新技術説明会 様式例

Similar documents
耐性菌届出基準

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

浜松地区における耐性菌調査の報告


緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性


スライド 1

「薬剤耐性菌判定基準」 改定内容

2012 年 2 月 29 日放送 CLSI ブレイクポイント改訂の方向性 東邦大学微生物 感染症学講師石井良和はじめに薬剤感受性試験成績を基に誰でも適切な抗菌薬を選択できるように考案されたのがブレイクポイントです 様々な国の機関がブレイクポイントを提唱しています この中でも 日本化学療法学会やアメ

第 88 回日本感染症学会学術講演会第 62 回日本化学療法学会総会合同学会採択演題一覧 ( 一般演題ポスター ) 登録番号 発表形式 セッション名 日にち 時間 部屋名 NO. 発表順 一般演題 ( ポスター ) 尿路 骨盤 性器感染症 1 6 月 18 日 14:10-14:50 ア

2006 年 3 月 3 日放送 抗菌薬の適正使用 市立堺病院薬剤科科長 阿南節子 薬剤師は 抗菌薬投与計画の作成のためにパラメータを熟知すべき 最初の抗菌薬であるペニシリンが 実質的に広く使用されるようになったのは第二次世界大戦後のことです それまで致死的な状況であった黄色ブドウ球菌による感染症に

割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

スライド タイトルなし

プライマリーケアのためのワンポイントレクチャー「抗菌薬①」(2016年4月27日)

<4D F736F F D D8ACC8D6495CF8AB38ED282CC88E397C38AD698418AB490F58FC782C982A882A282C48D4C88E E B8

地方衛生研究所におけるカルバペネム耐性腸内細菌科細菌検査の現状 薬剤耐性研究センター 第 1 室 鈴木里和

(案の2)

腸内細菌科細菌 Enterobacteriaceae Escherichia coli (大腸菌) Klebsiella sp. (K. pneumoniae 肺炎桿菌など) Enterobacter sp. (E. cloacaeなど) Serratia marcescens Citrobacte

57巻S‐A(総会号)/NKRP‐02(会長あいさつ)

57巻S‐A(総会号)/NKRP‐02(会長あいさつ)

薬剤耐性とは何か? 薬剤耐性とは 微生物によって引き起こされる感染症の治療に本来有効であった抗微生物薬に対するその微生物の抵抗性を言う 耐性の微生物 ( 細菌 真菌 ウイルス 寄生虫を含む ) は 抗菌薬 ( 抗生物質など ) 抗真菌薬 抗ウイルス薬 抗マラリア薬などの抗微生物薬による治療に耐えるこ

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

2015 年 9 月 30 日放送 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE) はなぜ問題なのか 長崎大学大学院感染免疫学臨床感染症学分野教授泉川公一 CRE とはカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 以下 CRE 感染症は 広域抗菌薬であるカルバペネム系薬に耐性を示す大腸菌や肺炎桿菌などの いわゆる

名称未設定

2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

感染制御ベーシックレクチャーQ&A 薬剤耐性菌

<4D F736F F D204E6F2E342D F28DDC91CF90AB8BDB82C982C282A282C482CC C668DDA94C5816A F315F372E646F63>

2012 年 7 月 18 日放送 嫌気性菌感染症 愛知医科大学大学院感染制御学教授 三鴨廣繁 嫌気性菌とは嫌気性菌とは 酸素分子のない環境で生活をしている細菌です 偏性嫌気性菌と通性嫌気性菌があります 偏性嫌気性菌とは 酸素分子 20% を含む環境 すなわち大気中では全く発育しない細菌のことで 通

TDMを活用した抗菌薬療法

2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

PowerPoint プレゼンテーション

褥瘡発生率 JA 北海道厚生連帯広厚生病院 < 項目解説 > 褥瘡 ( 床ずれ ) は患者さまのQOL( 生活の質 ) を低下させ 結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります そのため 褥瘡予防対策は患者さんに提供されるべき医療の重要な項目の1 つとなっています 褥瘡の治療はしばしば困難

2 経験から科学する老年医療 上記 12 カ月間に検出された病原細菌総計 56 株中 Escherichia coli は 24 株 うち ESBL 産生菌 14 株 それ以外のレボフロキサシン (LVFX) 耐性菌 2 株であった E. coli 以外の合計は 32 株で 内訳は Enteroco

48小児感染_一般演題リスト160909

<4D F736F F F696E74202D2088E397C396F28A778FA797E38FDC8EF68FDC8D DC58F4994C5205B8CDD8AB B83685D>

病原性真菌 Candida albicans の バイオフィルム形成機序の解析および形成阻害薬の探索 Biofilm Form ation Mech anism s of P at hogenic Fungus Candida albicans and Screening of Biofilm In

第11回感染制御部勉強会 『症例から考える抗MRSA治療薬の使い方』

目 次 1. はじめに 1 2. 組成および性状 2 3. 効能 効果 2 4. 特徴 2 5. 使用方法 2 6. 即時効果 持続効果および累積効果 3 7. 抗菌スペクトル 5 サラヤ株式会社スクラビイン S4% 液製品情報 2/ PDF

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

2015 年 7 月 8 日放送 抗 MRS 薬 最近の進歩 昭和大学内科学臨床感染症学部門教授二木芳人はじめに MRSA 感染症は 今日においてももっとも頻繁に遭遇する院内感染症の一つであり また時に患者状態を反映して重症化し そのような症例では予後不良であったり 難治化するなどの可能性を含んだ感

公開情報 2016 年 1 月 ~12 月年報 院内感染対策サーベイランス集中治療室部門 3. 感染症発生率感染症発生件数の合計は 981 件であった 人工呼吸器関連肺炎の発生率が 1.5 件 / 1,000 患者 日 (499 件 ) と最も多く 次いでカテーテル関連血流感染症が 0.8 件 /


家畜における薬剤耐性菌の制御 薬剤耐性菌の実態把握 対象菌種 食中毒菌 耐性菌の特徴 出現の予防 79

PowerPoint プレゼンテーション

公開情報 7 年 月 ~ 月年報 ( 集計対象医療機関 床未満 ) 院内感染対策サーベイランス全入院患者部門 解説. データ提出医療機関数病床規模が 床未満の 7 年年報 (7 年 月 ~ 月 ) 集計対象医療機関数は 7 医療機関であり 前年より 7 医療機関増加した これは国内 5,79 医療機

公開情報 年 月 ~ 月年報 ( 集計対象医療機関 床以上 ) 院内感染対策サーベイランス全入院患者部門 解説. データ提出医療機関数病床規模が 床以上の 年年報 ( 年 月 ~ 月 ) 集計対象医療機関数は 646 医療機関であった これは国内,649 医療機関の 4.4% を占めていた. 新規感

<34398FAC8E998AB490F55F DCC91F092CA926D E786C7378>

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

抗MRSA薬の新規使用患者のまとめ

2.7.3(5 群 ) 呼吸器感染症臨床的有効性グレースビット 錠 細粒 表 (5 群 )-3 疾患別陰性化率 疾患名 陰性化被験者数 / 陰性化率 (%) (95%CI)(%) a) 肺炎 全体 91/ (89.0, 98.6) 細菌性肺炎 73/ (86

<4D F736F F F696E74202D2091BD8DDC91CF90AB8BDB82C982E682E98AB490F58FC FC816A2E >

R01

14-124a(全)   感染症法一部改正

公開情報 27 年 月 ~2 月年報 ( 全集計対象医療機関 ) 院内感染対策サーベイランス全入院患者部門 解説. データ提出医療機関数 27 年年報 (27 年 月 ~2 月 ) の集計対象医療機関数は 863 医療機関であり 前年より 医療機関増加した これは国内 8,2 医療機関の.2% を占

平成 28 年度感染症危機管理研修会資料 2016/10/13 平成 28 年度危機管理研修会 疫学調査の基本ステップ 国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース (FETP) 1 実地疫学調査の目的 1. 集団発生の原因究明 2. 集団発生のコントロール 3. 将来の集団発生の予防 2 1

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

公開情報 2016 年 1 月 ~12 月年報 ( 全集計対象医療機関 ) 院内感染対策サーベイランス検査部門 Citrobacter koseri Proteus mirabilis Proteus vulgaris Serratia marcescens Pseudomonas aerugino

Microsoft PowerPoint - 茬囤æ—�告敧検æ�»çµ’果ㆮèª�ㆿ挹ㆨ活çfl¨æŒ¹æ³Łï¼‹JANISã…⁄ㅼㇿ説柔ä¼ıï¼› æ‘’å⁄ºçfl¨

PowerPoint プレゼンテーション

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

別紙様式 (Ⅱ)-1 添付ファイル用 本資料の作成日 :2016 年 10 月 12 日商品名 : ビフィズス菌 BB( ビービー ) 12 安全性評価シート 食経験の評価 1 喫食実績 ( 喫食実績が あり の場合 : 実績に基づく安全性の評価を記載 ) による食経験の評価ビフィズス菌 BB-12

平成 29 年度感染症危機管理研修会資料 2017/10/11 薬剤耐性 (AMR) 対策アクションプランの進捗 厚生労働省健康局結核感染症課 アウトライン 1. 現状と動向 2. アクションプラン 3. 施策と進捗状況 4. 今後の方向 1

プライマリーケアのためのワンポイントレクチャー「抗菌薬③」(2017年5月17日開催)

院内感染対策サーベイランス実施マニュアル

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

Microsoft PowerPoint _OneHealth_Gu_for_upload.pptx[読み取り専用]

Microsoft PowerPoint - 4_河邊先生_改.ppt

細菌または真菌の抗菌薬感受性の検査方法およびそれに用いるシステム

検査実施料新設のお知らせ


1 2

Microsoft PowerPoint - AMDDメデイアレクチャー(資料)

抗菌薬マニュアル

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

審査結果 平成 26 年 1 月 6 日 [ 販 売 名 ] ダラシン S 注射液 300mg 同注射液 600mg [ 一 般 名 ] クリンダマイシンリン酸エステル [ 申請者名 ] ファイザー株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 25 年 8 月 21 日 [ 審査結果 ] 平成 25 年 7

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

85 表 2 外来 入院における主な耐性菌の検出率 (2014 年度 ) 菌名 外 来 入 院 MRSA/S. aureus 19.8%(100/506) 33.6%(300/893) VRE/E. faecium 0%(0/8) 0.5%(1/187) ESBL 産生菌 /E. coli 10.9

topics vol.82 犬膿皮症に対する抗菌剤治療 鳥取大学農学部共同獣医学科獣医内科学教室准教授原田和記 抗菌薬が必要となるのは 当然ながら細菌感染症の治療時である 伴侶動物における皮膚の細菌感染症には様々なものが知られているが 国内では犬膿皮症が圧倒的に多い 本疾患は 表面性膿皮症 表在性膿


卸-11-2.indd

中医協総会の資料にも上記の 抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス から一部が抜粋されていることからも ガイダンスの発表は時機を得たものであり 関連した8 学会が共同でまとめたという点も行政から高評価されたものと考えられます 抗菌薬の適正使用は 院内 と 外来 のいずれの抗菌薬処方におい

<4D F736F F F696E74202D F78BA65F838C C A E815B89EF8B6396F28DDC91CF90AB8BDB5F >

2表05-10.xls

新しい敗血症診断用検査薬を用いた遺伝子関連検査Verigene®の実施指針

_HO_ジャーナル�__%25i%25V%1B%28B3.15%20ver2

Microsoft PowerPoint - 茨城県研修会

スライド 1

【資料1】結核対策について

<95E58F578E968BC688EA BBB81458DC48BBB8AB490F58FC782C991CE82B782E98A E396F A4A94AD CA48B868E968BC6292E786C7378>

プライマリーケアのためのワンポイントレクチャー「抗菌薬②」(2017年5月10日開催)

 

背景 ~ 抗菌薬使用の現状 ~ 近年 抗微生物薬の薬剤耐性菌に伴う感染症の増加が国際的にも大きな課題の一つに挙げられている 欧州及び日本における抗菌薬使用量の国際比較 我が国においては 他国と比較し 広範囲の細菌に効く経口のセファロスポリン系薬 キノロン系薬 マクロライド系薬が第一選択薬として広く使

NEWS RELEASE 東京都港区芝 年 3 月 24 日 ハイカカオチョコレート共存下におけるビフィズス菌 BB536 の増殖促進作用が示されました ~ 日本農芸化学会 2017 年度大会 (3/17~

Microsoft Word - JAID_JSC 2014 正誤表_ 原稿

Transcription:

1 多剤耐性緑膿菌に対して アミノ配糖体耐性阻害作用を示す シード化合物 愛知学院大学薬学部微生物学講座 准教授森田雄二

2 新技術の概要 多剤耐性緑膿菌感染症は 有効な治療薬がほとんどなく院内感染対策上問題となっている 一方で 緑膿菌は排出ポンプ等抗菌薬透過性バリアを持つため新規抗菌薬の開発は容易でない 本技術は 多剤耐性緑膿菌の抗菌薬透過性バリアを克服しアミカシン等アミノ配糖体耐性を阻害する 耐性系阻害薬は既存抗菌薬の効力を復活させることができる

抗菌薬開発の現況 製薬企業は新規抗菌薬開発からの撤退もしくは縮小慢性疾患など採算が見込まれる分野へ 10 年以上は新薬が期待できない PK-PD 理論の活用による既存の抗菌薬の改善 改良に開発がシフト 抗菌薬開発の学問的衰退も危惧 ( かつて日本は抗菌薬開発の主役であった ) 多剤耐性グラム陰性桿菌に対する薬剤を含む新規抗菌薬の開発が滞っている アカデミアを中心とする研究機関は これまで以上に感染症の予防や治療につながる研究に取り組む意義や必要性が高まっている 抗 MRSA 薬 新規抗菌薬のイノベーションギャップ Fischbach MA et al., Science 325, 1089-1093 (20 日本及び米国で新たに承認された抗細菌薬の推移 ( 供田洋, 関水和久 ; 薬学雑誌 (2012) より ) 3

4 2010 年新型インフルエンザ 2012 年高齢化 多剤耐性菌が世界で猛威を振るっている WHO は 薬剤耐性菌対策を推進するよう呼びかけている

我が国の死亡率の年次推移 抗菌薬発売開始 ( 厚生労働省より ) 日本は世界レベルでみると耐性菌が少ない国であるが 耐性菌に対する警戒を怠ってよいわけではない また薬剤耐性菌に国境はない 高齢化による易感染症宿主の増加により 肺炎の死亡数 死亡率が年々増加 ( 平成 23 年度には第 3 位に ) 我が国でも薬剤耐性菌対策はますます重要に 5

6 多剤耐性グラム陰性桿菌 多種類の抗菌薬に耐性化した病原細菌のうちグラム陰性桿菌に属するもの 特に注意すべきは腸内細菌科に属する菌 ( 大腸菌や肺炎桿菌など ) やブドウ糖非発酵菌 ( 緑膿菌やアシネトバクター属菌など ) などが多剤耐性化したもの 湿度の高い環境下で生息しやすく医療関連感染の原因菌となりやすい エンドトキシン ( 内毒素 ) を産生する ( グラム陽性菌は持ってない ) ため 血中に入り多臓器不全に陥ると死亡する危険性が高い 有効な抗菌薬がほとんどない (MRSA に有効な抗菌薬はリネゾリドやアルベカシンなどいくつかある ) 非常在菌 ( 獲得耐性菌 ) である 常在菌が外来性の抗菌薬耐性遺伝子 を獲得した 多剤耐性グラム陰性桿菌感染症は 現場で深刻な問題となる

多剤耐性緑膿菌について multidrug resistant Pseudomonas aeruginosa (MDRP) 本来病原性は低いが 免疫力の低下した易感染者に感染を引き起こし院内感染の原因菌となる 病態は多彩 ( 皮膚の化膿 尿路感染症 呼吸器感染症 敗血症等 ) 感染症法では広域 β ラクタム ( イミペネムなど ) フルオロキノロン ( シプロフロキサシンなど ) 抗緑膿菌用 アミノ配糖体 ( アミカシンなど ) に耐性を示す緑膿菌と定義 ( 多剤耐性アシネトバクター属菌 (MDRA) も同様の定義 ) MDRP や MDRA に有効な抗菌薬はほとんどない 治療に有効な抗菌薬がない 深刻な問題 出典 : 国立感染症研究所 7

8 院内感染として深刻な問題 多剤耐性緑膿菌 (MDRP) メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) ほとんどなし コリスチン ( 我が国で未承認 ) ( 強い副作用 ( 腎毒性など ) のため ) いくつか候補があるバンコマイシンテイコプラニンアルベカシンリネゾリドダプトマイシンなど

9 多剤耐性菌感染症薬開発のコンセプト 1. 新規抗菌薬の開発 20 世紀に地球上の抗生物質生産菌は調べつくされた?? 微生物の大多数は培養困難な菌であり 宝の山が眠っている?? 2. 既存抗菌薬の改善既に行われてきたことであるが さらに続けるべきであろう 3. 耐性系阻害薬の開発上記二つに比べて比較的新しい発想に基づくもの β ラクタマーゼ阻害剤など実用化されているものもある 4. 抗病原因子薬の開発毒素等の病原因子を抑える医薬品の開発有効な医薬品となる可能性がある 5. ワクチンの開発有効な医薬品となる可能性がある 緑膿菌の場合 透過性バリアが新薬開発の障害となる Martin MO; Small things considered (2013)

10 多剤耐性緑膿菌克服の分子標的 :RND 型多剤排出ポンプ 透過性バリアの本体 新薬開発の最大の障壁 抗菌薬耐性因子 ( 抗重金属耐性因子になるものも ) 病原性因子 ( 欠損させると感染性が減弱する ) Pos KM, Biochim Biophys Acta (2009) RND 型多剤排出ポンプ阻害剤は 薬剤耐性や病原性発現を軽減させる全く新しい系統の感染症治療薬の分子標的である

多剤耐性緑膿菌 (MDRP) の判定基準 広域 β ラクタム ( イミペネム (IPM) など ) フルオロキノロン ( シプロフロキサシン (CIP) など ) 抗緑膿菌用アミノ配糖体 ( アミカシン (AMK) など ) に耐性を示す緑膿菌 多剤耐性アシネトバクター属菌 (MDRA) などの判定基準も同様である IMP AMK CIP MIC (mg/ml) 16 32 4 MICによる耐性判定基準は 1. 抗菌薬の薬動力学 2. 抗菌薬の試験管内における特性 3. 試験菌の菌種 菌株の特性 4. 実際の臨床効果との相関 から決定され 抗菌薬の選択に利用される 耐性因子の程度を見積もる簡便で重要なアッセイ法

今回の研究で用いた主な緑膿菌の薬剤耐性 MIC (mg/ml) IPM CIP AMK NCGM2.S1 128 64 256 PA7 1 128 32 K2162 1 0.5 256 PAO1 0.5 0.25 4 MDRP 判定基準 MIC (mg/ml) IPM 16 CIP 4 AMK 32 1. NCGM2.S1 (IMCJ2.S1) (Sekiguchi J et al, Antimicrob Agents Chemother (2005)) 2000 年代に我が国で分離された典型的な高度多剤耐性緑膿菌 外来性のメタロ β ラクタマーゼとアミノ配糖体修飾酵素を獲得 キノロン耐性決定領域に典型的な変異を持つ 2. PA7(Roy PH et al, PLoS One (2010)) 1980 年代前半にアルゼンチンで分離された高度多剤耐性緑膿菌 ( 当時 ) 外来性のアミノ配糖体修飾酵素を獲得 キノロン耐性決定領域に典型的な変異を持つ ただし β ラクタム高度耐性機構は不明 3. K2162(Sobel ML et al, Antimicrobial Agents Chemother (2003)) 2000 年頃カナダの分離された汎アミノ配糖体耐性緑膿菌 4. PAO1(Klockgether J et al, J Bacteriol(2010)) 現在用いられる抗緑膿菌薬に感受性を示す 細菌タンパク質の機能解析や遺伝学的解析の研究で 緑膿菌標準株として利用される

緑膿菌の抗菌薬耐性に関与する 4 つの RND 型多剤排出ポンプ 1. MexXY-OprM( or OprA) 通常タンパク質を標的とする抗菌薬 ( アミノ配糖体など ) に誘導産生され それらの抗菌薬耐性に関与 変異により過剰産生され アミノ配糖体 キノロン セフェピムなど耐性に関与 4 つのポンプのうちで唯一アミノ配糖体排出に関わる 2. MexAB-OprM 通常は β ラクタム系 ( セフェム系を除く ) キノロンなどの耐性に関与 変異により過剰産生され β ラクタム系 ( 主にペニシリン系 ) キノロン耐性に関与 3. MexCD-OprM 通常はサイレント 消毒剤などによる膜障害により誘導産生される 変異により過剰産生され β ラクタム ( 主にセフェム系 ) キノロンなどの耐性に関与 ( ただし過剰産生により緑膿菌の病原性は減弱するため ほとんど分離されない ) 4. MexEF-OprN 通常はサイレント ニトロソ化ストレスにより誘導産生される 変異により過剰産生され キノロンなどの耐性に関与 しばしば外膜ポーリン産生減少によるカルバペネム耐性も伴う 緑膿菌に対するベルベリンのキノロン耐性阻害が観察されないのは MexAB-OprM など他の RND 型排出ポンプの存在によるのでは??

分子標的候補多剤排出ポンプの評価解析 MIC (mg/ml) IPM FEP CIP AMK GEN NCGM2.S1 128 >128 64 256 32 NCGM2.S1 DXY 128 >128 64 8 0.5 NCGM2.S1 DAB 128 >128 64 256 32 NCGM2.S1 DXY DAB 128 >128 1 8 0.5 PA7 1 32 128 32 1024 PA7 DXYA 1 16 64 2 16 PA7 DABM 1 16 128 32 1024 PA7 DEFN 0.5 32 64 32 1024 PA7 DXYA DABM 1 16 32 2 16 PA7 DXYA DEFN 0.5 16 8 2 16 PA7 DXYA DABM DEFN 0.5 16 1 2 16 K2162 1 nd 0.5 256 256 K2162 DXY 1 nd 0.5 32 8 PAO1 0.5 4 0.25 2 2 XY: mexxy, XYA: mexxy-opra, ABM: mexab-oprm, EFN: mexef-oprn IPN: imipenem, FEP: cefepime, CIP: ciprofloxacin, AMK: amikacin, GEN; gentamicin 緑膿菌耐性判定基準 IPM FEP MIC (mg/ml) 16 32 CIP 4 AMK GEN 64 16 赤字は感受性と判定される MIC 値 多剤耐性緑膿菌 NCGM2.S1 は RND 多剤排出ポンプ MexXY の欠損によりアミノ配糖体に MexXY を含む複数の RND 型多剤排出ポンプの欠損により キノロンに大きく感受性化する ただし広域 β ラクタム耐性はほとんど変化しない

15 多剤耐性緑膿菌の抗菌薬耐性阻害物質 ( シード ) の探索 1. 漢方方剤繁用生薬の中からスクリーニングを行う 2. 緑膿菌薬剤感受性測定用培地に 3 種類の抗菌薬 ( イミペネム シプロフロキサシン アミカシン ) のいずれかを添加する 3. 多剤耐性緑膿菌を接種 37 で18 時間培養 ( コントロールとして 漢方方剤繁用生薬単独で多剤耐性緑膿菌を培養した ) 多剤耐性緑膿菌克服薬の候補物質を探索する アミカシン存在下でシードがスクリーニングされた

16 緑膿菌薬剤感受性における漢方方剤繁用生薬の影響 MIC (mg/ml) Strains AMK GEN CIP FEP IPM NCGM2.S1-256 32 64 >128 128 + 32 4 64 >128 128 PA7-32 >512 128 32 1 + 4 64 64 16 2 PAO1-2 2 0.25 4 0.5 + 1 0.5 0.25 4 1 AMK, amikacin; GEN, gentamicin; CIP, ciprofloxacin; FEP, cefpirome; IPM, imipenem In the absence (-) or presence (+) of 生薬成分 多剤耐性緑膿菌の抗緑膿菌用アミノ配糖体耐性を8 倍程度抑制した 薬剤感受性緑膿菌 PAO1のアミノ配糖体耐性抑制は2~4 倍程度であった キノロン系 ( シプロフロキサシン ) や広域 βラクタム ( イミペネムやセフェピム ) の耐性に影響は全くなかった

17 緑膿菌薬剤感受性における生薬成分 A の影響 A MIC (mg/ml) AMK CIP IPM NCGM2.S1-256 128 128 + 32 128 128 PA7-32 128 1 + 4 64 2 K2162-256 0.5 1 + 32 0.5 1 PAO1-4 0.25 0.5 + 1 0.25 1 生薬成分 A 存在下で漢方方剤繁用生薬と同様の活性が見られた 多剤耐性緑膿菌 NCGM2.S1 に対するアミカシン耐性阻害効果は濃度依存的で 8 mg/ml で完全に消失した 構造類似の生薬成分 B でも同程度の活性が観察された (data not shown)

18 多剤耐性緑膿菌のアミノ配糖体高度耐性の分子機構 排出ポンプを阻害することによりアミノ配糖体に感受性化する Morita Y et al, Microbiology (2012) 158 1071-1083

多剤耐性緑膿菌アミカシン耐性阻害は多剤排出系 MexXY 依存的である A MIC (mg/ml) AMK CIP IPM mexxy expression S1-256 128 128 + + 32 128 128 S1DmexXY - 8 64 64 - + 8 64 64 PA7-32 128 1 +++ + 4 64 2 PA7 DmexXY - 1 64 1 - + 2 64 2 K2162-256 0.5 1 + + 32 0.5 1 K2162 DmexXY - 32 0.5 1 + 32 0.5 1 PAO1-4 0.25 0.5 + + 1 0.25 1 PAO1DmexXY - 1 0.125 0.5 - + 0.5 0.125 0.5 緑膿菌のアミカシン耐性阻害は 多剤排出ポンプ MexXY 依存的である mexxy 発現量による影響は見掛け上ない 19

20 新技術の特徴 原理 機構 既存薬のみ 既存薬と耐性系阻害薬の併用 排出ポンプ 排出ポンプ 多剤耐性緑膿菌 多剤耐性緑膿菌 既存抗菌薬 ( アミノ配糖体 ) 耐性系阻害薬 ( 排出ポンプ阻害剤 ) 耐性系 ( 排出ポンプ ) により既存薬は排出される 多剤耐性緑膿菌に既存薬は効かない 耐性系 ( 排出ポンプ ) が阻害され既存薬が菌体内に蓄積 多剤耐性緑膿菌に既存薬が効く

21 想定される用途 耐性阻害薬は他の抗菌化学療法が期待できない多剤耐性緑膿菌感染症などにおいて有用である 緑膿菌の引き起こす疾患は 尿路感染症から呼吸器感染症まで多彩であるが 特にショックや多臓器不全で死に至ることの多い敗血症など急性多剤耐性緑膿菌感染症に対して耐性阻害薬の使用が期待される

22 企業への期待 想定される用途に向けて 化学修飾などシード化合物の最適化を行う必要がある さらに最適化された化合物の代謝試験 安全性試験などの評価が必要である 感染症治療薬の開発が可能な企業との 共同研究を希望する

23 お問い合わせ先 愛知学院大学 大学事務局研究支援課 水野 久野 TEL :052-751 - 2561 FAX :052-751 - 6709 e-mail :chizai@dpc.ac.jp