(10) 不適切な環境下での指導の強制 必要もなく, 深夜の指導や他人の目が行き届かない状況で個人指導を行う, 徹夜や休日の実験を強制するなど (11) その他の権力の濫用 ア. 不当な規則の強制イ. 親密な関係の強要ウ. 不正 不法行為の強要空バイト 空謝金などの不正行為を強要するなどエ. その他

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1 京都ノートルダム女子大学 平成 22 年度 キャンパス ハラスメント防止 対策研修会 キャンパス ハラスメントを起こさないために 弁護士土井裕明 第 1 想定される事例 1 アカデミック ハラスメント (1) 学習 研究活動の直接的 間接的妨害 文献 図書や機器類を使わせないなど (2) 卒業 進級の妨害 正当な理由なく, 進級 卒業 修了を認めない, 単位を与えない, 卒業 修了の判定基準を恣意的に変更して留年させるなど (3) 選択権の侵害 就職 進学の妨害, 望まない異動の強要, 結婚したら研究者としてやってはいけない などと言って結婚と学問の二者択一を迫るなど (4) 指導義務の放棄, 指導上の差別 研究指導や教育を怠ったり, 指導下にある学生 部下を差別的に扱ったりする 嫌いなタイプの学生や部下に対して, 指導を拒否したり侮蔑的な言葉を投げつけたりするなど (5) 不当な経済的負担の強制 本来研究費から支出すべきものを, 学生 部下に負担させるなど (6) 研究成果の奪取 研究論文の著者を決める国際的なルールを破る, アイデアの盗用, 実験を行う アイデアを出すなど研究を主体的に行って, その研究に最も大きな貢献をした者を第一著者にしない, 学生の未公刊論文の内容を指導教授が無断で引用するなど (7) 精神的虐待 (8) 暴力 本人がその場に居るか否かにかかわらず, 学生や部下を傷つけるネガティブな言動を行う ( 発奮させる手段としても不適切 ), 学生や部下が持ってきた論文原稿をゴミ箱につっこむ, 破り捨てる, 受け取らない, きちんと読まない, 直接的なコミュニケーションを拒否するなど (9) 中傷 誹謗 虚偽のうわさをする, 悪口を言う, 怪文書を配るなど - 1 -

2 (10) 不適切な環境下での指導の強制 必要もなく, 深夜の指導や他人の目が行き届かない状況で個人指導を行う, 徹夜や休日の実験を強制するなど (11) その他の権力の濫用 ア. 不当な規則の強制イ. 親密な関係の強要ウ. 不正 不法行為の強要空バイト 空謝金などの不正行為を強要するなどエ. その他教授が行う学会発表のデータ作りを, 共著者でない学生に徹夜で仕上げることを強要するなど (12) プライバシーの侵害 家族関係 友人 恋人のことなどについて根掘り葉掘り聞く等, プライベートなことについて, 必要以上に知ろうとしたり, 介入しようとしたりするなど (13) 他大学の学生, 留学生, 聴講生, ゲストなどへの排斥行為 (14) その他 2 パワー ハラスメント 正当な理由なく, 属性や身分によって差別的な待遇をするなど 学生一般を軽視する, 学生を侮蔑する など 多数の者がいるところで罵倒すること 業務の指導の範疇を超えて, 相手の人格を傷つけ, 人権を侵害するような言動をとること 仲間はずれにすること 悪意から, 意図的に昇進 昇級を妨害すること 本人が嫌がる部署に意図的に配置転換すること 相手の存在を認めないような態度をとること 相手の評判を落とすようなことを言いふらすこと 3 セクシュアル ハラスメント (1) 対価型 (2) 環境型 個人的な性的要求の服従または拒否を, 教育 研究上の指導や評価あるいは学業成績など, あるいはまた, 人事及び勤務条件の決定や業務指揮に反映させること 教育 研究上の指導や評価あるいは利益 不利益の与奪, 人事権及び業務指揮権の行使等を条件とした性的働きかけをすること 相手への性的な関心の表現を業務遂行上に絡めて表現すること 執拗にもしくは強制的に, 性的行為に誘ったり, 交際の働きかけをしたりすること ( ストーカー行為を含む ) - 2 -

3 第 2 強引に接触したり, 性的な行為を行ったりすること, あるいは行おうとすること 性的魅力をアピールするような服装やふるまいを要求すること 正常な業務遂行を, 性にかかわる話題 行動などで妨害すること たとえば, 相手の性的魅力や自分の抱く性的関心にかかわる話題などで相手の仕事を妨害すること 性的な意図を持って, 相手の身体へ一方的に接近したり接触したりすること 話題や行動により, 性的な面で不快感を与えるような状況をつくること 女性あるいは男性という性を一般化して, それに対する軽蔑的な発言や話題を持ち出すこと 人格を傷つけかねない性的評価をしたり, 性的風評を流したりすること 相手の性的指向を取り上げて, 上記のような発言や行動をすること 用語の問題, 定義, 定義を論ずる意味 1 セクシャル ハラスメント 職員が他の職員, 学生等及び関係者を不快にさせる性的な言動並びに学生等及び関係者が職員を不快にさせる性的な言動 ( 文部科学省におけるセクシュアル ハラスメントの防止等に関する規定文部科学省訓令第 13 号 ) 2 パワー ハラスメント 職場において, 地位や人間関係で弱い立場の相手に対して, 繰り返し精神的または身体的苦痛を与えることにより, 結果として働く人たちの権利を侵害し, 職場環境を悪化させる行為 ( 職場のハラスメント研究所 ) 3 モラル ハラスメント 言葉や態度で繰り返し相手を攻撃し, 人格の尊厳を傷つける精神的暴力 ( マリー = フランス イルゴイエンヌ ) 4 キャンパス ハラスメント / アカデミック ハラスメント 教員, 職員または学生が, 他の教員, 職員及び学生等を不快にさせる不適切な発言, 行為, または不利益な取扱をすることによって相手の人権を侵害し, 教育研究 学習及び労働環境を悪化させること ( 京都ノートルダム女子大学キャンパス ハラスメントの防止 対策に関する規定 ) 5 ドクター ハラスメント 6 定義を論ずる意味 医師による, 患者を不快にさせる不適切な言動 ( 土屋繁裕 ) - 3 -

4 第 3 ある行為がいずれかのハラスメントにあたるか否かを論ずるのではなく, 相手方に不快感, 苦痛を与えていないか 相手方の人格の尊厳を傷つけたり, 人権を侵害していないか 職場環境や教育研究環境を悪化させていないか という視点で評価する 特に, 指導者と学生との間, 上司と部下との間には, もともと力の差があるのだから, 不用意な言動で, 下位にある者に大きなダメージを与えるおそれがあることを自覚しなければならない 精神科医の指摘 1 モラル ハラスメントの加害者になりやすいタイプ 自己愛性人格障がいまたはその傾向がある人物が, 加害者になりやすいとの指摘がある アメリカ精神医学会 DSM-IV の基準 空想または行動における誇大性, 賞賛されたいという欲求, 共感の欠如の広範な様式で, 成人期早期に始まり, 種々の状況で明らかになる 以下のうち5つ ( またはそれ以上 ) で示される 自己の重要性に関する誇大な感覚( 例 : 業績や才能を誇張する, 十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待する ) 限りない成功, 権力, 才気, 美しさ, あるいは理想的な愛の空想にとらわれている 自分が特別であり, 独特であり, 他の特別なまたは地位の高い人達に ( または施設で ) しか理解されない, または関係があるべきだ, と信じている 過剰な賞賛を求める 特権意識つまり, 特別有利な取り計らい, または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する 対人関係で相手を不当に利用する, つまり, 自分自身の目的を達成するために他人を利用する 共感の欠如: 他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない, またはそれに気づこうとしない しばしば他人に嫉妬する, または他人が自分に嫉妬していると思い込む 尊大で傲慢な行動または態度 2 被害者の傾向 3 次のような言動に注意 自分に原因があるのではないかと考えてしまう力関係が固定化されてしまう (1) 直接的なコミュニケーションを拒否する 返事をしない, 言いかけた話を途中でやめる, 思わせぶりな態 - 4 -

5 第 4 第 5 度など どこが悪いか自分で考えなさい という突き放し方 (2) 相手を軽蔑したり嘲弄したりする, 相手を認めない態度をとる 相手の些細な失敗を公然と嘲笑する こんなことも知らない あれでも研究者か 相手の人格を否定するような言動 そもそも君は研究に向いていない など 4 日本では, 人格障がい者ばかりがハラスメントを起こしているのではなく, ストレスの強い環境下で, 広く発生するとの指摘もある 大学という環境の特性 強い上下関係が存在する当事者が当該環境から容易に撤退できない社会の範囲が狭い外部の批判にさらされにくい 紛争の予防のために - いくつかのヒント 参考文献 1 若い教員が, 何時までも先輩学生的な気分で学生とつきあっているとトラブルになる ( 自分はフレンドリーに接しているつもりでも, 学生は, 教員の言動を重く受けとめていることがある ) 2 怒鳴って育てる は通用しない ( 強い叱責は, 相手を萎縮させ, 発言できなくさせる いつも叱っている いつも叱られている という関係を固定化させる ) 3 生活スタイルが人それぞれであることを自覚する ( 学生に深夜まで残っての研究を強いる, 逆に早朝から大学に出てくることを求めるなど ) 4 指導についての説明を丁寧に行う ( 論文作成のスケジュールなど, 意思疎通を図っておく ) 5 私的関わりの自制 ( 夜の会食, 自宅への訪問, 私的内容の電子メールなどが, 紛争の端緒となることが多い ) 6 飲酒の機会が紛争の端緒となることも多い モラル ハラスメント Marie-France Hirigoyen 1998 ( 訳書は高野優 1999 紀伊國屋書店 ) 大学における学生相談 ハラスメント相談 キャリア支援 東北大学高等教育 開発推進センター編 2008 東北大学出版会 金子雅臣 2009 パワーハラスメント 岩波ブックレット 知らずに他人を傷つける人たち 香山リカ 2007 ベスト新書 - 5 -