第 14 回日本乳癌学会関東地方会 教育セミナー診断部門
臨床医には 画像 病理検査から得られる情報を よく理解して総合的に診断し 治療方針を決定する ことが求められます 症例を提示しますので 一緒に考えましょう
症例 1 53 歳女性血性乳頭分泌を自覚その後右乳房腫脹が著明となり近医を受診 既往歴及び家族歴 特記事項なし 右乳房の大部分を占める腫瘤を触知 130 120mm 腋窩リンパ節は非触知
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Q1 巨大嚢胞内に充実性病変を含む混合性パターンの腫瘤 鑑別疾患としてどのようなものを考えますか
混合性パターンの腫瘤を呈する鑑別疾患 良性 : 嚢胞 膿瘍 血腫 乳管内乳頭腫 葉状腫瘍 線維腺腫 など 悪性 : 嚢胞内乳癌 非浸潤性乳管癌囊胞内乳頭癌 充実腺管癌 ( 中心性壊死 ) 粘液癌化生癌悪性葉状腫瘍 など
混合性パターンの腫瘤 嚢胞内充実部の性状による鑑別 形状不整 広基性 凸類円形 嚢胞内癌 嚢胞内乳頭腫 良性 : 充実性部分が類円形または乳頭状 立ち上がりが急峻で明瞭または有茎性 悪性 : 不整形 広基性 立ち上がりが不明瞭でなだらか
US 充実性病変の基部より複数の 貫入する血流を認める 腋窩リンパ節は悪性所見なし 囊胞内腫瘍においては 血流シグナル を欠く 1 本の流入血管は良性を 複数の流入血管は悪性を示唆する ( 超音波カラードップラー法による乳腺 囊胞内腫瘍の良性 悪性の判定基準 ( 案 ) 乳房超音波診断ガイドライン改訂第 3 版 )
本症例の所見 MMG 高濃度腫瘤 楕円形 境界はほぼ明瞭平滑 一部微細分葉状や不明瞭の部あり US 大きな嚢胞を形成し 内部に壁から突出する充実性病変 充実部は46 32 36mm 不整形で内部に点状エコーを伴い 複数の血流貫入と血流増加が認められる立ち上がりは一部のみ見ると一見急峻だが 他部位の壁も肥厚しており全体的には広基性病変で 悪性を考える腋窩リンパ節には悪性所見なし 総合的に悪性腫瘍を疑い精査を進める
Q2 前医で穿刺吸引細胞診 : 褐色液 450ml 吸引 Class Ⅱ 診断 治療をどう進めますか
細胞診結果はどう考えるか嚢胞液の細胞診では壁から剥離した上皮集塊が採取 癌病変でも嚢胞液に癌細胞が検出されないことは多い 一部充実性成分が採取されたとしても 変性が強く判定が難しい 場合もあり false negative が比較的多い 組織診 嚢胞成分の多い混合性腫瘤の場合は 嚢胞液を吸引してから超音波ガイド下に充実部を穿刺広基性の充実性病変では 組織をより採取しやすい吸引式組織生検を選択 乳腺腫瘤に対する超音波ガイド下穿刺法の比較について ( 乳房超音波診断ガイドライン改訂第 3 版 Ⅻ 超音波ガイド下インターベンション マニュアルを参照 )
組織診 扁平上皮への分化を示す 上皮性の癌細胞と肉腫の 特徴を有する紡錘形細胞が混在してみられる. Squamous cell carcinoma and/or Spindle cell carcinoma
右乳房 MRI 右乳房全域を占める大きな腫瘤嚢胞内容は T1w T2w ともに high intensity で血性または高蛋白が示唆 壁は不均一に造影され 内部へ突出する広基性の充実性部分あり
症例経過 右乳癌 ct3n0m0, Stage ⅡB Squamous cell carcinoma > Spindle cell carcinoma ER score 0 HER2 score 0 化生癌が示唆され 術前薬剤治療の有効性が一般的に低い 1)2) ことと 切除不能ではないことより手術を選択 Bt+ALND 施行術後化学療法は希望なく非施行胸壁鎖骨上照射 5 年以上経過し無再発生存 1) Chen IC et al. Lack of efficacy to systemic chemotherapy for treatment of metaplastic carcinoma of the breast. Breast Cancer Res Treat 2011 2) Hennessy BT et al. Biphasic metaplastic sarcomatoid carcinoma of the breast. Ann Oncol 2006
手術標本 多彩な像を示し 紡錘形細胞 扁平上皮癌 乳管癌の 所見が混在してみられるが 紡錘細胞の部分が主体になっている. 病理組織学的診断 Spindle cell carcinoma invasion 93mm, f, ly+, v-, HG3, pt3, pn1a (1 個転移 ), ER 0 HER2 0
化生癌 metaplastic carcinoma 乳癌にみられる腺癌成分に加えて非腺癌成分や間葉系組織 への分化を示す腫瘍成分が混合するまれな乳癌 Squamous cell carcinoma, spindle cell carcinoma, metaplastic carcinoma with mesenchimal differentiation, mixed metaplastic carcinoma を含む 乳癌の 0.2-0.6% 腫瘍内部に嚢胞形成や出血をきたすことが多く 混合性腫瘤を呈する 予後不良な特殊型で リンパ節転移は陰性のことが多いが 遠隔転移を生じやすく TNBC 全体と比較しても予後は不良 ER- PR- HER2- Ki67 and p53 positive EGFR 過剰発現 TP53, PIK3CA mutation が頻繁にみられる (70-80%, 78%, 48%)
Heterogeneity of breast cancer: histotypes, molecular classification, and immunohistochemical classification Dieci MV et al. Rare breast cancer subtypes: histological, molecular, and clinical peculiarities. Oncologist 2014
参考症例 30 歳代女性紡錘細胞癌 MMG
参考症例 30 歳代女性紡錘細胞癌 US
症例 1 混合性パターンを示す腫瘤の画像上の鑑別 嚢胞成分を多く含む腫瘤の組織診断 化生癌の臨床病理学的事項 混合性腫瘤には 良性から乳癌の最も予後不良な 群まで多様の疾患が含まれ 注意を要する
症例 2 53 歳女性 乳癌検診で要精検 既往歴 なし 左乳房 D 領域に腫瘤触知 55 30mm 境界明瞭 可動性良 腋窩リンパ節は非触知
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Q3 嚢胞内に腫瘤 充実部の性状は? どのような疾患を考え 診断をどう進めますか
本症例の所見 MMG 分葉状 境界明瞭平滑な高濃度腫瘤 US 大きな嚢胞を形成し 内部に有茎性の充実性病変 嚢胞壁の境界はほぼ明瞭平滑充実部は立ち上がり急峻 有茎性 境界明瞭平滑で内部均一 乳管内乳頭腫など良性腫瘍を考える
嚢胞液の穿刺吸引細胞診 :Class Ⅲ 組織診 :intraductal papilloma 嚢胞状に拡張した乳管内に突出し増生する乳頭状病変
症例 2 混合性パターンを示す良性腫瘤の典型例 嚢胞液は血性となったり 細胞診で異型など悪性も疑われる 所見を呈することがある
症例 3 39 歳女性乳癌検診で要精検 既往歴及び家族歴 特記事項なし妊娠歴なし 左乳房 CD 領域に硬結触知 腋窩リンパ節は腫大なし
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US 左乳房 CDE に低エコー域 CD に腫瘤 47 18 14mm
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Q4 画像診断所見は? どのような疾患を考えますか
本症例の所見 MMG 左 C 中心に広範囲の構築の乱れ 濃度上昇 US 区域性低エコー域 左 CDEに区域性低エコー域 CDに腫瘤 47 18 14mm 腋窩リンパ節は悪性所見なし MRI 左 Cに広範囲の区域性造影 TICはrapid-plateauを呈する D Aにも濃染結節が認められ 広範囲の乳癌が示唆される
組織診 小型の結合性に乏しい 癌細胞が細い索状の 構造をとって浸潤増殖 invasive lobular carcinoma
CQ10 腋窩リンパ節の評価に画像診断は勧められるか推奨グレード B 超音波検査を腋窩リンパ節の術前評価に使用 することは勧められる 推奨グレード C2 CT や PET を腋窩リンパ節の評価の目的のみで 使用することについては科学的根拠が十分とは 言えず 実践することは基本的に勧められない ( 乳がん診療ガイドライン 2015 年版 ) USでリンパ節転移が疑われる所見類円形の腫大 リンパ門の消失 皮質の限局性肥厚ドップラーでリンパ門でなくリンパ節周囲からの血管流入 ( 乳房超音波診断ガイドライン第 3 版日本乳腺甲状腺超音波医学会 ) 転移が疑われるリンパ節の FNAC を施行し cn0 をより正確に診断することも 検討すべきである
CNB:invasive lobular carcinoma 左乳癌 ct2n0m0, Stage ⅡA ER 5+3=8, PgR 5+3=8, HER2 Score 1 初期治療方針はどうしますか
症例経過 左乳癌 ct2n0m0, Stage Ⅱa Luminal type の浸潤性小葉癌 広範囲病変で乳房切除が必要再建希望あり 手術先行胸筋温存乳房切除再建 Bt+SN+TE を予定 SN 術中迅速診断 : 1/2 転移陽性 ALND Bt+SN Ax +TE
SN 転移 術後化学療法を要する可能性大 39 歳既婚妊娠歴なし術前未確認の場合は 術後治療開始まで時間のあるこの時点で挙児希望の確認や妊孕性の問題についての説明をすべきである CQ 若年性乳癌 乳癌患者の薬物療法を開始する前に患者の将来の挙児希望の有無 について理解しておくことは勧められるか推奨グレードA 必要であり 強く勧められる ( 乳がん患者の妊娠 出産と生殖医療に関する診療の手引き 2017 年版 ) CQ 化学療法開始遅延は勧められるか? 推奨グレード C1 術後化学療法の場合 妊孕性温存に伴う治療開始遅延は術後 12 週までは容認される 化学療法の遅延は予後に影響するという報告もあり 妊孕性温存を実施する場合には可及的速やかに実施すべきである ( 同手引きおよび小児, 思春期 若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン日本癌治療学会 )
手術標本 病理組織学的診断 Invasive lobular carcinoma Invasion 36mm, f, ly-, v-, pn2a (6/20) 術後は補助化学療法 PMRT ( 胸壁鎖骨上照射 ) その後 IMP 入れかえを施行無再発生存
浸潤性小葉癌 浸潤性増殖を主体とする癌で 腫瘍境界が不明瞭 広範囲病変 多中心性発生 両側発生 過小評価 偽陰性のリスク (T 因子では浸潤径を過小評価したり N 因子では多数リンパ節転移 でも臨床的に診断が困難であったり 拡がり診断では水平方向 垂直方向の拡がりが判定困難であったりする )
症例 3 浸潤性小葉癌の臨床病理学的特性の再認識 腋窩リンパ節転移の術前診断 若年性乳癌における妊孕性温存 診断と同時並行での情報収集 患者希望の理解 説明を検討することが望まれる