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公共交通公共交通 についてのアンケート < 調査概要 > 調査方法 : インサーチモニターを対象としたインターネット調査 分析対象者 : 札幌圏内在住の15 歳以上の男女 調査実施期間 : 2013 年 3 月 7 日 ( 木 )~3 月 12 日 ( 火 ) 有効回答者数 : N=600 全体 6

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「電子マネーの利用に関するアンケート調査」

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( 以下 カードなど ) を普段何枚 ( モバイル決済の場合は何種類 ) 使っているかたずねた ( それぞれの決済手段の定義は別表を参照 ) 各決済手段について 1 枚以上使用している人と全く使用していない人の割合は 岐阜県 愛知県 全国でそれぞれ表のようになった クレジットカードを使用している人の

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( ウ ) 年齢別 年齢が高くなるほど 十分に反映されている まあまあ反映されている の割合が高くなる傾向があり 2 0 歳代 では 十分に反映されている まあまあ反映されている の合計が17.3% ですが 70 歳以上 では40.6% となっています

16211 インターネットバンキングの利用 ( 第 13 回 ) 性年代 性年代 男性 10 代男性 20 代男性 30 代男性 40 代男性 50 代以上女性 10 代女性 20 代女性 30 代女性 40 代女性 50 代以上合計 列 %

アトレビュー S u icaカードとは 1 枚 4 役 だからラク JRE POINT カード クレジットカード Suica 定期券 アトレビュー Suica カード 入会方法は 4 つ! 1 2

約 7 割が はい と回答しており ポイントやマイルの利用について利便性を求めていることがわかっ た 若年層において特にその意識が高くなっており 0 代が 8.7% で最も高く その後年代が高くなる につれて数値は低くなり 60 代では 60.% と 0 代と 60 代で.5 ポイントの差が出る結果

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年収とフィンテックサービスの関係では 年収が高まるにつれて 何らかのフィンテックサービスを活用している傾向にある 一方で 保有資産については資産額が多いほどフィンテックサービスの利用も増える傾向もみられるが 年収の場合とは違う動きがみられた 3. 金融サービス利用状況について 金融リテラシーについて

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メインバンクを変更した理由の半数超は 自宅近くの店舗や ATM がなくなったからという チャネルに関するもので ある 参照 P.9 3. 預かり資産 金融機関で 投資信託 国債 地方債 もしくは 生命保険 を加入 購入した最大の理由は 渉外員からの勧誘 店頭のパンフレットを見て相談したという意見も

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スライド 1

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1. プリペイド式カード の利用経験について 2 バスカード ( 西鉄バスのみ ) の利用率が約 8 割 < 全体 > プリペイド式カードの利用経験について 全体でみると バスカード ( 西鉄バスのみ ) が 85.2% と最も高く 次いで よかネットカード (45.2%) えふカード (36.5%

産学共同研究 報告書

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Transcription:

論文 モバイル型電子マネー利用者の 意識 要望と普及の課題 渡部和雄 携帯電話やスマートフォンを利用したモバイル型電子マネーの利用者の意識や要望を知り, 電子マネー普及の課題を探るため, 関東地方に居住する約 1,800 人にアンケート調査を行い, 回答を分析した. その結果, モバイル型電子マネー利用者は IC カード型電子マネー利用者と比較して, 店舗での支払いが迅速にできること, 残高照会が容易なことなどの特徴を高く評価し, モバイル型電子マネーの今後の利用意向も強いことが明らかとなった. 一方, 大都市に居住するモバイル型電子マネー利用者と中都市に居住するモバイル型電子マネー利用者の間には電子マネーに対する意識に大きな違いはないが, 大都市居住者は IC カード型電子マネーおよび交通系電子マネーの利用意向が強いこともわかった. さらに, 電子マネー全般と同様にモバイル型電子マネーも利便性向上が普及課題であることが明らかとなった. キーワード : 電子マネー, 普及要因, モバイル型,e ビジネス, 統計分析 1 はじめに電子マネーは多くの鉄道, バス, 店舗などで利用できるようになり, その利便性が増している [ 磯崎 2007, 岩田 2005, 岩田 2008, 岡田 2008]. 電子マネーの分類法は種々あるが [ 大森 2009, 大森 2010, 渡部 2009, 渡部 2011], 利用媒体により大きく IC カード型とモバイル型に分かれる.IC カード型電子マネーはクレジットカード大のプラスチックカードに貨幣価値を記録できる IC チップが埋め込まれたものであり, 日本国内で 1 億 4 千万枚以上発行されている (2011 年 6 月時点 )[ 日本銀行 2011]. 一方, モバイル型電子マネーは携帯電話やスマートフォンに貨幣価値を記録できる IC チップが埋め込まれたもので, 約 1,800 万台が市場に出ている (2011 年 6 月時点 ) [ 日本銀行 2008, 日本銀行 2011]. モバイル型電子マネーは IC カード型電子マネーと比較してまだ利用者数が多いとは言えないが, 発行数の伸び率は高い [ 日本銀行 2011]. これまで, モバイル型電子マネー利用者の意識をもとに普及課題を分析した研究は筆者の知る限りない. そこで, 本研究ではモバイル型電子マネーの普及の課題を探るため, 消費者へのアンケート調査を行い, その結果を分析することとした. WATABE Kazuo 東京都市大学環境情報学部情報メディア学科教授 2 アンケート調査概要電子マネーに対する消費者の意識を調査するため, インターネット調査会社を通じてアンケート調査を行った. 対象地域は関東地方で,Suica や PASMO など同じ電子マネーを利用できる地域で, 電子マネーの種類による差ではなく地域による差を比較しやすいためである. 関東地方 1 都 6 県の東京特別区 (23 区 ), 政令指定都市 ( 横浜市, さいたま市, 千葉市 ), 県庁所在地 ( 前橋市, 宇都宮市, 水戸市 ) に居住する計 1,770 人に調査した. 対象者は地域, 性別, 年齢層がほぼ均等となるよう選んでいる. 調査の都合から対象者の年齢層に少し差が出た地域があるが, 全体に大きな影響はないものと考えている. 調査時期は 2011 年 6 月から8 月である. アンケートの主な結果を表 1に示す. ここで, 電子マネー所有者とは利用しているかどうかにかかわらず, 電子マネーを所有している者である. 電子マネー利用者とは電子マネーを月 1 回以上利用する者としている. 表 1 から, 電子マネー所有者の率は 58% から 90% と地域により大きく異なることがわかる. また,IC カード型電子マネーのみを所有する率や主に IC カード型電子マネーを利用する者の率も地域により大きく異なる. しかし, 主にモバイル型利用者の率 ( 表 1 最下欄 ) は6% から 10% と, 地域によりあまり差が無いことがわかる. さらに, 調査対象者には以下の質問をして,5 点法 (5 そう思う,4 少しそう思う,3どちらともいえない,2 あまりそう思わない,1そう思わない) で回答を得た. 電子マネーに対する意識( 駅でキップを買わないで済む, 店での支払いが迅速, ポイントが得だ, チャージが面倒, 残高が分かりにくい, 故障が心配, など ) 65

東京都市大学横浜キャンパス情報メディアジャーナル 2012.4 第 13 号 性別 年齢 表 1 アンケート対象者と主な結果 東京都区部横浜市さいたま市千葉市前橋市宇都宮市水戸市合計 対象者数 260 250 240 260 260 260 240 1,770 男性 135 52% 125 50% 120 50% 139 53% 115 44% 131 50% 120 50% 885 50% 女性 125 48% 125 50% 120 50% 121 47% 145 56% 129 50% 120 50% 885 50% 20 代 19 7% 50 20% 48 20% 45 17% 75 29% 69 27% 42 18% 348 20% 30 代 43 17% 50 20% 48 20% 51 20% 51 20% 63 24% 63 26% 369 21% 40 代 62 24% 50 20% 48 20% 62 24% 42 16% 42 16% 55 23% 361 20% 50 代 69 27% 50 20% 48 20% 52 20% 49 19% 40 15% 45 19% 353 20% 60 代以上 67 26% 50 20% 48 20% 50 19% 43 17% 46 18% 35 15% 339 19% 電子マネー所有者 232 89% 226 90% 216 90% 218 84% 151 58% 155 60% 151 63% 1,349 76% 交通系電子マネー所有者 200 77% 197 79% 183 76% 173 67% 91 35% 93 36% 84 35% 1,021 58% 流通系電子マネー所有者 99 38% 92 37% 82 34% 97 37% 76 29% 84 32% 84 35% 614 35% IC カード型のみ所有者 188 72% 194 78% 183 76% 184 71% 103 40% 107 41% 106 44% 1,065 60% モバイル型所有者 44 17% 32 13% 33 14% 34 13% 48 18% 48 18% 45 19% 284 16% 主に利用している電 交通系 200 77% 199 80% 181 75% 163 63% 77 30% 77 30% 70 29% 967 55% 子マネー 流通系 32 12% 27 11% 35 15% 55 21% 74 28% 78 30% 81 34% 382 22% 主に IC カード型利用者 98 38% 87 35% 90 38% 88 34% 58 22% 56 22% 43 18% 520 29% 主にモバイル型利用者 22 8% 18 7% 19 8% 20 8% 15 6% 25 10% 23 10% 142 8% 表 2 利用者の電子マネーへの意識の差異 質問項目 モバイル型利用者平均 IC カード型利用者平均 1 店での支払いが迅速にできる 4.61 4.43 0.016* 2 ポイントや割引が得だ 3.75 3.37 0.001** 電子マネーに対する意識 ( 電子マネー利用者が回答 ) 3 残高がわかりにくい 3.34 3.63 0.015* 4 現金やクレジットカードで十分だ 2.37 2.57 0.044* 5 電子マネーの種類が多すぎてわかりにくい 3.19 3.54 0.003** 6 オートチャージ利用に満足している 2.08 2.38 0.042* 電子マネーへの要望( 利用できる駅を増やしてほしい, 利用できる店を増やしてほしい, チャージが簡単にできるようにしてほしい, など ) 電子マネーの今後の利用意向(IC カード型電子マネー, モバイル型電子マネー, 交通系電子マネー, 流通系電子マネーの利用意向 ) 3 モバイル型電子マネー利用者の分析 3.1 モバイル型電子マネー利用者の意識モバイル型電子マネー利用者と IC カード型電子マネー利用者の意識はどのような点で異なるのだろうか. アンケートの電子マネーへの意識に関する質問 ( 回答は5 そう思う,4 少しそう思う,3どちらともいえない,2 あまりそう思わない,1そう思わないから選択) で, 両者に有意な差 (1% 水準または5% 水準で有意差 ) が出たものを表 2に示す. モバイル型電子マネー利用者は普段持ち歩いている携帯電話やスマートフォンを使って店舗などでの支払いができるため, 1 店での支払いが迅速にできる, 2ポイントや割引が得だ という点を評価している. そのため, 4 現金やクレジットカードで十分だ と考える人が少なく, 電子マネーも他の決済手段と共に利用されていることがうかがえる. さらに,IC カード型電子マネーと異なり, モバイル型電子マネーは携帯電話やスマートフォンでいつでも残高を知ることができるため, 3 残高がわかりにくい の平均が低くなっている. チャージ ( 電子 66

マネーへの入金 ) も自己完結で可能であり,IC カード型電子マネーほどオートチャージ ( 公共交通機関利用時などに対応するクレジットカードからの自動入金 ) の必要性が高くないため, 6オートチャージ利用に満足している の平均も低い. モバイル型電子マネーは Suica,Edy, nanaco など種類が限られるため, 5 電子マネーの種類が多すぎてわかりにくい の平均も低くなる. 総じて, 有意差が現れた質問 1~6ではモバイル型電子マネー利用者はその利便性を高く評価していることがわかる. 3.2 モバイル型電子マネー利用者の要望次に, モバイル型電子マネー利用者と IC カード型電子マネー利用者で, 要望や利用意向についてはどのような差異があるかを調べた. アンケートの要望や利用意向に関する質問項目で, 両者に有意な差異 (1% 水準または5% 水準で有意差 ) が現れたものを表 3に示す. 前述のように, モバイル型電子マネーは残高確認やチャージが自己完結で可能なため, 1 チャージできる場所を増やしてほしい, 2 残高を確認しやすくしてほしい の平均が IC カード型電子マネー利用者より低くなっている. 利用者はモバイル型の方が相対的に便利と感じているようで, 3 電子マネーで支払える店を選んで行くことがある, 5 流通系電子マネーを利用したい が IC カード型電子マネー利用者よりも多い. モバイル型電子マネー利用者は実際に利用してみてモバイル型の利便性の高さを感じており, 4 モバイル型電子マネーを利用したい の平均が IC カード型電子マネー利用者よりもかなり高くなっている. 4 地域によるモバイル型電子マネー利用者の差の分析 4.1 モバイル型電子マネー利用者の率前述のようにアンケートは関東地方の1 都 6 県に居住する消費者に行った. 本節では地域によるモバイル型電子マネー利用者の意識の差を分析するために, 地域を電子マネー (IC カード型, モバイル型を含む ) 所有率が 84% ~90% と高い大都市 ( 東京 23 区, 横浜市, さいたま市, 千葉市 ) と, 電子マネー所有率が 58%~63% と相対的に低い中都市 ( 前橋市, 宇都宮市, 水戸市 ) の2 種類に分けて比較する. 大都市と中都市別モバイル型電子マネー利用者と IC カード型電子マネー利用者の数を見ると, 表 4のようになった.χ( カイ )2 乗検定を行ったところ, が 0.000 となり, 中都市の方が大都市よりもモバイル型電子マネー利用者の率が有意に高いことがわかった. 大都市は交通系電子マネーを利用する人が多く, 交通系電子マネーは交通機関利用時に自動改札機にタッチすることが多い. その際, モバイル型電子マネーよりも IC カード型電子マネーの方が利用しやすいから, このような結果となったと考えられる. 表 4 モバイル型,IC カード型電子マネー利用者数と率 大都市 中都市 合計 主にモバイル 79 63 142 型利用 17.9% 28.6% 21.5% 主にIC カード型 363 157 520 利用 82.1% 71.4% 78.5% 合計 442 220 662 100.0% 100.0% 100.0% 表 3 電子マネーへの要望, 利用意向の差異 質問項目 モバイル型利用者平均 IC カード型利用者平均 1 チャージできる場所を増やしてほしい 3.74 4.03 0.011* 電子マネーへの要望, 利用意向 ( 電子マネー利用者が回答 ) 2 残高を確認しやすくしてほしい 4.15 4.33 0.048* 3 電子マネーで支払える店を選んで行くことがある 3.23 2.82 0.001** 4 モバイル型電子マネーを利用したい 3.38 1.30 0.007** 5 流通系電子マネーを利用したい 2.75 2.18 0.003** 67

東京都市大学横浜キャンパス情報メディアジャーナル 2012.4 第 13 号 4.2 モバイル型電子マネー利用者の意識の差異大都市と中都市でのモバイル型電子マネー利用者の意識の差異 ( 回答は5そう思う,4 少しそう思う,3どちらともいえない,2あまりそう思わない,1そう思わないから選択 ) を検定したところ, 表 5に示す質問項目で有意差が見られた. 1~3は交通系電子マネーに関連する質問である. いずれも大都市に居住する利用者は中都市の利用者よりも電子マネーの利便性が高いと感じている. しかし, 中都市でも平均が4 点台半ばであり, 交通機関利用時の電子マネーの利便性の高さを評価している. 4のオートチャージへの満足度は, 交通機関を利用する頻度が高いと考えられる大都市居住者の評価が相対的に高い. 5,6は電子マネーの利用機会に関する質問で, 中都市居住者は大都市よりも不満が大きいことがわかる. 大都市では公共交通機関が発達しており, 商店も多く, 電子マネーを利用できる場所が多いため, このような結果となったと考えられる. 7では大都市居住者の方が中都市居住者よりも電子マネーに満足していることがわかる. 大都市の方が電子マネーの利用機会が多く, 利便性が高いため, その恩恵を享受しやすいこ とが窺われる. 本節では大都市と中都市に居住するモバイル型電子マネー利用者の電子マネーに対する意識を比較した. この結果は IC カード型電子マネーを含めた電子マネー全般で, 大都市と周辺都市住民の意識を比較した渡部らの研究結果 [ 渡部 2009, 渡部 2011] と相似したものとなった. 4.3 モバイル型電子マネー利用者の要望, 利用意向の差異大都市と中都市に居住するモバイル型電子マネー利用者の要望について, 平均の差の分析を行ったが, 有意差はなかった. つまり, モバイル型電子マネー利用者には都市規模による差異はないとの結果が出た. 一方で, 電子マネーの利用意向には表 6に示すように一部で有意差が認められた. モバイル型電子マネー利用者でも,IC カード型電子マネーの利用意向と交通系電子マネーの利用意向において, 大都市で平均値が有意に高いという結果となった. 大都市は公共交通機関の利便性が高いため, その利用に向いた IC カード型電子マネーおよび交通系電子マネーの利用意向がより高くなったためと考えられる. 表 5 大都市と中都市でのモバイル型電子マネー利用者の意識の差異 質問都市質問平均値平均の差 t 値自由度番号規模 ( 両側 ) 1 きっぷを買わなくても電車やバスに乗れ大都市 4.91 るのは便利だ中都市 4.71 0.197 2.048 83.223 0.044 2 駅の改札を迅速に通過できる 大都市 4.86 中都市 4.65 0.210 2.005 92.152 0.048 3 電車の乗り越し精算が自動ででき, 大都市 4.67 便利だ中都市 4.40 0.274 2.022 103.131 0.046 4 オートチャージを利用して満足している 大都市 2.35 中都市 1.75 0.608 2.494 139.741 0.014 5 利用できる場所, 機会が少ない 大都市 2.95 中都市 3.49-0.543-2.782 124.657 0.006 6 利用できる場所がわかりにくい 大都市 2.95 中都市 3.37-0.416-2.047 140.000 0.043 7 全般的に電子マネー利用に満足して大都市 3.97 いる中都市 3.54 0.435 2.108 111.261 0.037 表 6 大都市と中都市でのモバイル型電子マネー利用者の利用意向の差異 質問 1 IC カード型電子マネーを利用したい 2 モバイル型電子マネーを利用したい 3 交通系電子マネーを利用したい 4 流通系電子マネーを利用したい 中都市 2.63 都市規模 平均値 平均の差 t 値 自由度 大都市 2.04 中都市 1.21 大都市 3.53 中都市 3.19 大都市 3.10 中都市 2.41 大都市 2.84 ( 両側 ) 0.83 3.025 139.536 0.00** 0.34 1.368 140.000 0.174 0.69 2.460 140.000 0.015* 0.20 0.673 140.000 0.502 68

5 モバイル型電子マネー普及の課題本稿ではモバイル型電子マネー利用者に焦点を当てて, アンケート結果を分析した. モバイル型電子マネー利用者は店舗での支払いが迅速, ポイントなどが得だ, 残高照会の容易さ, チャージの容易さなどを高く評価し, 引き続きモバイル型電子マネーを利用する意向が強いことがわかった. 都市規模別では, 特に大都市 ( 東京 23 区, 横浜市, さいたま市, 千葉市 ) では交通機関での利用を中心に電子マネーへの評価が高いことがわかった. 中都市 ( 前橋市, 宇都宮市, 水戸市 ) でも交通機関での電子マネー利用に対する評価が高いが, 大都市ほどではなかった. 中都市では特に利用機会が少ないことや利用場所がわかりにくいことに不満があることがわかった. 今回の分析により, モバイル型電子マネー利用者はその特徴をうまく活かして利用しているが, やはり IC カード型電子マネーを含む電子マネー全般と同様に, 利便性の向上が普及課題であることが明らかとなった. と利用意向の分析 - 経営情報学会誌,Vol.17, No.4, 2009 年 3 月, 13-36 ページ. [10] 渡部和雄, 岩崎邦彦 電子マネーの地域への普及要因と普及促進策 - 利用者 非利用者の意識に基づく地域別分析と提案 - 経営情報学会誌,Vol.19, No.4, 2011 年 3 月, 341-359 ページ. 謝辞本研究は日本学術振興会科学研究費補助金 21530444 を受けたものである. 御礼申し上げます. 参考文献 [1] 磯崎マスミ 本格普及へ向かう電子マネーのすべて, 毎日コミュニケーションズ,2007 年. [2] 岩田昭男 電子マネー戦争 Suica 一人勝ちの秘密, 中経出版,2005 年. [3] 岩田昭男 図解電子マネー業界ハンドブック Ver. 1, 東洋経済新報社,2008 年. [4] 大森審士 電子マネーの法律的位置づけに関する試論, NBL,No.911, 2009 年 8 月, 48-56 ページ. [5] 大森審士 インターネットにおいて利用される電子マネーの法律構成に関する一考察, Information Network Law Review, Vol.9, No.1, 2010 年,34-51 ページ. [6] 岡田仁志 電子マネーがわかる, 日本経済新聞出版社,2008 年. [7] 日本銀行決済機構局 決済システム等に関する調査論文最近の電子マネーの動向について BOJ Reports & Research Papers,2008 年 8 月,1-11 ページ. [8] 日本銀行決済機構局 最近の電子マネーの動向について (2011 年 ), BOJ Reports & Research Papers, 2011 年 11 月,1-13 ページ. [9] 渡部和雄, 岩崎邦彦 非接触 IC カード型電子マネーに対する消費者の意識と普及の課題 - 利用者と非利用者, 交通系と流通系, 地域による意識の差異 69