本文.indd

Size: px

Start display at page:

Download "本文.indd"

たいちこいたばし
5 years ago
Views:

1 調査研究ジャーナール 2013 Vol.2 No.2 原著某事業所における糖尿病に着目したスクリーニング方法の検討林永子 1) 伊東裕子 1) 末次雅彦 1) 柳堀朗子 1) 角南祐子 1) 鈴木公典 1) 藤澤武彦 Assessment of the Screening Methods of Diabetes in the Facility Eiko Hayashi 1),Yuko Ito 1),Masahiko Suetsugu 1),RyokoYanagibori 1),Yuko Sunami 1), Kiminori Suzuki 1),Takehiko Fujisawa 1) 1) 要旨今後の糖尿病関連の健診方法を選択する際の参考とするため平成 19 年度から 23 年度に健康診断を受診した 7,911 人の結果を解析した 75g 経口ブドウ糖負荷試験 (OGTT) を実施した 7,834 人について日本糖尿病学会診断基準に基づき糖尿病群糖尿病疑い群正常群境界型正常群正常型に振り分けその内訳を分類し傾向を分析した糖尿病群糖尿病疑い群ともに空腹時血糖よりも OGTT 2 時間血糖で該当する割合が多く尿検査でも空腹時尿糖より OGTT 2 時間尿糖の感度の方が高かったまた空腹時血糖のみで糖尿病スクリーニングするより HbA1c を追加することでスクリーニングされる割合が 20 ポイント増加し糖尿病予備群と考えられる正常群境界型該当者の見落とし率が減少した糖尿病および糖尿病予備軍を効果的効率的にスクリーニングするには空腹時と食後では食後の方が望ましくまた空腹時の健診には血糖だけではなく HbA1c の追加が適切と考えられたキーワード : 糖尿病 HbA1c 75g 経口ブドウ糖負荷試験 (OGTT) 空腹時血糖 OGTT 2 時間血糖はじめに平成 20 年の患者調査 1) によると現在医療機関を受診している総患者数は第一位の高血圧性疾患 798 万人に次いで糖尿病が 237 万人で第二位となっている厚生労働省は平成 9 年から糖尿病実態調査 1) を実施しているが平成 19 年までの 10 年間で糖尿病が強く疑われる人は 690 万人から 890 万人へ糖尿病の可能性を否定できない人は 680 万人から 1,320 万人へ糖尿病が強く疑われる人と糖尿病を否定できない人の合計は 1,370 万人から 2,210 万人へ増加すると推計している糖尿病は早期に発見し適切な治療を速やかに開始することが病気の進行を防ぎ重篤な合併症を予防する上でも重要である 2) また糖尿病は生活習慣の改善によりある程度予防可能であることもわ連絡先 : 林永子千葉市美浜区新港 ) 公益財団法人ちば県民保健予防財団 ( e-hayashi@kenko-chiba.or.jp) (Received 2 Jul 2013 / Accepted 22 Aug 2013) かってきたことから近年発症そのものを予防する考え方が重視されるようになってきている 3) 今後糖尿病のさらなる増加を食い止めるためには健康診断で糖尿病予備軍を早期に発見し保健指導につなげることが重要である厚生労働省の推進する特定健診では糖尿病のスクリーニングとして空腹時血糖値が用いられているが 4) 既存研究 5,6) ではアジア人種はヨーロッパ人種と比較して空腹時血糖のみで糖尿病と診断される割合よりも 75 g 経口ブドウ糖負荷試験 (OGTT)2 時間血糖のみでスクリーニングされる割合が多いことが報告されているまた糖尿病と診断された場合でも空腹時血糖のみ高値群よりも OGTT 2 時間血糖のみ高値群のほうが心血管系疾患による死亡の累積危険率が高いことも報告されている 5 ~ 7) さらに近年食後高血糖は注目されており国際糖尿病連合 (IDF) が 2007 年に定めた食後高血糖の治療ガイドラインでは食後 2 時間の血糖が 140 mg /dl を越えないようにすると謳われている 8) そこで本研究では OGTT 2 時間血糖値を食後血糖値とみなし食後血糖の測定を含む糖尿病 86

林ほか : 糖尿病に着目したスクリーニング方法の検討予備群 ( 正常群境界型 ) 糖尿病疑い群および糖尿病群のスクリーニング方法について考察したさらに現在特定健診で実施されている空腹時血糖のみで糖尿病スクリーニングした場合と空腹時血糖に HbA1c を追加した場合を比較し空腹時のスクリーニング方法についても考察した対象と方法 1.

2 林ほか : 糖尿病に着目したスクリーニング方法の検討予備群 ( 正常群境界型 ) 糖尿病疑い群および糖尿病群のスクリーニング方法について考察したさらに現在特定健診で実施されている空腹時血糖のみで糖尿病スクリーニングした場合と空腹時血糖に HbA1c を追加した場合を比較し空腹時のスクリーニング方法についても考察した対象と方法 1. 対象某事業所では 5 歳刻みの節目健診時空腹時に尿糖陰性の者には OGTT と HbA1c 空腹時に尿糖陽性の者過去 2 回の健診で空腹時血糖が 160mg/dl 以上の者主治医より OGTT を実施しないよう指示がある者には空腹時血糖と HbA1c 検査を実施している平成 19 年度から 23 年度にこの節目健診を実施した 30 歳から 59 歳までの受診者のうち糖尿病治療中の者を除いた 7,911 人 ( 男性 5,233 人女性 2,678 人 ) を対象とした受診者の年齢構成は表 1に示した表 1 受診者の年齢構成男女合計 ( 人 )(%) 30 ~ 34 歳 , ~ 39 歳 , ~ 44 歳 , ~ 49 歳 , ~ 54 歳 , ~ 59 歳 1, , 計 5,233 2,678 7, 方法空腹時に血糖と HbA1c 測定のための採血後トレーラン G 液 75g(225ml) を服用させ 60 分後と 120 分後に採尿と採血を実施し尿糖と血糖を測定した結果の分析は某事業所の承認の下健診結果が入力されているデータベースより当該者のデータを抽出し氏名等を削除して連結不可能匿名化したデータを用いて行った糖尿病の判定は日本糖尿病学会糖尿病診断基準 (2010) 9) に基づき 1 空腹時血糖 126 mg /dl 2 OGTT 2 時間血糖 200mg/dl 3 HbA1c 6.5% のうち 1 または 2 のいずれかと 3 が該当するものを糖尿病群 1 または 2 のいずれかもしくは 3 のみが該当するものを糖尿病疑い群 1~3 すべて該当しないものを正常群とした正常群はさらに空腹時血糖 110mg/dl 以上 126mg/dl 未満または OGTT 2 時間血糖 140mg/dl 以上 200mg/dl 未満に該当するものを境界型とし空腹時血糖 110mg/dl 未満かつ OGTT 2 時間血糖 140mg/ dl 未満に該当するものを正常型としたなお HbA1c は国際標準値 (NGSP) 値を用いた ( 図 1) 結果の検討は糖尿病診断結果 ( 糖尿病群糖尿病疑い群正常群 ) の記述統計に加え尿糖については空腹時と OGTT 2 時間後のそれぞれの感度 ( 糖尿病群における尿糖陽性者の割合 ) と特異度 ( 正常群における尿糖陰性者の割合 ) を比較検討したまた現状の空腹時健診を想定して空腹時血糖のみでスクリーニングされる糖尿病群糖尿病疑い群の割合と空腹時血糖に HbA1c を追加した場合にスクリーニングされる糖尿病群糖尿病疑い群の割合を比較検討したさらに糖尿病治療ガイド 10) によ図 1 初回検査における糖尿病診断フローチャート 87

3 調査研究ジャーナール 2013 Vol.2 No.2 れば血糖コントロール目標のうち血糖正常化を目指す際の目標値は HbA1c6.0% 未満としており空腹時血糖は正常だが OGTT 2 時間血糖値高値の糖尿病予備群 ( 正常群境界型 ) について HbA1c6.0% をカットオフ値としてスクリーニングされる割合を比較検討した 3. 倫理的配慮本研究実施に際しては当財団の疫学臨床倫理審査委員会の承認を得た結果 1.OGTT を実施した 7,834 人についての検討 1) 糖尿病群糖尿病疑い群正常群の内訳糖尿病群糖尿病疑い群正常群境界型正常群正常型の該当状況は表 2 に示すように糖尿病群は 1.1% 糖尿病疑い群は 2.5% 正常群境界型は 13.5% 正常群正常型は 82.9% であった表 2 糖尿病群糖尿病疑い群正常群の内訳人数 ( 人 ) (%) 糖尿病群糖尿病疑い群正常群 ( 境界型 ) 1, 正常群 ( 正常型 ) 6, 計 7,834 2) 年齢階級別糖尿病群糖尿病疑い群正常群の割合年齢階級別糖尿病群糖尿病疑い群正常群境界型正常群正常型の割合を表 3 に示した年齢が上がるにつれて糖尿病群糖尿病疑い群正常群境界型は増加していた表 3 年齢階級別糖尿病群糖尿病疑い群正常群 ( 境界型 ) 正常群( 正常型 ) の割合年齢階級 ( 歳 ) 人数 ( 人 ) (%) 人数 ( 人 ) (%) 人数 ( 人 ) (%) 人数 ( 人 ) (%) 人数 ( 人 ) (%) 人数 ( 人 ) (%) 糖尿病群糖尿病疑い群正常群 ( 境界型 ) 正常群 ( 正常型 ) , , , , 合計 1,008 1,196 1,290 1,185 1,306 1,849 注 : 割合の和は 100% にならないことがある 3) 糖尿病群糖尿病疑い群の内訳糖尿病群糖尿病疑い群における空腹時血糖 OGTT 2 時間血糖 HbA1c について判定に用いる各基準への該当状況を表 4 表 5 に示した糖尿病群糖尿病疑い群ともに空腹時血糖よりも OGTT 2 時間血糖でスクリーニングされる割合がそれぞれ 18 ポイントおよび 36 ポイント多く糖尿病疑い群においては OGTT 2 表 4 糖尿病群の内訳 (HbA1c 6.5% 以上群 ) 該当項目人数 ( 人 ) (%) 空腹時血糖 126 mg /dl 以上のみ 2 時間血糖 200 mg /dl 以上のみ空腹時血糖 126 mg /dl 以上かつ 2 時間血糖 200 mg / dl 以上計時間血糖のみで糖尿病疑い群に該当する例が半数以上を占めていた 4) 正常群境界型の内訳正常群境界型における判定に用いる各基準への該当状況を表 6 に示した OGTT 2 時間血糖のみで該当する割合が一番多く 7 割を占める結果となった表 5 糖尿病疑い群の内訳該当項目人数 ( 人 ) (%) HbA1c 6.5% 以上のみ空腹時血糖 126 mg /dl 以上のみ 2 時間血糖 200 mg /dl 以上のみ空腹時血糖 126 mg /dl 以上かつ 2 時間血糖 200 mg /dl 以上計

4 林ほか : 糖尿病に着目したスクリーニング方法の検討表 6 正常群 ( 境界型 ) の内訳該当項目人数 ( 人 ) (%) 空腹時血糖 110mg/dl 以上 126mg/dl 未満のみ 2 時間血糖 140mg/dl 以上 200mg/dl 未満のみ空腹時血糖 110mg/dl 以上 126mg/dl 未満かつ 2 時間血糖 140mg/dl 以上 200mg/dl 未満計 1, 尿糖の感度と特異度 1) 空腹時尿糖の感度と特異度 OGTT を実施し糖尿病群に該当した 89 人と OGTT を実施せず空腹時血糖と HbA1c のみで糖尿病群に該当した 18 人合計 107 人と正常群 7,551 人について空腹時尿糖の感度と特異度を検討し表 7 に示した感度 ( 糖尿病群における空腹時尿糖陽性者の割合 ) は 11.2% 特異度 ( 正常群における空腹時尿糖陰性者の割合 ) は 99.9% である糖尿病群のうち 88.8% は空腹時尿糖陰性であり空腹時尿糖のみの検査では見落とされることになる表 7 空腹時尿糖の感度と特異度糖尿病群 ( 人 ) 正常群 ( 人 ) 陽性 12 3 陰性 95 7,548 計 107 7,551 感度 12/ = 11.2(%) 特異度 7,548/7, = 99.9(%) 2)OGTT 2 時間尿糖の感度と特異度 OGTT を実施し糖尿病群に該当した 89 人のうち OGTT 2 時間尿を採取できなかった 1 人を除いた 88 人と正常群に該当した 7,551 人のうち OGTT 2 時間尿を採取できなかった 112 人を除いた 7,439 人について 2 時間尿糖の感度と特異度を検討し表 8 に示した 2 時間尿糖の感度 ( 糖尿病群における 2 時間尿糖陽性者の割合 ) は 96.5% だった特異度 ( 正常群における 2 時間尿糖陰性者の割合 ) は表 8 OGTT2 時間尿糖の感度と特異度糖尿病群 ( 人 ) 正常群 ( 人 ) 陽性 85 1,039 陰性 3 6,400 計 88 7,439 感度 85/ = 96.5(%) 特異度 6,400/7, = 86.0(%) 86.0% で空腹時尿糖より低い値だった言い換えれば偽陽性が 14% であった 3. 空腹時血糖に HbA1c を追加した場合のスクリーニング効果の検討 1) 糖尿病群糖尿病疑い群の空腹時血糖と H ba1c 判定糖尿病群または糖尿病疑い群に該当した者について空腹時血糖 126mg/dl 以上 HbA1c6.5 % 以上への該当状況を表 9 に示した空腹時血糖 126mg/dl 以上の割合は 42% であったが HbA1c6.5% 以上を追加するとさらに該当者は 20 ポイント増加し空腹時血糖と HbA1c との組合せにより糖尿病または糖尿病疑い群をスクリーニングできる割合は 62% であった表 9 糖尿病群糖尿病疑い群の空腹時血糖と HbA1c 判定 HbA1c(%) 6.5 以上 (%)6.5 未満 (%) 合計 (%) 空腹時血糖 (mg/dl) 126 以上未満計糖尿病群糖尿病疑い群の合計 (n=283) を 100% とする 2) 正常群境界型正常群正常型と HbA1c 判定糖尿病治療ガイド 10) によれば血糖コントロール目標のうち血糖正常化を目指す際の目標値は HbA1c6.0% 未満としており空腹時血糖は正常だが OGTT 2 時間血糖値高値の糖尿病予備群 ( 正常群境界型 ) について OGTT を実施しない場合を想定し HbA1c6.0% をカットオフ値としてスクリーニングされる割合を比較検討した正常群 7,551 人のうち空腹時血糖 110mg/dl 未満の者 7,233 人について HbA1c 6.0% 未満と 6.0% 以上の該当状況と境界型 (OGTT 2 89

5 調査研究ジャーナール 2013 Vol.2 No.2 表 10 正常群境界型正常群正常型と HbA1c 判定 HbA1c < 6.0( 人 ) HbA1c 6.0( 人 ) 合計正常型 6, ,492 境界型計 6, ,233 時間値 140mg/dl 以上 200mg/dl 未満 ) 正常型 (OGTT 2 時間値 140 mg /dl 未満 ) の判定の関連を検討した表 10 に示すように HbA1c6.0% をカットオフ値とした場合境界型における感度は 12.8% ( 境界型 741 人に占める HbA1c6.0% 95 人の割合 ) に過ぎず HbA1c6.0% が OGTT の代用になるとは言い難いまた正しく境界型と判断されるのは 32.0%(HbA1c6.0% 群 297 人に占める境界型 95 人の割合 ) に過ぎず偽陽性 ( 正常型なのに境界型としてしまう ) が多いしかし HbA1c < 6.0 % 6,936 人に占める境界型 646 人の割合は 9.3% であり境界型を正常型としてしまう見落とし率は少なかった統計的にみてもカイ2 乗検定した結果は HbA1c 6.0% に占める境界型の割合 (32.0%) が HbA1c<6.0% に占める境界型の割合 (9.3%) より p<0.001 で有意に高かった HbA1c < 6.0% に含まれる境界型は偽陰性となること HbA1c 6.0% に含まれる正常型は偽陽性となることから HbA1c6.0% というカットオフ値についても詳細な検討も必要と考えられるが HbA1c 6.0% に該当した場合 HbA1c<6.0% の場合に比べて境界型であるオッズ比が 4.58(95% 信頼区間 3.54 ~ 5.92) つまり境界型を拾い上げる確率が 4.58 倍高いことが明らかになったしたがって HbA1c6.0% というカットオフ値は正常型と境界型の判別の上では一定の精度があると考えられる考察本研究の目的の1つである食後血糖の測定も含む糖尿病糖尿病予備群のスクリーニング方法のあり方については空腹時血糖より OGTT 2 時間血糖で判定した方が糖尿病群および糖尿病疑い群がそれぞれ 18 ポイントおよび 36 ポイント多く拾い上げられたことから OGTT 2 時間値を用いることの方が効率的にスクリーニングできると考えられたまた DECODA Study 5) DECODE Study 6) および舟形研究 11) では食後高血糖を示唆する OGTT 2 時間血糖が空腹時血糖に関わらず冠動脈疾患などの死亡リスクと相関していることが示されている食後高血糖を呈する糖尿病を早期に発見するためにもスクリーニングとして OGTT を導入することが望ましいさらに糖尿病予備軍の段階でも大血管障害が生じ 7) 食後高血糖が続くことで早期動脈硬化の指標である頚動脈内膜中膜複合体厚 (IMT: intima-media thickness) が既に糖尿病と同程度に進行している 12) との報告があるしたがって糖尿病予備軍の段階から保健指導を行うことにより糖尿病発症を予防することが動脈硬化性疾患予防の観点からも重要である今回の検討における正常群境界型は空腹時血糖またはインスリン分泌機能低下やインスリン感受性低下による食後高血糖が疑われる OGTT 2 時間血糖が境界高値の群であり糖尿病予備軍と考えられる正常群境界型の発見においても OGTT 2 時間血糖で境界型に該当した者が空腹時血糖で該当した者の 5 倍近い数であり OGTT 2 時間血糖で判定した方が食後高血糖を疑わせる糖尿病予備軍を効率的に発見でき多くの者を保健指導につなげることができると考えられる尿糖についても空腹時尿糖は感度が 11% と低かったが OGTT 2 時間尿糖の感度は 96.5% と高率であった斉藤も空腹時尿糖空腹時血糖に比し随時尿糖の方が糖尿病見落とし率は低いと報告しており 13) OGTT 2 時間尿糖であればスクリーニングに用いることは可能と考えられた一方健診で受診者全員に OGTT を実施することはコスト時間受診者の身体的負担の多方面にわたり現実的に困難である従って OGTT 2 時間血糖尿糖の代わりに食後血糖食後尿糖を用いるのが望ましいと考えるとくに健診項目に血液検査の入っていない受診者 (34 歳以下など ) は尿糖のみで糖尿病スクリーニングをするため食後の健診が適切と考えられる今回の検討結果を受け血液検査を伴う健診でも食後の実施を推進したいが現行の特定健診では空腹時が原則の腹囲測定基準値が空腹時を前提としている中性脂肪が健診項目にありすぐに食後健診に移行することは難しいまた将来的に食後健診を実施するにあたっては受診者の食事の内容量時間に対して一定の基準を設け健診前に受診者へ説明し協力を得ることが必要であり今後の課題である現状では空腹時前提の健診において糖尿病群糖尿病疑い群を効率的にスクリーニングす 90

6 林ほか : 糖尿病に着目したスクリーニング方法の検討る方法が求められることになるが本研究において糖尿病群糖尿病疑い群の診断率が空腹時血糖単独に比して HbA1c を追加したことにより 20 ポイント増加していたこと田邉らの人間ドック受診者を対象とした研究でも空腹時血糖単独より HbA1c を同時実施することにより耐糖能異常の発見率が 19.1% から 70% 以上に上昇したと報告している 14) ことを考えると HbA1c の追加が望ましいと考えられる HbA1c は糖尿病治療ガイド 10) において血糖コントロール指標として使用されており日々の変動が血糖値より少なく健診前の食事条件に左右されず空腹時血糖だけでなく食後血糖の状況も反映されている指標であるため糖尿病管理においては重要度の高い指標であるしたがって正常群境界型を発見し糖尿病の発症を予防するという観点においても HbA1c を同時に測定し糖尿病治療ガイド 10) により血糖コントロール目標のうち血糖正常化を目指す際の目標値は HbA1c6.0% 未満とされていることから HbA1c6.0% 以上に該当した場合に正常群境界型と定義すれば正常群の境界型を的確に判別することは難しいが正常群境界型である可能性 ( リスク ) が高い糖尿病予備軍を抽出するという点においては有用であると考えられる以上のことから空腹時前提の健診には糖尿病スクリーニングの検査項目として HbA1c を追加することが望ましいと考えるおわりに糖尿病および糖尿病予備軍を効果的効率的にスクリーニングするには空腹時と食後では血糖および尿糖検査ともに食後の方が望ましくまた空腹時で健診を実施する場合には血糖だけではなく HbA1c の追加が適切と考えられる引用文献 1) 国民衛生の動向 2012/2013. 一般財団法人厚生労働統計協会編 ;2014: ) UK Prospective Diabetes Study (UKPDS)Group. Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patient with type 2 diabetes(ukpds 33).Lancet 1998 ;352: ) 葛谷英嗣, 板根直樹.J-DOIT 1. 糖尿病診療日本医師会雑誌特別号 (2)2010;139: ) 厚生労働省保険局. 特定健康審査特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き ) DECODA Study Group. Hyperglycaemia and mortality from all cause and from cardiovascular disease in five populations of Asian origin. Diabetologica 2004;47: ) The DECODE study group on behalf of the European Diabetes Epidemiology Group. Glucose tolerance and mortality:comparison of WHO and American Diabetes Association diagnostic criteria.lancet 1999;354: ) Blake DR,Meigs JB,Muller DC, et al.impaired glucose tolerance,but not impaired fasting glucose,is associated with increased levels of coronary heart disease risk factors:results from the Baltimore Longitudinal Study on Aging.Diabetes 2004;53: )International Diabetes Federation. 食後血糖値の管理に関するガイドライン. Final_ pdf (2013/06/05 アクセス ) 9) 清野裕, 南條輝志男, 田興尚子, 他. 糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告 ( 国際標準化対応版 ). 糖尿病 2012;55: ) 日本糖尿病学会編糖尿病治療ガイド (HbA1c 国際標準化対応 ). 文光堂 ) Tominaga M,Eguchi H,Manaka H,et al. Impaired glucose tolerance is a risk factor for cardiovascular disease,but not impaired fasting glucose.thefunagata Diabetes Study.Diabetes Care 1999;22: ) Yamazaki Y,Kawamori R,Matsushima H,et al.asymptomatic hyperglycemia is associated with increased intimal plus medial thickness of caroted artery.diabetologica 1995;38: ) 斉藤君枝. 糖尿病スクリーニングにおける食後尿糖検査の有用性. 新潟医学会雑誌 2006;120: ) 田邉真帆, 荒瀬康司, 辻裕之, 他. 空腹時血糖および HbA1c からみた耐糖能異常の診断. 人間ドック 2011;26:

（検８）05資料４　門脇構成員　随時血糖値の判定基準について

（検８）05資料４　門脇構成員　随時血糖値の判定基準について平成 28 年 11 月 8 日第 8 回特定健康診査特定保健指導の在り方に関する検討会資料 4 保健指導対象者の選定と階層化における随時血糖値の判定基準について東京大学医学部附属病院糖尿病代謝内科門脇孝 1 現行の保健指導対象者の選定と階層化における血糖関連検査の判定基準 2 血糖関連検査の判定基準に関する背景 (1) 保健指導判定値 : 空腹時血糖 100mg/dL, HbA1c 5.6%