症例 70 歳 性 主訴 現病歴 発熱 倦怠感 咳嗽重喫煙歴 糖尿病の既往がある ADL した70 歳 性 来院 3 前から発熱 倦怠感 咳嗽あり 改善に乏しいため当院受診

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入した場合には 経気道的な散布巣として臓側胸膜から 2-3mm 離れた内側に小葉中心性粒状影や tree-in-bud といわれる小葉中心性病変を呈しますが この所見をみた場合には呼吸器感染症を強く疑います 汎小葉性病変は 小葉間隔壁に囲まれた ほぼ 1, 2cm 四方の小葉内が細胞浸潤や滲出物ある

2.7.3(5 群 ) 呼吸器感染症臨床的有効性グレースビット 錠 細粒 表 (5 群 )-3 疾患別陰性化率 疾患名 陰性化被験者数 / 陰性化率 (%) (95%CI)(%) a) 肺炎 全体 91/ (89.0, 98.6) 細菌性肺炎 73/ (86

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

第 88 回日本感染症学会学術講演会第 62 回日本化学療法学会総会合同学会採択演題一覧 ( 一般演題ポスター ) 登録番号 発表形式 セッション名 日にち 時間 部屋名 NO. 発表順 一般演題 ( ポスター ) 尿路 骨盤 性器感染症 1 6 月 18 日 14:10-14:50 ア

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染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

平成20年度 大学院シラバス(表紙)

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10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

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割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま


2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

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研究協力施設における検討例 病理解剖症例 80 代男性 東京逓信病院症例 1 検討の概要ルギローシスとして矛盾しない ( 図 1) 臨床診断 慢性壊死性肺アスペルギルス症 臨床経過概要 30 年前より糖尿病で当院通院 12 年前に狭心症で CABG 施行 2 年前にも肺炎で入院したが 1 年前に慢性

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

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33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

て 弥生時代に起こったとされています 結核は通常の肺炎とは異なり 細胞内寄生に基づく免疫反応による慢性肉芽腫性炎症であり 重篤な病変では中が腐って空洞を形成します 結核は はしかや水疱瘡と同様の空気感染をします 肺内に吸いこまれた結核菌は 肺胞マクロファージに貪食され 細胞内で増殖します 貪食された

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されており これらの保菌者がリザーバーとして感染サイクルに関与している可能性も 考えられています 臨床像ニューモシスチス肺炎の 3 主徴は 発熱 乾性咳嗽 呼吸困難です その他のまれな症状として 胸痛や血痰なども知られています 身体理学所見には乏しく 呼吸音は通常正常です HIV 感染者に合併したニ

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2009年8月17日

(別添様式1)

48小児感染_一般演題リスト160909

改訂の理由及び調査の結果直近 3 年度の国内副作用症例の集積状況 転帰死亡症例 国内症例が集積したことから専門委員の意見も踏まえた調査の結果 改訂することが適切と判断した 低カルニチン血症関連症例 16 例 死亡 0 例

結核発生時の初期対応等の流れ

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

1 研究の背景市中肺炎は我が国はもちろん 世界中で死亡の主要な原因となっている (1) 市中肺炎患者は発熱 胸部レントゲン写真での浸潤陰影 白血球や CRP の上昇を示すが 特発性器質化肺炎 特発性肺線維症急性増悪 薬剤性肺炎などの急性非感染性炎症性肺実質疾患も同様な所見を呈し 鑑別に難渋することも

085 特発性間質性肺炎

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呼吸困難を呈し、            臨床的に閉塞性細気管支炎と  診断した犬の2例

公開情報 2016 年 1 月 ~12 月年報 院内感染対策サーベイランス集中治療室部門 3. 感染症発生率感染症発生件数の合計は 981 件であった 人工呼吸器関連肺炎の発生率が 1.5 件 / 1,000 患者 日 (499 件 ) と最も多く 次いでカテーテル関連血流感染症が 0.8 件 /

名称未設定

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抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

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「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

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医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

85 特発性間質性肺炎 概要 1. 概要間質性肺炎とは 胸部 X 線写真や CT 画像にて両側びまん性の陰影を認める疾患のうち 肺の間質を炎症や線維化病変の場とする疾患の総称である 間質性肺炎の原因は多岐にわたり 職業 環境性や薬剤など原因の明らかなものや 膠原病 サルコイドーシスなどの全身性疾患に

で言われています このような 副鼻腔炎と喘息の合併のことを 同一の気道で起こるので One airway one disease と呼ばれ久しくなっています それぐらいに 上気道と下気道の関連が密接であることが 広く認識されています また 副鼻腔炎に下気道の慢性炎症を合併する疾患としては 副鼻腔気管

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

(案の2)

目次.7.3(5 群 ) 呼吸器感染症臨床的有効性の概要....(5 群 ) 背景および概観....(5 群 ) 個々の試験結果の要約 (5 群 ) 全試験を通しての結果の比較と解析 (5 群 ) 試験対象集団 (5 群 ) 全有効性試験の結果の比較検討..

耐性菌届出基準

日産婦誌58巻9号研修コーナー

診断ワークショップ5

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

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院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

「薬剤耐性菌判定基準」 改定内容

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5. 死亡 (1) 死因順位の推移 ( 人口 10 万対 ) 順位年次 佐世保市長崎県全国 死因率死因率死因率 24 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 位 26 悪性新生物 350

第2次JMARI報告書

抗菌薬と細菌について。

に 真菌の菌体成分を検出する血清診断法が利用されます 血清 βグルカン検査は 真菌の細胞壁の構成成分である 1,3-β-D-グルカンを検出する検査です ( 図 1) カンジダ属やアスペルギルス属 ニューモシスチスの細胞壁にはβグルカンが豊富に含まれており 血液検査でそれらの真菌症をスクリーニングする

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ICUにおける酸素療法

横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

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2 経験から科学する老年医療 上記 12 カ月間に検出された病原細菌総計 56 株中 Escherichia coli は 24 株 うち ESBL 産生菌 14 株 それ以外のレボフロキサシン (LVFX) 耐性菌 2 株であった E. coli 以外の合計は 32 株で 内訳は Enteroco

がん登録実務について

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学会名 : 日本免疫不全症研究会 アンケート 1 1. アンケート 2 に回答する疾患名 (1) X 連鎖無 γ グロブリン血症 (2) 慢性肉芽腫症 2. 移行期医療に取り組むしくみあり :1 年に1 回の幹事会で 毎年 discussion している また 地区ごとの地方会で 内科の先生方にいか

2012 年 7 月 18 日放送 嫌気性菌感染症 愛知医科大学大学院感染制御学教授 三鴨廣繁 嫌気性菌とは嫌気性菌とは 酸素分子のない環境で生活をしている細菌です 偏性嫌気性菌と通性嫌気性菌があります 偏性嫌気性菌とは 酸素分子 20% を含む環境 すなわち大気中では全く発育しない細菌のことで 通

15,000 例の分析では 蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は, 各々最初の 3 か月と比較し 2 年後には有意に高率となり それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少を認め 2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています このように bundle の merit

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適応病名とレセプト病名とのリンクDB

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Clinical Question 2017/8/28 治療抵抗性肺炎 東京ベイ 浦安市川医療センター 総合内科松尾裕 郎 監修 : 総合内科呼吸器内科江原淳 分野 : 呼吸器テーマ : 治療

症例 70 歳 性 主訴 現病歴 発熱 倦怠感 咳嗽重喫煙歴 糖尿病の既往がある ADL した70 歳 性 来院 3 前から発熱 倦怠感 咳嗽あり 改善に乏しいため当院受診

症例 70 歳 性 既往歴 内服 社会歴 糖尿病メトホルミン テネリグリプチン職業 : 主婦飲酒 : なし喫煙 :20 本 / を現在まで50 年間アレルギー : なし

来院時所 体温 38.0 度 圧 134/78mmHg 脈拍数 92bpm 呼吸数 16 回 / 分 SpO2 96% ( 室内気 ) 頭頸部 胸部 腹部四肢 結膜蒼 染 (-) 咽頭発 腫脹 (-) 腔内はやや不衛 齲 あり左前胸部上部で吸気時のcoarse crackles(+) 雑 (-) 平坦 軟圧痛 (-) 浮腫 (-) 疹 (-) 関節痛 (-)

左上肺野に 浸潤影あり

院後経過 市中肺炎として 抗菌薬治療開始セフトリアキソン点滴 1g 24 時間ごと アジスロマイシン内服 500mg 24 時間ごと 治療開始 3 しても解熱せず 咳嗽は持続し 喀痰量も増えている どう対応しますか?

治療抵抗性肺炎とは 治療抵抗性肺炎の原因 治療抵抗性肺炎へのアプローチ

治療抵抗性肺炎 通常の細菌性肺炎として治療開始したにも 関わらず 順調に治癒しない状態

順調な肺炎の経過とは? 指標 頻脈 低 圧 発熱 頻呼吸 低酸素 症 咳嗽 倦怠感 浸潤影 改善まで 2 3 14 30 J Infect. 2004;49:302-9 Respir Med. 1998;92:1137-42 Arch Intern Med. 1999;159:970-80

結局治療抵抗性肺炎とは? 治療開始後 72 時間で臨床症状が改善して こない場合 治療抵抗性肺炎の可能性を考える 具体的には 治療開始後も症状が増悪し続ける場合 72 時間経過しても臨床指標が安定しない場合 Clin Infect Dis. 2007;44:27-72(IDSA CAP ガイドライン )

15% 頻度は全市中肺炎の 12.5倍 治療抵抗性の場合 死亡率は (25% vs 2%) Thorax. 2004;59:960-5

治療抵抗性肺炎の病態は? 1 治癒が遷延しているだけ 2 耐性菌 カバーできていない菌による感染 3 肺炎の合併症 ( 膿胸 肺膿瘍 ) 4 細菌以外の感染 5 感染性の肺疾患

治療抵抗性肺炎の病態は? 1 治癒が遷延しているだけ 2 耐性菌 カバーできていない菌による感染 3 肺炎の合併症 ( 膿胸 肺膿瘍 ) 4 細菌以外の感染 5 感染性の肺疾患

肺炎治癒に影響を与える因 重症度 原因菌 患者背景

重症肺炎は治りにくい 安定化までの時間中央値 ( 体温 :37.8 度以下 SpO2:90% 以上 呼吸数 :24 回 / 分以下 ) PSI Class Ⅰ-Ⅲ:3 PSI Class Ⅳ:4 PSI Class Ⅴ:6 PSI:Pneumonia Severity Index JAMA. 1998;279:1452-7

起炎菌 改善 (n=1254) 48-72 時間以内に 改善なし (n=81) p 値 不明 656 (52%) 26 (32%) 0.006 肺炎球菌 288 (23%) 18 (22%) 0.88 レジオネラ菌 75 (6%) 17 (21%) <0.001 誤嚥性肺炎 75 (6%) 5 (6%) 0.94 インフルエンザ菌 79 (6%) 4 (5%) 0.60 定型菌 ( レジオネラ以外 ) 57 (4%) 3 (4%) 0.71 その他グラム陰性桿菌 * 9 (1%) 6 (7%) 0.03 *: 緑膿菌 6 クレブシエラ3 腸菌 1 エンテロバクター 1 エロモナス1 原因菌不明 レジオネラ肺炎は 治りにくい Arch Intern Med. 2004;164:502-8

併存疾患があると治りにくい 状態 COPD アルコール依存 神経疾患 疾患 慢性腎臓病 悪性疾患 糖尿病 HIV 要因咳嗽不良 気道クリアランス不良誤嚥 低栄養 好中球機能低下誤嚥 咳嗽不良 気道浮腫 リンパドレナージ不良 免疫不全 免疫不全 化学療法の影響 免疫不全 免疫不全 UpToDate Nonresolving pneumonia

治療抵抗性肺炎の病態は? 1 治癒が遷延しているだけ 2 耐性菌 カバーできていない菌による感染 3 肺炎の合併症 ( 膿胸 肺膿瘍 ) 4 細菌以外の感染 5 感染性の肺疾患

代表的な市中肺炎起炎菌 般的なもの Streptococcus pneumoniae(11.9%) Klebsiella pneumoniae(6.3%) Haemophilus influenzae(6.2%) Moraxella catarrhalis(1.3%) 定型菌 Mycoplasma pneumoniae(11%) Chlamydia pneumoniae(13.4%) Legionella pneumophilia(1.1%) 耐性 GNR Pseudomonas aeruginosa(2.7%) MRSA Staphylococcus aureus(2.0%) (MRSA 含む ) Int J Antimicrob Agents. 2008;31:107-14

1 2 3 4 5 6 細菌性肺炎と 定型肺炎の鑑別 年齢 60 歳未満 基礎疾患がない あるいは軽微 頑固な咳嗽がある 胸部聴診所 が乏しい 喀痰が無い あるいは迅速診断で原因菌が 当たらない 末梢 球数が 10000/μL 未満 1-5の5 項 中 3 項 以上陽性 定型肺炎疑い 2 項 以下陽性 細菌性肺炎疑い 1-6の6 項 中 4 項 以上陽性 定型肺炎疑い 3 項 以下陽性 細菌性肺炎疑い ただし マイコプラズマ クラミジア肺炎に対しての スコアであり レジオネラ肺炎は考慮されていない 本呼吸器学会成 市中肺炎診療ガイドライン

耐性菌

緑膿菌含む GNR 感染リスク最近の抗菌薬使 最近の 院 免疫抑制状態 肺構造の異常 ( 嚢胞性線維症 気管 拡張症 頻回に増悪する COPD) 誤嚥の関与 併存疾患が多い ( 糖尿病 アルコール多飲など ) MRSA 感染リスク 喀痰グラム染 で GPC が える 以前に MRSA の定着がある MRSA 定着のリスクがある ( 末期腎不全 静注薬物使 者 MSM) 直近のインフルエンザ感染あり 90 以内の抗菌薬使 ( 特にキノロン ) 壊死や膿瘍形成を伴う 膿胸 UpToDate : Treatment of community-acquired pneumonia in adults who require hospitalization

HCAP における多剤耐性菌リスクファクター 1. 免疫抑制状態 2. 90 以内の病院 院歴 3. ベースの ADL 低下が中等度以上 (Barthel index score 50 未満 ) 4. 6 ヶ 以内の抗菌薬治療 検出菌 0-1 項 該当 (N=151) 2 項 以上該当 (N=170) 腸内細菌科 4 (2.6%) 21 (12.4%) 緑膿菌 3 (2%) 19 (11.2%) MRSA 0 (0%) 22 (12.9%) 本における study Clin Infect Dis. 2013;57:1373-83

治療抵抗性肺炎の病態は? 1 治癒が遷延しているだけ 2 耐性菌 カバーできていない菌による感染 3 肺炎の合併症 ( 膿胸 肺膿瘍 ) 4 細菌以外の感染 5 感染性の肺疾患

膿胸 糖尿病 免疫不全 GERD 患者 アルコール乱 静注薬物使 者がリスクと われる ただし上記リスクが無い患者でもしばしば られる 治療にはドレナージが必要 Am J Respir Crit Care Med. 2006;174:817-23

肺化膿症 ( 肺膿瘍 ) 腔内嫌気性菌が原因として多く 誤嚥性肺炎の合併症として じやすいリスクはアルコール乱 静注薬物使 意識障害患者 全 酔患者など 画像的に瘢痕化するか 消失するまで 期の抗菌薬治療が 必要 ( 数カ 程度 )

治療抵抗性肺炎の病態は? 1 治癒が遷延しているだけ 2 耐性菌 カバーできていない菌による感染 3 肺炎の合併症 ( 膿胸 肺膿瘍 ) 4 細菌以外の感染 5 感染性の肺疾患

細菌以外の感染 抗酸菌結核 結核性抗酸菌 ウイルスインフルエンザウイルス 真菌ニューモシスチス アスペルギルス クリプトコッカス ムコール ヒストプラズマ その他 ノカルジア アクチノマイセス 本では 市中肺炎の 1% は実は結核 Int J Antimicrob Agents. 2012;39:201-5

感染性の原因 不全 肺胞出 管炎 びまん性肺胞障害凝固異常 間質性肺疾患 特発性間質性肺炎 膠原病関連肺疾患好酸球性肺炎 ( 急性 / 慢性 ) 過敏性肺炎 薬剤性肺炎 悪性腫瘍 悪性腫瘍 体による陰影 腫瘍による閉塞性肺炎癌性リンパ管症

治療抵抗性肺炎へのアプローチ Step 1 治癒が遷延する要素は無いか Step 2 原因菌の再考 抗菌薬の再考 Step 3 肺炎の合併症は無いか Step 4 鑑別の 直し 武器となるのは胸部 CT 気管 鏡 外科的肺 検

Step 1 治癒が遷延する要素は無いか 重症度 原因菌 患者背景を再評価 治癒遷延が許容できるなら そのまま治療継続

Step 2 原因菌の再考 抗菌薬の再考 培養結果の確認 定型菌 耐性菌のカバーは必要か 抗菌薬の投与量 間隔の再確認 標準的抗菌薬治療を実施しているか 標準的治療を実施しない場合 死亡率 5.2% vs 6.8% (p<0.001) Arch Intern Med. 2009;169:1525-31

Step 3 肺炎の合併症は無いか 膿胸 肺化膿症の検索 胸部 CT が有

Step 4 鑑別の 直し 経過の時間軸は 細菌性肺炎として適切か 通常の細菌性肺炎は 数 以内の経過で発症 免疫不全の要素は無いか 抗酸菌 真菌など感染性の原因の幅が広がる 感染性 感染性に分けて鑑別を再考する ここまで来ると 気管 鏡検査の実施が頭をよぎる

気管 鏡検査 何をするのか (BAL TBLB) 何がわかるのか

気管 肺胞洗浄 (BAL) 末梢気道を 理 塩 で洗浄し 回収する回収率 30% 以上が望ましい回収率 10% 以下では 診断価値が きく劣る Am J Respir Crit Care Med. 2012;185:1004-14 経気管 肺 検 (TBLB) 鉗 を いて病変部位から組織を採取する

BAL の評価項 眼的性状 正常 性 ( 肺胞出 ) 乳び ( 肺胞蛋 症 ) 培養 般細菌 抗酸菌真菌 細胞分画 細胞診

喫煙者の正常 BAL 細胞分画 BAL 細胞分画異常から推定される疾患 マクロファージ リンパ球 好中球 85% 以上 10-15% 3% 以下 リンパ球 25% 以上 芽腫性病変 ( 過敏性肺炎 過敏性肺炎 慢性ベリリウム肺 ) 特異的間質性肺炎リンパ球性間質性肺炎 特発性器質化肺炎薬剤性肺炎薬剤性肺炎リンパ腫 好酸球 1% 以下 リンパ球 50% 以上 特異的間質性肺炎過敏性肺炎 扁平上 細胞線 円柱上 細胞 5% 以下 好中球 50% 以上 急性肺傷害誤嚥性肺炎何かしらの感染 好酸球 25% 以上 好酸球性肺炎 ( 急性 / 慢性 ) CD4/CD8 4 以上 サルコイドーシス 肥満細胞 1% 以上リンパ球 50% 以上好中球 3% 以上すべて 急性過敏性肺炎 特に診断的価値が いのは 好酸球性肺炎 ( ほぼ確定 ) Am J Respir Crit Care Med. 2012;185:1004-14

BAL が特に有効なもの 感染性 グラム染 般培養 抗酸菌染 PCR 抗酸菌培養 Grocott 染 細菌感染真菌感染 結核 結核性抗酸菌症 ニューモシスチス肺炎 感染性 眼的性状 細胞分画 細胞診 肺胞出 肺胞蛋 症 好酸球性肺炎 悪性腫瘍

TBLB が特に有効なもの 感染性 結核 真菌 ウイルス 特に粟粒結核 アスペルギルス クリプトコッカスなど サイトメガロウイルス感染症 感染性 悪性疾患 芽腫性疾患 間質性肺疾患 原発性肺癌 転移性肺癌 悪性リンパ腫 サルコイドーシス 特発性器質化肺炎 過敏性肺炎

気管 鏡の合併症 出 検査全体の 0.83% TBLB 実施の場合 1.9% 気胸 Chest. 1991;100:1141-7 検査全体の 0.16% TBLB 実施の場合 1-6% Thorax. 2013;68:i1-i44 呼吸状態の悪い患者では 事前の挿管も検討

ICU 治療抵抗性肺炎 62 名 起炎菌判明 72.6% 58/62 名が抗菌薬使 中 治療変更 54.8% 死亡率 不変 Chest. 2000;118:1739-46

ICU 呼吸器管理患者 原因不明の浸潤影 38 名 診断確定 74% 治療変更 63% 死亡率 不変 Eur Respir J 2003;21:489-94

症例に戻り 喫煙 糖尿病など治癒が遷延する要素は あるものの 市中肺炎として適切な抗菌薬治療を 実施しているにも関わらず72 時間で解熱していない 治療抵抗性肺炎と判断 喀痰培養からは 有意菌は検出されず その後も発熱が持続するため 第 5 病 に胸部 CT を撮影

左上肺野に 浸潤影あり

その後の経過 胸部 CT で左肺上葉に空洞形成 内部に液体貯留あり 肺化膿症を合併 嫌気性菌のカバーも考え抗菌薬を アンピシリン スルバクタムに変更 その後アモキシシリン クラブラン酸の内服に 切り替え 画像的に膿瘍腔が消失するまで 合計 3 ヶ の抗菌薬治療を要した

Take Home Message 治療抵抗性は 72 時間で判断治療抵抗性の場合 感染性 感染性で鑑別を CTは 鑑別の として重要気管 鏡は 狙う疾患を意識して