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では 2900[rpm] 西日本の 60Hz 地域では 3500[Hz] で固定となる つまり比速度 n s は流量 / 揚程の関数となり 採用される羽根車の子午線断面形状もこれにより決定される 表 1.1 にいくつかの計算例を示す また 図 1.1 に各比速度における子午線断面形状を示す 比速度 n s 回転数 n[rpm] 流量 [m 3 /min] 揚程 [m] 50.58 101.17 61.05 122.10 2900 0.05 30 2900 0.2 30 3500 0.05 30 3500 0.2 30 表 1.1 極低比速度の例 図 1.1 比速度と羽根車子午線断面形状 ここで比速度 n s が 100 以下の領域は効率 ηが 50% を切るため 実用的ではない と判断されており 実際にこの領域では 40% 程度が最大となる しかしながら 用途によっては ( 省エネルギーの観点からは好ましくないものの )40% の効率でも十分実用となる用途があり そのような用途に対して極低比速度の設計法を確立することはそれなりに意味があるといえる

2. なぜ比速度 n s が 100 を切ると効率が落ちるのか比速度 n s は前項で示したとおり軸回転数が一定であれば流量 / 揚程の関数となる 図 2.1 に流量 100[L/min](0.1[m 3 /min]) 回転数 3500[rpm] で固定した場合の 揚程に対応する比速度を示す 図 2.1 3500[rpm] 100[L/min] 時の揚程に対応する比速度 ここで一旦 比速度から離れて揚程と流量はどのように決まるか考えて みる 羽根数無限大と仮定した場合のオイラーの理論ヘッドは以下のよう になる 揚程 H th = ( u 2 C 2u ) / g ここで g は重力加速度 9.8[m/s 2 ] u 2 [m/s] は羽根車周速 C 2u [m/s] は羽根 車出口での流体速度の羽根車接線方向成分である また羽根車周速 u 2 は 羽根車外径 D 2 [m] と回転数 n[rpm] で決定される

これに対して流量は以下のようになる 流量 Q = π D 2 b 2 C 2m ここで D 2 [m] は羽根車外径 b 2 [m] は羽根出口高さ c 2m [m/s] は羽根車出口での流体速度の羽根車子午線方向成分である 流量 Q を一定のままで H th を上げるには これらの式を比較して独立している要素や相反する要素を操作すればよい 例えば羽根車外径 D 2 はどちらの式にも存在しているのでこれを操作しても揚程流量比をあげることにはつながらないが 羽根出口高さ b 2 は流量の式にしか存在しないため これを減らすことで揚程流量比を上げることができる また C 2u とC 2m はそれぞれ羽根車出口における流体速度の接線成分と子午線成分だが 流体速度ベクトルの向きを変えることで接線成分を増やすことができれば 結果として揚程流量比を上がることになる また 羽根車外径 D 2 はオイラー理論ヘッドの式に羽根車周速 u 2 の形で存在しているが 羽根車周速 u 2 = D 2 π n であり 回転数 n は流量の式から独立しているため これを増やすことで揚程流量比を上げることも可能である まとめると 2つの式を元に揚程流量比をあげる方法は以下の3 点となる 1)C 2u /C 2m が大きくなるよう流体速度ベクトルの向きを変える 2) 回転数 n を上げる 3)b 2 を減らす (b 2 /D 2 を減らす ) ここで 1) について 従来の stepanoff の設計法では 低比速度における羽根出口角 β 2 は 22 度前後が推奨されており 流体速度ベクトルの向きを変えることが困難になっている また 2) については回転数 n は電動機の仕様により固定されておりこれも変更することは困難である

そもそも回転数を変えることができれば比速度 n s が 100 を切らないようにできるのであり ここでの議論から外れることになる さて そうなると揚程流量比を上げ比速度 n s を落とす選択肢は3) のみになる さて 効率が落ちるということはどこかで損失が発生していることになる 遠心ポンプにとって特に大きいのは漏れ損失と円板摩擦損失である 漏れ損失は羽根車出口と羽根車入口の圧力差が大きいと増える 羽根車から流体に伝達されたエネルギーの大部分が羽根車出口において速度エネルギーではなく圧力エネルギーの状態で保持されていると漏れ損失はより大きくなるといえる 円板摩擦損失は羽根車側板とケーシング面での流体かくはんにより発生する 円板摩擦損失に Pfleiderer の実験式があり 損失動力は羽根車直径 D 2 の 5 乗と回転数 n の 3 乗に比例する 低比速度設計は b2/d2 が小さくなる方向になるので同じ流量に対しては D 2 が大きくなり その 5 乗で円板摩擦損失は大きくなる これらの損失が比速度 ns が 100 を切ると効率が著しく低くなる原因であり これらの損失を抑えることができれば効率を実用域に持ってくることができると考えられる 3. 羽根出口角と羽根間流路前項では漏れ損失と円板摩擦損失が低比速度ポンプにおける支配的な損失であると論じた 前項の揚程流量比をあげる3つの方法を提示したが C 2u /C 2m が大きくなるように流体速度ベクトルの向きを変える方法を従来の stepanoff の設計法では採用できないとあった ここでは stepanoff の設計法を外れて羽根車出口角度 β 2 を 22 度前後以外にすることを考えてみる そもそもなぜ stepanoff の設計法で羽根車出口角度 β 2 は 22 度前後とされているのだろうか ここで遠心ポンプは速度型の流体機械であることを思い出してみよう 遠心ポンプは回転する羽根車により流体に対して速度エネルギーを伝達する 揚程を出すためにはこの速度エネルギーを圧力エ

ネルギーに変換しなければならない この速度エネルギーから圧力エネル ギーへの変換はベルヌーイ式で表される ( v 2 / 2g ) + ( P / ρ g ) + Z = const ここで v は流速 [m/s] P は圧力 [Pa] ρは密度 [kg/m 3 ] Z は位置ヘッド [m] である 式の第一項は速度ヘッド 第二項は圧力ヘッドに相当する また 流量 Q[m 3 /min] および密度 ρ [kg/m 3 ] が一定の場合 流路の断面積がA 1 [m 2 ] からA 2 [m 2 ] に変化すると Q は一定なので以下のようになる Q = A 1 v 1 = A 2 v 2 = const ベルヌーイ式にこれを当てはめると ( ( Q / A 1 ) / 2g ) + ( P 1 / ρ g ) = ( ( Q / A 2 ) / 2g ) + ( P 2 / ρ g ) となり 流路の断面積が A 1 <A 2 であれば流速は v 1 >v 2 となり これに 対して圧力は P 1 <P 2 となる 遠心ポンプの場合 この速度エネルギーか ら圧力エネルギーへの変換は羽根車出口以降のケーシング内でも起こるが 図 3.1 ディフューザ 羽根車流路内でも起こる これは羽根車の羽根間流路が入口から出口に向かって拡大していることに起因する このような流路では壁面の速度が遅く P1 < P2 と逆勾配圧力になるため 逆流が発生し渦損失となる この損失は 7 ~ 14 度で最小となるといわれている

(a) β 2 = 22 度の場合 (b) β 2 =90 度の場合 図 3.2 羽根間流路で構成されるディフューザ 羽根間流路をディフューザとして捉えたのが図 3.2 である 羽根出口角 β 2 = 22 度とした場合と 90 度とした場合とでは入口面積と出口面積が一緒でも流路長が変わり拡大率が変わってくる β 2 = 22 とすると拡大率は 14 度におさまり 流路内での拡大による損失は低くなり また速度エネルギーから圧力エネルギーへの変換も多くなる β 2 = 90 とすると拡大率が大きくなりすぎ 損失が高くなる 4. 羽根出口角 β 2 = 22 の得失しかしながら 羽根出口角 β 2 = 22 とすると羽根車出口での流体速度の羽根車接線方向成分 C 2u が小さくなるため 同じ理論ヘッド H th を得るために羽根車周速 u 2 をあげる必要がある つまり回転数 n が同じであれば羽根車外径 D 2 を大きくする必要がある これは前述のとおり円板摩擦損失の増加につながる

5. 低比速度での効率を改善する 項 2 で示したとおり 回転数の変更以外で揚程流量比をあげる方法は以 下の 2 点となる 1)C 2u /C 2m が大きくなるよう流体速度ベクトルの向きを変える 2)b 2 を減らす (b 2 /D 2 を減らす ) C 2u /C 2m が大きくなるようにするためには羽根出口での流体速度ベクトルの大部分が羽根車外周の接線方向に向くように羽根出口角 β 2 =< 90 とするのがよい ここで項 3 の羽根間流路の拡大率に関する問題があるが 流路断面積が一定となるよう 図 5.1 のように羽根高さを外周に向かって漸減させればよい 羽根出口高さb 2 は流量 Q と羽根車外径 D 2 より決定され それにあわせて流路断面積が一定となるよう入口流路径 D0 までの形状を決定することができる また C 2u が大きくなるため これを適切に圧力エネルギーに変換する必要があるが これは案内羽根を用いる方法と共にポンプ吐出口以降に拡大管等を配置して減速し圧力を得ることができる 円板摩擦損失についてはオープン羽根とすることで面積を減らす方向で対応を考えるが 羽根端面とケーシングによる流体かくはんの損失についてはさらに定量的な測定と検討が必要である 図 5.1 羽根間流路の断面積を一定にする

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