< 海外事情調査 > 海外の Port and Harbor インド港湾の近況 1. はじめに インドは BRICs( 新興市場経済圏 ) の一角として 現在急速な高度経済成長のさなかにある 図 1 は 最近 5 ヵ年のインドの GDP と主要 11 港のコンテナ取扱量の推移を示したものであるが 経済成長に伴って港湾の物流量もめざましく増加していることを示している こうした貨物需要の伸びに 関連のインフラ整備は追いついていけるのだろうか ( 千 TEU) 12,000 11,000 10,000 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 インド 11 港湾のコンテナ取扱量 ( 千 TEU) インドの GDP( 億 US ドル ) 中西福島 雅時豊 12,000 11,000 10,000 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 ( 億 US ドル ) 2008 年 10 月にインドのマンモハン シン インド首相が訪日したおり 首脳会談の中で麻生総理はインドのインフラ整備を支援すべく貨物専用鉄道建設計画 (DFC) への支援開始を決定したと述べた この DFC 計画とは 内陸に位置する首都デリーを中心として 国際貿易の港湾拠点である東側のコルカタと西側のムンバイを結ぶ二つの輸送回廊に鉄道幹線を整備する計画である 特に デリー ムンバイ間の幹線地域は 日本の投資拡大に資する潜在性を有すると考えられている 両国首相が署名した 日印戦略的グローバル パートナーシップの前進に関する共同声明 には DFC 西回廊計画を 我が国の技術を活用する条件付きの円借款 (STEP) により支援し 日印協力の象徴的プロジェクトとして実現したいと述べられている 第 1 フェーズへの円借款の総額は約 4,500 億円と概算されている またインド南部では 大手自動車工場をはじめ多くの海外企業が集積しつつあるチェンナイ バンガロール ハイデラバードなどの窓口となる港湾の重要性が増してきている 本稿では こうしたインド経済および日印の協力関係を背景として最近実施した現地調査の結果に基づき 貨物輸送の要となる主要港湾の現状と将来計画について報告する 3,000 2,000 1,000 0 2003 2004 2005 2006 2007 3,000 2,000 1,000 図 1 インドの GDP とコンテナ取扱量 ( 主要 11 港 ) の推移出典 :IMF, World Economic Outlook Database October 2008 及び ci-online 図 2 インドの主要港湾位置図 2. メジャーポートとマイナーポート インドの港湾は 中央政府が管理する港湾とそれ以外の港湾に分類される 図 2 はインド国内の全てのメジャーポートと グジャラート州の 3 港のマイナーポートの位置を示している 中央政府が管理する港湾はメジャーポートと呼ばれ それ以外はマイナーポー 0 44
OCDI QUARTERLY 77 表 1 インド主要 11 港湾のコンテナ取扱量の推移 ( 単位 :TEU) 港湾名 2003 2004 2005 2006 2007 カンドラ港 170,035 181,000 148,625 178,000 167,000 ムンバイ港 196,500 218,724 156,122 138,201 117,596 ジャワハルラル ネルー港 (J.N. 港 ) 2,268,989 2,371,338 2,666,703 3,298,328 4,059,843 ニュー マンガロール港 6,927 8,943 9,646 17,290 8,142 コチン港 169,965 185,175 203,112 226,808 242,890 ツチコリン港 253,880 307,310 321,060 377,102 450,398 チェンナイ港 1,052,993 957,400 735,000 617,000 539,265 ビシャカパトナム港 21,307 20,441 45,000 49,051 52,694 コルカタ港 233,695 287,755 313,753 349,072 415,304 ムンドラ港 19,965 177,897 298,336 459,732 671,000 ピパバブ港 17,719 67,087 80,684 135,167 192,017 はマイナーポート ( 民間港 ) を示す 出典 :ci-online 表 2 インドの主要港のコンテナ ターミナル オペレーター 港湾名 ( 施設名 ) 法人名 コンテナ ターミナル オペレーター ジャワハルラル ネルー港 ( 第 1 バース ) NSICT Dubai Port International ( 第 2 バース ) GTI AP Moller Terminals, Denmark チェンナイ港 CCTL Dubai Port International ツチコリン港 PSCTL PSA International, Singapre ビシャカパトナム港 VGTPL Dubai Port International コチン港 IGTPL Dubai Port International ムンドラ港 GPPL Dubai Port International ピパバブ港 GAPL AP Moller Terminals, Denmark はマイナーポート ( 民間港 ) を示す ト ( または ノン メジャーポート ) と呼ばれる マイナー の持つ語感とは異なり 単に管理主体の違いを示すものである メジャーポートはそれぞれのポート トラストと呼ばれる港湾公社が管理しており 公社の経営は中央政府が任命する役員会 ボード オブ トラスティーが行っている 港湾建設 管理等の予算は中央政府から拠出される 一方 マイナーポートは州政府の管理下にある 全国 187 港のマイナーポートの大部分は民間港である 従来は一般にメジャーポートが大規模港湾でマイナーポートは地方の小規模港湾と言う棲み分けであったところ 最近の民間会社によるコンテナターミナル建設 運営の世界的なブームにより様子が変化している 図中のムンドラ港やピパバブ港は 世界の主要コンテナオペレーターがターミナルの建設 運営を行う本格的な貿易港になりつつある 主要 11 港湾の最近 5 年間のコンテナ取扱量の推移は 表 1 に示すとおりである 壁等の施設を民間が借受または建設し管理運営する BOT の形態で民営化が図られている 例えば J.N. 港の第 1 バースの NSICT 第 3 バースの GTI がその代表例である 一方 州政府管理のマイナーポートの中には コンセション契約によって 州政府が民間企業に港湾区域の開発権を付与する形態が取られている港湾がある この場合 公共施設を含む全てを民間企業が建設することになる こうした民間港で本格的なコンテナターミナルを持つ港は 現在グジャラート州にいくつか見られる ( 図 2 参照 ) 例えば 表 2 のムンドラ港は 地域の財閥企業アダニグループが開発した港 ピパバブ港は APM Terminals 出資の現地法人が開発した港である この他 ハジラ港では シェル グループが開発した LNG 基地港の一部にコンテナ ターミナルを建設する計画が進められており コンテナ オペレーターとして PSA が内定している 3. 港湾管理運営の民営化の現況 中央政府管理のメジャーポートでは 航路 防波堤等の施設を国が建設し ターミナル施設や一部岸 4. デリー ムンバイ間貨物専用鉄道建設計画 (DFC) 西回廊の主要港湾 ジャワハルラル ネルー港 (J.N. 港 ) 45
ジャワハルラル ネルー港は ムンバイの東に位置し 延長約 2,000 mのコンテナバースと約 60 haのコンテナヤードを持つ 港湾の管理は JNPT(Jawaharlal Nehru Port Trust) が行っており コンテナターミナルは BOT 契約で民間のオペレータが運営している 各ターミナルのオペレーターは JNPCT が JNPT 直営のオペレーター NSICT が Dubai Port International の出資会社 GTI が APM Terminals と CONCOR( 政府系鉄道運営会社 ) とのジョイントベンチャー企業である いずれのターミナルも岸壁水深は -13.5 mとなっており 航路は水深 -11 mであるため 満潮時の操船で出入港管理が行われている 最近 航路浚渫工事の入札がなされ 計画では -12.8 mに増深される予定である 将来計画として 北側に 300 m 南側に 2,000 mの新たな岸壁を建設し 背後を埋立ててコンテナヤードとする案が現在中央政府の許可手続き中である これらが完成すれば 同港のコンテナ取扱い能力は 840 万 TEU ほどになると推定される 図 4 にジャワハルラル ネルー港の施設配置と将来の開発計画を示す 図 3 ジャワハルラル ネルー港のコンテナ ターミナルと将来拡張計画 破線表示は将来の拡張計画出典 :JNPT パンフレットより抜粋 加工 ムンドラ港ムンドラ港は グジャラート州カッチ湾に位置している バース数は合計 12 で この内 8 つが一般貨物バース 残り 4 つがコンテナバースである 港湾の建設 管理は 民間会社アダニグループのMundra Port and SEZ 社 が グジャラート州政府とのコンセショ図 4 ン契約により港全体の開発権を取得して行っている コンテナバース 4 つのうち 2 つは Dubai Port International の出資会社 MICT(Mundra International Container Terminal) がBOT の契約で運営している 残りの 2 つは Mundra Port and SEZ 社が直営で運営する ムンドラ港のコンテナ ターミナルと将来拡張計画出典 : 現地調査収集資料を加工 ムンドラ港は現在の港湾の南側に新しく防波堤建設 埋立てによる用地造成を行い 港湾を大規模に拡張する計画を持っている 計画には 新規コンテナバース 8 つ 自動車専用 RORO2 バース 石炭専用 1 バースが含まれている 46
OCDI QUARTERLY 77 図 5 ピパバブ港の施設配置出典 : ピパバブ港 HP ピパバブ港ピパバブ港は グジャラート州カチャワル半島の南側に位置する民間港である 港湾の管理者は APM ターミナルであり グジャラート州とのコンセション契約により開発権を取得して建設した 係留施設として延長 725m の多目的バース バルク専用バース 1 基 液体貨物桟橋 1 基があるが 現在 多目的バースの半分をコンテナ専用バースに更新し 新たに 350m のコンテナバースを建設中であり 2008 年 1 月現在これらはほぼ完成している 岸壁水深は船舶喫水 12.5m 仕様である APM ターミナルへのヒアリング調査によると 現有設備で 100 万 TEU の取扱量を目指す方針である コンテナ取扱量は年々増加しており 2006 年の取扱量は 13.5 万 TEU である ている バースは最大喫水で 13.4 mまでの船舶を許容し ヤード面積は 25 万m2である 将来計画として 港湾敷地内の東側に新たなコンテナターミナルを BOT で建設する計画で 既に PSA と地元 SICAL とのコンソーシアムが特定され建設中である 取扱能力は年間 100 万 TEU 建設費は予算で約 50 億ルピーと報告されている バースの建設は着々と進み 次第に形が見えてきつつある第 2 ターミナルだが もともと 20 世紀前半の荷役方式 貨物量予測 船舶形状などの想定で建設された港湾のため 水域陸域ともに狭く 荷捌き 5. インド南部の主要港湾 チェンナイ港チェンナイ港は 東海岸タミルナドゥ州に位置するメジャーポートで 全 21 バース うち 4 バース 885 mがコンテナバースである 港湾管理は ChPT(Chennai Port Trust) が行っている コンテナターミナルの BOT オペレーター Chennai Container Terminal Ltd. は DP ワールドの出資会社で 年間 100 万 TEU 以上を取扱っ 図 5 チェンナイ港のコンテナ ターミナルと将来拡張計画出典 :ChPT プレゼンテーション資料より抜粋 加工 47
コンテナの搬出入 その他交通の処理には限界がある また インド第 5 位の人口を抱える既存市街地と隣接しているため 背後圏との接続にも課題がある 港湾直結のバイパス道路の整備計画があるものの 約 25 km北方のエンノール港も整備が進んでおり この近接する 2 港の役割分担も含め 今後の動向が注目される ツチコリン港同じタミルナドゥ州の南端部に位置するツチコリン港は 2 本の防波堤で確保された 400 haの水域に整備された港湾である バースは合計 14 最大喫水で 10.9 mまでの船舶を許容する 背後の火力発電所用の石炭とコンテナで貨物量の約 6 割を占める 現コンテナターミナルの取扱量は 45 万 TEU(2007-08 年 ) で その主品目は衣料品 綿糸 古紙 機械類である 貨物量は順調に増加しており 中でも綿糸の輸出とチーク材等の製材輸入増が著しい 図 7 ツチコリン港レイアウト出典 :TPT ビジネスプランより抜粋 加工 長期計画として石炭とコンテナ取扱量の増加を見込んだ 435 億ルピーの外港拡張を民間資金で計画している コンテナ取扱については短期的に既存ターミナルの隣を拡張し 84 万 TEU を目標としているが 長期的には 2025-26 年で 300 万 TEU の予測をしている 火力発電所の増強計画があること コンテナ貨物についても衣料産業の伸びが見込まれていることから 現在人口 20 万人の大都市マドゥライまでは 145 kmもの距離がある都市ではあるが 今後港湾背後に立地している衣料や銅精錬業などの既存企業の発展と新規の産業集積により 予測された貨物量が実現されることが期待されている 図 8 ツチコリン港外港拡張計画出典 :TPT 資料より抜粋 加工 しつつ開発を進めるマイナーポートでは 州政府の予算措置がなく 収益性のない基礎的インフラにも民間独自で投資しなければならない重荷を背負っている 6. 終わりに インドの港湾開発は 国管理のメジャーポートと 州管理のマイナーポート ( 民間港 ) の 2 局化を特徴としている ジャワハルラル ネルー港やチェンナイ港などのメジャーポートでは 港湾公社が国の予算で防波堤や航路等の基礎的インフラを整備している これに対し マイナーポートの経営者は メジャーポートの開発許可手続きは時間がかかり 機動性に欠けると批判する ところが 急速な経済成長に柔軟に対応 これら メジャー と マイナー のバランスの取れた成長が 今後のインド経済の将来を担っているとも言えるのではないだろうか ( なかにしまさとき第一調査部主任研究員 ) ( ふくしまゆたか第二調査部主任研究員 ) 48