経済学 第 13 回 井上智弘 2010/7/7 経済学第 13 回 1
注意事項 次回 (7/14), 小テストを行う.» 企業の生産費用と完全競争市場における生産決定について 復習用に, 講義で使ったスライドをホームページにアップしている. http://tomoinoue.web.fc2.com/index.html 2010/7/7 経済学第 13 回 2
前回の復習 固定費用の水準を決めたときに導くことができる平均費用曲線のことを, 短期の平均費用曲線 と呼ぶ. 企業は, 長期的には, それぞれの生産水準に対して平均費用を最小化する固定費用の水準を選ぶことができる. 各生産量に対して平均費用を最小化するように固定費用が選ばれた場合の生産量と平均費用の関係は 長期の平均費用曲線 (LAC) で表される. 2010/7/7 経済学第 13 回 3
費用 AC 6 LAC AC 3 AC 8 A D C 3 6 8 生産量 2010/7/7 経済学第 13 回 4
前回の復習 長期的には, 生産者は生産量に応じて適切な固定費用を選択し, その生産量においては, 長期の平均費用曲線と短期の費用曲線が一致する. ただし, 急にその生産量が変化すると, そのときの短期の平均費用曲線に従って費用が決まる. 固定費用を再調整し, 新しい生産水準に対応したものに変更するまでは, 長期の平均費用曲線から外れる. 2010/7/7 経済学第 13 回 5
前回の復習 生産量が拡大するにつれて長期の平均費用が減少する場合, 規模の経済性があるという. 生産量が拡大するにつれて長期の平均費用が増加する場合, 規模の不経済性があるという. 生産量が拡大しても長期の平均費用が変わらず一定の場合, 規模に対する収穫不変の状況にあるという. このとき, 長期の平均費用曲線は水平になる. 2010/7/7 経済学第 13 回 6
企業の生産費用のまとめ 費用の測り方定義表記 短期固定費用生産量に依存せずかかる費用 FC 平均固定費用生産物 1 単位につきかかる固定費用 AFC = FC/Q 長期と短期可変費用生産物に応じてかかる費用 VC 平均可変費用生産物 1 単位につきかかる可変費用 AVC = VC/Q 総費用 固定費用 ( 短期の場合 ) と可変費用を足し合わせた費用 TC = FC + VC 平均費用生産物 1 単位につきかかる総費用 AC = TC/Q 限界費用 もう 1 単位生産量を増やしたときの総費用の増加額 長期 長期の平均費用 各生産量での平均費用を最小にするよ うに固定費用を選んだ場合の平均費用 MC LAC 2010/7/7 経済学第 13 回 7
前回の復習 生産者であろうと消費者であろうと, すべての市場参加者が価格受容者である市場のことを完全競争市場と呼ぶ.» 自らの行動で財の市場価格を変えることができない市場参加者のことを価格受容者 ( プライス テイカー ) と呼ぶ. 産業が完全競争となるための必要条件 (3 つ ): 1 その産業に多くの生産者がいて, どの生産者も大きな市場シェアをもたない. 2 どの生産者の生産物であっても, すべて同じである ( 同質財である ) と消費者が認識している. 3 その産業には自由参入と自由退出の性質がある. 2010/7/7 経済学第 13 回 8
本日の内容 生産と利潤 産業の供給曲線 2010/7/7 経済学第 13 回 9
あるトマト農家の例を考える. トマト産業は完全競争であり, トマトの価格は 1kg=1,800 円であるとする.» このトマト農家は生産量にかかわらず 1kg=1,800 円で売ることができる. 2010/7/7 経済学第 13 回 10
総費用をこのように仮定すると, 利潤が求められる. トマトの数量 Q(kg) 総収入 TR( 円 ) 総費用 TC( 円 ) 利潤 TR-TC( 円 ) 0 0 1,400-1,400 1 1,800 3,000-1,200 2 3,600 3,600 0 3 5,400 4,400 1,000 4 7,200 5,600 1,600 5 9,000 7,200 1,800 6 10,800 9,200 1,600 7 12,600 11,600 1,000 2010/7/7 経済学第 13 回 11
総収入 (TR)= 市場価格 (P) 生産量 (Q)» この例では, 総収入 =1,800 トマトの数量 利潤 = 総収入 (TR)- 総費用 (TC) 生産量が 5kg のときに, 利潤が最大化されている.» 最大の利潤 =1,800 円 2010/7/7 経済学第 13 回 12
生産者 ( 企業 ) にとって最適な生産量とは, 利潤を最大にする生産量である. ある生産量のときに, もう 1 単位生産を増やして利潤が増加すれば, 最適な生産量はもっと多いということになる. 反対に, もう 1 単位生産を減らして利潤が増加すれば, 最適な生産量はもっと少ないということになる. 2010/7/7 経済学第 13 回 13
もう 1 単位生産量を増やしたときに生み出される追加的な収入のことを限界収入 (MR) という. 限界収入 = 総収入の変化額生産量の変化量 = もう 1 単位の生産増による収入の変化額 もう 1 単位生産量を増やしたときの費用は限界費用 (MC). 追加的に 1 単位生産を増やしたときの収入の変化 (MR) と費用の変化 (MC) を比べることで, 利潤の変化がわかる. 2010/7/7 経済学第 13 回 14
MR>MC のときは, 生産量を 1 単位増やしたときに得られる収入の増加が費用の増加よりも大きいから, 生産を増やすことによって利潤が増加する. MR<MC のときは, 生産を 1 単位増やすと利潤が減少する ( 生産を 1 単位減らすと利潤が増加する ). MR>MC のときには生産量を増やし,MR<MC のときには生産量を減らすことで, 利潤を大きくすることができる. 利潤が最大のときには,MR=MC となっている. 2010/7/7 経済学第 13 回 15
限界収入 (MR) が限界費用 (MC) と等しくなる水準まで生産すれば利潤を最大にできる. 生産者の最適生産量ルール 2010/7/7 経済学第 13 回 16
トマトの数量 Q 可変費用 VC 総費用 TC 限界費用 MC 限界収入 MR 利潤増加分 MR-MC 0 0 1,400 1 1,600 3,000 2 2,200 3,600 3 3,000 4,400 4 4,200 5,600 5 5,800 7,200 6 7,800 9,200 7 10,200 11,600 1,600 600 800 1,200 1,600 2,000 2,400 1,800 1,800 1,800 1,800 1,800 1,800 1,800 200 1,200 1,000 600 200-200 -600 2010/7/7 経済学第 13 回 17
限界収入はどの生産水準でも 1,800 で一定. Q 5 のとき, 生産量が増えると利潤増加分はプラス. Q 5 のとき, 生産量が増えると利潤増加分はマイナス. Q=5 が利潤を最大にする生産量. このとき, 限界費用 =1,800= 市場価格である. 2010/7/7 経済学第 13 回 18
企業が価格受容者であるとき, 利潤を最大化するには, 市場価格 (P) と限界費用 (MC) が等しくなるような生産量を達成すればよい. 価格受容者である企業の最適生産量の下では,P = MC が成立している.» 価格受容者である企業にとって, 生産量を変化させても市場価格は変わらないから, 限界収入は価格に等しくなる.» 限界収入曲線は市場価格と同じ高さの水平線になる.» 最適生産量ルールから,P = MR = MC となる. 2010/7/7 経済学第 13 回 19
企業は限界費用と価格が等しくなる水準まで生産を行う. ただし, 生産を行うならば, の話. その前に, 生産を行うか行わないかを決めなければならない. そのために, 生産を行うことが利益になるのはどのような場合かを考える. 2010/7/7 経済学第 13 回 20
トマト農家 ( 企業 ) で利潤が生じるか損失が生じるかは何によって決まるのか? 企業の最小平均費用より市場価格が高いか低いかによって, 利潤が生じるか損失が生じるかが決まる. 2010/7/7 経済学第 13 回 21
トマト農家の短期の平均費用と限界費用 トマトの数量 Q 総費用 TC 限界費用 MC 平均費用 AC - 0 1,400 1,600 1 3,000 3,000 600 2 3,600 1,800 800 3 4,400 1,467 1,200 4 5,600 1,400 1,600 5 7,200 1,440 2,000 6 9,200 1,533 2,400 7 11,600 1,657 2010/7/7 経済学第 13 回 22
価格 生産と利潤 3,000 MC 1,800 AC 1,400 1,000 600 0 1 2 3 4 5 6 7 数量 2010/7/7 23
利潤 =TR-TC で計算できるため,» TR>TC 企業は利潤を得る.» TR=TC 企業の利潤はゼロ.» TR<TC 企業は損失を被る. 生産量 Q で割り, 生産量 1 単位あたりの利潤で考えると, 利潤 Q = TR Q TC Q = P Q Q AC = P AC» P>AC TR>TC 企業は利潤を得る.» P=AC TR=TC 企業の利潤はゼロ.» P<AC TR<TC 企業は損失を被る. 2010/7/7 経済学第 13 回 24
価格 3,000 市場価格が 1,800 のとき 利潤 =TR-TC =P Q-AC Q =(P-AC) Q MC 1,440 1,800 1,400 利潤 C E Z AC MR = P この長さは,P-AC 600 数量 0 1 2 3 4 5 6 7 2010/7/7 経済学第 13 回 25
市場価格が最小平均費用よりも高ければ利潤が発生し, 低ければ損失が発生する.» この企業の最小平均費用は, 生産量が 4 のときの 1,400 である. 市場価格 > 最小平均費用ならば, 利潤を生む生産水準が存在する. このときに, 限界費用と市場価格が等しくなる生産量を達成すれば, 利潤が最大になる.» 価格が 1,800 であれば, 生産量 5 で最大利潤 1,800 となる. 2010/7/7 経済学第 13 回 26
価格 3,000 市場価格が 1,000 のとき 利潤 =TR-TC =P Q-AC Q =(P-AC) Q < 0 MC 1,467 1,400 1,000 600 損失 Y A C AC MR = P この長さは, AC-P=-(P-AC) 数量 0 1 2 3 4 5 6 7 2010/7/7 経済学第 13 回 27
市場価格 < 最小平均費用ならば, 利潤を生むような生産水準は存在しない. どんな水準の生産量を達成しても, 損失を被る.» 価格が1,000のときには, 限界費用が価格と等しくなるように生産しても ( 生産量を3としても )1,400の損失を被る.» それ以外の生産量を選んでも損失が大きくなるだけ. 2010/7/7 経済学第 13 回 28
企業の利潤がゼロになるときの市場価格は, 企業が価格受容者のときの損益分岐価格と呼ばれる.» 損益分岐価格 = 最小平均費用である.» 市場価格 > 損益分岐価格 企業が利潤を獲得.» 市場価格 < 損益分岐価格 企業が損失 ( マイナスの利潤 ) を被る.» この企業 ( トマト農家 ) の損益分岐価格は 1,400 となる. では, 市場価格が損益分岐価格よりも低ければ, 企業は生産をやめるのか? 2010/7/7 経済学第 13 回 29
市場価格が損益分岐価格よりも低く, 企業が損失を被っても, 短期的には生産を続けた方がいい場合がある. 総収入 < 総費用でも, 総収入 > 可変費用であれば, 企業は生産を行う. 生産をしてもしなくても固定費用は負担しなければならないので, 固定費用は, 短期的な状況においての, 生産をするかしないかの決定には影響しない. 2010/7/7 経済学第 13 回 30
生産をやめれば可変費用はゼロになるため, 可変費用は生産をするかしないかの判断に影響する. 生産しようがやめようが, どちらにしろ固定費用はかかるので, 総収入が可変費用よりも大きいか小さいかで生産するかしないかを決める. 2010/7/7 経済学第 13 回 31
トマト農家の短期の平均費用と平均可変費用 トマトの数量 Q 可変費用 VC 総費用 TC 平均可変費用 AVC 平均費用 AC 1 1,600 3,000 1,600 3,000 2 2,200 3,600 1,100 1,800 3 3,000 4,400 1,000 1,467 4 4,200 5,600 1,050 1,400 5 5,800 7,200 1,160 1,440 6 7,800 9,200 1,300 1,533 7 10,200 11,600 1,457 1,657 2010/7/7 経済学第 13 回 32
最小平均可変費用の点 (AVC 曲線の底の点 A) では, 平均可変費用は 1,000 で, 生産量は 3 である. 生産をするかしないかの短期的な決定について, 1 市場価格が最小平均可変費用よりも低いとき 2 市場価格が最小平均可変費用よりも高いか, または等しいとき の 2 つのケースについて考える. 2010/7/7 経済学第 13 回 33
価格 3,000 生産と利潤 MC E 1,800 AC 1,400 AVC C 1,200 1,000 A 800 1 数量 0 1 2 3 4 5 6 7 2010/7/7 経済学第 13 回 34
1 市場価格が最小平均可変費用よりも低いとき» P<AVC TR<VC P Q AVC Q 企業は可変費用を回収できない.» このとき, 企業は生産をやめる. 生産をやめれば可変費用はゼロになるため, この場合, 生産をやめた方が損失は小さくなる.» 最小平均可変費用は, 短期的に企業が生産をやめる価格水準に等しくなっている. この価格水準を操業停止価格と呼ぶ. 2010/7/7 経済学第 13 回 35
価格 3,000 生産と利潤 MC 1,800 1,400 1,200 1,000 800 A C E AC AVC 2 数量 0 1 2 3 4 5 6 7 2010/7/7 経済学第 13 回 36
2 市場価格が最小平均可変費用よりも高いか, または等しいとき 市場価格 > 最小平均可変費用の場合» P=MCとなる生産量では,P>AVCとなる. 企業は可変費用を上回る総収入を得る.» 企業は短期的には生産を続けるべきである. P=MC となるような生産量を実現することで, 利潤を最大化, もしくは損失を最小化する. 2010/7/7 経済学第 13 回 37
» 市場価格が損益分岐価格よりも高ければ,P=MC となる生産量を選択することで利潤が最大化する.» 市場価格が操業停止価格と損益分岐価格の間にあるとき,P= MC となる生産量を選択することで損失が最小化する. 価格が最小平均費用よりも低いため, 損失となる. しかし, 価格が最小平均可変費用よりも高いため,P=MC となる生産量では可変費用分と固定費用分の一部を回収できる. 生産を続ける場合の損失 固定費用の未回収分 生産をやめる場合の損失 固定費用の全額 生産を続けた方が損失が小さい. 2010/7/7 経済学第 13 回 38
市場価格 = 最小平均可変費用の場合» P=MCとなる生産量では,P=AVCとなる. 企業は可変費用に等しい総収入を得る.» 企業はP=MCとなる生産量だけ生産してもいいし, まったく生産しなくてもいい. どちらを選択しても, 損失 = 固定費用となる. 2010/7/7 経済学第 13 回 39
操業停止価格価格 3,000 企業の短期供給曲線 企業の短期供給曲線 MC 1,800 1,400 1,200 1,000 A B C E AC AVC 数量 0 1 2 3 4 5 6 7 2010/7/7 経済学第 13 回 40
市場価格に応じて利潤を最大にする ( または, 損失を最小にする ) 生産量がどう決まるかを表したものが, 企業の短期供給曲線になる. 短期供給曲線には 2 つの部分がある. 1 点 A からはじまる右上がりの部分 操業停止価格よりも市場価格が高いときの短期の利潤最大化生産量を示す. つまり,P=MCで生産量が決まる部分. 操業停止価格よりも市場価格が高いときには, 企業の短期供給曲線は限界費用曲線と一致する. 2 縦軸上にある垂直部分 操業停止価格よりも市場価格が低いときには, 生産をやめる. 2010/7/7 経済学第 13 回 41
長期的には企業は固定費用を選ぶことができる.» 工場や設備を売却処分して固定費用をなくすこともできる ( その場合には生産はまったくできなくなる ).» 潜在的な企業が固定費用を負担して, 生産を開始することもできる. ほとんどの完全競争産業では, 企業数は短期的には一定だが, 長期的には企業の参入と退出を通じて変化する. 参入や退出が生じるのはどのような場合か? 2010/7/7 経済学第 13 回 42
もう一度, このトマト農家を例にして考える. トマトの数量 Q 可変費用 VC 総費用 TC 平均可変費用 AVC 平均費用 AC 1 1,600 3,000 1600 3000 2 2,200 3,600 1100 1800 3 3,000 4,400 1000 1467 4 4,200 5,600 1050 1400 5 5,800 7,200 1160 1440 6 7,800 9,200 1300 1533 7 10,200 11,600 1457 1657 2010/7/7 経済学第 13 回 43
この企業 ( トマト農家 ) の損益分岐価格は 1,400 円. トマトの市場価格が継続的に 1,400 円を下回る場合.» 生産を行うことで, この企業は, 将来にわたって, 継続的に損失を被ることになる.» 長期的には, 固定費用をゼロにして産業から退出することで損失をゼロにすることができるから, この企業は産業から退出した方がいい.» 市場価格が継続的に損益分岐価格より小さければ, 長期的には企業は産業から退出していく. 2010/7/7 経済学第 13 回 44
トマトの市場価格が継続的に 1,400 円を上回る場合.» この企業は利潤を得られるため, 産業にとどまって生産を続ける.» ただし, 完全競争産業であるトマト産業は自由参入の性質をもち, たくさんの潜在的な企業が存在する.» これらの潜在的企業は既存企業と類似の生産技術を利用できるため, 既存企業と同じような費用曲線をもつ.» 既存企業に利潤をもたらすほど価格が高ければ, 潜在的企業も利潤を得られるので, この産業に参入してくる.» 市場価格が損益分岐価格よりも高ければ, 長期的には参入が起こる. 2010/7/7 経済学第 13 回 45
まとめ 収益性条件 ( 長期の参入 退出条件 ) 最小 AC= 損益分岐価格 P> 最小 AC 企業は利潤を得る. 長期的に参入が生じる. P= 最小 AC 企業の利潤はゼロ. 長期的には参入も退出も生じない. P< 最小 AC 企業は損失を被る. 長期的に退出が生じる. 短期の生産条件最小 AVC= 操業停止価格 P> 最小 AVC P=MC の生産量で生産する. P= 最小 AVC P=MC の生産量で生産するか, 生産量ゼロかどちらでもよい. P< 最小 AVC 生産をしない. 2010/7/7 経済学第 13 回 46