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論で考えられる環境で起こる変化の法則を整理することで, 多くの負の現象を引き起して いる本質が明らかになるとともに, そのメカニズムが解明され, 本当の子どもたちの力が 引き出され, 笑顔あふれる環境が整うことを願う 2. 股関節屈曲で 腰椎は後彎, 骨盤は倒れようとする 構造的な理由我々の筋肉には, 収縮することで発生する 筋力 と, 引っ張られると戻ろうとする 張力 という2つの 力の作用 がある 人は, 立つときは, 意識しなくても骨盤を直立させ安定して立つことができる それは 筋力 というよりも, 腰椎を前彎させ, 骨盤を直立させ安定させるのに大きく働いているといわれている拮抗筋である 腸腰筋群 と 殿筋群 のお互いの 張力バランス によるところが大きい ( 図 1) 図 1 立位時の骨盤周囲の安定性のメカニズム では, 座位姿勢においてはこの 2 つの筋群はどのようなバランスになっているのだろうか 座位では両股関節が 90 近くに屈曲し, 腸腰筋群 の張力は少なくなり, 殿筋群 の張力が大きくなる それによりバランスが崩れ, 骨盤は股関節を中心として後ろに倒れようとする ( 図 2) つまり座位姿勢は, 人体構造上, 骨盤が倒れる姿勢といえる 図 2 座位時の骨盤周囲の安定性のメカニズム 2

一般的に言われている座位姿勢での 90 ルール とは, セラピストのみならず, 誰もが子供のころから一度は言われたことのある, いわゆる 良い姿勢 とされている座り方だと思われる 学校の先生が 姿勢を正して座りなさい と指導するあの座り方である ( 図 3) 骨盤に対して体を 90 に垂直に立てる座り方は, 人体の構造上, 健常者であっても継続して座り続けることは困難である 人は座るとき, 後方に倒れようとする骨盤を意識的に, もしくは無意識に筋力の作用で安定させている 高齢者や障がい者は, その抗重力に関与する筋力が低下していていたり, 制御困難なために, わざわざ筋力を発揮されての骨盤を起こした座位姿勢を保持することが困難である また, 骨盤を起こす筋力を持続的に発揮しないと維持できない姿勢だともいえる そして, 筋力を発揮することで起こるであろう筋のこわばりが, 他の筋のこわばりを生じさせるというリスクも考えられる そこで骨盤を 倒れすぎない角度 ( 注 1) まで倒し, 背もたれにもたれさせ, 人の身体を物体として安定させる これにより, 過剰な力を入れなくても姿勢を保持し, その人本来のニュートラルな姿勢を見つけていくという方法がキャスパーである 注 1: 骨盤が後方に倒れすぎると背中が丸くなり, アゴが前方に出たような姿勢になるが, 倒れすぎない角度で背もたれにしっかり乗せることができると, そこを土台として上部胸 郭が起き上がり, 頭部はアゴを引いて前に向きやすくなる 図 3 いわゆる良い姿勢 (90 ルールの姿勢 ) 3. 姿勢のベースポジション筋力低下している人や, うまくコントロールできてない人は 90 ルール の座位姿勢では, 身体が安定せず, 代償固定が必要となってくる 不安定な姿勢を固定するために, 力が入り, 前方に固まる, または後ろにのけ反る, もしくは横に倒れないように片側の体側と上肢を引き込み, 固定することで姿勢を安定しようとする反応が出る それは, 不安定という要因に対して負の作用としての代償固定が始まり, 姿勢が崩れてしまう ( 姿勢保持が困難 ) 姿勢が崩れて不安定になる姿勢をさらに固定しようとして, 代償固定が強ま 3

り, 悪循環へと陥ることも多い 代償固定で固まった姿勢のままでは, 身体を動かすこと, 活動することは困難である 何か作業をするとき, 常に力んでいると作業はできなく, 本来の本人の持つ機能が引き出せずにいることとなる キャスパーでは物体として身体を安定させることにより, 不安定になる要因を取り除き, 代償固定する必要をなくしている その結果として, 力が抜けてベースポジションをとれるようになる つまり, どんな作業をするにしても, ベースホポジションに戻れることが重要であると考える キャスパーは ベースポジションが活動をするに起点となる という考え方でもある 3-1. 安定と不安定とはキャスパーでは, まず 重力から引き起こされている不安定 を定義し, その不安定がなくなる環境が 安定した環境 と考える ( 図 3) その不安定は, 各骨格を頭部, 胸郭, 骨盤のブロックに分けて捉え, 各骨格の不安定要素を分解して安定した環境を整える 図 3 不安定要素 人の身体は骨盤 胸郭 頭部という可動性のない物体を, 可動性のある腰椎 頸椎でつ なぐ不安定な物体である ( 図 4) 身体を物体的にイメージするために各骨格 : 頭部を ボール, 胸郭を カゴ, 骨盤を 板 それらをつなげている頸椎と腰椎は フレキシブルジョイント として捉えてみる * 頸椎, 腰椎の可動性範囲により, 各骨格の位置調整範囲が制限されるため, その制限の無理のない範囲で物体として安定させる 図 4 姿勢のデザイン 各骨格をつなぐ脊柱は身体の後方に位置し, 構造的に頭部, 胸郭は前倒れになる その不安定を筋の張力や腹腔の内圧によって維持するとともに, 腰椎の前彎により重心位置のバランスをとっている 立位姿勢では, 省エネルギー的に無理なく維持できるよう, 骨格の位置関係や筋の配置がなされ, 多くの筋張力作用が安定に貢献している テンセグリティ理論に照らし合わせて考えるとよく理解できる 4

その不安定な身体を安定させるには, 骨盤を傾け, 背もたれにもたれて安定させることが重要であり, さらに胸郭を載せる部分を作ることで第 2 の土台として安定をはかる キャスパーでは土台を安定させたうえに, 肩甲骨 頸椎 頭部の骨格軸を座面に対して垂直にし, その軸の上に頭部を乗せる姿勢を作ることを一つの目安とする ( 図 5) 従来の良い姿勢と言われている骨格の位置関係では, 筋の張力作用の変化等により, 物体と して非常に不安定な位置関係となり, 骨盤は後方へ過度に倒れようとし, それより上部は前に つぶれよう ( 体幹の前屈 ) とする 重力から引き起こされる各骨格の六つの不安定を, 座面や背もたれ, ヘッドレストを使って安 定させるためには, 骨盤から体を後方へもたれさせ, 座面で殿部が前にずれない位置関係と形状 にし, 身体を物体として安定させる * 注意 : 上記のイラストは, あくまでも変形や関節可動域制限のない方の基本的なラインであって, 従来のように, この一つの姿勢に近づけることを目的としてはいけない 一人一人の体の形状 ( アライメント ) と関節可動域に合わせた, その人なりの骨格の位置関係での安定があるので, 一人一人に合わせた 安定環境 があるということを決して忘れてはいけない 図 5 姿勢の安定化する方策 5

支持基底面について図 6 に示す座位での支持基底面は1の赤い線と言われるが, 股関節, 膝関節, 足関節の先にある足底までを体幹の機能的な基底面とするには, ハムストリングスをはじめ多くの筋コントロールが必要となる 2は, キャスパーでの支持基底面であり, 頭部, 頸部, 胸郭上部の骨格軸が支持基底面の中に収まっている? 2 A B 1 図 A は, 支持基底面を構成している殿部と大腿部をハムストリングスの収縮によって結合させることによって, 前方重心移動に対応できる機能的な支持基底面をつくっている 図 B はハムストリングスの収縮が乏しいために, 大腿部を支持基底面として活用することは困難である 図 6 支持基底面と姿勢の関係 3-2 基本的な各骨格部での安定と軸キャスパーでは身体の形状やライン ( プロポーション ) 可動性等の現状把握をし もたれる, のせる の考え方で, 以下の順で原則として, 肩甲骨 頸椎 頭部の骨格軸を床面に対して垂直になるように姿勢を整える 1) 坐骨を座面に載せる ( 図 7) 骨盤の角度に対して坐骨部のクッションの角度を 90 度にすることにより, 骨盤の前滑りが止まる 大腿骨部のクッション角度は股関節屈曲角度に無理のない程度に合わせる 図 7 坐骨と座面 6

2) 骨盤を 倒れすぎない角度 で傾け, 骨盤背面を背もたれにもたれさせる * 座位姿勢では倒れやすい骨盤を起こすのではなく傾け, 背もたれにもたれさせる 図 8 倒れすぎない角度 3) 胸腰椎移行部 ( 腰椎上部と胸郭下縁部 ) ( 図 9) を載せる 胸郭につながっている腰椎は可動性があり, 腰椎が潰れる ( 重みによって腰椎が後彎 ) ことで, その上の胸郭が下方に沈み込み, 前方へ倒れようとするので, 胸腰椎移行部を背もたれに載せる位置にする 図 9 胸郭下部のアライメント 4) 胸郭上部をもたれさせる ( 図 10) 胸郭下部にあたる胸腰椎移行部を載せ, それより上の上部胸郭を背もたれへもたれさせる その場合, 上部胸郭は肩甲骨が床面に対して垂直近くになるように位置関係を整える ( その位置になれない方には他の方法があるが割愛 ) 図 10 胸腰上部のアライメント 5) 頸部から後頭部を載せる ( 図 11) 上部胸郭が立つことにより, 頸椎に軸ができる方は, 載せるというより, もたれさせるとなる 後頸部の筋短縮等により, 頸部に軸が出ずに下へ沈み込み, 後方へ倒れようとする方は, 頸部から後頭部を載せる 7 図 11 頸椎のアライメント

6) 頭部をもたれさせる ( 図 12) 頸部に軸ができた環境での頭部を, その軸から外れない範囲の中で後方にもたれさせる * キャスパーでは, 機能的中間位と物体的中間位を分けて考え, ヘッドレストの位置を調節する 左図 : もたれる と 載せる を示した図 A,C,E は載せる B,D,F はもたれる これは, あくまでも変形のない可動域制限のない方での例であり, 肋骨隆起等を含めた変形や短縮がある方は, その方なりの 載せる もたれる ところがあるので, このイラストに捉われてはいけない 図 12 頭部のアライメント 4. 変形のある方の安定の考え方 ( ケース紹介 1) 非常に低緊張で首が座らず胸郭下部で右凸, 胸郭上部から頸椎で左凸の S 字側彎のある方 それまでの車椅子での姿勢は, 頭や体が倒れ, 体がとても不安定なので角度を起こすことができず, テーブルで遊ぶことができなかった 安定したキャスパーでの環境だと, 頭部, 頸部, 胸郭上部が立ち, 起こしても前を向いて座り続けることができ, おもちゃを使ってテーブルで遊ぶことができるようになった 4-1 前額面での安定性 ( 図 13) 前額面 頭部は右, 胸郭上部は左, 胸郭下部は右下に不安定になる それを, ご本人の無理のない可動性の中で, 頭部, 頸部, 胸郭上部が真直ぐになるような位置関係に整える その位置関係を整えるために, 肋骨隆起の凸部の頂点より下方部を右斜め後方に シフト させるように背もたれに 置く 場所をつくった ( 第 2 の土台 ) 8

図 13 前額面での安定性 図 13 前額面の安定 4-2 矢状面での安定性 ( 図 14) 矢状面 骨盤を垂直, 水平ではなく, 頭部, 頸部, 胸郭上部 ( 肩甲帯 ) が重力に対して前後に立つような位置にすることを目的とし, 骨盤の角度と胸郭, 座骨と 第 2 の土台 の位置関係を調節する 1) 骨盤に対して, 大腿骨が 90 屈曲制限のある方は座面に自転車のサドルの形状をつくり, 無理なく逃す 2) 座骨の座面部も骨盤に対して 90 3) 第 2 の土台に胸郭を載せる 図 14 矢状面の安定 9

4-3 第 2 の土台 ( 図 15) 座面を第 1 の土台とするなら, 第 2 の土台とは, 上記の位置関係をつくるために, 側彎凸側の一番出ている部分より下を 背もたれに載せるように, 置く ところを言う イメージとしては, 胸郭全体を凸側に 右斜め後ろにシフトする という感じである 図 15 第 2 の土台 4-4 頭部, 頸部, 胸郭上部に軸ができて安定すると ( 図 16) 上肢を使ってテーブルで遊ぶことができないと言われていた方だが, 継続的に非常に上手に遊ぶことができるようになった 頭部をヘッドレストから起こす筋力はないが, 常に真っすぐに前を向いて, 顎が出ることもなく, おもちゃを見続けることができるようになった 図 16 座位保持装置完成 10

5. 変形のある方の安定の考え方 ( ケース紹介 2) 脳性麻痺アテトーゼタイプ,ATNR( 非対称性緊張性頸反射 ) が出るとされていた方 それまでの正中位に近づけようとしていた環境では,ATNR が出て, 体幹も頭部もグラグラと不安定である 上肢も右手は後方に引かれ, テーブルに肘をつきながら手先で遊ぶか, 体を後方に過度に押し付けながら手を使っていた 安定したキャスパーでの環境では, 頭部は常に前を向き, 体や上肢はリラックスした状態でしなやかに様々な遊びができる ATNR が出現しなくなった 床座位時, 体幹の右側を引き込んで固定する癖がついていたが, 日常的にリラックスして左右均等に動けるようになることにより, 床座位でも左だけに引き込むことはなくなり, 右側に体重移動できるようになった 手が後ろにひかれずに上手に使うことができました 注 : 左に引き込んで固定する癖がついていたが, 安定した環境によって左右にいけるよう になった 図 17 座位の変化 6. 日常姿勢の管理 下記の図 18 は, 実際の日常の子どもたちの写真からトレースしたもので, 学校, 家庭での様子である これらは厳密な 90 ルールではなく, いわゆる 良い姿勢 あるいは 正中位 という概念に基づいて作られた椅子である 製作直後の適合時には, 子どもたちも周りの期待に応えようとして一生懸命まっすぐに座ろうとし, 良い姿勢に見えるが, それは本当に短い時間であり, 日常的には, 下記のイラストのような姿勢になっていることが多い また, 短い時間でもその姿勢をよく観察すると, 様々な部分に代償固定や過緊 11

張が見られ, その姿勢が維持できたとしても, 多くの負の現象を抱えてしまうこととなる 要するに継続した代償固定をしなければ座れない椅子であり, またその代償固定を継続しても, しなやかな上肢の動きや頭部のコントロールや体幹の安定等の次の段階にはつながらず, 多くは徐々に体が硬くなり, それまで出来ていた動きができなくなっていく また,1 日 5 時間から長い人は 8 時間以上毎日座る 仮に 1 日 4 時間座るとして,1 ヶ月約 80 時間 1 年 960 時間小学校 ~ 高校までで 11520 時間という膨大な時間をこの姿勢で過ごすことになり, そこから引き起こされるであろう壮絶なリスクは想像に難くない そして, 何よりもキャスパーで起こる変化から考察すると, これらの姿勢の多くは不安定から引き起こされている状態であり, 決して障害が直接引き起こしているわけではなく, 二次的, 三次的な負の現象と言え, 逆に体が安定できる環境を手に入れることにより, 現状の多くのリスクを回避できると考えられる 図 18 不良姿勢 7. 客観的に観察することから新しい試行錯誤が生まれるキャスパーは現実に目の前で起こっていることを客観的に観察することから始まった もちろん, いきなり現在の考え方になったのではなく,1991 年からそれまでの 90 ルール に近づけようとした椅子製作をするなかで, その限界や矛盾を感じることから様々な試行錯誤が始まり, それまで常識とされていたことに対しても疑問を持ち, 目の前で起こっている現実を直視し, 本当に必要な支援環境とは という課題に永遠と取り組むなかで生まれた一つの考え方である その変化からそれまでの常識とされていることを私な 12

りに再考してみた * 90 ルールまでは必要ないが, それに近づけることは良いことだ 骨盤を床面に対して 90 の垂直に起こすことまではしていない しかし, どれくらいの角度が良いのかもはっきりしない 全体の姿勢を観察しながら経験値を元に無理のない範囲で骨盤を起こそうとしている それは試行錯誤の始まりでもある しかし, その範囲の中で起こる変化が, キャスパーで起こる継続的な変化とはならず, とても短い時間の変化だとしたら, 試行錯誤の範囲を広げる必要がある また, できれば 90 に できれば少しでも正中位に という概念を持ちながらの試行錯誤ではキャスパーでの継続した安定という環境になることは難しい まずは 正中位 90 という概念を無くし, 体全体を 物体 としてとらえ, 各パーツが重力に対してどのような位置になれば 安定 し, 上部胸郭から 骨格軸 ができるかを考えることから始める必要がある * 活動的な姿勢を目指すには良い姿勢と言える 良い姿勢 こそが活動的な姿勢であると考えられてきたが, 身体が不安定な状態では活動的な姿勢とは言い難い 特に肢体不自由の子どもたちにとっては身体が安定するからこそ活動的なことができるようになる 作業性も含め身体が安定することは非常に有利である 前傾が活動的で後傾が休息位だという捉え方も, キャスパーの変化を見ると現状をうまく説明できていない 背もたれにもたれているが, リラックスした状態で頭部から上部胸郭までが垂直になれる環境を整えることでしかアクティブになれない方も肢体不自由の子どもたちのなかには沢山いる 単純に前傾, 後傾と切り分けるのではなく, もっと詳細な体の安定とポジションを整えるという発想が必要である * 立つ準備段階としての姿勢でもある 座位姿勢の中で本当に立つ練習ができるのか? 必要なのか? を再考する必要があると考える 私の 25 年の経験の中で, 正中位を目指した不安定な座位環境を継続することで, 立つ練習ができていると感じたことは一度もなく, また, 多くのセラピストに尋ねても, 不安定な座位姿勢の中でそれらの練習ができているとは思えないと言う 座位は座位でしかできないことがあり, その環境のなかに立位という全く違う姿勢の概念を持ち込むこと自体に矛盾がありはしないだろうか * ( 脊柱 ) 起立筋が働いて抗重力姿勢である 単に起立筋, 抗重力筋の筋活動が起こっているかどうかをみるのではなく, その筋活動は不安定に対する代償固定としての過緊張ではないのか? その緊張を継続することで, 将来しなやかな運動につながるのか? 等を注意深く観察する必要がある 何故なら, 不安定から引き起こされる代償固定は, 違う箇所での代償固定を呼び, 長時間その状態にいること自体が大きなリスクを抱えてしまうことになるということが, キャスパーでの変化で明らかになったからである もし, その筋活動が将来しなやかな動きに変わらないと予測できるなら, 一刻も早くその状態を継続することを避けなければならな 13

い 8. おわりに今, 客観的にはっきりとお伝えできるようになったのは,25 年という時間経過での変化が明らかになったからである キャスパーの安定環境を手に入れた子どもたちが, その場で様々な変化を起こしてくれることは当初から沢山経験してきたが, その環境で 10 年, 20 年という長期間過ごすことで起こるかもしれない様々なリスクは未知であった しかし,25 年の経験の中で, キャスパーでの環境で長期間過ごしてもリスクがほぼないということがわかった 要するにキャスパーは特別な環境を作っているわけではなく, 我々が日常的に行っているような状態になるということである 我々は日常生活で過度な緊張状態や過度な代償固定をしている時間は少なく, 一般的な活動や作業では, リラックスしたまま手を動かし, 頭や体幹をコントロールしている キャスパーでの安定環境は, その状態を椅子という道具を使って整えているだけだと言える リラックスと弛緩は全く違うことであり, 日本特有の ガンバリズム からよく言われる 楽をさせ過ぎてはいけない という考え方も, 不安定な環境の中で起こしている頑張りは, 本当に次につながっているのか? ということを一つ一つ検証する必要がある また, キャスパーでの変化と比べると, その 頑張り は次につながるどころか, 様々な負の現象の要因になっていると考えられるのではないだろうか キャスパーはどのような方に適応が良いのか? という質問をよく受けるが, 私は適応を考える必要はないと思う 基本的にキャスパーの環境を手に入れている方はほとんどおられないので, その環境を整えた時にその方がどのように変化するのかは, すべての方に試す価値のあることだと考えるからである もう一つ付け加えるとキャスパーでは食事のしやすい姿勢を作ろうとか, 手を使いやすくするにはどうすれば良いのかということはスタート時には考えない あくまでも重力に対して物体的に安定させることを主眼とすることで, その環境が整うと自然と嚥下がしやすくなり, 手の操作が上手になる その環境が整った後, 椅子以外の環境 ( 対象物の位置関係や書見台, クッション, 肘パット等 ) や頭部の角度, 上肢の位置関係等を整えて, よりやりやすくするための工夫をする * キャスパーの是非を決めることに意味はない 何故ならキャスパーは, 今のままで良いはずがない しかし これ以上やりようがない と思われている方々にとって, 違う試行錯誤を始めるきっかけになるのであって, キャスパー的安定環境を最終目的としていないからである 試行錯誤しながら現在までまとめてきたキャスパーがおかしいという部分があれば, 修正すれば良い こうあらねばならない を持たずに, どうすれば良いのだろうか? を忘れずに, 子どもたち, ご家族にとっての本当の目的のために試行錯誤するための手段として捉えていただければ幸いである 14