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技術士だぁーちゃんの 材料力学基礎講座 http://www.eonet.ne.jp/~northriver/gijutsushi/

まえがき 材料力学の教科書を見ると 2ページ目から 微分 積分 行列の式などがずらっと並んでいます もう それを見るだけで拒絶反応を起こしてしまう方もおられるのではないでしょうか? 確かに 三次元で評価しようとするとそのような計算が必要になるかもしれませんが 一次元 二次元なら 簡単な式にまとめられるものが多々あります このテキストでは 技術士試験に出る程度の問題を解くために必要最小限のことだけをまとめました まず このテキストで 材料力学なんか難しくない という自信をつけていただければと存じます だぁー

目 次 1. 応力 1.1 引張応力 圧縮応力 1 1.2 せん断応力 2 1.3 曲げ応力 3 2. ひずみ 2.1 引張ひずみ 圧縮ひずみ 4 2.2 せん断ひずみ 5 2.3 応力とひずみ 6 2.4 ポアソン比 7 3. 曲げ変形 3.1 片持ち梁 8 3.2 両端支持梁 9 3.3 両端固定梁 10 4. 断面性能 4.1 代表的な断面性能 11 4.2 複雑な形状の断面性能 12 5. 金属の破壊の基礎 5.1 降伏点 引張強さ 13 5.2 耐力 14 6. 主応力 モールの応力円 6.1 微小要素が受ける応力 主応力 15 6.2 モールの応力円 16 6.3 特殊なケースのモールの応力円 17

目次 ( 続き ) 7. 降伏条件 7.1 最大せん断ひずみエネルギ説 18 7.2 最大せん断応力説 19 7.3 最大主応力説 20 8. ねじり 8.1 丸棒のねじり 21 8.2 中実棒 中空棒 22 9. 座屈 9.1 柱の座屈 23 10. 熱応力 10.1 熱ひずみ 熱応力 24 11. 薄肉円筒の応力 11.1 薄肉円筒の応力 25 12. 不静定梁 12.1 静定梁 26 12.2 重ね合わせの原理 27 12.3 不静定梁 28

1. 応力 1.1 引張応力 圧縮応力 物体に 外部から力が働いたときに 物体内部に発生する単位面積あたりの力を 応力 と言います 応力は 力 / 断面積 で表されますので 単位は SI 単位系で [N/mm 2 = MPa *1 ] で表されることが多いです 昔使われていた工学単位系では [kgf/mm 2 ] と表現されますが ここでは特に断りのない限り SI 単位系で説明します 最も簡単な応力は 引張応力 と 圧縮応力 です 一様な断面の棒 板の場合は 引張応力 と 圧縮応力 は ( 発生する力 )/( 力が掛かる方向に垂直な断面の断面積 ) となります 引張応力 圧縮応力は 通常 σ( シグマ ) という記号が使われます また 荷重は P 断面積は A という記号がよく使われます 引張 / 圧縮を明確にするときは 引張を+ 圧縮を-とします 断面積 :A [mm 2 ] 引張荷重 :P [N] 引張応力 :σ=p /A [MPa] 図 1.1-1 引張応力 圧縮荷重 :P [N] 断面積 :A [mm 2 ] 圧縮応力 :σ=p /A [MPa] 図 1.1-2 圧縮応力 *1: 組立単位 Pa( パスカル ) は N/m 2 と定義されていますので N/mm 2 は 10 6 Pa すなわち MPa( メガパスカル ) となります

1.2 せん断応力 引張応力 と 圧縮応力 では 力が掛かる方向と垂直な断面に発生する応力ですが 力が掛かる方向と平行な断面に発生する応力が せん断応力 です 分かりやすく言うと はさみで物を切るようなイメージです せん断応力 は ( 発生する力 )/( 力が掛かる方向に平行な断面の断面積 ) となります せん断応力は 通常 τ( タウ ) という記号が使われます せん断荷重 :P [N] 断面積 :A[mm 2 ] せん断荷重 :P [N] せん断応力 :τ=p /A [MPa] 図 1.2-1 せん断応力 図 1.2-1 のようなせん断力がかかる場合 内部の微小要素には図 1.2-2 の赤色の矢印のようなせん断応力が発生します このだけ応力が掛かると要素は回転してしまうので この回転力を打ち消すような緑色のせん断応力も発生します 応力の値は赤色矢印も 緑色矢印も同じ大きさで τとなります 図 1.2-2 直角方向のせん断応力

1.3 曲げ応力 図 1.3-1 のような 片持ち梁 の先端 ( 根本からのスパン L [mm]) に曲げ荷重 P [N] が掛かるとき 梁の根本を回転させようとする力 ( 曲げモーメント M = P L [N mm]) が 発生します その曲げモーメントに対抗するため 梁の根本の上部には引張荷重 下部 には圧縮荷重が発生します 発生した引張荷重および圧縮荷重による応力を曲げ応力と呼びます 引張荷重による 応力と圧縮荷重による応力は同じ値となります 数値は 曲げモーメント M を断面係数 Z と呼ばれる係数で割った値となります 断面 係数は 梁の断面の形状によって算出方法が異なりますが 幅 b 高さ h の矩形断面の 梁の断面係数は Z =h 6 となります その他の形状の断面係数に関しては 後から まとめて紹介します 曲げ応力は 通常 引張応力や曲げ応力と同じ σ( シグマ ) という記号が使われます 曲げ荷重 :P [N] 断面係数 :Z [mm 3 ] 曲げモーメント :M = P L [Nmm] スパン :L [mm] 曲げ応力 :σ=m /Z [MPa] 図 1.3-1 曲げ応力 上記の曲げ応力 ( 引張応力 / 圧縮応力 ) は 梁の上面または下面で絶対値が最大とな り 中心で 0 になります 図示すると 図 1.3-2 のようになります 高さ方向の位置 上面 上面 圧縮応力 引張応力 下面 下面 図 1.3-2 曲げ応力の分布

2. ひずみ 2.1 引張ひずみ 圧縮ひずみ 物体に 外部から力が働いたときに 物体は変形します 変形量 ΔL( デルタ L) と元の長さ L の比を ひずみ と言います 無次元量なので単位はありませんが 長さの比という意味で [mm/mm] と表されることがあります 引張ひずみ 圧縮ひずみは 通常 ε( イプシロン ) という記号が使われます ΔL 引張ひずみ :ε=δl /L 図 2.1-1 引張ひずみ L ΔL L 圧縮ひずみ :ε=δl /L 図 2.1-2 圧縮ひずみ

2.2 せん断ひずみ 物体に 外部からはさみで物を切るようなせん断力が働いたときに 物体は図 2.2-1 に示すようなせん断変形を起こします 変形量 Δx と長さ L の比を せん断ひずみ と言います 無次元量なので単位はありませんが 長さの比という意味で [mm/mm] と表されることがあります Δx が十分小さいときには 角度 [rad] として考えることもできます せん断ひずみは 通常 γ( ガンマ ) という記号が使われます Δx L せん断ひずみ :γ=δx /L 図 2.2-1 せん断ひずみ

2.3 応力とひずみ 引張 / 圧縮応力と引張 / 圧縮ひずみには 比例関係があります ε= E は 縦弾性係数 ( ヤング率 ) と呼ばれ 単位は応力と同じ [MPa] もしくは もう 3 桁上の [GPa] が用いられます 数式を見ていただいたら分かるように 縦弾性係数は 変形しにくさ の指標となる数値です 鉄鋼の縦弾性係数は 2 10 程度の値です また せん断応力とせん断ひずみには 比例関係があります γ= G は 横弾性係数と呼ばれ 単位は応力と同じ [MPa] もしくは もう 3 桁上の [GPa] が用いられます 数式を見ていただいたら分かるように 横弾性係数も 変形しにくさ の指標となる数値です 鉄鋼の横弾性係数は 8 10 程度の値です

2.4 ポアソン比 物体に引張荷重を加えると ひずみの項で説明したように荷重に比例した伸びが発生しますが それと同時に物体は細くなります 力を掛けた方向のひずみと 直角方向に発生するひずみの比をポアソン比といいます ポアソン比は通常 ν( ニュー ) をいう記号で表されます 鉄鋼のポアソン比は 0.3 程度です 2 軸方向ひずみ :ε =!! 横方向ひずみ :ε " = # # B 2 L 2 2 ポアソン比 :ν= 図 2.4-1 ポアソン比 縦弾性係数 横断線係数とポアソン比の間には 以下のような関係があります G= 2(+1)

3. 曲げ変形 3.1 片持ち梁 梁に曲げ荷重をかけると 梁内部には 引張応力 圧縮応力及びせん断応力が発生します それらから梁の曲げ変形を算出するのは難しいので よく使う状態の梁の曲げ変形量は 公式で与えられています 本項では 片持ち梁の曲げ変形の公式を示します この中で I は 断面二次モーメントと呼ばれ変形しにくさを示す数値で形状によって計算されます 単位は [$$ ] です 表 3.1-1 反力 曲げモーメント 変形量条件反力 R 曲げモーメント M 変形量 δ L P %=& '=& R δ= &( 3* L p %=+ '= + 2 R δ= + 8*

3.2 両端支持梁 本項では 両端支持梁の曲げ変形の公式を示します 条件 表 3.2-1 反力 曲げモーメント 変形量 反力 R 曲げモーメント M 変形量 δ L/2 L P %, =% = & 2 '= & 4 R1 R2 δ= &( 48* a L P p 点 b %, = & % = &. R1 R2 '+= &. δ+= &. 3* L p %, =% = + 2 R1 R2 '= + 8 δ= 5+ 384*

3.3 両端固定梁 本項では 両端固定梁の曲げ変形の公式を示します 条件 表 3.3-1 反力 曲げモーメント 変形量 反力 R 曲げモーメント M 変形量 δ L/2 L P %, =% = & 2 '= & 8 R1 R2 δ= &( 192* L p %, =% = + 2 R1 R2 '= + 24 δ= + 384*

4. 断面性能 4.1 代表的な断面性能 前述の断面二次モーメントや断面係数は 梁の曲げ変形量や曲げ応力の算出に用いら れます 以下に代表的な梁形状の断面性能を記します 表 4.1-1 断面性能 断面 断面積 A 重心の距離 e 断面 2 次 モーメント I 断面係数 Z = I /e e h h h 2 h ( 12 h 6 b e h h h 2 h 12 h ( 6 h e 56 4 6 2 56 64 56 ( 32 d

4.2 複雑な形状の断面性能 複雑な形状の例として 長方形から小さい長方形が切り取られたような形状 ( 溝型鋼 ) の断面性能の求め方を示します 大きい長方形の断面二次モーメント 断面係数を I 1 Z 1 重心の距離を e とします また 切り取られる小さい長方形の断面二次モーメント 断面係数を I 2 Z 2 とします 長方形から小さい長方形が切り取られた溝型鋼の断面二次モーメント I は *=*, * となります 単純な加減算です 断面係数は Z は 定義から Z=* 8 となります 単純な断面係数の加減算 9=9, 9 とはならないので注意が必要です e I I1 I2 I = I1 - I2 Z = I / e 図 4.2-1 断面二次モーメントの引き算

5. 金属の破壊の基礎 5.1 降伏点 引張強さ 材料の引張試験を行った際の 引張応力とひずみの関係をグラフにしたものを 応力 -ひずみ曲線 といいます 多くの鉄鋼材料の 応力-ひずみ曲線 は 図 5.1-1 のようになります 最初は 応力とひずみが比例関係 ( グラフが右上りの直線 ) になる領域があり 弾性領域 と呼ばれています 弾性領域 を超えると 応力が減るのにひずみだけ増える点があります この点を 降伏点 と呼び σ y という記号で表されます 弾性領域 では 荷重をなくすと元の形状に戻りますが 降伏点 を超えると 永久ひずみが残ります 降伏点 を超えると 弾性領域 と比べると傾きが小さい右上がりの曲線となり 曲線の極大値を超えると応力が小さくなり 最後には破断します この極大値を 引張強さ と呼び σ u という記号で表されます 機械を構成する部材で 変形は許すが破断してはならない部材の場合 許容応力 は 引張強さ ということになります また 規定以上の変形を許さない部材の場合 許容応力 は 降伏点 ということになります 応力 σ σu σy 破断 σu: 引張強さ σ y : 降伏点 ひずみ ε 図 5.1-1 応力 - ひずみ曲線 ( 鉄鋼材料 )

5.2 耐力 ステンレス鋼などでは 引張試験を行った際に 図 5.2-1 のように 前述の 降伏点 が現れないものがあります 弾性領域 を超えると 徐々に傾きが小さくなり 応力の極大値である 引張強さ に到達し 破断するというものです 変形は許すが破断は許さないという場合には 鉄鋼材料と同様に 引張強さ で評価すればよいのですが 規定以上の変形を許さないという場合には 目安となる 降伏点 が存在しないので 困ってしまいます そこで 弾性領域 を超えると永久ひずみが残るという特性を用いて評価することとしています 荷重をなくした場合の永久ひずみが 0.2% となる点を 耐力 と呼び 鉄鋼材料の 降伏点 に相当するという考え方です σ 0.2 という記号が使われますが 鉄鋼材料の 降伏点 と同等ということでσ y という記号で表すこともあります 応力 σ σu σ0.2 破断 σ u : 引張強さ σ 0.2 : 耐力 0.2% ひずみ ひずみ ε 図 5.2-1 応力 ひずみ曲線 ( ステンレス鋼 )

6. 主応力 モールの応力円 6.1 微小要素が受ける応力 主応力 物体には XYZ の3 方向がありますが 材料力学で評価する場合は XY の2 方向のみの場合が多いので 本章では XY の二次元として話をします 物体に引張及び圧縮荷重のみが外力として掛かると 図 6.1-1(a) のように内部の微小要素にも引張応力と圧縮応力だけが掛かります 任意の引張 圧縮及びせん断荷重を受けた際にも 任意の角度の微小要素の応力の図を描くことができます ( 図 6.1-1(b)) いずれか または複数の応力が 0となることもあります ある角度では せん断応力が掛からず 引張または圧縮応力だけが掛かるような状態となります ( 図 6.1-2) このような状態にある時の引張応力 圧縮応力のことを主応力と呼びます この主応力と最大せん断応力は 後述の降伏の評価に用いられます P y P x P x P y (a) 図 6.1-1 微小要素が受ける応力 (b) σ 2 σ 1 σ 1 σ 2 図 6.1-2 主応力

6.2 モールの応力円 微小要素の引張 圧縮応力とせん断応力から 主応力及び最大せん断応力を求めるためには モールの応力円という手法が用いられます x 軸方向の引張応力 σ x 及びせん断応力 τが掛かった微小要素のモールの応力円の描き方は 以下の通りです ( 図 6.2-1(a)) グラフ上に (σ x,τ) の座標をプロットします グラフ上に (0,-τ) の座標をプロットします 上記の2 点を直径とする円を描きます σ 軸と交わる2 点が主応力となります 円の最上点が最大せん断応力となります τ τ τmax (σ x,τ) (σ x,τ) σ 2 σ 1 σ σ 2 σ 1 σ (0,-τ) (σ y,-τ) (a) 図 6.2-1 モールの応力円 (b) x 軸方向の引張応力 σ x y 軸方向の圧縮応力 σ y 及びせん断応力 τ が掛かった微小 要素のモールの応力円は 上記と同様の方法で描くことができます ( 図 6.2-1(b))

6.3 特殊なケースのモールの応力円 特殊なケースのモールの応力円を紹介します せん断応力 τだけを受ける微小要素のモールの応力円は 前節の描き方に従うと図 6.3-1(a) のようになります また x 軸方向に引張応力 σ y 軸方向に圧縮応力 -σを受け せん断応力を受けない状態の微小要素のモールの応力円は 図 6.3-1(b) のようになります 見て頂いたら分かるように 上記 2つのモールの応力円は同一のものとなります (a) の状態 ( せん断応力のみ ) と (b) の状態 ( 引張 及び圧縮応力で 絶対値が同じ ) の微小要素の傾きは 円 (a) の緑の線 ( プロットした2 点を結んだ直径 ) と 円 (b) の緑の線のなす角度の2 分の1となります 両図では 緑の線がなす角度が 90 度なので (a) の状態の微小要素と (b) の状態の微小要素の傾きは 45 度ということが分かります この角度の求め方は この特殊なケースに係わらず 任意のモールの応力円の任意の直径のなす角度の2 分の1ということになります τ τ τ τ σ 2 σ 1 σ σ 2 σ 1 σ -τ -τ (a) 図 6.3-1 特殊なケースのモールの応力円 (b)

7. 降伏条件 7.1 最大せん断ひずみエネルギ説 降伏については 5 章で記しましたが 1 方向の引張 ( 圧縮 ) 応力だけの場合は その 引張 ( 圧縮 ) 応力が降伏点に達した時点で降伏するということが言えます しかし 2 軸方向の応力やせん断応力が掛かったときにどのように評価する方法の一つが 最大せ ん断ひずみエネルギ説です 下式で求められる Mises( ミーゼス ) 応力が降伏点に達した時点で降伏するというもの です σ 1 は最大主応力 σ 2 は最小主応力です :;<=< :;<=< y = (, ) +, + 2 これを図示すると 図 7.1-1 のようになります この楕円より外になると降伏すると いうことです σ 1 /σ y (0,1) (1,1) (-1,0) (1,0) σ 1 /σ y (-1,-1) (0,-1) 図 7.1-1 最大せん断ひずみエネルギ説 この最大せん断ひずみエネルギ説は 炭素鋼やステンレス鋼などの延性材料でよく一 致しますので 評価でよく使われます

7.2 最大せん断応力説 最大せん断ひずみエネルギ説とともに降伏条件として使われるものに 最大せん断応 力説というものがあります 下式で求められる Tresca( トレスカ ) 応力が降伏点に達した時点で降伏するというも のです σ 1 は最大主応力 σ 2 は最小主応力 τmax は最大せん断応力です?@A =, 2 BC=<D@ =2?@A BC@<D@ E これを図示すると 図 7.2-1 のようになります この六角形より外になると降伏する ということです σ 1 /σ y (0,1) (1,1) (-1,0) (1,0) σ 1 /σ y (-1,-1) (0,-1) 図 7.2-1 最大せん断応力説 この最大せん断応力説も 炭素鋼やステンレス鋼などの延性材料で割と一致し また 最大せん断ひずみエネルギ説よりも安全側ですので 評価で使われることがあります

7.3 最大主応力説 最大主応力 σ 1 が降伏点を超えると降伏するというのが 最大主応力説です, E これを図示すると 図 7.3-1 のようになります この正方形より外になると降伏するということです σ 1 /σy (-1,1) (0,1) (1,1) (-1,0) (1,0) σ 1 /σy (-1,-1) (0,-1) (1,-1) 図 7.3-1 最大主応力説 ガラスなどの脆性材料でよく一致します

8. ねじり 8.1 丸棒のねじり 図 8.1-1 に示すように 長さ L の丸棒にトルク T がかかると A 点が B 点に移動 ( ねじ れ角 θ) し せん断応力 τ が発生します ねじれ角 θ 及びせん断応力 τ は以下のように計算します θ= F * G ここで G は横弾性係数 Ip は Ip = Ix + Iy = πd 4 /32 で計算される数値で 断面二 次極モーメント と呼ばれます τ= F 9 G ここで Zp は Zp =2Ip/d で計算される数値で 極断面係数 と呼ばれます τ T B B A A θ L D 図 8.1-1 丸棒のねじり

8.2 中実棒 中空棒 図 8.2-1(a) に示すように トルクによるせん断応力は 中心からの距離に比例し 表面で最大となります つまり 強度に寄与する度合いは 表面近くの方が大きいことになります 言い換えれば 中心付近はあまり強度に寄与していないということになります そこで 図 8.2-1 に示すように 中心付近を切り取った中空棒が使われることがよくあります τ τ (a) 図 8.2-1 中実棒と中空棒 (b) 中実棒の断面積の半分の面積を切り取る ( 切り取り部の円の直径は 中実部の円の直 径の1 2) とすると 極断面係数は 中実棒の 3/4 となります 同外径の棒であり 中実棒の 1/2 の断面積の中空棒は 中実棒の 3/4 の強度を持つと いうことになります

9. 座屈 9.1 柱の座屈 図 9.1-1 に示すように 細長い柱に荷重を加えていった時 棒が圧縮荷重で降伏する力よりはるかに小さい荷重で曲げ変形が始まり 破壊してしまいます 下敷きの短辺を押し付けた時に大きくたわむ現象です これを座屈と呼びます P L σ A,I 座屈荷重 P= aπ EI L 座屈応力 σ= aπ λ 図 9.1-1 柱の座屈 ( オイラーの式 ) 座屈して破壊する時の荷重を座屈荷重 その時の応力を座屈応力と呼びます 計算式 は 図中に示した通りです 数式で a は両端の固定方法で決まる定数 ( 図 8.1-2) λ は λ = L/ i で計算される 数値で 細長比 と呼ばれます iは i= I* J で計算される数値で 断面二次半径 と呼ばれます a = 1/4 a = 1 a = 4 図 9.1-2 両端の固定方法で決まる定数 ( 端末係数 )

10. 熱応力 10.1 熱ひずみ 熱応力 物体を加熱すると 膨張します 線膨張係数を α 上昇前温度を T 1 上昇後温度を T 2 とするとき 熱ひずみ ε( 単位長さ当たりの伸び量 ) は以下の式で表されます ε = ΔL / L = α(t 2 -T 1 ) 物体の上下が拘束されていて長さが変わらない状態で物体を加熱すると 拘束されない状態での伸び量 (ΔL) を縮める荷重を受けた時と同じ圧縮応力が発生します この応力を 熱応力と言います 応力とひずみは比例関係にある ( フックの法則 ) ので 縦弾性係数を E とするとき熱応力 σは以下の式で表されます σ = Eε = Eα(T 2 -T 1 ) L L ΔL ΔL 図 10.1-1 熱ひずみ 熱応力

11. 薄肉円筒の応力 11.1 薄肉円筒の応力 図 11.1-1 のように 内径 2r i 外径 2r o 肉厚 t=(2r o -2r i ) の薄肉円筒状の構造物 ( 配 管など ) に内圧 P を掛けると 軸方向の応力 σ z と周方向の応力 σ r が発生します σ z と σ r の値は 以下の式で表されます C = &R ; S T = &R ; 2S σ U σ V σ V σ U 図 11.1-1 薄肉円筒に発生する応力 上記の式でわかるように 周方向の応力 σ r は軸方向の応力 σ z より常に大きいので 薄肉円筒に亀裂が発生する場合は 図 11.1-2 のように 軸に平行な亀裂となり 軸方向 に進展します 亀裂 図 11.1-2 薄肉円筒に発生する亀裂

12. 不静定梁 12.1 静定梁 梁に掛かる反力が 力のつり合い 及びモーメントのつり合いだけから求めることが できるような梁を静定梁と言います 図 12.1-1 のような両端支持梁は静定梁の一つです 力のつり合いの式は 次のようになります P (% W +% # )=0 A 点回りのモーメントのつり合いの式は 次のようになります & 2 =% # 上記の 2 つの式より 反力 R A 及び R B は以下のようになります % W =% # = & 2 上記の両端支持梁以外にも 片持ち梁が静定梁です C P L/2 L/2 A B R A R B 図 12.1-1 静定梁

12.2 重ね合わせの原理 静定梁に複数の荷重が掛かる場合の 反力 変位は 個々の荷重による反力 変位の総和となります これを 重ね合わせの原理と言います 図 12.2-1 に示す片持ち梁で説明します なお モーメントについては 反力を同様なので説明を割愛します 片持ち梁の中央に集中荷重 P 1 が掛かった場合 根本での反力が R 1 先端部分での変位をδ 1 とします ( 図 12.2-1(1)) また 片持ち梁の先端に集中荷重 P 2 が掛かった場合 根本での反力が R 2 先端部分での変位をδ 2 とします ( 図 12.2-1(2)) 片持ち梁に上記の P 1 及び P 2 が掛かった場合の反力及び変位は以下のようになります ( 図 12.2-1(3)) % ( =%, +% X 3 =X 1 +X 2 P 1 (1) R 1 δ 1 P 2 (2) R 2 δ 2 P 1 P 2 (3) R 3 δ 3 図 12.2-1 重ね合わせの原理

12.3 不静定梁 力のつりあい 及びモーメントのつり合いだけでは反力を求めることのできない梁を不静定梁と呼びます 図 12.3-1(1) のような 一端固定他端支持の梁は不静定梁となります この梁の反力は 静定梁の重ね合わせの原理を用いて 以下のように求めます なお モーメントについては 反力から容易に計算できますので説明を割愛します B 端の支持を取り除いた片持ち梁に荷重 P が掛かった時の変位 δ 2 及び反力 R A2 を求めます ( 図 12.3-1(2)) 次に B 端の支持を取り除いた片持ち梁のB 端に下から 変位 δ 3 が上記 δ 2 と同じ大きさになるように荷重 P 3 を掛けます この時の反力 R A3 を求めます ( 図 12.3-1(3)) 上記でδ 2 とδ 3 が等しいことより 図 12.3-1(1) の支持 ( つまり位置が変わらないこと ) を示しており この時のB 端での反力 R B は P 3 となります また 反力 R A は 以下の2 式のいずれかで求めることができます % W =% W % W( % W =& % # A P B (1) R A P R B (2) R A2 δ 2 R A3 δ 3 (3) P 3 図 12.3-1 不静定梁