認知症にどう向き合うか

Transcription

1 Ver.16- ダイジェスト 平成 22 年 11 月 13 日 医療講演会 認知症治療最前線 認知症治療の現状とその予防法もの忘れって病気なの? 社会医療法人社団木下会鎌ヶ谷総合病院千葉神経難病医療センター センター長湯浅龍彦

2 dementia 痴呆 認知症の定義 '1( 脳の器質的障害にもとずく 知的能力の障害で 一旦 正常に発達した後に低下するもの '2( 記憶 見当識 判断力などの慢性的障害 '3( 仕事や日常生活に支障を来すもの

3 脳の器質的障害とは 脳の器質的な障害 脳に病理変化を伴う 病的過程 機能的な障害 病理学的な変化を伴わない一時的 可逆的な障害 脳血管障害 脳腫瘍 脳外傷 脳炎 脳変性疾患 睡眠不足 うつ病の時の脳の働き 高熱にうかされた状態 失神 薬物など

4 脳の 3 相構造 / 脳に組み入れられ た進化の記憶 反射運動を司る脳ーー脊髄 脳幹 ' 意識 歩行 嚥下 呼吸 ( 自動的に生きる仕掛け 本能的な行動を司る脳ーー大脳辺縁系 ' 記憶 情動 自律神経 ( 大脳基底核 ' 巧く ( 小脳 ' 正確に ( 生存を保障する仕掛け 理知的 創造的な行動を司る脳ーー大脳皮質 ' 情報の収集 管理 企画 変更 調整 判断 創造 実行 ( 賢く生きる仕掛け

5 脳と記憶 Part II

6 痴呆 認知症の判断は何で行う? => 記憶 見当識 判断力の状態で判定する 記憶 : 出来事を脳に刷り込み 把持し 引き出す能力 ' 海馬 + 大脳皮質 ( 短期記憶 ' 朝食の内容 ( 長期記憶 ' 遠隔記憶 (= 昔の出来事 見当識 : 時間 空間 人物に対する記憶と適切な判断 ' 大脳連合野 ( 判断力 : 評価し 対策を考え 決断を促す能力 ' 前頭前野 (

7 記憶の種類 感覚記憶 'sensory memory(: 一瞬の記憶 => 電車の車窓から見た風景や看板の記憶 短期記憶 'short term memory(: 20 秒前後の短い記憶 => 先方の電話番号を暗証する時作業記憶 'working memory(: 様々な記憶の素材から 有用な記憶を引き出して 作戦を練り 手順を描いて新たな行動を準備する記憶と作業能力 ' 作業台 ( 長期記憶 'long term memory(: 昔の記憶 => 自宅の住所 ピアノの弾き方 ; ' 陳述記憶と非陳述記憶 (

8 記憶の階層性 ' 記憶は重なり合っている ( ジュゲムジュゲム 直後の記憶 ' 感覚記憶 ( 短期記憶 昔の記憶

9 言葉を介した記憶とそうでない記憶 陳述記憶 ' 言葉を介した記憶 ( 言葉で表現できる記憶 エピソード記憶と意味記憶 エピソード記憶 : 思い出 であり自分史 情緒を伴う 意味記憶 : 知識であり 概念 言語 原理 類型 分類など 非陳述記憶 ' 言葉に意識されない記憶 ( 潜在記憶 : 感覚記憶 作業記憶 直後記憶など 身体記憶 : 手順 ' やり方 ( 技能 ' わざ ( プライミング : 情緒は伴わない

10 記憶の形成 記憶の過程 あらゆる感覚を 或いは運動過程を一連の情報として 焼き付け ( 記銘し ) 貯え ( 把持し ) 再生 ( 想起 ) する一連の過程である

11 ワーキングメモリとは 脳は 五感から 外界と内界の情報を得る 情報は一旦記憶として それぞれの大脳皮質に貯えられる 課題が与えられると : あちこちの引き出しから貯えられた記憶が引き出され 作業台の上に一時的に並べられる ' ワーキングメモリ ( それらを駆使して与えられた課題の解決に向けて作戦が練られる ' 大脳皮質連合野 ( その作戦原案に沿って実戦 ' 創造 ( が実行される

12 作業記憶 ' ワーキングメモリ ( ' 料理は作業記憶の連続である => 記憶の引き出しから様々な記憶を引き出して それを使って作業する ( 野菜 調味 料 魚 貝 エビ ワイン

13 もの忘れ : 単なる老化によるものと 疾病によるものをどう区別するか? 老化 ' ど忘れ (- 良性健忘 : ヒントやきっかけがあれば思い出す 日常生活に大きな支障がない 物忘れについての自覚がある 認知症 痴呆の健忘 : 体験したこと自体を忘れる 日常生活にも支障をきたす 物忘れを自覚できない

14 痴呆 認知症の症状 中核症状 神経細胞の変性脱落に伴う脱落症状 記憶障害 ; 認知機能障害 ; 高次脳機能障害 ; 失語 失認 失行 実行機能障害 周辺症状 残存細胞の異常反応 行動の障害 : 徘徊 暴力 異常な食行動 感情障害 : 抑うつ 不安 焦燥 精神症状 : 幻覚 妄想 意欲障害 : 睡眠障害 : =>BPSD'behavioral and psychological symptoms of dementia)

15 認知症をきたす疾患 頭蓋内病変 Ⅰ( 変性疾患 アルツハイマー病 汎発性レビー小体病 進行性核上性麻痺 ハンチントン舞踏病 パーキンソン病など 前頭側頭型認知症 Ⅱ( 脳血管障害脳梗塞 脳出血 Binswanger 病 Ⅲ( その他 正常圧水頭症 慢性硬膜下血腫 脳腫瘍 全身性疾患 Ⅰ( 内分泌障害甲状腺機能低下症汎下垂体機能低下症 Ⅱ( 代謝性認知症ウエルニッケ脳症 ' ビタミン B1 欠乏症 ( ペラグラ ' ニコチン酸欠乏症 ( ビタミン B12 欠乏症 Ⅲ( 感染症梅毒 HIV クロイツフェルト ヤコブ病

16 治療可能な痴呆 / 認知症の症状 treatable dementia&symptoms 疾患 正常圧水頭症 慢性硬膜下血腫 脳腫瘍 うつ病 ' うつ状態 ( 代謝性認知症 感染症 代謝性 症状 'AD の周辺症状 ( BPSD

17 早期診断の手掛かりテストバッテリー MMSE FAB TAT-A TMT-B 仮名ひろいテスト

18 認知症 / 痴呆症 アルツハイマー病 Part IV

19 アルツハイマー病 初老期以降に潜行性に発症し 緩徐に進行する痴呆 1906 年に Lois Alzheimer が 高度の痴呆を呈する 56 歳の女性例を初めて報告 病理変化 : 老人斑 アミロイド沈着 神経原線維変化 (NFT) tau の沈着 脳萎縮 神経細胞脱落 治療法 ' 予防 (: アミロイドを沈着させない 生活週間病 'DM;HT の対策 ( 治療 : 対症療法 ' ドネペジル ( tau を溶かす ' レンバー : 治験中 (

20 BPSD 過活動性の症状 精神症状 : 幻覚 妄想 ' 物を盗られた ( 感情障害 : 不安 焦燥 行動障害 : 徘徊 多動 自傷 他害 異食 過食 睡眠 意識障害 : 夜間の不眠 せん妄 低活動性症状 意欲低下 : やる気をなくす, 表情が乏しくなる 自発性低下 抑うつ 依存 日中眠ってばかりいる

21 Aβ 変異淡白 重合 tau 重合 モノマートリマーテトラマー 重合 凝集 封入体 細胞障害 神経細胞死

22 危険因子 APOE e2 the least common reduce the risk of Alzheimer's. APOE e4 a little more common increase the risk of Alzheimer's. APOE e3 the most common doesn't seem to affect the risk of Alzheimer's in either direction. Diabetes :especially type 2 diabetes are at higher risk of eventually developing Alzheimer s disease and MCI. Brain damage from a head injury itself is a potential cause of dementia. Oophorectomy (ovary removal(:some small studies have suggested that early oophorectomy, or surgical menopause, may increase your risk of dementia or other cognitive function deficits. Some research suggests that you may help offset this risk by taking hormone replacement therapy (HRT) until you reach a natural age of menopause. However, some larger randomized, controlled studies have not shown an increased risk of dementia after oophorectomy.

23 軽度認知機能障害 'MCI( 1991 年 Reisberg らによって提唱 1999 年 Petersen らの基準 : 1( 主観的な記憶低下 2( 年齢に比し異常な記憶力低下 ' 記憶検査では平均値から 1.5SD 以上の低下 ( 3( 記憶以外の認知機能は正常 4( 日常生活上問題なし 5( 認知症ではない 2000 年 MCI の診断基準コンセンサス ' 改訂 ( 1( 家族による情報を重要視 2(ADL で複雑なものが障害される 3( 全般的認知機能尺度は認知症の範囲にまでは低下しない 4( 記憶や他の認知機能は正常値のカットオフ値より低下 5( 認知機能障害の ADL ヘの影響は認知症の診断基準を満たさない 除外診断 ; 抑うつ状態, 意識障害, 薬物中毒など, 教育年齢を考慮していること, 意義 :1 年でその 12%,4 年で半分がアルツハイマー病に進行

24 MCI を取り巻く社会状況の変化の中で 現代日本の現状は 亀の甲より年の甲 が死語になってきた ' 高橋智 ( スーパで買い物 : 品物を自分で選ぶ 品物の陳列棚を探す 或いは覚えていなければならない クレジットカードの決済も苦手である エピソード記憶 ' 昔はこうした ( が役に立たない 新たなルールの下で新たな手続きと実行を求められる 正常 MCI Overt MCI をどうチェックするか? 電話を活用する能力交通機関を利用した移動が可能か自分の服薬管理財産管理ができるか 電話交通移動服薬管理財産管理

25 高用量のビタミン B が MCI の脳萎縮の進行を抑制 70 歳以上の 168 例の MCI; ビタミン B 製剤 ' 葉酸 0.8mg/ 日 ;B6 を 20mg/ 日 ;B12 を 0.5mg/ 日 ( 対プラセボ群 2 年間 ; MRI にて脳萎縮率を比較 = 平均萎縮率 ' ビタミン B 群 =0.76%; 対照群 =1.08%( 且つ ホモシステイン値が 13μmol/L の群では萎縮率は対照群の 1/2 に留まった (Plos ONE 2010:5,e12244)

26 AD の治療 ' 予防的治療の重要性 ( 和食 : 青魚 : DHA EPA カルシウム 世界健康食 予防 = 治療 Aβ 変異淡白 抗酸化成分 ' ポリフェノール (: 大豆 : イソフラボン 赤ワイン ブルーベリー : アントシアニン ゴマ : セサミン ターメリック ' ウコン (: グルクミン インド料理 重合 重合 tau 封入体 重合 凝集 モノマートリマーテトラマー 細胞障害 オリーブ油 : オレイン酸を比較的多く含む 他の食用の油脂に比べて酸化されにくい 地中海料理 運動療法と 地中海ダイエット ' オリーブオイル 魚 豆類が主体 ( アミロイドの重合阻害剤としてのポリフェノールへの期待!! 神経細胞死

27 認知症 / 痴呆にどう向きあう Part V

28 脳を使うことの重要性 Nun-study 脳リハビリ ' 絵画 音楽 ( 軽度の運動 心穏やかな生活信条 David Snowdon ( 原著 ), 藤井留美 ( 翻訳 ) 株式会社 DHC

29 認知症の負の連鎖 中核症状 ' 皮質の症状 ( 記憶障害 もの忘れ 時間 場所 人 あやまつ 判断力 ぶれる ミス 社会的立場 家庭内での立場 はずれる脇役お荷物居場所がない 寂寥感悲哀感 戸惑い不安焦燥 尊厳の喪失 基準のぶれと混乱 BPSD' 辺縁系の症状 ( 確信的妄想 意識低下による譫妄 幻覚 徘徊 過食 異食 脱抑性的行動 ; 攻撃性 性的逸脱 不潔行為

30 認知症患者 : 新たなケアの立場 ' 脳と人格 尊厳を意識して ( 中核症状 ' ドネペジル ( もの忘れ => 責めない 見当識障害 => 否定しない 判断力のぶれる ミス => 傾聴 社会的立場 家庭内での立場 はずれる => 家族一緒に脇役 => 役をつくるお荷物 => 頼りにする居場所がない => 居場所をつくる 責めない共感をもって接する 人生を尊重する 寂寥感悲哀感 尊厳の回復 戸惑い不安焦燥 基準のぶれと混乱の調整 BPSD' 辺縁系の症状 ( 抑肝散 妄想 ' 頭ごなしに否定しない ( 意識低下に起因する譫妄 ' きまりのよい日課 ( 徘徊 ' 一緒にでかける ( 過食 異食 脱抑性的行動 : 攻撃性 性的逸脱 不潔行為 ' 抑肝散 にて経過観察 (

31 患者として 家族として 介護者として

32 支える社会日本再生 : 医療の町づくり 鎌ヶ谷をメデイカルタウンに 創る べーテル : てんかんと福祉の町 ローテンブルグの地図 橋本孝 : 日本グリム協会会長宇都宮大学名誉教授中央大学法学部卒業後外交官を目指していたのになぜかドイツ文学の研究に..

33 AD 以外の重要な疾患 時間があれば

34 血管性認知症 :vascular dementia 多発梗塞性認知症 Binswanger 型白質脳症 多発脳梗塞性認知症 遺伝性血管性認知症 :CADASIL など