胞壁間距離 (Lm) の経年変化文献 4) より改変して引用 と, 加齢に伴い肺動脈圧, 肺血管抵抗の有意な増加を認めたが肺動脈楔入圧の増加は認めなかったとしている 7).Ehrsamらは,14 歳から 68 歳までの 125 人の自覚症状のない被験者における右心カテーテルの成績を後ろ向きに検討したところ, 肺動脈圧も楔入圧も性別, 体重, 身長で補正すると有意な経年的変化を認めなかったが, 自転車エルゴメーターを用いた仰臥位での運動中では, いずれの圧も年齢と共に上昇し, 特に 45 歳以上では明らかであった 8). 機能的残気量が静的状態では肺弾性収縮力と胸郭弾性拡張力とがつり合った状態で決まることからも明らかな ように, 肺と胸郭は共に弾性を有する. 加齢により呼吸器系全体としての弾性がどう変化するかは, 加齢が肺と胸郭の弾性に与える影響を別々に考えねばならない. 肺の弾性の評価は気流のない条件下 ( 静的 ) で肺圧量曲線を測定して行う. 肺の柔らかさ, 硬さの指標である肺コンプライアンスは肺圧量曲線の傾きで, 通常, 機能的残気量から.5 L 吸気時の傾きが用いられる 9). この肺圧量曲線は加齢と共に左方へシフトする ( 図 3) 1). つまり, 同じ肺気量位における肺弾性圧は加齢に伴い低くなる. 左方へ平行移動するだけなのか, 左方へシフトすると同時に曲線の傾きも急峻になるのかについては研究者間で一致をみていないが, 若干急峻になる ( 肺コンプライアンスが僅かに増加する ) と一般的には考えられてい

(3)(28) 肺の加齢による変化 221 2 才男性 % 全肺気量 機能的残気量位 残気量位 6 才男性 % 全排気量 機能的残気量位 残気量位 圧 (cmh 2 O) 肺, 胸部, 呼吸器全体の静的圧量曲線 L; 肺,W; 胸郭,RS; 呼吸器全体文献 1) より改変して引用 る 11). 肺組織の弾性収縮力は, 表面張力と肺の線維構造が進展されたときの弾性収縮力の2つの力によって発生する. 加齢に伴う肺弾性収縮力の低下の大部分は表面張力の低下によってもたらされる. 前述したような加齢による肺胞表面積の減少は気相 液相境界面積の減少を招き 4), その結果として表面張力を低下させる. 肺弾性収縮力のもう一つの成分である進展された弾性線維が発生する収縮力は加齢に伴う肺弾性収縮力低下にほとんど関係しないと考えられる. 肺実質の弾性線維含有量は年齢に関係なく一定であることが知られている 12). 一方, 胸郭は高齢になるにつれ次第に硬くなることが知られている. つまり, 胸郭の弾性は失われてくる. その一因は肋骨, 胸骨, 脊椎などの石灰化にある. 胸郭の圧量曲線は加齢と共に右にシフトし傾きも緩やかになる 13 15). 即ち, 胸郭コンプライアンスは加齢と共に低くなる. この胸郭における弾性特性の変化の方が肺のそれより大きいため, 呼吸器系全体としてのコンプライアンスは低下する. この低下は呼吸筋の酷使を強いることになる ( 図 4). 呼吸回路を閉鎖して, 肺気量をある一定の量に保ったままで最大吸気努力をした時の口腔内圧をmaximal inspiratory pressure:mip, 最大呼気努力をした時の口腔内圧をmaximal expiratory pressure:mepという. 残気量位でのMIPをPImax, 全肺気量位でのMEPを PEmaxと称する.PImaxあるいはPEmaxには肺の弾性収縮力 (Prs) も含まれるので, 呼吸筋自体がつくり出した圧 (Pmus) はPmus=PImax or PEmax-Prsである. 機能的残気量位ではPrs=なので, 機能的残気量位での MIPは呼気筋力,MIPは吸気筋力を示す. 非呼吸器系骨格筋では加齢と関連して筋エネルギー代謝効率の変化, 運動単位の衰退, 筋電図的異常など活動能力の減少が認められていることから呼吸筋においても加齢に伴い何らかの異常が出ると考えられる.2 代から7 代までの12 人の健常人を対象としたBlackとHyattの研究では,55 歳以下では年齢と関連した異常は認められなかったが, 女性ではPImax,PEmax 共に加齢に伴い統計学的に有意に低下した 16). 一方,ChenとKuoは, 男女別に若年グル

222 福田健 DJMS 1-3. 低酸素負荷 6 高二酸化炭素負荷 最大呼吸圧 (Cm H 2 O) 8 6 4 2 ΔP 1 /ΔSaO 2, cm H 2 O/% -2.5-2. -1.5-1. ΔP 1 /ΔP ET Co 2, cm H 2 O/% 5 4 3 2 -.5 1 16-3 3-45 46-6 61-75 年齢 ( 才 ) 女性における年齢層別の最大呼吸圧 ; 最大呼吸圧 ; 最大呼気圧 文献 7) より改変して引用 -. 高齢者コントロール高齢者コントロール 高齢者におよび若年者における低酸素負荷及び高二酸化炭素負荷に対する気道閉塞圧 ( ピーポイントワン ) 文献 19) より改変して引用 ープ (16 3 歳 ) と老齢者グループ (61 75 歳 ) に分けて検討し,PImaxでは 32 36 % の減少が,PEmaxでは 13 23% の減少が認められたと報告している ( 図 5) 17). これらをまとめると, 呼吸筋力にも加齢関連減少を認めるが, その程度は軽度である. その理由として, 呼吸筋は他の骨格筋に比べ恒常的に使われているための鍛錬効果の現れと考えられる. 健康若年者は代謝に見合った分時換気を行う. 安静時には少なく, 激しい活動時には多めの換気を行うことにより動脈血ガス分圧は一定に保たれる. また, 若年者では肺疾患やうっ血性心不全によりガス交換効率が減少しても, 適切に分時換気量を増加させることにより動脈血ガス分圧の異常を最低限にとどめることができる. このように血液中の酸素や二酸化炭素濃度を一定のレベルに維持して生体の内部環境を一定に保ち, 恒常性を維持するために呼吸調節を巧妙に行う仕組みが備わっている. そのような調節系の特性や感度を調べようとする検査が換気応答検査である. 換気刺激の方法としては低酸素 ( 低 O 2 ), 高二酸化炭素 ( 高 CO 2 ) などがある.Kronenberg と Drageは高 CO 2 に対する換気応答を8 人の若年者 ( 平均 25.6 歳 ) と老齢者 ( 平均 69.6 歳 ) 間で比較した 18). 検査中に低酸素刺激がかからなくするために酸素を吸入させてPaO 2 が2 mmhg 以上に維持させたまま,5%CO 2 を再呼吸させてPaCO 2 を 65 mmhg まで上昇させた. 相当の個人差がみられたものの, 老齢者では高 CO 2 に対する換気応答が有意に減少していた. 彼らは低 O 2 に対する 換気応答も調べ, 若年 老齢者間で大きな差があることを見いだした.PaO 2 =4 mmhg 時の分時換気量 ( 平均 ) は若年者群で4.1 L/min, 老齢者群で1.2 L/minである顕著な差が認められた. しかし, 低 O 2, 高 CO 2 負荷に対する換気応答は呼吸中枢の活動を純粋にみているものではない. 呼吸筋や気道, 肺, 胸膜に障害がある場合は呼吸中枢の要求に換気運動が追従できず, これらの指標では呼吸中枢の調節機能を過少評価している可能性もある. 既に前述したように, 高齢者では呼吸筋力が減少し胸郭も硬くなるので, 低 O 2, 高 CO 2 の負荷に対応して1 回換気量を増加させようと思っても若年者のように即座に増加させることができない. 一方, 吸気のごく初期だけ吸気側の弁を閉じ, 吸気の開始から.1 秒間に生じる口腔内圧変化を測定する気道閉塞圧またはP.1 ( ピーポイントワン ) は, より呼吸中枢の出力に近いものを評価できる.Petersonらは1 人の老齢者群 ( 平均年齢 73.3 歳 ) と9 人の若年者群 ( 平均年齢 24.4 歳 ) で, この手法を用いて低 O 2, 高 CO 2 負荷に対する反応を測定したが, やはり老齢者群で有意に減少しており, 老齢者における呼吸筋力の減少を補正してもこの減少は残った ( 図 6) 19). 以上のように加齢に伴い低 O 2, 高 CO 2 負荷に対する呼吸中枢レベルでの換気応答が明らかに低下するが, これが化学受容器レベルの変化によるものか, 呼吸中枢センター機能の変化によるものかはよく分かっていない. これまで述べた加齢に伴う肺の構造, 機械的特性, 呼吸筋力, 換気応答能力の変化は臨床検査として測定され

(3)(28) 肺の加齢による変化 223 肺気量 (L) 7 TLC TLC 6 5 4 CC FRC 3 FRC RV 2 CC RV 1 2 3 4 5 6 7 8 肺気量分画の経年変化 TLC: 全肺気量,RV: 残気量,FRC: 機能的残気量 CC: クロージング キャパシティ表示されていないがVC( 肺活量 ) はTLC-RVで算出される. 加齢に伴う最も目立つ変化はRVの増加とVCの減少である. 文献 19) より改変して引用ている安静時呼吸機能, 運動時呼吸機能に反映される. したがって, 高齢者の呼吸機能の測定にあたっては, そのことを念頭に入れて結果を解釈する必要がある. 加齢に伴う肺気量の真の変化は, 個々の健常人の呼吸機能を若年から高齢まで測定し続けて初めて正確に知ることができる. しかし実際にはそのような研究は肺活量以外では存在していない. 図 7は横断的研究をもとに作図された加齢に伴う肺気量画の変化を示す 19). 全肺気量 (total lung capacity:tlc) は, 肺と胸壁を合わせた呼吸器システム全体の縮まろうという内向きの力と吸気筋力が発生する外向きの最大の力が釣り合った肺気量である. 加齢に伴い呼吸器システムは硬くなり吸気筋力も低下するのでTLCは当然低下すると予想されていたが, これまでの多くの研究結果を総合すると,TLC は不変ないし僅かな減少という結論になる.European Coal and Steel Communityは 7 つの横断的研究の結果を解析し, 男性ではそのうち 4 つ, 女性では 3 つの研究においてで有意な変化が認められていないと報告した 2). その他の研究でもTLC 低下は僅かであり, 年間 8 19 mlの減少に過ぎなかった 21).McClaran らは 18 人の健康人において, その肺気量を平均 67 歳の時と, その6 年後の2 回測定した.TLC は平均で年間 25 ml 低下することが観察されたが, その変化は統計的には有意ではなかった 22). 残気量 (residual volume:rv) ならびに残気率 (RV/ TLC ratio) は加齢と共に増加することで見解が一致している.RVは若年者においては呼吸器システムの外に向かって拡がろうとする弾性拡張圧と呼気筋が発生する呼吸器システムを縮まらせようとする力のバランスによって決まるが, 高齢者では呼気流量がゼロに達しないため, どれくらい長く息を吐き続けられるかが重要な要素になる. もう一つの因子は呼気時における末梢気道の閉塞 (air trapping) である 23). 機能的残気量 (functional residual volume:frc) は肺の弾性収縮力と胸郭の弾性拡張圧のバランスによって決まる. 高齢者では前者は減少し胸郭は硬くなるから FRCは増加することが予想されるが, 実際には有意な変化が認められていない.McClaranの同一個人における長期間研究では,1 年間あたり4 mlのfrc 増加を認めたが, これも有意差な変化ではなかった 22). しかし, 一般的にはFRCは女性では加齢に伴う増加を認めないが男性では僅かであるが増加すると考えられている 11). 肺活量 (vital capacity:vc) はTLCが不変でRVが増加するため, 加齢に伴い減少する. 減少の程度は研究により大きな違いがあるが, 横断的研究における加齢関連 VC 減少量は男性で年間 21 33 ml, 女性で18 29 mlである. つまり減少傾向は女性より男性でより顕著である. 強制呼気中の呼気流量は加齢とともに減少するが, その低下は低肺気量位で顕著である.Nunnらは225 人の男性,228 人の健康な非喫煙者の女性における調査で, 加齢に伴ってpeak expiratory flow (PEF) は中程度で直線的でない低下を示すと報告した 24).3 歳前後で頂点に達し,45 歳頃から明らかに低下し始める.5 歳以降では1 年間の平均低下量が男性で約 4 L/min, 女性で約 2.5 L/ min であった. 図 8はPaoletti らによる成長期, 成熟期, 老齢期における1 秒量 (forced expiratory volume in one second: FEV 1 ) の変化を示したものである 25).FEV 1 は12 才までの成長期まで漸次増加し, 思春期頃にはこれらの増加が促進される. 増加は女性で2 歳, 男性では25 歳頃まで認められる. その後低下が始まり, 年齢が進むにつれ低下率は加速する. 加齢に伴うFEV 1 の低下は, 男性, 高身長の人, 標準値より大きい人, 気道反応性の高い人で大きいと言われている. 日本人におけるFEV 1 の1 年間当たりの平均減少量は非喫煙健康男性で28 ml, 女性で22 ml である 26).

224 福田健 DJMS 6 女性 6 男性 1 秒量 (L) 5 4 3 2 1 秒量 (L) 5 4 3 2 1 1 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 1 秒量の経年変化 3289 名の母集団から正常人として選択された女性 538 名, 男性 263 名のデータをプロットしてある. 文献 25) より改変して引用 FRC 位で測定される気道抵抗は加齢により変化しない. 加齢により中枢気道径は大きくなる一方, 末梢気道径は小さくなるため, それらが気道抵抗へ与える影響が相殺されて全気道抵抗は変化しないのかもしれない. しかし, 全気道抵抗の約 9 % は中枢気道であるため, 中枢気道における変化が少ないと考えるのが妥当であろう. 肺拡散能の評価には本来ならば酸素ガスを使用できれば理想的であるが, 毛細血管内血液の酸素分圧は混合静脈血から終末毛細血管に至るまで変化するため, 肺胞気との分圧差を求めることが困難である. そこで, 臨床検査としての肺拡散能力測定には, 毛細血管内での分圧が無視でき, しかも低分圧でもヘモグロビンとの親和性が高い一酸化炭素 (CO) が指標ガスに用いられ,Dlcoとして表される.Dlcoは加齢と共に減少し, 男性で1 年間に約.2 ml CO/min/ mmhg, 女性で.15 ml CO/min/ mmhgに低下するとの報告がある. この低下は1 年間におおよそ.5% である 27 28). 加齢による Dlco 低下はガス分布の不均一性増大では説明できない.Dlco の構成要素は膜拡散能力 (Dm) と肺毛細血管血液量 (Vc) である. DmとVcは加齢と共に減少する.9 人の非喫煙健康者 ( 男性 54 人, 女性 36 人 ) を対象とした横断的研究によれば, 加齢によるDm と Vc 減少は直線的であり,Dmは男 女とも1 年で約.6% 低下した.Vcの低下は1 年で.3% であった 13). 年齢が増しても肺胞気酸素分圧は変化しないが, 動脈血酸素分圧 (PaO 2 ) は低下する 29). したがって, 肺胞気 動脈血酸素分圧較差は加齢とともに増大する. 加齢に伴うPaO 2 低下は横臥位でより顕著である 11). 加齢に伴う PaO 2 低下は換気血流比不均等増大によって説明される. 福地らは,PaO 2 =12.3 年齢, という式を提唱しており, 日常臨床においても頻用されている 3).PaCO 2 や phは加齢による変化は認められない. 運動能力 ( 運動耐容能 ) を客観的に評価できる指標として最大酸素摂取量 (VO 2 max) がある. 運動負荷量を一定にして運動を続けると,VO 2 は運動開始直後から急速に上昇する. しかし, 負荷を続けているとVO 2 は増加しなくなり, これをVO 2 max と称する.VO 2 max は年齢と共に低下し,Jonesらにより, 男性では,VO 2 max =6.55 年齢 (SD±7.5), 女性では,VO 2 max=48.37 年齢 (SD±7.)mL/kg/min, の予測式が報告されている 31). 但し, 実際の測定ではVO 2 maxまで負荷するのは難しく, 呼吸困難や疲労感のため運動を中止せねばならなくなることが多い. したがって,VO 2 maxで

(3)(28) 肺の加齢による変化 225 なくVO 2 peakと表すこともある. 加齢による運動能力の低下は生活習慣の影響も受ける. 座位でいることが多い生活スタイルでは筋肉量が低下し脂肪量が増加する. このような状況ではII 型筋線維の減少と共に筋毛細血管網の減少と酸素化活性の低下が起こり,VO 2 max ないし VO 2 peakの減少は加速される 11). 一方, 相当高齢になっても運動漬けに反応する能力は良好に維持される. 老齢者であっても若者と同様, 耐久トレーニングと抵抗負荷トレーニングの両方に反応することができ,VO 2 peakの増加, 筋量, 筋毛細血管量, 筋酸素化能, 筋力の増加がみられる. 高年齢においても, 呼吸機能検査を行った個人と同年齢者の標準値を予測式や標準値表から求めることが可能である. しかし, これらの予測式や表の作成に当たっては, 若年齢においては十分なサンプル数のもとにデータが得られているが, 高齢になればなるほど, 正常値を求める研究に協力した人の数が少なくなり, データの信憑性が小さくなる. また, 全くデータが得られていないために, 若年齢層, 前期高齢者層のデータの類推である場合もある. また, 仮に十分な数の高齢者サンプルに基づいたデータであったとしても, そのサンプルが一般的な高齢者を代表していないこともある. 高齢化する程, 一見疾患罹患はなくても実際は罹患している場合も多くなり, また, 研究に参加する意志を持つ高齢者は同年齢層の中でも特に活動性が高い人達である可能性もある. したがって, 高年齢層における標準値は若年齢層におけるそれより参考にならないことを知っておく必要がある. 今後, 益々高齢者医療が重要性を増すため, 真の高齢者サンプルに基づいた呼吸機能検査標準値の作成が必要になってくる. 加齢と共に脳幹部の睡眠中枢の老化, 呼吸中枢の易不安定化, 化学受容体の反応性低下, 上気道支持筋力の低下が起こり, 疾患罹患がなくても睡眠障害が起こりやすくなる. 事実, 老齢者における睡眠時無呼吸やいびきの頻度は若年者に比較して高い 32). また, 低換気と過換気を繰り返すチェーン ストークス呼吸のような周期性呼吸の頻度も増加する 33). 米国でのデータでは, 睡眠時呼吸の異常は, 独立して暮らしている老人より, 養護ホームに暮らす老人に目立ってみられる. 例えば,5 時間の無呼吸指数を一つの基準とすると, 養護ホームに暮らす老人の42% に睡眠時無呼吸が認められている 11). これら 生理的な老化過程以外に高齢者は鎮静剤や睡眠薬をより使用しがちであり, その慢性的な使用も睡眠時無呼吸などの睡眠障害は悪化させることがある. さらに, 環境要因による覚醒の増加, 屋外で日光を浴びる量の減少, 活動量の少なさ, 昼寝なども高齢者の睡眠障害の要因となる. 体温のような内因性の24 時間周期リズムの変化, コルチゾールまたは甲状腺刺激ホルモン (TSH) レベルの変化も高齢者における睡眠障害の原因となる. 1)Anderson WF, Anderson AE Jr, Hernandes JA, et al: Topography of aging and emphysematous lungs. Am Rev Respir Dis, :411-423, 1964. 2)Gibellino F, Osmanliev DP, Watson A, et al:increase in tracheal size with age:implications for maximal expiratory flow. Am Rev Respir Dis, :784-787, 1985. 3)Ryan SF, Vincent TN, Mitchell RS, et al:ductectasia; an asymptomaic pulmonary change related to age. Med Thorac, :181-187, 1965. 4)Thurlbeck WM, Wright JL:Chronic airflow obstruction (2 nd ed). London, B.C. Decker Inc, pp128-131, 1999. 5)Verbeken EK, Cauberghs M, Mertens I, et al:the senile lung; comparison with normal and emphysematous lungs. 1. Structural aspects. Chest, :793-799, 1992. 6)Cotes JE.:Physiology of the aging lung. in The Lung Scientific Foundations (2 nd ed.)ed by Crystal RG, West JB, Barnes PJ, Weibel ER, Raven Press, New York, pp. 2193-223, 1997. 7)Davidson WR, Fee EC.:Influence of aging on pulmonary hemodynamics in a population free of coronary artery disease. Am J Cardiol, :1454-1458, 199. 8)Ehrsam RE, Perruchaud A, Oberholzer M, et al:influence of age on pulmonary hemodynamics at rest and during supine exercise. Clin Sci, :653-66, 1983. 9) 飛田渉 : 換気力学 ; コンプライアンスと抵抗. 臨床呼吸機能検査第 7 版 ( 日本呼吸器学会肺生理専門委員会編 ), メディカルレビュー社, 東京,pp34-42,28. 1)Turner JM, Mead J, Wohl ME.:Elasticity of human lungs in relation to age. J Appl Physiol, :664-671, 1968. 11)Crapo RO, Campbell EJ.:Aging of the respiratory system. In Fishman s Pulmonary Diseases and Disorders Volume 1 ed by Fishman AP. McGraw-Hill, New

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