はじめに

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ふじよしおいもり
5 years ago
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1 < 特集 : 知っておきたい小児思春期の気分障害 > 小児思春期の気分障害に関する近年の動向と問題点傳田健三北海道大学大学院保健科学研究院生活機能学分野 [ 札幌市北区北 12 条西 5 丁目 ] Mood disorders in Children and Adolescents: modern views and recent problems Kenzo Denda Department of Functioning and Disability, Faculty of Health Science, Hokkaido University North 12, West 5, Sapporo , JAPAN Key Words: child, adolescent, depressive disorders, bipolar disorders - 1 -

2 Abstract The clinical features, modern views and recent problems of depressive disorders and bipolar disorders in childhood and adolescence were discussed. The assessment, symptomatology, epidemiology, outcome and treatment of depressive disorders in childhood and adolescence were reviewed. Over the last 20 years, the research of childhood depression has developed dramatically. An up-to-date review of pharmacothrapy and psychotherapy were provided. There has been a recent marked upsurge in interest in pediatric bipolar disorder (PBD). US researchers have suggested that children with irritability, hyperactivity and distractibility are exhibiting a broad phenotype of PBD. PBD is markedly impairing and treatment-resistant, and is increasing the demand for relevant information and research. The available data concerning the clinical presentation of PBD, including its phenomenology and course were reviewed, and the guidelines for the assessment of children who may have PBD were provided

3 Ⅰ. はじめに DSM-III の発刊以降大人と同じ抑うつ症状をもつ子どもの存在が注目されるようになり子どものうつ病がこれまで認識されているよりもはるかに多く存在することが明らかになってきたそして子どものうつ病に関する臨床的および生物学的研究が発展していったのである 6,7) また子どもの双極性障害に関してはここ数年の間に急速に関心が高まっているその臨床像は大人の躁うつ病像とは異なり 1うつ症状と躁症状の極めて急速な交代 2うつ病相と躁病相が明瞭に区別しにくくうつ躁双方の症状が混在する多彩な病態 ( 気分変動情緒不安定易刺激性攻撃性衝動性 ) 3 他の精神障害とくに ADHD, 反抗挑戦性障害行為障害などを併存しやすいという特徴を持つという 9,12) 本稿では児童思春期のうつ病の診断症候学疫学臨床的特徴転帰治療などに関する最新のレビューを行うとともに児童思春期の双極性障害について臨床的特徴および治療に関する最新の情報を提供しその問題点について検討したい Ⅱ. 児童青年期の気分障害に関するレビュー A. うつ病性障害 1. 診断および症候学 DSM-IV-TR 1) の大うつ病性障害は主症状として 1 抑うつ気分と 2 興味喜びの喪失を副症状として 3 食欲障害体重障害 4 睡眠障害 5 精神運動性焦燥または制止 6 易疲労性気力減退 7 無価値感罪責感 8 思考力集中力の減退 9 自殺念慮自殺企図をあげこれらの症状のうち5つ以上 ( 少なくとも1つは主症状 ) が2 週間以上存在し病前の機能からの変化を起こしている状態と定義されているこれが児童青年期に適応される場合 1の抑うつ気分はいらいらした気分であってもよく 3の体重減少は期待される体重増加がみられないことでもよいとされている年齢特有の症状の研究として DSM-IV-TR では大うつ病エピソードの中心をなす症状は基本的には大人と同じであるとしながら身体的愁訴易刺激性社会的引きこもりなどの症状は児童期に特徴的にみられ精神運動制止過眠妄想は児童期には少ないと記載されている 2. 疫学 Harrington 16) は気分障害の総説においてこれまでの研究をまとめるとうつ病性障害の一般人口における有病率は児童期では 0.5~2.5% 青年期では 2.0~8.0% の範囲にある - 3 -

4 と述べているまた Costello ら 5) は最近の構造化面接を用いた研究のメタ解析を行いその有病率は児童期では 2.8% 青年期では 5.6% と報告している Hasin ら 17) の最新の疫学調査では 15 歳における有病率は成人のそれとほぼ同じという結果となっている児童期ではうつ病性障害の性差はほとんどないが青年期までには大人と同じような女性に多い現象がみられるようになる 3. 合併障害 comorbidity 児童青年期のうつ病性障害の多くの症例にはさまざまな合併障害 comorbidity が認められるといわれている Angold & Costello 2) によると一般人口におけるうつ病性障害の comorbidity は高率に存在し行為障害および反抗挑戦性障害は 21~83% 不安障害は 30~75% 注意欠陥多動性障害(AD/HD) は 0~57.1% に合併していた臨床研究でも同様の結果となっており行為障害が 6~40% 不安障害が 8~86% AD/HD は 13~24% に合併していた DSM-IV-TR では児童期のうつ病性障害には破壊的行動障害 AD/HD 不安障害が合併しやすく青年期のうつ病性障害には破壊的行動障害 AD/HD 不安障害物質関連障害摂食障害が合併しやすいとしている 4. 経過と予後比較的短期の経過に関する研究では Kovacs ら 20,21) は 8 歳から 14 歳の大うつ病性障害 65 例の経過を観察し発症から 15 ヶ月から 18 ヶ月で寛解することが多く発症後 1 年 6 ヶ月後には 92% が回復するが 2 年で 40% 5 年で 70% の再発が認められたと報告した Emslie ら 10) は8 歳から 17 歳の大うつ病性障害 70 例の経過を観察したところ 98% が1 年以内に回復したが回復後 1 年以内に 47.2% が 2 年以内に 69.4% が再発したと報告した Fombonne ら 13,14) は 17 歳以下の大うつ病性障害 149 例 ( うつ病単独群 96 例行為障害合併群 53 例 ) を対象として 20 年後の予後調査を行った成人におけるうつ病の再発率は高く大うつ病の再発は 62.4% うつ病( 大うつ病小うつ病気分変調症 ) の再発は 75.2% であったうつ病単独群と行為障害合併群に差はなかったしかし行為障害合併群において薬物依存アルコール依存反社会的人格障害の合併が多かった全体における自殺率は 2.45%(6 例 ) であり全対象の 44.3% は生涯に1 度は自殺を企図していた行為障害合併群では自殺行動犯罪などのより広範な社会機能障害が認められたこれらの結果は子どものうつ病と大人のうつ病の強い連続性を示唆するものであるとしている以上をまとめると児童青年期の大うつ病性障害は1~2 年で軽快する症例が多いがその後再発する可能性が高いまた大人になってもうつ病を再発しやすく何らかの精 - 4 -

5 神科的治療を必要とする場合が多いと考えられる 5. 治療児童青年期のうつ病性障害に対する薬物療法に関しては近年に至るまで目覚ましい知見は得られなかった種々の二重盲検法による三環系抗うつ薬の児童青年期のうつ病性障害に対する効果を比較した研究においていずれの三環系抗うつ薬においてもプラセボとの間に有為な差を見いだせなかった 18) ようやく最近になっていくつかの選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) の有効性がプラセボとの二重盲検比較試験によって実証されるに至った 1997 年の Emslie ら 11) による fluoxetine の有効性の報告に始まり 2001 年の Keller ら 19) による paroxetine の有効性 ( ただし paroxetine はその後の副作用問題に関連して有効性も否定された ) 2003 年の Wagner ら 24) による sertraline の有効性 2004 年の Wagner ら 25) による citalopram の有効性などが報告されているしかし 2003 年 paroxetine は副作用として自殺関連事象 ( 泣き気分変動自傷自殺念慮自殺企図など ) の出現が有意に高いことから 18 未満の大うつ病性障害患者への使用に警告が出されたさらに他の SSRI や SNRI においても使用に際して注意が喚起されるようになったことは周知の通りである 8) 児童青年期のうつ病性障害に対する精神療法の有効性について広く研究されているのは認知行動療法と対人関係療法である近年になってうつ病性障害の児童青年に対して対照群に対して有意に有効であったという報告がいくつか行われるようになった 3,4,22) 以上のように児童青年期のうつ病性障害に対して薬物療法精神療法のいずれにおいても成人に比べてその有効性を示す報告は少ないのが現状である児童青年期のうつ病性障害はそれだけ多様なのであり多面的なアプローチが求められているということを意味する児童青年期のうつ病性障害は発症率も決して低くなく持続期間も長く再発をきたしやすい病態であるそれにともない心理社会的機能は障害され家族も大きな影響を受けると考えられるしたがって病態の改善と子どもの発達を促進するために薬物療法や精神療法だけでなく家族療法や環境療法や教育的援助を含めた幅広い領域にわたる治療的アプローチが今後もっと研究される必要があるだろう 9) B. 双極性障害少なくとも 2000 年頃までは欧米においても児童青年期の双極性障害はきわめて稀な - 5 -

6 ものと考えられてきたしかしここ数年にわたり児童期の双極性障害が以前考えられていたよりもずっと多く存在することを示す実証的研究が報告されるようになったさらにその臨床像はこれまで認識されていた成人における躁うつ病像すなわち躁病相とうつ病相の明らかな対比その明瞭な交代と月単位の周期各病相に特徴的な臨床症状などの古典的な病像とは大きく異なり子ども特有の臨床像を呈することが明らかになってきたのである 12) 子どもの双極性障害の臨床的特徴を以下の3 点にまとめてみたい第 1に病相の周期の問題である子どもの双極性障害ではうつ症状と躁症状の極めて急速な交代がみられうつおよび躁病相の持続期間が短いため従来の診断基準を満たさないことが多い特に気分や活動性が1 日に数回の頻度で変動する日内交代型が多くを占める 12) Geller ら 15) によれば平均 11 歳の双極性障害児 60 人のうち 50 人 (83.3%) が急速交代型 (rapid cycling) であり 45 人 (75%) が日内交代型 (ultradian cycling) であった日内交代型の年間病相回数は平均 1,440 回で 1 日平均 4 回の病相がみられたというしたがって操作的診断基準の DSM-IV-TR では特定不能の双極性障害に分類されることになる第 2にうつ病相と躁病相が明瞭に区別しにくく多彩な病像を呈することである 12) 子どもの双極性障害ではうつ症状と躁症状の両方の特徴を同時に呈することが多いしかし混合性エピソードの診断基準は満たさないことが一般的である最も多く認められる臨床症状は気分変動と易刺激性を中核とし情緒不安定攻撃性衝動性焦燥が重畳する気分の高揚が躁病エピソードに特徴的であるとは限らないまた精神病症状不安破壊的行動多動怒りの爆発などの症状も出現することが多い第 3に他の精神障害と併存することが多いことである 12) 全体の少なくとも4 分の3 に明らかな併存障害が認められる子どもの双極性障害に最も多くみられる併存障害は注意欠陥多動性障害 (AD/HD) 反抗挑戦性障害行為障害のいわゆる破壊的行動障害であるその他に不安障害および物質乱用障害があげられるこれらの併存障害が多いことが双極性障害の診断の見落としを助長し症状を複雑化していると考えられる次に子どもの双極性障害の治療的アプローチについて検討してみたい子どもの双極性障害の治療は薬物療法が中心であり成人の双極性障害治療を参考に気分安定薬や非定型抗精神病薬を使用することになる児童青年期症例を対象にこれらの薬剤の効果および安全性について検討した対象研究はいまだ数少ないのが現状であるリチウムやバルプロ酸などの気分安定薬や非定型抗精神病薬を児童青年に使用する機会が増加していることからこれらの薬剤の有効性安全性および危険性について精通しておく必要がある - 6 -

7 Ⅴ. おわりに WHO は 2020 年までに世界的に子どもの精神疾患は 50% 増加し子どもの重大な健康問題の 20% は精神疾患から引き起こされると予想している 23) 気分障害は子どもの日常生活に大きな障害となるだけでなく発達にも重大な影響を与えるものであるさらに近年の研究によれば子どもの気分障害は再発の可能性が少なくなく他のさまざまな障害を合併したり対人関係や社会生活における障害が成人期以降に持ち越されてしまう可能性が指摘されるようになった今後わが国においても子どもの気分障害に対する認識を高めていくだけでなく児童青年期の気分障害に対する薬物療法および精神療法の有効性を客観的科学的に実証していく試みが必要であると考えられる文献 1) American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th edition, Text Revision (DSM-IV-TR). Washington, DC, American Psychiatric Association, ) Angold A, Costello EJ: Depressive comorbidity in children and adolescents: empirical, theoretical, and methodological issues. American Journal of Psychiatry, 150: , ) Brent DA, Holder D, Kolko D, et al: A clinical psychotherapy trial for adolescent depression comparing cognitive, family, and supportive therapy. Archives of General Psychiatry, 54: , ) Clarke GN, Rohde P, Lewinsohn PM, et al: Cognitive-behavioral treatment of adolescent depression: efficacy of acute group treatment and booster sessions. Journal of American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 38: , ) Costello EJ, Erkanli A, Angold A: Is there an epidemic of child and adolescent depression? Journal of Child Psychology and Psychiatry, 47: , ) 傳田健三 : 子どものうつ病 - 見逃されてきた重大な疾患 -. 東京, 金剛出版, ) 傳田健三 : 子どものうつ, 心の叫び. 東京, 講談社, ) 傳田健三 :SSRI の児童青年期患者への投与と安全性.SSRI のすべて ( 小山司編 ), 東京, 先端医学社,

8 9) 傳田健三 : 児童青年期の気分障害の臨床的特徴と最新の動向. 児童青年精神医学とその近接領域,49: , ) Emslie GJ, Rush AJ, Weinberg WA, et al: Recurrence of major depressive disorder in hospitalized children and adolescents. Journal of American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 36: , ) Emslie GJ, Rush AJ, Weinberg WA, et al: A double-blind, randomized, placebo-controlled trial of fluoxetine in children and adolescents with depression. Archives of General Psychiatry, 54: , ) Findling RL, Kowatch RA, Post RM: Pediatric bipolar disorder; A handbook for clinician. London, Taylor & Francis, 2003.( 十一元三監訳 : 児童青年期の双極性障害 - 臨床ハンドブック. 東京書籍,2008) 13) Fombonne E, Wostear G, Cooper V, et al: The Maudsley long-term follow-up of child and adolescent depression. 1. Psychiatric outcomes in adulthood. British Journal of Psychiatry, 179: , ) Fombonne E, Wostear G, Cooper V, et al: The Maudsley long-term follow-up of child and adolescent depression. 2. Suicidality, criminality and social dysfunction in adulthood. British Journal of Psychiatry, 179: , ) Geller B, Williams M, Zimerman B, et al: Prepubertal and early adolescent bipolarity differentiate from ADHD by manic symptoms, grandiose delusions, ultra-rapid or ultradian cycling. Journal of Affective Disorders, 51: 81-91, ) Harrington R: Affective disorders. In: Rutter M, Taylor E, Hersov L (Eds): Child and Adolescent Psychiatry: Modern Approaches, 3rd edition, Chapter 19. pp , Oxford, Blackwell Science, ) Hasin DS, Goodwin RD, Stinson FS, et al: Epidemiology of major depressive disorder: Results from the National Epidemiologic Survey on alcoholism and related conditions. Archives of General Psychiatry, 62: , ) Hazell P, O'Connell D, Heathcote D, et al: Efficacy of tricyclic drugs in treating child and adolescent depression: a meta-analysis. British Medical Journal, 310: , ) Keller MB, Ryan ND, Strober M, et al: Efficacy of paroxetine in the treatment - 8 -

9 of adolescent major depression: a randomized, controlled trial. Journal of American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 40: , ) Kovacs M, Feinberg TL, Crouse-Novak MA, et al: Depressive disorders in childhood. I. A longitudinal prospective study of characteristics and recovery. Archives of General Psychiatry, 41: , ) Kovacs M, Feinberg TL, Crouse-Novak MA, et al: Depressive disorders in childhood. II. A longitudinal study of the risk for a subsequent major depression. Archives of General Psychiatry, 41: , ) Reinecke MA, Ryan NE and DuBois DL: Cognitive-behavioural therapy of depression and depressive symptoms during adolescence: a review and meta-analysis. Journal of American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 37: 26-34, ) 斉藤卓弥, 西松能子 : 児童思春期うつ病の治療 - 過去 10 年間の対照試験の結果の検討 -. 精神科治療学,20: , ) Wagner KD, Ambrosini P, Rynn M, et al: Efficacy of sertraline in the treatment of children and adolescents with major depressive disorder: two randomized controlled trials. JAMA, 290: , ) Wagner KD, Robb AS, Findling RL, et al: A randomized, placebo-controlled trial of citalopram for the treatment of major depression in children and adolescents. American Journal of Psychiatry, 161: ,

精神療法の治療機序

精神療法の治療機序 18 歳未満の大うつ病性障害患者に対する抗うつ薬傳田健三北海道大学大学院保健科学研究院生活機能学分野 [ 060-0812 札幌市北区北 12 条西 5 丁目 ] The Safety of Antidepressant Use in Children and Adolescents with Major Depressive Disorder Kenzo DENDA Department of