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123 農産物直売所への加工品出荷者の食品衛生管理 食品表示に関する調査 Reserch on the Food Processor's Management of Food Hygiene and Labeling in Direct Sales Stores for Farm Products (2012 年 3 月 31 日受理 ) 清原昭子泉佑貴 Akiko Kiyohara Yuki Izumi Key words: 農産物直売所, 人の衛生管理, モノの衛生管理, 場所の衛生管理, 食品表示, 大量調理 要 旨 本研究では, 直売所への加工品出荷者の食品衛生管理 食品表示に関する実態を明らかにすることを目的として, 郵送法によるアンケート調査を行った 調査項目には, 人, 物, 場所それぞれの衛生管理, 食品表示の実態および研修会への参加状況に関する問いを設定した これらの回答について, 回答者の年齢 出荷理由による衛生行動の違いについて比較した 結果は以下のようであった 回答者全体として, 製造時のエプロン 帽子の使用率は高く, マスク 手袋 調理場用の履物 アルコール消毒液の使用率は低かった 原材料 ( 米 肉類 野菜 卵 乳製品 ) の温度管理については年齢層による差が見られた また, 包丁 まな板を野菜用と肉 魚用を兼用するか区別するかについても年齢層による差がみられた 一方, 加工品を常温のまま納品する傾向が回答者全体にみられた 食品表示に関しては, 全体的に適切に記載している割合が高く,60 歳以上の回答者では, 研修会への参加率がやや低い傾向がみられた 調査から, 出荷者に対しマスク 手袋 調理場用の履物 アルコール消毒液の使用を促し, 各食材に適した温度での保管を啓発する必要があることがわかった また, 包丁 まな板を適切に区分使用し, 納品の際の品温管理について注意喚起する必要がある 1. はじめに 現在, 各地に農産物やその加工品などを取り扱う直売所 ( 以下, 直売所 ) が設置され, 地域の活性化拠点としての機能を果たしている [1] 成長の過程で直売所への出荷品目は多様になり, 生鮮野菜や果物の他に弁当類やおこわ, 餅, 漬け物などの加工食品の出荷量が増加してきた このことは, 直売所へ出荷する人々 ( 以下, 出荷者 ) にとってのビジネスチャンスの拡大であるとともに, 食品衛生管理 食品表示に関する多様なリスクを抱えること も意味している 食の安全を確保することはあらゆる食品事業者に求められる基本的要件であり, 直売所も例外ではない 直売所の健全な発展のためにも, これらのリスクを引き起こす要因 ( 危害因子 ) を適切に管理していく必要がある しかし, 現在までに直売所とそこへ出荷される加工食品の衛生管理に関する研究はみられない むしろ, 直売所については生産者と消費者が直接取引するという商形態がもつ安心感からか, 取り扱われる食品の安全や衛生について検討されることはなかったのではないのではな

124 清原昭子泉佑貴 いかと考えられる 本研究では, 直売所に出荷される加工品の食品衛生 食品表示に関わる課題に着目し, これらを適切に管理するための基本情報を得ることを目的とする そこで直売所に加工食品を出荷する個人またはグループにおける食品衛生管理および食品表示に関する実態について明らかすることにした 2. 調査方法 調査は予備調査と本調査の2 段階の構成をとった まず, 予備調査として岡山県内の直売所 2ヵ所と, そこへ加工食品を出荷する個人出荷者の調理場の視察とヒアリング調査を実施した [2] この結果をもとに本調査用のアンケート調査票を作成し, 県内直売所への加工品出荷者を対象としてプレテストを実施した このプレテストにより, 調査票の質問項目や表現を修正し, 本調査用のアンケート調査票を作成した 本調査は, 岡山県内の直売所 41 ヵ所への出荷者を対象とし,2011 年 1 月 28 日 ~ 2011 年 2 月末日にかけて調査票の配布 回収を行った まず, 直売所の管理者に調査票の配布を依頼し, 直売所から出荷者に調査票を配布してもらった 調査票と同時に返信用封筒を配布し, 調査票は回答者から中国学園大学へ郵送により返送される形で回収した 回収した回答について, 回答者全体の年齢構成ごとの衛生行動に関するデータを概観した結果,60 歳を境に行動の変化が見られたので,60 歳未満と60 歳以上の回答者の衛生行動の違いを中心に検討することとした また, 予備調査の結果から, 出荷者が収入を得るためだけでなく, 趣味や生きがいなどを理由として加工品を出荷していることも考えられたため, 出荷理由について 1 収入を得る,2 趣味 生きがい,3その他に区分し, 衛生行動の違いを比較することとした 回答者の属性と各種の衛生行動の間でクロス集計を行い,χ 2 検定により有意性を検討した 調査項目は, 以下のとおりである 1) 回答者の属性に関する項目 年齢 ( 数値 ) 直売所への出荷方式 ( 選択式 ) 個人出荷 グループ出荷 直売所への出荷理由 ( 選択式 ) 収入を得るため 趣味 生きがいのため その他 2) 人の衛生管理に関する項目 エプロン 帽子 マスク 手袋 調理場用の履物 アルコール消毒液それぞれの使用状況 ( 選択式 ) 使用する 使用しない 3) 物の衛生管理に関する項目 原材料の保管方法米 魚介類 肉 野菜 卵 乳製品の保管方法 ( 選択式 ) 冷蔵または冷凍 常温 原材料として使用しない 包丁とまな板, それぞれについて肉 魚用と野菜用を区別しているか ( 選択式 ) 区別している 兼用している 使用しない 4) 場所の衛生管理に関する項目 加工品の製造場所 ( 選択式 ) 食品衛生法に基づく許可施設 専用調理場 家庭の調理場 夏季における調理場の窓と扉の状態 ( 選択式 ) 閉鎖している 開放している その他 加工品納品の際の温度管理 ( 選択式 ) ( 出荷する商品別に以下から選択 ) 冷蔵車 クーラーボックス 常温 その他 5) 表示 研修に関する項目 名称 原材料 アレルギー表示 内容量 消費期限 賞味期限 保存方法 生産者名の記載状況 ( 選択式 ) ( 出荷する商品別に以下から選択してもらう ) 記載あり 記載なし 食品衛生に関する研修会等への参加状況 ( 選択式 ) 参加経験あり 参加経験なしなお, 本調査は中国学園大学倫理審査委員会の承認を得ている

農産物直売所への加工品出荷者の食品衛生管理 食品表示に関する調査 125 3. 結果 表 3 年齢別, 出荷理由の分布 ( 実数, 割合 ) 1) 回答者の属性調査票の配布数は721, 回収数は276( 回収率 38.3%), うち有効回答は254であった 回答者の年齢分布を図 1に示す 20~29 歳 :2 人 30~39 歳 :10 人 40~49 歳 :7 人 50~59 歳 :35 人 60~69 歳 :108 人 70~79 歳 :75 人 80~89 歳 :16 人 90 歳以上 :1 人 図 1 回答者の年齢分布 60 歳未満 :54 人 60 歳以上 :200 人 直売所への出荷方式は, 個人出荷の割合が高く, 全体の86.1% を占める ( 表 1) また, 出荷理由別の出荷方式をみると, 趣味 生きがいのために出荷していると回答した人は, 数人のグループまたは農協の部会等 ( グループ 部会 ) で出荷している割合が高い ( 表 2) また, 年齢層別に出荷理由をみると,60 歳未満の回答者では収入を得るために出荷している割合が高く,60 歳以上の回答者では, 趣味 生きがいのために出荷していると回答した割合が60 歳未満の回答者より高い傾向にある ( 表 3) 表 1 年齢別 出荷方式の分布 ( 実数, 割合 ) 次に有効回答について, 人 物 場所に関する各衛生行動, 表示事項の状況, 研修会等への参加状況に関する回答についてクロス集計した結果を以下に示す 値は, 実数と回答に占める割合 (%) で表記し,χ 2 検定による有意水準 5% で有意な差がみられた場合に表に * を付した 2) 人の衛生管理に関する結果まず, 食品加工作業従事者の服装, 手指の消毒など人の衛生管理に関する質問項目に関する結果を述べる 年代を問わず回答者全体において, エプロン 帽子の使用率は高く ( 表 4,5), マスク 調理場用の履物 アルコール消毒液の使用率は低い傾向にある ( 表 6~8) また, 手袋の使用率は,60 歳未満の回答者では低く,60 歳以上の回答者ではやや高い傾向がみられた ( 表 9) 表 4 年齢別, エプロンの使用状況 ( 実数, 割合 ) * 表 2 出荷理由別, 出荷方式の分布 ( 実数, 割合 ) 表 5 年齢別, 帽子の使用状況 ( 実数, 割合 ) *

126 清原昭子泉佑貴 表 6 年齢別, マスクの使用状況 ( 実数, 割合 ) * 表 7 年齢別, 調理場用の履物の使用状況 ( 実数, 割合 ) * 回答でやや差がみられた 60 歳未満の回答者では, 米は冷凍 冷蔵保管している割合が高く ( 表 10), 乳製品についてはそれを原料として利用している回答者全員が冷蔵 冷凍保管していた ( 表 11) しかし, 冷凍 冷蔵保存が必要な魚介類については常温保管している回答者が若干であるが見られる ( 表 12) 同様に冷蔵保管が必要であるはずの乳製品を常温保管しているという回答が5あった ( 表 11) また, 米に関しては, 冷蔵 冷凍保管と常温保管の割合が半々である ( 表 10) また, 肉類 卵を使用している回答者は年齢を問わず, 冷蔵 冷凍保管している割合は概ね高いが, 常温で保存しているという回答が若干数見られる ( 表 13,14) 次に, 調理場で使用する包丁 まな板を野菜用と肉 表 10 年齢別, 米の保管状況 ( 実数, 割合 ) * 表 8 年齢別, アルコール消毒液の使用状況 ( 実数, 割合 ) * 表 11 年齢別, 乳製品の保管状況 ( 実数, 割合 ) * 表 9 年齢別, 手袋の使用状況 ( 実数, 割合 ) * 表 12 年齢別, 生鮮魚介類の保管状況 ( 実数, 割合 ) * 3) 物の衛生管理に関する結果次に, 原材料となる食材の保管方法, 包丁, まな板の区分使用 ( 野菜用と肉 魚用 ) という, 物の衛生管理に関する回答についての結果を述べる 各表に挙げた食材を使用しないと回答した回答者も多いため, 表には当該食材を使用しない回答数も挙げている 食材保管の際の温度管理において,60 歳以上と未満の 表 13 年齢別, 肉類の保管状況 ( 実数, 割合 ) *

農産物直売所への加工品出荷者の食品衛生管理 食品表示に関する調査 127 表 14 年齢別, 卵の保管状況 ( 実数, 割合 ) 魚用に区別して使用しているか否かの設問についての結果は以下のようになった 60 歳未満の回答者では, 包丁を区別して使用している割合が60 歳以上の回答者よりやや低い傾向にある ( 表 15) また, まな板についても60 歳未満の回答者では, 区別する割合が60 歳以上より低い傾向にある ( 表 16) 表 15 年齢別, 包丁の野菜用と肉 魚用の区別状況 ( 実数, 割合 ) * の調理場で調理しているという回答が全体で79あった 表 17には, 回答者の年齢と出荷する理由別に, 加工品をどこで製造しているかをまとめた 同表に示すように, 60 歳未満の回答者は許可施設で製造している割合が高い さらに60 歳未満の回答者の中で, 許可施設で加工している割合を出荷理由別に見ると 収入を得る と回答した人では66.7% であり, 趣味 生きがい の回答者より多い 若年でかつ, 収入を目的とした出荷者は許可施設での製造を行う傾向にある 一方,60 歳以上の回答者は全体として直売所に出荷できないはずの家庭の調理場で製造している割合が高い 60 歳以上の回答者の中で, 家庭の調理場で製造している割合を出荷理由別に見ると 収入を得る では38.0% である また, 趣味 生きがい では37.6% であり, その他の理由 では44.4% であった このように,60 歳以上の回答者では, 出荷理由の如何を問わず, 本来製造してはならないはずの家庭の調理場で製造し, 出荷している人がやや多いことがわかる 表 17 年齢 出荷理由別, 加工品の製造場所 ( 実数, 割合 ) * 表 16 年齢別, まな板の野菜用と肉 魚用の区別状況 ( 実数, 割合 ) * 4) 場所の衛生管理に関する結果次に, 加工品の製造場所や納品時の温度管理など, 場所の衛生管理に関わることについて, 年齢別 出荷理由別に分析した結果をみる 直売所で販売される加工食品の中には, 食品衛生法に基づき, 保健所から認可を受けた施設で製造することが求められる品目も含まれる [3][4] また, これらに該当しない品目でも, 自宅の台所とは別の専用調理場で製造する必要がある 本調査では加工品の製造場所として, 食品衛生法に基づく許可施設 ( 以下, 許可施設 ), 専用調理場, 家庭の調理場の3 種類の選択肢を設け, 回答を依頼したところ, 本来は直売所に出荷できないはずの自宅 次に, 夏季における窓 扉の状態について見てみる 表 18に示すように,60 歳未満の回答者の中で, 窓を閉鎖している割合を出荷理由別に見ると 収入を得る では48.9% である しかし 趣味 生きがい と回答した人では窓を解放している回答者の方が多かった また, 収入を得る と回答した人の40.4% が窓を開放していた ただし60 歳未満のうち, 窓 扉を開放していると回答した人は網戸を使用していると回答していた 60 歳以上の回答者の中で, 出荷理由別に調理場の窓の

128 清原昭子泉佑貴 状況を見ると 収入を得る では窓 扉を開放していると回答した人が37.8% であった 趣味 生きがい と回答した人では窓 扉を開放している割合がさらに高く, 52.5% であった つまり60 歳以上の回答者の半数が調理場の窓 扉を開放した状態で加工食品を製造していることがわかる さらに60 歳以上の回答者のうち,11 人は窓 扉を開放し, 網戸を使用していない, と回答していた 表 18 年齢 出荷理由別, 夏季における調理場の窓 扉の状態 ( 実数, 割合 ) 次に, 完成した加工品を直売所まで納品する際に, どのような温度管理を行っているかをみてみる 直売所へ出荷される品目の中には, 弁当類などの温度管理が欠かせない品目も多い 食品専用の冷蔵車で納品することが望ましいが, 表 19に示すように, 回答者全体として, 加工品を常温で直売所へ納品している人が非常に多い 年齢層別に割合をみると,60 歳未満の回答者では75.8% が,60 歳以上の回答者では85.6% が常温のまま納品している 多くの回答者が自家用車で納品していると考えられるが, その場合にはクーラーボックスに入れ, 温度管理の上で納品することが望ましいが, それを実行している人の割合も少ない 表 19 年齢別, 加工品の納品方式 ( 実数, 割合 ) * 5) 表示 研修に関する結果次に, 食品表示の記載状況や食品衛生管理 食品表示に関する研修会への参加状況に関する設問に関する結果を述べる 加工品の名称, 原材料名, 内容量, 製造者名については, 年齢に関わりなくほとんどの回答者が記載しており, 差はみられなかった また, アレルギー表示については, 60 歳未満の回答者では13.4% が表示していると回答しており,60 歳以上の回答者でも 15.2% が表示していると回答していた ( 表 20) 表示義務がある特定原材料を使用している加工品については, 回答者全員が表示していると回答していた さらに, 消費期限 賞味期限は回答者の100% が表示していると回答していた ( 表 21) 保存方法の記載状況に関しては, 年齢層による有意な差はみられなかったが, 80% 以上の回答者が表示していると回答した ( 表 22) 次に, 食品衛生や表示についての研修会への参加状況をみると, 表 23に示すように回答者全体として, 過去に食品衛生管理 食品表示に関わる何らかの研修会に参加したことがある人の割合が高い 年齢層別にみると,60 歳未満の回答者では94.2% が研修会等に参加したことがあり,60 歳以上の回答者では 85.6% が参加したことがあると回答した 60 歳以上の回答者では, 食品衛生管理 食品表示に関わる何らかの研究会に参加したことのある人の割合がやや低いと言える 表 20 年齢別, アレルギー表示の記載状況 ( 実数, 割合 ) * 表 21 年齢別, 消費 賞味期限の記載状況 ( 実数, 割合 ) *

農産物直売所への加工品出荷者の食品衛生管理 食品表示に関する調査 129 表 22 年齢別, 保管方法の記載状況 ( 実数, 割合 ) 表 23 年齢別, 研修会への参加状況 ( 実数, 割合 ) * 上の回答者では調理場用の履物やアルコール消毒液を使用している割合がやや低くなることが明らかとなった 調理場専用の履き物やアルコール消毒液は, エプロンやマスクなどに比べ, その必要性に関する認識が薄いことも考えられる 今後は,60 歳以上の出荷者を中心として, 調理場用の履物とアルコール消毒液の使用を啓発する必要がある また, 調理時にはエプロン 帽子 マスク 手袋 調理場用の履物 アルコール消毒液のうち, いずれかではなく, すべてを使用して初めて有害微生物の侵入を防ぎ, 食中毒の予防に効果があることを理解してもらう必要がある 4. 考察 以上の結果に基づき, 食品衛生管理の観点から,6つの点について考察する 1) 調理時に使用するものについて調理時に使用する人の衛生確保のための用具については, 年齢層を問わず使用が定着しているものと, 年齢層により使用に差がみられるもの, 年齢層を問わず使用率が低いものに分かれた エプロンと帽子は, 回答者全体として使用している割合が高いことが明らかとなった 今後も現状を維持していく必要がある ( 表 4,5) 手袋の使用状況は,60 歳未満の回答者より60 歳以上の回答者のほうが使用している割合がやや高いことが明らかとなった そのため,60 歳未満の出荷者を中心に, 手袋の使用を啓発する必要がある ( 表 9) 一方, マスクは回答者全体で使用している割合が低く, 約半数の回答者しか使用していないことが明らかとなった ( 表 6) 出荷者全体に対して, 加工品製造時のマスク着用を啓発する必要がある さらに調理場用の履物とアルコール消毒液も, 回答者全体として使用している割合が低く, 全体の約半数の回答者しか使用していない ( 表 7,8) さらに,60 歳未満の回答者と比較して,60 歳以 2) 食材の保管方法について食材の保管については, 年齢層を問わず概ね適切な温度で保管されている食材と, 年齢層により温度管理にやや差がみられる食材, 年齢層による有意な差はみられないものの, 全体のうちいくらかの割合の回答者が適切な温度管理が出来ていないとみられる食材があった 回答者全体として適切な温度管理がなされていたのは肉類である 年齢層を問わず, 冷凍 冷蔵の必要性が認識されている食材と考えられる ( 表 13) 生鮮魚介類は,60 歳未満の回答者の方が,60 歳以上の回答者より常温保管している割合がやや高い結果となった そのため,60 歳未満の出荷者を中心として生鮮魚介類の冷蔵 冷凍保管を啓発する必要がある ( 表 12) 卵と乳製品の保管方法については, 年齢層による有意な違いは認められなかった ( 表 11,14) しかし,60 歳以上の回答者では, 乳製品, 卵を常温保管している人が一定数みられ, また卵については60 歳未満の回答者の中にも常温保存している人がみられた いずれの食材も, 適切な温度管理がなされなければ食中毒の原因となる可能性があるが, 回答者の間に常温保管が可能である, あるいはかつて常温で保管していた経験があることなどが, これらの行動の背景にある可能性がある 出荷者全体に対して, 各食材に適した保存温度を理解してもらう必要があることが指摘できるが, これらを調理場の中でも容易に確認できるツールがあれば温度管理は進むと考えられる

130 清原昭子泉佑貴 3) 製造場所と包丁 まな板について加工品の製造場所については, 年齢層と直売所への出荷理由による差がみられた 60 歳未満で, 収入を得るために出荷している人は許可施設で製造している割合が高かった ( 表 17) これは, 比較的若い人が収益事業として出荷する際には, 一定の設備投資を行って食品衛生法上の許可施設を設けようとすることが背景にあると考えられる また,60 歳未満の回答者の多くが許可施設での製造を求められるような弁当類などの品目を製造していることも考えられる 一方,60 歳以上の回答者では出荷理由による製造場所の違いはほとんど見られなかったが, 全体的に加工品を家庭の調理場で製造している割合が高かった ( 表 17) これは, 年齢の高い人ほど漬け物のような許可施設での製造が義務付けられない品目を出荷している傾向にあったことも要因としてあげられる しかし, それでも家庭の調理場で製造しているという回答が30% 以上あったことは衛生上深刻な問題である 許可施設の設置は無理であっても, 専用の調理場を設け, 家庭の調理場とは独立した環境で製造することは不特定多数の人に食品を提供する上で最低限必要な条件であり, また自分の事業を守ることにも繋がることを啓発する必要がある 直売所の中には, 出荷者に対してこのような啓発を続けているところもあるが, それでも60 歳以上の回答者を中心に一定数の出荷者が家庭の調理場で製造を続ける背景には, 資金面や手間など多様な要因があると考えられる 次に, 製造場所と包丁 まな板の使用状況の関連について検討する 60 歳未満の回答者は, 加工品を許可施設 専用調理場で製造し, 調理場の窓 扉も閉鎖している割合が高いにも関わらず, 包丁 まな板は, 野菜用と肉 魚用を兼用している割合が高かった 一方,60 歳以上の回答者は加工品を家庭の調理場で製造し, 調理場の窓 扉は開放している割合が高いにも関わらず, 包丁 まな板は野菜用と肉 魚用を区別している割合が高かった ( 表 15 ~ 18) 衛生的な調理場を確保することと, 包丁 まな板を野菜と肉 魚で区別して使用することは, 衛生確保の意識が高ければいずれも高いはずであるが, 現実にはねじれた状況が見られた このように製造場所と包丁 まな板の区別状況が衛生確保の観点から逆転しているため, 改 めて年齢 製造場所別, 包丁 まな板の野菜用と肉 魚用の区別状況のクロス集計を行った その結果,60 歳未満の回答者のうち許可施設で製造している人はそうでない人に比べ, 包丁を兼用している割合が高いことがわかった ( 表 24) また,60 歳未満の回答者の中で加工品を家庭の調理場で製造している人は, まな板を兼用している割合がやや高いことが明らかとなった 一方,60 歳以上の回答者では, 加工品の製造場所によるまな板の使用状況の違いは見られなかった ( 表 25) 以上の結果について, 次のようなことが推察される 許可施設を使用している回答者の一部には, 許可施設で調理していることに安堵し, 野菜用と肉 魚用の包丁 まな板の区別が疎かになる人がいるのではないか あるいは原則として直売所に出荷できない家庭の調理場を使用している回答者は, 施設への投資ができないものの, 包丁を野菜用と肉魚用で区別するといったような手頃な衛生管理を実施することで衛生を確保しようとしているのではないかと考えられる 表 24 年齢 製造場所別, 包丁の野菜用と肉 魚用の区別状況 ( 実数, 割合 ) * 表 25 年齢 製造場所別, まな板の野菜用と肉 魚用の区別状況 ( 実数, 割合 ) *

農産物直売所への加工品出荷者の食品衛生管理 食品表示に関する調査 131 4) 直売所への納品方式について回答者全体の傾向として, 加工品を常温のまま直売所へ納品する割合が高かった 商品 ( 寿司 ご飯物など ) によっては, 常温のまま納品すると食中毒の危険性が高まるものがある 出荷者の中には 冷蔵すると加工品の味が落ちる と考えている人もおり, このような味に関するこだわりと衛生確保を両立させるための品質管理手法が必要とされている 5) 食品表示の記載状況について回答者全体に適切に食品表示を記載している割合が高い傾向にあった とくに, アレルギー表示に関しては, 表示が義務付けられている特定原材料を使用する場合には,100% 記載されていた しかし, 任意表示となる大豆などの特定原材料に準じるものに関しては, 記載されていない場合もあった 今後, 直売所における加工品のアレルギー表示をステップアップする意味でも, 任意表示項目についても記載するための出荷者への情報提供が必要とされている 6) 研修会への参加状況について 60 歳未満のほとんどの回答者が, 食品衛生 表示に関する研修会等への参加経験があるとしていたが,60 歳以上の回答者では, 参加経験がやや低下する このため, 60 歳以上の出荷者を中心に, 研修会へ参加するよう呼びかける必要があるとともに, 高齢の人も参加しやすい研修やそれに代わる情報提供手段が必要とされている また, 研修においては, 本調査で使用率が低いと明らかになったマスク, 調理場専用履き物, アルコール消毒液などの重要性を訴える必要があると同時に, 調理器具の区別使用や納品時の温度管理など, 食品の取り扱いに関する基本的な知識を習得させるだけでなく, 調理場で繰り返し目に出来るような媒体を開発することも必要と思われる 5. おわりに 本調査から, 直売所固有の食品衛生管理の特徴や課題がいくつか明らかになった 場所の衛生は確保したものの, 包丁の区別は怠りがちという結果は, 衛生管理の盲 点があることに気付かされる 全国的に成長を続ける直売所が, 地域住民の食品購買の拠点あるいは観光資源として今後も地域の活性化拠点としての機能を果たしていくためには, 個々の出荷者が食品衛生 表示について他の食料品製造業 小売業と同様の認識を持つことが必要である 食品安全確保には業種の壁はないからである しかしながら, 直売所への出荷単位は個人あるいは小規模なグループが大半を占める 資金や人的資源, 情報などの面で他業種とは劣る面があることも否めない このような状況を克服するためには, 直売所管理者, 保健所など関係者からの支援が欠かせない 本研究で明らかとなった加工品出荷者の食品衛生管理に関する問題点を改善するために, この業種特有の研修制度, 研修プログラムが必要であることを指摘して本稿を結びたい 本調査にご協力して頂きました, 岡山県農林水産総合センター, 農業普及センター, 岡山県備前保健所, 岡山西農業協同組合 (JA 岡山西 ), 岡山県内の直売所 (41 ヵ所 ) ならびにアンケートに回答して頂いた加工品出荷者の皆様に厚くお礼申し上げます 参考文献 1) 河田員宏 : 多様化する農産物直売所の類型化とマーケティング戦略, 地域農林経済学会中国支部大会報告資料 (2010)pp.31-38. 2) 中国学園大学現代生活学部清原研究室 : 直売所における食品衛生 表示に関するリスク認識と管理の実態 直売所および同所出荷者への視察 ヒアリング調査の報告 岡山県受託研究事業報告書 (2010) 3) 岡山県健康福祉部食品衛生課 HP http://www.pref.okayama.jp/page/detail-3190. html 4) 岡山市保健所衛生課 HP http://www.city.okayama.jp/hofuku/eisei/ eisei_00271.html