日本てんかん学会ガイドライン作成委員会報告

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もちろん単独では診断も除外も難しいが それ以外の所見はさらに感度も特異度も落ちる 所見では鼓膜の混濁 (adjusted LR, 34; 95% confidence interval [CI], 28-42) や明らかな発赤 (adjusted LR, 8.4; 95% CI, ) が

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また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を

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Transcription:

日本てんかん学会ガイドライン作成委員会報告 てんかんの診断ガイドライン 飯沼一宇 * 日本てんかん学会ガイドライン作成委員会委員長藤原建樹委員池田昭夫 井上有史 亀山茂樹 須貝研司 * 石巻赤十字病院 1. はじめにてんかんは比較的頻度の高い疾患であり 医師を始めとして多くの医療従事者が係わることになる また てんかん ではない てんかん類似の疾患あるいは状態も多い したがって正確な診断がその後の治療にもきわめて重要である てんかんの診断は てんかん であることの診断のみではなく その分類にまで及ばなければ不十分である このような点を踏まえて てんかん診断の進め方について述べる 2. 誰が診断するか てんかんの確定的な臨床診断は専門家によってなされるべきである 解説てんかんの診断は患者にとって 身体的 精神的 社会的 経済的に重要な意味を持つ 専門以外の医師の診断は往々にして誤る確率が高い 特に発作初期は診断が難しい したがって確定診断は専門家によってなされるべきである ここでいうてんかん専門家とは 必ずしも日本てんかん学会認定医 ( 臨床専門医 ) のみを指すとは限らない しかるべきトレーニングを受け 持続的な診療を続けている医師と考えてよい 専門家ではない場合は 疑診があれば専門家に相談するか紹介すべきである 以下には疑診に至る過程をも含めて記述する 3. 診断に必須の事項 第一に情報の収集が必要である 病歴 ( 既往歴 現病歴 家族歴 出産歴 職歴など ) 発作の状況 ( 起始部 左右差 意識状態 持続時間 経過など ) を聴取し ついで検査計画 ( 脳波 ビデオ- 脳波 神経画像など ) を立てる てんかんではない発作性疾患を除外する

解説十分な情報 ( 病歴 ) を収集することおよび発作の現場を目撃することがてんかんの診断に最も有用である 主訴は多くの場合 けいれん発作 ( 非けいれん発作の場合もある ) であるが てんかんでは少なくとも2 回以上の発作がある 1) 上記に述べた専門家であれば てんかんの可能性が高いかどうかの判断は容易であるが 要点を述べる てんかんは 大脳ニューロンの過剰な突発的発射に由来する反復性 (2 回以上 ) の発作を主徴とする慢性の脳疾患である 大脳ニューロンの過剰な発射に由来しないいわゆる状況関連性発作を除外する これは小児と成人で様相をやや異にするので 年齢を考慮する必要がある 成人ではたとえば 脳卒中や一過性脳虚血発作などで急性の脱落症状がてんかん発作に類似する場合もあり また急性反応性発作も合併する場合もある 原疾患を考慮し 慢性の脳疾患としての てんかん に起因する発作かどうかを見極める必要がある てんかんと見誤りやすいものを以下に示す 小児 成人 熱性けいれん 息止め発作軽症下痢に伴う発作睡眠時 ( 入眠時 ) ぴくつき 悪夢かんしゃくチック失神心因発作急性代謝障害 ( 低血糖 テタニー ) 失神心因発作脳卒中 ( 脳梗塞 脳出血 ) 脳虚血発作不整脈発作頭部外傷急性中毒 ( 薬物 アルコール ) 薬物離脱急性代謝障害 ( 低血糖 テタニー ) 急性腎不全 基盤に上記に示した病態を示唆する状況がないかどうかを確認する 特に発作前後の状況を十分に聴取する 小児の場合は 発熱 啼泣 下痢の有無 睡眠 覚醒リズム 空腹時かどうかなどをチェックする 成人では 動作時 ( 急に立ち上がるなど ) 外傷 脳卒中 全身疾患の既往 薬物服用 血圧などをチェックする いずれにせよ患者をとりまくさまざまな状況を総合的に判断する必要がある てんかんでは 発作の起こる状況 ( 誘因 ) 発作の状態が比較的一様であることが多い 4. てんかん発作およびてんかんの分類

治療や予後の推測にも必要であるので てんかん発作およびてんかん ( 症候群 ) の分類診断が 必須である 解説 2) 現時点では てんかん発作の分類は 1981 年 てんかん( 症候群 ) の分類は 1989 年の国際抗 3) てんかん連盟 (ILAE) の分類を用いる 発作分類では 大きくⅠ 部分発作 Ⅱ 全般発作 Ⅲ 分類不能に三分する 部分発作をさらに A. 単純部分発作 ( 意識減損のない ) B. 複雑部分発作 ( 意識減損を伴う ) C. 部分発作から全般性強直 間代発作へ移行する発作に三分する Cはしばしば部分発作の時期が速いため見逃され 全般発作のみ気付かれることも多いので注意を要する 全般発作は A. 欠神 B. ミオクロニー C. 間代 D. 強直 E. 強直 間代 F. 脱力発作に分類される 分類不能は発作の詳細が十分に捉えられない場合にしばしば用いられる てんかん ( 症候群 ) は 局在関連てんかん 全般てんかん 未決定てんかんの3 群に分類される 局在関連てんかんはさらに特発性 症候性 潜因性に分類され 全般性てんかんは さらに特発性 潜因性または症候性 症候性に分類される 特発性全般てんかんは年齢に関連して発症するので 診断においては年齢を考慮する 潜因性とは基盤の病因が推定されるが 確定していないものを指し West 症候群や Lennox-Gastaut 症候群 Doose 症候群などが含まれる 未決定てんかんには 焦点性か全般性か決定できないものと 焦点性 全般性の両者の特徴を同時に有しているものとがある 分類にあたっては 全般てんかんと 局在関連てんかんとの区別が特に必要である この鑑別が 治療選択 原因検索 予後 医療相談などに特に関連するからである 特発性全般てんかんを示唆する徴候は1 小児期 ( 思春期前まで ) の発症 2 断眠やアルコールでの誘発 3 短時間の欠神発作 4 重延にならない強直 - 間代発作 5 早朝の強直 - 間代発作 6 脳波で3Hz 棘徐波あるいは多棘徐波などがある 症候性全般てんかんを示唆する徴候は 1 非常に早い発症 2 頻回の発作 3 発症前からの精神遅滞や神経症状 4 神経症状の進行や退行 5 特異な脳波像 (hypsarrythmia 広汎性緩徐棘徐波など) 6 器質的脳形態異常などがある 局在関連てんかんを示唆する徴候としては 1 病因となるような既往歴 2 発作起始時の局所性運動ないし感覚症状 3 発作中の局所性運動ないし感覚徴候 4 前兆 5 自動症 6 局所性脳形態異常などがある 5. 診断に必要な検査としての脳波 脳波はてんかんの診断に最も有用な検査である 解説

てんかんの疑いがあれば 脳波を記録して てんかん性放電および非突発性の異常所見を検索する しかし正常脳波はてんかんの除外診断にはならない 病歴からてんかん発作あるいはてんかんの可能性が明らかな場合には 診断を支持する役割がある 臨床的にてんかんが考えられる場合 発作および症候群分類の一助となる 脳波にてんかん性異常波が検出されても それが臨床発作症状を説明し得るものでなければならない 発作および症候群が不明の場合 ビデオ脳波同時記録が参考になる 十分な情報収集のもと およその診断 ( てんかんか てんかんでないか 発作分類 症候群分類 ) を考慮して 脳波検査をオーダーすべきである これにより 種々の賦活検査などを的確に指示する 場合によっては 専門家が検査に立ち会う 6. 神経画像検査の必要性 てんかん発作を起こした患者は原則として 神経画像検査をうけるべきである てんかんの臨床診断が疑われる患者は原則として MRI または CT 検査を受けるべきである 両者のいずれをも選択可能な場合 MRI が推奨される しかし 明らかな特発性全般てんかん 特発性局在関連てんかんでは 器質的異常の頻度がきわめて低いので必ずしも必要ではない 脳外科的適応を考慮する場合は必要であるが 一般的には MEG PET SPECT などは 診断に必須ではない 補完的であり より詳細な病態評価等には 有用な場合がある 7. 専門機関への紹介 専門機関へためらわずに紹介をする努力が必要である 4,5) 診断に迷う場合 特に発作が複雑で分類が困難な場合 通常の抗てんかん薬治療を 3 か月以上行っても発作が抑制されない場合は 診断が誤っていることもあり得るので 専門医療機関に紹介すべきである 現時点での専門医療機関としては 日本てんかん学会認定研修施設と考えてよい 8. てんかん診断の手順 てんかん診断の手順を以下に図示する

文献 1)Gastaut H, WHO & ILAE(eds.) Dictionary of Epilepsy (Part 1: Definitions) 1973. ( 和田豊治訳. てんかん事典. 金原出版,1974) 2)Commission of Classification and Terminology of the International League Against Epilepsy. Proposal for revised clinical and electroencephalographic classification of epileptic seizures. Epilepsia 1981; 22: 489-501. 3)Commission of Classification and Terminology of the International League Against Epilepsy. Proposal for revised classification of epilepsies and epileptic syndromes. Epilepsia 1989; 30: 389-399. 4)National Association of Epilepsy Centers. Patient referral to specialty epilepsy care. Epilepsia 1990; 31, supp. 1: S10-11. 5)National Association of Epilepsy Centers.Guidelines for essential services, personnel, and facilities in specialized epilepsy centers in the United States. Epilepsia 2001; 42: 804-814.