IPCC 第 1 作業部会 評価報告書の歴史

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正誤表 ( 抜粋版 ) 気象庁訳 (2015 年 7 月 1 日版 ) 注意 この資料は IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書の正誤表を 日本語訳版に関連する部分について抜粋して翻訳 作成したものである この翻訳は IPCC ホームページに掲載された正誤表 (2015 年 4 月 1

NEWS 特定非営利活動法人環境エネルギーネットワーク 21 No 年 9 月 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change) の概要 環境エネルギーネットワーク 21 主任研究員大崎歌奈子 今年の夏は世界各国で猛暑や洪水 干ばつ

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IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書概要 ( 気象庁訳 ) 正誤表 (2015 年 12 月 1 日修正 ) 第 10 章気候変動の検出と原因特定 : 地球全体から地域まで 41 ページ気候システムの特性第 1 パラグラフ 15 行目 ( 誤 ) 平衡気候感度が 1 以下である可能性

(別紙1)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書統合報告書 政策決定者向け要約(SPM)の概要(速報版)

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IPCC 第 5 次報告書における排出ガスの抑制シナリオ 最新の IPCC 第 5 次報告書 (AR5) では 温室効果ガス濃度の推移の違いによる 4 つの RCP シナリオが用意されている パリ協定における将来の気温上昇を 2 以下に抑えるという目標に相当する排出量の最も低い RCP2.6 や最大

(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

気候変動と森林 IPCC 第 5 次評価報告書 (AR5) から 2014 年 8 月 29 日 東京 第 3 回森林分野における国際的な動向等に関する報告会 林野庁森林利用課 佐藤雄一

気候変動に関する科学的知見の整理について (前回資料2)

電気使用量集計 年 月 kw 平均気温冷暖平均 基準比 基準比半期集計年間集計 , , ,

( 第 1 章 はじめに ) などの総称 ) の信頼性自体は現在気候の再現性を評価することで確認できるが 将来気候における 数年から数十年周期の自然変動の影響に伴う不確実性は定量的に評価することができなかった こ の不確実性は 降水量の将来変化において特に顕著である ( 詳細は 1.4 節を参照 )

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気候変化レポート2015 -関東甲信・北陸・東海地方- 第1章第4節

報道発表資料 平成 26 年 11 月 2 日 文 部 科 学 省 経 済 産 業 省 気 象 庁 環 境 省 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第 5 次評価報告書 統合報告書の公表について 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第 40 回総会 ( 平成 26 年 10 月 27

2. 背景わが国では気候変動による様々な影響に対し 政府全体として整合のとれた取組を総合的かつ計画的に推進するため 2015 年 11 月 27 日に 気候変動の影響への適応計画 が閣議決定されました また 同年 12 月の国連気候変動枠組条約第 21 回締約国会議で取りまとめられた 新たな国際的な

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2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

1. 天候の特徴 2013 年の夏は 全国で暑夏となりました 特に 西日本の夏平均気温平年差は +1.2 となり 統計を開始した 1946 年以降で最も高くなりました ( 表 1) 8 月上旬後半 ~ 中旬前半の高温ピーク時には 東 西日本太平洋側を中心に気温が著しく高くなりました ( 図 1) 特

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日本の海氷 降雪 積雪と温暖化 高野清治 気象庁地球環境 海洋部 気候情報課

(1) 継続的な観測 監視 研究調査の推進及び情報や知見の集積〇気候変動の進行状況の継続的な監視体制 気象庁では WMO の枠組みの中で 気象要素と各種大気質の観測を行っている 1 現場で観測をしっかりと行っている 2 データの標準化をしっかりと行っている 3 データは公開 提供している 気象庁気象

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などの極端現象も含め 気候変動による影響を評価している さらに AR4 は 長期的な展望として 適応策と緩和策のどちらも その一方だけではすべての気候変動の影響を防ぐことができないが 両者は互いに補完し合い 気候変動のリスクを大きく低減することが可能であることは 確信度が高い とし 最も厳しい緩和努

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特集 IPCC 第 5 次評価報告書 (AR5) 第 3 作業部会 (WG3) 報告書について RITE Today 2015 IPCC 第 5 次評価報告書 (AR5) 第 3 作業部会 (WG3) 報告書について システム研究グループリーダー秋元圭吾 1. はじめに 気候変動に関する政府間パネル

気候変動 2013 自然科学的根拠 概要 翻訳 協力 気象庁 Japan Meteorological Agency WG I 気候変動に関する政府間パネル 第 5 次評価報告書 第 1 作業部会報告書

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気象庁技術報告第134号表紙#.indd

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2.1 の気温の長期変化 の 6 地点の 1890~2010 年の 121 年間における年平均気温平年 差の推移を図 2.1-2に示す の年平均気温は 100 年あたり1. 2 ( 統計期間 1890~2010 年 ) の割合で 統計的に有意に上昇している 長期変化傾向を除くと 1900 年代後半と

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台風23 集約情報_14_.PDF

( 第 2 章異常気象と気候変動の将来の見通し ) 第 2 章異常気象と気候変動の将来の見通し 2.1 気候変動予測と将来シナリオ本節では 異常気象と気候変動の将来の予測を述べる前に それらの定量的な評価を可能にしている気候モデルと これに入力する将来の社会像について述べる 気候変動予測

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このまま温暖化が進むと 地球の平均気温や平均海面水位はどこまで上がってしまうのでしょうか また 温暖化の程度は 世界の社会経済に関する将来の道筋に どのように依存しているのでしょうか していくために 不可欠です 1 さまざまな研究が 迫りつつある危機を予測しています これらの温暖化予測情報を正しく理

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図 1 COBE-SST のオリジナル格子から JCDAS の格子に変換を行う際に用いられている海陸マスク 緑色は陸域 青色は海域 赤色は内海を表す 内海では気候値 (COBE-SST 作成時に用いられている 1951~2 年の平均値 ) が利用されている (a) (b) SST (K) SST a

4

資料1:地球温暖化対策基本法案(環境大臣案の概要)

宮城県災害時気象資料平成 30 年台風第 24 号による暴風と大雨 ( 平成 30 年 9 月 29 日 ~10 月 1 日 ) 平成 30 年 10 月 3 日仙台管区気象台 < 概況 > 9 月 21 日 21 時にマリアナ諸島で発生した台風第 24 号は 25 日 00 時にはフィリピンの東で

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風力発電インデックスの算出方法について 1. 風力発電インデックスについて風力発電インデックスは 気象庁 GPV(RSM) 1 局地気象モデル 2 (ANEMOS:LAWEPS-1 次領域モデル ) マスコンモデル 3 により 1km メッシュの地上高 70m における 24 時間の毎時風速を予測し

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委員会報告書「気候変動への賢い適応」

梅雨 秋雨の対比とそのモデル再現性 将来変化 西井和晃, 中村尚 ( 東大先端研 ) 1. はじめに Sampe and Xie (2010) は, 梅雨降水帯に沿って存在する, 対流圏中層の水平暖気移流の梅雨に対する重要性を指摘した. すなわち,(i) 初夏に形成されるチベット高現上の高温な空気塊

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第 41 巻 21 号 大分県農業気象速報令和元年 7 月下旬 大分県大分地方気象台令和元年 8 月 1 日

スライド 1

過去約 130 年の年平均気温の変化傾向 (1891~2017 年 ) 図 緯度経度 5 度の格子ごとに見た年平均気温の長期変化傾向 (1891~2017 年 ) 図中の丸印は 5 5 格子で平均した 1891~2017 年の長期変化傾向 (10 年あたりの変化量 ) を示す 灰色は長期

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国土技術政策総合研究所資料 研究資料

資料2   低炭素社会づくりに向けて

漂流・漂着ゴミに係る国内削減方策モデル調査地域検討会

黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 黄砂消散係数 (/Km) 日数 8~ 年度において長崎 松江 富山で観測された気象台黄砂日は合計で延べ 53 日である これらの日におけるの頻度分布を図 6- に示している が.4 以下は全体の約 5% であり.6 以上の

2.1 の気温の長期変化 の年平均気温平年差の推 移を図 に示す の年平均気温は 100 年あ たり 1.3 の割合で上昇している 長 期変化傾向を除くと 1900 年代後半 と 1920 年代半ばから 1940 年代半ば までは低温の時期が続いた 1960 年 頃に高温の時期があり 1

北極陸域から発生するダストが雲での氷晶形成を誘発する とうぼう国立極地研究所の當房 おおはた地球環境研究所の大畑 しょう祥 ゆたか豊 あだち助教 気象研究所の足立 こいけ助教 東京大学の小池 まこと真 こうじ光司 主任研究官 名古屋大学宇宙 准教授らによって構成される国際共同 研究グループは 北極圏

津波警報等の留意事項津波警報等の利用にあたっては 以下の点に留意する必要があります 沿岸に近い海域で大きな地震が発生した場合 津波警報等の発表が津波の襲来に間に合わない場合があります 沿岸部で大きな揺れを感じた場合は 津波警報等の発表を待たず 直ちに避難行動を起こす必要があります 津波警報等は 最新

Transcription:

環境セミナー, 2015/3/6, 海運クラブ, 東京 気候変動と海 地球温暖化予測の最前線 鬼頭昭雄 筑波大学生命環境系

IPCC 第 1 作業部会 評価報告書の歴史

気候変動に関する政府間パネル Intergovernmental Panel on Climate Change 目的 : 人為起源による気候変化 影響 適応及び緩和方策に関し 科学的 技術的 社会経 済学的な見地から包括的な評価を行う 1988 年に世界気象機関 (WMO) と国連環境計画 (UNEP) により設立 第 1 次評価報告書 (1990 年 ) 第 2 次評価報告書 (1995 年 ) 第 3 次評価報告書 (2001 年 ) 第 4 次評価報告書 (2007 年 ) 第 5 次評価報告書 (2013/14 年 ) IPCCの評価報告書 : 世界の専門家や政府の査読も受けて作成 気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC) をはじめ 地球温暖化に対する国際的なとりくみに科学的根拠を与える資料

IPCC 第 1 作業部会第 1 次 第 5 次評価報告書 科学 進歩 1990 年 : 第 1 次評価報告書 人為起源の温室効果ガス (GHG) は気候変化を生じさせる恐れがある 1995 年 : 第 2 次評価報告書 地球の気候システムに対する検出可能な人為的影響が示唆される 2001 年 : 第 3 次評価報告書 温暖化は GHG 濃度の増加によるものであった可能性が高い 2007 年 : 第 4 次評価報告書 温暖化の原因が人為起源の GHG の増加による可能性が非常に高い (90% 以上の信頼性 ) 2013 14 年 : 第 5 次評価報告書 温暖化の原因が人為起源の GHG の増加による可能性が非常に高い (95% 以上の信頼性 )

数値予報モデル ( 天気予報 ) 台風予測モデルエルニーニョ予測モデル季節予測モデル気候モデル地球システムモデル 気候モデルの発展 1970 年代半ば 第 1 次報告書 IPCC AR4 より 1980 年代半ば 第 2 次報告書 第 3 次報告書 第 4/5 次報告書

観測 何が変わったか?

災害をもたらす顕著気象現象は 毎年のように起こっている 平成 26 年 8 月豪雨平成 24 年 7 月九州北部豪雨平成 23 年 7 月新潟 福島豪雨平成 21 年 7 月中国 九州北部豪雨平成 20 年 8 月末豪雨平成 18 年 7 月豪雨

平成 23 年台風第 12 号 : 総降水量 2011/8/30-9/4 平成 23 年 8 月 30 日 17 時からの総降水量は 紀伊半島を中心に広い範囲で 1000mm を超え 奈良県上北山村上北山で総降水量は 1808.5mm となるなど 総降水量が年間降水量平年値の 6 割に達したところもあり 紀伊半島の一部の地域では解析雨量で 2000mm を超えるなど 記録的な大雨となった

観測された地上気温の変化 (1850 2012 年 ) 10 年平均 地球の表面では 最近 30 年の各 10 年間はいずれも 1850 年以降の各々に先立つどの 10 年間よりも高温でありつづけた

観測された地上気温の変化 (1850 2012 年 ) 地球の表面では 最近 30 年の各 10 年間はいずれも 1850 年以降の各々に先立つどの 10 年間よりも高温でありつづけた

観測された地上気温の変化 (1850 2012 年 ) 年平均 2014 年 過去 15 年の気温の上昇率 (10 年当たり 0.05 [-0.05 +0.15] ) は 1951 年以降について求めた気温の上昇率 (10 年当たり 0.12 [0.08 0.14] ) より小さい

観測された地上気温の変化 (1901 2012 年 )

世界と日本の気温 世界 観測データの均質性が長期間維持され かつ都市化などによる周辺環境の変化が比較的少ない 17 地点のデータを使用 日本 日本の年平均気温は 100 年あたり 1.15 C の割合で上昇しており 上昇スピードは世界平均 (0.68 C) よりも速い 気象庁 (2012)

日本の気温 都市では 地球温暖化に匹敵もしくはそれを上回る気温の上昇がヒートアイランド現象によりもたらされている ヒートアイランド現象と無関係な日本周辺海域の海面水温は 100 年あたり 1 前後上昇している 文部科学省 気象庁 環境省 (2009)

世界と日本の降水量 世界 世界 世界 : 増加傾向にあるが トレンドは有意ではない 日本 日本 : トレンドなし 年々変動は増加傾向 日本 気象庁 (2012)

日本の大雨は有意に増加している 縦軸は 1 地点あたりの年間日数 日本の大雨の長期変化 (1901 2009, 国内 51 地点 ) > 200mm/ 日 +33%/100 年 > 100mm/ 日 +21%/100 年 大雨 > 50mm/ 日 > 20mm/ 日 > 10mm/ 日 > 1mm/ 日 少雨 -8.8%/100 年 -15.4%/100 年 大雨の頻度の増加および少雨の頻度の減少が観測されている 藤部 (2011)

強い雨も有意に増加している アメダスで観測された夏季の 1 時間降水量 80mm 以上の観測回数が増加している 年間でも同様 1 時間降水量 50mm 以上でも同様

2013 年台風第 30 号ハイエン (Haiyan) 最低中心気圧 895 hpa 最大風速 65 m/s 最大瞬間風速 90 m/s 以上 海水温の高い地域を台風が進んだため衰えずにレイテ島に上陸 台風の目がタクロバンのすぐ南を通過 タクロバンにとって高潮の最悪コース フィリピン海溝西側の急激な水深変化がレイテ湾内振動を増幅 Philippin e Trench 日本南方海域の海水温が上がれば日本にスーパー台風の上陸も

日本上陸時 ( 直前 ) の中心気圧が低い台風 ( 統計期間 :1951 年 2014 年 ) 過去に日本へ上陸した台風は強かった! 最近はそれほど中心気圧の低い台風は上陸していない

二酸化炭素濃度の増加と海洋酸性化 大気中の二酸化炭素濃度は 少なくとも過去 80 万年間で前例のない水準にまで増加している 二酸化炭素濃度は 第一に化石燃料からの排出 第二に正味の土地利用変化による排出により 工業化以前より 40% 増加した 海洋は排出された人為起源の二酸化炭素の約 30% を吸収し 海洋酸性化を引き起こしている IPCC WG1 AR5 SPM4

1971 2010 年の海面から 700m まで平均した水温トレンド 水温変化 海洋の温暖化は海面付近で最も大きく 海面から 700m までの層は 10 年当たり 0.11 昇温した IPCC WG1 AR5 Figure 3.1

熱の蓄積 海洋の温暖化は気候システムに蓄積されたエネルギーの増加量において卓越しており 1971 年から 2010 年の間に蓄積されたエネルギーの 90% 以上を占める エネルギー増加量の 60% 以上は海洋の表層 (0 700m) に蓄積されている IPCC WG1 AR5 Box3.1 Figure 1

海面水位の古記録 潮位計 高度計の観測値ならびに RCP2.6 と RCP8.5 による予測 海面水位は 19 世紀初頭から 20 世紀初頭にかけて 過去 2 千年間にわたる比較的小さな平均上昇率から より高い上昇率に移行した 世界平均海面水位の上昇率は 20 世紀初頭以降増加し続けている 海洋の熱膨張と氷河の融解が 20 世紀の世界平均海面水位の上昇の主な原因だった IPCC WG1 AR5 TFE.2 Figure 2

1993 2012 年の海面高度変化率と検潮所の 1950 2012 年の海面水位変化 赤線は世界平均 IPCC WG1 AR5 FAQ13.1 Figure 1

グリーンランドと西南極氷床がそれぞれ 1 年当たり 0.5 mm 融解した場合の相対的海面水位変化 融解した氷床に近い地域では世界平均値よりも小さいが 遠く離れると大きくなる IPCC WG1 AR5 FAQ13.1 Figure 2

海氷 北極海の海氷は減少し続けている 夏季に最も急速に減少が進んでいる

年平均海氷面積偏差 海氷 多年氷面積 北極域の越年氷及び多年氷の面積は 1979 年から 2012 年の期間にわたって減少した 北極海盆における冬季の平均氷厚は 1980 年から 2008 年の間に減少した 海氷厚 1979 2012 年の期間に 北極域の越年氷の毎年の表面融解期間は 10 年当たり 5.7 日長くなっている IPCC WGI AR5 Fig.4.6

理解 なぜ変わったか?

観測された気温上昇 温室効果ガス 人為起源の強制力 その他の人為起源の強制力 ( エーロゾル ) 自然起源の強制力 ( 太陽活動 火山など ) 内部変動性 1951 年から 2010 年の期間に観測された地上気温変化は約 0.6 0.7 である

観測された気温上昇 温室効果ガス 人為起源の強制力 その他の人為起源の強制力 ( エーロゾルなど ) 自然起源の強制力 ( 太陽活動 火山など ) 内部変動性 人間による影響が 20 世紀半ば以降に観測された温暖化の主要な原因であった可能性が極めて高い 1951 年から 2010 年の世界平均地上気温の観測された上昇の半分以上は 温室効果ガス濃度の人為的増加とその他の人為起源強制力の組合せによって引き起こされた可能性が極めて高い 温暖化に対する人為起源の寄与の最良の見積もりは この期間において観測された温暖化と同程度である

全球気温変化に対するセクター別インパクト 1 年間分の排出が 100 年後にもたらす気温変化 (10-3 K) エネルギー及び工業部門による排出量は最大の寄与因子 家庭における化石燃料やバイオ燃料 バイオマスの燃焼 道路交通も 温暖化に比較的大きく寄与する 短期的( 最大 20 年 ) には農業などのメタン排出部門も重要 海運は短期的なSO 2 排出が大きい IPCC WGI AR5 Fig.8.34a

航跡雲 (ship trails) 飛行機雲と似ているが より大規模で長時間持続する

航跡雲 (ship trails) 船舶から排出されるエーロゾルによる間接効果

エーロゾルの気候への効果 エーロゾルが日射を散乱 雲の反射率が変わる 雲の寿命が変わる

将来 どう変わるか?

CMIP5 シナリオ RCP: Representative Concentration Pathways 4 シナリオ RCP8.5(CO 2 equiv.~1000ppm に相当 ) RCP6( 同 800, 環境研が作成担当 ) RCP4.5( 同 650) RCP2.6( 同 450) ( 数字は 2100 年時点の放射強制力 W/m 2 ) CO 2, エーロゾル, non-co 2 GHGs の排出 濃度予測データを含む CMIP5: 5th Phase of Coupled Modeling Intercomparison Project 第 5 期結合モデル相互比較実験

地上気温 21 世紀末における世界平均地上気温の変化は RCP2.6 シナリオを除く全ての RCP シナリオで 1850 年から 1900 年の平均に対して 1.5 を上回る可能性が高い 縦棒は可能性が高い範囲 :likely range (= 66% 信頼区間 )

海氷 RCP8.5 シナリオにおいて今世紀半ばまでに 9 月の北極海で海氷がほとんど存在しない状態となる可能性が高い ( 中程度の確信度 )

予測される海洋の長期変化 21 世紀にわたって 世界の海洋は全ての RCP シナリオにおいて温暖化するだろう 亜熱帯と熱帯域の海面において 最も強い海洋の昇温が予測されている より深い部分では 南極海で最も顕著な昇温が予測されている 海洋の昇温の最良の推定値は 21 世紀末までに水深 100m までで約 0.6 C(RCP2.6)~2.0 C(RCP8.5) 水深約 1km で約 0.3 C(RCP2.6)~0.6 C(RCP8.5) となっている RCP4.5 シナリオにおいては 21 世紀末までに 海洋に吸収されるエネルギーの半分が水深 700m 以浅 85% が水深 2000m 以浅において取り込まれる この表層から深層への熱輸送は時間スケールが長いため GHG 排出量が減少するか又は濃度が一定に保たれたとしても 海洋の昇温は数世紀にわたり続き 結果として海面水位の上昇に寄与し続けるだろう

海面水位 21 世紀の間 世界平均海面水位は上昇を続けるだろう また 2100 年を超えてもほぼ確実に上昇を続けるだろう RCP2.6 (2081 2100), 可能性の高い範囲 : 26 55cm RCP8.5 (2081 2100), 可能性の高い範囲 : 45 82cm

海洋酸性化 海洋のさらなる炭素吸収により 海洋酸性化が進行するであろう RCP2.6 (2081 2100) : -0.06-0.07 RCP8.5 (2081 2100) : -0.30-0.32

地上気温と降水量 北極域は世界平均より速く温暖化し 陸上における平均的な温暖化は海上よりも大きくなるだろう 高緯度域と太平洋赤道域および多くの中緯度の湿潤地域では 今世紀末までに年平均降水量が増加する可能性が高い 中緯度と亜熱帯の乾燥地域の多くでは年平均降水量が減少する可能性が高い

水循環の変化 21 世紀にわたる温暖化に対する世界の水循環の変化は一様ではないだろう 地域的な例外はあるかもしれないが 湿潤地域と乾燥地域 湿潤な季節と乾燥した季節の間での降水量の差異が増加するだろう

Changes in Extremes 極端な降水量の変化 Annual Precipitation 中緯度の陸域のほとんどと湿潤な熱帯域において 今世紀末までに極端な降水がより強く より頻繁となる可能性が非常に高い 地域規模から地球規模で 干ばつの強度や持続期間が増加する可能性が高い

Changes 年最大日降水量 in Extremes (20 年確率値 ) の変化 CMIP5 モデル中央値は +5.3% -1 ( 陸上では約 +4% -1 ) 1 の気温上昇で 再現期間が 20 年 14 年に これらの変化は湿潤な熱帯域で大きい

表層崩壊 深層崩壊リスクの変化 表層崩壊 深層崩壊 強い雨 ( 時間降水量 ) 多い雨 ( 総降水量 ) の増加 表層崩壊および深層崩壊リスクの増加 土木研究所報告書 No.4129 (2009) 一雨最大時間降水量 [mm] 21 世紀末ー現在 増加 相対頻度 減少 一雨総降水量 [mm] Oku and Nakakita (2013)

将来 (21 世紀末 ) の地すべり 山崩れリスク Oku and Nakakita (2013)

台風など熱帯低気圧の将来変化 北西太平洋 全球 熱帯低気圧 (TC) メトリック I 全ての TC の頻度 II カテゴリー 4-5 TC の頻度 III 生涯最大強度 IV 降水量 全球の TC の数は減少するか変わらないのどちらかの可能性が高い 全球平均での TC の最大風速と降水量は 増加する可能性が高い 強い TC が北西太平洋と北大西洋でどちらかといえば増加するだろう

台風の存在頻度は東へシフト 1 年の台風最盛期 (7 月 10 月 ) 東西 2.5 度 x 南北 2.5 度領域あたりの個数将来気候実験 (2075-2099 年 ) と現在気候実験 (1979-2003 年 ) の差 減る 増える マーシャル諸島付近から日本の南岸に沿って増加 ( 赤の枠線 ) フィリピンや台湾の東から韓国 西日本にわたる領域 ( 青の枠線 ) で減少

地域毎の出現頻度と平均最大風速の変化 存在頻度 平均最大風速

気候変動の影響 : 海洋 海水温の上昇 海洋酸性化 北極海の海氷の減少 沿岸部の人々の生計を支える海洋 沿岸の生態系と生物多様性 生態系便益 機能 サービスが失われる可能性 純一次生産量 IPCC WGII AR5 より

気候変動の影響 : 船舶 内航 : 全般に ( 湖沼河川の水位低下により ) 負影響だが 場所に大きく依存 極域 : 海氷減少により航海可能期間が増加 ただし海氷予報の困難さがある 港湾 : 気温上昇 海面水位上昇 暴風雨の増加 降水量の増加により影響を受け得る 外航 : ある海域での暴風雨の増加は 航路変更や遅延等によるコスト上昇の可能性あり IPCC WGII AR5 Section 10.4.4 より

世界の将来は?

累積二酸化炭素総排出量と世界平均地上気温上昇量

温室効果ガスによる昇温を 66% 以上の確率で 2 以下に抑えるには 累積二酸化炭素総排出量を 790 ギガトン以下に制限する必要がある 2 C 790 GtC

気候変動を抑制するには 温室効果ガス排出量の大幅かつ持続的な削減が必要であろう

RCP2.6 CO 2eq = 475 ppm RCP8.5 CO 2eq = 1313 ppm 2 の世界 4 の世界

気候変動の特徴の大部分は たとえ二酸化炭素の排出が停止したとしても 何世紀にもわたって持続するだろう このことは 過去 現在 及び将来の二酸化炭素の排出によって生じる 気候システムの慣性により避けられない数世紀にわたる大規模な気候変動を表わしている

ウェッジ選書 2013 年 岩波新書 2015 年 3 月

Q&A で使用 二酸化炭素の寿命が長い