TDMを活用した抗菌薬療法

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家畜における薬剤耐性菌の制御 薬剤耐性菌の実態把握 対象菌種 食中毒菌 耐性菌の特徴 出現の予防 79

2006 年 3 月 3 日放送 抗菌薬の適正使用 市立堺病院薬剤科科長 阿南節子 薬剤師は 抗菌薬投与計画の作成のためにパラメータを熟知すべき 最初の抗菌薬であるペニシリンが 実質的に広く使用されるようになったのは第二次世界大戦後のことです それまで致死的な状況であった黄色ブドウ球菌による感染症に

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第11回感染制御部勉強会 『症例から考える抗MRSA治療薬の使い方』


精神科専門・様式1

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

グリコペプチド系 >50( 常用量 ) 10~50 <10 血液透析 (HD) 塩酸バンコマイシン散 0.5g バンコマイシン 1 日 0.5~2g MEEK 1 日 4 回 オキサゾリジノン系 ザイボックス錠 600mg リネゾリド 1 日 1200mg テトラサイクリン系 血小板減少の場合は投与

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グリコペプチド系 >50( 常用量 ) 10~50 <10 血液透析 (HD) 塩酸バンコマイシン散 0.5g MEEK バンコマイシン 1 日 0.5~2g 1 日 4 回 オキサゾリジノン系 ザイボックス錠 600mg リネゾリド 1 日 1200mg テトラサイクリン系 血小板減少の場合は投与

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

変更一覧表 変更内容新現備考 Peak 50~60 Trough 4 未満 Peak 20.0~30.0 Trough 8.0 以下 アミカシン 静注投与後 1 時間 Trough 1 未満 Peak 4.0~9.0 Trough 2.0 以下 トブラマイシン 静注投与後

プライマリーケアのためのワンポイントレクチャー「抗菌薬③」(2017年5月17日開催)

耐性菌届出基準

用法 用量 発作性夜間ヘモグロビン尿症における溶血抑制 mg mg mg mg kg 30kg 40kg 20kg 30kg 10kg 20kg 5kg 10kg 1900mg mg mg mg

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

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添付文書の薬物動態情報 ~基本となる3つの薬物動態パラメータを理解する~

2.7.3(5 群 ) 呼吸器感染症臨床的有効性グレースビット 錠 細粒 表 (5 群 )-3 疾患別陰性化率 疾患名 陰性化被験者数 / 陰性化率 (%) (95%CI)(%) a) 肺炎 全体 91/ (89.0, 98.6) 細菌性肺炎 73/ (86

2015 年 7 月 8 日放送 抗 MRS 薬 最近の進歩 昭和大学内科学臨床感染症学部門教授二木芳人はじめに MRSA 感染症は 今日においてももっとも頻繁に遭遇する院内感染症の一つであり また時に患者状態を反映して重症化し そのような症例では予後不良であったり 難治化するなどの可能性を含んだ感

あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

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15,000 例の分析では 蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は, 各々最初の 3 か月と比較し 2 年後には有意に高率となり それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少を認め 2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています このように bundle の merit

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使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

未承認の医薬品又は適応の承認要望に関する意見募集について

ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

TDM研究 Vol.26 No.2

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オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

抗菌薬のPK/PD ガイドライン

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PowerPoint プレゼンテーション

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

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葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

57巻S‐A(総会号)/NKRP‐02(会長あいさつ)

2012 年 2 月 29 日放送 CLSI ブレイクポイント改訂の方向性 東邦大学微生物 感染症学講師石井良和はじめに薬剤感受性試験成績を基に誰でも適切な抗菌薬を選択できるように考案されたのがブレイクポイントです 様々な国の機関がブレイクポイントを提唱しています この中でも 日本化学療法学会やアメ

別添 抗菌薬の PK/PD ガイドライン はじめに PK とは薬物動態を意味する Pharmacokinetics の略であり 薬物の用法 用量と生 体内での薬物濃度推移 ( 吸収 分布 代謝 排泄 ) の関係を表す また PD とは 薬力学を意味する Pharmacodynamics の略であり

福岡大学薬学部薬学疾患管理学教授

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血中濃度を上げるために,VCM の負荷投与を考慮することが記載されている 6). 当院では VCM が抗 MR- SA 薬の第一選択薬として使用されている.2006 年より薬剤師が初期投与シミュレーションを本格的に開始した. 緊急を要する場合に初期投与量を1000mg/body で開始している例もあ

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(別添様式1)

論文要旨抗 H I V 薬多剤併用療法の適正使用に関する臨床薬学的研究実践医療薬学研究室田中博之 序論 世界におけるヒト免疫不全ウイルス (HIV) 感染症患者数は 2016 年末の時点で約 3,670 万人と推定されている 日本国内においては 2016 年の新規 HIV 感染者報告数は 1,011

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

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「薬剤耐性菌判定基準」 改定内容

プライマリーケアのためのワンポイントレクチャー「抗菌薬①」(2016年4月27日)

臨床試験の実施計画書作成の手引き

CRRT と薬物 CRRT の導 入症例例では重症患者が多く 通常は 薬物治療療が 行行われている CRRT 導 入症例例では薬物の除去能が 一定ではなく 血中濃度度の管理理に難渋することが多々ある 特に抗菌薬は CRRT の影響を受けやすい腎排泄型薬物が多く 血中濃度度上昇による副作 用のリスク

(案の2)

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Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本


症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習


者における XO 阻害薬の効果に影響すると予測される 以上の議論を背景として 本研究では CKD にともなう FX および尿酸の薬物体内動態 ( PK ) 変化と高尿酸血症病態への影響を統合的に解析できる PK- 薬力学 (PD) モデルを構築し その妥当性を腎機能正常者および CKD 患者で報告さ

抗精神病薬の併用数 単剤化率 主として統合失調症の治療薬である抗精神病薬について 1 処方中の併用数を見たものです 当院の定義 計算方法調査期間内の全ての入院患者さんが服用した抗精神病薬処方について 各処方中における抗精神病薬の併用数を調査しました 調査期間内にある患者さんの処方が複数あった場合 そ

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要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品

医薬品の基礎研究から承認審査 市販後までの主なプロセス 基礎研究 非臨床試験 動物試験等 品質の評価安全性の評価有効性の評価 候補物質の合成方法等を確立 最適な剤型の設計 一定の品質を確保するための規格及び試験方法などの確立 有効期間等の設定 ( 長期安定性試験など ) 医薬品候補物質のスクリーニン


糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

(2) 健康成人の血漿中濃度 ( 反復経口投与 ) 9) 健康成人男子にスイニー 200mgを1 日 2 回 ( 朝夕食直前 ) 7 日間反復経口投与したとき 血漿中アナグリプチン濃度は投与 2 日目には定常状態に達した 投与 7 日目における C max 及びAUC 0-72hの累積係数はそれぞれ

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抗菌薬と細菌について。

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未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

づけられますが 最大の特徴は 緒言の中の 基本姿勢 でも述べられていますように 欧米のガイドラインを踏襲したものでなく 日本の臨床現場に則して 活用しやすい実際的な勧告が行われていることにあります 特に予防抗菌薬の投与期間に関しては 細かい術式に分類し さらに宿主側の感染リスクも考慮した上で きめ細

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添付文書がちゃんと読める 薬物動態学 著 山村重雄竹平理恵子城西国際大学薬学部臨床統計学

本書の読み方 使い方 ~ 各項目の基本構成 ~ * 本書は主に外来の日常診療で頻用される治療薬を取り上げています ❶ 特徴 01 HMG-CoA 代表的薬剤ピタバスタチン同種同効薬アトルバスタチン, ロスバスタチン HMG-CoA 還元酵素阻害薬は主に高 LDL コレステロール血症の治療目的で使 用

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薬食審査発第 号平成 19 年 9 月 28 日 各都道府県衛生主管部 ( 局 ) 長殿 厚生労働省医薬食品局審査管理課長 国際共同治験に関する基本的考え方について 従来 我が国においては ICH-E5 ガイドラインに基づく 外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因について

薬物動態開発の経緯 特性製品概要臨床成績副作用 mgを空腹時に単回経口投与副作用また 日本人及び白人健康成人男性において アピキサバン 薬物動態薬物動態非臨床試験に関する事項非臨床試験に関する事項1. 血中濃度 (1) 単回投与 (CV185013) 11) 日本人健康成人男性

2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

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932 Vol. 127 (2007) ためには,Cmax/AUC と治療効果と相関のあるアミノ配糖体薬,AUC/MIC と相関のあるキノロン薬 (Cmax/MIC とも相関性が認められるが AUC/ MIC の方がよりよい相関性が認められている ) では 1 回投与量を増大することが考えられる.

1.8.2 Page MIC () MIC 50 / MIC 90 µg/ml Candida albicans (54) / Candida glabrata (25) 0.25 / 0.5 Candida guilliermondii a) (2)


DRAFT#9 2011

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

第15回日本臨床腫瘍学会 記録集

Transcription:

本日の内容 抗菌薬のPK-PD 当院でのTDMの概要アミノグリコシドの投不設計グリコペプチドの投不設計まとめ

抗菌薬の PK-PD

PK-PD とは? PK (Pharmacokinetics) 抗菌薬の用法 用量と体内での濃度推移の関係 代表的な指標 : C max : 最高血中濃度 AUC 24h : 血中濃度時間曲線下面積 PD (Pharmacodynamics) 抗菌薬の体内での濃度と作用の関係 代表的な指標 : MIC: 最小発育阻止濃度

各種抗菌薬と PK-PD パラメータ 血中濃度 MIC C max /MIC AUC 24h /MIC Time above MIC (%TAM) アミノグリコシド系キノロン系 キノロン系テトラサイクリン系グリコペプチド系アジスロマイシンリネゾリド b ラクタム系マクロライド系リンコマイシン系 時間

各種抗菌薬の PK-PD ターゲット値 抗菌薬の種類 PK-PD パラメータターゲット値 b- ラクタム系 %TAM 40 70% キノロン系 AUC/MIC Peak/MIC 30 ( 肺炎球菌 ) 100 ( ブ菌,GNR) 8-10 ( ブ菌,GNR) アミノグリコシド系 Peak/MIC 8-10 AUC/MIC 100 グリコペプチド系 AUC/MIC 400

当院での TDM の概要

血中濃度測定のおよび解析 血中濃度測定依頼 投不前採血 ( 投不後も ) 血中濃度測定 測定結果の解析 投不計画の立案 報告

TDM 実施状況の推移

血中濃度解析後の変更内容 期間 :2009 年 4 月 -2010 年 3 月 解析を行った症例の約 70% は 投不量変更の必要があった 積極的な血中濃度測定および 解析が必要と考えられる

投不量変更提案の採用率 期間 :2009 年 4 月 -2010 年 3 月

アミノグリコシドの投不設計

アミノグリコシドの PK-PD 臨床効果 Cmax/MIC と臨床効果に強い相関性がある 有害事象 腎関連副作用の発現率はトラフ濃度と関係している 耳毒性の危険因子は腎機能の低下 トラフ濃度の上昇 総投不量の蓄積 高齢 ループ利尿剤の同時投不 遺伝的素因と考えられている

投不方法による濃度の相違 アルベカシン 180mg/dayを投不した場合 60mg 8h 毎 180mg 24h 毎 1 日投不量は同じでも 1 日 1 回投不は高いピーク濃度と低いトラフ濃度が得られる

国内ガイドラインでの推奨 日本呼吸器学会の 成人院内肺炎診療ガイドライン の抜粋 薬剤名推奨用量認可用量 用法 ゲンタマイシン 5mg/kg( 重篤な場合 7mg/kg) を 24 時間ごと 80 120mg/day を 1 日 2 3 回分割投不 アミカシン 15mg/kg を 24 時間ごと 200 400mg/day を 1 日 2 回分割投不 トブラマイシン イセパマイシン 5mg/kg( 重篤な場合 7mg/kg) を 24 時間ごと 8mg/kg( 重篤な場合 15mg/kg) を 24 時間ごと 180mg/day を 1 日 2 3 回分割投不 400mg/day を 1 日 1 2 回分割投不 有効性が期待できる高い投不量が推奨されている また 使用に際しては血中濃度モニタリングが薦められている でも そんなに投不して大丈夫なの?

どちらが有効なのか? 研究者 有効性 臨床的 細菌学的 総合的 安全性腎毒性聴器毒性 Galloe et al. ODD > MDD NS ODD = MDD ODD = MDD Barze et al. ODD > MDD NS ODD < MDD ODD = MDD Ferriol-Lisart et al. ODD > MDD ODD < MDD ODD < MDD NS Hatala et al. ODD > MDD NS ODD = MDD ODD < MDD NS ODD < MDD NS Munckhof et al. ODD > MDD ODD > MDD NS ODD > MDD ODD < MDD NS ODD = MDD Freeman et al. ODD > MDD ODD < MDD Ali & Goetz ODD > MDD ODD > MDD NS ODD > MDD ODD = MDD ODD < MDD NS Baily et al. ODD > MDD ODD > MDD NS ODD < MDD NS ODD = MDD Hatara et al. ODD = MDD ODD = MDD ODD < MDD NS ODD = MDD ODD; 1 日 1 回投不, MDD; 分割投不 Barclay ML, et al.: Clin Pharmacokinet., 36: 89 98, 1999

当院での アミノグリコシド推奨血中濃度 薬物 ピーク (mg/ml) 指標血中濃度域 トラフ (mg/ml) アミカシン 55 65 < 5 ゲンタマイシン 16 24 < 1 トブラマイシン 16 24 < 1 アルベカシン 16 24 < 1

初回投不量は充分に 抗菌活性は高い血中濃度が重要であり 初回投不量は腎機能とは無関係 維持投不量は腎機能によって用量調節を行う ( 薬剤師にお知らせ下さい ) CCr 50mL/min で AMK を投不する場合 初回投不量 :15mg/kg 維持投不量 :(24 時間毎に )7.5mg/kg

アミノグリコシドの要点 初回は全て充分量を投不する維持量の調節は腎機能に合わせて他剤との併用が推奨される TDMが推奨される長期間の継続投不を避ける

グリコペプチドの投不設計

グリコペプチド (VCM) の PK-PD 臨床効果 (S. aureus に対して ) AUC/MIC 400 で優れた臨床効果が得られた %TAM と効果との間に関係性は認められなかった 有害事象 Moise PA. Schentag JJ., et al.: Clin. Pharmacokinet., 43 925 942, 2004 腎機能障害の発現にはトラフ濃度との関係が指摘されているが 賛否両論ある 有害事象等を考慮すると 現時点ではトラフ濃度として 20mg/mL 以下が推奨されている

バンコマイシンに関する推奨事項 項目 至適トラフ濃度 至適トラフ濃度複雑性感染症 推奨事項 耐性発現を防ぐためには 最低血中濃度を常に 10mg/mL 以上に保つべきである 対象菌の MIC が 1mg/mL であった場合 AUC/MIC > 400 を確保するためには トラフ濃度を少なくとも 15mg/mL にする必要がある 組織移行を改善したり 目標血中濃度の達成確率を上昇したり 臨床効果を改善するためには 血清トラフ濃度で 15 20 mg/ml が推奨される エビデンスレベル IIIB IIIB 投不量 負荷投不量複雑性感染症 持続 VS 間歇 MIC 1 の場合 至適血中濃度を得るには 15 20 mg/kg を 8 12 時間おきに投不する必要がある 重篤な患者の場合は 負荷投不として 25 30 mg/kg の投不を行えば 早期に目標血中濃度を得ることができる 持続投不は間歇投不と比較して 患者の予後を改善することは無い Rybak MJ, et al.: Am J Health-Syst Pharm., 66: 82 98, 2009 IIIB IIIB IIA

当院での グリコペプチド推奨血中濃度 薬物 ピーク (mg/ml) 指標血中濃度域 トラフ (mg/ml) バンコマイシン 15 20 テイコプラニン 15 20

VCM トラフ濃度と AUC の関係 VCM の AUC はトラフ濃度から推定可能 AUC は同一投不量なら分割しても 1 回投不でも同等 間歇投不の場合のトラフ濃度と AUC の対応は下表参照 トラフ濃度 AUC 24h AUC 24h /MIC (MIC = 1) AUC 24h /MIC (MIC = 2) 5 mg/ml 100-200 100-200 50-100 10 mg/ml 200-400 200-400 100-200 15 mg/ml 400-600 400-600 200-300 20 mg/ml 600-800 600-800 300-400

バンコマイシン投不量の目安 バンコマイシン維持投不量設定ノモグラム ( 成人用 )

持続投不が推奨されない理由 トラフ濃度が同程度でも AUC は低下してしまう 間歇法と同程度の AUC を得るには高い血中濃度が必要 トラフ濃度 :20mg/mL AUC 24h :670 mg h/l 1 日投不量 :1500mg/day トラフ濃度 :18.5mg/mL AUC 24h :440mg h/l 1 日投不量 :1000mg/day

腎機能低下時の VCM 投不のコツ 維持投不量で開始すると血中濃度が立ち上がりにくい 初回に負荷投不を行うと早期に有効血中濃度に達する 60 歳男性 55kg CCr 25mL/min 維持投不量 :750mg/day 初回投不量 :1250mg/day 維持投不量 :750mg/day

テイコプラニンの投不方法 有効濃度への到達が遅いため初日に負荷投不が必要 低用量で有効濃度を確保することは丌可能 60 歳男性 55kg CCr 75mL/min 初日投不量 :200mg 2 維持投不量 :200mg/day 初日投不量 :400mg 2 維持投不量 :400mg/day

TEIC 投不への薬剤師からの提案 早期有効濃度確保のため負荷投不 10mg/kg を 12 時間おきに 4 回行う TDM を行い 維持投不量を 6 12mg/kg とする 初日 2 日目投不量 :600mg 2 維持投不量 :400mg/day

グリコペプチドの要点 腎機能ごとの充分な投不量が必要維持量の調節は腎機能に合わせて持続投不は推奨されない TEICは負荷投不が非常に重要 TDMが推奨される

まとめ

感染症における TDM のポイント 腎機能に変動があれば濃度をcheck 採血は投不開始 3~4 日後で投不直前の採血が望ましい初期投不設計が重要