本日の内容 抗菌薬のPK-PD 当院でのTDMの概要アミノグリコシドの投不設計グリコペプチドの投不設計まとめ
抗菌薬の PK-PD
PK-PD とは? PK (Pharmacokinetics) 抗菌薬の用法 用量と体内での濃度推移の関係 代表的な指標 : C max : 最高血中濃度 AUC 24h : 血中濃度時間曲線下面積 PD (Pharmacodynamics) 抗菌薬の体内での濃度と作用の関係 代表的な指標 : MIC: 最小発育阻止濃度
各種抗菌薬と PK-PD パラメータ 血中濃度 MIC C max /MIC AUC 24h /MIC Time above MIC (%TAM) アミノグリコシド系キノロン系 キノロン系テトラサイクリン系グリコペプチド系アジスロマイシンリネゾリド b ラクタム系マクロライド系リンコマイシン系 時間
各種抗菌薬の PK-PD ターゲット値 抗菌薬の種類 PK-PD パラメータターゲット値 b- ラクタム系 %TAM 40 70% キノロン系 AUC/MIC Peak/MIC 30 ( 肺炎球菌 ) 100 ( ブ菌,GNR) 8-10 ( ブ菌,GNR) アミノグリコシド系 Peak/MIC 8-10 AUC/MIC 100 グリコペプチド系 AUC/MIC 400
当院での TDM の概要
血中濃度測定のおよび解析 血中濃度測定依頼 投不前採血 ( 投不後も ) 血中濃度測定 測定結果の解析 投不計画の立案 報告
TDM 実施状況の推移
血中濃度解析後の変更内容 期間 :2009 年 4 月 -2010 年 3 月 解析を行った症例の約 70% は 投不量変更の必要があった 積極的な血中濃度測定および 解析が必要と考えられる
投不量変更提案の採用率 期間 :2009 年 4 月 -2010 年 3 月
アミノグリコシドの投不設計
アミノグリコシドの PK-PD 臨床効果 Cmax/MIC と臨床効果に強い相関性がある 有害事象 腎関連副作用の発現率はトラフ濃度と関係している 耳毒性の危険因子は腎機能の低下 トラフ濃度の上昇 総投不量の蓄積 高齢 ループ利尿剤の同時投不 遺伝的素因と考えられている
投不方法による濃度の相違 アルベカシン 180mg/dayを投不した場合 60mg 8h 毎 180mg 24h 毎 1 日投不量は同じでも 1 日 1 回投不は高いピーク濃度と低いトラフ濃度が得られる
国内ガイドラインでの推奨 日本呼吸器学会の 成人院内肺炎診療ガイドライン の抜粋 薬剤名推奨用量認可用量 用法 ゲンタマイシン 5mg/kg( 重篤な場合 7mg/kg) を 24 時間ごと 80 120mg/day を 1 日 2 3 回分割投不 アミカシン 15mg/kg を 24 時間ごと 200 400mg/day を 1 日 2 回分割投不 トブラマイシン イセパマイシン 5mg/kg( 重篤な場合 7mg/kg) を 24 時間ごと 8mg/kg( 重篤な場合 15mg/kg) を 24 時間ごと 180mg/day を 1 日 2 3 回分割投不 400mg/day を 1 日 1 2 回分割投不 有効性が期待できる高い投不量が推奨されている また 使用に際しては血中濃度モニタリングが薦められている でも そんなに投不して大丈夫なの?
どちらが有効なのか? 研究者 有効性 臨床的 細菌学的 総合的 安全性腎毒性聴器毒性 Galloe et al. ODD > MDD NS ODD = MDD ODD = MDD Barze et al. ODD > MDD NS ODD < MDD ODD = MDD Ferriol-Lisart et al. ODD > MDD ODD < MDD ODD < MDD NS Hatala et al. ODD > MDD NS ODD = MDD ODD < MDD NS ODD < MDD NS Munckhof et al. ODD > MDD ODD > MDD NS ODD > MDD ODD < MDD NS ODD = MDD Freeman et al. ODD > MDD ODD < MDD Ali & Goetz ODD > MDD ODD > MDD NS ODD > MDD ODD = MDD ODD < MDD NS Baily et al. ODD > MDD ODD > MDD NS ODD < MDD NS ODD = MDD Hatara et al. ODD = MDD ODD = MDD ODD < MDD NS ODD = MDD ODD; 1 日 1 回投不, MDD; 分割投不 Barclay ML, et al.: Clin Pharmacokinet., 36: 89 98, 1999
当院での アミノグリコシド推奨血中濃度 薬物 ピーク (mg/ml) 指標血中濃度域 トラフ (mg/ml) アミカシン 55 65 < 5 ゲンタマイシン 16 24 < 1 トブラマイシン 16 24 < 1 アルベカシン 16 24 < 1
初回投不量は充分に 抗菌活性は高い血中濃度が重要であり 初回投不量は腎機能とは無関係 維持投不量は腎機能によって用量調節を行う ( 薬剤師にお知らせ下さい ) CCr 50mL/min で AMK を投不する場合 初回投不量 :15mg/kg 維持投不量 :(24 時間毎に )7.5mg/kg
アミノグリコシドの要点 初回は全て充分量を投不する維持量の調節は腎機能に合わせて他剤との併用が推奨される TDMが推奨される長期間の継続投不を避ける
グリコペプチドの投不設計
グリコペプチド (VCM) の PK-PD 臨床効果 (S. aureus に対して ) AUC/MIC 400 で優れた臨床効果が得られた %TAM と効果との間に関係性は認められなかった 有害事象 Moise PA. Schentag JJ., et al.: Clin. Pharmacokinet., 43 925 942, 2004 腎機能障害の発現にはトラフ濃度との関係が指摘されているが 賛否両論ある 有害事象等を考慮すると 現時点ではトラフ濃度として 20mg/mL 以下が推奨されている
バンコマイシンに関する推奨事項 項目 至適トラフ濃度 至適トラフ濃度複雑性感染症 推奨事項 耐性発現を防ぐためには 最低血中濃度を常に 10mg/mL 以上に保つべきである 対象菌の MIC が 1mg/mL であった場合 AUC/MIC > 400 を確保するためには トラフ濃度を少なくとも 15mg/mL にする必要がある 組織移行を改善したり 目標血中濃度の達成確率を上昇したり 臨床効果を改善するためには 血清トラフ濃度で 15 20 mg/ml が推奨される エビデンスレベル IIIB IIIB 投不量 負荷投不量複雑性感染症 持続 VS 間歇 MIC 1 の場合 至適血中濃度を得るには 15 20 mg/kg を 8 12 時間おきに投不する必要がある 重篤な患者の場合は 負荷投不として 25 30 mg/kg の投不を行えば 早期に目標血中濃度を得ることができる 持続投不は間歇投不と比較して 患者の予後を改善することは無い Rybak MJ, et al.: Am J Health-Syst Pharm., 66: 82 98, 2009 IIIB IIIB IIA
当院での グリコペプチド推奨血中濃度 薬物 ピーク (mg/ml) 指標血中濃度域 トラフ (mg/ml) バンコマイシン 15 20 テイコプラニン 15 20
VCM トラフ濃度と AUC の関係 VCM の AUC はトラフ濃度から推定可能 AUC は同一投不量なら分割しても 1 回投不でも同等 間歇投不の場合のトラフ濃度と AUC の対応は下表参照 トラフ濃度 AUC 24h AUC 24h /MIC (MIC = 1) AUC 24h /MIC (MIC = 2) 5 mg/ml 100-200 100-200 50-100 10 mg/ml 200-400 200-400 100-200 15 mg/ml 400-600 400-600 200-300 20 mg/ml 600-800 600-800 300-400
バンコマイシン投不量の目安 バンコマイシン維持投不量設定ノモグラム ( 成人用 )
持続投不が推奨されない理由 トラフ濃度が同程度でも AUC は低下してしまう 間歇法と同程度の AUC を得るには高い血中濃度が必要 トラフ濃度 :20mg/mL AUC 24h :670 mg h/l 1 日投不量 :1500mg/day トラフ濃度 :18.5mg/mL AUC 24h :440mg h/l 1 日投不量 :1000mg/day
腎機能低下時の VCM 投不のコツ 維持投不量で開始すると血中濃度が立ち上がりにくい 初回に負荷投不を行うと早期に有効血中濃度に達する 60 歳男性 55kg CCr 25mL/min 維持投不量 :750mg/day 初回投不量 :1250mg/day 維持投不量 :750mg/day
テイコプラニンの投不方法 有効濃度への到達が遅いため初日に負荷投不が必要 低用量で有効濃度を確保することは丌可能 60 歳男性 55kg CCr 75mL/min 初日投不量 :200mg 2 維持投不量 :200mg/day 初日投不量 :400mg 2 維持投不量 :400mg/day
TEIC 投不への薬剤師からの提案 早期有効濃度確保のため負荷投不 10mg/kg を 12 時間おきに 4 回行う TDM を行い 維持投不量を 6 12mg/kg とする 初日 2 日目投不量 :600mg 2 維持投不量 :400mg/day
グリコペプチドの要点 腎機能ごとの充分な投不量が必要維持量の調節は腎機能に合わせて持続投不は推奨されない TEICは負荷投不が非常に重要 TDMが推奨される
まとめ
感染症における TDM のポイント 腎機能に変動があれば濃度をcheck 採血は投不開始 3~4 日後で投不直前の採血が望ましい初期投不設計が重要