みずほインサイト 米州 04 年 6 月 3 日 共和党勝利 で何が変わるのか米中間選挙後のオバマ政権を考える 欧米調査部部長安井明彦 03-359-307 akihiko.yasui@mizuho-ri.co.jp 米国の議会中間選挙では 共和党が上院で多数党を奪回し 上下両院を支配する可能性が指摘されている オバマ政権が自らの政策を推し進めるには 厳しい展開である もっとも議会に限定すれば ねじれ議会 の解消で立法作業は進みやすくなる面がある 共和党との妥協を受け入れるのであれば オバマ政権が法律を成立させられる機会は増える可能性がある 上院で多数党になったとしても 共和党の地位は安定的ではない 政策運営に対する責任をより明確に負わされることで 共和党にも 反対一辺倒 の姿勢を改める圧力がかかろう. オバマ政権が望まない形での ねじれ議会 の解消? 04 年 月 4 日に投票が行われる米国の議会中間選挙で ねじれ議会 の解消がささやかれている 上院において 共和党による多数党奪回の可能性が現実味を帯びているからだ 米有力機関による現時点での予測によれば 下院では共和党の多数党維持が確実視されている 006 年に失った上院多数党の座を共和党が奪回しさえすれば ねじれ議会 には終止符が打たれそうな状況である その上院においては 共和党の議席増はもちろんのこと 多数党奪回に必要な6 議席の上積みも不可能ではないとの見方が一般的である ( 図表 ) 図表 議会現有議席と戦況 共和党による ねじれ議会 の解消となれば 民主党による ねじれ議会 の解消を目上院 ( 現有 ) 民主党共和党指してきたオバマ政権には 期待はずれの展開だ 00 年の議会中間選挙で生まれた ねじれ議会 上院 ( 戦況 ) は 上下院の多数党を分け合う民主党 共和党の拮抗厳しい党派対立によって 決められない政治 下院 ( 現有 ) の元凶と目されてきた だからこそオバマ政権は 04 年の中間選挙で 民主党による上下両院の多下院 ( 戦況 ) 数党獲得を期待してきた 中間選挙が終わった後 0 50 00 オバマ政権が任期が終わるまでの 年間で自らの (%) 政策を推し進めるには 後押ししてくれる民主党議会の存在が好都合だからである ( 注 ) 下院は Cook Political Report Rosenberg Political Report University of Virginia の 3 機関 上院は FiveThirtyEight New York Times を加えた 5 機関の平均 04 年 6 月 日確認時点での最新発表予測 ( 資料 ) 各社資料により作成
期待に反して共和党によって ねじれ議会 が解消された場合には オバマ政権は自らの政策を推し進め難くなる 議会の主導権を共和党に掌握されるからである 現在の ねじれ議会 であれば 少なくとも上院においては 多数党を占める民主党が ある程度は政権の意向を代弁してくれる これが共和党議会となれば 議会の立法過程に政権の意向が反映される可能性は小さくなる とくに重要なのは アジェンダを設定する力である 大統領に拒否権がある以上 共和党が上下両院で多数党を握ったとしても 思うがままに法律を成立させられるわけではない 自らの意向だけでは政策を進められないという点では 共和党の状況は今と変わらない しかし世論への影響という点では 法律を成立させられるかどうかに関わらず 議会が 何を 論戦の対象に選ぶかが重要な意味をもつ 現在の ねじれ議会 であれば 上院のアジェンダは民主党が設定できる このためオバマ政権の提案は 少なくとも上院では議論の遡上に上る 共和党が下院で政権に都合の悪い法案を通しても 上院では民主党が審議すらせずに門前払いにすることも可能だ 共和党議会では こうした環境が一変する オバマ政権の提案は 議会での議論の機会すら与えられずに葬り去られかねない それどころか共和党は 議会の調査権限を活用して オバマ政権のスキャンダルを次々に追及することすら可能になる. 議会運営は円滑に? もっとも議会運営に限れば 共和党による ねじれ議会 の解消によって 立法作業は円滑になる面がある オバマ政権が共和党との妥協を受け入れるのであれば 法律を成立させられる機会は増える可能性がある ねじれ議会 の最大の問題は 生産性 の低さである 上下両院の意見の違いが埋められないために 議会が可決する法律の本数は 過去最低の水準にまで落ち込んでいる 米国における立法過程の 基本形 を 政策に対する両政党のスタンスを横軸にとって整理したのが図表 である まず法案は上下院それぞれで審議され () その内容が一本化された上で() 大統領との調整に進む 最終的には 大統領と議会の意見が一致したところで (3) 法案は成立の運びとなる ねじれ議会 図表 各党のスタンスと立法過程 共和党議会 大統領 3 3 上院 議会 下院 民主党共和党民主党スタンスの違いスタンスの違い ( 資料 ) みずほ総合研究所作成 共和党
最終的な法律のスタンスという点では ねじれ議会 はオバマ政権にとって有利な組み合わせである筈だった 法案の審議は 上院では民主党 下院では共和党のスタンスで始まる () 最終的に議会が可決する法案は両者の中間 () となり これが大統領と調整される過程で さらに民主党寄りにシフトすることが想定されていた (3) しかし実際には こうした 基本形 のようには物事は進んでいない 民主党と共和党の意見の違いが大きすぎるために 上下院のスタンスの違いがなかなか調整できない (に至らない) からだ それどころか そもそも上下院では設定されるアジェンダ自体が一致せず 両院で全く異なる題材の法案を議論している場合すら少なくなかった オバマ政権とすれば 議会が可決した法案を自らのスタンスに引き寄せる前に そもそも交渉すべき法案が議会から上がってこないのが現実である 共和党議会の下では こうした状況が大きく変わる ( 前掲 図表 ) 現状の ねじれ議会 よりも 多くの法案が大統領に届けられる可能性が指摘できよう 法案審議における上下院の出発点は同じであり () ねじれ議会 よりも両者のスタンスの調整は格段に容易になる そもそものアジェンダ設定も 共通の軸で進め易くなるだろう このように考えると ねじれ議会 の解消によって オバマ政権は現状よりも法律を成立させられる機会が増える可能性がある もちろん実際に法律を成立させるためには オバマ政権が共和党との妥協を受け入れることが条件になる 共和党議会においては 可決される法案のスタンスが現在よりも共和党寄りになる このため 政権が歩み寄らなければならない距離は長くなる 前掲の図表 を使って説明しよう 共和党議会の下では 最終的に議会が可決する法案に共和党のスタンスが反映されやすくなる () 上院では一定の民主党議員の賛同を得る必要があるために 3 民主党寄りのスタンスへのある程度の修正は行われようが 二大政党が対等な立場でぶつかる ねじれ議会 と比べれば修正の度合いは小さい 結果的に 最後に行われる大統領と議会の調整では ねじれ議会 の場合よりも両者の中心点は共和党寄りになる (3) 3. 共和党にも妥協への圧力はかかる見逃せないのは ねじれ議会 の解消が 共和党にもオバマ政権との妥協を受け入れる圧力になり得ることだ オバマ政権が妥協の必要性を認めたとしても 共和党に応じる意図がなければ法律は成立しない 政権と議会の双方が歩み寄ってこそ 決められない政治 打開への希望が生まれる 共和党に妥協への圧力が働く理由は二つある 第一に 政策運営に対する 責任 をより明確に負わされることである ねじれ議会 であれば 議会の 生産性 の低さに対する責めを 上院多数党の民主党と分け合えた しかし共和党が上下両院の多数党を獲得すれば 政策運営に対する責任はより明確になる 共和党には 反対一辺倒 の姿勢を改める圧力がかかろう 第二に 共和党による上院多数党の地位が 必ずしも安定的ではないことだ 上院共和党は 04 年の議会中間選挙で多数党の座を奪回したとしても これに続く06 年の議会選挙では苦戦を強いられる可能性が高い それだけに上院共和党には 06 年の選挙までに多数党獲得の 成果 を示す圧力がかかりそうだ 3
06 年の上院選挙で共和党が苦戦を強いられる可能性が高い理由は 改選議席の組み合わせにある 全ての議席が 年ごとに改選される下院と異なり 上院では 年ごとに総議席の3 分のずつが改選される 04 年の議会中間選挙で共和党に上院多数党奪回の可能性がある背景には 改選となる民主党の議席の数が多いことに加え 民主党の地盤が弱い議席が改選に当たっている場合が少なくないという事情がある 06 年の上院選挙では 攻守が入れ替わる 図表 3では 04 6 年に改選となる上院の議席が属する州と それぞれにおける0 年の大統領選挙の結果を示している ここに示されているように 06 年の上院選挙では共和党の改選議席数が民主党を大きく上回る 同時に 06 年に改選となる共和党の議席では 0 年の大統領選挙で共和党候補 ( ロムニー前マサチューセッツ州知事 ) が苦戦した州が少なくない 04 年の上院選挙において 民主党の改選議席に0 年の大統領選挙で民主党候補 ( オバマ大統領 ) が苦戦した州が目立ったこととは対照的である もちろん 04 年の議会中間選挙の結果だけをもって 決められない政治 が劇的に変わると期待するのは行き過ぎだろう 米国議会の 生産性 の低下は 長期的な傾向である 4 それでも 共和党に支持の多いTPP 等の通商案件やエネルギー開発 さらには 共和党でも問題意識が高まっている移民制度改革など これまで停滞してきた政策課題の中には 妥協の可能性がある分野が含まれている オバマ政権としては 04 年の中間選挙が期待はずれの 共和党による ねじれ議会 の解消となった場合でも そこに一条の光を見出すことは可能かもしれない 図表 3 上院改選議席と 0 年大統領選挙の結果 <04 年 > <06 年 > < 民主党改選 > 民主党優位 < 共和党改選 > 共和党優位 < 民主党改選 > 民主党優位 < 共和党改選 > 共和党優位 ハワイ ワイオミング ハワイ ユタ ロードアイランド バーモント マサチューセッツ ニューヨーク アイダホ デラウェア アイダホ メリーランド アーカンソー ニュージャージー ケンタッキー カリフォルニア ケンタッキー イリノイオレゴンニューメキシコミシガンミネソタアイオワニューハンプシャーコロラドバージニアノースカロライナモンタナアラスカルイジアナサウスダコタ アラバマネブラスカカンザステネシーテキサスミシシッピサウスカロライナサウスカロライナジョージアメイン コネチカットワシントンオレゴンネバダコロラド アラバマカンサスノースダコタサウスダコタルイジアナアラスカサウスカロライナインディアナミズーリアリゾナジョージアノースカロライナフロリダオハイオペンシルバニアニューハンプシャー アーカンソー ウィスコンシン ウェストバージニア イリノイ 40 0 0 0 40 60 40 0 0 0 40 60 80 40 0 0 0 40 60 80 40 0 0 0 40 60 80 ( 注 ) 上院議席改選州における 0 年大統領選挙の得票率の差 ( 議席現有政党候補の得票率 - 対立政党候補の得票率 ) 特別選挙等の影響で同じ州で 議席が改選となる場合は重複して表示 ( 資料 ) ワシントンポスト資料等により作成 4
ねじれ議会 は 上院と下院で多数党が異なる状況を指す ちなみに 上院と下院の多数党が同一である場合には これと大統領の所属する政党が異なる状況を 分割政府 同一である状況を 統一政府 と呼ぶことがある 04 年の議会中間選挙の場合 大統領 ( オバマ ) が民主党であるため 共和党による ねじれ議会 の解消は 分割政府 民主党による ねじれ議会 の解消は 統一政府 となる 安井明彦 04 年の米中間選挙を俯瞰する ( みずほ総合研究所 みずほインサイト 04 年 月 日 ) 3 04 年の議会中間選挙で共和党が上院の多数党を獲得したとしても 民主党による議事進行妨害を阻止できる安定多数 (60 議席 ) には届かないと考えられるため 4 Binder, Sarah(04), Polarized We Govern?, The Brookings Institution, May 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証するものではありません また 本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります 5