Clinical Question 2016 年 1 月 18 日 J Hospitalist Network 1 市中肺炎に血液培養は必要か? 洛和会音羽病院 作成者 安冨義親 監修者 神谷 亨 分野 感染症 テーマ 診断検査
68 歳男性主訴呼吸苦 2 COPD に対して ICS/LABA を吸入している 68 歳男性 3 日前からの喀痰増加 呼吸苦を主訴に ER 受診 145/78mmHg 105bpm RR28/min Sat90%@RA 全肺野に wheeze 聴取 右肺野に crackle 聴取 胸部 XR で右下肺野に浸潤影を認め 市中肺炎による COPD 急性増悪と診断 呼吸器科 On Call に入院依頼
On Call との会話 3 なのでCOPD 急性増悪と市中肺炎で入院をお願いします 他にやった検査は? 喀痰培養 血液培養 2セットと肺炎球菌尿中抗原です 血培いる?
Clinical Questions 4 市中肺炎では血液培養を行うべきか? この疑問に答えるために以下の内容について調べることにした a) 市中肺炎での血液培養 (+) の頻度は? b) 血液培養 (+) と重症度は相関するか? c) 血液培養 (+) だと予後が悪いか? d) 血液培養 (+) では治療方針を変える必要があるか? e) ガイドラインで血液培養が推奨されるのはどんな場合か?
a) 市中肺炎での血液培養 (+) の頻度は? 5
6 市中肺炎で血液培養が陽性になる頻度は? 報告により異なるが 1) 2) 5.6% ~ 25% 1) CHEST. 2003 Apr;123(4):1142 50. 2) BTS CAP guideline 2009
市中肺炎における血液培養 (+) 例の菌種内訳 7 29/209 例 (13.9%) 34/517 例 (6.6%) S. pnemoniae 20 29 S. viridans 3 0 H. influenzae 1 3 S. aureus 1 1 Other GNR 3 2 Other Strep 3 1 Respir Med. 2001 Jan;95(1):78 82 CHEST. 1995;108(4):932.
b) 血液培養 (+) と重症度は相関するか? 8
血液培養 (+) と市中肺炎の重症度は相関するか? 9 この study では相関がありそうである Respir Med. 2001 Jan;95(1):78 82.
10 血液培養 (+) と市中肺炎の重症度は相関するか? この study では相関がなさそうである CHEST. 2003 Apr;123(4):1142 50.
11 血液培養 (+) と市中肺炎の重症度は相関するか? Pneumonia Severity Index (PSI) と 血液培養 (+) には一定の相関はない PSI classⅠ でも 5~8% で血液培養が (+) となる Respir Med. 2001 Jan;95(1):78 82. CHEST. 2003 Apr;123(4):1142 50. BMC Pulm Med. BioMed Central Ltd; 2014;14(1):128. CHEST. 2008 Mar 1;133(3):618 7. PLoS ONE. Public Library of Science; 2013 Apr 2;8(4):e60273 13.
( 参考 ) 血液培養 (+) の risk factor は? 12 Clinical Infectious Diseases. 2009 Aug;49(3):409 16.
c) 血液培養 (+) だと予後が悪いか? 13
14 市中肺炎で血液培養が (+) だと予後は悪いか? 肺炎球菌による血液培養陽性の市中肺炎 と 血液培養陰性の市中肺炎( 全菌種 ) を比較すると臨床的に安定するまでの期間 入院期間 全死亡率 肺炎による死亡率において有意差はなかった CHEST. 2008 Mar 1;133(3):618 7.
市中肺炎で血液培養が (+) だと予後は悪いか? 15 肺炎球菌性肺炎において血液培養陽性 (399 例 ) と陰性 (492 例 ) を比較すると陽性例で敗血症性ショックが有意に多く 院内死亡率 30 日死亡率が有意に高かった 敗血症性ショック (OR 2.4 95%CI 1.5-3.8) 院内死亡率 (OR 2.1 95%CI 1.2-3.6) 30 日死亡率 (OR 2.7 95%CI 1.5-5) BMC Pulm Med. BioMed Central Ltd; 2014;14(1):128.
16 市中肺炎で血液培養が (+) だと予後は悪いか? 現在のところ一定の見解はない
d) 血液培養 (+) では治療方針を変える必要があるか? 17
ガイドラインで推奨されている市中肺炎の治療期間 18 IDSA/ATS CAP Guideline 2007 最低 5 日間 解熱後 48-72 時間 臨床的安定 BTS CAP Guideline 2009 軽症 中等症は 7 日間 重症は 7 10 日間 状況により延長を考慮する ( 例 :bacteremic S. aureus pneumonia グラム陰性桿菌による肺炎 空洞病変 (+) 肺化膿症 初期治療無効例 髄膜炎や心内膜炎合併例など )
市中肺炎において血液培養の結果で治療が変更される場合は何 % あるのか? 19 市中肺炎でERを受診した患者 355 人のうち 血液培養の結果で抗菌薬の変更が行われたのは18 人 (5%) Emerg Med J. 2004 Jul;21(4):446 8. 市中肺炎で入院した患者 209 人のうち 血液培養の結果で抗菌薬の変更が行われたのは24 人 (11.4%) Respir Med. 2001 Jan;95(1):78 82.
市中肺炎で血液培養 (+) の際の治療期間は? 20 血液培養で肺炎球菌が検出された場合侵襲性肺炎球菌感染症として10-14 日間の治療が推奨される UpToDate Invasive pneumococcal (Streptococcus pneumoniae) infections and bacteremia 根拠となる文献の記載はない その他の菌種に関してはガイドラインを含めて記載がなく 治療期間を変更するべきかどうか定まった見解がない
e) ガイドラインで血液培養が推奨されるのはどんな場合か? 21
2007 年 IDSA/ATS 市中肺炎のガイドラインでは血液培養が以下の場合に推奨されている 22 重症市中肺炎 特定の状況下の患者 ( 後述 )
IDSA/ATS CAP Guideline 2007 における重症市中肺炎の基準 23 Minor criteria 呼吸数 30 回 / 分 P/F ratio 250 体温 <36 複数の肺葉の浸潤影 意識障害 BUN 20mg/dl WBC<4000 血小板 <10 万急速補液が必要な低血圧 Major criteria 挿管患者 敗血症性ショック Major1 つ または Minor3 つ満たす肺炎 重症市中肺炎
重症市中肺炎で血液培養の採取が推奨される理由 24 重症市中肺炎の患者は 肺炎球菌以外の S. aureus P. aeruginosa 他の GNR が起炎菌である可能性が相対的に高い Eur Respir J. 2004 Nov;24(5):779-85. Am J Respir Crit Care Med. 2004 Feb 1;169(3):342-7. 血液培養の陽性化を予測する因子 ( スライド 12) の多くは重症市中肺炎のリスク因子とオーバーラップしている Am J Respir Crit Care Med. 2004 Feb 1;169(3):342-7. 重症市中肺炎の全例において血液培養の採取が推奨されるのは 血液培養の陽性率が相対的に高く 通常のエンピリック治療でカバーできない菌種が存在する可能性が増し 血液培養の結果がマネージメントに影響する可能性が増加するからである IDSA guideline CAP 2007, Blood culture 本文より etc.
市中肺炎において血液培養の採取が推奨される特定の状況下の患者 25 ICU 入室 空洞性浸潤影 無脾症アルコール乱用 胸水の出現重症慢性肝疾患 好中球減少尿中肺炎球菌抗原陽性 上記の病態以外では血液培養の採取は任意 IDSA/ATS CAP Guideline 2007
IDSA/ATS CAP Guideline 2007 本文中の解説 26 無脾症や補体欠損症などの菌血症への対処能力が乏しい患者では血液培養を採取するべきである 根拠となる文献は明示されていない 慢性肝疾患の患者は市中肺炎で菌血症を起こしやすい Am J Respir Crit Care Med. 2004 Feb 1;169(3):342-7. 白血球減少症も菌血症を起こしやすい Am J Respir Crit Care Med. 2004 Feb 1;169(3):342-7. Eur Respir J. 2004 Nov;24(5):779-85.
BTS CAP Guideline 2009 における血液培養の推奨 27 中等症 重症の全ての市中肺炎患者で血液培養の採取が推奨される ( 抗菌薬投与前が望ましい ) 市中肺炎が確定診断され 軽症かつ基礎疾患がない場合には血液培養は省略してもよいかもしれない 軽症 CURB 65 1 点以下 中等症 CURB 65 2 点 重症 CURB 65 3 点以上
BTS CAP Guideline 2009 本文中の解説 28 血液培養での菌の検出は 市中肺炎の起炎菌の同定において特異度が高い方法である しかし 多くの市中肺炎は菌血症を伴わない 肺炎球菌性肺炎でさえ血液培養の感度はせいぜい 25% のみである 北米における複数の研究や総説では 感度が低いこと 費用 抗菌薬のマネージメントにほとんど影響を与えないことから 入院を要する市中肺炎の患者にルーチンで血液培養を採取することには疑問を呈している
Take Home Message 29 市中肺炎における血液培養の位置づけ 市中肺炎の 5.6~25% の症例で血液培養が (+) になる 重症度 予後との間に一定の見解はない 結果により治療が変更されるのは 5~11.4% 程度 血液培養 (+) で治療期間を変更すべきかどうかについては一定の見解はない 重症 ( 中等症 ) 肺炎や特定の状況で採取が推奨 ( スライド 25)