85 表 2 外来 入院における主な耐性菌の検出率 (2014 年度 ) 菌名 外 来 入 院 MRSA/S. aureus 19.8%(100/506) 33.6%(300/893) VRE/E. faecium 0%(0/8) 0.5%(1/187) ESBL 産生菌 /E. coli 10.9

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84 モダンメディア 63 巻 4 号 2017[ 感染対策と微生物検査 ] 感染対策と微生物検査 3 耐性菌検査の感染対策への応用 The application for infection control of the drug resistant bacteria examination. たか高 やまよう山陽 Yoko TAKAYAMA こ *1, 2 子 はじめに耐性菌はあらゆる施設で検出される可能性があるが 耐性菌の確認検査は標準化されておらず 基準や方法が確立していない 例えば ESBL(expanded spectrum β-lactamase) AmpC βラクタマーゼ MBL(metallo β-lactamase) 産生菌などは 薬剤感受性試験や酵素阻害試験などから総合的に判断する これらの遺伝情報のほとんどはプラスミドに担われており 菌種を超えて伝達される特性を持っている 院内感染対策を行う際に 耐性菌の特徴を知った上で対策を取ることが重要となる Ⅰ. 感染対策上対象とすべき耐性菌感染対策を実施する上で対象とすべき多剤耐性菌と国内における分離状況を表 1に示す MRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus) は オランダや北欧では分離率が 1% 以下であるが その他の諸外国や国内における分離状況は大きく変わらず 感染症を発症した場合でも有効な抗菌薬は複数存在する 一方で MDRP(multi-drug resistant Pseudomonas aeruginosa) MDRA(multi-drug resistant Acinetobacter spp.) KPC(Klebsiella pneumoniae carbapenemase) 産生菌 NDM(New Delhi metallo β-lactamase)-1 産生菌などは 国内での分離頻度は少ないものの高度の耐性を示す菌である 使用できる抗菌薬が限られているため これらの菌による感染症を発症した場合は 患者の予後に影響を与える可能性が高い VRE(vancomycin resistant Enterococcus) MDRA KPC 産生菌 NDM-1 産生菌などは 海外渡航歴や医療行為実施歴の確認が極めて重要である 近年 ESBL 産生菌が国内でも増加傾向にあり 注意が必要である CLSI(Clinical and Laboratory 表 1 対象とすべき多剤耐性菌と国内における分離状況 菌名 国内における分離状況 MRSA S. aureusにおけるmrsa 分離率は入院の60-70% 外来では20-30% 近年は院内感染型に比して市中感染型が増加傾向 VRE 地域差あり 散発的 ESBL 産生菌 近年増加傾向 院内のみならず市中にも拡散 AmpCβラクタマーゼ産生菌 腸内細菌科の数 % KPC 産生菌 数例確認のみ MBL 産生菌 (NDM-1 産生菌を除く ) 緑膿菌のみならず 近年は腸内細菌科からも分離報告あり NDM-1 産生菌 数例確認のみ MDRP 緑膿菌の数 % 程度 検出率は横ばい MDRA アシネトバクター属の0.2-0.3% 程度 *1 北里大学医学部附属新世紀医療開発センター横断的医療領域開発部門感染制御学准教授 252-0374 神奈川県相模原市南区北里 1-15-1 *2 北里大学病院危機管理部感染管理室室長 252-0375 神奈川県相模原市南区北里 1-15-1 *1 Research and Development Center for New Medical Frontiers, Kitasato University School of Medicine, (1-15-1 Kitasato, Minami-ku, Sagamihara, Kanagawa) *2 Department of Infection Control and Prevention, Kitasato University Hospital (1-15-1 Kitasato, Minami-ku, Sagamihara, Kanagawa) ( 4 )

85 表 2 外来 入院における主な耐性菌の検出率 (2014 年度 ) 菌名 外 来 入 院 MRSA/S. aureus 19.8%(100/506) 33.6%(300/893) VRE/E. faecium 0%(0/8) 0.5%(1/187) ESBL 産生菌 /E. coli 10.9%(37/340) 14.2%(100/702) ESBL 産生菌 /K. pneumoniae 4.4%(4/90) 0.8%(2/255) ESBL 産生菌 /K. oxytoca 0%(0/25) 8.3%(10/121) CRE/E. cloacae 0%(0/22) 1.0%(2/198) MDRP/P. aeruginosa 0%(0/133) 1.6%(7/431) MDRA/Acinetobacter spp. 0%(0/18) 0%(0/81) 検出率 %( 耐性菌数 / 総菌数 ) Standards Institute)M100-S21 1) では 患者の治療目的の ESBL スクリーニング試験および確認試験の実施は不要とされた 泌尿器系検体を中心に外来での分離頻度は高く 基礎疾患やリスクファクターのない患者からも分離される傾向があるため 当院では ESBL 産生の有無を培養結果報告画面に表示し 感染対策に役立てている 当院における 2014 年度の主な耐性菌検出率を表 2 に示した Ⅱ. 耐性菌検出方法多くは薬剤感受性結果で判定が可能であるが 耐性菌の確認検査は標準化されていないため 判断を加えたり更なる検査を追加したりしないと判別しづらい場合もある MRSA において 院内感染型 MRSA(HA-MRSA) と明らかに MIC 値が異なる市中感染型 MRSA(CA- MRSA) は明確な定義がないため 当院微生物検査室では培養結果報告画面の表示は MRSA で統一している しかし oxacillin cefoxitin に耐性 cefazolin と cefotiam のいずれか または両剤の MIC<8 µg/ ml を示す株を CA-MRSA 疑い株として 菌株を収集している その他 当院では MRSA MSSA(methicillin-sensitive S. aureus) 黄色ブドウ球菌以外のメチシリン耐性菌を判別 判定できる PCR -ラテラルフロー法を深部感染症の一部で実施している この方法は培養法と比較して感度と迅速性に優れている 2) また 当院では 高度耐性が疑われる腸内細菌科の菌が確認された際は ESBL AmpC MBL 産生菌などを念頭に ボロン酸 メルカプト酢酸ナトリウム (SMA) 変法ホッジ法などを用いて積極的に 確認を行っている カルバペネム耐性腸内細菌科細菌 ( carbapenem-resistant Enterobacteriaceae : CRE) については CLSI M100-S21 において Enterobacteriaceae のカルバペネム系のブレイクポイントが引き下げられ 感受性は meropenem 1 µg/ml imipenem 1 µg/ml と定められた 3) しかし 国内での分離は多くないものの CRE のうち カルバペネムに耐性を示さなくてもカルバペネマーゼを産生しているカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌 (carbapenemase-producing Enterobacteriaceae : CPE) は特に注意が必要である カルバペネマーゼ産生遺伝子の多くがプラスミドに担われていることから 院内感染につながるだけでなく 菌種を超えて伝達されることも問題となるため できる限り確実に検出することが望ましい 簡易的な CPE 検出の指標薬剤としては meropenem が感度および特異度の点から最適である 4) われわれは カルバペネマーゼ産生菌を検出する際に用いる変法ホッジ法は AmpC の影響を受けると偽陽性を示す現象について検証し 図 1に示すように AmpC 阻害薬である cloxacillin を添加した変法ホッジ法を提唱した 5) 検査室で使用可能な迅速かつ簡便な検出方法の確立は重要である また 当院では MDRP を疑う菌が分離された場合は MBL 産生の有無を培養結果報告画面に表示すると同時に 感染管理室専従の臨床検査技師が BC プレート 6) を用いて有効な併用抗菌薬の組み合わせを確認している Ⅲ. 目的に応じた耐性菌検査耐性菌の検査は表 3に示すように 目的に応じてさまざまな種類がある ( 5 )

86 a b c d KY867(E. cloacae) :AmpC 産生 (3+) bla IMP-1* (-) KY831(E. cloacae) :AmpC 産生 (2+) bla * IMP-1 (+) * カルバペネマーゼの一種 KY867 は変法ホッジ法では陽性を示すが (a) cloxacillin を添加した変法ホッジ法では陰性化した (b) KY831 は変法ホッジ法 (c) cloxacillin を添加した変法ホッジ法 (d) ともに陽性 図 1 変法ホッジ法と cloxacillin を添加した変法ホッジ法の比較 表 3 目的に応じた耐性菌検査 種類 目 的 特 色 通常の検体検査 原因菌を同定するために保菌による伝播拡大を発見することは有症状時にのみ実施できない 監視培養 保菌されている多剤耐性比較的検出しやすい部位 ( 鼻腔 気道 菌を検出直腸など ) から検体を採取 当該病棟全入院患者を対積極的監視培養象とした特定の病原体に ( アクティブ サーベイランス ) 対する積極的な監視培養 MRSAなど分離頻度が高い菌で有効 アウトブレイク発生時のスクリーニング検査 潜在的な保菌者の検知 実際の保菌状況を正確に把握 環境細菌培養検査 環境が多剤耐性菌伝播に関与しているかの検討 ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌は湿潤環境を好むが Acinetobacter spp. は乾燥した環境でも長期間生存が可能 1. 通常の検体検査担当医が原因菌を同定するために有症状時に実施するものである したがって 感染対策を目的としていないが 耐性菌検出の発端となり得る 2. 監視培養入院中の患者を対象に実施され 患者が保菌している病原体を検出する方法を指す 効率や意義についてさまざまな評価がある 3. 積極的監視培養 ( アクティブ サーベイランス ) 院外からの持ち込み防止や 病棟単位での包括的な感染対策の一環として当該病棟の全入院患者を対象とした特定の病原体に対する積極的な監視培養を指す 当院では NICU 在室患児の鼻腔における MRSA 検出状況を週 1 回確認し 感染対策に役立てている 監視培養同様 効率や意義についてさまざまな評価がある 4. アウトブレイク後のスクリーニング検査潜在的な保菌者を検知するために行われる アウトブレイクが終息しない要因の一つとして 実際の保菌状況を正確に把握できていない場合があるため スクリーニング検査が有効なことがある 5. 環境調査多剤耐性菌伝播に環境要因が関与しているか確認する目的で実施される 患者周囲のみならず 菌の特性を考慮した上で 検出されやすい場所から効率良く採取する必要がある ( 6 )

87 Ⅳ. 検査室と ICT(infection control team) の連携 院内において 感染対策の中心を担うのは ICT である 耐性菌の検出情報が ICT に迅速かつ正確に伝わるために 検査室と ICT は良好なコミュニケーションを図る必要がある 当院では 感染管理室のスタッフが ICT の主要な構成員であり 感染対策の業務は実質的に感染管理室が行っている 感染管理室には専従の臨床検査技師が在籍し 場所も微生物検査室と近い距離に位置している 耐性菌などの結果は 検査依頼医のみならず感染管理室にも伝達される また 感染管理室の臨床検査技師は 毎朝耐性菌や血液培養陽性例を確認しており 感染管理室と微生物検査室は双方向から情報を共有している 当院では ESBL 産生菌 Clostoridium difficile imipenem amikacin cipro- floxacin のうち 2 剤に耐性を示す緑膿菌 アシネトバクター CRE KPC 産生菌 MBL 産生菌 MDRP MDRA VRE などの感染対策上迅速な対応を要する菌については 疑いの段階を含め 微生物検査室から感染管理室に即日報告する体制となっている これらが検出された場合は 感染管理室の看護師が現場に出向いて状況を確認し 適切な感染対策の実施につなげている Ⅴ. 抗菌薬適正使用 過した検体は通常廃棄されることが多い しかし アウトブレイクが発生した際には スクリーニング検査の他に 感染経路や感染源を特定するために振り返って調査を行う必要が出てくる場合がある 例えば検出菌の相同性を確認するために Pulsed-field gel electrophoresis(pfge) Multilocus sequence typing(mlst) Phage ORT typing(pot) 法などの分子疫学的方法を実施することがある そのため 追加検査を行う可能性がある菌株は 施設内であらかじめ取り決めた上で保存しておくと良い Ⅶ. 今後の課題近年 検査業務の外部委託が進んでいる現状がある しかし 感染対策上必要となり得るアクティブ サーベイランス アウトブレイクが発生した際のスクリーニング検査 環境調査などを行う場合 自施設に検査室がなければ実際は実施が困難である 感染対策に関連した検査を行う部署としての検査室の役割が見直されている また 疫学情報の集計は感染対策を行う上で必須であるが 従来の微生物検査システムだけでは十分に集計ができず手作業に依存する場合も多い 多職種間で共有すべき感染対策上の情報は わかりやすく迅速に伝達し対策を徹底する必要がある 近年は病院情報システムに工夫を加えたり 感染対策システムのパッケージを導入したりする施設が増加しつつある 前述の耐性菌検出時に随時行うラウンドの他に 耐性菌を拡げない 増やさないために指定抗菌薬使用届の確認や指定抗菌薬長期使用患者に対する ICT ラウンドを実施し 抗菌薬適正使用に努めている また 感染管理室の臨床検査技師は定期的にアンチバイオグラム ( 主要病原体に対する薬剤感受性率の呼称 ) を更新し 広く職員に周知している 分離菌の感受性動向は地域間や病院間で異なるため 自施設に 住み着いた 微生物名と感受性パターンを知ることは重要である Ⅵ. アウトブレイク発生時に備えて検査室で扱う検体数は膨大であり 一定期間を経 おわりにすべての耐性菌を遺伝子解析で確定することは 検査室の負担やコストなどを考えると現実的ではない 検査室で使用可能な迅速かつ簡便な検出方法を確立していくことにより 効果的な感染対策につながることが望まれる 文献 1 ) Clinical and Laboratory Standards Institute. Enterobacteriaceae susceptibility - Cephalosporins and Carbapenems Breakpoint Revisions. M100-S20, 2010. 2 ) Nihonyanagi S, Kanoh Y, Okada K, et al. Clinical usefulness of multiplex PCR lateral flow in MRSA detection: a ( 7 )

88 novel, rapid genetic testing method. Inflammation 2012 ; 35 : 927-934. 3 ) Clinical and Laboratory Standards Institute. Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing; Twenty-First Informational Supplement M100-S21 Vol. 31 No. 1, 2011. 4 ) < 速報 > 腸内細菌科カルバペネマーゼ産生菌の検出に 適したスクリーニング薬剤の検討 IASR Vol. 35 p.156-157: 2014 年 6 月号 http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/1726- source/drug-resistance/idsc/iasr-news.html?start=2( 引 用 2016/5/14) 5 ) Takayama Y, Adachi Y, Nihonyanagi S, Okamoto R. Modified Hodge test using Mueller-Hinton agar supplemented with cloxacillin improves screening for carbapenemase-producing clinical isolates of Enterobacteriaceae. J Med Microbiol 2015 ; 64 : 774-777. 6 ) Tateda K, Ishii Y, Matsumoto T, Yamaguchi K. Breakpoint Checkerboard Plate for screening of appropriate antibiotic combinations against multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa. Scand J Infect Dis 2006 ; 38 : 268-272. ( 8 )