高校生の 授業外の学習時間 に影響を与える学校 教員の取組に 関する要因分析 埼玉県立高等学校の調査を通して 概要 MJE13702 相模 幸之 要旨 本研究は 高等学校の教育活動や取組が 高校生の 授業外の学習時間 にどのような影響を与えるかについて分析した研究である 本研究では 全日制普通科を設置する埼玉県立高等学校の 3 学年生徒と教員を対象とした質問紙調査を実施し 国語 数学 英語の 3 教科における 授業外の学習時間 に影響を与える学校や教員の取組要因について分析 考察を行い 以下のような結論を得た 生徒の 授業外の学習時間 に影響を与える要因として 学校の取組では 個人面談 興味 関心を引き出す授業 授業評価 授業アンケート などが 学校の取組以外では 学習への取組状況 家庭生活状況 教科への興味 関心 入学試験や就職試験の存在 などがあげられることが明らかになった さらに 進学校 中堅校 就職多数校 の学校のタイプが異なることによって 生徒の 授業外の学習時間 に影響を与える要因にも差異が見られることが明らかになった 以上の結論を踏まえ 生徒の 授業外の学習時間 を増加させるために 興味 関心を引き出す授業の工夫 授業評価アンケート の推奨及び指針の作成 普及 など 5 つの政策提言を行った 1. 研究の概要 1.1 研究の背景と問題意識 高等学校学習指導要領第 1 章 総則 には 生徒の主体的な学習活動を促し学習習慣を確立させることが 我が国の高校教育において極めて重要な課題であることが打ち出されている また 平成 25 年 6 月に閣議決定された 第 2 期教育振興基本計画 においても 高等学校教育段階における生徒の 学習時間の減少 学習意欲の減退 等の課題に対応する必要性が指摘されている 高校生の 授業外の学習時間 の状況については 国立教育政策研究所の調査によると 我が国の高校生の約 4 割が 平日に学校の授業時間以外にまったく またはほとんど勉強をしていないという結果が報告されている また ベネッセ教育研究開発センター 当時 の調査でも 1990 年以降 高校生の家庭学習時間が 調査の回を追うごとに減少しているという結果が示されている 1.2 先行研究 授業外の学習時間 の増減要因に関する先行研究でこれまで指摘された主な要因には テレビ視聴時間 大学入試の存在 社会階層 などがあげられている 一方 学校や教員の取組と 授業外の学習時間 との関連を扱った先行研究については 調査生徒のサンプル数が少なかったり 特定の一つの教科のみが研究対象であったりするなど 授業外の学習時間 と学校や教員の取組とを総合的に扱った研究をほとんど見ることができない 1.3 研究の目的と方法 本研究の目的は 高校生の 授業外の学習時間 に影響を与えうる学校や教員の 一般的かつ具体的な取組 を明らかにすることである なお 本研究での 授業外の学習時間 は 国語 数学 英語の 3 教科に関して 家庭学習のほか学校の補習 塾や予備校での勉強などの時間も分析の対象としている 研究の方法として 埼玉県立高等学校の 3 学年生徒 クラス担任及び国語 数学 英語担当教員を対象に質問紙調査を実施し その回答結果について 重回帰モデルを用いた分析 学校分類ごとの 授業外の学習時間 の平均値が長い学校群と短い学校群との差異に関する分析 により考察 検証する 2. 回答結果の概要 2.1 調査対象校及び調査実施時期 埼玉県が所管する全日制普通科を設置する県立高等学校 99 校のうち 地区 男女比 卒業生の進路状況等に偏りを生じないよう 40 校を抽出し 平成 25 年 11 月から 12 月にかけて質問紙調査を実施した 2.2 回答結果 調査対象校 40 校中 36 校から回答を得た ( 回答率 :90%) 内訳は 生徒 2312 名 ( 男子 1195 名 女子 1039 名 不明 78 名 ) 調査対象クラス担任 63 名 調査対象クラス国語 数学 英語担当教員 170 名であった -7-
回答結果については 回答校 36 校の過去 3 年間の卒業生に占める大学 短大進学者率 現役 浪人含む 及び就職希望者率の平均値をもとに 進学校 中堅校 就職多数校 それぞれ 12 校ずつに分類し 全体の結果とともにまとめた ここでは 生徒対象質問紙のうち 授業外の学習時間 に関連する回答結果のみ掲載する 図 2-1 は 生徒への質問 平日の授業外の国語 数学 英語の学習時間 の回答結果 また 図 2-2 は 休日の授業外の国語 数学 英語の学習時間 の回答結果である 表 2-1 一週間の授業外の国語 数学 英語の学習時間 : 記述統計量 単位 : 分 度数最小値最大値平均値標準偏差 一週間の授業外の学習時間 ( 全体 ) 2288 0 1890 782.69 734.530 一週間の授業外の学習時間 ( 進学校 ) 787 0 1890 1412.21 532.688 一週間の授業外の学習時間 ( 中堅校 ) 797 0 1890 650.21 662.555 一週間の授業外の学習時間 ( 就職多数校 ) 704 0 1890 228.92 412.626 次に 各学校の 一週間の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 の平均値と 大学 短期大学進学率 卒業者数に占める大学 短期大学進学者数 現役 浪人含む の過去 3 年間 平成 22 年度 ~ 平成 24 年度 の平均値との相関を見る 図 2-3 は 両者のデータの散布状況及び線形関係について示したものである 図 2-1 平日の授業外の国語 数学 英語の学習時間 図 2-3 一週間の 授業外の学習時間 の学校ごとの平均と大学 短大進学率との相関 以上のことから 1 生徒全体では 授業以外の国語 数学 英語の勉強を まったくしない 生徒が少なからず存在している 2 授業外の国語 数学 英語の学習時間 は 生徒間の差のみならず学校間の差も大きい 3 授業外の国語 数学 英語の学習時間 は 大学 短期大学進学者数の比率と大きく関係している などのことが明らかになった 図 2-2 休日の授業外の国語 数学 英語の学習時間 授業外の国語 数学 英語の勉強 を まったくしない と回答した生徒を 0 分 0 時間 ~1 時間未満 と回答した生徒を 30 分 1 時間 ~2 時間未満 と回答した生徒を 90 分 などのように換算し 平日及び休日の 授業外の学習時間 の回答結果から 生徒の 一週間あたりの授業外の国語 数学 英語の学習時間 を算出したうえで分析を進めることとした 表 2-1 は このようにして算出した 一週間の授業外の国語 数学 英語の学習時間 の記述統計量である 3. 回答結果の分析 考察 3.1 仮説の構築 本研究の目的は 学校や教員の取組が生徒の 授業外の学習時間 にどのように影響を与えるかを総合的に分析すること であるが 分析を進める際は多角的な視点で要因を検証するため 以下のような仮説を設定する 仮説 1 学校や教員の取組が充実するほど 生徒の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 は増加する 仮説 2 勉強に対する姿勢 意識や家庭生活状況 ( 娯楽の時間 夕食開始時刻 就寝時刻など ) などは 生徒の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 に影響を与えている -8-
仮説 3 進学校 中堅校 就職多数校 の学校分類が異なれば 生徒の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 に影響を与える要因にも差が生じる 業だと思う X24: 生徒の興味 関心を引き出す授業だと思う X25: 生徒によく発言させる授業だと思う X26: グループで課題について考えたり調べたりする授業だと思う i: 生徒 ε: 誤差項 3.2 重回帰モデルを用いた分析 考察重回帰モデルを用いた分析の際は 生徒対象質問紙の回答結果に関する推定モデル モデル 1 クラス担任対象質問紙の回答結果に関する推定モデル モデル 2 国語 数学 英語担当教員対象質問紙の回答結果に関する推定モデル モデル 3 をそれぞれ構築した 生徒対象質問紙の回答結果に関する推定モデルの被説明変数は 前章で算出した生徒の 一週間の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 とし 説明変数として属性をコントロールしたうえで 家庭生活状況 国語 数学 英語の学習状況等 国語 数学 英語の学習に対する効用感 国語 数学 英語の授業に対する評価 などの変数を投入した このようにして構築された回帰式を最小二乗法により推定し 各説明変数が被説明変数である 一週間の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 に与える影響を 統計的な有意性の有無により分析した 回帰式 Yi = αi+β1x1i+β2x2i+β3x3i+β4x4i +β5x5i+β6x6i+ +β26x26i+εi 各変数の内訳 Yi: 生徒 i の一週間の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 X1: 大学 短期大学進学者率 ( 平成 22 年度 ~ 平成 24 年度の平均 : 現役 浪人含む ) X2: 性別ダミー変数 X3: 一週間の娯楽 ( ゲーム テレビ メールなど ) の時間 X4: 夕食開始時刻 X5: 就寝時刻 X6: 宿題の実施状況 X7: 受験勉強を 予備校 塾 でする ダミー変数 X8: 受験勉強を 自宅 でする ダミー変数 X9: 受験勉強を 学校の補習 でする ダミー変数 X10: 国語 数学 英語への興味 関心 X11: 中学校のときの学習状況 X12: 高校 1 年生 ~2 年生のときの学習状況 X13: 勉強は 将来 仕事をするうえで役に立つ ダミー変数 X14: 勉強は 入学試験や就職試験に役に立つ ダミー変数 X15: 勉強は 人格形成に役に立つ ダミー変数 X16: 勉強は 生きるために必要な基本的知識に役に立つ ダミー変数 X17: 勉強は 論理的な思考力を高めるうえで役に立つ ダミー変数 X18: 勉強は 金銭的成功や名誉獲得に役に立つ ダミー変数 X19: 今している勉強は役に立たない ダミー変数 X20: 高校卒業時の進路目標の有無 X21:10 年後の自分の目標の有無 X22: 予習 復習をするよう言われる授業だと思う X23: 教科書の内容を講義形式で教える授 すべての変数を投入したモデルの推計を行った結果を 表 3-1 に示す 表 3-1 生徒対象質問紙結果に関する重回帰分析結果 変数モデル 1-5 大学 短期大学進学者率 (H22~24の平均: 現役 浪人含む ) 10.633 *** (.487) 性別ダミー 54.355 ** (20.614) 一週間の娯楽 ( ケ ーム テレヒ メールなど ) の時間 -.134 *** (.019) 夕食開始時刻 ( 一週間の平均 ) 40.992 *** (9.039) 就寝時刻 ( 一週間の平均 ) 43.459 *** (10.819) 宿題の実施状況 32.341 ** (11.173) 受験勉強を 予備校 塾 でする ダミー 506.055 *** (28.570) 受験勉強を 自宅 でする ダミー 290.747 *** (23.965) 受験勉強を 学校の補習 でする ダミー 78.531 ** (28.723) 国語 数学 英語への興味 関心 45.951 ** (14.771) 中学校のときの学習状況 -22.625 * (10.757) 高校 1 年生 ~2 年生のときの学習状況 15.730 (12.712) 勉強は 将来 仕事をするうえで役に立つ ダミー 10.452 (21.802) 勉強は 入学試験や就職試験に役に立つ ダミー 71.163 ** (24.263) 勉強は 人格形成に役に立つ ダミー 10.061 (26.602) 勉強は 生きるために必要な基本的知識に役に立つ ダミー -47.307 * (21.252) 勉強は 論理的な思考力を高めるうえで役に立つ ダミー 29.667 (24.143) 勉強は 金銭的成功や名誉獲得に役に立つ ダミー 12.273 (26.413) 今している勉強は役に立たない ダミー -128.275 ** (46.330) 高校卒業時の進路目標の有無 2.802 (17.231) 10 年後の自分の目標の有無 2.594 (11.597) 予習 復習をするよう言われる授業だと思う 5.046 (12.606) 教科書の内容を講義形式で教える授業だと思う -2.779 (9.645) 生徒の興味 関心を引き出す授業だと思う 43.970 *** (11.478) 生徒によく発言させる授業だと思う -30.545 ** (11.285) グループで課題について考えたり調べたりする授業だと思う -20.071 (15.719) 定数項 -515.265 *** (87.446) サンプル数 2086 補正 R 2.630 F 値 137.430 上段は非標準化係数 β 下段括弧内は標準誤差 -9- 推計結果の係数の符合及び有意性から 娯楽の時間が少ないこと 夕食開始時刻や就寝時刻が遅いこと 受験勉強によく取り組んでいること 宿題によく取り組んでいること 勉強は 入学試験や就職試験に役立つと考えていること 教科への興味 関心が高いこと 興味
関心を引き出す授業が実践されていること などの要因が 生徒の 授業外の学習時間 に有意に正の影響を与えるという結果を得た 一方 勉強は生きるために必要な知識に役立つと思うこと 生徒によく発言させる授業が実践されていること などの要因は 有意に負の影響を与える結果となった 授業外の学習時間 が長い生徒ほど 勉強は 生きるためというよりも受験に必要 と捉える傾向があったり 授業外の学習時間 が短い生徒が多く在籍する学校ほど 授業工夫の一環として生徒に発言を促すよう取り組んでいたりする可能性があると推察される クラス担任対象質問紙の回答結果に関する推定モデルの被説明変数は クラス担任が勤務する学校の生徒の 一週間の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 の平均値とした 説明変数は 勤務校の属性をコントロールしたうえで 質問紙項目のうち 個人面談の実施状況 学習の効用に関する指導状況 進路指導の重点内容 などの変数を用いた 推計結果から 各説明変数が被説明変数に与える影響を 統計的な有意性の有無により分析した 回帰式 Yi = αi+β1x1i+β2x2i+β3x3i+β4x4i +β5x5i+β6x6i+ +β20x20i+εi 各変数の内訳 Yi: クラス担任 i の勤務校での生徒の一週間の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 の平均値 X1: 大学 短期大学進学者率 ( 平成 22 年度 ~ 平成 24 年度の平均 : 現役 浪人含む ) X2:1 年間に予定している個人面談の回数 X3: 必要に応じた個人面談の実施状況 X4: 個人面談の話題 学習状況や成績 ダミー変数 X5: 個人面談の話題 学校での生活状況 態度 ダミー変数 X6: 個人面談の話題 友人関係 人間関係 ダミー変数 X7: 個人面談の話題 部活動 ダミー変数 X8: 個人面談の話題 家庭での生活状況 態度 ダミー変数 X9: 勉強は 将来 仕事をするうえで役に立つと話す ダミー変数 X10: 勉強は 入学試験や就職試験に役に立つと話す ダミー変数 X11: 勉強は 人格形成に役に立つと話す ダミー変数 X12: 勉強は 生きるために必要な基本的知識に役に立つと話す ダミー変数 X13: 勉強は 論理的な思考力を高めるうえで役に立つと話す ダミー変数 X14: 勉強は 金銭的成功や名誉獲得に役に立つと話す ダミー変数 X15: 進路指導で 自己理解を深めさせる ダミー変数 X16: 進路指導で 高校卒業時の進路目標を持たせる ダミー変数 X17: 進路指導で 将来のキャリアを設計させる ダミー変数 X18: 進路指導で 体験授業や職業体験への参加を促す ダミー変数 X19: 進路指導で 進路対策補習への参加を促す ダミー変数 X20: 進路指導で 資格取得や検定受検を促す ダミー変数 i: クラス担任 ε: 誤差項 すべての変数を投入したモデルの推計を行った結果を 表 3-2 に示す 表 3-2 クラス担任対象質問紙結果に関する重回帰分析結果 変 数 モデル2-4 大学 短期大学進学者率 (H22~24の平均: 現役 浪人含む ) 17.262 *** (1.092) 1 年間に予定している個人面談の回数 62.860 ** (22.444) 必要に応じた個人面談の実施状況 107.800 ** (35.348) 個人面談の話題 学習状況や成績 ダミー -12.798 (50.245) 個人面談の話題 学校での生活状況 態度 ダミー 36.824 (49.147) 個人面談の話題 友人関係 人間関係 ダミー -32.127 (71.265) 個人面談の話題 部活動 ダミー -102.464 (111.644) 個人面談の話題 家庭での生活状況 態度 ダミー -150.137 (119.804) 勉強は 将来 仕事をするうえで役に立つと話す ダミー 47.426 (52.931) 勉強は 入学試験や就職試験に役に立つと話す ダミー 91.197 (58.903) 勉強は 人格形成に役に立つと話す ダミー -30.721 (50.126) 勉強は 生きるために必要な基本的知識に役に立つと話す ダミー -33.724 (47.572) 勉強は 論理的な思考力を高めるうえで役に立つと話す ダミー -63.478 (42.308) 勉強は 金銭的成功や名誉獲得に役に立つと話す ダミー -162.386 (136.098) 進路指導で 自己理解を深めさせる ダミー -49.810 (62.847) 進路指導で 高校卒業時の進路目標を持たせる ダミー -33.003 (51.699) 進路指導で 将来のキャリアを設計させる ダミー 38.702 (54.391) 進路指導で 体験授業や職業体験への参加を促す ダミー -124.778 (76.897) 進路指導で 進路対策補習への参加を促す ダミー -19.149 (54.930) 進路指導で 資格取得や検定受検を促す ダミー -17.486 (73.873) 定数項 -673.093 *** (149.569) サンプル数 60 補正 R 2.932 F 値 41.988 上段は非標準化係数 β 下段括弧内は標準誤差 -10- 推計結果から 1 年間に予定している個人面談の回数 が多いほど また 必要に応じた個人面談の実施状況 が良いほど 生徒の一週間の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 が有意に長くなることが明らかになった しかし 個人面談で話題にする内容 学習の効用に関する指導状況 進路指導の重点内容 などの変数については 生徒の 一週間の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 と有意な関連を見ることができなかった 国語 数学 英語担当教員対象質問紙の回答結果に関する推定モデルの被説明変数も クラス担任と同様 自身が勤務する学校の生徒の 一週間の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 の平均値とした 説明変数については 属性をコントロールしたうえで 質問紙項目のうち 学習
( ( 指導の実施状況 学習の効用に関する指導状況 学習指導に関する組織的な取組状況 などの変数を投入及び推定モデルを構築し 推計結果を分析した 回帰式 Yi = αi+β1x1i+β2x2i+β3x3i+β4x4i +β5x5i+β6x6i+ +β20x20i+εi 各変数の内訳 Yi: 国語 数学 英語担当教員 i の勤務校での生徒の一週間の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 の平均値 X1: 大学 短期大学進学者率 ( 平成 22 年度 ~ 平成 24 年度の平均 : 現役 浪人含む ) X2: 国語担当ダミー変数 X3: 数学担当ダミー変数 X4: 予習 復習をやらせる授業 X5: 教科書の内容を講義形式で教える授業 X6: 生徒の興味 関心を引き出す授業 X7: 生徒によく発言させる授業 X8: グループで考えさせたり調べさせたりする授業 X9: 宿題を出す頻度 X10: 勉強は 将来 仕事をするうえで役に立つと話す ダミー変数 X11: 勉強は 入学試験や就職試験に役に立つと話す ダミー変数 X12: 勉強は 人格形成に役に立つと話す ダミー変数 X13: 勉強は 生きるために必要な基本的知識に役に立つと話す ダミー変数 X14: 勉強は 論理的な思考力を高めるうえで役に立つと話す ダミー変数 X15: 勉強は 金銭的成功や名誉獲得に役に立つと話す ダミー変数 X16: シラバスなどによる学習目標や学習計画などの提示 X17: 生徒への家庭学習計画作成の指示 X18: 生徒による 授業評価 授業アンケート の実施 X19: 授業力向上のための研修会の実施 X20: 授業力向上のための教員相互の授業見学の実施 i: 国語 数学 英語担当教員 ε: 誤差項 すべての変数を投入したモデルの推計を行った結果を 表 3-3 に示す 推計結果から 国語 数学 英語担当教員が 生徒の興味 関心を引き出す授業 の実践に心掛けるほど また 国語 数学 英語担当教員の 生徒による 授業評価 授業アンケート の実施状況が良好であるほど 生徒の 一週間の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 が有意に長くなることが明らかになった 興味 関心を引き出す授業 の実践が生徒の 授業外の学習時間 を増加させる有意な要因となることは 生徒対象質問紙結果に関する重回帰分析からも得られた結果である しかし 上記 2 点以外の 学習指導の実施状況 学習の効用に関する指導状況 学習指導に関する組織的な取組状況 などの変数については 生徒の 一週間の 授業外の国語 数学 英語の学習時間 に有意に影響を与える結果とならなかった 表 3-3 国語 数学 英語担当教員対象質問紙結果に関する重回帰分析結果 変 数 モデル3-4 大学 短期大学進学者率 (H22~24の平均: 現役 浪人含む ) 18.235 *** (.588) 国語担当ダミー -19.767 (35.260) 数学担当ダミー 35.490 (34.748) 予習 復習をやらせる授業 2.222 (15.158) 教科書の内容を講義形式で教える授業 16.315 (15.918) 生徒の興味 関心を引き出す授業 41.846 * (17.352) 生徒によく発言させる授業 -15.257 (16.934) グループで考えさせたり調べさせたりする授業 -3.160 (20.825) 宿題を出す頻度 -18.019 (15.716) 勉強は 将来 仕事をするうえで役に立つと話す ダミー -24.898 (27.580) 勉強は 入学試験や就職試験に役に立つと話す ダミー -29.378 (26.437) 勉強は 人格形成に役に立つと話す ダミー 20.321 (30.836) 勉強は 生きるために必要な基本的知識に役に立つと話す ダミー -32.761 (26.725) 勉強は 論理的な思考力を高めるうえで役に立つと話す ダミー -19.876 (27.735) 勉強は 金銭的成功や名誉獲得に役に立つと話す ダミー 25.866 (82.885) シラバスなどによる学習目標や学習計画などの提示 -25.404 (15.785) 生徒への家庭学習計画作成の指示 -.367 (18.077) 生徒による 授業評価 授業アンケート の実施 59.554 ** (17.070) 授業力向上のための研修会の実施 -31.639 (21.173) 授業力向上のための教員相互の授業見学の実施 -23.843 (20.331) 定数項 -291.529 ** (89.044) サンプル数 160 補正 R 2.918 F 値 90.433 上段は非標準化係数 β 下段括弧内は標準誤差 3.3. 生徒対象質問紙の回答結果に関する学校分類ごとの 授業外の学習時間 の平均値が長い学校群と短い学校群との差異に関する分析 考察 次に 進学校 中堅校 就職多数校 ごとに 授業外の国語 数学 英語の学習時間 が長い学校群 1 群 と短い学校群 2 群 との回答平均値の有意差をt 検定により分析した 表 3-4 授業外の国語 数学 英語の学習時間 の長い学校群と短い学校群との比較 変 数 度数平均値標準偏差 1 群 2 群 1 群 2 群 1 群 2 群 t 値 一週間の娯楽の時間 ( 算出値 ) 372 417 531.45 709.57 386.654 441.552-5.995 *** 夕食開始時刻 ( 一週間の平均 ) 374 414 3.61 3.21 1.359 1.156 4.397 *** 就寝時刻 ( 一週間の平均 ) 372 416 4.88 4.71.868.929 2.594 ** 宿題以外の学習の実施状況 375 419 3.70 3.41.596.776 5.770 *** 中学校のときの学習状況 373 418 2.82 2.65 1.027.974 2.342 * 一週間の娯楽の時間 ( 算出値 ) 398 400 877.09 1018.88 544.290 598.062-3.502 *** 宿題の実施状況 395 396 3.20 3.05.952.938 2.186 * 宿題以外の学習の実施状況 397 397 2.89 2.08 1.079.977 11.138 *** 一週間の娯楽の時間 ( 算出値 ) 386 317 1133.47 1295.68 626.198 605.643-3.468 *** 宿題の実施状況 386 319 2.89 2.52 1.068 1.165 4.342 *** 宿題以外の学習の実施状況 381 317 1.97 1.63.996.834 4.790 *** 中学校のときの学習状況 383 311 2.04 1.77 1.017.959 3.610 *** 高校 1 年生 ~2 年生のときの学習状況 382 310 2.20 1.93.983.927 3.801 *** 高校卒業時の進路目標の有無 386 315 3.48 3.33.757.909 2.411 * 進学校 ) 中堅校 ) ( 就職多数校 ) -11-
表 3-4 は t 検定の結果 有意差の認められた変数のみ学校分類ごとにまとめたものである この表が示すように 生徒の 授業外の学習時間 に影響を与える要因は 学校のタイプが異なることによって差異が見られる項目があることも明らかになった 3.4. 仮説の検証と結論 回答結果の分析を通して 本章冒頭で構築した仮説 1~ 3は概ね立証されたものと考える 仮説の検証を通して 以下の結論が得られる (1) 生徒の 授業外の学習時間 に影響を与える学校や教員の取組に関する要因として 個人面談の実施状況 生徒の興味 関心を引き出す授業の実践 生徒による 授業評価 授業アンケート の実践 などがあげられる (2) 生徒の 授業外の学習時間 に影響を与える学校や教員の取組以外の要因として 宿題 宿題以外の勉強 受験勉強など への取組状況 家庭生活状況 教科に対する興味 関心 入学試験や就職試験の存在 などがあげられる (3) 進学校 中堅校 就職多数校 の学校のタイプによって 生徒の 授業外の学習時間 に影響を与える要因にも異なる点がある 例 : 就職多数校 では 高校 1 年生 ~2 年生のときの学習状況 や 高校卒業時の進路目標の有無 なども 授業外の学習時間 への影響要因として認められたなど 4. 政策提言及び課題 4.1 政策提言 (1) 県立高等学校への提言 1 県立高等学校は クラス担任による個人面談を充実させる校内体制 支援体制づくりにさらに取り組むことが必要である 今回の分析では クラス担任による個人面談が充実するほど 生徒の 授業外の学習時間 が有意に増加する結果を得た クラス担任による個人面談の実施をサポートする校内体制 支援体制づくりに さらに一層取り組むことが必要である 2 県立高等学校は 授業を実践するうえで 生徒の 興味 関心を引き出す工夫 に最も重点的に取り組むことが必要である 生徒 教員双方の質問紙回答結果に関する重回帰分析から 興味 関心を引き出す授業の実践 が 授業外の学習時間 を増加させる要因であることが明らかになった 一方 授業形態の工夫 などの要因は 授業外の学習時間 を有意に増加させる結果とならなかった 授業形態の工夫 は 生徒の興味 関心を引き出すための手段に過ぎないことを再確認する必要がある -12-3 県立高等学校は 生徒に勉強するよう説諭する以上に 生徒が 授業外の学習活動 に取り組むようなシステムづくりにさらに力を入れることが必要である 今回の分析では 生徒に勉強するよう説諭することは 授業外の学習時間 に影響を与える結果とならなかった 生徒に勉強するよう説諭するよりも 計画的に宿題を与えるなど 生徒が 授業外の学習活動 に取り組むようなシステムづくりにさらに力を入れることが必要である (2) 埼玉県教育委員会 教育局 への提言 1 埼玉県教育委員会 教育局 は 生徒による 授業評価 授業アンケート の実施を全県的に強く推奨し 効果的な 授業評価 授業アンケート の指針の作成及び普及に一層取り組むことが必要である 今回の分析では 生徒による 授業評価 授業アンケート の実施が生徒の 授業外の学習時間 に有意に影響を与えることが明らかになった したがって 授業評価 授業アンケート の全県的な実施の推奨及びその指針の作成 普及に一層取り組むことが必要である 2 埼玉県教育委員会 教育局 は 就職多数校 等に対して 生徒の 授業外の学習時間 の増加に向けて さらなる支援に一層取り組むことが必要である 生徒の 学習習慣の確立 は 就職多数校 で大きな課題である 教育委員会 教育局 は 重点項目を絞り 効果的な指導の在り方を研究するとともに 就職多数校 への支援に一層取り組むことが必要である 4.2 課題 本研究の課題として 1 授業外の学習時間 に影響を与える要因をさらに詳細に分析するには パネルデータ等を用いた経年変化の分析 検証が必要であること 2 質問紙調査の対象生徒の範囲の拡大や調査実施時期の変化などによって 今回の分析で有意な取組要因として認められた事項が変わりうる可能性を含むこと 3 生徒の 学習到達度 や 進路希望実現率 など 他の教育成果に係る指標とのさらなる関連付けについて 研究の余地が残されていること などがあげられる < 参考文献 資料等 > 国立教育政策研究所 2007 平成 17 年度高等学校教育課程実施状況調査結果の概要 埼玉県教育局 教育政策課 教育に関する調査統計 高等学校卒業者の進路状況調査 http://www.pref.saitama.lg.jp/page/kosotu.html 文部科学省 2010 高等学校学習指導要領 ベネッセ教育総合研究所ホームページ 2008 第 4 回学習基本調査報告書 ( 高校生版 ) http://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/gak ukihon4/hon/pdf/kou/data_02.pdf